学位申請論文:
ブドウ球菌毒素に関する研究
一一
ゥ色ブドウ球菌α一毒素の結晶化とその生物学的 ならびに物理化学的性状について一
要
旨.渡 辺 征
ブドウ球菌感染症における毒素の役割を明らかにするとともに,毒素の生物 学的ならびに物理化学的性状を調べるためには,単離b精製した毒素を用いな
ければならない。結晶を形成し得るほどに高純慶に精製した毒素を用いれば,
さちに確実なものとなる。
細菌毒素はAbra血sら(1946)夢よぴLamannaら(1946)により
ボッリヌス:A型毒素が初めて結晶化されて以来,破傷風毒素(pilleme魯ら,
1948),ジフテリア毒素(Katoら91960)かよぴコレラ毒素(Finke−
1steinら,1972)等の結晶形が報告され,それぞれ針状,平板状あるいは 針状,針状あるいは平板状の長斜方(偏菱)形として得られている。すでにブ
ドウ球菌毒素のうち結晶化されているものにYoshida(1963)による棒状 あるいは菱形結晶を呈するδ一毒素がある。
ブドウ球菌によって産生される種々な毒素のうち,最も強毒で,人および家 畜由来のコアグラーゼ陽性の病原牲を有するブドウ球菌の多くが産生するα一 毒素は.感染症に:果たす役割が注口されている。同時にα一毒素の性状には,
まだ十分に明らかにされていない点が少なくない。α一毒素はMadoffら
(1962)により本格的な精製が始められて以来,現在まで多くの精製の報告 がある。しかし,α一毒素の結晶化に成功したという報告はまだない。そこで 本研究ではα一毒素の結晶化を試みるとともに,得られた結晶α一毒素を用い て,α一毒素の生物学的ならびに物理化学的性状を解明するζと等を目的とし た。細菌毒素に限らず,一般に活性物質を結晶化するには種々な生化学的な精 製方法を用いて,活性を失活させないように注意しながら,高匿に単離,精製
しなければならない。そののち,振込くとも2種類以上の物理学的》よび免疫 学的な純度検定法を用いて,均一であることを確めるとともに.条件を色々検 討しなければ結晶化には成功しない。
α一毒素の精製には強力α一舞素産生菌株として国際的に知られている Wood 46を用い,肉水培地(馬肉水に対して2%毒素用ペプトン,α2%
K:1{2PO4夢よびα03%MgSO4・7H20を加え,PH:7.0に修正したのち,
・一
P一
500認の振盈コルベンに150認ずつ分注)に接種し637Cの空気甲で27時
間水平振回培養C12Q回/分)後,冷却高速遠心機により遠心(10,000 rp=n,
30分)、して得た透明上清104を出発材料とした。4℃に凄いて塩化亜鉛沈澱,
Sephadex G−25ゲル源過法,デンブンゾーン電気泳動法(2回),CM−
Spphadβx Cr50イオン交換クFマト4ラフイーおよびペピコンゾーン電気 泳動法の併用によりα一毒素塗高純度に単離。精製した。このようにして精製
,されたα一毒素の純度を検定し.たとこう,α1%(訊レv)下デシル硫酸ナトリウ ウム(SDS)おζびα5M尿素:を含むSDS一ポリアクリルアミドゲル電気泳動 法(ゲル濃度10%)に澄いて1本のみバンドを形成し,また寒天ゲル内沈降 ノ反応に凄いても,、クサギ抗精製α一毒素血清との間で1本のみの沈降線を形成
し,物理学的および免疫学的に均一であることが確かめられた。
細菌毒素を結晶∫ヒするrは色々な方法が報告されているが、著者はべピコン ゾーン電気泳動を経て高純度に精製されたα一毒素をVisking社製のcell一 思ose透析膜(size,8/32)に入れ,両端を閉じ,これを4●Cにおいて大 量(毎回14)の飽和硫安液(PH7・0)に対して透析し.徐々に:結晶を形成
させるという融創的な方法塗用いたところ,初めて結晶化に成功することがで き左。すなわち,比較的うすい填濃度ρα05Mリン酸緩衝液,(PH 7.0)を溶 媒とするペピコンゾ:rン電気泳動瑛の精製α一毒素のα2%(2町/酩)を4
℃に澄いて飽和硫安液(PH 7.0)に対して透析すると,2日後には透析膜内 に肉眼で認めうる白色沈澱参形成された。ζれを4℃に夢いて温和に遠心
(1.000rPm,5分)したのち,・沈澱を冷却した微量の飽和硫安液(PH7.0)
に浮遊させ,その一・滴をミクロピパットで清浄なスライドグラス上に取り,カ づ一グラスを冷ぶサ4gq倍の倍率で顕微鏡により観察したとζろ.平板状の 長斜方(三菱)形を呈する単結晶が数多く認めら乳た。残りの結晶は冷却した 少量のqo5Mリン酸緩衝液(P琴7.0)に溶解したのち,4℃で再び大量の飽 和硫安液(pH 7.0 )に対して透析し;48時間後に形成された白色沈澱を鏡 檎するξ1,やはり同禄な平板状の長三方(三菱)形の結晶を数多く観察するこ
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とができた。このような再結晶操作を3回繰り返した結果,平板状の長斜方
(偏菱)形の結晶が再現することを轄認した。なお結晶は飽和硫安液(PH 7Ω)
には不溶性であるが,α05Mリン酸緩衝液 (PH 7.0)には容易に溶解した。
α一毒素の生物学的活性を測定するのに最も鋭敏でbまた簡便な方法はウサ ギ赤血球の溶血活性を測定することである。溶血単位(HU)は安定剤として 牛血清アルブミンをα1%(W/V)の割合に加えたdo5Mリン酸緩衝褒塩水
(PH 7.0)を毒素希釈液として用いてd一毒素を2倍階段希釈し,これに等:量 の2%(V:/V)ウサギ赤血球浮遊液を加え,3ナ01時間恒温槽で水平振盟
:(・140回/分)後,遠心上清に等量のα1%Na2CO3液を加えて室温15分 後,分光光度計でOD54inmの吸収を測定し,50%溶血を起こすめに要する
α一毒素の最大希釈度の逆数とした。
結晶・一藤の比活性は…X・・3Rσ/騒白量で.・Hbはα6・。9蛋
白量に相当し,溶血活性の収量は24%,精製率は435倍であった。1HUが α01μ9と う値はBernheimerら(i963)診よびArbuthno實ら
(1967)のα05μ9より5倍も純度が良いととを示している。次に結晶α 一毒素を用いてα一毒素め生物学的ならびに物理化学的性状を検討した結果,
次の結論を得た。
1.結晶α一毒素は溶血活性のほかにウサギ皮膚壊死作用夢よびマウス致死作 用を有し.それぞれα03μ9蛋白量(最小皮膚壊死量)夢よびしD50として 1.0〃蛋白量(DDD系,209)セ,同一の毒素蛋白質によ乙多面的な毒作 用が示された。な夢最小皮膚壊死量がα03μ9という僖はBernheimerら (1963)およ1メL6minskiら(1963)あα5−1.0μ9よリボ;・約25 倍活性が高いことを示している。 一・『 量 一
2 ウサギの網赤血球(Reticulocytes)に対する結晶α一毒素の浩血活性 を検討した結果,網赤血球は正常ウサギ赤血球よりも溶血性が半分に低†し,
やや毒作用に対する感受性の抵一ドが認あられた。
a SDS・」ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により結晶α一毒素6分子量
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、
を測定したところ,36,000士2,000であった。この値は結晶α一壕素のア ミノ酸組成より概算した分子量3虜800とほぼ一致する値であった。
4 Elect=ofoe鵬ing法により結晶α一毒素の等電点(pI)を測定したと ころ,全溶血二二◎35%から成る単一のピークの最高HUを持つ分画のp且 として,7.98士α05という値が得られた。Si髭ら(1973)はp17.2と
8。4を報告じ㍉Wadstro皿(1968)はPI 8.5を報告している。しかし,
著者の結晶4−・」毒素のPH7.2,8.4,8.5等を示す分画には溶血活性が認めら れず,これらのpIは否定的であった。
a 結晶α一毒素はCM−Se2hadex C−50カラムクロマトグラi7イー夢よび electrofocusing分析に鉛いて,いずれも溶血活性と一致する単一のピー。
クのみから成り,Bernhe!mer(1968)が報告したpolymerの存在は否
定的であった。
6.結晶α一毒素の354μ91砺を用い,P:H 7.0に夢ける紫外部吸収スベクト ルを測定した結果,最大吸収は279.5鎗ロ,最小吸収は251n㎡で,典型的 な単純蛋白質としてのスペクトルを示した。
7.結晶α一毒素のアミノ酸組成はトリプトフアンの4.2を含む合計267の 残基数から成っていた。アミノ酸組成に魯いて注目すべき事はシスチンが欠 如していることと.アスパラギン酸,リジン夢よびスレオニンの含:量が多い ことであった。
8.アミノ酸分析の結果。α一毒素にはシスチンが欠如していることから,α 一毒素はS−S結合を欠くペプチド鎖より成ることが推測される。そζでα
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ナ素にトリプシンを30:1(彫脚)の割合に加え,25●Cに夢いて温和に 消化を行ない,活性を持ったヲラグメントを取シ出すための予備的実験を行 なった。その結果,α一毒素の溶血,皮膚壌死夢よび致死の3活性のうち,
トリプシン消化3時間後ではマウスに対する致死活性以外の溶血活性および じ
ウサギ皮膚壊死活性が顕箸に底下した。トサブシン消化24時間後にはSDS一 ポリアクリルアミドゲル電気泳動齢いて消{ヒ前の・一毒素bバンド功も
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立動度の早い,すなわち、低分子の互いに接近した 2本の パジド( フラグメ ントAおよびB)に解離した。しかし,これら・2 づのフラグヌントを含b消 化毒素は溶血活性のほとんどすべてを失った。トリプシン消化48時間後に は,さらにポリペプチド鎖は細かく切られ,SDS一ボリアクリルァミドゲ ル上にはバンドとして検出されなかった。
9.結晶α一毒素はcarboxypeptidase Bの処理によりなんらの影響も受け ず,C一末端アミノ酸の遊離は認めら五左かった。
1q結晶α一毒素の糖含量をフェノール・硫酸法溢よびアン裁ロン反応により 測定した結果,ブドウ糖として1%以下であっ売6
11.結晶α一毒素の熱に対する安定性を60℃加熱『しぞ調べ一 セところ,3分後
には溶血活性の大部分が失活した。このことからα』毒素う㍉易熱性蛋白質 であることが確められた0
12・結晶α一毒素はゼラチン水解法により蛋白質溶解活性を持たないことが認 められた。 」 1 ㌦
一般に細菌が培地中へ放出する外毒素の量は微量であるとと力椥られてい る。ブドウ球菌Wood 46株は本実験から,培地14中べ 46町めα一毒素を 放出ナることが分かった。これをBemhei:nerら(1963・) C Lolnin。
skiら(1963),Couner(1966)およびSixら(壌b73・》の報
告と比較してみると,それぞれ84解,80町,・12解夢よび1 O0吻であっ
た。 甲 し∴:
α一毒素は溶血,致死夢よび皮膚壊死のほかに筋肉,特に平滑筋め収縮と その後の麻痺.各種組織培養細胞に対する傷害作用,ウサギの血小板溶解作 用夢よびウサギ白血球由来のリソゾーム溶解作角等を持つで ることが知ら れている。α一毒素は抗原性を持ちッ抗毒素麿ご・」毒素¢》溶血,致死夢よび 三懐死の3活性を中和する。 』 ∴ゲご『−
α一毒素のブドウ球菌感染症に果たす役割については,α一毒素寮感染局 所においても?invitroと同様に産生されていることは明らか左ので,局
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所の病巣の増悪および組織壊死の原因となることは考えられる。また,マウ ス,ウサギ等の実験動物のレベルでは感染段期において産生されたα一毒素 が致死の原因となることが考えられる。このことはα一毒素をマウス,ウサ
.ギ等の静脈内に注射すると,動物は1,2日以内に死亡することからもうな
づける。