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論文内容の要旨 - 自治医科大学機関リポジトリ

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Academic year: 2025

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氏 名 小 EA AEや まEA A EじゅんE 学 位 の 種 類 博士 (医学) 学 位 記 番 号 甲第565号

学 位 授 与 年 月 日 平成31年3月20日

学 位 授 与 の 要 件 自治医科大学学位規定第4条第2項該当

学 位 論 文 名 MPCポリマーを用いた歯科用修復物のin situ防汚処理 論 文 審 査 委 員 (委員長) 教 授 吉 村 浩太郎

(委 員) 教 授 西 村 智 准教授 渡 邊 真 弥

論文内容の要旨

1 研究目的

エナメル質,象牙質に対する優れた接着性,また,修復による審美性が高いことから,齲蝕治 療では歯科用修復物としてコンポジットレジン(CR)が広く使用されている.しかし,齲蝕原因菌 であるStreptococcus mutans (S.mutans)などによる糖代謝で産生される酸が,歯質とCRの間 隙に侵入して歯質が脱灰することで二次齲蝕を起こすことが問題となっている.充填された CR の周囲の歯質が二次齲蝕に罹患するとさらなる窩洞形成により歯質の欠損が大きくなり,齲蝕が 歯髄にまで及んでいる場合は麻酔抜髄に至り,その後は根尖病巣や歯根破折による抜歯にまで至 る可能性が生じる.齲蝕原因菌が存在するデンタルプラークはタンパク質の吸着が引き金となり 形成される.したがって,齲蝕の二次発生を抑制するためには CR 表面でタンパク質が安定な吸 着層とならないようにすることが極めて重要である.本研究では細胞膜に存在するリン脂質の極 性基と類似した構造を持ち同じ化学構造を分子内に有し,タンパク質吸着や細胞接着、細菌付着 を阻止することが期待できる 2‐メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマー に着目した.MPCポリマーは人工心臓や人工股関節,コンタクトレンズ等に臨床応用され,安全 性の担保がなされているバイオマテリアルである.このMPC ポリマーを用いてCR を表面処理 することでタンパク質吸着,細菌付着,バイオフィルムの形成が抑制されて二次齲蝕発生の可能 性を低減できると考えた.その表面処理法を確立させることが本研究の目的である.光重合した CR の 一部 に は 未反 応 の 重合 性 基 が 残存 し て いる . 重 合 性 基で あ る 炭素 - 炭 素二 重 結 合 (CH2=CR1R2)を有するMPCポリマーをCR表面に塗布して光照射することで,CR表面にMPC ポリマーが化学結合される.口腔内で CRにMPCポリマーを結合させ,タンパク質吸着,細菌 付着,バイオフィルム形成を抑制するような表面処理法の構築を目的とする.口腔内で処理する ためには,短時間かつ簡便な操作,口腔内軟組織に対して低侵襲な溶媒の選択,口腔内は常に湿 潤状態にあるため防湿下での表面処理が必要となる.

また,口腔内環境維持のために,歯ブラシによるブラッシングを行う.歯ブラシによるCR 表 面に修飾された MPC ポリマーの剥離による防汚性の低下が懸念される.歯ブラシを用いた摺動 試験を行い,摺動後の CR 基板の表面特性について解析を行うことで CR 表面に化学結合した MPCポリマーの物理的耐久性の評価を行うことも本研究の目的である.

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2 研究方法

CRに表面処理を行うために使用するMPCポリマーを自ら合成して得た.得られたMPCポリ マーに対してフーリエ変換赤外分光法(FT-IR),核磁気共鳴分光法(NMR)を用いてMPCポリマー の有する官能基と構造の解析を行った.

MPCポリマーと重合開始剤(カンファーキノン)をエタノールに溶解させた溶液をCR表面に小 筆を用いて塗布し,実際の臨床で使用する光照射器で光照射して光化学反応させた後,エタノー ルで洗浄したものを解析用の基板とした.表面処理を行ったCRの表面解析を行うためにX線光 電子分光法(XPS),水中での空気の静的接触角の測定,μBCA 法によるタンパク質吸着量測定を 行った.XPSではMPCポリマーの特徴的な構成元素である窒素およびリン原子のピークを確認 することで CR表面に MPCポリマーが適切に表面処理されているかを評価した.静的接触角の 測定では MPCポリマーで表面処理を行ったCRの親水性の評価,さらにCR表面のタンパク質 吸着抑制能の評価を唾液中に多く存在する糖タンパク質のムチンを使って行った.また,CR 表 面の細菌(S.mutans)付着能とバイオフィルム形成能の評価およびバイオフィルム形成試験も行っ た.これらの試験では走査型電子顕微鏡(SEM)を用いての CR 表面の細菌の付着状態,バイオフ ィルムの形成状態の観察による定性的評価,希釈平板法での細菌コロニーの計数,分光光度計を 用いたバイオフィルム懸濁液の濁度測定による定量的な評価を行った.ブラッシング操作が CR の表面特性に与える影響に関しては摩擦・摩耗試験機による歯ブラシ摺動試験を行うことで確認 した.歯ブラシで摺動させたCRを試料として用いて上記と同様にμBCA法によるタンパク質吸 着測定,細菌付着試験,バイオフィルム形成試験を行うことで,口腔内での使用を前提とした MPCポリマーの防汚性と物理的耐久性の評価を行った.

3 研究成果

合成して得たMPC ポリマーの構造にCR表面との結合に必要な重合性基である炭素-炭素二 重結合(CH2=CR1R2)が含まれていることをFT-IR にて確認できた.また,CR表面の炭素-炭素 二重結合(CH2=CR1R2)の有無についても同様にFT-IRにて評価を行ったところ,その存在が確認 された.

このMPCポリマーを用いて表面処理を行ったCR表面に対してXPSによる表面の元素分析を 行ったところ,MPCポリマーの特徴的な構成元素である窒素およびリン原子のピークが確認され た.このことから,CR表面にMPCポリマーが適切に表面処理されたことが示された.静的接触 角測定では,口腔内は常に湿潤状態にあるため水中での空気の接触角測定を行った.その結果,

MPCポリマーで表面処理したCR表面は,未処理のCR表面と比較して高い親水性を示した.さ らに,MPCポリマーで表面処理を行うことでCR表面はタンパク質吸着が有意に低減することが 示された.また,細菌付着試験,バイオフィルム形成試験では SEM 観察による定性的評価,希 釈平板法,分光光度計を用いたバイオフィルム懸濁液の濁度測定による定量的評価を行ったが,

MPCポリマーでCRの表面処理を行うことで細菌付着,バイオフィルム形成が抑制されることも 示された.一方で,歯ブラシによる摺動後は MPCポリマーで CR表面を修飾した場合でもタン パク質吸着量,細菌付着量,バイオフィルム形成量のいずれも増加を認めた.

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4 考察

MPCポリマーにて表面処理を行ったCR表面における水中での接触角測定で表面処理後のCR 表面で高い親水性が得られたのは,水中でCR 表面に親水性のMPC ユニットの側鎖であるホス ホリルコリン基が配向したためと考えられる.また,タンパク質吸着や細菌付着を抑制し,さら にバイオフィルムの形成が阻止されたことは,CR 表面に親水基が存在することで生体反応の起 因となるタンパク質とCR表面との疎水性相互作用が生じにくいことによる.さらには,MPCポ リマーの表面電位は-0.4 mVとほぼゼロである.したがって,タンパク質や細菌とは直接的な静 電的相互作用が生じない.一方,摺動後のCR 表面のタンパク質吸着量などの増加は,歯ブラシ での摺動によりCR表面が摩耗し,修飾されたMPCポリマー層が剥離されたためと考えられる.

医科領域では前に述べたように MPC ポリマーは既に臨床応用されているが,これまでに歯科領 域においてはMPCポリマーを使用した生体材料についての報告は少なく,特にCR表面とMPC ポリマーとの化学結合に関する報告は渉猟する限り認められない.また,MPCポリマーは歯科領 域では未だに臨床応用されていない.CR表面に残存する未反応の重合性基(CH2=CR1R2)と同様 の重合性基を導入したMPC ポリマーを合成し,この溶液をCR表面に塗布して光照射すること でCR表面にMPCポリマーを化学結合させるという表面処理法は新規性があり,本研究の特色・

独創的な点である.

5 結論

光照射を行うことで光化学反応によってMPCポリマーをCR表面に結合させることができた.

これらの表面処理されたCR 表面は高い親水性,タンパク質吸着,細菌付着,バイオフィルム形 成抑制能を示した.

物理的耐久性の点ではまだ課題点が残るが,本研究で CR 表面の新たな防汚処理法を確立させ ることができた.本研究は歯科用修復物の優れた防汚処理技術の開発に繋がり,国民の口腔内環 境維持に貢献することが期待できる.また, MPCポリマーを用いた CR表面処理法は,実際の 臨床での歯科治療に応用できるものである.

論文審査の結果の要旨

本論文では、新しい合成ポリマーを開発して、歯科用の修復物としての有用性について検証を 行った。人工歯の材料のである CRに塗布して、光化学反応により表面に結合させることができ た。その表面は高い親水性を示し、さらにタンパク吸着、細菌付着、バイオフィルム形成を抑制 する機能を確認できた。物理的な長期的耐久性、自然歯との親和性(吸着性)においては、まだ 課題が残るが、CR表面の防汚処理についての新しいアプローチを提示することができた。

論文審査では、一般にわかりやすく背景や考察に説明を加えること、残された課題について明 示すること、統計や方法についての記述の追加、グラフの統計に関する説明を追加すること、な どの改訂を求め、すべてが適切に改善されたため、合格と判断した。

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最終試験の結果の要旨

本論文では、新しく開発した合成ポリマーが、歯科用の防汚用コーティング剤として、臨床的 にも一定の有用性があることを示した。物理的な長期的耐久性、自然歯との親和性(吸着性)に おいての課題は残るものの、CR 表面の防汚処理についての新しいアプローチを提示し、今後さ らに利用価値の高い材料の開発につながる可能性を示すことができた。

研究プレゼンでは、研究内容の詳細について適切かつ要領を得た説明を行い、質疑においても、

本研究に関する十分な専門知識と実際の経験を示すことができた。論文も英文雑誌に投稿し、

Reviseの査定結果をもらって、論文の改訂について鋭意努力していることが確認された。

以上より、申請者の学識および研究能力は学位授与に充分値するものと審査委員全員一致で判 断した。

参照

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