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神経組織による骨リモデリングの制御 - J-Stage

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化学と生物 Vol. 53, No. 2, 2015

神経組織による骨リモデリングの制御

ゼブラフィッシュ側線神経系における骨の形態形成メカニズム

人間の体は,大小約200個の骨で構成される.ぞれぞ れの骨は,外から加わる力に対して十分な強度を得るた めに,適応的に形づくられている.さらに,骨は成長の 過程で,形や比率が変化する.たとえば,生まれたばか りの赤ん坊では4頭身だったものが,成人では,約7.5 頭身にプロポーションが変わる.骨は結合組織であり,

体積の大部分を細胞外マトリックスで占められているの で,骨の形づくりや成長には,特定の領域に骨を沈着さ せる作用(骨形成)と,特定の領域の骨を吸収する作用

(骨吸収)とが必要である.それぞれの機能をもつ細胞

(骨芽細胞と破骨細胞)は,自分自身よりもはるかに大 きなスケールの3次元空間を,どのように認識している のか,そのメカニズムはよくわかっていない.

近年,クラゲ蛍光タンパク質(GFP)によってさまざ まな細胞を生体標識することが可能となった.特に,メ ダカやゼブラフィッシュでは,体内の骨芽細胞や破骨細

胞の動態を見ることができる.解析の結果,魚類の骨形 成も,哺乳類と同様の遺伝子制御を受けていることが明 らかになった(1)

.これらの遺伝学的な解析ツールに加

え,魚類が骨の形態形成のモデルとして有用な理由は,

体表に発達した膜性骨(皮骨)をもつことである.体軸 を構成する軟骨性骨(脊椎骨や四肢骨)と異なり,膜性 骨は軟骨を前駆体にもたない.哺乳類では頭骨の一部と 鎖骨が膜性骨であり,魚類ではそれらに加えて,鱗と鰭 条が膜性骨である.鱗は表皮の直下に存在し,単純な繰 り返し構造をしており,かつ著しい再生能力をもつこと から骨形成メカニズムの解析に適している(2)

多くの魚類の体表面には,体幹中央部に沿って一条の 筋が見られる.これは,側線と呼ばれる感覚器であり,

特殊な形状をした鱗(側線鱗)で構成される.側線鱗の 数や分布は,魚種によって決まっており,ゼブラフィッ シュでは体の前方部に2 〜5枚の側線鱗が存在する(図

図1ゼブラフィッシュ側線鱗(管器)

の形成過程

(A)ゼブラフィッシュ成魚における管器の 分布.頭部と体幹部前方に管器が分布す る.(B)管器の模式図(断面図).管器は アーチ状に変形した鱗(骨)であり,その 下には側線神経の感覚器である感丘が存在 する(管器感丘).感丘は体表面にも存在 する(遊離感丘)(C‒E)管器感丘の形成 過程.感丘(有毛細胞),硬骨,表皮を生 体標識している.(C)はじめに鱗は感丘の 直下に形成される.(D)次に感丘の周囲の 骨が隆起する.同時に感丘の直下の骨は吸 収される.(E)管器骨は,孔器を残して融 合し,感丘は骨の下に埋没する.(C ‒E ) 断面の模式図.管器の形成は骨形成と骨吸 収を伴う骨リモデリング過程である.この 過程は,感丘組織によって引き起こされる

(Wada et al., 2014より改変)

今日の話題

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化学と生物 Vol. 53, No. 2, 2015

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A)

.通常の鱗が均一な平たいプレートであるのに対

し,側線鱗は中央に半円筒形の膨らみ(管器)がある

(図1B)

.管器は中空になっており,規則的に体表に開

いた穴(孔器,図1E)で外部とつながり,水によって 満たされている.管器の下には側線神経の感覚器である 感丘が存在する(管器感丘,図1B)

.感丘は,哺乳類の

聴覚器(コルチ器)や平衡器とよく似た器官であり,有 毛細胞が水の運動を感知している.同様の器官は体表面 に遊離感丘として存在しており(図1B)

,遊離感丘が水

の速度を感知するのに対し,管器感丘は水の加速度を感 知すると考えられている.また,感丘は神経プラコード に由来する神経組織であることがわかっている(3)

.それ

では,側線鱗はどのように形づくられるのだろうか?

孵化したばかりの稚魚には鱗は存在せず,すべての感 丘は体表面に存在している.稚魚が8.5 〜 9 mm(孵化 後約1カ月)に達すると鱗が体全体を覆い始める.その とき,鱗は皮膚の直下に形成され,感丘は鱗の上に位置 している(図1C, C )

.稚魚が約10 mmに達する頃,感

丘を取り囲む鱗の一部が隆起し,アーチ状の骨を感丘に 沿って伸ばし始める(図1D)

.同時に,感丘の直下にあ

る鱗は徐々に消えてゆく(図1D )

.さらに,アーチ状

の骨は孔器の部分を残して融合し,感丘は骨の下に埋没 する(図1E, E )

.管器の形成過程は,骨形成と骨吸収

を伴う骨リモデリング過程であり,骨芽細胞と破骨細胞 の局在が確認される(4)

.管器の形成は,再生過程でも見

られ,側線鱗を取り除くと3日で通常の鱗が形成し,さ らに骨リモデリングが生じて管器が再生する.ところ が,側線鱗とともに感丘を取り除くと,骨リモデリング は生じず,通常の鱗が形成された(4)

.このことから,感

丘(神経組織)が骨リモデリングを引き起こしているこ とがわかった.さらに,破骨細胞の分化に異常を示す突 然変異体では,骨リモデリングが阻害される結果,管器 の成長が妨げられた(4)

.以上の結果は,神経組織と骨組

織(結合組織)が相互作用して感覚器を形成することを 示している.

管器感丘が大きくなるのに対し,遊離感丘は一定の大 きさを保ちながら「出芽」によって数を増やす(図 1B)

.このとき,有毛細胞は細胞増殖抑制因子を分泌し

ている(5)

.一方,感丘に投射する神経軸索末端は,細胞

増殖促進因子を分泌すると考えられている(6)

.今後,感

丘やそれに付随する神経組織が,どのように骨芽細胞と

破骨細胞に作用し,骨リモデリングを制御しているの か,分子メカニズムの解明が期待される.

神経組織による骨リモデリングの制御は,最近,マウ スにおいても報告されている.マウスの脊椎骨や四肢骨 には,脊髄後根神経節から伸びる感覚神経軸索が投射し ている. 変異体マウスでは軸索投射が失われる 結果,骨密度が低下する(7)

.つまり,感覚神経軸索は,

骨芽細胞と破骨細胞の活性バランスを制御している.こ のことから,神経組織と骨組織の相互作用は,脊椎動物 に普遍的な現象であり,共通の分子メカニズムが存在す ることが示唆される.骨の恒常性維持には,内分泌系,

神経系,免疫系にまたがる多くの組織・細胞・シグナル が密接に関与しているため,解析が難しい.ゼブラ フィッシュの側線鱗は,構造が極めて単純であり,か つ,骨形成・骨吸収過程を容易に観察できることから,

今後,有用な骨疾患モデルになると考えられる.

  1)  M.  Chatani,  Y.  Takano  &  A.  Kudo:  , 360,  96  (2011).

  2)  A. Quilhac & J. Y. Sire:  , 281, 305 (1998).

  3)  A. Ghysen & C. Dambly-Chaudière:  , 21, 2118  (2007).

  4)  H. Wada, M. Iwasaki & K. Kawakami:  , 392, 1  (2014).

  5)  H. Wada, A. Ghysen, K. Asakawa, G. Abe, T. Ishitani & 

K. Kawakami:  , 23, 1559 (2013).

  6)  H. Wada, C. Dambly-Chaudière, K. Kawakami & A. Ghy-

sen:  , 110, 5659 (2013).

  7)  T.  Fukuda,  S.  Takeda,  R.  Xu,  H.  Ochi,  S.  Sunamura,  T. 

Sato, S. Shibata, Y. Yoshida, Z. Gu, A. Kimura  :  , 497, 490 (2013).

(和田浩則,国立遺伝学研究所)

プロフィル

和田 浩則(Hironori WADA)

<略歴>1993年東京大学理学部生物学科 卒業/1998年同大学大学院理学系研究科 博士課程修了/同年理化学研究所脳科学総 合研究センター研究員/2007年新潟大学 超域研究機構准教授/2009年科学技術振 興機構さきがけ研究員/2013年情報シス テム機構新領域融合研究センター(国立遺 伝学研究所)特任研究員,現在に至る<研 究テーマと抱負>神経系のパターン形成,

特に感覚器と周囲の組織との相互作用.生 物が多様な形態を作り出す仕組みを理解し たい<趣味>虫採り,落語

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会

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