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論文内容の要旨 - 自治医科大学機関リポジトリ

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Academic year: 2025

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氏 名 齋さ いと うあきら 学 位 の 種 類 博士 (医学) 学 位 記 番 号 甲第655号

学 位 授 与 年 月 日 令和4年3月23日

学 位 授 与 の 要 件 自治医科大学学位規定第4条第2項該当

学 位 論 文 名 糖尿病薬治療薬のがん免疫微小環境に及ぼす影響の解明

論 文 審 査 委 員 (委員長) 教 授 石 橋 俊

(委 員) 准教授 鈴 木 浩 一 講 師 唐 澤 直 義

論文内容の要旨

1 研究目的

糖尿病は様々な癌の発症リスクを高め、担癌患者における予後不良因子である。疫学調査によ って抗糖尿病薬メトホルミンは様々ながんの予後を改善することが示唆されているが、近年、メ トホルミンは腫瘍免疫を活性化することにより抗腫瘍効果を発揮することが解ってきた。がん微 小環境には、リンパ球(TIL)、好中球(TAN)やマクロファージ(TAM)が存在し、高密度のTANやTAM の浸潤は予後不良因子とされているが、メトホルミンがヒトのがん微小環境においてこれらの免 疫細胞の浸潤や機能をどのように調節しているかは不明である。そこで、本研究では、2型糖尿病 を合併した大腸癌症例において、メトホルミン服用が予後に与える影響を調査するとともに、切 除標本の免疫組織化学染色(IHC)を施行し、メトホルミンがヒト大腸癌のがん免疫微小環境に与え る影響を明らかにする。また、近年糖尿病治療薬として DPP-4阻害薬が広く使用されているが、

がんの予後に与える影響に関しては一定の見解が得られていない。そこで、同様の方法で DPP-4 阻害薬の患者予後およびがん免疫微小環境に与える影響を検討する。

2 研究方法

1.2009年1月から2020年3月までに自治医科大学附属病院 消化器一般移植外科で治癒切除を施

行した 2 型糖尿病合併大腸癌患者を選択し、メトホルミン内服・DPP-4 阻害薬内服の有無を調査 した。これらの患者における臨床病理学的因子および予後について解析した。また、メトホルミ ン内服群 40 人とメトホルミン非内服群から傾向スコアマッチング法によって背景を一致させた 40 人 の 切除 標本 を用 いて IHC に より 浸 潤免 疫細 胞 (TIL、TAM、TAN、Tertiary Lymphoid Structure(TLS))を同定し、2群間でその分布状況を比較検討した。DPP-4阻害薬内服群40人と 非内服群40人においても同様の方法で評価を行った。

2.健常人末梢単核球(PBMC)と多形核細胞(PMN)を採取し、PBMCからCD14(+)単球(PBMo)とリンパ球 (PBL)を分離した。PBMoをM-CSFとIL-10+IL-4で刺激しM2型マクロファージに分化誘導させる 実験系にメトホルミン(100μM〜1mM)を添加し、フローサイトメトリーで表面抗原の発現を定量し た。また、これらのマクロファージの共存下にPBLを抗CD3抗体で刺激し、その分裂をCFSE希釈 アッセイにより検討した。また、末梢血好中球(PMN)をLPSで刺激し、NETsの放出をSYTOX Green

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により発色させ同定する実験系に、メトホルミン(10μM〜100μM)を添加し NETs産生に与える影 響を検討した。

3 研究成果

1.治癒切除を受けた糖尿病を合併大腸癌症例267例中52例(19.4%)が手術時にメトホルミンを内

服しており、メトホルミン非内服群と比べて有意に若く(p<0.05)、pN ステージが有意に低かった (p<0.05)。両群間で全生存率(OS)に有意差は認めなかったが、無病生存率(DFS)はメトホルミン内 服群が有意に良好であった(p<0.05)。切除標本のIHCでは、CD3(+)TIL・CD8(+)TILの密度は共に メトホルミン内服群で有意に増加して(p<0.01)おり、CD8/CD3比はメトホルミン内服群で有意に 高かった(p<0.001)。また、メトホルミン内服群では、CD68(+)TAMは、有意に増加していた(p<0.01)

が、CD163(+)のM2マクロファージ減少傾向を認め(p=0.10)、TAM中のM2マクロファージの比率 は有意に低下していた(p<0.001)。さらに、メトホルミン内服群ではTLSと胚中心を伴ったTLSは メトホルミン内服群で有意に増加しており(p<0.05)、CD66b(+)TANとシトルリン化ヒストンH3(+) のNETosisは有意に減少していた(p<0.001)。

2.PBMoをM-CSFとIL-4+IL-10を用いて培養すると、M2マクロファージのマーカーであるCD206

とCD163の発現増強が確認されたが、この分化の過程でメトホルミンを添加するとCD206、CD163

の発現は用量依存性に低下する傾向が認められた。また、CFSE希釈アッセイでは、M2マクロファ ージと共培養した場合、CD4(+)、CD8(+)Tリンパ球の増殖は抑制されたが、メトホルミンで前処理 したマクロファージと共培養するとその抑制が解除されるだけでなく、高濃度のメトホルミンを 用いた場合はTリンパ球の分裂・増殖を増強する傾向を認めた。LPSで刺激したPMNはNETsを放 出したが、メトホルミンにて用量依存性に抑制された。

3.DPP-4阻害薬内服症例は132例で糖尿病症例中51.2%であった。臨床病理学的因子はDPP-4阻害 薬内服群が有意に高齢であった(p<0.05)が、その他の因子は2群間で有意差を認めなかった。2群 間ではOSに有意差は認めなかったが、DFSはDPP-4阻害薬内服群が有意に悪かった(p<0.05)。切 除標本のIHCではDPP-4阻害薬内服群で、Zeb1陽性腫瘍細胞が有意に多かった(p<0.01)。また内 服群では、CD3(+)、CD8(+)Tリンパ球は有意に減少し(p<0.01)、CD8/CD3比は有意に低く(p<0.001)、 TLSや胚中心を伴うTLSは有意に少なかった(p<0.01)。CD68(+)TAMに関しては2群間で有意差を 認めなかったが、CD163(+)M2マクロファージは内服群で有意に増加していた(p<0.001)。

4. 最後に、DPP-4阻害薬内服患者132名中30名がメトホルミンを併用しており、その患者群の

DFSはDPP-4阻害薬非内服群とほぼ同等なレベルに改善していた。

4 考察

メトホルミンの内服がヒト大腸癌組織におけるTIL数、特にCD8(+)Tリンパ球を増加させるこ と、腫瘍間質におけるTLSおよび胚中心を伴うTLSの密度を増加させることが確認された。TLSは 局所の免疫応答を反映すると考えられ、本研究でもTLS数と総TIL数またはCD8(+)Tリンパ球数 に正の相関があったことから、メトホルミンはTLSの誘導を介してCD8(+)Tリンパ球の浸潤を増 強させる効果を有していることが推測された。近年、マウスを用いた動物実験にて、メトホルミ ンががん微小環境において疲弊した Tリンパ球の再活性化を促すことにより抗腫瘍効果を発揮す ることが報告されているが、本研究結果はこれらの報告と合致し、メトホルミンの抗腫瘍効果に

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は宿主の免疫が関与していることがヒトでも確認された。

また、CD163(+)/CD68(+)比によって定義されるTAM中のM2マクロファージの割合はメトホルミ ン内服群で有意に減少していた。In vitroにおいてメトホルミンはM2マクロファージへの分化 を抑制し、Tリンパ球の分裂・増殖を促進させることが確認された。マクロファージはSTAT3のリ ン酸化を介してM2マクロファージへ分化するが、メトホルミンはSTAT3のリン酸化を抑制し、M2 への分化を抑制することが既に報告されており、本研究結果はこれと一致する。前述のメトホル ミンの疲弊 Tリンパ球の再活性化のプロセスには、マクロファージを介した機序が深く関与して いる可能性があると考えられた。更に、メトホルミンはTANのNETs形成にも抑制的な作用を持つ ことも確認できた。以上の結果から、メトホルミンがヒトの大腸癌組織の免疫学的微小環境を抗 腫瘍的に変化させており、これが大腸癌根治切除後の患者予後の改善に繋がっている可能性があ ると考えられた。

一方、DPP-4阻害薬は大腸癌治癒切除後のDFSを増悪させた。IHCでは、DPP-4阻害薬はEMTを 誘導することに加え、免疫細胞に対してメトホルミンと全く逆の作用をもたらすという結果が得 られた。DPP-4阻害薬の腫瘍細胞への直接的作用としてCXCL12/CXCR4/mTOR経路を介してEMTを 促進させる作用あること、DPP-4により分解されるGLP-1がJNK/STAT3経路を介してM2マクロフ ァージへ分化誘導すること、PI-3キナーゼ活性を阻害することでTリンパ球の遊走を阻害するこ と等が報告されている。これらの結果は本研究結果と合致し、DPP-4阻害薬ががん免疫微小環境を 腫瘍促進的な環境に変化させることにより、再発率を高め、予後を増悪させる可能性があること が考えられた。これまでの疫学研究のメタアナリシスの結果から、DPP-4阻害薬は現時点でがんの 罹患率や死亡率には有意な影響は与えないということが提唱されている。しかし、本研究結果か

ら、DPP-4阻害薬にはがんの進行を促進する効果を有している可能性があり、少なくとも治癒切除

された大腸癌に限っては、DPP-4 阻害剤の服用に関しては慎重に対応する必要があると考えられ た。

5 結論

糖尿病合併大腸癌患者においては、メトホルミンは術後再発を減少させ、DPP-4阻害薬は術後再 発を増悪させる作用が確認され、薬剤の選択が治癒切除後の患者予後に大きな影響を与える可能 性が考えられた。この研究は後ろ向きコホートであり、患者背景において統一されていないため、

今後、前向き臨床研究により、多種の癌腫におけるこれらの薬剤の予後に対する影響を検討する とともにその薬理作用に関するより詳細なメカニズムの解明が望まれる。

論文審査の結果の要旨

経口血糖降下剤メトホルミンの抗腫瘍効果を示す症例対象研究が報告されている。メトホルミ ンには腫瘍細胞増殖抑制作用以外に、腫瘍免疫活性化作用が報告されている。そこで、申請者は 糖尿病を既往に有する大腸癌症例の中で、メトホルミンか DPP-4阻害薬投与群とそれ以外の症例 の予後を比較し、さらに薬剤投与群と傾向スコアマッチングした対照群の腫瘍組織における腫瘍 浸潤リンパ球 (TIL)・腫瘍関連マクロファージ・tertiary lymphoid structure (TLS)・間質の線 維化を免疫組織学的手法で比較した。さらに、培養細胞を用いたin vitroの実験系で、マクロフ

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ァージの分化・Tリンパ球サブセット・マクロファージと共培養したリンパ球増殖能・NETs放出 能に対するメトホルミンの効果を検討した。

メトホルミン投与群は全生存率 (OS)に有意差はなかったが、Disease free survival (DFS)を 改善した。術後継続内服群では顕著にDFSが改善した。一方、Stage IVのOSは両群間で有意差 はなかった。一方、DPP-4阻害薬内服群ではOSに有意差はなかったが、DFSは悪化した。

メトホルミン投与群ではCD3陽性リンパ球数・CD8陽性リンパ球数・CD8/CD3比の増加とCD68陽 性細胞増加・CD163 陽性細胞減少・CD164/CD68比の減少とが観察された。メトホルミン投与群で は TLS が増加し、腫瘍関連好中球(TAN)と NETosis が減少した。一方、線維化に差はなかった。

DPP-4阻害薬投与群では上皮間葉転換(EMT) マーカーのZeb1陽性細胞が増加し、CD3陽性リンパ

球数・CD8陽性リンパ球数・CD8/CD3比は減少した。CD163陽性細胞増加・CD164/CD68比増加・TLS 抑制が観察された。

メトホルミンはマクロファージ M2 マーカーや免疫チェックポイント分子の発現を抑制し、

CD4/CD8 Tリンパ球増殖を抑制し、M2マクロファージと共培養したCD4/CD8 Tリンパ球増殖を促

進し、NET放出を抑制した。

以上のように、メトホルミンとDPP4-阻害薬は腫瘍免疫の活性・抑制作用があり、それぞれ大腸 癌の予後に関して改善・悪化作用を有することが示された。

メトホルミンとDPP-4 阻害薬の腫瘍免疫への作用を多角的アプローチにより証明した独創性が 高い意欲的な研究である。一方、後ろ向き研究であり、in vitroで使用された薬剤が極めて高濃 度である点などの問題点が指摘された。指摘事項に対して適切に改訂され、学位に相応しい内容 であると全員一致で判断した。

最終試験の結果の要旨

申請者から研究の背景・方法・結果・考察について必要十分な発表がなされた。

特にDPP-4 阻害薬が大腸癌の予後を悪化させる可能性はこれまでに指摘されておらず、その臨

床的意義の解明は今後の重要な研究課題である。

審査員から以下の質疑があった:1)メトホルミンの作用機序、2)メトホルミンの標的細胞、

3)糖尿病以外の患者に対するメトホルミンや DPP-4 阻害薬の効果、4)メトホルミンの投与量 と投与期間、DPP-4阻害薬の内訳、投与量ないし投与期間。以上の質疑を理解し、応答も適切であ った。

研究に関連する周辺領域の知識も十分であった。

以上にように、申請者の研究遂行能力および科学的素養・態度は学位に値すると全員一致で判 断した。

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