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「 y が x から (z に ) 逃げる」で記述される状況の 階層的意味フレーム分析

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(1)

y x から (z ) 逃げる」で記述される状況の 階層的意味フレーム分析

— コーパス事例の人手解析と心理実験を通して —

中本 敬子

文教大学

黒田 航

(

)

情報通信研究機構 知識創成コミュニケーション研究センター

0.1

はじめに

本研究は言語のフレーム指向概念分析

(Frame-Oriened Con- cept Analysis of Language: FOCAL) [15, 13]

の方法論に基づ いた「逃げる」の意味フレーム分析の結果を報告する.用いた 手法は先行研究の「襲う」の分析と同じく,コーパス事例の解 析と二種類の心理実験

(i.e.,

カード分類と意味素性評定

)

によ る解析結果の検証,評価からなる.これらの結果から,先行研 究と同様に,本研究でもコーパスの人手分析の結果と心理実験 結果が概ね一致し,動詞が表しうる状況概念として意味フレー ムを採用することの有効性を論じる.また,フレーム指向の概 念分析の有効性を論じ,それが作例を主たる分析手法にする従 来の認知言語学的手法の限界を乗り越える可能性をもつこと を指摘する.

0.2 FOCAL

とは

フレーム指向概念分析

(Frame Oriented Concept Analysis of

Language: FOCAL)

とは,言語によって表される概念,すな

わち言語の意味に対するアプローチの一つである.より具体

的には,

FOCAL

は,フレーム意味論ならびにフレームネット

(Berkeley FrameNet) [2]

の知見を受けて開発された意味記述 のための理論であり,下記のような仮定をおいている.

(a)

ヒ トの意味理解の単位はスキーマ化された状況である.

(b)

この 状況スキーマは意味フレームという形で近似できる.

(c)

意味 フレームとは,意味役割の

(

構造化された

)

集合である

(e.g.,h

襲 撃

i

フレームは,

h

襲撃者

i

h

被害者

i

h

武器

i

h

襲撃者の目

i

. . .

のような意味役割から成る

)

(d)

複数の意味フレーム

を具体化

抽象化などのリンクで関係づけることにより,言語 表現から理解される意味内容やヒトの概念体系を記述するこ とができる.

FOCAL

はいくつかの概念分析手法を提案しているが,その

内の一つが,階層化意味フレームネットワーク分析

(Hierarchi- cal Semantic Network Analysis: HFNA)

である.この分析は,

特定の語

(

典型的には動詞

)

を含む文を適当なコーパスから偏 り無く収集し,その語と共起語との取り合わせがどのような状 況を表しているかを意味フレームとして特定する.さらに,こ の分析では,特定された意味フレームを具体化

(instantiation)

のリンクで結びつけることにより,意味フレームが関係づけら れる.次の点には特に注意を促しておきたい

: HNFA

に使われ るのは具体化の関係

(= IS-A

関係

)

のみである.認知言語学で はおなじみのスキーマ化,メタファーやメトニミー拡張を表 わすリンクは補足的にしか用いられない.

HFNA

はどのよう にして意味拡張が起こったのは説明しないし,それを説明す るためのものではない.それは説明すべき意味的事実を,説 明を排して,なるべく「ありのまま」に記述するための手法で ある.説明の対象となっている事実が網羅的ではなく断片的 なもので,その選択が統制されたものではなく恣意的なもの であるなら,どんなにいい加減な説明でも無効にはならない.

異なる事実の集合を説明対象としている理論の説明の比較は,

ある意味では「ドングリの背比べ」である.この状態を逃れた いと思ったら,データの「つまみ食い」を止めるしかない.

なお,

HFNA

で想定される具体化と他の意味関係との関係 は次の通りである

:

具体化の逆が

(

複数の事例の素性指定の食 い違いの解消

/

中和による

)

一般化

(generalization)

である.ス キーマ化

(schematization) =

抽象化

(abstraction)

は一般化の際 に,個々の事例に対してに起こる効果である

(

私たちは一般化 というものは複数の事例の集合に対して起こるもので,一つの 事例に対して起こるものではないと理解している

)

0.3

本研究の目的

本研究は

2

つの目的からなる.第一の目的は,概念分析手 法としての

HFN(A)

の妥当性についての証拠を補強すること である.第二の目的は,先行研究

[14, 16, 13]

で得られた「襲 う」が表しうるフレーム群と本研究で得られた「逃げる」のフ レーム群を比較対照から両者の関係を明らかにしつつ,コーパ ス分析と心理実験を組み合わせた

FOCAL

の研究手法が,従 来の

(

認知

)

言語学の限界を乗り越える可能性をもつことを指 摘する.

0.3.1 HFN(A)

の妥当性についての証拠追加

先行研究

[14, 16, 13]

では,動詞「襲う」に対して

HFN(A)

を行い,

15

個の最下位

(

つまり分析が適切と見なせる範囲で最 も具体性の高い

)

意味フレームを特定した.また,この分析結 果が,一般の日本語話者の持つ直観と一致しているかどうかを 二つの心理実験

(

カード分類課題と意味素性評定課題.詳細は 後述

)

を用いて検証した.実験結果から,一般の日本語話者か ら得たデータによって,

HFN(A)

の分析結果をよく再現できる ことが明らかになり,

HFN(A)

の妥当性に関して肯定的な証拠 が得られたと言える.

とはいえ,

HFN(A)

が概念分析に有用な手法だということを 示すには,動詞一語の分析だけでは明らかに十分ではない.そ れを示すには,同様の分析手法を複数の語に適用し,それでも 良い結果が得られるかどうかを確認する必要がある.本研究 では,動詞「逃げる」を取り上げて,この確認を得ることを第 一の目的とした .

0.3.2

「逃げる」と「襲う」の比較分析

それに加え「襲う」の

HFNA

で特定された意味フレームと

「逃げる」の意味フレームを照合し,それぞれの語が表しうる 状況の検討を行った.これは,互いに関連はするが,単純に反 意語の関係にはない語の比較から,状況がどのように概念化さ れているかを探る試みである.この比較による分析を本研究 の第二の目的とした.

これは図

1

に示したような,主に

h h

捕食者

: A i

h

獲物

:

B i

を襲う

i

のような非互恵的な相互行為が原因となって発生 する

h

被害

i

の概念化を支えるネットワークがあると考えられ るためである.図

1

に示したように,

h

逃げる

i

h

避ける

i

(2)

h

守る

i

h

防ぐ

i

h

襲う

i

に代表される

h

加害的行為

i

が前提 として必要である.

h

逃げる

i

は自己

h

防衛

i

のための手段で ある.

(1)

基本的要素

a.

状況

1a (

): A

(

自分の利益を得るために

) B

を 襲う

[(

主に意図的な

)

加害性の強調アリ

?]

b.

状況

1b (

): B

A

から被害

D

を受ける

[

加害性 の強調ナシ

?]

c.

状況

2: C

が被害を避けるために

(=

自分の利益

/

命 を守るために

) A

から

B

を守る

d.

状況

3: B

が被害を避けるために

(=

自分の利益

/

命 を守るために

) A

から身を守る

(B = C)

ただし,

D

は「

y

x {i.

から

; ii.

}

被害を受ける」「

x

y

に危害を

{ i.

与える

; ii.

加える

}

」のような表現で モノ扱いされる.

h

襲う

i

h

加害

i

フレームの特殊な場合であるが,少なく とも日本語の用法を見る限り,「

B

A

に襲われる」は

B

A

が原因となって被害を受けた状況を表わすのに一般的に使え る語,「

A

B

を襲う」は

B

の受けた被害に

A

による加害性の 意味あいが認められる状況に一般的に使える語であると言っ てよいように思われる.

[[

自然災害は獰猛な動物である

]]

のよ うな概念メタファー

[8]

はこのような一般的傾向の産物であっ て原因ではないように思われる.少なくとも,それが結果では なく原因であると言うために十分な証拠はデータには含まれ ていない.

1

にあるような状況のクラスターは自然的な活動

(e.g.,

捕 食行動

)

の産物であるが,フレーム意味論の分析で有名になっ た

h

商取引

i

フレーム

(Commercial Transaction Frame) [1, 2]

と同じ概念化の構造をもっている.商取引は社会的な制度な ので参与者の視点

/

立場の違いを反映するのは,言ってみれば 当然のことだが,自然的な状況でも同様の視点

/

立場の違いを 反映する概念化の部分的体系があるということを明らかにす ることも,

FOCAL

の分析の目標の一つであった.これは黒田 ら

[16]

が与えた

h

襲う

i

のフレームの体系が単に「襲う」とい う動詞の意味分類ではないことを示すための試みである

1

h

商取引

i

フレームの

h

売る

i

h

買う

i

に対応するのは,

h

襲 う

i

h (

身を

)

守る

i

である.

h

売る

i

h

買う

i

を,

h (

身を

)

守る

i

h

襲う

i

を前提にしている.ただし,

h (

身を

)

守る

i

h

襲う

i

の関係は,

h

買う

i

h

売る

i

の関係はより非対称性が 強い.これは商取引の状況で

h

売る

i

h

買う

i

との間に成立 しているような「表と裏」の関係は,

h

襲う

i

h (

身を

)

守る

i

との間に成立してる反応的関係

(reactive relation)

の関係の特 殊な場合であることを意味するものだと考えられる.

0.4

見通し

この論文で報告する「逃げる」の他にも,同様の手法で「逃 れる」の

HFNA

の評価が行われ,結果も

[12]

で報告されてい る.これら以外に「守る」「避ける」「防ぐ」に関しても

HFNA

が試みられているが,次の理由で評価には至っていない

:

(2) a.

「守る」の

HFN

は完成しているが,規模が大きす ぎて

(

最下位ノードの数が

50(±4)

)

,カード分類 課題に乗らない.評定課題も部分課題への分割が 不可避である.

b.

「避ける」の

HFN

は未完成の状態だが,現段階で も規模が大きく

(

最下位ノードの数が

30(±4)

)

, カード分類課題に乗らない可能性があり,中断して いる.実際のところ,これは「逃げる」に先行して 解析が試みられたが,困難さから先送りになった.

c.

「防ぐ」の

HFN

は未完成の状態で解析が中断して いる.

これらは心理実験による言語分析の検証の限界を示すもの であるが,実験方法を工夫して,この壁を何とか乗り越えたい と考えている.カード分類に準ずる方法で

HFN(A)

の検証す るには,心理実験から各例文間の類似性の指標が得られればよ い.ここから,例文を分割し類似性評定を求める方法,特定の 例文を標準刺激とし,それと他の例文群との類似性を相対的に 評価させる方法などがありうる.さらに,このような方法であ れば,

Web

上で実験を実施することもできると考えられるた め,被験者確保の困難さを緩和できる可能性がある.しかし,

これらの方法を詰めることは,今後の課題として残されてい る.しかし,これらの問題には解決の見通しがあるため,協力 者がいれば,進んでノウハウを共有したいと私たちは考えて いる.

1 コーパス分析

対象コーパス 日英対訳コーパス

[17]

から収集した「逃げ

{

,

, . . . }

」を含む全用例

205

例を分析対象とした.

分析手順 各文の

h

逃げ手

: x i

h

逃げの起点

: y i

あるいは

h

逃げの相手

: y i

を特定し,補足的に

h

逃げ先

: z i

を特定した.

通例,

h

逃走の起点

i

h

逃げの相手

i

は「から」でマークさ れる要素,

h

逃げ先

i

は「に」「へ」でマークされる要素だが,

実際の文で語彙的に実現されているとは限らない.実現され ていない要素も文意から推測できる限り特定するようにした.

例えば,「男は現金

10

万円を奪って逃げた」の

h

起点

i

は語彙 的には現れていないが

h

逃走元

i

h

犯行現場

i

であると判断 した.これは自然な推定であろう.

同時に

h

逃げ手

i

h

逃げの目的

i

が特定された.「逃げる」

では,

h

逃げ手

i

h

起点

i

が同じ意味型を持つ場合

(e.g.,

双方 ともにヒト

)

でも

h

逃げ手

i

h

目的

i

により喚起される状況 が大きくことなると考えられたためである

(e.g.,

「男が警官か ら逃げる

逮捕されないために」「男が犯人の隙をついて逃 げる

危険人物から遠ざかるために」

)

.フレームの特定と並 行してフレーム弁別に有効な意味素性を

(e.g., [+ HUMAN (y)], [+ CONSTRAINING (y)])

同定した.

分析結果 これらの手順を経て特定された分析結果,すな わち

HFN

を図

2

(巻末)に示す.青緑色で彩色されたフレー ムが最下位フレームである.概ね,図の上部が,主語句

y

につ いて,

[+human(y)]

のフレーム群に,下部が

[human(y)]

に 対応する.また,水色のフレームは

[±human(y)]

の素性を中 和した場合に得られるフレーム群である.

以上の手順を経て,表

1

のような

17

個の最下位意味フレー ムが特定された.

1.1 HFNA

の弁別に貢献する素性群

2

の最下位フレームの区別に必要であると想定された意 味素性群は表

2

に挙げる通りである.

HFNA

で表現されてい る区別に関与する意味特徴を,うまく同定する作業は,単純で も簡単でもないことは強調しておきたい.フレームに曖昧性 なく対応する文を評定に十分な数だけ作成する作業と並んで,

これはすぐれた意味直観が求められる仕事である.

2 実験

2.1

言語材料

1

のフレームに対応する文を「

x

y

から逃げた」の形

(x, y

は「

y

x

を襲った」にあわせられるように設定

)

各フレーム

3

文ずつ作成した.この際,文作成の困難さから

F04

F06

は統合し,一つのフレームと見なした.それと同

(3)

Situation 1a: ABを襲う

Situation 3: BAから身を守る Situation 2: CA(V)からBを守る

Situation 2a: CA(V)を防ぐ Situation 2b: CBを防ぐ Situation 3a: Bが(Cと)Aと戦う Situation 3b: BAからBの場所からEに逃げる Situation 3c: BAを避ける

prevents

realizes prepares

realizes

realizes presupposes

reacts_to

realizes

negates_each_other realizes

dispenses_with

dispenses_with Situation 1b: Bが(Aから)被害Dを受ける

indirectly_prevents prevents

prevents

causes B

AB

C

B BAから

B V

Bを防ぐ B

AV Aを防ぐ

A: ATTACKER (攻撃者)

B: AVICTIM[+potential] (潜在的被害者)で,

しばしば SELF-DEFENDER (自己防衛者) C: PROTECTOR (保護者)

被害の発生と{襲う, 守る, 防ぐ, 防ぐ, 逃げる, 避ける} との関係 Kow Kuroda 07/19/2006

太線は profiling に基づく項 選択,および関係選択を表す

フレーム間関係はピンク色で 示した

条件つきの対応関係 (IS-A ) は破線で示した

A

A

A A

C C

B AVから

B A

C

B Aから A

E Bの場所から

E B

BA A

B A A

C

B Aから

C A

D B

1 {

襲う

,

逃げる

,

防ぐ

,

守る

,

避ける

, . . . }

で表わされる被害の発生に関連する事態のクラスター

1 hx

y

から

(z

)

逃げる

i

の理解の最下位のレ ベルにある

17

個の状況

F-ID

䊐䊧䊷䊛ฬ

F01

䊍䊃䈱ਇᔟ੐ᘒ䈱࿁ㆱ

F02

䊍䊃䈱ෂ㒾䈱࿁ㆱ㩿႐ᚲ䈎䉌㪀

F03

䊍䊃䈱ෂ㒾䈱࿁ㆱ㩿⥄ὼἴኂ䈎䉌㪀

F04

ᢜ䈎䉌䈱ㅏ⿛䋨㕖ᚢ㑵㪀

F05

ᢜ䈎䉌䈱ㅏ⿛㩿ᚢ㑵㪀

F06

㕖‽⟋⠪䈱᝝₪⠪䈎䉌䈱ㅏ⿛

F07

‽⟋⠪䈱᝝₪⠪䈎䉌䈱ㅏ⿛

F08

䊍䊃䈱᝝₪ⵝ⟎䈎䉌䈱⣕಴

F09

䊍䊃䈱଻▤ⵝ⟎䈎䉌䈱⣕಴㩿㕖ᚢ㑵㪀

F10

䊍䊃䈱଻▤ⵝ⟎䈎䉌䈱⣕಴㩿ᚢ㑵㪀

F11

䊍䊃એᄖ䈱ෂ㒾䈱࿁ㆱ㩿႐ᚲ䈎䉌䋩

F12

䊍䊃એᄖ䈱↢‛䈱ෂ㒾䈱࿁ㆱ㩿⥄ὼἴኂ䈎䉌㪀

F13

䊍䊃એᄖ䈱↢‛䈱᝝₪⠪䈎䉌䈱ㅏ⿛

F14

䊍䊃એᄖ䈱↢‛䈱᝝₪ⵝ⟎䈎䉌䈱⣕಴

F15

䊍䊃એᄖ䈱↢‛䈱଻▤ⵝ⟎䈎䉌䈱⣕಴

F16

⏕଻䈚䈩䈇䈢䊝䊉䈱༚ᄬ

F17

䊝䊉䈱⚻〝䈎䉌䈱ᵹ಴㩿ౕ૕‛㪀

時に,意味素性を評定項目に翻案したものを用意した

(e.g., [+ CAPTIVATED (s)] [s

は捉えられていた

])

フレームに曖昧性なく対応する文を評定に十分な数だけ作 成するという作業は,平均的な心理学者の技能を越える部分で あり,すぐれた意味直観を要求される作業である.実験結果の 良し悪しは,この段階で大方決まると言える.

2.2

カード分類課題

方法 大学生

57

名に,材料文を

1

文ずつ印刷したカード

48

枚を

1

組ずつ配布し,文意の類似性に基づいて,カード同 士を任意のカテゴリー数にまとめるよう教示した.

2 hx

y

から

(z

)

逃げる

i

の文を評定した素性の一覧

!" !#$%&'()*+,-./( 0123045678

!9 !#:;<=( >?301678

!@ !#$%A<=( 0B2C5678

!D !#E+FG( C2H2IB5678

!J !#KLM+NOP 2145142Q10B678

!R !#S.T/UVWXP Y0Z42C045[678

!\ !#]^U_`abX&NOP 5HY0Z5c4>dQ?e>c0cZ04>678

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ƒ"R ƒ#›qaœ* YQ1H4d02121e6‚8

ƒ"\ ƒ#!aSoG( Y0Z42C0456‚š78 ƒ"f ƒ#!aF•™(—žŸˆ—a • [545Y46‚š78

結果と考察 「逃げる」で言い表される状況の分類パター ンを見るため,

2

つの文が同じカテゴリーに配置された頻度を 類似性の指標と見なし,多次元尺度法

(MDS)

を行った.図

3

(4)

に示されるとおり,同じフレームに対応する文が近くに配置さ れており,コーパス分析の結果と一般話者の意味直観に基づく 分類が一致していることを示す.

(ࡅ࠻ߩਇᔟߥ੐ᘒߩ࿁ㆱ (ࡅ࠻ߩෂ㒾႐ᚲߩ࿁ㆱ (ࡅ࠻ߩෂ㒾⥄ὼἴኂߩ࿁ㆱ (ᢜ߆ࠄߩㅏ⿛㕖ᚢ㑵 (ᢜ߆ࠄߩㅏ⿛ᚢ㑵 (‽⟋⠪ߩ᝝₪⠪߆⠪ࠄߩㅏ⿛

(ࡅ࠻ߩ᝝₪࡮ㅊ〔ⵝ⟎߆ࠄߩ⣕಴࡮ㅏ⿛

(ࡅ࠻ߩ଻▤ⵝ⟎߆ࠄߩ⣕಴㕖ᚢ㑵 (ࡅ࠻ߩ଻▤ⵝ⟎߆ࠄߩ⣕಴ᚢ㑵 (േ‛ߩෂ㒾႐ᚲߩ࿁ㆱ (േ‛ߩෂ㒾⥄ὼἴኂߩ࿁ㆱ (േ‛ߩ᝝₪⠪߆ࠄߩㅏ⿛

(േ‛ߩ᝝₪ⵝ⟎߆ࠄߩ⣕಴

(േ‛ߩ଻▤ⵝ⟎߆ࠄߩ⣕಴

(⏕଻ߒߡ޿ߚࡕࡁߩ༚ᄬ (ࡕࡁߩ⚻〝߆ࠄߩᵹ಴

3

「逃げる」のカード分類の

MDS

の結果

比較のため,同じデータに階層的クラスター分析

(Ward

)

を行った結果を図

4

に示す.クラスター分析とは,データを ボトムアップに結合していくことでまとまり

(

クラスター

)

を 形成していくための多変量解析の一手法である.図

3

MDS

は次元圧縮の結果によってグループの相対的配置

(i.e.,

遠近

)

を近似するのに適し,図

4

のクラスター分析は階層関係を近 似するのに適している.

0 100 200 300

⚿ว〒㔌 㪝㪇㪉㪹ᄙ䈒䈱㔍᳃䈏ᷙੂ䈮㒱䈦䈢␲࿖䈎䉌ㅏ䈕䈢

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4

「逃げる」のカード分類のクラスター分析の結果

2.3

意味素性評定課題

方法 意味素性を翻案した

31

個の評定項目について,各文 が表す状況にこれらの項目が当てはまる程度を

5

段階

(1.

全 くそう思わない

— 5.

強くそう思う

)

で評定するよう求めた.

76

名の被験者が実験に参加した.各被験者は

12

文ずつを評 定した.

本実験では,

h

逃げる主体

i

および

h

逃げる起点

i

に適切な 意味役割名を想定するのが困難なこと,および

h

襲う

i

の素性 群に対する評定実験の結果との比較可能性を高めるなどの理 由から,

h

逃げる主体

i

X

h

逃げる起点

i

Y

とおいて評定 項目を作成した.

結果と考察 例文ごとに,各評定項目の被験者間平均を算 出した.相関の高すぎる項目対の一方を除き,

22

項目を分析 に使用し,意味素性の類似性に基づく階層的クラスター分析 を行った.樹形図

(

5)

に示される通り,最下位では概ねフ レームに対応するクラスターを得た.

0 10 20 30 40 50 60 70

⚿ว〒㔌 F07cᲕੱ䬽ኈ⇼⠪䬛ᒛ䭙ㄟ䭢䬶䬓䬮ೃ੐䬚䭘ㅏ䬡䬮F07bਁᒁ䬜ዋᐕ䬛⼊஻ਛ䬽䭳䯃䮐䮥䮺䬚䭘ㅏ䬡䬮䯺

F05aẜફਛ䬯䬲䬮䮍䮴䮱䮀䮏䬛⓭౉䬦䬵䬜䬮ᴦ቟ㇱ㓌䬚䭘ㅏ䬡䬮F04cઃ䬜ว䬓ᆎ䭐䬮䬿䬚䭙䬽ᅚᕈ䬛ሃᅺᷓ䬓ᕜੱ䬚䭘ㅏ䬡䬮F16c࿾ᣇ䬽␿䬛౏౒੐ᬺ䬽೥ᷫ䭡ਥᒛ䬨䭚㊁ౄ䬚䭘ㅏ䬡䬮F05bᦨ೨✢䬽䮐䭫䮋ァ౓჻䬛෻᠄䬨䭚䮴䭾䭩ァ䬚䭘ㅏ䬡䬮F01aᛛⴚ⠪਄䬛䭙䬽ㇱ㐳䬛⸥⠪ળ⷗䬽มળᓎ䬚䭘ㅏ䬡䬮F10bᜧ໧䬤䭛䬵䬓䬮㒽ァ჻ቭ䬛ၮ࿾䬽࿾ਅቶ䬚䭘ㅏ䬡䬮F11b䬮䬞䬤䭢䬽ᶏ㠽䬛ේᴤ䬶ᳪᨴ䬤䭛䬮ᶏၞ䬚䭘ㅏ䬡䬮䯺F11c䬾䬟䭛㓶䬽䮰䭫䭱䮺䬛ઁ䬽䮰䭫䭱䮺䬽✽ᒛ䭙䬚䭘ㅏ䬡䬮F02cᓳᣥ૞ᬺ䬽⦁ຬ䬮䬰䬛ᶐ᳓䬽ᆎ䭍䬲䬮⦁䬚䭘ㅏ䬡䬮F04bળ␠Ꮻ䭙䬽OL䬛ჿ䭡䬚䬠䬵䬞䭚㈮䬲ᛄ䬓䬚䭘ㅏ䬡䬮F09cኅ಴ਛ䬽ዋᐕ䬛଻⼔䬤䭛䬵䬓䬮⼊ኤ⟑䬚䭘ㅏ䬡䬮F08b႖䭡⿧䬗䭗䬕䬷䬦䬮⣕ₐ྽䬛䭼䯃䮈䮰䭫䮏䬚䭘ㅏ䬡䬮F08a㗔ᶏଚ‽䬽⦁䬛ᣧᦼ⼊ᚓᯏ䬽䮳䯃䮇䯃䬚䭘ㅏ䬡䬮F01c᡽ᮭ᡽ౄ䬽ౄ㚂䬛᡽╷⺰੎䬽⸛⺰ળ䬚䭘ㅏ䬡䬮F13cጯㄝ䬽ዊ㝼䬛ㄭ䬴䬓䬵䬜䬮䮝䮰䮊䭶䮗䮀䬚䭘ㅏ䬡䬮F04a䮎䯃䮏ਛ䬽䭲䮊䮞䮲䬛⛊䭢䬶䬜䬮䮈䮺䮛䮰䬚䭘ㅏ䬡䬮F15a䮡䮊䮏䬷䬦䬵㘺䭞䭛䬵䬓䬮䭫䭷䭩䮑䬛ኅ䬚䭘ㅏ䬡䬮䯺F12c᷷ᴰ䬺᧪䬵䬓䬮䭼䮲䬛Ἣጊ䭳䮀䬽ྃ಴䬚䭘ㅏ䬡䬮F02aේ⊒䬽૞ᬺຬ䬛⇣Ᏹ䬽⿠䬜䬮ේሶἹ䬚䭘ㅏ䬡䬮F05cవⴕ䬽஦ኤ㓌䬛ㅴⴕ䬦䬵䬜䬮䭹䮱䮰౓䬚䭘ㅏ䬡䬮F10c᝝䭘䬗䭘䭛䬮ァᦡ䬛⿛ⴕਛ䬽⼔ㅍゞ䬚䭘ㅏ䬡䬮.F14b㊁↢䬽䮆䮓䭴䬛઀ដ䬠䭘䭛䬵䬓䬮⟂䬚䭘ㅏ䬡䬮䯺F17a䮤䮺䮞䬚䭘䬽᳓࿶䬛䮢䯃䮀䬽䬳䬹䬝⋡䬚䭘ㅏ䬡䬮F14a㊒䭙਄䬡䭘䭛䬮䮑䮥䮁䬛䬓䬠䬨䬽✂䬚䭘ㅏ䬡䬮䯺F07a䮀䮛䯃䮐㆑෻䬽ゞ䬛ᬌ໧ਛ䬽⊕䮗䭫䬚䭘ㅏ䬡䬮F12bᄢ㊂䬽䮔䮁䮦䬛ᵩ᳓䬺䭗䭚↸䬽ᶐ᳓䬚䭘ㅏ䬡䬮F17b㓸䭐䬵䬓䬮᳓⚛䭳䮀䬛⹜㛎▤䬽ญ䬚䭘ㅏ䬡䬮F17cᥦᚱ䬶ᥦ䭍䬲䬮ⓨ᳇䬛䮐䭩䬽㓗㑆䬚䭘ㅏ䬡䬮F11aᄙ䬞䬽㊁↢േ‛䬛બណ䬽ㅴ䭏᫪䬚䭘ㅏ䬡䬮F09aᒝ೙౉㒮ਛ䬽ᖚ⠪䬛㓒㔌∛᫟䬚䭘ㅏ䬡䬮F09bਇᐘ䬹⚿ᇕ䭡䬦䬮ᅚᕈ䬛ኅᐸ䬚䭘ㅏ䬡䬮䯺F13b৻㗡䬽‖㣮䬛㌂䭡ᜬ䬲䬮⁸Ꮷ䬚䭘ㅏ䬡䬮䯺F02bᄙ䬞䬽㔍᳃䬛ᷙੂ䬺㒱䬲䬮␲࿖䬚䭘ㅏ䬡䬮F16a䭩䮨䮱䭲䬽⾗ᧄ䬛䭩䭿䭩䬽Ꮢ႐䬚䭘ㅏ䬡䬮䯺F01bႶㅢ䬓䬽ᅚ䬽ሶ䬛▚ᢙ䬽⵬⠌䬚䭘ㅏ䬡䬮F12a᫪䬽േ‛䬮䬰䬛⓭ὼ䬽ጊἫ੐䬚䭘ㅏ䬡䬮F03b䮖䭫䭭䭮䭫䬽䮐䮰䭫䮗䯃䬛┥Ꮞ䬚䭘ㅏ䬡䬮䯺F13a⟠䬽⟲䭛䬛ⷅ䬲䬵䬜䬮䭱䭱䭲䮦䬚䭘ㅏ䬡䬮F08c䮄ㅪ䬽ᚢ㑵ᯏ䬛ㅊ〔䮦䭼䭫䮲䬚䭘ㅏ䬡䬮F10a᝝⯰䬺䬹䬲䬮౓჻䬛෼ኈᚲ䬚䭘ㅏ䬡䬮F16b࿖᳃䬽㑐ᔃ䬛ᄢ⛔㗔ㆬ᜼䬚䭘ㅏ䬡䬮F03aጊ䬽䭄䭑䬷䬽૑᳃䬛࿯⍹ᵹ䬚䭘ㅏ䬡䬮F15b䭱䮀䬽䮏䮰䬛േ‛࿦䬽᯽䬚䭘ㅏ䬡䬮䯺F03c㒐ᵄႇ䬽㊒䭙ੱ㆐䬛ᵤᵄ䬚䭘ㅏ䬡䬮F15c䯾඘䬽䮀䮁䮧䭾䬛⯻䬚䬣䬚䭘ㅏ䬡䬮䯺F14c䮩䮺䭾䮴䮈䮮䭭䬛䭶䮩䬽Ꮍ䬚䭘ㅏ䬡䬮

5

素性評定値に基づく「逃げる」のクラスター

(Ward

:

ユークリッド距離

)

HFN

での予測と異なる位置に出現した例文についても,文 自体の多義性の影響と考えられるものが多い.例えば,

F09b:

「不幸な結婚をした女性が家庭から逃げた」における

h

場所

i

としての「家庭」と

h

労働

i

の内容

(h

家事

i)

としての「家庭」

の曖昧性が

F09

のフレームのまとまりの悪さに反映している と思われる.これらは私たちが刺激文作成の段階で結果を見 越すことのできなかった結果である,刺激の特徴が被験者の反 応にちゃんと現われているという点は,興味深い事実である.

別の言い方をすれば,言語表現の意味を調べる心理実験

(

こ れにはいわゆる「統語論」の研究の一部も含まれる

)

で,この ような微妙な特性が統制されていないならば,それが介在する 実験の結果は,恣意的に解釈できる可能性が高いということで もある.これは言語心理学にとっては重要な教訓となる.

比較のため,同じデータを決定木を使って分析した結果を図

6

に示す.決定木とはケース

(

この場合,例文

)

をトップダウン に分類し,木構造で表現する分析法である

2

.クラスター分析 の結果と同様,決定木分析によって得られた結果も,コーパス 分析によって得られた

HFN

と類似していると考えて良いだろ う.つまり,どのような統計解析の手法を使うかによらず,安 定して類似した例文のグループを得られることが示されてお り,得られた結果が安定したものであることを示すと言える.

(5)

1

デシジョンツリー: Fr am eNo

1

2 3

4 5 6 7

8 9 1 0 1 1 1 2 1 3 1 4 1 5

1 6 1 7 1 8 1 9

2 0 2 1 2 2 2 3 2 4 2 5

2 6 2 7 2 8 2 9

3 0 3 1

㼄㼏㼌㼙㼈㻋㼜㻌㻟㻠㻕㻑㻙㻔㻚㻙

㼆㼒㼑㼖㼗㼕㼄㼌㼑㼌㼑㼊㻋㼜㻌㻟㻠㻕㻑㻕㻓㻘㻜

㼆㼕㼌㼐㼌㼑㼄㼏㻋㼛㻌㻟㻠㻔㻑㻔㻚㻙㻘

㼌㼑㼖㼗㼕㼘㼐㼈㼑㼗㻋㼜㻌㻟㻠㻔㻑㻖㻙㻔㻔

㼋㼘㼐㼄㼑㻋㼛㻌㻟㻠㻔㻑㻕㻓㻘㻜

s u s c e p t i b l e ( x ) < = 2 . 5 5 8 8 p l a c e ( y ) < = 1 . 0 3 1 3

㼌㼑㼖㼗㼕㼘㼐㼈㼑㼗㻋㼜㻌㻟㻠㻔㻑㻗㻗㻗㻗 㼐㼒㼙㼈㻐㼓㼋㼜㼖㼌㼆㼄㼏㼏㼜㻋㼛㻌㻟㻠㻗㻑㻓㻛㻛㻕

㼓㼏㼄㼆 㼈㻋㼜㻌㻟㻠㻕 㻑㻜 㻚㻓㻙 㼆㼏㼒㼖㼈㼇㻋㼜㻌㻟㻠㻖㻑㻜㻗㻔㻕 㼆㼏㼒㼖㼈㼇㻋㼜㻌㻟㻠㻕㻑㻛㻘㻕㻜

㼌㼑㼖㼗㼕㼘㼐㼈㼑㼗㻋㼜㻌㻟㻠㻕㻑㻜㻚㻓㻙 㼇㼄㼑㼊㼈㼕㼒㼘㼖㻋㼜㻌㻟㻠㻖㻑㻙㻔㻚㻙

㼆㼕㼌㼐㼌㼑㼄㼏㻋㼛㻌㻟㻠㻕㻑㻔㻚㻙㻘

3 6 1 2

6 3 0 6 6

3 3 12 1 8 3 3 3 3

6 6 3 1 5

3 3 3 3 6 9

3 3 6 3

3 3

1

1 4

1 7 1 4 5

1 6 1 7 1 1 1 4 1 3 7 5

1 1 1 4 1 2

1 2 1 1 1 4 1 5 3 2

3 8 9 2

9 1 0

1 2 3 4 5 7 8 9 1 0 1 1 1 2 1 3 1 4 1 5

F16 F17

F12 F11 F14 F15

F01

F03 F08

F09 F10

F02

F04 F13 F07 F05

F01 䝖䝌䛴୘ᛄ஥ឺ䛴ᅂ㑂 F02 䝖䝌䛴༱㝜䛴ᅂ㑂(ሔᡜ䛑䜏) F03 䝖䝌䛴༱㝜䛴ᅂ㑂(⮤↓ⅇᐐ䛑䜏) F04 ᩓ䛑䜏䛴㏠㉦䟺㟸ᡋ㜒)

(F06 㟸≚⨝⩽䛴ᤍ⋋⩽䛑䜏䛴㏠㉦䛮⤣ྙ) F05 ᩓ䛑䜏䛴㏠㉦(ᡋ㜒 F07 ≚⨝⩽䛴ᤍ⋋⩽䛑䜏䛴㏠㉦

F08 䝖䝌䛴ᤍ⋋⿞⨠䛑䜏䛴⬲ฝ F09 䝖䝌䛴ಕ⟮⿞⨠䛑䜏䛴⬲ฝ(㟸ᡋ㜒) F10 䝖䝌䛴ಕ⟮⿞⨠䛑䜏䛴⬲ฝ(ᡋ㜒) F11 䝖䝌௧አ䛴༱㝜䛴ᅂ㑂(ሔᡜ䛑䜏䟻 F12 䝖䝌௧አ䛴⏍∸䛴༱㝜䛴ᅂ㑂(⮤↓ⅇᐐ䛑䜏) F13 䝖䝌௧አ䛴⏍∸䛴ᤍ⋋⩽䛑䜏䛴㏠㉦

F14 䝖䝌௧አ䛴⏍∸䛴ᤍ⋋⿞⨠䛑䜏䛴⬲ฝ F15 䝖䝌௧አ䛴⏍∸䛴ಕ⟮⿞⨠䛑䜏䛴⬲ฝ F16 ☔ಕ䛝䛬䛊䛥䝦䝒䛴႕኶

F17 䝦䝒䛴⤊㊪䛑䜏䛴Ὦฝ(රమ∸)

6

「逃げる」の決定木

2.4

総合考察

「襲う」を分析した先行研究

[14, 16, 13]

と同じく,言語学 者によるコーパス事例の分析と

2

つの心理実験結果の間に良 い一致が得られ,

FOCAL

が提案する階層的意味フレーム分 析

(Hierarchical Frame Network Analysis: HFNA)

の手法の有 効性が再確認された.

それと同時に,今回の実験では前回以上にヒトの意味理解 が非常に精緻なレベルで達成されていることが示された.例 えば「

OL

が酔っぱらいから逃げた」と「女性が嫉妬深い恋人 から逃げた」ともに

h

逃走者

i

としての女性が

h

危害を加える 敵

i

としての男性から

h

逃げる

i

状況を表すが,前者は

h

i

h

逃走者

i

に接しているのに対し,後者は接した場合に

h

危 険

i

をもたらす潜在的な

h

i

であり,両者は異なる状況とし て被験者に区別されている.ここから,ヒトの認知に即した十 分に妥当で有効な意味記述を達成するには「似ているものを まとめる」分析よりも「存在し認知されている区別を明らかに する」手法が必要である.このような要件を達成するために,

FOCAL

は有効な枠組みを提供しうるだろう.

3 h 逃げる i h 襲う i を状況単位で関係づける

3.1

問題設定

フレームがクラスターをなす場合,幾つかの質的に異なった 場合があり,それは

Fillmore

らが好んで取り上げる

h

売る

i

h

買う

i

のような「表と裏」の関係ばかりではない.

h

襲う

i

h

逃げる

i

との関係は多くの場合に

h

原因

i

h

結果

i

の関係に なっているが,常にそうだというわけではない.正確にいつ その関係が成立するのかを言えることができるかは意味分析 上の難題である.なお,先行研究

[14, 16, 13]

で得られた「襲 う」の意味フレームは下記の通り

3

以下では,本研究で使用した実験材料文「

y

x

から逃げた」

のおのおのの例について,

(a)

x

y

を襲った」の書き換えが 成立するか,

(b)

成立する場合「襲う」の意味フレームとどの ように対応するかを検討する.

3.2

「逃げる」から「襲う」への翻訳の基本条件

h y

x

から

(z

)

逃げる

i

を中心に見ると

h x

y

を襲う

i

が成立するには,次のことが必要なように思われる

:

(3) a. x

y

に対する危害性が明らかなこと. 危害が潜 伏性の場合には「襲う」への書き換えは成立しない か,読み替えが起こる.

b. h

襲い手

: x i

について,

[

場所

→ {

ヒト

,

事故

, . . . }

3

x

y

を襲う」の理解を成立させる意味フレーム群

フレームの内容

F01

抗争・紛争 ヒトの集団が領土や勢力圏を争ってヒトの集 団を襲撃する.

F02

軍事侵略 政治組織(国)が何らかの資源を強奪するた め,他の政治組織(国)を攻撃する.

F03

資源強奪 ヒト(個人あるいは小集団)が金品などを強奪 するため資源貯蔵庫を襲撃する.

F04

強姦 ヒト(典型的には男性)が性的な目的でヒト(典 型的には女性

)

を襲う.

F05

虐待 ヒトが襲撃自体から快を得るためにヒトに暴 力を加える.

F06

捕食動物の襲撃 動物が空腹を満たすために獲物となる動物

(ヒトを含む)を襲い,捕食する.

F07

非捕食動物の襲撃 動物(昆虫を含む)が自衛のために安全を脅 かす可能性のある生物を襲う.

F08

人為事故の発生 制御不能になった機械などがヒトやヒトのい る施設に被害をもたらす事故を起こす.

F09

大規模異常気象の発生 大きな異常気象(台風や地震など)がヒトの住 む広い地域に対して被害をもたらす.

F10

小規模異常気象の発生 小さな異常気象(突風や高波など)がヒトやヒ トがいる施設(民家など)に被害をもたらす.

F11

疫病の流行 伝染性の病気が多数のヒトが住む地域に蔓 延する.

F12

活動への打撃 制御不能な出来事(株価の暴落など)がヒト の活動や活動組織(株式市場)を阻害する.

F13

発病

(疾病により)ヒト(個人)が非一時的な身体

的・精神的異常を経験する.

F14

発症

(何らかの原因により)ヒトが一時的な身体の

異常(けいれんなど)を経験する.

F15

悪感情

(何らかの原因により)ヒトが一時的な精神の

異常(不安など)を経験する.

フレーム名

]

[

捕獲道具

捕獲者

]

などのメトニミー補正が 成立しない

以下,個々のフレームについて,例文を挙げて見ていくこと にする.なお,以下で私たちが問題にするのは「

y

x

から逃 げる」「

x

y

を襲う」の選択制限

(

違反

)

であり,おのおのの 文の文法性の判断ではない.

3.2.1 x

が危害性が顕在的な場合

次の例にあるように,

x

に意図的加害性が顕然している場合 には基本的に

(

今ある例文の範囲では

)

y

x

から逃げる」か ら「

x

y

を襲う」への書き換えが可能である

:

(4) F05: h

戦闘員の敵からの逃走

i

a.

最前線のドイツ軍兵士が反撃するロシア軍から逃 げた

反撃するロシア軍が最前線のドイツ軍兵士 を襲った

b.

潜伏中だったテロリストが突入してきた治安部隊 から逃げた

???

突入してきた治安部隊が潜伏中 のテロリストを襲った

4

(5) F13: h

ヒト以外の生物の捕獲者からの逃走

i

a.

羊の群れが襲ってきたオオカミから逃げた

オオ カミが羊の群を襲った

b.

一頭の牡鹿が銃を持った猟師から逃げた

??

銃 を持った猟師が一頭の牝鹿を襲った

5

「襲う」でいえば,

h F01 ih F07 i

すなわち

h

襲い手

X i

が 有 生 で あ る

([+animate(x)])

フ レ ー ム に 相 当 す る も の は

([+mobile(x), +approach(x, y)]

を満たしている限り

)

,この

2

つのフレームに対応するように思われる.この含意は,これ 以上にフレームを下位分解するのが不自然であるならば,

h

逃 げ手

i

からすれば,

h

加危害者

i

がどんな

h

目的

i

で危害を加え てくるかは本質的でないということかも知れない.

(6)

3.2.2 x

h

自然災害

i

の場合の対応

次のフレームは基本的に「襲う」の

F09

F10

h

異常気 象

i

に対応する

:

(6) F03: h

ヒトの危険の回避

(

自然災害から

)i

ハイウェイのドライバーが竜巻から逃げた

竜巻がハ イウェイのドライバーを襲った

(7) F12: h

ヒト以外の生物の危険の回避

(

自然災害から

)i

森の動物たちが突然の山火事から逃げた

突然の山火 事が森の動物たちを襲った

ただし,この逆,つまり「襲う」ことのできる

h

異常気象

i

のすべてから逃げられるわけではない.

(8) h

襲う

i

F09: h

大規模な異常気象

i

直下型の地震がその町の人々を襲った

6⇔???

その町の 人々が直下型の地震から逃げた

(9)

大型の台風がその村を襲った

6⇔ *

その村が大型の台風 から逃げた

??

その村の人々が大型の台風から逃げた

「逃げる」ことのできる

h

異常気象

i

は,単に移動性がある だけでなく,個人か,具体的に想起可能な個人の

(

不特定多数 でない

)

集まりを

h

襲う

i

規模のものに限られるようである.

3.2.3 x

h

事故

i

h

災難

i

の場合

次のフレームは,そのままでは

x

の場所メトニミーの制約に よって「襲う」への書き換えは成り立たないが,

x

を事故

(

)

に書き換えることによって「襲う」の

F08: h

人為災害

i

に対応 するようである

:

(10) F02: h

ヒトの危険の回避

(

場所から

) i

a.

原発の作業員が異常の起きた原子炉から逃げた

6⇔

???

異常の起きた原子炉が原発の作業員を襲った

b. ??

原発の作業員が原子炉の異常から逃げた

6⇔ ?

子炉の異常が原発の作業員を襲った

(11) F11: h

ヒト以外の危険の回避

(

場所から

)i

a.

多くの野生動物が伐採の進む森から逃げた

6⇔ ?*

伐 採の進む森が多くの野生動物を襲った

b. ?

多くの野生動物が

(

大規模な

)

森の伐採から逃げた

?(

大規模な

)

森の伐採が多くの野生動物を襲っ た

6

ただし「襲う」の

F08: h

人為災害

i

に対応するのは「逃れる」

あるいは「免れる」の方が自然である.また,

11b

でも「逃げ る」よりは「逃れる」の方が自然である.「逃げる」「逃れる」

「免れる」「避ける」の関係を明らかにすることは,今後の検討 課題としたい.

3.2.4 y

が被害を受けるようなモノでない場合

y

[+animate(y)]

あるいは

[+active(y)]

として解釈するこ とができない場合,次の例にあるように,当然ながら「襲う」

への書き換えは成り立たない

:

(12) F17: h

モノの経路からの流出

(

具体物

) i

a.

ポンプからの水圧がホースのつなぎ目から逃げた

6⇔ *

ホースのつなぎ目がポンプからの水圧を襲った

b.

暖房で暖まった空気がドアの隙間から逃げた

6⇔ *

ドアの隙間が暖房で暖まった空気を襲った

F16, F17

は他の場合と非常に異なっている.これらの状況

が「逃げる」で言い表せるのは,

y

の視点から

h h

価値のあるも の

: x i

の喪失

i

が表明されている場合に限られるようである.

3.3 x

に危害性が感じられない

(

明白でない

)

場合

y

x

から逃げる」で

x

の意図が単に

y

h

捕獲

i

あるいは

h

保管

i

である場合には

(

当然のことながら

)

「襲う」への書き 換えは成立しない

:

(13) F07: h

犯罪者の捕獲者からの逃走

i

a.

スピード違反の車が検問中の白バイから逃げた

6⇔

??

検問中の白バイがスピード違反の車を襲った

b.

万引き少年が警備中のガードマンから逃げた

6⇔

備中のガードマンが万引き少年を襲った

c.

殺人の容疑者が張り込んでいた刑事から逃げた

6⇔

張り込んでいた刑事が殺人の容疑者を襲った これらの例では,「襲った」への書き換えを解釈しようとす ると「悪徳警官が権力に乗じて犯罪者に暴力を振るった」など のような別の意味が生じてくる.同様に,次のフレームでも

y

にとって潜在的に

h

i

になりうるかも知れない存在だった

x

が,明らかに危害意図を持った顕在性の

h

i

へと読みが変化 する.

(14) F04: h

敵からの逃走

(

非戦闘

)i [= F06: h

非犯罪者の捕獲 者からの逃走

i]

a.

デート中のカップルが絡んできたチンピラから逃 げた

6⇔

チンピラがデート中のカップルを襲った

b.

会社帰りの

OL

(

声をかけてくる

)

酔っ払いから

逃げた

6⇔

酔っぱらいが会社帰りの

OL

を襲った

c.

つきあい始めたばかりの女性が嫉妬深い恋人から

逃げた

6⇔

嫉妬深い恋人がつきあい始めたばかりの 女性を襲った

つまり,

h

危害

(

あるいは危険

)i

には潜在性のものと顕在性 のものがあり,どちらからも

h

逃げる

i

ことはできるが,何か を

h

襲う

i

ことができるのは顕在性のものだけなのだろう

(

あ るいは「襲う」という語彙が,危険の顕在化を意味するのだ ろう

)

3.3.1

捕獲装置と凶器

y

x

から逃げる」の

y

には

h

捕獲道具

i → h

捕獲者

i

とい うメトニミーが成立しにくいので,基本的に

F08:

ヒトの捕獲 装置からの脱出,

F14:

ヒト以外の生物の捕獲装置からの脱出 を「

x

y

を襲う」に言い換えることはできない.ただし,

h

捕 獲装置

i

h

凶器

i

としての機能を併せ持っている場合は別で ある.

(15) F08: h

ヒトの捕獲装置からの脱出

i

a.

ソ連の戦闘機が追跡ミサイルから逃げた

追跡ミ サイルがソ連の戦闘機を襲った

b.

領海侵犯の船が早期警戒機のレーダーから逃げ た

6⇔ ???

早期警戒機のレーダーが領海侵犯の船を 襲った

(16) F14: h

ヒト以外の生物の捕獲装置からの脱出

i

a.

釣り上げられたナマズがいけすの網から逃げた

6⇔

*

いけすの網がつり上げられたナマズを襲った

b.

野生のタヌキが仕掛けられていた罠から逃げた

6⇔

?*

仕掛けられていた罠が野生のタヌキを襲った この場合も「追跡ミサイル」「罠」の

h

凶器

i

としての側面が 強調され「戦闘機が撃墜された」「タヌキが怪我をした」こと が含意されるようになる.

3.3.2

その他のフレーム

その他のフレームは,次の例にあるように基本的に

x

y

へ の加害性が感じられないため,「逃げる」で言われている状況 を保存したまま「襲う」との対応を得ることはできない

:

(7)

(17) F01: h

ヒトの不快事態の回避

i

技術者上がりの部長が記者会見の司会役から逃げた

6⇔

*

記者会見の司会役

(

の依頼

)

が技術者上がりの部長を 襲った

[

読み変えが起こる

]

(18) F09: h

ヒトの保管装置からの脱出

(

非戦闘

) i

強制入院中の患者が隔離病棟から逃げた

6⇔ *

隔離病棟 が強制入院中の患者を襲った

[

読み変え不能

]

(19) F10: h

ヒトの保管装置からの脱出

(

戦闘

)i

捕虜になった兵士が収容所から逃げた

6⇔ *

収容所が捕 虜になった兵士を襲った

[

読み変え不能

] [cf.

収容所の 看守が捕虜になった兵士を襲った

]

(20) F15: h

ヒト以外の生物の保管装置からの脱出

i

ペットとして飼われていたイグアナが家から逃げた

6⇔ ?*

飼い主の家がペットとして飼っていたイグアナを 襲った

[[

住人

]

の読み変え困難

]

(21) F16: h

確保していたモノの喪失

i

アメリカの資本がアジアの市場から逃げた

6⇔ ?*

アジア の市場がアメリカの資本を襲った

[[

場所

住人

]

読み 換え困難

. cf.

アジアの資本

(

)

がアメリカの資本

(

)

を襲った

]

3.4

まとめ

「逃げる」から見ると,「襲う」と関係づけられるのはごく一 部である.また,対応づけ可能な場合でも,フレームを単位と してではなく,より微妙な選択制限が生じていることが示唆さ れる.このような事実は,一見平凡で当たり前の結果に思える かもしれない.しかし,次のことには注意が必要である

:

この ような分析を体系立てて行うためには,比較する2つの語彙が 意味しうる状況が網羅的に,かつ比較可能な水準で記述されて いる必要がある.このような網羅的な記述がなされていない ときには,比較はそれぞれの語彙で主要あるいは典型的と想定 されている用法の範囲に留まり,そうでない用法の比較が見過 ごされてしまう可能性は高い.そして,網羅的な意味記述を得 るためには,コーパスからの事例の採取などの手段を通じて,

偏りなく例文を検討しなければならない.

また,本研究のような意味の記述的研究については,次のこ とも留意すべきであろう

:

本研究が示した結果は,ある意味で

「あたり前」の結果である.だが,それが「あたり前」だと十 分な根拠をもって言えることが重要なのである.根拠を明示 しないで「それはあたり前だ」と言うことは

(

権威主義的な人 なら

)

誰にでもできる.あたり前であることと自明であること はまったく違う.十分に現象の本質を捉えていない分析に感 じられる「凡庸さ」と妥当な分析に感じられる「あたり前さ」

とは別ものである.前者は得られた結果が分野の進展に貢献 しそうにない場合に感じられる「方向性のなさ」であり,後者 は得られた結果が言語使用者の直観に対して「自然な」ことか ら生じる.前者は分野の研究の進展に関係がないか,阻害要因 となる可能性があるが,後者のあたり前さの伴う結果は分野 の研究の進展への貢献と矛盾しない.本研究の成果は記述的 には特に目新しくはない.同様の観察は多かれ少なかれ私た ちが参照していない先行研究で指摘されているか,臆測が述 べられていることだろう.だが,私たちの行なったのは単な る事実の指摘や推測ではない.問題は,指摘が断片的

(

で例外 的

)

な事実の観察で終らせないための十分な一般性を伴ってい るか,推測を推測のままに終らせないための十分な検証が伴っ ているかどうかである.

4 終りに : 言語 ( の意味 ) の認知科学の確立へ

本論文の締めくくりとして,コーパス解析と心理実験という 経験的手法が

(

認知

)

言語学にいかに貢献しうるかについて簡 単に論じたい.

4.1

コーパス分析の恩恵

コーパスの効果的な利用は作例一辺倒の言語分析の限界を 乗り越えるために非常に有効である.それには少なくとも次 のような二つの理由がある

:

コーパスの利用は第一に研究者の 想像力の制限を緩めてくれる.第二に研究者の確証バイアス を緩めてくれる.

どんなにすぐれた作例のできる人でも,自分の想像力の範 囲を越えて作例することは不可能である.もちろん,言語学 者の想像力が文学作家のようなものである必要はない.しか し,想像力は,通常,事前に持っている知識や期待によって制 限される.もっと具体的に言えば,言語の研究者として,あ る語がどのような用法を持ちそうかといった見込みを越えて,

作例を行うことは容易ではない.コーパスの利用はこの制限 を軽減してくれる.実際,コーパスは実に「目から鱗」的な事 例に溢れている.この点は,新聞や雑誌,テレビや日常会話で 接する言語表現から研究のヒントを得るといった,おそらく 多くの言語学者が非公式に行っていることの効果を考えれば,

容易に理解可能であろう.コーパスから収集した事例をつぶ さに観察することは,この種の非公式な観察をより組織化,体 系化できることにつながる.

コーパスを利用することは何も特別なことではない.無償 で利用できるコーパスも提供されている.また,種々の便利 なツール

(

例えば

KWIC

ツール

)

が有償,無償で提供されてお り,特別にプログラミングに精通していなくても,簡単に利用 できる環境が整いつつある.つまり,コーパスは,言語研究を 行うための,誰にでも利用可能な研究資源となりつつある.

確かに,従来のコーパス言語学では,語や句の頻度を数え統 計量を求めるといった表面的な分析に留まる傾向が強かった.

この種の分析は,多くの認知言語学者にとって興味を引くもの ではないというのは事実であろう.しかし,コーパスの利用法 は,統計分析には留まらない.本研究で示した

HFNA

は,表 面的な統計に現れない深い性質を取り出すのに使える手法で ある.

コーパスに,自分の擁護する理論

T

で説明できない事例が 含まれている可能性は常にある.そのような事例は

T

の妥当 性を脅かすだろうが,反例を検討すること,言い換えれば実際 的な面で理論の反証可能性を確保することは,経験科学として 非常に重要なことである.反例を組織的に検討する手段が確 保されなければ,

T

が正しいかどうかを検証できない.これ は,生成言語学の一部が自説にとって反例となる事実に

(

「言 語能力に無関係」などの言い訳をして

)

妥当な扱いを行わない ために陥っている事態を見れば明らかである.反例は理論を 検証し,修正し,場合によっては放棄するために重要な役割を 果たす.このような反例に遭遇する機会を作るためにも,コー パスはもっと積極的に利用されるべきである.

作例は確証バイアスを逃れることが難しい.事実上不可能 だとすら言える.作例はコーパスに現われていない事例を補 足するのに有効だが,一次データに使うのは非常に望ましくな い.確かに,どんなに大規模なコーパスだろうと,そこにすべ ての可能性が現われているわけではない.実現されていない 可能性を探るには作例が絶対に必要だ.だが,作例だけで十分 ということはありえない.何が隠されている可能性であるか を知るには,何が隠されていないかを知っている必要があるか

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