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海洋化学研究 Vol.17.tif

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1. はじめに

地球表階の物質輸送は,太陽エネルギーと地球 内部からのエネルギーによって支配されている.

地球に入射する太賜エネルギーは緯度や季節によっ て変動するが平均すると約350Wm2で,実際に地 表に達するのは, このうちの50%程度である . 一 方,地球内部は放射性核種の壊変エネルギー等に よって熱くなるが,熱伝導によって地表に運ばれ る熱エネルギーは約6 0 m W m2である. この熱フ ラックスは太陽のわずか数千分の 1である. そこ で,比較的短いタイムレンジを対象とした地球表 屑の エネルギー・物質輸送を考える場合 には通常 太陽のエネルギーによって支配される、ンステムの みを考えればよいということになる.

さて, 生物圏に目を転ずると,地上生物圏は太 陽エネルギーによって支えられており,地下生物 圏の一部は地球内部からのエネルギーによって支 えられている.換言すると前者の 生物圏は有酸素 に基づ く世界に,後者は嫌気性条 件でのシステム に対応している.地球史的には,後者の地下生物 圏のシステムが最初に,次に地上生物圏のシステ ムが現れた.現在 は,これらの 生物圏の他に, エ ネルギーを物質の中から 自分 の都合 でとりだす、ン ステムを確立した人間がその活動をひろげつつあ るということができる.

現代の地球環境は,自然のシステムの上に,人 類活動による寄与がオーバーラップしたものであ る.特に,現代の文明で重要なエネルギー資源で ある 石油は,現在確認されている埋蔵量 の相 当量 は白亜紀に生成 しており,その炭素はマントルよ

川 幡 穂 高 *

り供給されたと推定されている. また, それを使 う人類にしても地球上の生物の進化の過程で誕生 したものである.現在の人類の活動も 含 めた地球 環境というものは,究極的に地球の歴史を反映し たもので,私は自分の研究人生において,最終的 に地球は全体として一つ である, といった概念を 明確に証明したいと期待している.

私は化学あるいは物理学が地球・惑星システム を理解する際に非常に有用であると信じていたの で,理学部 の化学教室に進学 した.修士課程 では 海水中に溶存する放射性核種のラドンの分析をし た.博士課程では,海底より下の部分を勉強した いと思い,地質教室 に移り,中央海嶺の海底熱水 系について研究した.特に, プラックスモーカー などから噴出する 高温熱水が誕生する海底下2km  位での高温での岩石ー熱水の反応を研究した. その 後地球環境研究も行うようになったが,基本的 に私の専門は固相ー液相の相互作用 で,特に, 固相 の分析と解析により,その背後にあるプロセスな どを研究してきた. これには,変質岩の同位体あ るいは化学紐成より熱水の組成の推定,炭酸塩の 同位{本あるいは化学組成より環境パラメーターの 定量的な復元,生物起源炭酸塩の形成および溶解 からの液相の推定,粒子状物質に 含 まれる 有機 物 からの一次生産の推定や分解過程の推定などが含 まれる.

今回,海洋化学学術賞(石橋賞)をいただく機 会を得たことを大変光栄に感謝するとともに,今 後も固相ー液相の相互作用の研究を地道に続ける 際の励みとしたいと 考えております. この小論で は,現代と近い過去である 第四紀に時間範囲を絞っ

*独立行政法人産業技術総合研究所地質情報研究部門 研究グループ長

/東北大学大学院理学研究科(連携講座) 教授

Transactions of The Research Institute  of 

Oceanochemistry Vol. 17,  No. 2,  Nov.,  2004  65 

(2)

て炭酸塩および有機炭素という炭素のもつ 二 つの 側面について, これまでの結果を概観したい.

2. 炭酸塩と有機炭素の形成と溶解

一次生産などの年間あたりの有機炭素の生産量 は,大気中に現存する 二酸化炭素の数倍に逹する ので,外洋のプランクトンや陸上の植物による光 合成量が注目されている. 一方, それと比較する と炭酸塩の年間あたりの生産は小さい. しかしな がら,地球上の堆積物および陸上の堆積岩に含ま れる炭素の約四分の三 は炭酸塩の形で貯蔵されて いると推定されているので,炭酸塩は地球表層の 炭素循環を考える上で重要である.

現在の海洋では,海底熱水地帯等の特殊な地域 を除くと無機的に方解石が沈積していることは稀 で,生物活動か炭酸カルシウムの形成に 璽 要 な役 割を果たしており,方解石とアラレ石という 2種 類の炭酸塩鉱物が一般的である. サンゴ骨格はア ラレ石を作るが,外洋では方解石殻をもつ有孔虫・

円石藻等が一般的である.

二酸化炭素は大気ー海洋境界において分圧が高い 相から低い相へと移行する.有機物の生産,すな わち光合成は二酸化炭素の固定反応で 二酸化炭素 の吸収反応となっている.

光合成 (CO2吸収)

: 

3. サンゴ礁生態系における炭酸塩の形成と二酸 化炭素の放出

二酸化炭素を吸収する光合成と放出する石灰化

(炭酸カルシウムの生産)が活発に進行するサンゴ 礁あるいは円石藻を主体とした生態系が,全体と して大気の二酸化炭素の吸収源となっているか,

あるいは放出源なのか,について多くの議論がな されてきた.この問いに答えるためには, 源水と しての外洋水に対して,サンゴ礁の内側の海水,

すなわちラグーン水の洵水の性質を調べることか 最も有効である .なぜ なら海水中の 二酸化炭素分 圧について,もし,内側が高ければ二酸化炭素の 放出,低ければ吸収とな るからである.

マジュロ環礁,モルジプの南マレ環礁, グレ ー トバリアリーフ,パラオ 堡 礁で海水中の 二酸化炭 素分圧を調べたところ, ラグ ー ン表層海水のそれ は外洋水に比べて高い値を 示 した(図1, 2 ).外 洋とラグーンの平均分I王差は,パラオ堡礁で約48 マイクロ atm, マジュロ環礁で約25マイクロ atm, 南マレ環礁で約6マイクロ atm, グレートバリア

リーフで約20マイクロ atmであった (e.g., Suzuki  and Kawahata, 2003). いずれのサンゴ礁の場合

も,外洋とラグーンでは海水の温度,塩分にわず かな違いが認められた. これら物理因子による ニ 酸化炭素分圧の変化量 は,熱力学的に求めること

co

バ +比0 → C H 2 0 + 0 2 ( 1 )   か可能である.計算の結果, いずれの因子も10マ

反対に,有機物が呼吸などで分解するときの反応 は二酸化炭素の放出反応となっている.

呼吸 (CO2放出)

: 

C H 2 0 + 02→ H 20 + C 02↑  ( 2 )   次に,石灰化は海水の二酸化炭素分圧を上昇させ,

大気への二酸化炭素の放出を引き起こす.

石灰化 (CO2放出)

: 

Ca2++ 2 H C 0 3 → C a C Oけ 比O + C 0 2↑ (3) 

66 

ィクロ atmを越える影響を与えないことがわかっ た.よって,サンゴ礁内外の分圧差の原丙はもっ ばら,炭酸系の状態の違い,すなわち全炭酸や全 ァルカリ度の違い,つまりラグーン海水が受けた 生物代謝過程に求めることができる.

外洋水からラグーン海水への炭酸系の変化はマ ジュロ環礁について,全炭酸ー全アルカリ度図を用 いて検討することができる(図3 ).光合成は, 有 機炭素1モルの生産に伴って全炭酸1モルの減少 をもたらす.一方,石灰化作用は炭酸カルシウム

海 洋 化 学 研 究 第17巻第2号 平 成1611

(3)

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図1 マジュロ環礁 ・モル ジプの南マレ環礁, グレートバリアリーフ , パラオ堡礁,

石垣島白保裾礁の位置図.

(A )  P alau barrier R e  

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‑8PCO,=+6(μ

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図2 パラオ堡礁,マジュロ環礁 ・モルジプの南マ レ環礁,グレー トバリアリーフの 二酸 化炭素分圧(マイク ロatm ) (S u zu ki a n d  K a w ah ata, 2003). 

Transactions of The Research  Institute of 

Oceanochemistry  Vol. 17,  No. 2,  Nov.,  2004  67  

6 0° N  

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(4)

石灰化による二酸化炭素の放出 2 2 4 0  

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光合成

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Normalized C T  at 

(μ   mol kg

1) 

1880  1900 

S   =   33.69 

図3 マジュロ環礁内外の表層海水の全炭酸ー全アルカリ度図.サンゴ礁海水の組成は,

外洋水の組成を通過する傾き2の直線 (calcification line)と脱ガス (degassing) の 間にプロットされる.塩分 (S) 33.69に規格化した全炭酸 (CT),全アルカリ度 (AT) の値に対応する海水の二酸化炭素分圧(マイクロatm)の等値線を点線で示す. 1モルの生 産 に伴って全炭酸 1モル, 全アルカリ

度 2モルの減少をもたらす.

炭素の生産分解では変化しない. よって.

で生じる 有機・無機炭素過程 を, 全炭 酸 ー全 アル カリ度図上 でベクトルとして取り扱うことかでき 全 アルカリ度は 有 機 海 水 中

る.その原因を探るために,

の図上にサンゴ礁内の海水組成をプロットすると,

外洋水を源水として石灰化によってアルカリ度と

全炭酸が2 :  1の割合で減少していることがわかっ

た.このことは,サンゴ礁では有機物の生産 も活 発であるものの,生産された有機物は即座に分解

して再び二酸 化炭 素 に戻 ってしまい,

アルカリ度ー全炭酸

サンゴ礁生

態系の炭素循環 では石灰化による 二 酸 化 炭 素 分 圧 の上 昇が支配的であることがわかった(Kawahata et al., 1997; Suzuki and Kawahata, 1999).  

結果 は,オ ーストラリアのグレート ・バ リアリー (Kawahata et al., 2000b; Suzuki et al., 2001),   南 マレ 環礁にもあてはまる.特に,後者 では, 多

くの海峡によって環礁の水の交換が活発なために,

外洋水とラグーン水の間の 二 酸 化 炭 素 分 圧 の 差 が 小さくなっている.以上 の事実 は,環礁や堡礁 は, 潜在的に大気中への二酸 化炭素の 放出源となって

いる 事 を 示 している 2003) (図4).

この

(Suzuki  and Kawahata, 

68  海 洋 化 学 研 究 第17巻第2号 平成1611月

(5)

COz(g) 

炭酸塩に富んだ堆積物 J

 

図4 ラグーンをもつサンゴ礁の炭素循環概念図.有機炭素は光合成によって形成されるが,すぐ 分解されてしまい,結局炭酸カルシウムが形成されたことにより 二酸化炭素放出が重要である.

一方,沿岸から 栄養塩か流入する据礁について 固定できる 炭素量 (サンゴ礁では, C : P =約500) は,陸の影響があるためはっきりした結論が 得ら の約10‑100倍以上 の炭素が陸水に 含 まれていた.

れていなかった.そこで, 石 垣 島 白 保 サ ン ゴ 礁 これらの 事実 か ら , サ ン ゴ 礁 は す べ て の タ イ プ

(据礁)で調査 を行 ったところ, 陸水は2000ppm ( 据 礁 環 礁,堡礁)で二酸化炭素 の放出として働 を越える位多量 の二酸化炭素分圧 を示 した . しか く,との一般化した概念に 至っ た (Kawahata et 

も, 陸水の

c : P

比は3,600 ‑ 35,000で.栄蓑塩で al.,  2000d) (図5).

溶存全炭酸 溶存リン酸

COi(g) 

highfC02(aq) 

↓  

↓  

光合成・ 呼吸 石灰化

図5 ラグーンをもたない 石垣島白保裾礁の炭素循環概念図 (Kawahata et al., 2000b). 

Transactions of The Research Institute of 

Oceanochemistry Vol. 17, N o.  2,  N ov.,  2004  69 

(6)

4. 北太平洋における沈降粒子の特徴

外洋域の生物地球化学プロセスは大気 中の 二 酸 化炭素濃度 に大きな影親 を与えていると考えられ ている.

観測が実施されてきた. しかしなから,海洋表層 の水塊構造あるい は栄投塩の 分布も緯度方向で大 それを横切る よう な これまでさまざまなセジメントトラップ

きく異なる にもか かわらず,

方向での観測が実施され てこ なか ったので , 洋の南緯35度から北緯46度に わたり系統的なセジ

太平

メント トラップ観測を 実施した (Kawahata et al.,  1998;  Kawahata and  Ohta,  2000c;  Gupta and  また ,外洋域での堆積 Kawahata, 2003) (図6 ) .

粒子の主 な起源は沈降粒子 であるので,

境を精度高く復元するためにもセジメン トト ラッ プ観測は貴重な情報をもたらす.

過去の環

北半球の測点は基本的に東経175度ラインにそっ ていたが,測点3 (赤道)は太平洋の赤道湧昇帯の

西端に位岡しており ,比較的低い 全粒子束が観測 された (Kawahata et al., 2000a). 測点4 (北緯8 度)で は,東経175度に沿っ て設岡され たセジメ ン トト ラップ観測の中で最も低い全粒子束か観察さ れ,明 らかな季節変動が認められなか った.測点6

(北緯30度)は亜熱常ジャイアの北端に位懺 し, 月から 3月までの比較的長い間にわたって中程度 の全粒子束か観測 された .測点5 (北緯34度) と測 点7 (北緯34度)は黒潮続流域 に位置 し,6月には 比較的高 い全粒子束, 3月には中程度の全粒子束 が観測された. より北 に位置する測点7の方か粒 子 束 は概して多かった.測点8 (北緯46度)は亜寒帯 ジャイアに位置し ており ,東経175度上で最も高 い 全粒子束が観測され た. ここでは, 7月か ら12月 にかけて大きなピークが認められた . 粒子束の季 節変動は異なった水塊の状態を反映していると考 えられる (図6 ).

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図6 東経175度にそった沈降粒子の年平均の特徴 (Kawahata et al.,  1998). 

70  海 洋 化 学 研 究 第17巻第2号 平成1611月

(7)

全粒子束の平均は,測点3, 4,  6,  5,  7,  8の順 に40.1, 15.8,  47.4,  41.4,  94.6,  2 0 8 m g m2day‑1   であった.粒子束は黒潮続流域以北で 急激に増加

し た こ れ は 有 機 炭 素 粒子束 にも 当てはまるが,

生物起源オパールの方がより 顕著であっ た. これ は亜寒帯ヽジャ イアでの珪藻の大きな寄与に よるも のである . これは成分にも 反映され ていて,測点8 では主要4成分の中で生物起源オパ ールが最も多 かったが,他の測点では炭酸塩が最 も主要な成分 であった.石質成分は黒潮続流域で最大値を示し たが, これは偏西風によ ってアジア大陸より風送 塵がも た らされたためと考え られた.

この結果を南太平洋あるいは北大西洋 と比較す るために,中緯度での結果を比較した.北太平洋 では他の海域より 生物起源オパ ールと有機炭素粒 子束が大きかった.その理 由として,北太平洋は 地球的規模の深層大循環の 末端に位置 しているた め,より栄養塩に富んでいるためと解釈した . も ちろん,この海域での湧昇 は深 層 からの潜在的な 二酸化炭素の放出として働くが, 生物生産 が活発 なためにその一部は沈降粒子 として再び深層に鉛 直輸送さ れることがわか った (Kawahata, 2002). 

5. 風送塵の炭素循環への影響

5.  1. 風送塵と有機炭素の沈積流量

大気を通じて運搬された風送塵 は遠洋堆積物の 鉱物成分の供給源として璽要であることが知られ ている.後期第四紀には,大気中の 二酸化炭素濃 度が大 きく変化したことが知 られており,風送塵 による栄養塩の供給も相当量 の役割を果たしたと 考えられている . このことを調べるために,北太 平洋中緯度域の偏西風の流路の直下に位置してい るヘスライズでコアを採取し,風送塵が炭素循環 に与える潜在的な影響について解析した. ちなみ にセジメントトラップの石質成分の粒子束 は,測

点6, 7,  5,  8では, 8.2, 24,  8.9,  11.2mg 

Transactions of The Research Institute  of 

Oceanochemistry Vol. 17, No. 2,  Nov.,  2004  71 

m 2day1で,測点7で最大値を示 した (Kawahata et al.,  1998).  

堆積物コア H3571は, ヘス海膨の34°54.25'N,  179°  42.18'Eの水深3,571mより採取された(図7).

全長424cmの及ぶ堆積物の主要部分は,上部が明灰

色から灰黄色の石灰質シルトで,下部は 一 部でラ ミナが発達した灰色から明灰色の 石灰質ヽンルトで あっ た.

H3571に含 まれる石英には, 二 つのタイプが認

め られてた: 一つ は,比較的角がなく 米粒状の形 態をしている 粒度分布が0.1 10マイクロ m の範囲 の細粒石英で,中国大陸内陸部を供給源地とする 風送塵起源で, もう一つは, これより粒径が大き く,不定形で角張った形状が多い粗粒石英で,火 山噴出起源の石英である と考え られて いる.前者 のタイプの石英の酸素 同位体比組 成 は0180値 が

16.4%。で通常報告されている火山起源の石英の

ザ〇 値(約+

10%

。以下)や海洋底でのオ パールの 続成による石英のザ0 値(約+30%。以上)とは大 きく 異 なり,アジア大陸の砂漠起源の 石英の 伊0 値である約16%。(Mizota and Matsuhisa, 1985)   に近い値とな っており, 酸素同位体か らも前者の タイプの石英は風送塵起源であると結論できた (Kawahata et al., 2000). 

アルミニウムの起源を明かにするために,風送 塵起源の石英とアルミニウムのコア H3571におけ る沈積流量 について相関をプロットしたところ,

その係数は0.91と高かった. これらの 事実 から,

アルミノ 珪酸塩の ほとんども風送 塵 によってアジ ア大陸より 運ばれたと推定される.

風送塵はアルミニウム ( Al) を通常約8%含 む ので,以下の式より風送塵の沈積流量 を求めた.

M A RAeco,= M A RA,X  Relative abundance of non‑

volcanic Qtz /  8 %  ‑‑‑‑‑ (4) 

ここで, M A R知 匹lおよびM A R A ] は風送塵 とAl の沈積流量,Relative abundance of non‑volcanic  Qtzは石英の中で風送塵起源のものの割合である.

(8)

170°E 

40°N 

35°N 

30°N  170°E 

175°E  180° 

175°E  180° 

175°W 

40°N 

35°N 

10°N  11s0w 

図7 ヘス海膨における コアH3571の採取地点 (K a w ahata et al.,  2000a).  

72  海洋 化 学 研 究 第17巻第2号 平 成1611

(9)

このようにし て求められた風送塵の沈積流量 は156 732 m g  cm 咋 yr1で変化 し,極大は氷期に相当 する酸素同位体ステージ2, 4,  6中期に見られ た.

これは,夏期の降水が減少したため風送塵供給源 地はより乾燥 し, 冬季に風は強くなり粉塵を巻き 上 げ遠方への運搬に適していたこ とを反映してい

るものと考えた(図8).

また ,風送塵に伴われて陸 源有機物も少量連搬 されると考えられるかもしれないが , 堆積物に含 まれる有機物の有機炭素/全窒素比は7.4で, 有機

物 のほとん どは海成である と考えら れ た また , 有機炭素の沈積流量は. 0.78から7.18mg c m2  

kyr‑)で変化し, その平均は3.63mg cm 2kyrー)で あっ た. 酸素同位体ステ ージ2, 4 ,  6中 ・後期に は.海洋表層での生物生産が盛ん になり . 結果と して堆積物中への有機炭素の埋没が促進された . 図8に示 した ように,風送塵 と有機炭素の沈積は 時系列のパタン自体はかなりの相関を有している

ことがわかった.

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図8 ヘス涌膨におけるコアH 3571の有機炭素,生物起源オパ ール,石質成分の沈梢流量の変動.

石質成分については, +はシャッキ ーライズにおける コアV 21‑146(37°41'N,  163°02'E)における値、

口はAlより求めた石質沈積総量,

は大陸からの風送牝の沈積流鼠(K awabata et al.,  2000a). 

Transactions of T he  Research Institute of  

Oceanochemistry  Vol. 17,  No. 2,  N ov.,  2004  73  

(10)

5 .  2 . 炭酸塩溶解の影響

風送塵に含まれる炭酸カルシウムが溶解した場 合に,二酸化炭素分圧を下げる働きをすることが 指摘されているので,その効果を計算した . 黄砂 風送塵中のアルミニウム1g に対して炭酸カルシウ

ムは0.363 g含まれており,炭酸カル、ンウムに含ま

れる炭素に換算すると44mgに相 当す る. アルミニ ウム の沈積流量から求められる炭酸カルシウム炭 素の溶解量は最大で2.9 x  10‑3m g  c m2yrー]となる.

このような反応が10m の水柱で進行したとする と, 水柱の水量 はlLなので, lL あたりの溶解量 は2.9

X lO方n g (0.2マイクロm o!) となり ,水温25℃, 塩分35, 全炭酸1800m m ol, 表面水の 二酸化炭素 分圧355マイ ク ロatomの条件下では, 二酸化炭素 分圧を減少させる効果 は,1マ イ ク ロatom以下 に しかな らない.実際に表層水の 二 酸化炭素分圧が どれ位になるのかは,表層 水と大気 との 二 酸化炭 素の交換速度 にも大いに依存して い るが, 潜在能 力は小さいと考えられる.

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5.  3. 栄養塩の影響

前述したように有機炭素と風送塵の沈積流量 と の間には,正の相関があるように見える.近年で は,海洋での生物生産を活性化させるものには,

主要 な栄養円の他に鉄などの微量栄蓑塩も 重要と 考えられている (Martin ,1990, Martin  and Fitz‑

water,, 1988).風送塵に含まれる栄養塩が生物生

産に使用された場合 に,実 際に観測される位の炭 素を固定できるかを評価す ること かできる .

ここでは, 栄養塩である燐(P ) ' シリカ (Si) ,

鉄 (F e) の風送塵 における 含有量は , それぞれ

1050ppm ,  30.8%,  1.6 % , 有 機 物 組 成 を C106H263 N16P と仮定して計算を行った . 風送塵 に含ま れ るこれらの元素か溶解する程度は,pH, 温度 など に大きく依存 し,現時点での見積もり誤差 は大き い ものの, それぞれ21‑ 51% , 5 % ,  < 1‑ 50%と 推定されている ( W ollast and  Chou, 1985;  D uce  eta!., 1991). 

これ らの元素による有機炭素ある いは 生物起源

6   7   ‑130 

‑ 2 0 o  

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図9 ヘス海膨におけるコアH3571における石質成分から計算さ れた生物起源オパ ールの沈積流量 と 実測された生物起源オパ ールの沈積流量 (Kawabata et al., 2000a).  

74  海 洋 化 学 研 究 第17巻第2号 平成16年11

(11)

オパールの固定流量 (Fixationo,,,n,,, Fixationo,l)  な海域では,風送塵による一次生産の増大の効果 はそれぞれ以下のように書くことができる. はより大きい可能性がある.

Fixationo,ganic =  al X  (1050 X  10~6 X  MARAecosol)  x  (12 x  106) /30.97 =  0.53 x  al x  MARA1  (5)  Fixationopal =  a2 x  (0.308 x  MARAec 1) X  2.4 

=9.2 x  a2 x  MARA1  ( 6 )  

Fixation

,gan;, carbon= a3 X  (1.6 X  10‑2 X  MARAecl)/b

=2531 x  a3x MARA1  (7) 

ここで, al, a2,  a3はそれぞれP, Si,  Fe溶解の 程度, b は 有 機 物 中 の Fe:C 比 率 で7.9 X  lQ‑5   (Boyd et al.,  2004) である.

( 1 ) の式を用いて求めたP の溶解によって固 定される有機炭素量は, 1.4‑3.4から6.6‑ 16.lmg c m‑'kyr‑1.であった.一般に一次生産の約1%以 下しか,堆積物に埋没しないことを考慮すると,

6. まとめ

代表的な炭素化合物である炭酸塩と有機物は,

地球環境の進化の中で温室効果あるいは生物地球 化学の上で大きな役割を果たしてきた.現在の海 洋では炭酸塩の形成は生物の働きにより, 同時に 有機炭素の形成も行われるが,結果として炭酸塩 の形成の効果が最終的に卓越することがサンゴ礁 における炭素循環より明らかとなった. また,沈 降粒子については,水塊ごとに組成や流量が大き く異なることがわかった.特に.北太平洋中緯度 以北では風送塵による栄養塩供給は.氷期ー間氷 風送廂に含まれるP の効果は小さいと考えられる. 期を通じた炭素循環にも相当量の役割を果たして 一方, Fixationopalは6から27mg c m2  kyr‑1 と変化

し,実際に堆積物中で観測される 量 の約18%に達 することがわかった . 両者の間の相関係数 (r=

0.88) も高く,風送塵によって運搬されたシリカ

の海洋表層への供給は,生物起源、ンリカの沈積に 潜在的な力を有していることが推定された (図9) (Kawahata et al., 2000a). 

さらに Feの場合には, a3を1%と仮定すると,

Fix a  tiono,ganlc  ra,bon は316‑1480mg c m‑2  kyr‑1とな り,実際に堆積物中で観測された有機炭素の沈積 流量の平均値3.63mg c m2kyr‑1と比べても非常に 大きかった. このことは風送廂中の Feの溶解が 一次生産に少なからず影響を与えていたことが示 唆される.近年の海洋表層への Feの散布実験の 研究では, Feの付加により,珪藻の生産が刺激さ れるとされ,堆積物で観察された有機炭素と生物 起源オパールの高い相関とも整合的である.

今回の結果は,アジア大陸より約5,000km離れた 外洋域であるが,黄砂あるいは風送塵の供給の大 きな所では,その供給量は10,000mg m 2yr‑lにも のばるとされており(Duce et al.,  1991), このよう

Transactions of The Research Institute of 

ceanochemistry Vol. 17, N o.  2,  Nov., 2004  75 

きた可能性が高い. これまで現代と第四紀で蓄積 した手法を応用し,地球史的な長いタイムレンジ での地球環境の進化やその仕組みの解明をしてい きたし・

謝 辞

海洋化学学術賞を授かったのはまことに栄養で あり(財)海洋化学研究所および本賞の選考委員 会関係者および推載者の先生方に深く感謝いたし ます.本稿は,私が行ったきた研究の 一 部につい て述べたものですが,共同研究者そして先生方に お 世 話 に な り ま し た ま た , 海 洋 の 試 料 採 取 に 際 しては,観測船の方々にもお世話になりました.

皆さまに感謝いたします.

(12)

参考文献

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参照

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