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論文内容の要旨 - 自治医科大学機関リポジトリ

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Academic year: 2025

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氏 名 中な かひ ろふ み 学 位 の 種 類 博士 (医学) 学 位 記 番 号 甲第638号

学 位 授 与 年 月 日 令和3年3月15日

学 位 授 与 の 要 件 自治医科大学学位規定第4条第2項該当

学 位 論 文 名 脂肪酸は移植片対宿主病における反応性 T 細胞の酸化的リン酸化に重要 な役割を果たす

論 文 審 査 委 員 (委員長) 大 森 司 教 授

(委 員) 久 米 晃 啓 教 授 賀 古 真 一 准教授

論文内容の要旨

1 研究目的

造血幹細胞移植後の移植片対宿主病(GVHD)は致死的合併症の1つであり、副腎皮質ステロイド 抵抗例の予後は極めて不良である。近年、T 細胞は分化、成熟、活性化に応じてエネルギー代謝 経路を調整しており、その生物学的、免疫学的な機能を制御していることがわかってきた。一般 に外来抗原に対するエフェクターT 細胞はエネルギー代謝の多くを解糖系に依存していることが 知られているが、GVHDではレシピエントの抗原は排除されることなく生体内に永続的に存在する ために反応性T細胞は活性化T細胞とは異なる代謝特性を示す可能性が示唆されている。本研究 の目的はGVHDにおける反応性T細胞の代謝経路及び制御因子の解析を進める事で新たなGVHD治 療の開発に繋げる事である。

2 研究方法

細胞

ヒト末梢血単核球(hPBMC)を採取するためにインフォームド・コンセントが得られた当研究室、

本学附属病院医師の健康成人ボランティアから採血を行った。末梢血から hPBMCを密度勾配遠心 分離により分離した。

磁気ビーズ法を用いてhPBMCよりPan-T細胞を単離した。細胞分裂分析のためCellTrace Far Red を用いて細胞質を蛍光染色した。

免疫不全マウス

メスの NOD/Shi-scid-IL2rgnull(MHC+/+ NOG)マウスおよび NOG-IAβ、β2mのダブルノックアウ ト(MHC-/- NOG)マウスは購入後、本学の実験医学センターで飼育した。マウスは少なくとも一週間、

施設環境に十分に順応させて、7から9週齢で実験に使用した。

異種GVHDモデル

NOG マウスへヒト T リンパ球を静脈内投与で移植し作成した。放射線の全身照射を前処置とし

て実施した実験では、ヒトTリンパ球を移植する4時間前にセシウム137を線源とする照射器を

用いて250 cGyをマウスに実施した。移植したマウスは移植後10~14日目で全例死亡するため移

植後9 日目に解剖を行い、肺臓を採取した。採取した肺臓から、フローサイトメトリー(FACS)等

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を用いてヒト T 細胞を選別し、FACS、電子顕微鏡、リアルタイム定量 PCR、細胞外フラックスア ナライザーを用いて解析した。

統計解析

t検定または一元配置分散分析とボンフェローニの事後比較検定を、PrismまたはEZRソフトウ ェアを用いて行った。

3 研究成果

MHC+/+ NOGとMHC-/- NOGにhPBMCを移植後9日目にホストから肺臓を採取し、ヒトCD4+T細胞と ヒトCD8+T細胞を分離して、それぞれのナイーブT細胞・セントラルメモリーT細胞(CM)・エフェ クターメモリーT細胞(EM)・CD45RAを再発現するEM細胞(EMRA)の脂肪酸・グルコースの取り込み を比較した。MHC-/- NOGと比較してMHC+/+ NOGではCD4+及びCD8+T細胞ともに脂肪酸の取り込みは 統計学的に有意に亢進していた。グルコースの取り込みも、MHC-/- NOG と比較して MHC+/+ NOG の CD8+T細胞においては統計学的に有意に亢進していた。しかし、CD4+細胞では亢進している傾向は みられたが、統計学的有意差を認めなかった。MHC+/+ NOGのヒトCD4+・CD8+T細胞ともにエフェク ター細胞の分化の過程において段階的に肪酸の取り込みは亢進し、EMRA で最大となった。MHC-/- NOGにおいてもCD4+・CD8+T細胞ともにEM細胞はナイーブ細胞と比較して脂肪酸の取り込みは亢 進していたが、CM・EM・EMRAで差は認めなかった。また、CMの脂肪酸の取り込みは同等であった が、EMではMHC-/- NOGと比較してMHC+/+ NOGで亢進していた。グルコースの取り込みは、MHC-/- NOG とMHC+/+ NOGで、エフェクター細胞の分化の過程における違いは認めなかった。

電子顕微鏡を用いて、MHC+/+ NOGのヒトT細胞と健常ドナーのヒトT細胞を比較したところ、

MHC+/+ NOGのヒトT細胞でミトコンドリア及び細胞径が大きくなっていた。

PCR arraysを用いてMHC+/+ NOGとMHC-/- NOGより得られたヒトT細胞の脂肪酸代謝に関する遺 伝子発現を比較したところ、MHC+/+ NOG からのT細胞はLPL、CPT1、HMGCoA synthase、FABPとい った脂肪酸代謝に関する遺伝子が高発現していた。

細胞外フラックスアナライザーを用いて、CPT1阻害剤であるエトモキシルを用いて MHC-/- NOG と MHC+/+ NOGの酸化的リン酸化(OXPHOS)の比較を行った。MHC+/+ NOG においてエトモキシルを投 与すると回収したヒトT 細胞の最大呼吸容量と最大呼吸容量と基礎呼吸容量の差である予備呼吸 容量(SRC)は統計学的有意差をもって減少した。しかし、MHC-/- NOGにおいては減少したものの統 計学有意差は認めなかった。このことからミトコンドリアの脂肪酸輸送が異種反応性 T細胞にお けるミトコンドリア呼吸を行うことに必要である可能性が示唆された。また、MHC+/+ NOG から回 収したヒトT細胞をグルコースの飢餓状態と非飢餓状態とで比較すると、最大呼吸容量やSRCに 変化は認めなかった。加えて、ミトコンドリアへのピルビン酸輸送を遮断しても大きな変化はな く、グルコースによるOXPHOSの低下は反応性T細胞では脂肪酸で代償が可能であることが示唆さ れた。

4 考察

今回の実験結果は、GVHDを発症しているT細胞が脂肪酸とグルコースの取り込みを同時に増加 させる能力がある事を示した。CPT1の薬理学的阻害実験ではMHC+/+ NOGに比べ、MHC-/- NOGで変 化が乏しかったことから、脂肪酸輸送及び脂肪酸酸化の過程の阻害は造血幹細胞移植後の免疫再

(3)

構築への影響が最小限である可能性があると考えられた。このことから反応性T 細胞におけるミ トコンドリアの脂肪酸輸送と脂肪酸酸化がGVHDの治療標的となり得ると考えられる。

5 結論

我々は異種GVHDモデルを用いてドナーT細胞がTCRと宿主MHC抗原の相互作用を通じて細胞外 脂肪酸とグルコースの取り込みを増加させることを示し、外因性の脂肪酸がミトコンドリアの生 合成における重要な役割を果たしている事を示した。今後の研究では、より特異的な阻害剤を使 用して細胞外脂肪酸の取り込みとその後の酸化を標的とすることでGVHDにおける反応性T細胞の 生物活性をより効率的に調整することができる新しい治療法を開発する必要がある。

論文審査の結果の要旨

本研究において申請者らは、同種幹細胞移植後の重篤な合併症であるGVHD の発症に関わる T 細胞のエネルギー代謝について検討を行った。論文の骨子は以下の通りである。

GVHDのモデルはヒトT細胞を免疫不全マウス(NOG)に移植する異種移植モデルを用いた。MHC-/- NOGと比較してMHC+/+ NOGではCD4+及びCD8+T細胞ともに脂肪酸の取り込みが亢進した。グルコ ースの取り込みも、MHC-/- NOGと比較してMHC+/+ NOGのCD8+T細胞において有意に亢進した。グ ルコースの取り込みは、MHC-/- NOGと比較してMHC+/+ NOGで、エフェクター細胞の分化の過程に おける違いは認めなかった。MHC+/+ NOGのヒトT細胞と健常ドナーのヒトT細胞を電子顕微鏡で 比較したところ、MHC+/+ NOG のヒト T 細胞でミトコンドリア及び細胞径が大きくなっていた。

PCR-array で脂肪酸代謝に重要な因子の発現の亢進を認めた。β酸化を薬理学的に阻害すると、

予備呼吸容量が減少した。

以上より、GVHDを引き起こす反応性T細胞においてミトコンドリアの脂肪酸輸送と脂肪酸酸化 がエネルギー代謝に重要であり、脂肪酸代謝がGVHDの新たな治療標的となりうると考察している。

GVHD発症に関与する T細胞のエネルギー代謝への脂肪酸の重要性は過去にも報告があるが、

ヒトT細胞で同様の知見が得られ、その機序を明らかにしたことは新規性がある。今後は、実際 にヒトGVHDを引き起こした患者T細胞での代謝に関する検討が必要である。

研究成果は、すでに原著論文の形で投稿中であり、学位論文として十分な質を有しており、若 干の文章の修正や追記をもって合格とした。

最終試験の結果の要旨

申請者は学位論文の順にそって研究内容の発表を行った。臨床的な背景から研究成果を十分に 理解できるように説明し、結果から得られる考察を適切に述べた。発表の内容は論文審査の結果 に述べた通りである。

審査員からは以下のような質問や修正点が挙げられた。

1. 本研究の新規性について。

2. ヒトGVHDでのT細胞の代謝について。

3. 電子顕微鏡写真に用いた細胞の取得方法について。

(4)

4. LPLの作用点は細胞外ではないか?

5. 事実と推測をきちんと区別し、その上で論理構築に無理が無いような記載を心がけるべきで ある。

6. エトモキシルの生存に対する結果は記載に工夫をした方が良い。

7. 曖昧な表現(高くなっているように見えたが、など)について正確に記載したほうがよい。

申請者は上記について的確に返答することができた。

以上より、発表、質疑応答の内容から研究者として十分な資質を有しており、医学博士号に値 すると判断し、最終試験に合格とした。

参照

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