推定結果を総括すると以下のことがいえるだろう.まず株主保有構造の影 響が 1996 年度以前と以降とで異なっている点があげられるだろう.はじめ に外国人株主については,単独項の結果から金融危機が生じる以前には,持 ち株比率の上昇が投資先企業の賃金を上昇させる効果があったと推測される. 他方 1 人当たり経常収益との交差項の符号がマイナスに有意となっているこ とから,収益水準の高い企業では逆に賃金が抑制される傾向にあったことを 示している.これは 1990 年代前半から中盤にかけて,バブル経済崩壊によ り株式市場が低迷し,またそれにともなって金融機関や事業会社による株式 持ち合いが徐々に解消されてゆくなかで,その受け皿となる外国人投資家が 収益性の高い企業を中心に株式投資を始めた影響であると考えられよう.つ まり短期的な収益性や成長性について外国人株主から「お墨付き」を与えら れた企業の業績は好調であり,それゆえに賃金を上昇させることができたと 考えられる.また当時はバブル経済崩壊による負の影響も残っていたと考え られるため,投資先企業の経営体力を考慮し,増配などによる株主還元要求 は真に収益性の高い企業に対してのみ行われたと考えられる.交差項の結果 は,このような背景を説明するものと考えられよう.
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