2011年3月11日(金)に発生した東日本大震 災は、首都直下地震への取組にも大きなインパク トを与えた。ここでは、主に東日本大震災後の首 都直下地震の被害想定見直しを取り上げ、関東大 震災からの含意を読み解いていく。
東京都あるいは首都圏への人口の集中度、政治
・経済・文化の中枢としての役割は他の先進国に 比べても大きく、地震災害に襲われた場合の人的
・物的被害の影響は計り知れない。また、わが国 の中央集権的なありようからも、文字通り、国家 衰亡の危機につながることが心配される。そこで 2003年、国の中央防災会議は、「首都直下地震対 策専門調査会」(2003年〜2005年まで20回開催)
を設置し、地震の科学的研究の上に被害想定を検 討し、防災対策をとりまとめた。2005年9月に
「首都直下地震対策大綱」を決定し、2006年4月 には「首都直下地震の地震防災戦略」ならびに
「首都直下地震応急対策活動要領」を公表した。
2006年から設置された「首都直下地震避難対策 等専門調査会」で避難者・帰宅困難者等への対応 について具体的な対策が検討されたのを受け、
2010年1月に「首都直下地震対策大綱」と「首 都直下地震応急対策活動要領」が修正された。そ の後、2011年3月の東日本大震災を被害想定の 見直しと対策の再検討に係る作業部会、協議会な どが設置された(表1)。
2006年、東京都は「首都直下地震による東京 の被害想定(最終報告)」を公表した。東日本大
震災後、2011年11月に「東京都防災対応指針」
を策定した。2012年4月に「首都直下地震等に よる東京の被害想定」を作成した。そして、12 月「東京都地域防災計画」を修正した1。
東京都は新しい想定結果の特徴を次の3つにま とめている。1つ目は、「最大震度7の地域が出 るとともに、震度6強の地域が広範囲に」及ぶこ とである。想定によれば、「震度6強以上の範囲 は、東京湾北部地震で、区部の約7割、多摩直下 地震で多摩の約4割」とされる。2つ目は津波被 害に関して、「東京湾沿岸部の津波高は、満潮時
で最大T.P. 2.61 m(品川区)」であることだ。
「河川敷等で一部浸水のおそれがあるが、死者な どの大きな被害は生じない」としている。3つ目 は「東京湾北部地震の死者が最大で約9,700人」
にのぼるとしている点である。これは「区部の木 造住宅密集地域で、建物倒壊や焼失などによる大 きな被害」出ることによる(東京都、2012 c)。
具体的な被害想定を項目ごとに確認してみよ う。東京湾北部地震(M 7.3)の場合、人的被害 として、死者は約9,700人(揺れにより約5,600 人、火災により約4,100人)、負傷者は約147,600 人 ( 重 軽 傷 者 は 約 21,900人 )、 建 物 被 害 は 約 304,300棟(揺れにより約116,200棟、火災によ り約188,100棟)である。発災1日後の避難者は 約339万とされる。多摩直下地震(M 7.3)の場 合、人的被害として、死者は約4,700人(揺れに より約3,400人、火災により約1,300人)、負傷者 は約101,100人(重軽傷者は約10,900人)、建物 被害は約139,500棟(揺れにより約75,700棟、火 災により約63,800棟)である。いずれも冬の18 時、風速8 mである2。発災1日後の避難者は約 276万とされる。帰宅困難者は約517万とされる
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*関西学院大学社会学部准教授
変化する首都直下地震
森 康俊
*47
(東京都、2012 c)。
2006年と2012年の東京都の被害想定の変化を まとめたのが表2である。あわせて、参考までに 中央防災会議の被害想定を併記したものである。
想定の変化の大前提として、近年の地震学の知見
により想定震源が10 km 程浅くなったために、
震度6強の地域が広がり、震度7が想定される地 域が出てきたことがある。ここでは、設定の風速 が一致しないため、単純に比較はできないが、人 的被害について、死者は増加し、負傷者は減少し 表1 首都直下地震に係る政府・東京都の主な取組
2003. 5〜2005. 7 中央防災会議 首都直下地震対策専門調査会
2004. 12 首都直下地震の被害想定 公表
2005. 2 首都直下地震の被害想定 公表
2005. 9 中央防災会議「首都直下地震対策大綱」
2006. 3 東京都「首都直下地震による東京の被害想定(最終報告)」
2006. 4 中央防災会議「首都直下地震の地震防災戦略」決定
2006. 4 中央防災会議「首都直下地震応急対策活動要領」決定
2006. 4〜2008. 10 中央防災会議 首都直下地震避難対策等専門調査会
2007〜2011 文部科学省 首都直下地震防災・減災特別プロジェクト
2007〜2010 内閣府 首都直下地震の復興対策のあり方に関する検討会
2008. 10 中央防災会議「首都直下地震避難対策等専門調査会」報告とりまとめ
2010. 1 中央防災会議「首都直下地震対策大綱」「首都直下地震応急対策活動要領」修正
2011. 10〜2012. 3 中央防災会議 首都直下地震に係る首都中枢機能確保検討会
2011. 9〜2012. 9 内閣府・東京都 首都直下地震帰宅困難者等対策協議会
2011. 11 東京都「東京都防災対応指針」
2012. 4 東京都「首都直下地震等による東京の被害想定」
2012. 4〜 中央防災会議 防災対策推進検討会議首都直下地震対策検討ワーキンググループ
2012. 4〜 中央防災会議 首都直下地震対策協議会
2012. 4〜 中央防災会議 首都直下地震対策局長級会議
2012. 4〜 中央防災会議 首都直下地震モデル検討会
2012. 12 東京都「東京都地域防災計画」(修正)
表2 首都直下地震の被害想定 2012年
東京都 2006年 東京都 2004年 中央防災 会議(東京都)
2004年 中央防災 会議(全体)
規模 東京湾北部地震(M 7.3)
時期・時刻 冬の夕方18時
風速 8 m/s 6 m/s 15 m/s 15 m/s
死者 9,641 5,638 6,413 7,800 11,000
建物全壊 5,378 1,737 1,737 2,200 3,100
火災 4,081 2,742 3,517 4,700 6,200
負傷者 147,611 159,157 160,860 210,000
重軽傷者 21,893 24,129 24,501 37,000
建物全壊 126,058 73,472 73,472
火災 17,709 15,336 17,039
建物被害 304,300 436,539 471,586 530,000 850,000
揺れによる全壊 116,224 126,523 126,523 120,000 150,000
火災 201,294 310,016 345,063 410,000 650,000
帰宅困難者(昼12時) 5,170,000 4,476,259 4,476,259 3,900,000 6,500,000 避難者の発生(ピーク:1日後) 3,390,000 3,854,893 3,990,231 3,100,000 7,000,000
1.想定される地震を東京湾北部地震(M 7.3)とし、冬の18時で比較した。
2.中央防災会議の想定は東京都のみだけではないことに注意。
48 第Ⅰ部 関東大震災から首都直下地震へ
ていることがわかる。建物被害については、火災 による建物被害が10万件以上減少している。揺 れによる全壊も減少しており、耐震化・不燃化の 進捗と推察される。
このように人的被害、建物被害の想定は、震 源、規模、発生時期、発生時間に当然ながら依存 するが、避難を余儀なくされる人の数は、発生時 間に大きく依存する。阪神・淡路大震災のように 早朝の勤務時間外であれば、帰宅困難者の数は少 なく済むが、台風被害や東日本大震災でもわかる ように、首都東京に滞留する被災者への対策は最 重要課題である。帰宅困難者がそのまま長期避難 者となってしまうことのプロセスについての想定 や対策は未だ不十分である。Ⅰ部で見てきたよう に関東大震災の避難者への救援活動が現代に与え る警句になるとすれば、この点であろう。
注
1 東京都が「東京都地域防災計画 原子力災害編」
協議の対象となる原子力事業所としているのは、
羽田空港の対岸にある東芝の実験用原子炉と核 燃料施設のみである(神奈川県川崎市)。一般に 想像されるような静岡県、茨城県の原子力事業 所が事故などに見舞われた際の防災計画ではな い。
2 2004年に中央防災会議が設定し、報道等で大き く取り上げられた想定は風速15 m/secであった ことに注意する必要がある。
参考文献
中央防災会議「首都直下地震対策専門調査会」2005
「首都直下地震対策専門調査会報告」
http : //www.bousai.go.jp/jishin/chubou/shutochokka/
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中央防災会議「首都直下地震避難対策等専門調査会」
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中央防災会議 防災対策推進検討会議 首都直下地 震対策検討ワーキンググループ 2012「首都直 下地震対策について(中間報告)」
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神奈川大学日本常民文化研究所付置非文字資料研究
センター 2010「関東大震災復興データベース」
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クト(東京大学地震研究所・防災科学技術研究 所・京都大学防災研究所)2012「最終成果報告 会資料」
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文部科学省 首都直下地震防災・減災特別プロジェ クト(東京大学地震研究所・防災科学技術研究 所・京都大学防災研究所)2012「総括成果報告 書」
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内閣府 首都直下地震の復興対策のあり方に関する
検討会 2010「『首都直下地震の復興対策のあり
方に関する検討会』報告書」
http : //www.bousai.go.jp/fukkou/pdf/h21syuto.pdf 内閣府・東京都 首都直下地震帰宅困難者等対策協
議会 2012「首都直下地震帰宅困難者等対策協
議会最終報告」
http : //www.bousai.go.jp/jishin/chubou/taisaku_syuto /kitaku/saishu02.pdf
東京都 防災会議地震部会2006「首都直下地震によ る東京の被害想定(最終報告)」
http : //www.bousai.metro.tokyo.jp/english/e−tmg/as-sumptioni01.pdf
東京都 2011「東京都防災対応指針」
http : / / www. bousai. metro. tokyo. jp / japanese / tmg / taiousisin.html
東京都 2012 a「東京都の新たな被害想定について〜
首都直下地震等による東京の被害想定〜」
http : //www.bousai.metro.tokyo.jp/japanese/tmg/as-sumption.html
東京都 2012 b「首都直下地震等による東京の被害
想定−概要版−」
http : //www.bousai.metro.tokyo.jp/japanese/tmg/as-sumption.html
東京都 2012 c「首都直下地震等による東京の被害想
定」
http : //www.bousai.metro.tokyo.jp/japanese/tmg/as-sumption.html
東京都 2012 d「東京都地域防災計画(震災編)概
4変化する首都直下地震 49