2.8 破壊モードに関する検討
2.8.1 耐力評価
本項では,各試験体における耐力評価を行った。本検討では梁曲げ終局時,柱曲げ終局時,接 合部曲げ終局時及び接合部せん断破壊時における層せん断力計算値を実験結果と比較した。
梁曲げ終局時の層せん断力計算値は,日本建築学会編「PC 性能評価指針」[2.2]の曲げ終局略算 式(式(2-15)参照)によるMbuと,断面解析から求めた梁曲げ終局モーメントMbu,2つの中で小 さい値を用いて算出した。Mbuの算定の際,梁主筋(組立筋)は梁危険断面を通らないためその影 響を無視し,スラブ付き立体十字形試験体PCJ09とPCJ10のスラブ筋は全幅有効(0.2L = 640mm) とし上端引張時のみ考慮した。断面解析におけるひずみ適合係数(F値)[2.3], [2.4],[2.10]は0.1とし,
PC鋼材及びコンクリートの応力度-ひずみ関係は材料試験結果を用いた。
また,柱曲げ終局時の層せん断力計算値は,平面保持を仮定した断面解析から求めた柱曲げ終 局モーメント Mcuにより算定し,断面解析における鉄筋及びコンクリートの応力度-ひずみ関係 は材料試験結果を使用した。なお,上記の Mbuと Mcuは,梁及び柱断面の圧縮縁コンクリートの ひずみが材料試験結果から得られた圧縮強度時のひずみに達するときのものである。
次いで,柱梁接合部曲げ終局時の層せん断力計算値Mjuは,楠原・塩原による既往の研究「鉄筋 コンクリート造十字形柱梁接合部の終局モーメント算定法」[2.5]による評価法を準用した。
最後に,柱梁接合部せん断破壊時の層せん断力計算値Mjvは,日本建築学会編「RC靭性保証指
針」[2.6]に規定されているものと,北山による既往の研究「圧着接合されたプレストレスト・コン
クリート柱梁接合部がせん断破壊するときの層せん断力について」[2.7]によるものとした。
各試験体における耐力評価結果を実験結果と併せて図2.37に示す。同図より,いずれの試験体 でも最大層せん断力実験値は梁曲げ終局耐力解析値の0.99~1.07倍となり,梁の曲げ性能が試験 体の挙動を支配した。ただしスラブを付加した試験体PCJ09及びPCJ10の最大層せん断力はそ れぞれ接合部曲げ終局耐力の 0.94,0.98 倍であり,両者の値は近接した。試験体 PCJ09 及び
PCJ10 の最大耐力は平面十字形試験体PCJ08の1.2倍程度となり,これはスラブの協力効果に
よるものである。2.7.7で前述した通り,スラブを付加した試験体PCJ09及びPCJ10の全スラブ 筋がほぼ降伏した。
第2章 柱梁曲げ強度比を変数としたアンボンドPCaPC造十字形柱梁骨組の静的加力実験
2-123
(a)試験体PCJ07 (b)試験体PCJ08
(c)試験体PCJ09 (d)試験体PCJ10
凡例
▲ 最大耐力
梁曲げ耐力(解析値)による計算値 柱曲げ耐力(解析値)による計算値 接合部せん断耐力による計算値
接合部曲げ耐力による計算値
図2.37 耐力計算結果 -150
-120 -90 -60 -30 0 30 60 90 120 150
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
層せん断力Q(kN)
層間変形角R(%rad.)
-150 -120 -90 -60 -30 0 30 60 90 120 150
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
層せん断力Q(kN)
層間変形角R(%rad.)
-150 -120 -90 -60 -30 0 30 60 90 120 150
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
層せん断力Q(kN)
層間変形角R(%rad.)
-150 -120 -90 -60 -30 0 30 60 90 120 150
-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5
層せん断力Q(kN)
層間変形角R(%rad.) -108.7kN
108.7kN
最大層せん断力 正:110.4kN 負:-109.3kN
-108.2kN 108.2kN
最大層せん断力 正:108.4kN 負:-106.7kN
-122.0kN 122.0kN
最大層せん断力 正:125.0N 負:-124.1kN
-121.3kN 121.3kN
最大層せん断力 正:130.0kN 負:-123.4kN
第2章 柱梁曲げ強度比を変数としたアンボンドPCaPC造十字形柱梁骨組の静的加力実験
2-124
2.8.2 各部材の復元力特性
2.8.2.1 柱の復元力特性
柱危険断面における目開きによる回転角を図2.38に,柱頭たわみの算出方法を図2.39に,接 合部曲げ理論による破壊モデルとその基準点を図2.40に模式化して表す。また,層せん断力-柱 部材角関係を図2.41に示す。
柱頭たわみは,図2.39に示した通り梁心から895mmの位置の上下100mmに取付けた変位計
(a3及びa4)を用いて梁心から1415mmの位置にある加力点での変位a6と上柱危険断面での目 開き4による柱頭の変位を合計したものとした。また,柱脚たわみは梁心から1415mmの位置に あるピン支持点のa5変位と下柱危険断面での目開き5による柱脚の変位を合計したものとした。
柱の変形による柱頭の水平変位cは式(2-28)より算出することができ,回転角は時計回りを正と し,水平変位は東方向を正,鉛直変位は上側を正としている。また,柱部材角Rcは式(2-29)のよ うに,柱の変形による柱頭の水平変位を柱の高さで除した値とした。
図2.41より,平面十字形試験体PCJ07(柱梁曲げ強度比2.1)の復元力特性は,柱主筋量を減 らした試験体 PCJ08(柱梁曲げ強度比 1.3)と殆ど同様になった。一方,スラブを取り付けた試
験体 PCJ09 及び PCJ10(柱梁曲げ強度比 1.2)では,同形状・同配筋の柱と梁を有する試験体
PCJ08より柱部材角が2倍程度大きかった。前述した通り,これはスラブの付加により柱の剛性
が相対的に小さくなったことに起因する。
・柱の変形による柱頭水平変位:c
𝛿𝑐 = 𝛿𝑎6+ 𝛿𝑎5+ 𝜃6∙(𝐻 − 𝐷𝑏)
2 (2 − 28) ここで,𝛿𝑎5:柱脚たわみ(mm)
𝛿𝑎6:柱頭たわみ(mm) 𝛿𝑎6= 𝛿𝑎4+𝛿𝑎3− 𝛿𝑎4
𝐿2 (𝐿1+ 𝐿2)
ここで,𝐿1:上側の柱頭変位計から柱頭支持点までの距離(mm) 𝐿2:柱頭に取り付けている変位計間の距離(mm) 𝜃6:柱の目開きによる回転角(%rad.)
𝜃6= 𝜃4+ 𝜃5 𝜃4=𝛿𝑑1− 𝛿𝑑2
𝑎 , 𝜃5=𝛿𝑑5− 𝛿𝑑6 𝑎
ここで,𝜃4:上柱側梁フェース断面(C’)に対する接合部側梁フェース断面(C)の相 対回転角(%rad.)
𝜃5:下柱側梁フェース断面(A’)に対する接合部側梁フェース断面(A)の相 対回転角(%rad.)
𝑎:接合部内変位計間の距離(mm)
𝐻:柱高さ(mm),𝐷𝑏:梁せい(mm)
第2章 柱梁曲げ強度比を変数としたアンボンドPCaPC造十字形柱梁骨組の静的加力実験
2-125
・柱部材角:Rc
𝑅𝑐=𝛿𝑐
𝐻 (2 − 29) ここで,𝐻:柱高さ(mm)
図2.38 柱危険断面における目開きによる回転角 図2.39 柱頭たわみの算出方法
図2.40 接合部曲げ理論による破壊モデルとその基準点
(C') (C)
(B1) (B2) (A) (B1')
(A')
(B2')
第2章 柱梁曲げ強度比を変数としたアンボンドPCaPC造十字形柱梁骨組の静的加力実験
2-126
(a)試験体PCJ07 (b)試験体PCJ08
(c)試験体PCJ09 (d)試験体PCJ10
図2.41 層せん断力-柱部材角関係
-150 -100 -50 0 50 100 150
-1 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
層せん断力Q(kN)
柱部材角Rc(%rad.)
-150 -100 -50 0 50 100 150
-1 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
層せん断力Q(kN)
柱部材角Rc(%rad.)
-150 -100 -50 0 50 100 150
-1 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
層せん断力Q(kN)
柱部材角Rc(%rad.)
-150 -100 -50 0 50 100 150
-1 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
層せん断力Q(kN)
柱部材角Rc(%rad.)
第2章 柱梁曲げ強度比を変数としたアンボンドPCaPC造十字形柱梁骨組の静的加力実験
2-127
2.8.2.2 梁の復元力特性
梁危険断面における目開きによる回転角を図2.42に,梁端たわみの算出方法を図2.43に模式 化して表す。また,梁せん断力-梁部材角関係を図2.44に示す。同図の□,◇及び△はそれぞれ 曲げひび割れ,PC鋼材弾性限界及び曲げ終局耐力を表す。ここで曲げひび割れ点は剛性急変点と 目視とによって判断し,PC鋼材弾性限界は2.4の材料試験結果で記した材料特性を用いた。全試 験体で,梁主筋及びPC鋼材は降伏しなかった。
梁せん断力は梁のローラー支持に取り付けたロードセルの測定値とし,梁部材角 Rbは図 2.43 に示すように梁端に設置した変位計により測定したたわみ(a1,a2)による回転角と梁圧着面で の目開き(1,2)による回転角を合計したものとし,式(2-30)及び式(2-31)となる。
図2.44より,全試験体において曲げひび割れ,PC鋼材弾性限界及び曲げ終局耐力点付近で剛 性及び耐力の変化が比較的大きいことが分かった。平面十字形試験体PCJ07,PCJ08及びスラブ と直交梁を追加した試験体PCJ10では,履歴性状はほぼ原点指向型を示した。これはPC鋼材が 弾性限界を超えたものの降伏までは至ってなかったためである。一方,スラブのみを追加した試
験体PCJ09では最大耐力以降のRb=3.0%時に原点指向型から紡錘形へと移行した。これは2.7.1
で述べた通り,柱梁接合部の損傷が激しく進展したためと考えられる。また柱梁接合部の損傷が 比較的大きかった試験体PCJ09では,他の試験体に比べ最大耐力以降の梁部材角の増加が若干小 さかった。
・梁部材角:Rb
𝑅𝑏1= 𝛿𝑎1
(𝐿 − 𝐷𝑐)/2+ 𝜃1 (2 − 30) 𝑅𝑏2 = 𝛿𝑎2
(𝐿 − 𝐷𝑐)/2+ 𝜃2 (2 − 31)
ここで,𝑅𝑏1:西梁部材角(%rad.) 𝑅𝑏2:東梁部材角(%rad.)
𝛿𝑎1:目開きによる変形を含まない西梁端たわみ(mm) 𝛿𝑎2:目開きによる変形を含まない東梁端たわみ(mm)
𝜃1:左側柱フェース(B1)での西梁曲げひび割れの開口(B1’)による回転角(図2.37 参照)(%rad.)
𝜃2:右側柱フェース(B2)での東梁曲げひび割れの開口(B2’)による回転角(図2.37 参照)(%rad.)
𝜃1=𝛿𝑑3− 𝛿𝑑4
𝑏 , 𝜃2=𝛿𝑑7− 𝛿𝑑8 𝑏
ここで,𝑏:接合部内変位計間の距離(mm)
𝐿:梁スパン(mm)
𝐷𝑐:柱せい(mm)
第2章 柱梁曲げ強度比を変数としたアンボンドPCaPC造十字形柱梁骨組の静的加力実験
2-128
図2.42 梁危険断面における目開きによる回転角 図2.43 梁端たわみの算出方法
(a)試験体PCJ07
(b)試験体PCJ08 -150
-100 -50 0 50 100 150
-4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4
西梁せん断力Qb(kN)
西梁部材角Rb(%rad.) 曲げひび割れ PC鋼材弾性限界 曲げ終局耐力
-150 -100 -50 0 50 100 150
-4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4
東梁せん断力Qb(kN)
東梁部材角Rb(%rad.) 曲げひび割れ PC鋼材弾性限界 曲げ終局耐力
-150 -100 -50 0 50 100 150
-4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4
西梁せん断力Qb(kN)
西梁部材角Rb(%rad.) 曲げひび割れ PC鋼材弾性限界 曲げ終局耐力
-150 -100 -50 0 50 100 150
-4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4
東梁せん断力Qb(kN)
東梁部材角Rb(%rad.) 曲げひび割れ PC鋼材弾性限界 曲げ終局耐力
第2章 柱梁曲げ強度比を変数としたアンボンドPCaPC造十字形柱梁骨組の静的加力実験
2-129
(c)試験体PCJ09
(d)試験体PCJ10
図2.44 梁せん断力-梁部材角関係
-150 -100 -50 0 50 100 150
-4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4
西梁せん断力Qb(kN)
西梁部材角Rb(%rad.) 曲げひび割れ PC鋼材弾性限界 曲げ終局耐力
-150 -100 -50 0 50 100 150
-4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4
東梁せん断力Qb(kN)
東梁部材角Rb(%rad.) 曲げひび割れ PC鋼材弾性限界 曲げ終局耐力
-150 -100 -50 0 50 100 150
-4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4
西梁せん断力Qb(kN)
西梁部材角Rb(%rad.) 曲げひび割れ PC鋼材弾性限界 曲げ終局耐力
-150 -100 -50 0 50 100 150
-4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4
東梁せん断力Qb(kN)
東梁部材角Rb(%rad.) 曲げひび割れ PC鋼材弾性限界 曲げ終局耐力
第2章 柱梁曲げ強度比を変数としたアンボンドPCaPC造十字形柱梁骨組の静的加力実験
2-130
2.8.3 各部材の変形成分
2.8.3.1 各変形成分の割合
正負載荷時において,各試験体の層間変位に占める各部材の変形成分を検討し,各試験体の層 間変形角に占める柱,梁及び柱梁接合部の変形成分を算出し,その結果を積み上げグラフとして 図2.45及び図2.46に示す。ここで,柱及び梁の変形量(c,b)は2.8.2で示したように各部材 のたわみと危険断面位置で生じる目開きによる変形の合計とした。一方,接合部の変形量(j)は,
曲げとせん断に分離した計測法と従来の計測法,2つの方法を用いて求めた。この際,曲げとせん 断に分離した計測法では,図2.47に示すように接合部のせん断変形(p)と曲げ回転()が考慮 できる楠原・塩原の既往研究「接合部回転角を含む RC 造柱梁接合部分架構の変形成分と応力及 びその測定法」[2.11]の提案方法をもととし,片江・北山の既往研究「3方向加力される鉄筋コンク リート立体隅柱梁接合部の耐震性能に関する実験研究」[2.12](図2.48参照)に基づきの柱梁接合 部のせん断変形と曲げ回転による水平変位を算出した。また従来の計測法では,図2.49に示すよ うに接合部のせん断変形を直接的に測定する方法を用いて求めた。なお,図2.45の試験体PCJ10 では全層間変形角において一部の変位計が測定不能となり,楠原・塩原による接合部変形の測定 ができなかった。また,図2.46において試験体PCJ10では従来の方法による接合部せん断変形 の直接的な測定が行われなかったため,接合部の変形量は層間変位と柱及び梁の変形量との差分 とした。
図2.47のように塩原らが定義する柱梁接合部のせん断変形角(p)とは下柱に対して上柱が平 行移動することにより生じる角度のことであり,曲げ回転角(p)とは柱梁接合部が 4 つに分割 されそれぞれが回転した際に生じる角度である。そのため,柱梁接合部のせん断変形量はせん断 変形により生じる梁端の鉛直変位を柱頭の水平変位にしたのち下柱に対する上柱の水平変位を差 し引いて求めることができる。また,曲げ変形量は柱梁接合部が曲げ回転することにより生じる 梁端の鉛直変位を柱頭の水平変位にして求めることができる。
図2.45より,楠原・塩原の方法を用いた場合においてR=4.0%時で各変形成分の和が層間変形 角の実験値を若干上回る試験体も見られたものの,全試験体において各変形成分の和は層間変形 角の実験値と良く対応した。図2.46より,従来の方法を用いた場合において全試験体における各 部材の変形量の合計値は層間変位と良く対応し,上記の 2つの方法から算出した接合部の変形量 には大きな差は見られずほぼ同値であった。全試験体における各部材の変形成分について以下に 述べる。
(a)試験体PCJ07
本試験体では,正負載荷時ともに梁の変形量が最も大きく,最大耐力(R=+2.81%rad.,-2.0%rad.) 付近においても梁の変形量が層間変位の7~8割程度を占めている。また,層間変形角R=1.0%rad.
以降柱の変形量にはほとんど変化が見られなかった。正載荷の層間変形角R=3.0%rad.以降には接 合部の変形量も若干増大し,このことから最大耐力以降に接合部の損傷が進展したと考えられる。