13 . 直積位相・商位相
科目: 数学演習IIA( f組)
担当: 相木
引き続き,与えられた位相空間から新たな位相空間を構成する方法を解説する.
直積位相
まず記号の復習をする.
直積
空でない集合X, Y に対してその直積X×Y を
X×Y ={(x, y) | x∈X, y ∈Y}
によって定める.つまり,R2のときのようにXとY それぞれに属す元の組全体の集 合である.
また,U ⊂XとV ⊂Y に対してX×Y の部分集合U×V は U ×V ={(x, y)∈X×Y | x∈U, y ∈V}
と表されたことを思い出そう.ただし,U, V のどちらかが空集合のときはU×V =∅ と約束する.
ここで,位相空間(X,OX)と(Y,OY)が与えられたときにX×Y に位相を定めること ができるか?という疑問が浮かぶが答えはyesである.
直積位相の定義
(X,OX),(Y,OY)を位相空間とする.写像f1 : X ×Y → Xとf2 : X ×Y → Y を (x, y)∈X×Y に対してそれぞれ
f1(x, y) =x f2(x, y) = y
によって定める.f1とf2によって誘導されるX×Y の位相をそれぞれO1, O2とす る(誘導位相についてはプリント12参照).M=O1∪ O2とし,Mから生成され る位相O(M)(位相の生成に関してはプリント8参照)をX×Y の直積位相という.
X×Y の直積位相をこのプリントではOX×Y と書くことにする.
上の定義が教科書p.191に載っている直積位相の定義を2つの位相空間の直積の場合 に噛み砕いて書いたものである.それでもまだ分かりづらいという印象があるかもしれな
い.特に,X×Y の位相を定めるのであればOXとOY に属す元の直積の集まり,つまり B ={U ×V | U ∈ OX, V ∈ OY}
が関わりありそうだが,上の定義だと現れていない.そこで,Bと直積位相OX×Y の関係 も含め,もう少し詳しく見てみよう.
まず,直積位相を定義する際に現れる写像f1, f2から誘導される位相O1,O2とはどの ような位相なのだろうか.誘導位相の定義から
O1 ={f1−1(U)| U ∈ OX} O2 ={f2−1(V) | V ∈ OY} である.最初にO1から見てみよう.逆像の定義からU ∈ OX に対して
f1−1(U) = {(x, y)∈X×Y | f1(x, y)∈U}
である.定義からf1(x, y) = xなので結局
f1−1(U) ={(x, y)∈X×Y | x∈U} となるのでf1−1(U) =U ×Y である.したがって,
O1 ={U ×Y | U ∈ OX} (1)
を得る.同様にして
O2 ={X×V |V ∈ OY} (2)
が成り立つ.このことからO1,O2は以外とシンプルな形で表される位相であることが分 かる.
次にM= O1∪ O2とおき,Mによって生成される位相をX×Y の直積位相と定義 した.つまり,OX×Y =O(M)と定めたのである.
ここで一般に以下が成り立つ.
生成される位相と基底
空でない集合ZとN ⊂ P(Z)に対してN に属す有限個の集合の共通部分として表さ れる集合の全体とZの和集合をN0とおく.すなわち,
N0 = {
A ∃n ∈N, ∃A1, A2, . . . , An∈ N, A=
∩n
i=1
Ai }
∪ {Z}
と定める.共通部分をとる集合の数が1個の場合を考えればNの元はN0にも属すの でN ⊂ N0である.
このとき,N0はN から生成される位相O(N)の基底になる(詳しくは,基底の定義 と教科書p.169の定理14を参照).
この事実を考慮してM=O1∪ O2に対して同じように M0 =
{
A ∃n ∈N, ∃A1, A2, . . . , An ∈ M, A=
∩n
i=1
Ai }
∪ {X×Y}
と定めるとM0は直積位相OX×Y の基底になるのだが,この定義ではイマイチM0にど のような集合が入っているのか分かりにくい.しかし,実はM0は最初の方に定義した
B ={U ×V | U ∈ OX, V ∈ OY}
と等しいことが分かる.つまり,M0 =Bである.これを示そう.
M0 ⊂ Bであること
∀A∈ M0をとり,A∈ Bを示す.A=X×Y の場合は,X ∈ OX, Y ∈ OY よりA∈ B である.
∃A1, A2, . . . , An ∈ Mに対してA=∩n
i=1Aiであるとする.M=O1∪ O2より,必要 があれば番号を付け替えて0≤ ∃l ≤nに対してA1, . . . , Al ∈ O1,Al+1, . . . An∈ O2とな るようにできる.(つまり,O1に属すものとO2に属すものに分けてまとめ直しただけで ある.この並べ替えができることを保証するためにO1∩ O2に属すものはO1のグループ に入れると約束しておく).l= 0またはl =nのときは片方のグループがないということ である.
まず,0 < l < nだった場合を考える.O1,O2 は共に位相だったので
∩l
i=1
Ai ∈ O1,
∩n
i=l+1
Ai ∈ O2である.したがって,先に示した(1)と(2)から∃U ∈ OX, ∃V ∈ OY が存 在し
∩l
×
∩n
×
と表せる.(U ×Y)∩(X×V) = (U ∩X)×(Y ∩V) = U×V であり,U ∈ OX, V ∈ OY
なので A=
∩n
i=1
Ai = ( l
∩
i=1
Ai )
∩ ( n
∩
i=l+1
Ai )
= (U×Y)∩(X×V) =U ×V ∈ B
が成り立つ.
l = 0またはl =nの場合は,Ai (i= 1,2, . . . , n)が全てO1かO2のどちらかに属すの で,上と同様の議論をたどるとA∈ O1またはA∈O2となり,(1)と(2)から
∃U ∈ O1, A=U×Y または ∃V ∈ O2, A=X×V が成り立つ.どちらの場合もA∈ BであるのでM0 ⊂ Bが示された.
B ⊂ M0であること
∀B ∈ Bをとり,B ∈ M0を示す.Bの定義から∃U ∈ OX, ∃V ∈ OY が存在して B =U ×V
と表せる.すると,U×Y ∈ O1, X×V ∈ O2なのでU ×Y, X×V ∈ O1∪ O2(=M)で あり,
(U ×Y)∩(X×V) = U×V =B
が成り立つ.BがMに属す有限個(今の場合2つ)の集合の共通部分として表されたの でB ∈ M0が成り立ち,B ⊂ M0 が示された. □ 以上からM0 =Bである.つまり,Bは直積位相OX×Y の基底になっているのである.
直積位相の性質
(X,OX),(Y,OY)を位相空間とし,OX×Y をX×Y の直積位相とする.このとき,
B ={U ×V | U ∈ OX, V ∈ OY}
によって定められるX×Y の部分集合系BはOX×Y の基底である.
注意:一見するとB自身が位相になっているように見えるかもしれないが一般にBは位 相にならない.厳密に証明しようとすると面倒なので図を使って「Bが位相にならなそう だ」という感覚を解説する.
X =Y =RでOX =OY =Od(1)のときを考える.R×Rを座標平面に対応させると 開区間(a, b)∈ OX, (c, d)∈ OY に対して(a, b)×(c, d)はR×Rの長方形である.同様に (e, f)∈ OX と(g, h)∈ OY を用いて長方形(a, b)×(c, d)と(e, f)×(g, h)を図に描く.実 数a〜eは以下の図のような大小関係になっているとする.
Y(=R)
X(=R)
a b
c d
e f
g h
O
(a, b)×(c, d)
(e, f)×(g, h)
2つの長方形(a, b)×(c, d)と(e, f)×(g, h)は境界を含まないので辺を点線にするべきだ が,図を見やすくするために実線で描いた.仮にBが位相であるとすると位相の定義から 2つの長方形の和集合(斜線を引いてある集合)もBに含まれなくてはならないが,こ の集合をU ∈ OX とV ∈ OY を用いてU ×V とは表現できなさそうである(実際できな い).このことからBは位相ではない.
商位相
商位相の定義をする前にいくつかの事項を復習する.
同値関係
Xを空でない集合とする.Xにおける関係∼が以下の3つを満たすとき,∼はX上 の同値関係であるという.
(E1) ∀x∈X, x∼x
(E2) ∀x, y ∈Xに対して
x∼y ⇒ y∼x
(E3) ∀x, y, z ∈Xに対して
x∼y, y ∼z ⇒ x∼z
における同値関係である.また,Rにおける関係として≤(通常の等号付き不等号)を考 えると≤は(E1)と(E3)は満たすが(E2)を満たさないので≤はRにおける同値関係では ない.
同値類
Xを空でない集合とし,∼をXにおける同値関係とする.∀x∈ Xに対して集合[x]
を以下のように定義する.
[x] ={y∈X | x∼y}.
つまり,[x]はx∼yが成り立つようなy全体の集合である.これをxの同値類という.
定義からx∼yであれば[x] = [y]であり,x̸∼y であれば[x]∩[y] =∅である.したがっ て,同値関係によってXはいくつかの同値類に分割されているのである.
商集合
Xを空でない集合とし,∼をXにおける同値関係とする.さらに,∼によるxの同 値類を[x]とおく.このとき,Xの∼による商集合X/∼を
X/∼ ={[x] | x∈X}
によって定める.したがって,商集合はXの同値類の集まりである.
以上を復習・準備した上で位相空間の話に戻る.(X,OX)を位相空間とし,∼をXに おける同値関係とする.このとき,商集合X/ ∼に位相を定めることを考える.
商位相
(X,OX)を位相空間とし,∼をXにおける同値関係とする.写像f : X → X/ ∼を x∈Xに対して
f(x) = [x]
によって定める.このとき,X/∼の部分集合系O∼を O∼={O ⊂X/∼ | f−1(O)∈ OX}
によって定めるとO∼はX/ ∼の位相となる.O∼ のことを∼によるX/ ∼の商位相 という.
注意:O∼という記法は一般的ではなく,同値関係によって定まっていることを強調する ために作った記号である.
注意2:商位相の定め方は,誘導位相とは違うことに注意.誘導位相のときは写像を用い て定義域の集合に位相を定めていたのに対し,商位相のときは値域の集合に位相を定めて
いる.
なお,教科書には商位相の定義は載っていないので以下の書籍を参考にした.
彌永昌吉・彌永健一 著「岩波講座 基礎数学 集合と位相I・II」 上記書籍では,商位相をより一般的に定義しているがこのプリントでは触れない.
予約制問題
(13-1) X, Y を空でない集合とし,A, B ⊂X,C, D ⊂Y とする.
(A×C)∩(B ×D) = (A∩B)×(C∩D)
を示せ.(実は,このプリントの解説部分でこの事実を使っている).
(13-2) X, Y を空でない集合とし,A, B ⊂X,C, D ⊂Y とする.
(A×C)∪(B×D)⊂(A∪B)×(C∪D)
を示し,一般に⊃は成り立たないことを例を1つ挙げて示せ.(このことから,一 般に上の2つの集合は等しくないことが分かる).
(13-3) X, Y を空でない集合,B ⊂ Y とし,{Aλ}λ∈ΛをXの任意の部分集合族とする.
このとき,
∪
λ∈Λ
(Aλ ×B) = (∪
λ∈Λ
Aλ )
×B
を示せ.(問題(13-2)の状況とは違うので矛盾はないことに注意).
(13-4) X, Y を空でない集合とし,X×Y における関係∼を以下のように定める.
(x1, y1),(x2, y2)∈X×Y に対して
(x1, y1)∼(x2, y2) ⇔ x1 =x2
つまり,第一成分が等しいときに(x1, y1)∼(x2, y2)と定める.この関係∼が同値 関係であることを示せ.
(13-5) (X,OX)と(Y,OY)を位相空間としOX×Y をX×Y の直積位相とする.O ⊂X に対して以下が同値であることを示せ.
(i) O ∈ OX
(ii) O×Y ∈ OX×Y
(ヒント:B={U×V |U ∈ OX, V ∈ OY}がOX×Y の基底になっていることを 用いる.ただし,問題(13-3)の結果を用いてよい.また,(13-2)の事実にも注意 せよ.
早いもの勝ち制問題
(13-6) (X,OX)と(Y,OY)を位相空間とし,B ⊂ OX はOX の基底であるとする.写像 f :X →Y が以下を満たすとき,fは開写像であることを示せ.
∀B ∈ B, f(B)∈ OY
ただし,一般に写像g :A →BとAの任意の部分集合族{Aλ}λ∈Λに対して g(∪
λ∈Λ
Aλ) = ∪
λ∈Λ
g(Aλ)
が成り立つことを認めてよい.
(13-7) (X,OX)と(Y,OY)を位相空間とし(X ×Y /∼,O∼)を問題(13-4) で定めた同値 関係から定まる商集合に商位相を定めた位相空間とする.O∼はどのような形をし た集合からなる位相か求めよ.
(ヒント:(x, y)∈X×Y に対して(x, y)の同値類[(x, y)]は[(x, y)] ={x} ×Y で ある.解答する際はこれも示すこと).