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mRNA輸送体の多様化と生物学的意義 - J-Stage

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化学と生物 Vol. 50, No. 1, 2012

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今日の話題

mRNA輸送体の多様化と生物学的意義

高等真核生物では機能の異なるものに多様化.生物進化の原動力か?

mRNAは,DNAのもつ遺伝情報の一過性伝達手段で ある(1)

.これまでのmRNAのイメージは,DNAから転

写された後,プロセシングを受け,細胞質へと輸送され てタンパク質をつくるために使用される伝令役であろ う.しかし,この10年の研究から,mRNAプロセシン グ過程や細胞質への輸送過程(核外輸送という)に関わ る因子の機能解析が急速に進んだ.同時に,機能不備の タンパク質をつくらないためのmRNA品質管理機構や miRNAによる翻訳制御の解明など,mRNAの成熟や安 定性の制御に関わるタンパク質因子群の機能解析が進行 してきた(2)

.その結果,mRNAの動的制御は従来考え

られてきたよりもはるかに厳密かつ精巧に行なわれてい ることがわかってきた.さらに,ヒト全ゲノム配列の決 定やバイオインフォマティックスの整備により,ヒト遺 伝病の約20%はスプライシング異常などのmRNAプロ セシング段階での問題であることも明らかになった.こ れらのことから,mRNAは細胞にとってとても大事な 伝令役であり,様々なタンパク質を関与させて大切に扱 われていることがわかる.では順を追って核でmRNA ができていく様子を見てみよう(図

1

タンパク質をコードするmRNAは,核でRNAポリメ ラーゼIIによって合成され,キャッピング,スプライシ ング,ポリアデニル化というプロセシングを受ける.こ れらのプロセシングを完了するとmRNAは細胞質へと 輸送される.一方,プロセシングが未完成の場合,

mRNAは核内に保持される.近年の研究により,細胞 内ではこれらのプロセスが共役して行なわれていること がわかってきた.さらに,複数のプロセス間の橋渡しを する因子も見つかり,このような機能をもつ因子は共役 因子と呼ばれている(3)

.共役因子は,各プロセシングを

連携することにより,mRNAの成熟過程を効率化して いる(4)

.また,mRNAのプロセシングと細胞質への輸

送を共役する因子は,正常にプロセシングを受けた mRNAのみを細胞質へと輸送する品質管理の機能を併 せもっている(5)

.ここでは,このような機能をもつ因子

をmRNA輸送体と呼ぶことにする.

mRNA輸送体は,ヒトを代表とする哺乳類だけでな く,酵母のような単細胞にも保存されている.しかし,

異なる点もある.酵母ではmRNA輸送体は単一の因子 が担当しているのに対し,ヒトでは多くのmRNA輸送 体が多様化している.つまり,mRNA輸送体は進化的 に保存されており,かつ高等生物では多様化している.

ただ,多様化したmRNA輸送体がそれぞれ独自の機能 をもっているのか否かについてはわかっていなかった.

筆 者 ら は,mRNA輸 送 体 の 中 でUAP56とURH49が,

機能的にも複合体形成においても異なっていることを見 いだした(6) (図

2

UAP56とURH49は,進化的に保存されたRNAヘリ カーゼであり,互いにアミノ酸配列で90%の相同性を もつ.これらの出芽酵母ホモログはSub2である.Sub2

図1mRNAプ ロ セ シ ン グ と mRNA輸送体による共役の概念図 実線はmRNAプロセシングの方向 を示している 点線は各プロセシン グ過程で共役機構が存在することを 示している.

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今日の話題

は酵母の生存に必須であるので, を欠損した酵母 は致死となる.このとき,酵母にUAP56を発現させる と多少生育は悪くなるものの生存できる(7)

.URH49を

発現させても,UAP56と同様に生育する.このことか ら,酵母では少なくとも両者の機能的な違いは見られな い.一方,ヒトにおけるUAP56 mRNAの発現は,精巣 を除く各組織でURH49と比べて10倍程度高い(8)

.この

ため,これまでURH49は,UAP56の補助的な機能しか ないとする考え方が支配的であった.

ところが,ヒト細胞でUAP56あるいはURH49を別々 にノックダウンすると,いずれの場合も核にpoly (A) の蓄積が観察された.UAP56をノックダウンしたとき の核内poly (A)の蓄積は,UAP56を強制発現させる と解消されるが,URH49を強制発現させても解消され ない.また,逆も同様であった.したがって,UAP56 あるいはURH49のノックダウンで見られる核内poly 

(A)の蓄積は,一方の機能が失われたためとわかる.

つまり,UAP56とURH49は独自機能をもつことがわ かった.

そこで,ヒト細胞の中でそれらの独自機能について解 析を行なった.UAP56あるいはURH49をノックダウン した細胞を用いたアレイ解析から,有糸分裂期(M期)

に関する因子に注目した.それぞれをノックダウンした 後,経時的に生細胞観察を行ない,M期での表現型を 観察した.また,染色体スプレッドを作製し,M期染 色体の形態を観察した.UAP56をノックダウンすると,

一部の姉妹染色体の会合がうまくいかずM期の時間も 延長した.また,姉妹染色体のセントロメア領域での会 合が崩れていた.一方,URH49ノックダウンでは,や はりM期の時間が延長し,UAP56ノックダウンとは異

なり姉妹染色体の会合が全領域で行なわれていた.そこ で,UAP56あるいはURH49のノックダウンで発現の減 少するmRNAのうち,これらの現象に関わる遺伝子の 同 定 を 試 み た 結 果,UAP56で は な ら び に 遺伝子を,またURH49では 遺伝子を同 定した.実際に,これらの因子のノックダウンによっ て,UAP56あるいはURH49のノックダウンと同様の表 現型が見られることを確認した.こうして,UAP56と URH49は異なるmRNAの発現制御に関わっていること が明らかになった.

では,どのようにしてUAP56とURH49は異なる機能 をもつのであろうか.この原因について解析したとこ ろ,UAP56とURH49の形成する複合体が異なることが わかった.UAP56は8種類のタンパク質で構成される TREX (transcription/export) 複合体(9)を形成していた.

一方URH49 は CIP29 と AREX (alternative  mRNA   export) 複合体と名付けた新規複合体を形成していた.

加えて,UAP56あるいはURH49は,それぞれの複合体 を介して機能を発揮していることを確認した.これらの 結果から,UAP56とURH49は,90%以上の相同性(類 似性は95%以上)をもつにもかかわらず,異なる複合 体を形成して異なるmRNAの輸送を制御していること が明らかになった.

高等動物で多様化しているmRNA輸送体は,UAP56 やURH49だけではない.他にもTap/NXF, p15/NXT,  DBP5 などの輸送体も多様化している.現時点で,これ らの多様化した輸送体がもつ独自機能については不明な 点が多く残されており,興味深い研究対象である.実 際,mRNA輸送体の多様化は,単細胞である酵母,ま た線虫やハエなどでは見られず,高等真核生物にのみ見 図2mRNA輸送体UAP56URH  49の 形 成 す る 複 合 体 と 輸 送 す る mRNA

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今日の話題

られる現象である.このことから,mRNA輸送体が多 様化することによってmRNA 成熟ネットワークが形成 され,機能分化した細胞ごとに巧妙かつ微細な遺伝子発 現の制御ができるようになり,生物の複雑さを許容する 原動力の一つとして寄与した可能性が考えられる.今 後,他の多様化したmRNA輸送体の独自機能やこれら の輸送体間のネットワークを明らかにしていくことで,

この問いに答えの出せることを期待している.また,今 回見いだしたAREX複合体はがん細胞で高発現してお り,生物進化だけでなく細胞増殖や発がんなどの様々な 生命現象に重要な知見を提供できる研究対象であるの で,こちらの機能解析も楽しみにしている.

  1)  G. Orphanides & D. Reinberg : , 108, 439 (2002).

  2)  A. Kohler & E. Hurt : , 8, 761

(2007).

  3)  R. Reed & E. Hurt : , 108, 523 (2002).

  4)  S.  Komili  &  P. A.  Silver : ,  9,  38 

(2008).

  5)  M. B. Fasken & A. H. Corbett : , 6, 237 (2009).

  6)  T. Yamazaki  : , 21, 2953 (2010).

  7)  F. Kapadia, A. Pryor, T. H. Chang & L. F. Johnson : ,  384, 37 (2006).

  8)  A. Pryor, L. Tung, Z. Yang, F. Kapadia, T. H. Chang & 

L. F. Johnson : , 32, 1857 (2004).

  9)  S. Masuda, R. Das, H. Cheng, E. Hurt, N. Dorman & R. 

Reed : , 19, 1512(2005).

(山崎智弘

*

1

,増田誠司 *

2

, *

1ハーバード大学医学系研 究院,

*

2京都大学大学院生命科学研究科)

酸素分圧の変化をモニターするインスリン様成長因子システム

酸素分圧の変化を胚の発育速度の調節につなげるしくみ

酸素は,すべての動物細胞において細胞内で化学エネ ルギーを効率的に産生するために欠くことができない分 子である.したがって,生体あるいは細胞を取り巻く環 境中の酸素分圧は,多くの生命現象に影響を与える重要 な環境要因の一つといえる.ヒトでは,低酸素が低栄養 とともに発育遅滞の主要因であることはよく知られてお り,初期胚の周りの酸素分圧がどのように発生速度に影 響するかについて,鋭意研究が進められてきた.筆者ら の研究グループでも,発生速度が速く,遺伝子導入や胚 体操作も容易で,何よりも体外発生であるため母体の干 渉を受けず胚発生が容易に観察・評価できるゼブラ フィッシュ胚を用いて,酸素分圧の変化に応じて起こる 発生速度の変動の分子機構を調べている.この過程で,

酸素分圧の変化が細胞内外の様々な因子の変動を介し て,成長因子のひとつインスリン様成長因子(IGF)の 細胞内シグナルを調節し,胚の成長速度が変化すること が明らかとなった.ここでは,筆者らの研究成果を中心 に,IGFシステムを介した酸素分圧と胚成長速度の連携 機構について紹介したい.

IGFはその名が示す通り,インスリンと構造上相同性 の高いペプチドホルモンで,IGF-IとIGF-IIの2種類の 分子種が存在する.IGFの生理活性発現は,IGFが標的 細胞の細胞膜に存在するIGF-I受容体に結合し,受容体 が内蔵するチロシンキナーゼを活性化することに始ま る.これを引き金として,下流のホスファチジルイノシ

ト ー ル 3-キ ナ ー ゼ (PI3K) 経 路 やmitogen-activated  protein kinase (MAPK) 経路などにシグナルが流れ,

種々の細胞の増殖や分化の誘導,細胞死の抑制など広範 な生理活性を発現する.その結果,個体レベルでは,発 生や発達,成長や成熟,タンパク質代謝をはじめとした 物質代謝,そして老化を制御する.このように,IGFは 動物の一生にわたって同化反応の促進に重要な役割を果 たしている.

IGFには6種類の特異的結合タンパク質 (IGFBP) が 存在し,体液中ではほとんどのIGFはIGFBPと結合し ている.IGFBPは,体液中のIGFの寿命や生理活性,

さらに局所でIGF活性を調節する.特に標的細胞周辺の IGFBP-1は,IGFが標的細胞のIGF-I受容体と結合する のを競合的に阻害し,IGF活性を減弱させることが知ら れている.さらに,IGFの細胞内シグナルも,他の細胞 外因子のシグナル経路と相互作用し,その結果,IGF活 性が増強あるいは抑制される.

上記のように,IGFは正常な発生や胎児発育に必要で あるが,近年になり,外環境の酸素分圧の低下で惹起さ れる子宮内胎児発育遅滞 (IUGR) とIGFシステムとの 間に密接な関係のあることがわかってきた.すなわち,

低酸素状態に応答して起こるIUGRの胎児血清中には,

IGF活性を強く抑制するIGFBPであるIGFBP-1が顕著 に増加することが報告された.『胚発育の遅滞』という 表現型や『IGBP-1の発現上昇』はヒト,マウス,ゼブ

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