本章では
,先
行授業分析等によつて見出 した歴史大観学習の授業構成原理 を以下に示す 三点か ら考察す るとともに,そ
れ らに基づいて法を視点 として近世 日本 を大観す る授業開 発 を行 う。第
1節
法 を視 点 と した歴 史 大観 学 習 の授 業 構 成 原 理本節では
,法
を視点 とした歴史大観学習の授業構成原理を, 1.探
究の論理, 2.教
育 内容の構造, 3.教
材構成の論理の二つの視点か ら考察す る。1。 探究の論理
探究の論理 として
,次
の二点を提示する。①現在か ら過去へ遡及す る
② 「なぜ」 とい う問いで構成す る
①の現在か ら過去へ遡及す ることは
,学
習者 である生徒 の 自然な認知の心理 と関わる。「今」か ら歴史を考えることは
,歴
史をみる目を養 うのみな らず,現
代社会に対す る認識 も豊かになるといえる。本研究では
,生
徒に身近な 「殺人」「窃盗」の犯罪事例を手がか りに,ま
ず現代の人々の 法意識 を考察 し,次
いで近世の人々の法意識 と比較の視点をもつて探究す ることによ り, 近世 日本の一端 を理解 させ よ うと考えた。そこで,生
徒に身近な問題か ら出発 し,歴
史を 法の視点か ら考察できるよ う単元を構成 した。②の探究を促す問い として,「なぜ」疑間を重視する。先行授業実践では
,単
元の導入部 で 「○○ とは, どのよ うな時代だろ う」 とい う時代 を概括す る問いを設定 して大観す るも のが多 くみ られたが,こ
の問いは教科書の内容の教授 を前提 とした形式的な問いであることか ら
,生
徒が探究す ることにつなが らない といえる。本研究では
,単
元の導入部で課題意識 をもたせ る観′点か ら,ま
ず明確な学習課題 を設定 す る。学習課題 には,あ
る視点か ら時代の特色 をみた際に本質をとらえた問いを設定す る ことが重要である。具体的には,「なぜ幕藩体制は,身
分制や法秩序を確立 したのか」 とい う法の視点か らアプローチす る問いを中心に,生
徒が諸資料 に基づき,時
代 を検証 してい くよ うに単元を構成 したい。そ して,授
業のま とめでは,中
世や現代 との比較,さ
らに,単元内での比較の視点を組み込んだ発間を行い
,近
世 日本の時代像がよ り浮 き彫 りになるか」 といつた発 間によつて
,時
代 を大 き くとらえる こ とに よ り,近
世 日本 の理解 が一層深 ま る と考 え られ る。単元 のま とめの時間 において は
,生
徒 に時代像 を構 築 させ る活動 を組 み込むが,中
学生 に 「法 の視点か ら近世 日本 の時代像 を表現 してみ よ う」 とい つて も困難 だ と考 え られ る。そのた め
,結
論 を導 き出す た めの作業課題 を設 定す る こ とに よ り,生
徒 が時代像 を表現 し やす くな る と考 える。例 えば,「中世 では,武士に無礼討 ちの特権 は与 え られていませ んが, なぜ 近世 にな り,無
礼討 ちは認 め られ る よ うになったので しょ うか」 な どの発 間が考 え ら れ る。最後 に,時
代像 を構 築 させ るた めの明確 な問い を設 定す るこ とが求 め られ る。 具体 的 には,「なぜ近世 日本 は,政
治 的 。社会 的 に安定 した政権 を維持す るこ とができたので しょ うか,自分 の言葉 で表現 してみ よ う」 といつた明確 な問いか ら,「近世 日本 は
,身
分制 と 幕藩体制 を基礎 に幕府・ 藩 の法度 と庶 民 が 自律 的 に定 めた掟 によつて統制 し, ときに厳罰 を科す ことにより,安定 した政権 を維持す るこ とがで きた」とい う時代像 を構 築 させ たい。以上 の よ うに
,生
徒 に身近 な 「殺人」「窃盗」 の犯罪事例 か ら過 去 の時代像 に迫 る発 間 を 行 い,「なぜ」疑間を中心 として,単
元 の導入部 で明確 な学習課題 の設 定,中
世や現代 との 比較,さ らに,単
元 内での比較 の視点を組 み込む,結
論 を導 き出す た めの作業課題 の設定, 時代像 を構築 させ るための明確 な発問か ら単元 を構成 し,時
代 を大観 させ たい。2.教
育内容の構造授業開発の際は
,教
育内容 を確定す ることが重要である。先行授業では,教
科書の流れ に沿つて通史的に学習 し,習
得 した個別的知識 を活用 して時代を大観す る授業が多 くみ ら れた。 しか し,時
代の特色 をある視点か ら大観す るためには,習
得すべ き概念 を明確化することが求められ る。
近世 日本を大観する際
,約 300年
続いた時代 を一括 して とらえるのか,ま
たは時間の変化 を考慮すべきかを明確 にす る必要がある。『 中学校学習指導要領解説社会編』 において, 各時代の特色を大きくとらえることが明記 されている。「時代の特色」 とは,「時代」内の 歴史的事象に共通 して見 られ る傾 向のことである。 しか し
,近
世初期は,荒
々 しい風潮が 残つてお り,19世
紀は欧米列強 との接触によつて幕藩体制が動揺 したこと,政
治 。産業の 近代化や,社
会 。文化の西欧化が進んだ時代 とされている。つま り,近
世初期 。中期・ 後 期では政治 。経済等の状況は異なってお り,近
世 日本 を正確 に把握す るためには変化 をみ ることが不可欠である。 しか し,中
学校歴史的分野の学習 として近世 日本 を大観す るとい う場合,近
世を細分化 しそれぞれ を検討 してい くのではな く,時
代 を大きくとらえるため に,中
世や近代,現
代 との比較か ら身分法,幕
藩体制下の特質が法や刑罰 に反映 している ことを理解す ることが重要であ り,そ
の際,最
も典型的な事例を取 り上げ,教
育内容 を構 造化す る。次に
,近
世 日本 を一円的にとらえてよいかについて検討す る。近世 日本は,幕
藩体制 を 基礎 に した国家である。幕藩体制 とは,幕
府 と藩による封建国家であ り,270余
りを数 える大名が全国に割拠 し
,支
配領域である藩の統治 を行 う体制である。 したがつて,武
士の空間 として直轄領 と外様大名 の犯罪 に関す る具体的事例に即 して考察すれば
,幕
藩体制の特 色 を理解す ることができる。 しか し,そ
れでは,武
士・農民 。町人・賤民の特色を理解す ることができない。藩内の犯罪の具体的事例を考察す ることによ り,身
分制社会を理解 さ せ ることができることか ら, 日本 を一円的にとらえるのではなく,各
身分 を区分 して とらえる必要があろ う。
3.教
材構成 の論理歴 史大観 学習 の教材構成 においては
,知
識 の構造 と探究 のた めの問い を接続す る教材 の 選択 が重要 となる。 そ こで,教
材構成 の論理 として次 の二点 を提示す る。①生徒 に身近 な事例
② リア リテ ィのある事例 (絵画資料 。写真 。映像等)
法 を視 点 とした歴 史大観 学習 にお ける生徒 に身近 な事例 は
,や
は り「窃盗」や 「殺人」な どの犯罪であろ う。 この よ うな事例 は
,現
在 と過去 を関連付 けて考察す る こ とがで き,生徒 が よ リー層興味 をもつて探究できる教材 だ と考 え られ る。 また,「窃盗」や 「殺 人」 に 対 して科 され る刑罰 は
,時
代や 国 に よ り様 々で あ り,人
々の法意識 が如実 に表れてい る と い える。そのため,そ
の時代 の法意識 を「窃盗」や 「殺人」 と通 じて探究す ることによ り,時代 を大観す るこ とができる と考 え られ る。
また
,法
の視点か ら大観す るためには, リア リテ ィのあ る事例 を選択す る こ とが求 め ら れ る。 なぜ な ら,法
は文章化 されてい るが中学生が読解 し,そ
れ 自体で時代 を大観 す るこ とは困難 だ と考 え られ る。 そのため,可
視化 で き, リア リテ ィの ある刑罰 を教材 として用 い るこ とで時代 を大観 させ たい。 また刑罰 は,生
徒 の探究 を促す のみな らず,権
力や社会秩序維持 の核 心 をなす こ とか ら
,そ
の時代 の成 り立 ちや現代社会 とのつなが りを考察す る 上で重要である。第
2節
法 を視 ′点 と した 「近 世 日本 」 の授 業 モ デ ル本節では
,歴
史大観学習や 日本法制史の先行研究を踏まえ,法
の視点か ら近世 日本 を大 観す る授業モデル を開発す る。1.単
元計画 と問いの構造○単元名 と指導時数
(5時
間配 当)「法 と刑罰か らみる近世 日本」
○単元設定の趣 旨
(1)毎
日のようにメデ ィアで報道 されている生徒に身近な犯罪である,「窃盗」「殺人」を中心に取 り上げることにより
,現
在 と過去を関連付 けて探究することができる。(2)法
を視点に,権
力・ 社会秩序維持の核心をな し,か
つ可視化できる刑罰 を教材 とし て位置づけることによ り,時
代の特色 をとらえることが苦手な生徒 も大観す ること ができる。(3)法
の視点か ら探究す ることにより,近
世 日本の特質である身分制社会 と幕藩制国家 をより理解 しやす くなる。○単元の評価規準
<関
心 。意欲・態度>
法 と刑罰についての関心を高め
,近
世 日本の時代像 を把握 しようとしている。<思
考・判断 。表現>
各身分のくらしを犯罪の具体的事例に即 して考察 し
,近
世 日本が政治的 。社会的に安定 した政権を維持することができた理由を根拠に基づき表現 している。<資
料活用の技能>
刑罰な どの資料か ら
,近
世 日本の時代像 を的確 に読み取 り,問
いに対する予想や仮説 を 立てる際に資料を根拠 として活用 している。<知
識 。理解>
教育内容 としての知識の構造 (53頁に掲載