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この実践の授業がスタートしてから約 4 ヶ月、毎日この実践の授業のことが必ず頭の片 隅にあって、授業のことを考え続けている状況でした。常に「「状況」から出発する教育実 践とは何か」、「学習者にとって「+1」になる活動とは何か」を考え続ける中で、答えが分 からず時に行き詰まることもありました。一方で、日本語教師として新しい考え方・捉え方 が増えていくことがとても楽しく、毎回の授業があっという間に過ぎていきました。
授業を実践する際も、実践の振り返りや次の実践を検討する際も、毎回新しい気付きと学 びがありました。それを次の実践に活かそうとして教案を作成しても、結果として詰めが甘 いところがあり反省する日々でしたが、「次につながらない反省や振り返りはしない(=「ダ メだった」「できなかった」で終わらずに、どうすべきだったか、どうすれば改善するのか を考える)」という先生の言葉で、自分なりに少しずつ前に進めたのではないかと思ってい ます。
下記に、この実践の目標と、自身の立てた目標について、振り返ります。
1. 「文型」や「表現(機能)」からではなく, 「状況」から出発する教育実践 を理解し,実現する
「状況」から出発する、という言葉の意味を、私は当初単純に「学生が実際に身を置いて いそうな状況を設定し、そこから始める」というように考えてしまっていました。その考え が、自分が担当した「話す」授業の実践を通して大きく変わりました。実践を終え、振り返 りを行った日の授業時にとったメモには、下記の記述がありました。
「状況」から出発する教育実践=「状況」においたままで行う教育実践
(自身の振り返りシートに追記したメモより引用,下線は筆者・以下同様)
授業では聞き返す時の言葉を学ぶ目的で、絵に吹き出しを加えたワークシートを配布し、
そこに自分なら何と言うか考えてもらう活動を行いました。その中の一つに、下記のイラス トを用いました。
これは、学生が友人たちとミーティングをして いるという場面で、友人の話した言葉が聞き取れ なかった際、何と言うかという状況をイラストに したものです。ワークシート記入後に全体で共有 する時間を作り、その際この吹き出し部分の発話 を聞いてみたところ、一人の学生から下記の発言 がありました。
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「なんでこのミーティングありますか?」
(授業時に教案に書き込んだメモより引用)
上記は学生が吹き出しに入れた言葉です。この時私は、「どうしてミーティングでその質 問をしますか?」と問いかけたものの、「聞き返す」際の発話に意識が行き、その学生の発 話に対しては丁寧な対応ができませんでした。その聞き方だと相手が気持ち良くないので、
違う言い方が良いことを伝え、「聞き返す」発話を考える状況に戻してしまいました。この 授業の振り返りでは、先生から下記のフィードバックがありました。
(小林先生がフィードバック時に提示したpdf資料より引用)
例えば、よくあるロールプレイの例が右上の「過去」「現在」「未来」の時系列と共に書か れています。「コンサートのチケットが手元に2枚ある」という現在の状況を設定したとき に、そのチケットが手元に来るまでの過程は学生の想像に任せてしまっており、未来の行動 は「友人を誘う」などの行動を限定している、というロールプレイの状況です。
「状況」から出発するとういことは、そのようなロールプレイとは違うということを理解 しました。学生が経験しそうな「状況」を設定し、その後の展開を限定し進めていくのでは なく、学生の「イマココ」という「状況」に置いたままで、「イマココ」に至った「それま での文脈」と、学生が「進めたい方向」(=どういうコミュニケーションを意図しているの か)を理解し、活用できる言葉を一緒に考える、教えることが「状況」から出発することな のだと学びました。
上記の、「なんでこのミーティングありますか?」という事例で考えれば、どうして学生 がその発話を行ったのか、発話に至る文脈を理解し、学生がその発話後に相手とどのような コミュニケーションを想定しているのか、発話で何を伝えようとしているのかを理解した 上で、活用できる言葉を提示することが、学生の「状況」から出発するということなのだと、
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その後は、主担当か否かに関わらず、学生の考えた発話はどのような「状況」に置かれて いるのかを理解し、学生の「状況」で使用できる「+1」になる言葉を一緒に考えるように なりました。
2. 1人ひとりの学習者にとって「+1」になる活動を組み立て,実践する
授業を終えた時に、「新しい学びがあった」ことが学習者にとっての「+1」と考え、授 業に参加してきました。その「+1」は、授業の中に予め組み込んでいた学習項目の場合に 限らず、ワークシートなどの活動時に個々の「状況」に合わせた疑問・相談から得た学びも 含まれています。その「+1」が生まれるために必要な考え方、教師の姿勢を学びました。
この授業を通して、教案を書く際に考えるようになったのが下記の 3 つです。
①学生の頭の中がどうなっているかを考える
②学生のスモールステップを考える
③学生の目線で教案を書く
初回時と授業を経ていった時の教案を比較すると、明らかに教案を書く際の変化が見ら れました。授業の初回は、小林先生の自己紹介の授業でしたが、その際に卵先生の我々も各 自教案を考えました。その際に私の書いた導入部の教案が下記です。
(初回の授業で提出した教案より引用)
教師が一方的に「自己紹介」をすることを告げ、いきなり自己紹介で何を話すか聞いてい ます。実際の授業で「名前を話します」とスムーズに展開していくのは一部の(わたにほの 設定レベルより上の)学生だと思います。
教師の目線で一方的に進めようとしている教案を、どう変えていけばいいのか、考える糸 口は、毎回先生が提示し続けてくださいました。授業の振り返り時、先生からの「その時学 生は頭の中では何を考えているの?」「そこでのスモールステップは何?」「この教案は教師 の目線しか入っていないよね?」という問い掛けを通して、徐々に上記の①~③について、
目が向けられるようになってきました。
実践期間の後半に担当した、「打つ」授業での導入部の教案では、実践を始めた当初に比 べ、①~③を意識しながら教案を書けるようになりました。この「打つ」の授業では、記号
経過 メモ
10:40
※出てきた項目を板書。
進行内容
●導入(5分)
T「今日は『自己紹介』をします。自己紹介は、何を 話しますか?」
S「名前を話します。」
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や顔文字・絵文字なども含め、気持ちを伝える「打つ」言葉を取り上げました。導入時には、
学生は「「気持ちを伝える」という「気持ち」とは例えばどういうものを指すの?」「どんな 状況での「打つ」を学ぶの?」というように疑問が浮かんでいくだろうと考えました。学生 の頭の中の「???」を考え、その「???」が解消するスモールステップを進め、要所で 学生の反応を見て次の動きを考える、ということを心掛け、教案に反映していくようになり ました。これは、学生の「状況」に合わせた「+1」を生み出すための大きな学びでした。
3.自身の立てた目標について
私は、実践開始時に下記の目標を立てました。
①日常生活の中に潜む「ことば」を敏感にキャッチする力を養う。
②学習者の状況に合わせて、キャッチした「ことば」を学びに繋げる術を身につける。
③学習者にとって「価値ある学び」「+1の学び」とは何か、自身の答えを見つける。
完璧に実行できたとは言えませんが、目標に近付くために必要な学びをいくつも得まし た。下記にその事例を挙げていきます。
1)授業が終わった時、学生のワークシートがどうなっていてほしいのかを考える 下記は、私が「話す」授業を担当する際に、小林先生から受け取ったメールの中の一文で す。
ゴール(12:00の教室の状態)を具体的にイメージしてください。学習者のワークシート には,何が書かれていますか。
(メーリングリストで受信した小林先生からのメールより引用)
これは、先述した「①学生の頭の中がどうなっているかを考える、②スモールステップを 考える、③学生の目線で教案を書く」という学びとも繋がっているものですが、「教師とし ての自分がこれを教えたい、この活動がしたい」ということではなく、学生の立場で授業を 考える姿勢だと理解しました。
この「話す」授業自体は、自分が教えたいことばかりが先行し、学生の頭の中を想像する こともできずにワークシートを作り進めてしまい、ワークシートの完成図を想像しても、作 成当時は自分が教えたい項目のみが並んでいる様子を思い浮かべておりました。結果、冒頭 の「状況から出発する」実践への振り返りにも書いたように、学生の「状況」を読み取るこ とができず、自分の準備しているものだけを出す形になってしまいました。
最終的に何を授業から学んでもらいたいのか、学生頭の中と、それが外に表れた形である
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ワークシートが、最終的にどのような状態にあることを想定しているのか、という問いは、
その後の「復習 1」「復習Ⅱ」の活動を考える際に、何度も問い続けました。ワークシート に何が書いてあればいいのか、何を見る(評価する)ためにワークシートに記入してもらう のか、ということを考え作成することができ、活動から評価まで、想定していた評価の軸を 繋げることができました。
2)一人で全部正解を示そうとしない
下記は、「自分の状況を考える」為の授業を行った後の振りレポートです。「打つ」という ことを行う「状況」をワークシートに記述してもらう際の導入部について、振り返っていま す。
「打つ」の状況を捉える際に、「LINE」以外のチャットツールを事前に調べて出していっ たのですが、調査不足で用意していなかったツール名がいくつか出てしまいました。
(授業振り返りレポートより引用)
この振り返りを見た先生から「教師が全部答えを知っていて、教えなければならないとい う考え方が表れているように感じる」という言葉がありました。その時、自分の教師観につ いて初めて意識しました。先生の言葉は、準備を念入りに行うことを否定するものでも、学 生任せにするということでもなく、教師が必ずしも答えを提示する必要がない場面もある ということだと理解しました。教師と学生が一緒に考える過程を共有することも学生にと って学びの一つになるということであり、それが有効な場面を判断できることも教師とし ての力になるということを学びました。
例えば、他の卵先生が主担当だった時の授業で「リアクション」を取り上げた回がありま した。そこで使用したワークシートに、友人から「最近どう?」という問い掛けがありまし た。小林先生はその部分の記入について学生たちと話している様子でしたが、ちょうど先生 の近くを通りかかった時、私に対しても「●●さん、最近どう?」という問い掛けをされま した。私や、そこにいる学生たちに「最近どう?」と聞きながら多様な返答を学生の前に提 示していて、そこから「状況」に合った返答を学生と考えていました。それは、決まった一 つの答えがあるわけではないと示すことになり、学生と一緒に考えるプロセスを辿るもの でした。
教師が常に答えを示すべきだ、という考えを明確に意識して持っていたわけではありま せんでしたが、無意識に持ってしまっていたものが、教案やワークシートに表れていました。
今回の実践を通して自分の中の教師観も変わっていきました。
3)学びの本質は何かを考え、必要なものは入れる・必要のないものは入れない
教案検討時や振り返りの際に繰り返し小林先生が伝えてくださった、「授業中の教師の発 話も、授業で使用するワークシートも、必要なものは入れて、必要のないものは入れない」
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という言葉は、言葉だけ受け取るとシンプルでありがなら、実践においてはとても深くて、
実行するのが難しいものでした。ワークシートの作成時には、その言葉を下記のような事例 で実際に経験し、学びました。
担当した「話す」の授業で、ワークシートを作成しました。その授業は 5 回の「話す」授 業の復習で、「話す」授業で自分が学んだ日本語を一つ選び、その日本語について「会話例 の作成」や「他言語への翻訳」を通して理解を深めることを目的としていました。
下記は、左が初稿段階のワークシート、右は修正を加え、実際に当日使用したワークシー トです。
ワークシートの初稿時には、必要な項目と、それを記入するための欄を設けることだけを 考えており、使用する記号やレイアウトについて、配慮が行き届いていませんでした。教案 検討を経て、下記の点を考慮し、修正を行いました。
・不要な記号は外す。→①~④の記号で番号を付けていたが、それは本当に必要か否か。
・記号を様々な用途で使用することで混乱を招かない。→書き込む箇所に( )を多用し ているが、書き込んでもらう内容を考え、記号を揃える。例えば翻訳の言語を記入する 箇所に( )、翻訳した内容を書く場所にも( )など、違う項目の記入に( )を多 用するのは親切ではない。
・英語の表記で伝えても問題ない部分は英語で伝える。
上記のような修正に加えて授業時にパワーポイントで記入方法などスモールステップを 考えながら丁寧に示していくことも考慮して作成していきました。
「必要なものを入れ、必要のないものは入れない」ということは、結局自分はその「教師 の発話」や「ワークシート」を通して学生がどうなってほしいのか、どんな学びやスモール ステップを想定しているのか、という「学びの本質」を常に考え、明確化することに繋がり ます。そのことを、実践での経験を通して理解することができました。
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授業目標や個人目標を完全に達成し、授業で体現できているまでに至ることはできませ
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んでしたが、これから教師を続けていく上で本当に大きな気づきと、視点をたくさん学ぶこ とができました。ここで学んだことが色あせないように、今後も考える癖を継続させて教壇 に立ちたいと思います。
小林先生、卵先生の皆さま、4 か月間本当にありがとうございました。