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経営維持と静的実体維持会計論

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(1)

論 文

経営維持と静的実体維持会計論

高 山 清 治

         目  次

        一 序

       二 経営維持と会計

        二−一 経営維持

        二−二 経営維持の国民経済的ならびに経営経済的意義

        二一三 経営維持と会計との関係

       三 ゲルトマッハーの静的実体維持会計論

        三−一 ゲルトマッハーの企業観

        三一二 静的実体維持会計思考

        三−三 費用評価の原則

一経営維持と静的実体維持会計論−

(2)

一論文一

 三一三t一 固定資産の費用評価

 三−三一二 棚卸資産の費用評価

 三−三一三 流動資金の費用評価

四 結 四−一 ゲルトマッハーの静的実体維持会計思考の特徴

 四iニ ゲルトマッハーの静的実体維持会計思考の限界

 会計学は周知の通り︑個別企業の経済活動︑すなわち個別企業の資本運動を対象とし︑主に企業資本の管理及びそ

の保全を目的とする︒会計学上︑この企業の資本運動に関する考察法としては二〇世紀初頭から二つの見解つまり

企業経済活動のうち財貨経済事象を重視する財貨経済的考察法と貨幣経済事象を重視する貨幣経済的考察法とがあ

脅・︶

 財貨経済的考察法は企業の経済活動過程つまり資本循環G−WlαIWのうちW−Wの財貨的事象に注目

し︑また貨幣経済的考察法は資本循環のうちGlαの貨幣的事象に注目する︒従って︑前者は資本を実体資本すな

わち﹁初期の量的一定生産力ないしは初期の投入財貨量﹂と解し︑後者はそれを貨幣資本すなわち﹁貨幣数値による       パ ロ一定の元入資本﹂と解する︒

 われわれは実体資本の維持原理に基づく会計を実体維持会計思考と呼ぶ︒この実体維持会計思考は実体の維持をも

(3)

って経営維持と解するもので︑財貨思考原理に立つ︑そして国民経済全体における生産機構の一部としての財貨的資

本維持すなわち﹁将来市場から要求される財貨用役を経済的に製造できる財貨資本の維持状況の確認﹂を会計目標と

する︒この目標達成のために会計期間で費消された財貨資本を費用として測定し︑その費用と収益を対応させて損益       ︵3︶       ︵4︶計算を行う︒この見解の主張者としてはゲルトマッハー︵国Ωo匡ヨ8げR︶とシュ・・︑ット︵﹁ω9ヨ一鼻︶があげら

れよう︒ これに対して︑われわれは貨幣資本の維持原理に基づく会計を貨幣資本維持会計思考と呼ぶ︒この貨幣資本維持ム︑ム

計思考とは近代経済の貨幣思考原理に立ち︑危険の担い手としての自己資本と他人資本の維持状況の確認を会計目標

とする︒そしてこの目標達成のためには一会計期間の収益収入にその期の費用支出つまり費消された名目資本を対応      ︵5︶       ︵6︶させて損益計算を行う.︑この見解はリーガー︵≦︒空罐震︶やコジオール ︵国内︒巴巳︶等によって主張される︒以

上︑会計学には基本的に二つの会計思考がある︒

 われわれは本稿において前者の実体維持会計思考に着目する︒この実体維持会計思考は静的なものと動的なものと

     パクロに分類される︒静的実体維持会計思考とは生産要素の在高を静的なものとみなし︑エ︑の生産要素の費消は同一の質と

量で補充される︒すなわち静的実体維持会計思考の目標は﹁一定不変の形態による経営の原始的財貨の在高維持﹂で

ある︒これに対して動的実体維持会計思考とは生産要素を機能的側面からとらえ︑・ての生産要素の費消は給付能力の

損耗と解され︑その補充は給付能力的に行われなければならない︒この動的実体維持会計思考の目標は﹁全体経済の

動向を考慮しての経営給付能力維持﹂である︒

 本稿ではとりわけ﹁経営維持﹂と前者の﹁静的実体維持会計思考の代表的主張者であるゲルトマッハーの実体維持

  一経営維持と静的実体維持会計論一       三

(4)

  1論   文−       四

会計論﹂を中心に考察する︒ ﹁経営維持﹂に関してはまずその意味を解明し︑その上で﹁経営維持﹂は経営経済的並

びに国民経済的にどのように解されるかを明らかにし︑更に経営維持と会計との関係を明らかにしたい︒続いて﹁ゲ

ルトマッハーの静的実体維持会計論﹂については彼の企業観とその企業観から演繹される会計思考を解明し︑その会

計思考の特徴とその限界を究明したい︒

︵1︶

︵2︶

︵3︶

︵4︶

︵5︶

︵6︶

︵7︶

 この両考察法はワルプ︵国≦包げ︶の指摘﹁部分的には一致し︑部分的には競合して︑互に自己を主張して今日に至っている﹂のように︑久しく貸借対照表論上の論争史を形成してきた︒しかしこの両考察法は近年に至って︑従来の競合的関係から補完的関係としての理解が高まっているといえよう︒つまり貨幣資本計算を基盤としながら︑実体維持会計思考を補足的に利用しようとする傾向が制度会計の側面でドイツ・イギリス・アメリカ等にみられる︒ワルプの見解については︑国︵巴σ︑薯§Nミ轟恥き母ミh魯偽弱ぎ壽︑ド>仁≠∪三目仁縄目逡oo・ψ曽・山下勝治︵監訳︶︑吉田寛・宮本匡章︵共訳︶

﹃ワルプ資金会計論﹄中央経済社︑昭和三十年︑四八頁参照︒

 このような﹁実体資本﹂と﹁貨幣資本﹂の定義づけはカール・ハックスにみられる︒界=奨嚇b蔚勉&無§鵠碁︑嘗試吋

軋ミ山黛嵩魯♪囚αぎβコαO三国血︒コ一〇㎝コω・一︐

 国・Oo一α目零ぎ5ミ㌣〜鴇︾鳥︑簑ミ領ミ醤試織出馬ミ§幅↓o=どω輿一﹃一8ω・

 <ウq一・男ω9日箆b昔ミ唄貸ミ鴇ミ﹃題物ミミ︑賭ミ旨き斜﹃>焦目胡8ωσ加α8一〇㎝ピ

 く嘘・巧・困︒磯︒び肉蝿鳶§ミ試因黛ミ恥︑︑ごミ§ミ象ぎ旨無血鳶♪ド>ロ︷一Z群口σo茜自ユき曉口一30・

 エ・コジオール︵著︶・高田正淳︵訳著︶ ﹃財務会計論﹄森山書店︑昭和四〇年︑五一四五頁参照︒

 このような分類の仕方はエッカート ︵=・国︒需貧血 b融 動雛冴ミ嵩Nミ誉ミ嘗轟吋黛軋ミ絵篭匙︑o︑山魚篭&♪民Oぎ¢Pα

O筥呂9﹂O$ψ一〇︒賭︶と〜一メリヒ︵O・両目日豊︒F史〜§試ミ§鯨O§噛§§§ミ篤ミ鳶§軋勉ξ亀§ミ魯ミき鳶唖

(5)

Oα藍屋魯目零9ω■認農︶にみられる︒

二 経営維持と会計

 われわれはここで︑経営維持の意義︑

合い︑について考察する︒ 経営維持の経営経済的並びに国民経済的な意義︑経営維持と会計との係わり

二一一 経営維持

 われわれの会計主体としての経営は給付を経済的に作り︑これを市場に供給する人的︑物的組織体であり︑財貨用

役の製造活動を直接的な使命とし︑国民の需要充足を目的とするものと解することができよう︒また経営は全体経済

的ないしは国民経済的な視点で考察する時︑国民の生活に必要な財貨用役を供給するばかりではなくて︑国家の要求

つまり財政需要を充足する財源でもある︒他方︑個別経営経済的視点で考察する時︑経営は経営内部の経営者並びに

従業員にとって職場であり︑所得源泉であるし︑株主にとっても所得源泉である︒このように経営は経営内部の人間

集団の所得獲得動機に支えられているものであり︑従って経営は利益獲得という目的をもって︑この目的達成のため

に財貨用役の製造活動をおこなっているものと︑つまり営利原則を指導原理として経営活動を行っているものと解す

ることが出来よう︒経営はかかる諸視点から察せられるように︑人間の社会生活にとって必要不可欠な存在である.︑

われわれはかかる経営理解に立って経営の維持を必然的な要請と認めてよいであろう︒

 しかしながら︑ベリンガー︵甲ω亀ぎαqR︶の﹁経営は思考︑計画︑制御からなる構成体であり︑自然法則に従って自己保

  一経営維持と静的実体維持会計論−       五

(6)

 1論    文i       六      ロ全を行うものでない﹂との指摘のように︑経営は生一活機能をもつ組織体ではない︒.経営はかかる意味においで・︑﹁有機      ︵2︶的類似の組織体﹂といわれる︒従って経営は自己の経済活動で費消した生産要素の補充を自動的に行うものでない.︑

われわれは経営にとって︑人為的な経営維持活動が不可欠なものであることに特に留意しなければならないであろ

う.︑たとえば︑ワルター︵>︒≦巴け角︶は経営維持を経営経済上の公準と解し︑ ﹁経営経済上の企業維持原理とは企       ︵3︶業自身に永続的維持を可能にする手段と方法とを提供すべき実践的目標である﹂と定義している︒このように︑経営

は自己の永続的維持を可能にする手段とその方策を人為的かつ効率的に活用しなければならない︒

 以上︑われわれは繹︑鴬維持を﹁経営の永続的維持のために︑費消した経営の生産要素を何らかの方法で人為的かつ

効率的に補充する経営の存続保証活動である﹂と解してよいであろう︒

 ︵1︶ ω・ゆ︒=ぎ頃050識90零山鵯pαRσ9ユ︒σぎ訂poo二房3自︒旨巴9コ騨50轟§ミミ︑蒐ミ領§織ミ qミ鳴ミ︑ミミ醤鱗

   明︒ω誘︒ぼ一津Noヨ﹃OOoσ仁旨ω3頓<op閃ユ震=o口Noご≦山霧σ帥αop一〇〇どoo・一㎝︑

 ︵2︶=︒国︒寄巳o融¢§詮§愚息ミミ鳶菩憂降ミミき幾噛&♪囚α﹃雪αO℃︒一呂︒ロ一8ωoo︒ド

 ︵3︶ 拙稿︑ ﹁経営維持の理論﹂中村常次郎・鈴木英寿・小島三郎編﹃現代ドイツ経営学説﹄同文舘︑一九八○年︑二三九頁参照︒

 一﹂一一二 経営維持の経営経済的ならびに国民経済的意義

 経営は上述のように︑私的存在にとどまるのではなく︑その活動自体は社会的存在の性格を強く持っている︑

でわれわれは次に経営の維持が国民経済的に︑また経営経済的にどのように解されるか考察しよう︒

 ハックス︵客寓震︶は︑経営維持が国民経済上要請される論拠を次のように明快に論及している.︒すなわち そこ

﹁わ

(7)

れわれは国家の経済政策目標として社会生産の増大を肯定すれば︑現在の生産状態の維持並びにその拡大は公共の利

益と一般福祉の要件となろう︒従って︑現在の生産規模の維持は最低必要条件として要請されなければならないであ

ろう︒経営が概して生産手段の費消を補充する状況にほとんどないような経済の状態では企業の生産能力の縮小とと

もに︑公共の福祉並びに国民の生活水準の侵害を意味するものである.︑経営の実体減耗の補充不能とそれに起因する      パ ロ企業の生産能力とその収益力の低下は当然に︑全体経済に対する危険とみなされる︒﹂と︒われわれはこのハックス

の明快な論拠を持って国民経済上︑経営の維持を当然に要請されるものと解してよいであろう︒

 しかしながら︑国の経済政策や租税政策による個別経営の維持を保証することは︑このハックスの明快な論拠をも

ってしても︑競争原理を基調とする自由経済制度と相容れるものでないことに特に注意しなければならない︒そこ

で︑国の政策による経営維持の任務はできる限り︑経済過程に干渉せずに︑個別企業を自由に放任することによって

経営維持を保証するものでなければならないであろう︒しかも国家の経営維持に関する政策は多数の企業の生産能力

の縮小によって全体経済の危険が生じた時にのみ実施されなければならない性質のものである︒国家の経営維持の政

策は出来る限り競争原理を完全に︑しかも有効に働かせる経済政策と租税政策の実施によって︑すべての企業に対し

て良好な生産条件を作ったり︑新規企業参加の余地を与えたり︑会計制度上架空利益ないしは経営の実体への課税で

経営を弱体化することのないように租税制度を配慮したり︑企業と政治が癒着して特定企業に対して不公正な融資等

の優遇措置を講じることなく︑完全かつ健全な経済社会秩序と財務秩序を目指すものでなければならない︒つまりわ

れわれは︑国民経済上の経営維持の方策は個別経営にとって直接的な維持効果をもつものではなく︑経済社会環境の

整備によって間接的に経営維持に役立つにすぎないもの乏解してよいであろう︒

  1経営維持と静的実体維持会計論−       七

(8)

 一論    文−      八

 上述の国民経済上の経営維持に対して︑経営経済上の経営維持は以下のように解されよう︒経営維持主体は国家で      ︵2︶はなくて︑経営それ自体であることから︑経営維持は経営にとってあたかも人間に内在する生命維持本能に相当する

ものであり︑企業の本質であると解される︒勿論︑経営は上述の通り︑人為的経営維持活動なしには存続し得ないの       ︵3︶である︒従って企業家ないしは経営者は少なくとも従来の生産能力維持のために努力しなければならないと考えられ

る︒ ︵1︶ 界=善きP騨Oψωム・

 ︵2︶ 拙稿﹁経営維持の理論﹂前掲書︑二三三頁以下参照︒

 ︵3︶ 拙稿﹁ドイツの株式法と所得税法に関する一考察  実体維持的考量の会計方策を中心として一﹂ ﹃商学論集﹄第四九

   巻・第二号二九i三〇頁︵注一一︶参照︒

二−三 経営維持と会計の関係

 経営維持とは具体的に如何なる維持を意味するであろうか︒このことに関しては経営の構成要素の維持であるとい

う点で︑論者は共通している︒しかしながら論者の主張はより具体的に如何なる経営の構成要素の維持であるのかに

ついて︑必らずしも一致しているわけではない︒例えばシュミットによれば︑企業生産力の相対的な維持つまり国民

経済の機構の中で︑企業の個別的地位を保証しうる企業生産力の構成要素︑すなわち貸借対照表の借方項目の設備資      ︵1︶産︑棚卸資産︑無形固定資産の相対的維持であり︑ハックスによれば︑貸借対照表の借方の物的ないし実体的資産つ      ︵2︶まり設備資産と棚卸資産の給付生産力としての維持であり︑エッカート︵=●同臭賀身︶によれば︑設備資産︑工場

(9)

      ハ マ材料︑労働力︑市場関係等の一定の状況における絶えざる再生であり︑ラウファー︵頃︐客︒い四口角︒.︶によれば︑       ハ ロ﹁維持すべき生産力としての物的生産要素︑貨幣資本︑人間労働力︑組織︑名声﹂の維持があげられる︒会計学上維

持対象となりうる経営の構成要素は上記の諸見解であげられる維持すべき諸要素のうち︑貸借対照表計上能力のある

ものに限定される︒われわれの経済社会の現実つまりインフレ経済を考える時︑経営維持の対象は貸借対照表の資産

側の実体資産︑すなわち設備資産と棚卸資産になるであろう︒とりわけ会計上の維持対象資産に関しては︑企業生産

活動の一層の設備集約化現象を反映して︑企業の生産力は設備規模と設備状況に著しく左右されるようになっている

ので︑設備資産の維持が特に重視されるであろう︒経営維持に必要な補充調達財務は︑支払利息の増加と負債の増加

の招来で経営を非弾力化する他人資本調達や配当を伴う自己資本調達等の外部資金調達にたよってはならず︑自己資

金で行うべきである主張されてい︵奪この考至善︑経営維持のための補充調達資金によって支払利子増加な

いしは配当支払に相当する収益を見込める性質のものではなく︑単なる現状維持のための資金調達を意味するもので

あるから︑当然と解してよいであろう︒従って︑経営維持を目標とする会計思考では︑維持相当額つまり費消した経

済財貨の補充調達に必要な額をすべて費用と解することとなろう︒われわれはここに経営維持を目標とする会計思考

のメルクマールを見い出すのである︒

 それでは次に︑貸借対照表論史上︑どのようにして経営維持問題が取り上げられたのかについて概観してみよう︒

 かつてドイツにおいて︑貸借対照表論はフランス商事条令の解説から始まり︑静態的貸借対照表論から動態的貸借

対照表へと発展してきた︒この動態的貸借対照表論に至って︑今日のような損益計算を重視する会計体系が確立し

㌣)

サしてこの動態的貸借対照表論の確立期においては︑ゲルトマッハーの指摘にみられるように︑経済が比較的に

  一経営維持と静的実体維持会計論−      九

(10)

  1論   文i      一〇

安定していたために︑貨幣価値も安定しているものと想定できた︒従っイ\名目価値原則に基づく貨幣資本計算が当

         ︵7︶       ︵8︶然のこととして出現した.︑なおドイツ商法並びにドイツ株式法は債権者保護の立場から︑また税法は課税公平の原則    ︵9︶       ︵10︶の実施の立場から︑並びに﹁画一的で︑単純であり︑評価に当って困難な問題が生じない﹂との理由に基づき名目貨

幣資本計算を規定したものといわれている.︑この貨幣資本計算は貨幣価値一定であれば︑必然的に経営維持を補償す

る損益計算となる︒しかしインフレーション時には︑貨幣価値が下落するために︑経営維持を実体的に達成し得なく

 ︵H︶

なる︒このことに逸速く注目したのはゲルトマッハfであるといわれている.彼は第一次世界大戦後の急激なインフ      ︵12︶レーシ.ンを貸借対照表上の問題として取り上げ︑一九二〇年に﹁貸借対照表の憂慮﹂ ︵霞目き器︒茜雲︶という論文

を著わし︑ハックスによればこの論文で︑経営経済学の計算史上初めて通貨混乱︵≦鋤罵言暢<R富εつまり貨幣価      ︵13︶値低落の影響を考察したといわれている︒またシュネットラi ︵︾oo9莞琶R︶ はこの論文の内容について﹁伝統

的名目計算が通貨混乱期に企業の生産力維持を保証し得ないことを一層明確に証明し︑初めて通貨混乱による実体減      ︵14︶耗の危険について論じた﹂と評している︒われわれはゲルトマッハーのこの論文をもって︑経営維持を目標とする会

計思考の萌芽と解しうることを付言しておこう︒

 その後︑ゲルトマッハーは先の論文で指摘した通貨混乱による実体減耗の危険防止のために︑一九壬二年に﹁経済

不安と貸借対照表﹂ ︵譲騨鴇鼠即窪旨旨︒琶αωぎ轟︶を著し︑この著書の中で︑静的実体維持会計思考つまり︑

財貨思考に基づく成果計算論を展開した︒

 以上︑われわれは経営維持を﹁経営本来の活動のために︑費消した経営の生産要素をなんらかの方法とその施策で

人為的︑効率的に補充する経営の存続保証活動である﹂と解した︒そしてこの経営維持は国民経済上も︑また経営経

(11)

済上も当然に要請されるものと解した︒ただ国家の経営維持の具体的実施活動は︑経済社会環境が個々の経営の維持

にとって妨害とならないような間接的な経済環境整備にかかわるものにすぎない︒そして経営経済上の個別経営の維

持活動は経営自体によコ\すなわち経営担当者としての経営者によって行われるものと解した︒更に経営維持と会

計との関係については︑動的経済社会条件︑例えばインフレーション等の条件を配慮しながら︑経営維持のために費

用の補償計算をし︑会計が経営維持の達成状況を計算的側面から明示するという関係にあるものと解してよいであろ

トつ︒ われわれは次に︑ゲルトマッハーによって主張された実体維持をもって経営維持と解する見解つまり静的実体維持

会計思考を検討し︑その特徴並びに限界を解明したい︒

 ︵1︶ 男ω3ヨ三国・鉾ρ量ω﹂置︷い

 ︵2︶客=與﹄﹄︒Oω﹂も︒・

 ︵3︶千国︒富民鉾・︑oω・一ド

 ︵4︶ =・竃・いきゑRO箋醤ミミ§糺蒔鳴qミミ匙§ミミ誌翰鷺ミ旨き霞︒冨8訂一目\O一きおOoo︑ψ嵩1一野拙稿﹁経営維持の理

   論﹂前掲書二四一−二四二頁参照︒

 ︵5︶零国︒冨邑け﹄る︑oω・噛﹄︒︒−

 ︵6︶ シュマーレンバッハ著︑土岐政蔵訳﹃動的貸借対照表論﹄十一︑一版︑森山書店︑昭和三四年︑一一五六頁参照︒

 ︵7︶蜀︒︒匹田8富5ppOこωふs

 ︵8︶辱=奨︺OミO恥§§ξ鳴鷺軸§菩審︑きミき違㌣塗息県乾鳥ミ♪謬ぢN蒔H89ω﹂8r一〇S

  I経営維持と静的実体維持会計論−      一一

(12)

一論   文i       二一

︵9︶客臣鮮b無爵ミ§欝讐§騨pOω﹂os

︵10︶>ω3器圧8鰻巴︒彗α9︒暴言α震ぎ鼠3=9雪白霞8昌巴9品﹂PN匙笥鳶遂︑辱歳§魯︑簑.韓§恥q嘗独ミ息恥

  勾ミ防息蟄隷鯨目〇㎝Pψ認ω甲

︵n︶ 名目貨幣資本計算は貨幣価値一定の仮定のもとに︑名目資本を維持しようとするものである︒従ってこの計算はインフレ

  ーション時であっても名目資本の維持を達成する︒しかしながらこの名目資本で支配ないし所有しうる実体的資産量は貨幣

  価値低落または物価の上昇に相当する部分の減少で生産力低下を生じ︑経営の縮小を惹起する︒

︵12︶中Oo一αヨ㊤305国一嘗Nωo茜9﹂P﹄蔑義ミ恥・§軋頃§疫黛旨§§鯨幕﹁=P寓皿貫2目零\Oω・

︵B︶ 辱=舞OミO恥ミミ菖蒔遷§︸鉾騨Oψω・

︵14︶ >・oo9器壁︒きN一〇一〇こ餌・的●9︑ω︒認ド

三 ゲルトマッハーの静的実体維持会計論

 われわれはここで︑財貨経済的考察法に依拠し︑実体維持をもって経営維持と解する会計思考の嚆矢ともいうべき

ゲルトマッハーの成果計算論を取り上げる︒彼の成果計算論はわれわれの名称﹁静的実体維持会計思考﹂の外にその

属性からして︑ ﹁単純再生産的﹂︑ ﹁絶対的﹂︑ ﹁再生産的﹂等という形容詞を付した実体計算とも呼ばれている︒

資本維持︑実体維持︑経営維持等と称される会計思考を研究する学徒にとってはこのゲルトマッハーの会計思考は経

営維持的な最初の会計思考としての意味合からも極めてしんしんたる興味がある︒そこで︑われわれは彼の企業観な

いしは経営観︑その企業観から演繹される彼の計算論︑及び企業ないし経営の維持のための費用評価論に注目し︑

その考察を通して︑彼の会計思考の特徴とその限界を解明したい︒

(13)

 三一一 ゲルトマッハーの企業観

      ハ レゲルトマッハーはハックスの指摘にもみられるように︑自己の企業観から会計思考とその基礎概念を展開してい

る︒ 彼の企業観とは次のように定義づけられている︒ ﹁企業とは物的並びに人的な組織体をあらわし︑その目的組織体       ハ ロの明確な輪郭をとって組織化された活動力の中心であり︑その行動原理は経済的成果獲得である︒﹂と︒すなわち彼

の企業観は成果獲得原理に指導される人的・物的組織であると企業をみることであろう︒この企業は﹁活動力確保と       ヨロその維持並びに活動範囲の強化とその拡張のために︑他の企業と絶えず競争している﹂と解されている︒しかも企業       ︵4︶      ︵5︶は﹁国民経済の一員﹂または﹁共同経済の一機構﹂として投機的にではなくて︑堅実に経済的給付製造を目標にし

て︑他の企業と競争しながら︑自己の維持及び発展のために活動している︒このような企業は彼によれば﹁国民の生       ハ ロ活源泉と解されるべきであり︑経営が経済的に操業している場合には維持され︑大切にされなければならない﹂と論

及されている︒すなわち︑経済制度が自由競争原理を基調としている限り︑経済的に操業していない企業は当然に︑

競争に敗れ︑消滅していくこととなろう︒従って経済的に操業している企業つまり収益力のある企業だけが企業維持

を達成できるのである︒換言すれば︑企業を維持するためには少なくとも維持に必要な収益稼得が前提とされよう︒

そこで会計はこのような収益を稼得している企業に対して︑企業維持に必要な部分と企業維持に不要な利益部分とを

峻別し︑そのことを明示する機能を有することを要する︒つまりゲルトマッハーは企業が経済的に操業している限

り︑企業維持に必要な資本と利益とを峻別できる会計を思考するものと解される︒勿論︑経済的に操業していない企

  −経営維持と静的実体維持会計論−       一三

(14)

  一論    文−       一四

業については︑企業維持にどの程度不足が生じているかを明らかにする任務も忘れてはならない︒

 以上のように︑ゲルトマッハーは︑企業は自由競争原理を基調に︑経済的成果獲得を目的とし︑投機的な事業では

なくて︑堅実な経済的給付製造を目標にして︑自己の維持及び発展に努め︑活動しているものと解している︒そして

企業が経済的に操業している限り︑その企業は維持されなければならないとの企業維持観に基づいて︑彼の会計観が

演繹されると解される︒次に彼の会計思考を検討する︒

︵1︶

︵2︶

︵4︶

︵5︶

︵6︶ 容=畏一〇ミO恥ミ醤§轟ミ§植pm.

・︵3︶国●Oo一血目山畠︒さ勲鉾Oこ

国︑Oo崔目餌︒げ︒ン騨斜Oψ一bo曹

界国山迷OミO恥ミ評きQ㎎︑婁樽勲p

中Oo一αヨ曽︒ザ05騨pO909

Ooo︒ω.

ω・一●Oこψ㎝9

三一二 静的実体維持会計思考

 ゲルトマッハーの会計思考は上述の企業観から演繹されて︑いわゆる会計は企業の維持状況並びに利益稼得状況を       ︵1︶明示すべき機能を有するように意図されているものと考えられる︒従って彼の成果計算は﹁企業を厳重に維持する﹂       ︵2︶ことを目的として︑ ﹁企業が経済的に操業しているかどうか証明しなければならない﹂ものとして主張されるのであ

る︒そのために経営は﹁自己の給付能力︵﹇巴ωε轟玖昏黄ぎ5において︑依然として維持されるように︑正しい費用       ︵3︶を計算しなければならない﹂︑つまり自己の給付能力維持を保証する費用を評価しなければならない︑かくして彼の

(15)

       ︵4︶成果計算は﹁収益による費用補償検証法﹂とも呼ばれているのである︒

 この成果計算論において︑企業の経済活動は二つの経済活動力の対流︑つまり活動力の流入とその流出として解さ

れ︑この活動力とは経済活動力の保有物としての経営経済的財貨のことである︒また活動力の流入とは﹁経済活動で      ︵5︶獲得した企業の活動力の増加﹂であり︑収益のことである︒活動力の流出とは﹁活動力の費消であり︑しかも経済的       ︵6︶       ︵7︶に経営活動と不可分に結びついた活動力費消﹂︑又は﹁個々の経営経済的な目的達成のための犠牲﹂すなわち費用で

ある︒      ︵8︶ この企業の経済活動の結果は活動力の流入と流出の対応によって三つの可能性が考えられる︒︑

 ↑り 活動力の流入超H利益

 @ 活動力の流出超U損失

 の 活動力の流出と流入の均衡補償       パ ロ ω のケースは彼の企業観からも察せられるように︑すべての経営者︵譲一辞8富津忠︶が目標とするとアろ一.︑あ

る︒ここで得られた利益は﹁費用と収益の補償検証の結果の抽出物︵国国惹埣︶であって︑会計上は費用・収益の評    ︵10︶価の副産物﹂である︒彼はこの利益の重要性として︑ ﹁指導的経営者︵≦一旨ω魯駄房塗耳翼︶にとって︑企業管理の

為に最も有用かつ巧妙な測定手段であること︑また営業譲渡の際の経営全体の財産評価の基礎として役立つこと︑経

営拡張の源泉であること︑租税源泉︑個人所得源泉・私的な権勢︵勺ユく帥けR霞8窪ωげ亀琶ひq︶であり︑そして経済      ︵n︶性のバロメーター一.﹂ある﹂ことを挙げる︒

 しかしながら︑⑲のケース︑つまり活動力の流入によって活動力の流出を補償することは企業遂行にとって最も重

  −経営維持と静的実体維持会計論−       一五

(16)

  1論   文−       一六

      ︵12︶要な最低限の要請である︒ゲルトマッハーは﹁この要請を充足する企業こそ健全﹂であり︑﹁時代を超えて存続するで       ︵13︶あろうし︑同時にその経済に所属する人間社会を維持するものである﹂と主張する︒従って彼は﹁この収益による費      ︵14︶用補償の動的交点が常に経済関心の焦点でなければならない﹂と考えている︒彼はこのことを﹁経営経済体の絶え      ︵15︶ざる更新の必然的活動法則﹂と呼んでいる︒そして成果計算はこのような収益による費用の継続的補償に関する計算

機能をもっていなければならないとする︒彼はこの点で自己の成果計算を﹁不可欠的費用補償計算﹂とも称している

のである︒

 ゲルトマッハーの会計思考の概観は以上で︑明らかになったと思う︒そこで︑われわれは次に︑成果計算の第一使

命としての企業の給付能力維持のために︑最も重要な彼の﹁正しい費用﹂評価論を考察しよう︒

 ︵1︶ 国Oo﹈α目口︒プ︒び鉾僧■Oω︒9

 ︵2Y︵3︶国O︒=ヨ8ゴ︒き帥●鋭Oこω・①9

 ︵4︶国O︒固目8ゴ9勲勲Oこω﹂ド

 ︵5︶・︵6Y︵7︶国O︒五目8げ︒5野卑Oこω﹂・

 ︵8︶ 国●Oo一α日毬げ︒び帥●山●Oこψbo︒

 ︵9︶ゲルトマッハーは経営業務遂行の代表者に相当する者として︑彼の著書︵≦三ω3玖8口口昌︒⁝α国5目︶の中で︑企

   業家 ︵口P密旨書目震︶︑経営者︵名ぎ暫富津R︶︑経営主︵切雲ユ︒訂三洋︶等と呼んでいる︒これ等は明確な定義づけのも

   とに︑使い分けされているわけではない︒これ等の者はいずれも経営業務執行の代表者を意味するものであり︑経営者と総

   称してよいであろう︒ゲルドマッハーの経営者観について若干付一一一負しておこう︒

    経営者の意志は﹁企業目的の役割︵U一S9︶﹂の中で決定される︵碧空9ωレ︶︒企業は﹁経済的成果獲得﹂を目的に︑

(17)

  ﹁経済的給付製造﹂を目標に活動している︒経営者はこの企業目的との関連で︑一方で.費用の遠心力の抑制﹂︵山.四一Oこ

 ω︒国︶つまり費用の節約につとめ︑他方において投機的でなく︑堅実に収益要素の流入をはからなければならない︒経営者

  はかくして﹁経営活動の中心から︑諸事象を考察し︑費用︑収益の活動力作用の経済性の管理を目的とし︑成果配分のあら

  そいの中で・自己の経営強化を配慮する﹂︵騨勲O幹8︶者であり︑しかも﹁シャイロックの如き株主の強欲とたたかう

  企業の侍医﹂︵鐸騨Oこω﹄O︶と考えられている︒

   このように︑彼によれば経営者は一方で経済性つまり費用節減を︑他方で収益性つまり収益稼得をはかり︑この両面すな

  わち費用と収益の効率化によって企業目的である成果獲得をはかり︑そして経営維持及びその強化ないし拡大をはからなけ

  ればならない者と︑換言すれば堅実で健全な給付製造活動をとおして﹁入るを量りて︑用を倹にす﹂る者であり︑企業を維

  持発展させる者と解しうるであろう︒

︵10︶・︵n︶ 国Ooざ日8ぽびPPOψ二・

︵12︶ マールベルク︵≦・蜜昌3段鱒O禽Nミ暮織侮︑鈎ミ息︾ミミ識鱗い︒一冨貫目80︶はこのゲルトマッハーの﹁費用補償

  をもって健全な経営である﹂との見解に対して収益による費用補償しただけでは健全な企業ではなく︑非経済的なものとみ

  なす︒<巴φOo匡ヨ8げR餌■鉾9︑ω■bo・尚ゾンダーエッガー︵劉ω8α霞囲のR︶はゲルトマッハーと同様の見解を次の

  ように論じている︒ ﹁企業が当該期問中に損をしなかった時︑この期間の維持を収益的とみなす︒⁝:.当期間中に︑総

  費用を補償するために︑企業の経済活動を満足させたといえるであろう︒﹂そして彼はたとえ配当支払が出来なくても︑満

  足な維持と解している︒<豊男ωo呂R紹鵯びb禽︑︑誉織㌧黛︑向きミミ醤吋畦 qミ恥§§ミ讐醤偽ミ物 Oミ醤織㌣︒ミ鳴海匙

  審︑ミ︒織ミミ§oコ畿篭&砺ミミ物忌旨劉罫︑魯切︒言一30︑ω一ω令ooP

︵13︶・︵14︶ 国・O巴αヨ8訂5餌■勲Oこω・ド

︵15︶ 国.Ooざ目零箒5野山●9︑oo・09

1経営維持と静的実体維持会計論−      一七

(18)

i論 文1

一八

三一三 費用評価の原理

 不可欠的費用補償計算としての成果計算とは具体的にどのように行われるか以下で検討してみよう︒      ︵1︶先ず︑この成果計算は次の二つの前提を必要とする︒すなわち

 第一の前提︒費用と収益について︑共通の価値測定基準が存在しなければならない︒比較不能なものは計算できな

い︒この統一的価値測定基準は計算の論理的前提である︒

 第二の前提︒費用と収益について︑統一的価値数値が存在しなければならない︒そうでなければ必要な加算と減算

の会計処理が出来ない︒

 この両前提は収益と費用とを同時同質的に把握するためのものであり︑前者は数量的比較可能性ないしは交換可能

︵2︶性の基準の存在︑後者は統一的価値表現として時価ないしは再調達価格の存在と解される︒ゲルトマッハーはこの両

前提に依拠しながら︑歴史的名目計算の本質的欠陥を次のように明快に指摘した上で︑自説の計算原理を主張してい

る︒すなわち﹁第一に︑過去において︑財貨に支払った価格が現在のその財貨費消1費用tに重要であるという考

えは明らかに間違っている︒現在の費用と過去の価格とは相互に無関係である︒現在費用の測定の為には現在価格を

必要とする︒第二の欠陥は費用を過去の価格のまま控除すべきであるという考えは間違いである︒この見解は経営経

済体の絶えざる更新の必然的な活動法則を見過ごしている︒この基本原理は収益による費用の継続的補充一補償iを      ︵3︶行う︒その計算機構を有する成果計算は欠くべからざる補償計算である︒﹂と︒

 この二点からも明らかなように︑費用財の利用価値減少︵9︒Z暮N名︒耳目ぎαR琶の8ω>亀毛︒︒且詔旨霧︶は収

(19)

益財の流入の現在時点毎に︑一般に存在する補充可能性︵補充価格か︑補償価格又は再調達価格︶によって実物的に

補償されなければならない︒このためにゲルトマッハーの成果計算は﹁重要な補償ラインが正しく表示出来るよう       パ ロに︑費用財貨の利用価値減少の仕入価格とその再調達価格との差額を年次成果計算に算入しなければならない﹂︒

このように費消された財貨を実物的に補充するためには︑原則として販売日再調達価格基準で費用を評価して︑この

結果を次の記帳仕訳を介して損益勘定に計上することとなる︒

︵露母︶湿熱蜜語:・×××

︵鴻d︶濤書訓醒酔海⁝⁝⁝×

藻薄測蛍︐甦︺滞⁝⁝⁝×

蟄釦︵累粛聖類︶毒一叢

書肆葺滞⁝:⁝:⁝:×

義畢踊識・鼠壁紬嬢3

ヨ叢書藤蜜冊:::⁝×

×× ××

×X

 以上︑彼の成果計算では費用評価が中心である︒資産評価は一切否定されている︒その理由として︑ゲルトマッハ

ーは﹁資産勘定に関する歴史的仕入価格の測定表がそれで︵資産評価でi括弧内筆者︶破壊されて︑無意味な経過項

目となるからである︒しかもまだ費用化されない項目︵200マ三9壁窪凝︒≦o且90︶について歴史的仕入価格をつ      ︵5︶かえなくするとすれば︑我々は全体的年次計算の継続性とともに計算制度の基礎を危険にする﹂ことを述べている︒

 1経営維持と静的実体維持会計論一      ︑       一九

(20)

 1論    文−      二〇

 また費用修正がいつおこなわれるべきかについては棚卸資産のように絶えず補償が費消時点で行われているような

費用財貨の場合には継続的修正が可能であるが︑固定資産のように再調達価格の見積りによらなければならない費

用問題については継続的修正は不可能である︒従って一般的修正は年度決算の為に︑ ﹁その期の決算日で十分であ

︵6︶

る﹂︒

 以下では彼の固定資産︑棚卸資産︑流動資金︵吾三留ω蜜騨巴︶の各費用修正について具体的に考察する︒

 ︵1︶ 国Oo五目8ぎ5P鐸Oこ900■

 ︵2︶戸田きb等O§馬§富§﹄・鉾9ω﹂︒︒.

 ︵3︶・︵4︶国O︒匡自習訂♪㊤﹄︑Oこoo・09

 ︵5︶国●O︒匹田㊤99p騨Pψ津・

 ︵6︶ 国Oo一色ヨp︒o冨び鉾勾●OψOド

 三一︑一︑一丁一 固定資産の費用評価

 ゲルトマッハーは次の仮設例をもって固定資産の費用評価を説明している︒

 仮設例︑見積耐用年数ズ︶年 残存価額零の機械を一〇︑○○○マルクで購入した︒この機械の決算日再調達価格

     は二〇︑COOマルクである︒

 ゲルトマッハーはこの場合︑次の修正記帳仕訳をあげる︒

   ︾︵魂母︶彊訴葺蔚押OOO ︵鴻母︶藤蔓羅滞ドOOO

(21)

  頃︵爺ど︐︶道訪薄譲ρOOO ︵露δ︐︶藤颪導冊   ジOOO

      .藤蔓削重喜滞どOOO

Aの記帳方法によれば︑機械勘定の仕入価格の残高は利用価値減少の程度を証明する長所を失ってしまうのに対し

て︑Bの記帳方法は少なくとも︑見積耐用年数の残り年数をよりょく配慮できるし︑また年次成果の一定の比較可能

性を保証するからよいとされる︒

 尚ゲルトマッハーは当期の設備財の利用価値減少の費用評価の外に︑継続的で激しい物価変動の時期には︑個々の

設備財の実際補充のために︑過年度の利用価値下落︑並びに利用価値上昇の把握の必要について論及している︒しか

し彼はこれ等の正確な把握は計算上不可能だとして︑これについては﹁例外的に︑この補充のために︑積極的に別途      ロ積立金として利益を留保することが出来る﹂ことを付言している︒すなわち取戻し減価償却に相当する問題について

は利益利用ないし利益処分で対処しようとする見解である︒

 ︵1︶ 中Oo一α目口︒﹃05鉾POこ909

一干⊥一丁土 棚卸資産の費用評価

 ゲルトマッハーによれば︑棚卸資産は販売と再調達が繰返し行われるので︑この資産の移動は相互に直列接続       へ ロ︵旨旨露虫9且R零富一9品︶で補償される︒それ故に﹁費用財貨は実際の補充価格に基づいて計算される︒﹂彼はそ

のことを次の仮設例で説明している︒

 仮設例 貸方側の売上高を利益と再調達価格とに分離して︑次のように勘定記入が行われた︒

  一経営維持と静的実体維持A︑ム計論t       二一

(22)

−論文一

L売 上120+利益10マルク 2、売 上130+利益20マルク

3.売 上140+利益30マルク

4。売上150マルク

仕入価格による期末在高 150マルク       750マルク(利益込み)

売   上 100マルク 120マルク 130マルク 140マルク 150マルク 110マルク

高達達達達益

在調調調調

首再再再再 期L乞3杢利

750マノレク

      二二

利益は二〇マルクではなくて期首在庫の価格と期末在庫の価格との差額つまり架空利

益五〇マルクを差引いた六〇マルクである︒そこでこの修正記帳仕訳は次のようになる

       O

  ︵奪δ︑︶灘−F︵匁箕虚器︶警語㎝O ︵癬凝︶書自瀕轡憲満㎝O

       ︵錦︒口置⇒琴ξ犀︒旨︒︶

 この外のすべての商品の移動は相互に直列的つながりの中で補償されるので︑問題は

ない︒また補充価格が下落した場合でも︑この処理が妥当する︒仮に先の例の第四回目

の取引で︑収益二二〇マルク︵つまり補充価格よりも二Cマルク安く︶で︑売却された

とすれば︑利益は四〇︵つまり①O−8目お︶マルクとなる︒

 次に期首在庫量と期末在庫量とが一致しない場合についてみよう︒

 仮設例 期首在高は単価五〇マルクのものπ︶○袋あった︒期末在高は単価六〇マル

    クで六〇袋しかない︒修正日時価七〇マルクである︒

これを図で示すと次の︵二三頁︶通りである︒ただし図の縦は単価︵マルク︶を︑横は

数量を各々あらわす.︑

この修正記帳仕訳は図解したA︑Bの架空利益について次のように行われる︒

︵>︶

︵奮δ︐︶灘﹂一︵図算彊訴︶酵被OOO ︵庵δ︑︶書感喜冊①OO

︵国︶

(23)

5000マルク 50

}ルク

100袋

単 価

量(袋)

数 末0

「一一一一一昌−一一層一一一−

P

i(B)(100−60)×(70−50)1

!=800マルク(架空利益)1

ぺ じ ペ ロ サ  ワ  ラ  ロ ロ ロ  ロ    コ じ し  ロナ

      ; 在高不足(100−60〕x l       し 70=2800マルタ    1  (このうち800は架空利1          益)         麟       1        

(袋)       100(袋

ミ在高)

         〔修正日再調達単価)70 1(A)(60−50〉×60=600マルク(架空利益)

期末在高160×60=3600マルク  (このうち600マルクは架空利益

の  む65  ︵マルク︶

ララ

庫価庫価在単在単末の首の期品期品

︵︵

60(

(期末

1経営維持と静的実体維持会計論−

o

︵矯凝︶申.即﹂p︵×算溢詠︶喜諦ooOO

      ︵鴻漸︶善感轟満     ooOO

 以上のように棚卸資産の費用評価は期首と期

       い2︶末の﹁時点的比較﹂で行われる︒ハックスはこ

の処理法について﹁売上価格から費用価格を控

除する際の期間的対応に対する要請はシュマー

レンバッハの考えた固定的在高計算で達成され

へ3︶る︒﹂ことを例証している︒

 尚期首在庫のうち費用運動に含まれないのは

修正に入れてはならない.︑

 棚卸資産の費用評価に当って特に重要な点は

次の二点である︒その一は旧在庫品のうち費消

されたのはどれか︑もう一つはその再調達価格

はいくらか︒前者は費消された財貨と同一のも

ので補充されなければならない点に問題があ

る︒つまり︑あらたに補充された財貨と消費さ

れた旧在庫品との数量的比較可能性が前提され

      二三

(24)

 一論    文−      二四

ているからである︒ゲルトマッハーはこの数量的比較可能性について︑ ﹁大抵の企業には︑数量的比較可能な多くの       ︵4︶財貨が存在する︒しかしそれが出来ないところ鴫︑は一般に修正の基本問題は解決できない︒﹂と論及しており︑彼自

身︑ここに自己の成果計算︑つまり同一実体の維持会計思考の限界を意識しているものと解せられよう︒また後者︑

すなわち再調達価格の問題は修正日時価と﹁決算日の手許補充財貨の仕入価格﹂とに差異を生じた時︑減算又は加算

されなければならないところに問題がある︒      ︵5︶ いずれにしても彼が﹁この修正はおおまかにおこなわれる︒﹂と付言しているのは︑この修正を完全に実施するこ

とが困難なことをある程度意識していたからであろう︒

 ︵1︶ 員Oo置目国90き勲騨O二ω︑Oωト

 ︵2︶国O︒匡ヨ碧訂5鉾穿0400︒O

 ︵3︶溶出畏量bミ無ミ§言付ミ§PPOごω﹂9

 ︵4︶・︵5︶固O︒一αヨ国9︒5㊤︑騨Oこψ①■

 一︑一T−三−三 流動資金の費用評価

 棚卸資産と設備資産の物的資産以外の貨幣性資産についても︑ゲルトマッハーは価格上昇の影響を考慮する︒この

流動資金の経営利用能力減少︵Z葺蒔轟津ヨぎ留置轟︶の把握には﹁当該経営での流動資金の全く特殊な利用能力の       ︵1︶減少が把握されなければならないから︑経営経済的に使用可能な修正金額が外貨や一般指数によって得られない︒﹂

そこで彼は個別経営指数︑つまりその経営自体で得られる指数をこの比較基準と考える︒彼はこの基準について当然

(25)

に周到森計によって作られなければならないと付言し︑そしてこの指警ついても︑流動資金の利用目的の多樺

からして︑おおまかなものとして特徴づけている︒彼はこの点に関して次のような仮設例をあげている︒

 仮設例 当修理工場の費用のほとんどは賃金からなっている︒工場長︵α震器詳Rα︒ω閃︒け目一︒σ︒︒︒︶は︑期首に乎

     均時間賃金ニマルクの支払契約をしていた︒ところが決算日には時間当り三マルク支払わなければならな

     くなった︒この時・補充価格で測定される費用は三・︑︶︵ゾ一︶マルクではなくて︑ど9雪裏二Xし︒くモ黛口合80

     マルクであり︑この費用修正記帳仕訳は次のようになる︒

︵蕪廿︶葦熱電﹂︑隔ど㎝OO ︵鴻び︑︶ぎか重藤惣.憲海ど㎝OO

︵↓OORβ口頭ω犀Oロ8︶

 以上のように︑ゲルトマッハーの費用評価は経営の給付能力としてのすべての経営経済財貨つまり設備資産︑棚卸

資産︑貨幣資産の費消を実物的・数量的に︑しかも同質同形態の等量一で︑補充して経営を維持するために︑再調達価

格でおこなわれる︒

 われわれは以上でゲルトマッハーの成果計算論について検討してきたが︑次に彼の会計思考の特徴と限界に論及

し︑結びとしたい.︑

 ︵1︶ 国●Oo=ヨ8﹃05四.帥・ρ90伊

−経営維持と静的実体維持A︑ム計論t 二五

(26)

一論文一二六

四 結

四−一 ゲルトマッハーの静的実体維持会計思考の特徴

 e ゲルトマッハーの静的実体維持会計思考の特徴は企業観から成果計算並びにその基礎概念が演繹される点に見

られる︒すなわち経営は営利原則に指導される人的・物的組織体であり︑国民経済の一員ないし共同経済の一機構と

して︑堅実な経済的給付製造を目標とするものであって︑投機的なものではない︒しかも経営は国民の生活源泉と解

される︒しかして︑経営は経済的に活動している限り︑自己の給付能力において維持されなければならない.︒このよ

うな経営の給付能力維持のためには財貨経済的考察法に基づく会計思考が考えられる︒従ってこの会計思考は費消財

貨の補充のための費用補償計算となる︒この会計思考の実行可能性は次の二点を前提する︒第一点は費用・収益の同

時同質的把握のために実物的量的比較ないしは交換可能性の存在︑第二点は評価基準としての再調達価格の存在する

ことである︒この前提によって経営の給付能力維持に必要な費用評価額が規定される︒ゲルトマッハーの会計思考は

かかる内容により次のような特徴があげられよう︒

 口 彼の会計思考はインフレーション時における伝統的名目計算つまり貨幣資本維持会計思考の欠陥を克服するも

のとして展開されたところに一つの特徴をもつであろう︒従ってこの会計思考は会計に及ぼす物価変動の悪影響の排

除を主眼にしており︑それ以外の会計に及ぼす動態的経済要因例えば技術進歩︑需要変化︑経済成長等を一切無視す

るところに第二の特徴を見出し得よう︒

(27)

 日 この会計思考で目標とされる給付能力資本つまり実体資産は数量的比較可能性ないしは交換可能性の要請によ

り︑投入時点の恒常形態︑すなわち同一形態の生産財と解される︒従って第三の特徴として︑ ﹁絶対的﹂︑ ﹁再生産

的﹂︑ないしは﹁静的﹂な実体維持論として特徴づけることができよう.︑

 四 この会計思考は損益計算上の費用を時価で︑また貸借対照表上の資産を原価で計上する︒そしてこの会計思考

は企業を厳重に維持することを目的とし︑このために﹁正しい費用計算﹂を重視する︒彼の会計思考ではこのように

収益による正しい費用補償の計算が考えられている︒われわれは彼の会計思考では損益計算目的を第一使命としてい

る意味合から︑ ︵つまりシュマーレンバッハの損益計算を目的とする動的貸借対照表観の意味合いで︶動的費用時価

計算論として第三の特徴をあげることが出来よう︒

 尚︑付言すれば︑この会計思考は費用の正しいつまり時価評価によって企業の実体維持を目標とする点で︑当時の

会計思考として大変ユニークな理論であるとともに︑彼の会計思考の出現をもって︑実体維持会計思考︑とりわけ資

産を原価で費用を時価で評価する会計思考の嚆矢といえるであろう︒

 われわれはゲルトマッハーの会計思考の特徴点として以上の諸点をあげることができよう︒

四−ーニ ゲルトマッハーの静的実体維持会計思考の限界

 日 財貨補充調達側面の限界

 ゲルトマッハーの会計思考は︑費消された旧経済財貨の補充に当って︑同一形態の比較可能な財貨が市場に存在し

なくなった時に︑実行不可能となろう︒つまりこの会計思考は経営維持にとって重要な影響要因である技術進歩を許

  −経営維持と静的実体維持会計論i       二七

(28)

  一論    文−       二八

容できない︒この点で︑ハーゼナック︵≦串鼠壁︒︒︒雪碧犀︶等の技術進歩■を許容しうる実体維持概念の質的拡大の出現      ︵1︶を待たなければならないであろう︒

 口 販売側面の限界

 この会計思考は︑たとえ数量的比較可能性ないし同一形態の交換可能性をもつ補充財貨が存在するとしても︑その

生産財貨によって産出される給付に︑需要が存在しなくなったとすれば︑この理一論は合目的でなくなって現実妥当性

を失う︒つまりこの理論は需要変化を許容できない︒この点で︑彼以後の実体維持概念の質的拡張の出現に期すると

ころがあろう︒       ︵2︶ 国 ゲルトマッハーは﹁実際に補充がいつ行われるかは経営経済政策の問題である﹂として︑実際の補充を会計問

題から排し︑経営政策問題とした︒勿論︑補充調達が経営政策問題として解決できる時には異論の余地がなかろう︒

しかし実際の補充調達が経営経済政策で対処不能の場合には︑やはり実体維持のために︑費用評価の問題とする必要

があるのではなかろうか︒例えば経営政策上の意図に反して︑販売日に費消された財貨の補充が行われず︑その対価

が貨幣のまま保有される以外に方法が考えられない時︑やはり実体維持はインフレによって︑危険になるであろう︒      ︵3︶この点についてはシュミットの価値均衡の原理が有効となる場合もあろう︒

 四 ゲルトマッハーは﹁伝統的な会計処理に対する物価上昇の影響は経営にとって︑物価下落以上に危険である︒      ︵4︶したがって︑ここでは物価上昇時におけるその欠陥の修正が重視されなければならない﹂として︑物価下落時の問題

については﹁物価下落時に︑経営給付製造が外部からの借入金の法律上の金額保護のために脅かされる危険について       ︵5︶は本書の二部で取扱うつもりである﹂ということになっているが実際には︑この二部は未刊のままとなったために︑

(29)

この問題集解決の毒残されている.この解決はゲルトマッ→の費嬰時価で︑資産︑弼︑原価で評価する考え高       ︵6︶      ︑    ︶様の考えで展開されたハックスの資本実体結合計算の出現に期するところがあるとvえよう

 ゲルトマッハーの成果計算は以上の特徴と限界を有するものである一︑上記の限界があるとしても︑彼の成果計算は

決して無蔑罪現実的理論で窪く︑今建おいても技術進歩や霧変化姦油視できる短期間の実体維持計算とし

ては非笹有意菱会計論であるといえるであろう.従って蟹降の探聾の諸見解犠の翠柵穆鑑って︑破

の実体維持会計思考の基本的枠組の拡張の形で展開されていくといってよい︒すなわちこの基本的枠組の拡張とはゲ

ルトマッハーの理論では実体維持会計思考へ及ぼす悪影響要因として物価変動︑ないし通貨混乱だけが配慮されてい

たのであるが・鑑降の萱解では現実経済の動向によって経窟持︑ないし隻の永群の概禽容も膚麓

せられ・従ってまた︑実籍持会計思考の形成においても現実経済の讐維持に接す種々の覆を配掌るように

なり︑絶対的同一形態の実体維持概念が一層現実の動態経済に即して︑動的な内容の実体へと展開されていくのであ

る︒

︵1︶

︵2︶

︵3︶

︵4︶

︵5︶

これに関する考察については稿を改めr︑論及し忙い︒国OO一α目凹〇﹃05騨POこロD㊤︑拙稿﹁企業維持く︑ム計論の一試論﹂﹃産業経理﹄一一九七九年一二月号︑国●OO一αヨ餌O﹃OンP鉾Oこω畢09国辱OO一α自国OげOぴPρOこω︑㎝9

1経営維持と静的実体維持会計論一 九九頁︵注一八︶参照︒

二九

(30)

一論

︵6︶    文一

拙稿﹁企業維持会計論の一試論﹂前掲雑誌︑九八頁︵注六︶参照︒ 三〇

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