琵琶湖の生物群集 3 0 年の変遷*
中西正己**
乱による重大な環境問題として、
l)
富 栄養化、 2) 有害化学物質汚染、 3) 沿岸 300帯等棲息環境の物理的形状変更、
4)
外 ‑̀ 来種の移入、 5) 乱獲・養殖、 6) 地球規 門200熊
模での気候変動による栄養塩循環機構 悶 の変化を挙げることができる。 悩嘩 100
琵琶湖には上述の環境問題の殆どを 体験してきた湖である。
人為的撹乱を受けてきた琵琶湖に棲 10
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高度経済成長
前問
....
i女闘. .
ハフル経済‑
‑ 0ー 硝 酸態空索 人 口増加
25000
15000
ペ
呉 茫 口 Y 0 0 0 0 0 0 5
5
‑1 5000
む生物の変遷について紹介する。
l)
富栄養化は人口増大に伴う生活 雑排水の負荷の増加、森林等の宅地化 に伴う土壌中の有機物等の流出、工場 廃水、農耕地からの肥料の流出、降雨 等々多岐にわたる過程を経て起こる。滋賀県の年間の人口増加率と琵琶湖北 湖盆の底水層中の硝酸態窒素濃度の経
になったアオコ現象と社会問題となる 出来事が起こっている(図2)。また、
5
1959 62 65 68 71 74 77 80 83 86 89 92 95 年
年 変 化 み る と 人 口 が 増 加 す る し しJ
t
+~ 図1 北湖盆底水層中の硝酸帯窒素濃度お がって硝酸態窒素濃度は増加する傾向'‑‑‑‑ よび溶存酸素濃度と滋賀県の年間人口増加の経年変化 がみられる(図l)。琵琶湖には過去30
‑ 40
年間の間に人口の増加によって富 琵琶湖を代表する植物プランクトンで 栄養化が進行してきたといえる。栄養 ある緑藻ビワクンショウモと珪藻メロ 塩の増加に伴い、 1970年の水道水のカ シラ・ソリダが1985年頃を境に急激に ビ臭問題、 1977年以来毎年出現する黄 それらの個体数を減らす一方、富栄養 金色鞭毛藻ウログレナ・アメリカーナ 化の代表種であるラ ン細菌のアナベナ の増殖による淡水赤潮、 1985年から南 やミクロキスティスの群体数の著しい 湖盆や北湖盆の港などで発生するよう 増加が見られるようになった(図 3、図4)。メロシラ・ソリダは現在、琵琶 湖にのみ生息する貴重な珪藻である 。
* 第111 回京都化学者クラブ例会 [1999年9月4日]
**京都大学生態学研究センター教授
(82) 海 洋 化 学 研 究 第1 2巻第2号 平 成11年11 月
1960 1970 1980 1990
魚 介 類のP C B 残留値I;昇('63‑67)
→
カピ臭('70 :シネ ドラ→フォルミディウム→アナペナ→オシラ トリア)
淡水赤 潮 ('77:ウログレナ)
う
アオコ
('85 : アナペナ ・ミクロキスチス)ぅ
ピコ藻 類 の異常発生 ('89)
→
図2 1960年代以後琵琶湖でプランクトン 異常発生など社会的問題となった出来事
この原因については明らかではないが、
栄養塩等環境を通しての他種との競争 の結果である可能性も高いが、より複 雑な過程を通しての結果であるように 思われる 。生態系の基盤となる植物プ ランクトン群集の劇的変化が琵琶湖生 態系にどのような変化をもた らすか今 後の課題である。
2)
有害化学物質汚染についても琵 琶湖は例外ではない 。1954年から 1974 年にかけて国内生産されたP C B
汚染で0 0
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ビワクンショウモ
1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989
メロシラ・ソリダ
1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989
図3 琵琶湖を代表する植物プランクトンの経年変化
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 5 4 3 2 1 4 3 2 1 峯ー 11 nロ e? 1"
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4こ ミ
I(︱ 川 L
アナベナ
1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989
ミクロキスチス
1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989
図4 アオコを形成する厄介な藻類アナベナとミクロキスティスの群体数の経年変化
ある。琵琶湖の固有種で北湖盆に生息
1960
する底生魚イサザや固有種セタシジミ の P C B 残留値が 1960 年代に高くなっ ていることが報告されている。易分解 性になったとはいえ、日常使われてい る除草剤や殺虫剤、それに界面活性剤 などの琵琶湖の生物群集に与える影響 についての情報はないが、懸念される ところである。
3) 生息環境の物理的形状変更とし て大きな事業は農業政策の一環として
1970 1980 1990
コカナダモ ('61)
オオコカナダモ ('70頃)
プルーギル ('65)
オオクチバス ('74)
カワヒパリガイ ('92)
〉
図5 琵琶湖における外来種の移入定着の 状況
的とした琵琶湖総合開発による湖岸の である(図5)。移入経路は不明である 改変である。内湖や沿岸帯はヨシ群落 が 1960年頃発見された北米産の水草コ や沈水植物群落の発達した多様な水域 カナダモに始まり、オオカナダモ、魚 であり、沖帯と沿岸帯を有機的につな 類のブルーギル、オオクチバスそれに ぐ役割をを果たしている魚の産卵場と 東アジア原産のカワヒバリガイが定着 して仔稚魚期の生息場所としての機能 する一方、琵琶湖固有種でありかつ漁 や物理・化学・生物的浄化機能を有し 業の重要な対象魚介類、ニゴロブナ、
ている環境である。内湖の干拓や人エ イサザ、セタシジミや淡水真珠の母貝 湖岸化はこれら機能の喪失、低下を招 イケチョウガイの漁獲高が激減してい
いたことは否定できない。後述の魚介 る(図
6
、図7)
。類の漁獲高の減少の一因になっている 5)ニゴロブナなどコイ科魚類は、沿 かもしれない。 岸帯に発達した沈水植物帯を産卵場、
4) 琵琶湖は外来種の移入も賑やか 仔稚魚期の生活の場としている。前述
1 5 0 0
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1 9 7 0 1980 1990 図6 フナ(●)とイサザ ( 0 ) の年間漁獲量の経年変化
(84) 海 洋 化 学 研 究 第12巻第2号 平 成11年11 月
5 0 0 0
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1970
図7 セタシジミ(●) とイケチョウガイ (0 ) の年間漁獲量の経年変化
T e m p.(℃) Chi. ( μg ・ L 1)
10 20 30 0 2
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3 0
12 September 1993
1980
T e m p. (""C) Clill. ( μg ,ビ)
0 10 20 30 0 2 4 6
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1990
13 September 1994
図8 平常年1993年と異常渇水年1994年 の に ] :ミクロ植物プランクトン( >
20
μm ) : ナノ植物プランクトン(2‑20
μm )●
:ピコ植物プランクトン(0.2‑2
μm )の内湖の干拓、人工湖岸化はコイ科魚 躍層直上に流入し、河川水中の栄養塩 類の再生産の場の減少を意味する。ま は表層水に供給され、表層水中で植物 た、オオクチバスやブルーギルとい っ プランクトン、とくに2 0 / l m以上のサ た外来種の移入定着もフナ類の個体数 イズのミクロ藻類の増殖を促す 。一方、 の減少と関連があると考えられるが、 河川水の流入が途絶えると表層水への その意味は明らかでない。イサザは水 栄養塩の供給がなくなり、ミクロ藻類
深3 0 m以深に生息するハゼ科の底生魚 が減少し水温躍層内に2/lm以下という
である。 4 ‑ 6 月に産卵のため礫帯沿岸 微小なピコ藻類の増殖によるピークが 帯に移動し、礫の下部に産卵する 。近 形成される(図8)。
年、礫帯に糸状藻のアオミドロが繁茂 琵琶湖の生物群集の変遷と人為的撹 し、イサザの産卵床に悪影響を与えて 乱による環境変化との因果関係は明 ら いると思われる。また、湖盆の貧酸素 かでないが疫学的見地から琵琶湖の生 化はイサザの生息環境の悪化を意味し 物と環境問題を論じた。
ている。セタシジミやイケチョウガイ の漁獲高は1960年代から減少の 一途を
たどっている。これら 二枚貝の生活史 参考論文
は複雑であり物理的生息環境の悪化の Nakanishi, M . and T. Sekino (1996): Recent 他、富栄養化や未知の有害化 学物質汚 drastic changes in Lake Biwa bio‑commu‑
染などとも関連しているかもしれない。
6) 気候変動に伴う降水量の変化は 琵琶湖の栄蓑塩循環そして植物プラン
nities, with special attention to exploitation of the littoral zone. Geoloumal, 40: 63‑67 997) :琵琶湖水質の生 物学的特徴 ,環境技術,26: 485‑489 クトンの鉛直分布パターンを変え生態 山田 佳裕 ・中西正己 (1999) :地域開発・都 系に変化をもたらす。琵琶湖は1994年 市と水・物質循環の変化 , 地球環境学 夏季異常渇水に見舞われ、河川水の流 4 「水・物質循環の変化」, 岩波書店,
入が途絶えた。平常年は河川水は水温 p229‑265
(86) 海 洋 化 学 研 究 第12巻第2号 平 成11 年11月