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論文内容の要旨 - 自治医科大学機関リポジトリ

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Academic year: 2024

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氏 名 柿か きEA AEざ わEA AE EA AE E 学 位 の 種 類 博士 (医学) 学 位 記 番 号 甲第562号

学 位 授 与 年 月 日 平成31年3月20日

学 位 授 与 の 要 件 自治医科大学学位規定第4条第2項該当

学 位 論 文 名 satellite alpha transcripts高発現と両側乳癌、他臓器癌合併発症の関 連についての検討

論 文 審 査 委 員 (委員長) 教 授 福 嶋 敬 宜

(委 員) 准教授 金 田 る り 講 師 三 瀬 名 丹

論文内容の要旨

1 研究目的

乳癌患者は対側乳房や他臓器に癌を発症するリスクが高い。我々の研究室では、今までに

satellite DNA の高発現が、胃癌や大腸癌の多発癌において、さらに非癌部においても認められ

ることを報告してきた。satellite DNA の一つであるsatellite alphaは染色体のセントロメア に存在する縦列型反復配列であり、ヘテロクロマチン構造維持に不可欠で、染色体安定性に関与 している。ここから転写されるsatellite alpha transcripts (SAT)を高発現させた細胞におい て、染色体分離不全を引き起こしたことも報告した。今回の研究では、乳癌に焦点を当て、多発 癌すなわち両側乳癌や他臓器癌合併の発生に関与する SATの重要性を解明することを目的とした。

2 研究方法

自治医科大学附属さいたま医療センターで診断、治療を行った乳癌患者から同意を得て、乳腺 組織(癌部、非癌部)を採取した。これを用いて、SAT をリアルタイム PCR で測定し、relative expression level of SAT (rSAT)を算出した。さらにarray CGHの手法を用いて、DNAコピー数 の変化を調べた。患者の臨床病理学的情報として診療録から引き出したデータをもとに、統計ソ フトEZRを用いて統計学的解析を行った。

さらに癌の発生におけるSATの関わりを調べるため、乳癌発生モデルマウスを作製した。マウ スのサテライトDNAであるmajor Satellite配列をレンチウイルスベクターに搭載し、11週齢の マウスの右側乳管5か所に投与することで、乳癌の発生について観察した。

3 研究成果

患者を単発乳癌、両側乳癌、他臓器癌合併の 3グループに分け、多発癌発症に関与する因子に ついての解析を行った。全体の解析では、両側乳癌発症に関わる因子は単変量解析でT(腫瘍の大 きさ)(P =0.0427)、癌部rSAT (P =0.0101)、非癌部rSAT (P =0.0240)が抽出され、多変量解析 で非癌部 rSATが両側乳癌発症の有意なリスク因子として同定された(OR 3.70, 95% CI 1.27-

10.8, P =0.0164)。また他臓器癌合併に関わる因子は、単変量解析で、T(腫瘍の大きさ)(P

=0.00110)と癌部rSAT (P =0.00714)が抽出され、多変量解析でこの両者が他臓器癌発症の有意な

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リスク因子として同定された(T; OR 7.65, 95% CI 1.70-34.5, P =0.00812, 癌部rSAT; OR 2.76, 95% CI 1.06-7.16, P =0.0368)。

今回の対象の中には、BRCA変異を代表とする遺伝的要因が関わる患者が含まれていると考えら れた。この遺伝的要因ではなく、SATの多発癌発症への影響をより明確にするために、遺伝性乳癌 関連因子を持つ症例を除いて検討した。両側乳癌発症については、単変量解析で、癌部 rSAT (P

=0.000856)、非癌部rSAT (P =0.000955)が抽出され、多変量解析において、非癌部rSATが独立し た危険因子として同定された(OR 22.7, 95% CI 3.43-151, P =0.00120)。さらに、他臓器癌発症 においても、単変量解析で抽出された関連因子は、癌部 rSAT (P =0.0124)、非癌部 rSAT (P

=0.0215)、T (P =0.00223)であり、多変量解析において、非癌部rSATが独立した危険因子と同定 された(OR 13.0, 95% CI 2.09-81.0, P =0.00601)。すなわち非癌部のrSAT高発現症例は、両側 乳癌のリスクが22倍、他臓器癌合併のリスクが13倍となることが判明した。arrayCGHも同様に、

遺伝性乳癌関連因子の有無で分類した。関連因子なし群は、因子あり群に比較して、有意に増幅

が多く(P =0.0468)、欠損も多い傾向であり、合計して算出したコピー数変化も多い傾向が認めら

れた。

マウスの乳癌発生モデルについてはウイルスベクター投与後6週経過した時点で、乳腺組織の プレパラートを作製したが、乳癌の発症は見られていない。また投与後18週と19週のマウスを 観察中であるが、どちらも肉眼上、触診上で乳癌は発症していない。

4 考察

癌組織周辺の正常組織では、エピジェネティックな変化が認められており、これが field

cancerization を形成し多発癌発生につながると考えられている。この変化はヒトの様々な癌種

において、遺伝子変異を伴わない癌化に関与していると判明しており、染色体不安定性に関与し ている。我々の研究室では、DNA の低メチル化やそのターゲットとなるSatellite DNA について 研究を継続しており、胃癌や大腸癌において、多発癌のリスク因子となることを証明してきた。

今回の結果と総合すると、SATが低メチル化を介して染色体不安定を誘導し、field cancerization の形成や癌の多発発症として表出していると結論付けられる。

両側乳癌のリスクファクターとしては、若年発症、乳癌家族歴、TNBCがよく知られており、こ れらは、BRCA変異などの遺伝性乳癌と関連があるとされている。しかし、BRCA変異を持たない両 側乳癌患者もおり、BRCA変異検索のみでは両側乳癌の予測には不十分であるといえる。その一方 で、両側乳癌に対する恐怖心やボディイメージへの関心から、予防的両側乳房切除を行う患者が 増えている。しかしこの手術は、乳癌患者の予後改善には役立っておらず、両側乳癌リスク因子 の同定が望まれるところである。また乳癌患者の他臓器癌については、婦人科領域癌のみでなく、

消化器癌の合併も多いことが今回判明した。この研究で、遺伝性乳癌関連因子を持たない症例に おいて、非癌部の SAT高発現は、両側乳癌、他臓器癌合併のリスク因子であることが示された。

これは、乳癌患者の治療方針決定や他臓器癌の検索において、有用なデータとなると考える。

5 結論

われわれは今回、遺伝性乳癌関連因子を持たない乳癌患者において、非癌部SATの高発現が両

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側乳癌や他臓器癌合併のリスク因子となることを証明した。この患者は今までは両側乳癌の高リ スク群からは除外されていたが、この中にも高リスクを有する患者がいることを示した。この研 究は、癌の多発発症にかかわるSATの重要性を示したという意義に加え、このデータをもとにし て、患者が治療法を選択する際に有用な情報を提供できると考えている。

論文審査の結果の要旨

柿澤奈緒氏の論文「satellite alpha transcripts高発現と両側乳癌、他臓器癌合併発症の関 連についての検討」は、大きく2つのパートからなる。第一部は、satellite alpha transcripts

(SATs)が両側乳癌や他臓器癌合併につながるfield cancerizationに関与するかどうかを調べ るために、臨床検体を用いておこなった解析である。第二部は、マウスの乳癌モデルを作製し、

マウスのSatellite DNAであるmajor Satellite配列を導入したレンチウイルスベクターを作製 して、マウスの乳管に投与し、乳癌の発癌時期や形態に違いが生じるかどうかの観察を行おうと したものである。

第一部では、乳癌患者167人の内、乳癌の発症に深く関わっているとされる遺伝性乳癌の特徴 を持った患者を除外しての検討の結果、非癌部におけるSATs高発現症例が、低発現症例に比較し て22倍の両側乳癌のリスクを持ち、さらに11倍の他臓器癌合併のリスクを持つという結果が導 き出されている。この結果について、氏は「今まで両側乳癌のリスクは低いとされていた遺伝性 乳癌関連因子を持たない集団の中にも、両側乳癌や他臓器癌合併のリスクが高い患者がいること を指摘した」という意義を述べている。

第二部では、major Satellite 配列を導入したレンチウイルスベクターをマウス乳管に投与す ることで、乳腺にmajor Satelliteを強制発現させるモデルマウスを作製して、その癌の発生時 期、個数、大きさの差異や、組織系、脈管侵襲などを検討し、Satellite DNAがターゲットとする 遺伝子の同定も行う計画であったが、乳癌の発症には至らなかった。しかし、発癌に至らなかっ た理由を詳細に考察し、次の実験に生かそうとしている意欲は評価できる。

審査会では、SATs高発現が乳癌発症に関わる機序などの追究を行うべきとの意見も出たが、審 査会では示されなかったアレイCGHによる解析も行っており、遺伝性乳癌関連因子を持たずSATs の関与が示唆される乳癌においては、様々な染色体に、より多くのコピー数変化が生じているこ とを明らかにするなど、SATsが染色体不安定性を通して癌化に関与するのではないかとの考察も 示すことができた。乳癌症例には、乳管癌、小葉癌が含まれているとのことであったが、小葉癌 は1例のみということであり、解析結果に大きな影響はないとの判断に至った。

第二部は、計画通りに実験を進めることができなかったが、第一部はすでに英文論文を投稿中で あり、一定の成果を得たと考えられた。以上を審査委員全員で総合的に再審議した結果、本学の 医学博士の資格に値する研究であるとの結論に達した。

最終試験の結果の要旨

審査会においては、Satellite alpha transcripts (SATs)が両側乳癌や他臓器癌合併につなが

るfield cancerizationに関与するかどうかを調べるために、臨床検体を用いておこなった解析を

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主体として、マウスの乳癌モデルを作製し、マウスのSatellite DNAであるmajor Satellite配列 を導入したレンチウイルスベクターを作製して投与し、乳癌の発癌時期や形態に違いが生じるか どうかの観察を行おうとした研究についても、非常に分かりやすく明確な発表が行われた。

その後の諮問においては、field cancerizationの説明がなされていないとの指摘や、機序に関す る質問などが為されたが、氏は、一つ一つの質問に対し誠実かつ適切に対応することができた。

氏の研究内容の発表や諮問に対する対応から、十分な周辺の知識ならびに見識を備えていると考 えられた。さらに、これまで学位論文のテーマ以外にも、多くの論文発表や学会発表を行ってき ており、氏の意欲と実績、さらに今後の研究の継続と発展への意気込みについても審査委員全員 が高く評価し、合格と判定した。

参照

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