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論文内容の要旨 - 自治医科大学機関リポジトリ

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Academic year: 2025

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氏 名 森も りし た じゅん順 子 学 位 の 種 類 博士 (医学) 学 位 記 番 号 甲第665号

学 位 授 与 年 月 日 令和4年3月23日

学 位 授 与 の 要 件 自治医科大学学位規定第4条第2項該当

学 位 論 文 名 わが国のDV(ドメスティック・バイオレンス)被害者の現状と課題 - 男 性被害者の検討 -

論 文 審 査 委 員 (委員長) 教 授 高 瀬 堅 吉

(委 員) 教 授 中 村 好 一 准教授 青 山 泰 子

論文内容の要旨

1 研究目的

本研究の目的は、日本の男性のドメスティック・バイオレンス(DV)被害者のうつ病関連症状 に影響を与える要因について調査し、統計学的手法を用いて検討することである。

2 研究方法

2021年2月25日または26日に、ウェブ上で直近の一年以内に配偶者およびパートナーによる DV被害経験のある日本在住の男性1,466名にアンケートを行った。アンケートでは、①属性(DV 被害以外)の質問として、社会人口統計学的特性、過去のトラウマ体験、精神科既往歴に関する 質問をした。また②DV 被害に関する質問として、DV 暴露の程度を評価するための質問紙(15 項目)のDomestic Violence Screening Inventory(DVSI)、左記のDVSI以外の筆者らが作成したDV 被害形態に関する質問票(20項目)を使用した。①と②について、うつ病関連症状を評価するた めに、評価尺度(10項目)の患者健康質問票(日本語版PHQ-9; Patient Health Questionnaire-9)を 使用した。なお、本研究では専門家によるうつ病の診断は行わないため、参加者の方法、結果、

考察を述べる際、うつ病という用語は使わず、うつ病関連症状または、うつ病関連症状レベルと いう用語を使う。①は Cramér の相関係数を算出して、うつ病関連症状レベルと関連する変数を 見出した。②は、Spearmanの順位相関係数を算出して、うつ病関連症状レベルと関連のある変数 を見出した。①で見出した変数(年齢、パートナーまたは配偶者の就業状況、子どもの有無、学 歴、離婚をしたいけれども子どものために思いどどまった、幼少期の DV暴露、学校でのいじめ 被害の経験あり、過去・現在の精神科通院歴)を独立変数として、うつ病関連症状レベルのあり・

なしを従属変数としてロジステック回帰分析を行い、一つにまとめて「DV 以外」の共変量とし た。②で見出した変数(配偶者またはパートナーは、家事・育児をまったくやらない、配偶者ま たはパートナーは、お金をむだに使ったり、不必要なものに使う、相手は、私に何かいやがらせ をした)を独立変数として、うつ病の関連症状レベルのあり・なしを従属変数としてロジステッ ク回帰分析を行い、一つにまとめて「DV被害」の共変量とした。①と②のそれぞれの共変量を 独立変数として、うつ病関連症状の評点を従属変数として重回帰分析を行い、その結果をパスモ デルで示した。

(2)

3 研究成果

DV 被害の程度(DVSIスコアの評点)では,参加者の 5.4%に「緊急性があり、早期介入を要 する、または緊急避難を要する」レベルの状態であることが明らかにされ、PHQ-9のスコアでは,

研究参加者の 10.7%に中等度から重度のうつ病関連症状の特性があったこともわかった。属性と DV被害の両方ともうつ病関連症状に影響を与えるが、属性のほうが直接に受けるDV被害よりも うつ病関連症状レベルに影響を与えていた。うつ病関連症状レベルに影響を与える属性の因子に は「学歴(中学校卒業)、精神科通院歴あり、離婚をしたいけれども子どものために思いとどまっ た経験あり、幼少期のDV 暴露あり、年齢 18-49歳、子どもなし、学校でのいじめ被害の経験あ り」があった。

うつ病関連症状レベルに影響を与える DV 被害の因子には、「配偶者またはパートナーは、家 事・育児をまったくやらない、配偶者またはパートナーは、お金をむだに使ったり、不必要なも のに使う、相手は、私に何かいやがらせをした」があり、研究参加者は身体的な暴力よりも精神 的な虐待を受けることが多いとわかった。

4 考察

「幼少期の DV 暴露」と「学校でのいじめ被害の経験」を含む過去のトラウマのイベントは、

うつ病関連症状レベルの得点と有意に関連していた。これらのイベントは、うつ病に対する個人 のレジリエンスを低下させる1) ことが報告されており、本研究結果においてもこれらのイベント がうつ病関連症状に影響を与えていたと考えられる。そのため、学校教育や福祉・医療・公的支 援機関などの適切な場所で、子どもたちに DVやいじめをなくすための倫理教育を行うことは、

成人後、うつ病を抱えるリスクを減らすことができるだろうと考えられる。

本研究では、特に、幼少期の DV 暴露や学校でのいじめ被害の経験などの過去のトラウマ体験

(ACEs) が、後のうつ病関連症状レベルに有意な影響を与えていた。これらの経験は、成人期にお

いてうつ病の危険因子となるような長期間に渡る健康被害をもたらす可能性がある。日本では、

男性被害者が利用できる支援はほとんどない。実際に日本では 100ヶ所を超えるシェルター、各 市町村に少なくとも 1 ヶ所のヘルプラインがあり、DV 被害女性が利用できるが、男性用のシェ ルターは全国で5ヶ所以下、ヘルプラインは10ヶ所以下である (各都道府県管轄: データには示 していない)。男性被害者のための適切かつ実行可能な支援体制の早期構築が望まれる。

1) 荒木剛 いじめ被害体験者の青年期後期におけるリズィリエンス (resilience) に寄与する要因について 2005;

14: 54-68.

5 結論

本研究の結果から、男性の DV 被害は重層的な複雑さがあることが示唆される。被害者は、目 に見える暴力よりも、目に見えない暴力に直面する可能性がある。男性被害者は、女性被害者と は違って男性被害者自身がもつ属性と直接的な身体的暴力被害というよりも配偶者の言葉や態度 による被害がうつ病関連症状レベルに大きな影響を与えており、身体的暴力だけに注目した支援 の提言では、男性被害者にとって不十分かもしれない。包括的な支援が早急に必要とされるだろ う。

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論文審査の結果の要旨

森下順子氏は、男性DV被害者に関するアンケートデータをウェブ上で収集し、被害者のうつ 病関連症状レベルに影響を与える因子を検討した。得られたデータに対して、DV被害とDV以 外の因子(属性:社会・人口統計学的特性、過去のトラウマ体験、過去・現在の精神科通院歴)

に分けてロジスティック回帰分析を行い、その結果から、「学歴 (中学校卒)」、「過去・現在の 精神科通院歴あり」、「離婚をしたいけれども子どものために思いとどまった」、「18-49歳」、「子 どもなし」という項目が、うつ病関連症状レベルと有意な相関を示すことを報告した。また、過 去のトラウマ体験においては、「幼少期のDV暴露あり」と「学校でのいじめ被害の経験あり」

の両者ともに、うつ病関連症状レベルとの有意な相関を示し、DV 被害項目では、ネグレクト、

経済的虐待、精神的虐待がうつ病関連症状レベルと有意に相関を示した。上述の分析に加えて、

「DV被害」と「属性」のうつ病関連症状レベルへの寄与を個別に検討するために、両者を独立 変数とした重回帰分析も行った。その結果、「属性」の方が「DV 被害」よりもうつ病関連症状 レベルへの影響が大きいことが示された。

森下氏の研究は、報告の少ない男性のDV被害について新たな知見を提供し、社会的意義があ る。一方で、森下氏の論文に記述があるように、同氏が実施した調査研究の参加者集団は、一般 人口における児童のいる世帯を構成する集団とは異なり、偏りのある集団である可能性がある。

さらに、得られたデータについても、専門医による診断がなされていないため、うつ病の診断の 確定ができていないことや、参加者のうつ病関連症状レベルの発症時期や期間とDVの発生時期 などのデータが得られていないため、因果関係が保証されないことなど、様々な限界を有してい る。研究結果の適用範囲が一定の限界を備えており、さらに、その妥当性と信頼性について様々 な議論が審査員の間で交わされたが、森下氏の論文について、審査員から与えられたコメントに 対してすべて修正が為されたことから、合格と判断した。

提出された学位論文の結果からだけでは、男性のDV 被害の詳細は不明であるが、今後さらな る研究を重ねることで、全容解明を目指してほしい。

最終試験の結果の要旨

森下順子氏は、男性DV被害者に関するアンケートデータをウェブ上で収集し、被害者のうつ 病関連症状レベルに影響を与える因子を検討した。研究の背景は妥当であるが、森下氏が実施し た調査研究の参加者集団は、一般人口における児童のいる世帯を構成する集団とは異なり、偏り のある集団である可能性がある。そのため、結果については適用範囲が一定の限界を備えている ことを留意する必要があった。発表では、そのことに対する質疑応答で十分な回答が得られず、

周辺領域の知識も十分とは言い難い内容であった。一方で、森下氏の論文については、審査員か ら与えられたコメントに対してすべて修正が為され、論文の修正を通じて、研究に関連する周辺 領域の知識の有無を確認することができた。

提出された学位論文の結果からだけでは、男性のDV被害の詳細は不明であるが、今後さらな る研究を重ねることが述べられており、今後の研究についての展望を示すことができたように思 う。また、森下氏の研究能力及び科学的素養・態度は、論文の記載を通じて示されているため、

(4)

合格と判定した。今後、研鑽を重ね、男性DV被害について更なる調査研究を重ねて頂ければと 思う。

参照

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