• 検索結果がありません。

先進国の多くはマンモグラフィによる乳がん検診を実施している。しかし、その対象と して40歳代を含めるか否かについては意見が分かれる(表33)。

USPSTF(U.S. Preventive Services Task Force)は2009年更新版137)で、50~74歳につ いて従来どおり2年ごとのマンモグラフィ検診を推奨した。一方、75歳以上については証 拠不十分と判断している。乳がん死亡1人を回避するための必要受診数(Number Needed to Invite: NNI)は、39~49歳では1,904人、50~59歳では1,339人、60~69歳では377人 としている。また、1,000人の検診における偽陽性は、40~49歳で97.8人、50~59歳で 86.6人、60~69歳で79.0人、バイオプシー件数は9.3人、10.8人、11.6人と推計してい る。これらの結果、40歳代については死亡率減少効果を認めるものの、利益と不利益が拮 抗しているという判断から推奨グレードCと判定した。推奨グレードCは、定期的な検診 の実施は推奨しないが、個別の判断での受診は可能とする判断で、マンモグラフィ検診自 体を「推奨しない」という判断ではない。

アメリカがん協会(American Cancer Society)は2003年に乳がん検診ガイドライン138) を作成したが、以来、更新されていない。2003年度版では、20歳代、30歳代には定期検 診として、少なくとも3年ごとに視触診を行うことを勧めている。一方、40歳以上につい ては、年齢の上限なしで毎年のマンモグラフィ受診を推奨している。

Canadian Task Force はGRADEシステムを用いて証拠の検討を行うとともに、偽陽 性、不要な生検数、NNS(Number Needed to Screen)に基づき、年代別の利益と不利益を 比較した。50~69歳女性720人が2~3年ごとに11年間検診を受けると、204人が偽陽性 となり、不必要なバイオプシー受診は26人となる。一方、2,100人の40~49歳女性が 2~3年ごとに11年間検診を受けると、690人が偽陽性となり、不必要なバイオプシー受診 は75人となる。その結果、40歳代では、ほかの年代に比べNNSも大きく、偽陽性、不 要な生検数も多いことから、マンモグラフィ検診を推奨しないと判断した。50~74歳につ いては2~3年の間隔で検診を推奨しているが、評価研究がないことから75歳以上につい ては推奨の対象外としている134)

英国でも、マンモグラフィ検診の見直しのため、Cancer Research UKと保健省の委嘱 により乳がん検診の再評価委員会が結成され、その結果がMarmot Reportとして公表さ れた。結果は、マンモグラフィ検診の死亡率減少効果を再確認するとともに、最大の不利 益である過剰診断割合については10~15%が妥当と判断した。その結果、従来どおりに、

50~70歳を対象として、3年間隔でマンモグラフィ検診を行うのが妥当と判断された。

Marmot Report139)では、死亡率減少効果についてはコクランレビューを採用している

140)。コクランレビューでは、40歳代については7研究のメタ・アナリシスの結果、13年 間追跡結果は乳がんリスクが16%減少した(rate ratio 0.84, 95%CI: 0.73-0.96)。50歳以上 を対象とした7研究のメタ・アナリシスでは、13年間追跡結果は乳がんリスクが23%減 少したと報告している(rate ratio 0.77, 95%CI: 0.69-0.86)。ただし、個人単位で適切な割

付を行った研究に限定した場合、3研究を対象とした40歳代のメタ・アナリシスでは有意 な結果は得られなかった(rate ratio 0.87, 95%CI: 0.73-1.03)。50歳以上を対象とした2研 究のメタ・アナリシスでも同様であった(rate ratio 0.94, 95%CI: 0.77-1.15)。過剰診断に ついては、Marmot Reportでは、Malmö studyとCanada studyをもとに、過剰診断算 出の分母を4分類し、それぞれについて過剰診断割合を算出している139)(表34)。追跡期 間を検診実施期間に限定したCおよびDは、検診提供期間をこえて追跡を継続した場合 に比べ、過剰診断の割合が高い。この結果をもとに、本レポートでは10~20%が適切な割 合と判断している。最終的には、10,000人の英国女性が50歳から20年間乳がん検診を 受けた場合、681人の乳がんが発見されるが、このうち129人が過剰診断であり、43人が 乳がん死亡から救命されるとしている。

コクランレビューの判断は、無作為化比較対照試験のなかでも研究の質の高いCanada

studyとMalmö studyに限定した場合には、13年間の追跡で死亡率減少効果は15%であ

り、過剰診断は30%であることから、利益が不利益を上回るとは考えられず、推奨できな いとしている。この結果は、2,000人が10年間乳がん検診を受診することで乳がん死亡1 人の救命が可能となり、検診を受けなければ乳がんと診断されるはずのない10人の健常 な女性が不必要な治療を受けることを意味する。これらの情報を解説したリーフレットも 作成されている。

EUROSCREEN Working Groupは、欧州で行われた観察研究を主体に、実際に乳がん

検診の効果を判定している。その結果、incidence-based mortality studyでは25%、症例 対照研究では31%の死亡率減少効果があるとしている141)。検診対象は50~69歳としてい る。一方、ヨーロッパ諸国で行われた観察研究をもとにした過剰診断割合のレビューを行 い、1-10%が妥当な数値としている142)。50~51歳女性1,000人が68~69歳まで受診し、

79歳まで追跡した場合、7~9人の乳がん死亡を抑制するが、過剰診断は4人、侵襲性のな い精密検査が必要な人は170人、侵襲性のある精密検査が必要な人は30人となる、とま とめている。

このほか、オーストラリアでも、50~69歳を対象に2年ごとの検診が実施されている が、40歳代と70歳以上に積極的には勧めないとしている。

しかしながら、アジア諸国では欧米に比べ乳がん罹患率は低いものの、罹患のピークが 40歳代にあることから、欧米とは異なった対策をとる国もある。韓国では、わが国と同様 に40歳以上を対象として2年ごとのマンモグラフィ検診を実施している143)

137) U.S. Preventive Services Task Force. Screening for breast cancer: U.S. Preventive Services Task Force recommendation statement. Ann Intern Med. 2009; 151(10): 716-26, W-236.

138) Smith RA, Saslow D, Sawyer KA, Burke W, Costanza ME, Evans WP 3rd, Foster RS Jr, Hendrick E, Eyre HJ, Sener S; American Cancer Society High-Risk Work Group;

American Cancer Society Screening Older Women Work Group; American Cancer Society Mammography Work Group; American Cancer Society Physical Examination Work Group; American Cancer Society New Technologies Work Group; American Cancer Society Breast Cancer Advisory Group. American Cancer Society guidelines for breast cancer screening: update 2003.CA Cancer J Clin. 2003; 53(3): 141-69.

134) Canadian Task Force on Preventive Health Care, Tonelli M, Connor Gorber S, Joffres M, Dickinson J, Singh H, Lewin G, Birtwhistle R, Fitzpatrick-Lewis D, Hodgson N, Ciliska D, Gauld M, Liu YY. Recommendations on screening for breast cancer in average-risk women aged 40-74 years. CMAJ. 2011; 183(17): 1991-2001.

139) Marmot MG, Altman DG, Cameron DA, Dewar JA, Thompson SG, Wilcox M. The benefits and harms of breast cancer screening: an independent review. Br J Cancer.

2013; 108(11): 2205-40.

140) Gøtzsche PC, Jørgensen KJ. Screening for breast cancer with mammography.

Cochrane Database Syst Rev. 2013; 6: CD001877.

141) Paci E; EUROSCREEN Working Group. Summary of the evidence of breast cancer service screening outcomes in Europe and first estimate of the benefit and harm

balance sheet. J Med Screen. 2012; 19 Suppl 1: 5-13.

142) Puliti D, Duffy SW, Miccinesi G, de Koning H, Lynge E, Zappa M, Paci E;

EUROSCREEN Working Group. Overdiagnosis in mammographic screening for breast cancer in Europe: a literature review. J Med Screen. 2012; 19 Suppl 1: 42-56.

143) Kim Y, Jun JK, Choi KS, Lee HY, Park EC. Overview of the National Cancer screening programme and the cancer screening status in Korea. Asian Pac J Cancer Prev. 2011; 12(3): 725-30.