1.花
芽分化の人為的調節 (1)花芽分化の化学調節生長調節物質は生理作用のちがいによってオーキシン, ジベレリン,サイ トカイニン,アンチジベレリン,ア ン テォーキシンなどに類別す ることがで きる。これ らの調 節物質はいずれ も植物の花芽形成を促進 あるいは抑制す ることが知 られている。また最近の研究によると,脂質 ホルモンや核酸およびその構成物質がある種の植物の花 芽形成を促進するとい う。針葉樹の花芽分化に対 し,ど のような種類の物質が影響 をおよぼすかを調べた研究は 極めて少ない。本研究の結果によると,オーキシン,カ
イネチン,エスレルおよび生長抑制物質はいずれ も単独 では針葉樹の花芽分化 を促進 しない。核酸類の中で
RN
Aは花芽分化をやや促進す る傾向がみ られるが,未熟木 には効果がない。現在までの結果では,針葉樹の花芽分 化 を確実 に誘起す る物質はジベレリンのみである。
ジベレリンによる針葉樹の花芽分化の促進は加藤 ら
(1958〜1959),四手井 ら(1959〜1960),佐藤 ら(1959〜
(1963),築 地 (1959),Pharis ら(1965〜1970)な ど によって報告 されている。ジベレリンの効果は樹木の内的 条件や ジベ レ リルの処理 の方 法 によって著 しく異なる。
加藤 ら(1959)は25種類の樹種,系統に対 し,300ppmのジ ベレリン水溶液を6月か ら8月 に散布 した。その結果,
樹種によって効果に著 しいちがいがみ られた。スギ科で はスギ,メ タセコイァ,センペルセコイァ, ラクウシヨ ウ,シダレラクウシヨウで花芽分化が促進 されたが,コウ ヨウザン;ラ ンダイスギ, タイフラスギ,ギヵン トセコ イアには効果がなかった。 とノキ科では,ヒ ノキを除 く 10種 樹 に効果がみ られた。 カラマツ,ア メ リカ トガ サフラなどのマツ科の樹種には効果がながった。本研究 において も加藤 らと大体同様の結果が得 られたが
,林
業 上重要41ノ
キに も効果々│あることがわかったマツ科の 樹種については,その後多 くの人々によってジベレリン による着花促進が試み られた。これまでのところ,ジベ レリンの効果が認められないという報告が圧倒的に多い。しか し,四手井・ 吉川 (1963)は P力 2s ηvgο の稚苗に ジベレリン2∞ppm溶液を散布 して雄花の着生が促進 され たことを報告 している。また本研究の結果によると,ア カマツの 1〜 2年生苗に3∞ppm水溶液を7月か ら9月に 散布 して多少着花率が増加す る傾向がみ られた。これ ら の結果がジベレリンの影響によるものかどうか明 らかで ない。いずれにして も,スギの場合のような著 しい促進 効果はみ られない。 これまでに報告 された研究の結果を 総合す ると,ジベレリンで確実に着花が促進 されるもの はヒノキ科 とスギ科の樹種に限 られている。これ らのこ とか ら
,花
芽形成に関与す る物質は樹種によって異なる のではないかと思われる。ジベレリンの効果は同じ樹種 で も品種や個体によって多少異なる。品種やクローンに よる効果のちがいは,スギで最 もくわしく研究 されてい る (吉ナIIら1961, 加藤 ら1962, 八木1962, 14藤ら1963,前田 ら1964,萩 行 ら1966握 着花量や花性の表現 に差がみ られるが,スギではジベレリンで着花 しない品種,ク ロ ーンはないようである。本研究の結果によると,ヒ ノキ ではジベレリンの効果の強 く現われるクローンとそうで ないクローンとがある。一般に,処理の効果 は自然着花 量の多いクローンで強 く現われるようで,ク ローンの遺 伝的な性質 (結実性)と 関係があるように思われる。ジ ベレリィの効果 と樹齢 との関係は加藤 ら(19ぢ9)によっ て報告 されている。ジベレリンは自然状態では絶対に花 をづけない稚苗に花をつけるが,樹齢が高いほど花芽分 化,とくに雌花の分化が促進 され る。スギの当年生苗に対 す る処理では大部分が雄花のみ着生す るが,樹齢が高 く なるにしたがって雌花の着生量および雄花に対する雌花 の比率が増加する。また低濃度のジベレリンで雌花がつ
く。 このような傾向はメタセコイアや ヒノキで も認め ら れる。つ ぎ木,さし木で増植 されたクローンは, 1, 2 年生の若い もので もジベレリン処理によって雌花が多 く
つく。
これは穂木が普通成熟木か らとられるので
,
生理 的にすでに成熟状態 になっているためであると思われ る。このような年齢 による効果のちがいは,ジベレリン による花芽分化の誘起が自然の成熟 と無関係でないこと を示 している。樹齢 によるジベレリンの効果のちがいは 樹体内の栄養やホルモンの状態の樹齢変化 と密接な関係 があるものと思われる。
ジベレリンの効果はジベレリンの施与の方法,すなわ ち処理時期,処理濃度
,処
理回数などによってちがって くる。四手井 ら (1960)は 2年生のスギ苗で処理濃度,回数および時期を組み合わせて実験を行ない,散布時期 がはやいほど花芽の分化が肉眼的に認められるまでの日 数がながい,高濃度で回数 を多 くした処理が花の着生が 多い,雄花の分化促進には6, 7, 8月 の処理が,雌花 の分化促進には9,10月の処理が最 もよいという結果を えている。
本研究において も,一般にスギでは生育 の前期の処理で雄花が
,後
期の処理で雌花が多 くつ く傾 向がみられた。 しか し,成木やさし木苗ではこのような 傾向は若い実生苗ほど明 らかに認め られない。生育前期 の処理で も雌花がかな り多 くつ く。また品種によっては,生育の後期処理で雄花の着生が多い ものがある(八木19
62,萩行 ら1966拓 ヒノキでは,雄花の着生 は7月区に最 も多い。またI14花は 7〜 8月区に多 く着生 している。メ タセコイアでは,単月処理 よ りも6〜8月の連続処理が 効果が大であるが,単月処理では雄花は生育の前期処理 区に,雌花は後期処理区に多い傾向がみ られる。このよ うにジベレリンの散布時期によって花のつ き方がちがっ て くるが,実際に種子をとる場合には雄花 と雌花を同時 になるべ く多 くつける必要がある。また花の発育は前期 処理に比べて後期処理,と くに9月以降の処理で劣 る。
後期処理では花器が十分に発育せず,開花 しない もの も み られる。 したがって,実用上 に応用する場合には,こ
らの点 を十分考慮 して処理の適期を決定する必要がある。
葉面散布の場合は,スギやメタセコイアではloppm以 上 の濃度でジベレリンの効果が現われる。とノキ,ロ ーソ ンヒノキでは50ppm以 上の濃度で着花が促進 されるが,
佐藤 (1960)に よるとナンゴウヒはrOmppm以上で花芽を 形成 したとい う。一般 に濃度が高いほど花芽分化 とくに 雌花の分化が促進 される。多 くの場合50〜5∞ppmの 濃度 範囲で用い られている。葉面散布の場合の処理回数は濃 度によってちがって くる。50〜5∞ppm水溶液の 1回 の散 布でスギの花芽分化は誘起 されるが,回数が多 くなれば 施与量が増加するか ら花の着生 は多 くなる。一般に低濃
度では回数を多 くし
,高
濃度では少な くてよい。処理濃 度,散布回数 はもちろん樹種によって異なる。 しか し, 濃度が高す ぎた り,散布回数が多す ぎると薬害が現われる場合があるか ら注意 を要す る。スギ,メ タセコイアな どでは,高濃度のジベレリンの散布によって茎葉の黄緑 化,生長の抑制,地上部および地下部の乾物重量の減少, 花の発育阻害などが起 こる (斉藤・橋詰1959,四 手井 ら 1960,橋 詰1968光散布回数は,スギや ヒノキでは花芽分 化期が長いか ら, 1回 よ りも2回 以上が望 ましい。
ジベレリンの処理の方法については
,最
初のころは主 として葉面散布法が用い られていたが,その後樹幹剣皮 塗布法,樹幹注入法,根注入法などが大径木で試み られ た。郷 ら (1966)は 壮齢のスギの地際部の幹 を象」皮 して 1%と5%の CAラ
ノリン軟膏 をぬ りつけ,着花が促進 されることを認めた。寺田 (1967)は 7〜14年生のスギ の幹に50〜5∞ppmのGA水溶液を,また河野 ら(1971)は胸高直径30〜50cmの 大径木 に酬ppm水溶液を注入 し ていずれ も効果があることを報告 している。得居 (1968)
は 9年 生スギを用いて50〜2∞ppmのCA水溶液を根か ら 吸収 させて着花が著 しく促進 されることを認めた。本研 究の結果によると,市販の錠斉Jをくだいて直接形成層部 に処理 して も十分効果があることがわかった。百瀬 (19 69)も筆者 とほぼ同じ方法でジベレリンを樹幹に処理 し て効果があることを認めている。GA錠剤の樹幹処理に よる着花促進は最近 ヒノキで くわしく研究 されている
(板垣 ら1971,綱 田 ら1971,自 川1972,枢 谷・ 吉野197貌 S99"οげagを,■ι9aは1∞〜3∞ppmの ジベレリンの葉面散 布では着花 しないが,Pharis ら (1969)は 播種後6カ 月の稚苗にG A13を 1個体 当た りlZrJm9幹に処理 して雌花
を着生 させ ることに成功 している。GA錠剤の樹幹処理 法は,大径木に応用で きる,ジ ベレリンの使用量が少な くてすむ
,葉
面か らの吸収が困難な樹種に効果がある, 天候にあま り左右 されない,作業が簡単であるなどの長 所がある。反面,象」皮処理 によって樹木 に傷害 を与 える, 象U皮部のゆ着あ困難な樹種は巻 き枯 らしになる,風
や雪 の害 を受けるおそれがある,幼齢木に適用 しにくいなど の短所がある。ジベレリンの使用量を葉面散布 法 と比較 してみると,樹
高4mの
ヒノキでは,葉
面散布 の場合は 1回 に1本 当た りCA溶液 を約5∞W必要 とする。 300〜5∞
ppm液
を散布す るとすれば,
ジベレリンの使用量 は150〜 250喝 となる。樹幹処理の場合は 1本 当た り20〜 25 mgで効果があるか ら,葉面散布法に比べて%〜
%の
量 で同 じ効果をあげることができる。網田 (1972)
が樹高約2.5mの ヒノキの精英樹 クローンを用いて ジベ レリンの樹幹処理の効果を試験 したところによると,雄
花の着生は 1本 当た り3m9以 上のGA処理で,雌花の着 生は 7嘲 以上の処理で促進 されている。葉面散布法に比 較 して少量のジベレリンで効果があることは確かである。
樹幹処理法の問題点は剣皮部のゆ着であ り,ゆ着 を促進 して樹木に傷害 を与 えない方法をさらに研究す る必要が ある。
ジベレリンの花芽分化 に対す る効果は施肥や生長調節 物質の併用処理によって影響 される。川名・八谷 (1960) は窒素の施与 とジベレリン処理 との関係 を当年生スギ苗 で試験 し,雄花のみをつけた ものは無施肥区に多 く,雌 雄両花および雌花だけの ものは 窒 素施 肥 区に多かった
ことを報告 している。本研究において も,ほぼ同 じような 結果がえられた。佐藤 (1960a)はスギとヒノキを用い てジベレリンと
NAAの
併用処理の効果 を試験 して次の ような結果をえている。スギの当年生稚苗では,雄花の 分化はNAAの
併用によって抑制 されたが,雌
花の分化 は反対 に促進 された。 さし木品種ナンゴウ とでは,ジベ レリンの単用では500ppm以上の濃度で花芽分化が誘起 さ れたが,NAAの
併用処理では1∞ppmで花がつ き,かつ単用の場合よ りも著 しく雌花の着生数が増加 したという。
本研究において も,ジベレリンと生長調節物質の併用効 果が認め られた。生長調節物質の併用による花芽分化の 促進は,スギではオーキシンを併用処理 した場合にみら れた。カイネチン
,核
酸およびその関連物質,生長抑制 物質などの併用処理は効果がなかった。 しかし,アカマ ッではDNAあ
るいはTIBAの
併用によって花芽分化がやや促進 されるようである。オーキシンの併用による スギの花芽分化の促進は,ジベレリンを先に与 えオーキ シンを後処理 した場合にみられた。両者の同時処理ある いはオーキシンの前処理では,ジベレリンの開花促進作 用が阻害 された。すなわち,生長調節物質の併用効果は 生長調節物質の種類,処理の方法などによって著 しく異 なるようである。 しかし,実用上に利用 しうるよ うな顕 著な併用効果は認め られない。施肥はジベレリンによる 花芽分化に影響をおよぼすばか りでな く,その後の球果 の発育や種子の稔性にも関係 して くるか ら,実用的には よ り重要である。なお ヒノキで行たった実験によると, ジベレリンの単独処理 よ りもジベレリンと環状筆」皮の組 み合わせ処理によって花芽分化が一層促進 された。ジベ レリン処理 と機械的処理の相乗効果が認められ,ジベレ リンで花のつ きに くい制種や クローンに対 しては化学調 節のみによるのでな く
,薬
剤 と機械的処理 とを組み合わ せてさらに試験 してみると必要があると思 う。ジベレリンを着花調節に応用する場合に問題になるの は,ジベレリン処理によってえられた花粉や種子が正常