立教大学 教職課程 2021 年 3 月
特別支援教育への理解の状況
-教職科目「特別支援教育の理論と方法」の成果-
青木 猛正
1 はじめに
文部科学省(2017)では、教育職員免許法の 改正に伴って「教職課程コアカリキュラム」を 公表し、2019 年度入学生より運用を図ってい る。教職課程コアカリキュラムでは「教育の基 礎的理解に関する科目」として、新たに「特別 の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に関す る理解」が位置づいている。筆者は、青木(2018)
で教職科目としての「特別支援教育」の全体像 を示すとともに、特に、高等学校における認識 の重要性を指摘した。
それを受けて、本学では「特別支援教育の理 論と方法」の名称で、2年次生以上の履修科目 として設定している。2019 年度学部入学生を 対象に、2020 年度秋学期に正式に科目を開設 し、筆者は2講座を担当した。
2 授業展開
「特別支援教育の理論と方法」では、下記の テーマと到達目標、授業の概要をもとに、各テー マをカテゴリーに分けて実施した。
シラバスに記載した「授業のテーマ及び到達 目標」は、「通常の学級にも在籍している特別 の支援を必要とする生徒への対応のために必要 な知識や支援方法について理解する」である。
また、同じく「授業の概要」は、「インクルー シブ教育の実現に向けて、必要な知識や学校と
しての対応等教員として必要な資質を高める」
としてある。
その上で、授業計画と実際の授業展開を下記 のように設定した。
(1)授業計画
①特別支援教育の理念
• 導入:特別支援教育とは
• 障害とは:ICFの理解
• 障害者権利条約と障害者差別解消法
②特別支援教育の実際
• 特別支援学校の教育課程
• 特別支援学級と通級による指導
• 学校における合理的配慮とは
③特別支援教育への対応
• 特別支援教育の体制整備
• 障害種別における対応
• 通常の学級における対応
• 個別の教育支援計画と個別の指導計画
④特別支援教育の現状と課題
• 障害はないが特別な教育的ニーズのある 児童生徒への対応
• インクルーシブ教育の実現に向けて
• 関係機関との連携・生徒指導上の配慮
• 障害者雇用・障害者の活躍
(2)授業展開
実際の授業は、コロナ禍の中すべて双方向の
オンライン配信で実施した。通信状態の不具合 等への配慮のため、毎回の授業を録画し、一週 間程度視聴できるようにした。
毎回授業後は、その授業に関する理解度を図 る「授業課題」と授業の意義に関する「授業評 価」、及び次回授業への事前準備を兼ねた「次 回の授業に向けた課題」を提出させた。
「授業課題」については、学生に意見をピッ クアップし、翌授業で毎回紹介するとともに、
質問等については全体の前で回答した。
「授業評価」については、「大いに役にたつ」「あ る程度役に立つ」「あまり役に立たない」「まっ たく役に立たない」の4項目から選択させ、グ ラフ化して随時報告した。
「次回の授業に向けた課題」については、毎 回受講者を指名して授業の冒頭で発表させ、そ の内容についてのコメント等を付け加えた。
以下、各カテゴリー別に、授業の内容、授業 課題による意識の深化、授業評価の結果をまと める。なお、授業課題や授業評価結果の本論へ の掲載については、受講者の了承を得ている。
3 授業の実際
3-1 特別支援教育の理念
(1)導入:特別支援教育とは
教育基本法第4条第2項の条文に触れ、それ をもとに文部科学省(2007)の通知「特別支援 教育の推進について」の意味するところ、及び 明治時代の障害児教育から、現在の特別支援教 育に至る歴史について講じた。
特に、特別な教育的支援を必要とする幼児児 童生徒が在籍するすべての学校が対象であるこ とをもとに、究極の目的が「多様性の容認」「共
生社会の形成の基礎」であることと位置づけ、
我が国の現在及び将来の社会にとって重要な意 味を持つことを示した。
授業課題の主な内容は、下記の通りである。
• 特別支援教育は身近な存在であり、必要不 可欠なものである
• 特別支援教育と通常の教育は別々に捉えて いたが、特別支援教育の教員ではなくても その知識は不可欠であり、すべての学校で 専門性が必要である
• 生徒一人一人のニーズや特性に配慮し、関 わっていくことが必要である
• 生徒一人一人の多様性を認め、それぞれの 思いなどを考え、感じることができるよう になりたい
• すべての人に平等に保障された教育の権利 を大切にしていきたい
等、「特別支援教育」の意図が理解されたと ともに、教育を広く捉えられていた。
(2)障害とは:ICFの理解
国際障害分類(ICIDH)から、国際生活機能 分類(ICF)への流れをもとに、障害が個人の 特性のみを意味するのではなく、「環境因子」
が大きく左右することを講じた。その一環とし て、障害当事者や家族の思いを引用した。
「害」の字を意識して「障がい者」と記載す る風潮がある。しかし ICF の理念をもとに、
筆者が通常使用している「障害者」の字義を「社 会的「障」壁が弊「害」になっている人」であ ると定義した。
授業課題の主な内容は、下記の通りである。
• 印象に残ったことは、障害は社会がつくり
出すという言葉であった
• 障害がある人への認識は、大人になるにつ れて間違った方向に行ってしまっている
• 普段友達が困難に直面したときに助けたい と思うのと同じように助けてあげ、よくな いことをしたら注意し、楽しいことがあっ たら笑い合うなど、当たり前の関係を築き たい
•「~をしてあげる」や「健常者や正常」と いう単語に違和感を覚えた
• 障害者が頑張る姿を見て感動することは、
障害者を人間扱いしていないことになる 等、障害のある人を特別視しない意識が芽生 えたと言える。
(3)障害者権利条約と障害者差別解消法
「障害者の権利に関する条約」や「障害を理 由とする差別の解消の推進に関する法律」「障 害者基本法」などの条文をもとに、教育に課せ られた使命や合理的配慮の必要性を講じた。
特に、日本国憲法や教育基本法で示されてい る「すべて国民は、法律の定めるところにより、
その能力に応じて、 ひとしく教育を受ける権利 を有する」の意味することについて考え、人と して当たり前に生きることができる社会の構築 に大きな意味があるとした。
授業課題の主な内容は、下記の通りである。
• 障害のある人を支援することと特別扱いす ることは、イコールではない
• 合理的配慮について、もっと多くの人が考 えるべきである
• 障害者だから助けるという考えではなく、
困っている人がいたら助けようという意識 を持つことが必要である
• マジョリティに合わせるのではなく、また マイノリティを過度に保護することでもな く、共に win-win の関係になれることを 理想として掲げたい
等、特に「配慮する」ことの意味について理 解がなされたと言える。
(4)授業評価
「特別支援教育の理念」の項目に対する授業 評価は、図1の通りであった。
3-2 特別支援教育の実際
(1)特別支援学校の教育課程
特別支援学校在籍者数(学部別・障害種別)
の推移について示すとともに、学校教育法第 図1 「特別支援教育の理念」に関する授業評価
72 条の特別支援学校の目的、特別支援学校学 習指導要領に示されている教育領域である「自 立活動」の実践、さらに学校教育法施行規則第 130 条第 2 項の「領域・教科を合わせた指導」
の実践、及び「訪問教育」について講じた。
特別支援教育のキーワードは「自立と社会参 加」であり、そのために個に応じた指導が実践 され、まさに教育の原点であると位置づけた。
授業課題の主な内容は、下記の通りである。
• 個に応じた指導で自立と社会参加を目指す ことは、特別支援教育に限らずすべての教 育にとって大切である
• 偏見を持つことなく、児童生徒の将来の生 活を見据え、必要な支援を行うことが必要 である
• 特別支援学校の教育課程では自立活動が特 徴的であり、心身の調和的発達のためにそ れぞれの分野に相互に密接な関連付けをし て計画・指導を行うことが大切である
• 数字やグラフで見える形でその現状を把握 でき特別支援学校の役割を再確認できた 等、「自立活動」の意義や「自立と社会参加」
に向けた個に応じた指導、そのための特別支援 学校の実践に対して理解がなされたと言える。
(2)特別支援学級と通級による指導
「特別支援学級」や「通級による指導」の法 的根拠をもとに、障害種別の在籍者数の変遷や
「自立活動」をもとにした指導の実践を示すと ともに、学齢児の就学手続きについて講じた。
2018 年度より制度化された「高等学校にお ける通級による指導」のあり方や、今後の課題 については、特に強調した。
授業課題の主な内容は、下記の通りである。
• 学びの場の選択に対する柔軟性が高められ ていることを知った
• 通級や特別支援学級など、就学に際して 様々な選択肢があることが必要である
• 就学相談は本人にとっても大事であるが、
保護者にとっても非常に大切なものである と感じた
• 多様性が重要で、児童生徒としっかり向か い合い、その個性や特性に合った学習形態 を考えることが大切である
• 共に学び合うことに関して、教員と生徒が ただ向き合うのではなく、相乗効果を生み 出せるようなサポートをしていきたい 等、確実に意識の変容が芽生えてきたと言え る。さらに、「私立学校の教員を目指しており、
障害のある生徒との関わりについて意識してこ なかったが、私立学校にも困難を抱えている生 徒がいるかもしれないと、意識するようになっ た」との意見もあった、
(3)学校における合理的配慮とは
障害者権利条約等による「合理的配慮」の意 味することを基本に、学校で必要となる観点や 障害種別による配慮の具体例等を講じた。
さらに、文部科学省(2012)をもとに、通常 の学級にも特別な教育的支援の必要な児童生徒 が在籍していることを踏まえ、埼玉県立総合教 育センター(2012)による「授業におけるユニ バーサルデザイン」の必要性を示した。
授業課題の主な内容は、下記の通りである。
• すべての人が学ぶことができるように、学 校では様々な配慮が行われていることが分
かった
• 教員として一人一人を把握することが大切 であり、必要としていることを察すること は、教員として必要な資質である
• 合理的配慮により障害の状態も変化し、時 間的な経緯で必要な支援が異なっていくこ とに気をつけなければならない
• 授業のユニバーサルデザインは初めて聞く 概念だが、生徒にとって授業が困難である ものになってはいけないと感じた
• ユニバーサルデザインは誰にとっても学び やすい環境になるので、普段から意識的に 改善できないかを考えていきたい
• 特別支援教育のみならず、個性や特性に応 じた生活の場として、学校が過ごしやすく 学びやすいものにしていきたい
等、一人一人を大切にすることとともに、授 業や学級環境等への配慮に関する意識が持たれ るようになった。
(4)授業評価
「特別支援教育の実際」の項目に対する授業 評価は、図2の通りであった。
3-2 特別支援教育への対応
(1)特別支援教育の体制整備
文部科学省(2018)をもとに、特別支援教育 に関する「校内委員会」や「特別支援教育コー ディネーター」「実態把握」等の状況をもとに、
校内委員会やコーディネーターの役割、「巡回 相談員」や「専門家チーム」等との連携による 実態把握のあり方等について講じた。それらを 踏まえ、校長の責務や担任の対応も示した。
学生の出身小・中・高校における「特別支援 教育コーディネーター」の存在について問うた が、ほとんど認識されてはいなかった。
授業課題の主な内容は、下記の通りである。
• 校内委員会の役割フローを見ると、PDCA サイクルに基づいていることが伺える
• 特別支援教育コーディネーターの大切さが わかった
• 生徒自身に何らかの支援が必要でも自分で はわからない場合もあるので、担任を中心 に日頃から観察することが必要である
• 面接法で共感性を強く持ち、行動観察法で 細かいところまで気を配り、検査法でデー タを収集する、この三つは教員として大切 な要素である
図2 「特別支援教育の実際」に関する授業評価
• 学校は、教員だけではなく様々な方面から の支援の上で成り立っており、特に特別支 援教育に関しては専門家が重要な存在であ ると感じた
• 特別支援教育を学ぶことで、本当に必要な 教育現場を作るための足掛かりを見いだす ことができる
等、それぞれの役割や校内体制等について意 識が深まったと言える。
(2)障害種別における対応
障害特性への理解をもとに、特別支援学校や 特別支援学級における各障害種別の指導事例、
及び「医療的ケア」の状況について講じた。特 に、点字や手話(指文字)の具体例や、食形態 による給食時の対応も示した。
最後に、埼玉県教育委員会(1995)に掲載さ れている、中途失明により中学部から盲学校で 学んだ生徒の詩「おこられた」を紹介した。
授業課題の主な内容は、下記の通りである。
• どのような障害のある児童生徒に対して も、一人一人の特性に応じて社会的自立を 目的とした教育や支援を施せるようにして いきたい
• 同じ障害であっても注意するべき点は異な り、必ずしも同じ対応をするのではなくそ の生徒の状態を考慮し、一人一人に適切な 対応をすることが大切である
• 特性を理解することで、支援に対してより 幅を持たせることができると感じた
• できないことを前提で接することのないよ うにし、工夫すれば自分でできるという自 信をつけさせることが大切である
• 授業の最後に紹介された詩の「じぶんでや れることが増えた」が印象に残り、改めて 特別支援教育のあるべき姿を感じた 等、講義の意図が浸透できた。ただし、内容 的にかなり深追いしているため、「通常学級の 範疇ではないと感じ、自分が目指すような教員 の仕事とは乖離しており、実感を伴って学ぶこ とは難しかった」との記載もあった。
(3)通常の学級における対応
「教室にこのような生徒がいませんか?」を 主題に、「自分から人に関われない」「じっとし ていられない」「意思表示がうまくできない」「興 味のあることを一方的に話す」等、日常的に見 受けられる事例をもとに、どのような背景や特 性があり、どのような対応が必要かについて、
学生相互の意見交換を行った。併せて、高校生 への配慮のポイントを講じた。
基本的な視点は、「困った生徒」という現象 面ではなく、「困っている生徒」であると、そ の背景を視野に入れることに置いている。
授業課題の主な内容は、下記の通りである。
• 困った生徒ではなく、当事者が困っている 生徒という言葉に感動した
• 授業の演習で要因を一つしか思いつかな かったが、同じ事例でも原因は人それぞれ 違うし、それによって対応法も変わるとい うことが改めてわかった
• 通常学級にも困難を抱えている生徒がお り、その原因や背景を考えて個々に対応す ることが教員としてあるべき姿である
• 今までは弱みを補うように考えていたが、
特性を踏まえた強みを活かす対応が必要で
あり、生徒の自己肯定感にも結び付く
• 授業や学級経営において、生徒は一様な存 在ではなく多様な存在であるということを 常に頭に置いておくことを意識したい 等、本講義の主題とも位置づくような反応が 多くあった。
(4)個別の教育支援計画と個別の指導計画 文部科学省(2007)をもとに、「個別の教育 支援計画」及び「個別の指導計画」の作成の意 義を講じ、各都道府県教委が公表している書式 例をもとに、想定される記載例を示した。
その過程で、個別の課題や目標の設定、実践 とともに、特に「評価」の重要性について強調 した。その上で、継続的な支援のための重要な ツールとなることを示した。
授業課題の主な内容は、下記の通りである。
• 個別の教育支援計画と個別の指導計画は、
特別支援教育推進の要となるものである
• 切れ目のない支援のために必要な計画であ り、教育的ニーズや保護者・本人の願い、
関係機関との連携など必要な情報がまと まっており、その機能性を認識した
• 多くの立場の人が携わるからこそ、情報共
有をする連携体制の整備が必要不可欠であ ると感じた
• ともすると効率的な支援方法のみを考える が、そこに本人の思いを汲むことにより、
より効果的になると思う
• 個別の教育支援計画も個別の指導計画も、
未来への引継ぎ資料としての役割がある 等、個別の教育支援計画と個別の指導計画の 役割が認識された。ただし「作成には時間や労 力が掛かり、大変なものだと感じた」「特別支 援学校ではければ、教員自らが推進する手段や 環境にないように思う」と、作成のための困難 さを感じているような意見もあった、
(4)授業評価
「特別支援教育への対応」の項目に対する授 業評価は、図3の通りであった。
3- 4 特別支援教育の現状と課題
(1)障害はないが特別な教育的ニーズのあ る児童生徒への対応
学習における困難さのため、教育約な手だて を必要とする状況を「特別な教育的ニーズ」と 定義し、青木(2020)等をもとに、障害とは異 なる、多様な生徒の状況を具体的な数値等を用
図3 「特別支援教育への対応」に関する授業評価
いて示した。その中で、児童養護施設等入所者 や生活保護世帯等の「貧困問題」への対応、及 び外国籍あるいは日本国籍で「日本語指導が必 要な児童生徒」への対応を講じた。
その上で、どの学校にも多様な生徒が在籍し ていることを前提に、多様性を容認し合う意識 の醸成を目指した学級経営の必要性を示した。
授業課題の主な内容は、下記の通りである。
• 生徒が何か困難なことを感じていた場合、
そのことが悪いことではないと伝わるよう に受け止めたい
• 何かに心をさいなまれている状況は学ぶ権 利を害されていると言えるため、外部の機 関や人と連携を図って取り除いていくべき だと考える
• 教育的ニーズは常に変化しており、個人の 性格や状況、困り感に合わせるべきである
• どんなに解決が難しいことであっても、小 さいことであっても、解決の糸口を探るた めに取り組むことが重要である
• 生徒の状況は様々であり、本人に責任がな いことで、学習からドロップアウトさせる ことは絶対にあってはならない
等、「教育を受ける権利」の擁護のためにも、
学校や教員の役割への認識が深まってきた。
(2)インクルーシブ教育の実現に向けて インクルーシブ教育を「共生社会」の実現と 位置づけ、同じ場で共に学ぶことを追求すると ともに、自立と社会参加を見据えて「教育的ニー ズ」にもっとも的確に応える多様で柔軟な仕組 みと学びの場を整備する必要性を講じた。その ための取り組みとして、埼玉県が実践している
「支援籍学習」を中心とした、「交流及び共同学 習」の意義と実践事例を紹介した。
加えて「バリアフリー」と「ノーマライゼー ション」の違いを説明し、「障害者用」という 発想が、逆に「心のバリア」につながることに なるとした。
授業課題の主な内容は、下記の通りである。
• 障害のあるなし関わらず、生徒達の間でも 心のバリアフリーを育む教育求められる
• インクルーシブ教育には、日本国憲法にあ る教育を受ける権利の実現が根底にある
• インクルーシブ教育は、障害のある人とな い人の垣根をとっぱらった教育である
• 交流及び共同学習は、" 普遍的 " をめざす からこそ個々人への合理的配慮を心がけ、
全体としての和を作っていくことが重要
• 多様性を受け入れるようになるためには、
幼いころからの教育が重要である 等、今後の決意と言える意見があった。
その反面、「インクルーシブ教育の説明にあ る「共に」と言う表現は、互いが異質の存在で あることを暗に認めていると思える」との意見 もあった。しかし、「インクルーシブ教育とい う言葉がなくなったときが、ほんとの意味での インクルーシブ教育の実現である」「ノーマラ イゼーションにおいて重要なことは人々の心の 中にある壁を取り除くことであり、そのための 行動を行なっていくようにしたい」など、イン クルーシブ教育の意義やノーマライゼーション に対する意識がしっかりと高まっている。
(3)関係機関との連携・生徒指導上の配慮 関係機関として、福祉事務所等の公的機関、
児童発達支援センター等の障害児関係機関、障 害者就労支援センター等の就労支援機関、医療 機関、広域特別支援連絡協議会等を紹介し、そ れらとの連携の在り方について講じた。併せて 専門職として、特別支援教育支援員、社会福祉 士、言語聴覚士等の役割を紹介した。
生徒指導に関しては、特別な教育的支援が必 要な児童生徒の障害特性から起こる行動への理 解とともに、二次障害防止の意義を講じた。そ のために、障害特性を生かした対応を紹介した。
授業課題の主な内容として、関係機関との連 携については下記の通りである。
• 関係機関との関わりで、障害のある人も同 じ地域で過ごしていることを感じられる きっかけになるのではないか
• 学校教育ではできないこともあり、できる こととできないことの境目を理解しておく ことは大切である
• 関係機関との連携のためにも、広域特別支 援連絡協議会や特別支援教育コーディネー ターなどを介したネットワークの構築や専 門職への理解が重要だと思う
生徒指導については、下記の通りである。
• できないことを否定せずに、どう指導する かを常に考えていくことが必要である
• 生徒の自立を目指し、問題行動の解決や自 発的な行動の手助けをすることが必要
• もっとも大切なことは待つ姿勢であり、焦 らずに根気強く続けることで、行動が改善 されていくと思う
等があった。また、吃音により人前に出られ なかった人が、言語聴覚士の支援によって改善 がなされ、今では組織のリーダとなっている例
が紹介された。
(4)障害者雇用・障害者の活躍
特別支援学校の卒業生の進路状況をもとに、
障害者雇用の現状や就労支援事業所の取り組み 等を紹介した。また、野坂(2020)をもとに、
高等学校において困難のある生徒への進路支援 の実例に触れ、就労支援の実態等を講じた。
障害者の活躍については、障害者スポーツの 歴史や現状、障害のある政治家や芸能人等の活 躍の様子を紹介した。障害者が社会生活で活躍 できるためにも、一人一人の特性や感性を十分 理解し、障害のある人たちが活躍できる社会の 創設が大切であるとした。
なお授業において、筆者は「パラリンピック 廃止論者である」とした。その意図は、オリン ピックの中に部門を作り、同じ場で一緒にやる ことが望ましいことにある。
授業課題の主な内容として、障害者雇用につ いては下記の通りである。
• 今まで認知していなかった障害者のための 社会制度を知ることができた
• 障害者の就労支援体制が敷かれているが、
その支援体制や実際の就労体制が十分であ るのかについては疑問が残った
• これからも、障害者の生活を支えるための 制度をより良く更新し続ける必要がある
• 障害者雇用は、採用する側と採用される側 との間にあるニーズを活かす必要がある 障害のある方の活躍については、下記の通り である。
• 障害のあるなしに関わらず、人それぞれが 活躍できる場所は存在すると学んだ
• 障害のある人についても、優れているとこ ろを探してそれを活かせるような環境を作 ることが大切
• パラリンピック廃止論は、共感できた 等、個々の特性が生かされる社会の構築に向 けて取り組む意図が表されていた。
(4)授業評価
「特別支援教育の現状と課題」の項目に対す る授業評価は、図4の通りであった。
4 最終レポート
授業は、最終レポートとして「特別支援教育 の推進に向けて必要だと思うこと」をテーマに、
「生徒が有する困難な状況に対する支援」「教科 指導や学級経営において配慮するべきこと」「学 校組織の一員として心がけなければならないこ と」等についての記載を求めた。
最終レポートの評価の観点と評価規準につい ては、次のように設定した。
表1 最終レポートの評価規準等
観点 評価規準
テーマ に合致
特別支援教育の推進について明確な 記載がなされているか
学びの 深まり
受講したことにより、考え方等の変 化があったか
自らの 考え
受講したことにより、自分なりの考 えを構築できたか
客観的 な判断
受講内容をたどるだけではなく、広 範な視点が持てたか
5 授業の意図と教員としての意識
上記の各授業における学生の「授業評価」に
関しては、ほとんどの学生が「役に立つ」と回 答している。もちろん、調査の時期や方法に課 題は残る。しかし、それまで「特別支援教育」
に対する認識がほとんどない状況の中で、この 授業によって学びが深められたことは、授業課 題や最終レポートからも明らかになった。
最終授業における授業課題では「教員になる ことを想定して今後に向けた決意」についての 思いを求めた。主な回答について、下記に記載 する。
• 教員が、障害のある児童生徒とどう向き合 いどう接するかについては、児童生徒もよ 図4 「特別支援教育の現状と課題」に関する授業評価
く見ているし、今後障害のある方との接し 方について、とても影響を及ぼすと思う。
• 教員としてどのような学校種であっても、
生徒が抱えている問題に寄り添い、個別に 関わり、具体的な支援や対話などを通して 温かい教員になりたいと思う。
• 障害のあるなしに関わらず、一人一人の生 徒への理解を深め、適切な支援を行ってい きたい。
• 教員になったときに、少しでも児童生徒の 価値観の形成や将来を良いものにするため に尽力していきたい。
• 障害のあるなしに関わらず、学校には様々 な生徒がいることが当たり前であり、自分 の価値観や感情を押しつけるのではなく、
フラットな考えで関わっていきたい。
• 教員として一番重要なことは、生徒一人一 人を大切にすることであると考える。この 授業では障害のある生徒の対応が中心で あったが、すべての生徒にも必要に応じて 行うべきことについて学んだと思う。
• 障害のある方に対する先入観をなくし、全 員が同じように共生していけるような環境 づくりや学級作りを行うためにも、授業で 学んだことを大切にしていきたい。
• すべての生徒が不公正さを感じない授業が できるように、日々勉強していきたい。
• 障害のみならず生徒一人一人はそれぞれ 違った背景や個性があることを肯定的に捉 え、時に集団として、時に個人としての支 援を心がけ、合理的配慮が適切に行えるよ うな教員になりたいと思う。
• 今回、この授業を受けられて本当に良かっ
たと思うと同時に、このような事実を知ら ない人もいるために、まだ発展に繋がらな いのではないかと感じた。特別支援教育に よって社会を変えることができると思うの で、これからも大切にしていきたい。
• 障害者のことについて学ぶことで特別支援 教育に興味を持ち、障害者の社会進出への 手助けを行いたいと、強く感じることがで きた。
• 教育活動の対象である「人」は、常に変化 し続けるものである。常に想像力を働かせ て、絶えることなく一人一人に向き合って 適切に配慮し、その可能性を人生や社会生 活の中で最大限発揮できるように、支援し ていけるようになりたい。
• 教員として、「個々の違い」への寛容性を 育み、多様性を認め合いながら支え合う学 習環境づくりを行っていきたい。
これらの回答からも、授業によって特別な教 育的支援の必要な生徒への対応のみならず、こ れからの教員として必要な資質が育まれたと言 えるのではないだろうか。その点においても、
冒頭に記したこの授業の「到達目標」も十分に 達成でき、「授業の概要」の意味することが実 現できたと評価できるのではないだろうか。
6 まとめ
筆者は、高等学校教員として教職がスタート した。その後、管理職として特別支援学校3校
(肢体不自由・視覚障害 ・ 知的障害)に勤務を した。その経験の中で教育観が大きく変化する とともに、学校が果たすべき役割について再認 識することができた。
特別支援教育に長年携わっている諸先輩方 や、特別支援学校で実践なさっている教職員の 方々からも非常に多くの示唆をいただいた。ま た、特別支援学校在職中に文部科学省(2007)
の通知が発出され、まさに「特別支援教育元年」
を体感できたことも大きな経験である。その経 験を踏まえ、「特別支援教育は教育の原点であ る」との思いを強くしている。
本授業は、特別支援教育の理論的な側面とと もに、筆者自身の経験の中で培ってきたことを 踏まえた、方法論的な側面を活かしながら講義 を行った。それらの視点は、学生にも伝えるこ とができたと考えている。本授業を契機に、将 来教職をめざす学生が、児童生徒一人一人を大 切にし、現象面のみにとらわれることなくその 背景に目を向けることができる教員となり、教 育活動を実践することを大いに期待している。
筆者は。本論をまとめることを通して、改め て受講生の意見や思い、反応等の変化を再認識 することができた。これらをもとに、教職科目
「特別支援教育の理論と方法」に関しては、さ らに授業改善を図っていく所存である。
なお、本授業では下記の調査・報告書等のデー タをもと、必要事項の経年変化を提示した。
・文部科学省
「学校基本調査」「特別支援教育資料」「特別 支援教育に関する調査結果について」等
・厚生労働省
「障害者雇用実態調査」等
・内閣府
「障害者白書」等
【参考文献・引用文献】
文部科学省(2017)『教育職員免許法の改正と 教職課程コアカリキュラムについて』
青木猛正(2018)「特別支援教育の理論と方法
−高等学校の対応を中心に−」『教職研究 第 31 号』(立教大学教職課程)pp.1 ~ 10 文部科学省(2007)『特別支援教育の推進につ
いて(通知)』
文部科学省(2012)『通常の学級に在籍する発 達障害の可能性のある特別な教育的支援 を必要とする児童生徒に関する調査結果 について』
埼玉県立総合教育センター(2012)『小・中・
高等学校及び特別支援学校におけるユニ バーサルデザインの視点を取り入れた授 業実践に関する調査研究(最終報告書)』
文部科学省(2018)『平成 29 年度特別支援教育 体制整備状況調査結果について』
埼玉県教育委員会(1995)『がんばる友だち』
青木猛正(2020)「ダイバーシティ教育の意義」
『日本高校教育学会年報第 27 号』(日本高 校教育学会)pp.1 ~ 2
野坂浩美(2020)「進路の選択肢を広げる教育 支援の試み− 「健常者」 と 「障害者(児)
」 を区別しない公立普通科高校におけるス クールキャリアカウンセラーの実践から」
『キャリアデザイン研究第 16 号』(日本キャ リアデザイン学会)pp。 223 ~ 228