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止まって働くリボソーム - J-Stage

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(1)

かつてリボソームはmRNAに書き込まれた遺伝情報 を忠実にタンパク質に翻訳するための装置であるとイ メージされていたがそうではない.リボソームは細胞内 の状態に応答して機敏に遺伝子発現を制御する情報処理 装置である.近年,翻訳途上の新生ペプチドが作用して 遺伝子発現を制御する例がさまざまな生物で見つかって

いる(1, 2).リボソームは,いわば細胞質にどっぷりと浸

かって翻訳を行っており,細胞質の状態を検知するのに 適した状態にある.本稿では,新生ペプチドが,そのア ミノ酸配列に依存して自身を翻訳中のリボソームを停滞 させることが引き金となって,遺伝子発現を制御し,場 合によってはmRNA分解などにも関与する遺伝子につ いて植物を中心に概観する.

リボソームの構造と機能

リボソームにおける翻訳伸長過程は大きく分けて,コ ドンの解読,新たなペプチド結合を形成するペプチド転 移反応,そして次のコドンへのリボソームの転座からな る.ペプチド転移反応の活性中心であるペプチジルトラ ンスフェラーゼセンター(PTC)は大サブユニットに あり,新たに合成されたペプチドは,大サブユニットを 貫く出口トンネルを通って出てくる(3, 4)(図1.出口ト ンネルはおよそ100Åの長さがあり, 伸びた 状態の 新生ペプチドでは30〜40アミノ酸残基を保持する.出

口トンネルの内壁は大部分がrRNAで形成されている が,PTCから1/3ほど進んだところでリボソームタンパ ク質のuL4(L4*1)とuL22(原核生物でL22p,真核生 物でL17e*1)が出口トンネルに突き出た部分があり,

狭窄部位と呼ばれる(4).狭窄部位は新生ペプチドによる リボソームの停滞で「関所」のような役割をすると考え られている(1, 6)

シロイヌナズナ 遺伝子における翻訳伸長の 一時停止によるリボソームの停滞

シロイヌナズナの 遺伝子は,高等植物における メチオニン生合成の鍵となる段階を触媒するシスタチオ ニン

γ

-シンターゼ(CGS)をコードする. は核に コードされ,CGSは葉緑体に移行して機能する.

の発現は,メチオニンの代謝産物である -アデノシルメ チオニン(AdoMet)に応答した翻訳伸長の一時停止 と,これと共役した  mRNA分解によるフィード バック制御を受ける(7, 8)(図2.この制御には N末端領域にコードされたMTO1領域と呼ぶ十数アミノ 酸残基からなる領域がシス配列として機能し(9),MTO1 領域から数アミノ酸残基後のSer-94コドンで翻訳伸長が 一時停止することでリボソームが停滞する(10)(表1

*1リボソームタンパク質の名称は生物間で異なっていたが,統一 した名称が提唱されている(5)

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

セミナー室

植物の生存・成長戦略から見た環境突破力-8

止まって働くリボソーム

新生ペプチドが司る植物の細胞内恒常性維持機構

山下由衣 *

1

,尾之内 均 *

2,3

,内藤 哲 *

2,4

*1ミュンヘン大学遺伝子センター,*2北海道大学大学院農学研究院,*3北海道大学大学院農学院,*4北海道大学大学院生命科学院

(2)

リボソームの出口トンネルには30〜40残基の新生ペ プチドが収容されるので,Ser-94で翻訳停止したとき MTO1領域はリボソームの出口トンネル内に位置して いる.AdoMetで翻訳停止を誘導すると,MTO1領域を 含む新生ペプチドは出口トンネル内で縮んだコンフォ

メーションをとる.このとき,rRNAの側にも狭窄部位 とPTCの近傍でコンフォメーション変化(もしくは新 生ペプチドとrRNAの相互作用の変化)が起きており,

出口トンネル狭窄部位が翻訳停止に関与していることを 示唆している(11)

図1ペプチド転移反応の活性中心と出口トンネル

ペプチド転移反応の活性中心(PTC),新生ペプチドの通り道で ある出口トンネルと,狭窄部位を示す.ペプチド転移反応によっ てP部位のペプチジル‒tRNAからA部位のアミノアシル‒tRNAへ とペプチドが転移され,ペプチドが外れたP部位のtRNAがE部 位に,アミノ酸残基がひとつ伸びたA部位のペプチジル‒tRNAが P部位へとそれぞれ移動する.なお,A, P, Eの各部位を示すため に3つのtRNAを描いているが,tRNAが3つ同時に存在すること はない.

図2 遺伝子におけるAdoMetに応答した翻訳停止と mRNA分解によるフィードバック制御

シスタチオニンγ-シンターゼ(CGS)はメチオニン生合成の主要な 制御段階だが,アロステリック酵素ではない.CGSは核にコード され,葉緑体に移行して働くが,メチオニン生合成の最終段階と AdoMet合成は細胞質で行なわれる.AdoMetは,細胞内のほとん どのメチル基転移反応に使われるほか,ポリアミン生合成,そし て植物ではエチレンの生合成にも使われる重要な化合物である.

CGSが翻訳中にフィードバック制御されるのは,細胞質のAdoMet 濃度の恒常性維持のためには理にかなったことと言えよう.

表1新生ペプチドに依存してリボソームが停滞する遺伝子の例

a −は自律的に起こる,もしくは報告されていないことを示す.bリボソームの停滞に関与するアミノ酸残基を色付きで,リボソームの停 滞位置を下線でそれぞれ示す.*は終止コドン.c  と類似した抗生物質に対する耐性機構は数多く報告されている(40)

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シロイヌナズナ 遺伝子におけるリボソーム の停滞と共役したmRNA分解

AdoMetに応答したSer-94での翻訳停止と共役して  mRNAの分解が起こり,このとき  mRNA の5′-末 端 領 域 を 欠 い た 一 連 の 分 解 中 間 体 を 生 じ る

(図3.これら分解中間体の5′-末端は,Ser-94で停滞し たリボソームに後続のリボソームが追突して数珠つなぎ になった各リボソームの5′-末端のごく近くにマップさ れる(12)

真核生物における一般的なmRNAの分解過程ではポリ

(A)鎖の短縮化が最初に起こり,これが律速段階とされ る.その後,エキソソームによる3′→5′方向の分解,も しくは5′-キャップの除去とそれに引き続く5′→3′エキソ ヌクレアーゼによる分解が起こる(13).  mRNA分解 を誘導しないコントロール条件ではポリ(A)鎖長が50

〜80塩基であるのに対し,  mRNA分解を誘導した 条件での全長  mRNAのポリ(A)鎖長は140〜150塩 基であり,予想に反して  mRNA分解を誘導した条 件でのほうが長い.一方,分解中間体のポリ(A)鎖長は 10〜30塩基と非常に短くなっている(14)(図3).

真核生物のmRNAはキャップ結合タンパク質複合体 とポリ(A)結合タンパク質を介して環状構造をとって

おり,翻訳終結に伴ってポリ(A)鎖の短縮化を担うデ アデニラーゼが呼び込まれる(15).AdoMetに応答した翻 訳伸長の停止が起こると,  mRNAは「翻訳中」

のままになるためポリ(A)鎖の短縮化が起こらず,

いったん  mRNAの切断が起こると急速にポリ(A)

鎖が除去されると考えられる(14)(図3).AdoMetに応 答した  mRNAの分解は,一般的なmRNA分解経 路とは異なっていることを示している.

ヒト 遺伝子での翻訳停止と共役した細胞質 スプライシング

真核生物で新生ペプチドのアミノ酸配列に依存した翻 訳伸長の停止が起こる遺伝子の報告は多くないが,それ ぞれに興味深い制御にかかわっている(1, 2).ヒトの 遺伝子は, と呼ばれる前駆体のmRNAと して転写され,小胞体ストレス条件下では細胞質スプラ イシングにより成熟型の  mRNAとなる.この反 応には  mRNAが小胞体膜にアンカーされるこ とが必要であり,新生ペプチドに依存したリボソームの 停滞が働いている.細胞質の状態に応答してスプライシ ングの可否を決める巧妙な制御である.詳しくは本誌の 総説を参照されたい(16)

真核生物遺伝子の上流ORFによる「本体」遺伝子 の発現制御

真核生物において遺伝子の翻訳開始AUGコドンより 5′側の上流域は「5′-非翻訳領域」と呼ばれるが,この領 域には上流ORF(upstream ORF; uORF)が存在して いて,実は翻訳されていることが多い.ほ乳類で40〜

50%,被子植物で30〜40%,酵母で5〜10%の遺伝子で uORFが認められる.また,複数のuORFをもつ遺伝子 も多い(17).mRNA上でリボソームが載っている位置を 解析するリボソームプロファイリング解析により,多く のuORFが実際に翻訳されていることが明らかにされて いる(18)

教科書的には,真核生物の翻訳開始では小サブユニッ トに翻訳開始tRNAが結合した開始複合体が5′末端の キャップ構造からスキャンしていき,最初のAUGコド ンで大サブユニットが会合して翻訳が開始される(ス キャニングモデル).uORFの翻訳に関する現在の認識 では,リボソームがuORFのAUGコドンに至ったとき,

これを翻訳するか否かの選択がなされる(図4.この 選択には,キャップからの距離や,Kozak配列との一致 の度合いなどが関与すると考えられ,uORFが読み飛ば される場合はリーキー・スキャニングと呼ばれる.一 図3  mRNA分解とpolyA)鎖長(14)

左の経路:通常条件では,翻訳終結に伴ってpoly(A)鎖を分解す るデアデニラーゼが呼び込まれ,poly(A)鎖は徐々に短縮化され て定常状態では50〜80塩基となる.右の経路: AdoMetが過剰の場 合はSer-94コドンで翻訳停止し,後続のリボソームが渋滞を引き 起こす.この間,翻訳終結が起こらないのでpoly(A)鎖の短縮化 が 抑 制 さ れ,140〜150塩 基 の 長 いpoly(A) 鎖 が 保 持 さ れ る.

mRNAの切断に伴ってpoly(A)鎖は急速に短縮化される.

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(4)

方,uORFが翻訳された場合は,その下流のORF(本 体遺伝子もしくは別のuORF)で翻訳を再開するか否か の選択がなされる.uORFを翻訳すると,多くの場合は リボソームが解離するので,下流のORFは翻訳されな いが,上流側のORFの長さや下流側のORFとの距離に よっては,小サブユニットがmRNA上に残り,下流の ORFで翻訳が再開される場合がある(17, 18).いずれにし てもuORFが翻訳されると下流のORFの翻訳がさまざ まな程度に抑えられ,さらにuORFでリボソームが停滞 すると,リーキー・スキャニング,翻訳の再開ともに阻 害されるので,下流のORFの翻訳は強く抑制されるこ とになる.

細胞内の低分子化合物に応答してリボソームの停滞を 引き起こすuORFでは,多くの場合,uORFのアミノ酸 配列に依存してリボソームの停滞が引き起こされる.ま た,uORFの終止コドンでリボソームが停滞する場合が 多く,翻訳終結反応が阻害されると考えられる.一方,

uORFの多くはそのアミノ酸配列に依存しないと考えら れているが,酵母のアミノ酸生合成の一般制御(gener- al regulation)に働く転写制御因子をコードする 遺伝子では4つのごく小さなuORFの絶妙な位置関係と 翻訳開始因子のリン酸化状態を絡めることで細胞のアミ ノ酸飢餓状態を検知している(18).したがって,アミノ 酸配列に依存しないuORFであっても細胞内の状態に応 答する場合がある.

uORFのアミノ酸配列に依存したリボソームの停滞 植物,動物を問わず,ポリアミンは細胞機能の維持に

必要であるが,高濃度では害を及ぼす. -アデノシルメ チオニン脱炭酸酵素(AdoMetDC)は,ポリアミン生合 成の制御段階の一つである.植物の 遺伝子 は50アミノ酸残基前後の長さのuORFをもち,スペルミ ンおよびスペルミジンに応答してuORFの終止コドンで リボソームが停滞することで の翻訳を抑制 すると同時に,mRNA分解が誘導される.このmRNA 分解にはnonsense-mediated mRNA decay(NMD)機構

(後述)が関与しており,ポリアミンに応答してリボ ソームが停滞することでuORFの終止コドンが 未熟終 止コドン (premature termination codon)として認識 されると考えられる(19)(表1).一方,ほ乳類の

遺伝子のuORFは,僅か6アミノ酸をコードするだ けだが(表1),ポリアミンに応答して終止コドンでリボ ソームが停滞し, の翻訳が抑えられる(20)

アルギニン生合成にかかわるアカパンカビの 遺 伝子と,酵母のオルソログである 遺伝子のuORF ではアルギニンに応答して終止コドンでリボソームの停 滞が起こり,本体遺伝子の翻訳が妨げられる(21)(表1).

で は シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ の と 同 様 に NMDが誘導されてmRNAが分解される.

このほか,シロイヌナズナのGDP‒ガラクトースホス ホ リ ラ ー ゼ 遺 伝 子(ア ス コ ル ビ ン 酸 に 応 答)(22)と 遺伝子(ショ糖に応答)(23)では,リボソームの 停滞についての知見は報告されていないが,uORFのア ミノ酸配列に依存して本体遺伝子の翻訳が抑制される.

保存されたアミノ酸配列をもつuORFのバイオイ ンフォマティクスによる探索

種間で保存されたアミノ酸配列をもつuORF(Con- served Peptide uORF; CPuORF)をバイオインフォマ ティクスの手法で探索することで,新生ペプチドのアミ ノ酸配列に依存した制御を行っている可能性のある uORFの探索が行われている(24)

シロイヌナズナとイネの全長cDNA塩基配列を用い たuORFのアミノ酸配列の比較のほか,シロイヌナズナ のパラログ間での比較,イネ科植物間での比較などに よって,CPuORFをもつ30種類以上の遺伝子が同定さ れており,uORFをもつ遺伝子の約1%でCPuORFが見 つかっている.

これらの解析では,特定の生物種間でuORFアミノ酸 配列を比較しているが,筆者らを含めたグループでは,

ある生物種のuORF配列を不特定の生物種のuORF配列 と比較することで,より包括的にCPuORFを検索する 方法を開発し,進化的に保存されているCPuORFをも 図4uORFによる「本体」遺伝子の翻訳抑制

A.  リーキー・スキャニングによりuORFが読み飛ばされる場合.

B. uORFが翻訳された場合は終止コドンでリボソームが解離し,

下流のORFは翻訳されないことが多い.C. uORFが読まれても下 流のORFで翻訳が再開される場合がある.

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● 化学 と 生物 

(5)

つ遺伝子14個をシロイヌナズナで新たに同定した(25). このうち,ヒストン脱ユビキチン化酵素をコードする

遺伝子や転写制御因子をコードする

遺伝子など,5個の遺伝子では実際にuORFのアミノ酸 配列に依存して本体遺伝子の発現抑制を行っていること を報告している(26)

このほか,新生ペプチドのアミノ酸配列依存性は検証 されていないものの,本体遺伝子の翻訳制御にCPuO- RFが関与する遺伝子がシロイヌナズナで報告されてい る.維管束形成を制御する転写制御因子をコードする 遺 伝 子(27)と そ の ホ モ ロ グ で あ る 遺 伝 子(28)はポリアミンの一種のサーモスペルミンに応答し て翻訳が促進され,ホスファチジルコリン生合成にかか わる 遺伝子の発現はホスホコリンで抑制さ れる(29).また,熱ストレス応答と免疫応答にかかわる 転写抑制因子をコードする 遺伝子ではストレス 条件下で翻訳が促進される(30)

真核生物におけるmRNA品質管理機構

真核生物では異常なmRNAを除去するmRNA品質管 理機構があり,転写の誤りなどで構造遺伝子内に未熟終 止コドンを生じたmRNAを除去するNMD,逆に終止コ ドンがなくてpoly(A)鎖を翻訳したときのnon-stop  mRNA decay,およびレアコドンやmRNAの2次構造 などでリボソームの進行が妨げられたときのno-go  decayが知られている(31, 32)

転写と翻訳が共役して行われる原核生物では,大腸菌 トリプトファンオペロンのリーダー領域での転写のアテ ニュエーション機構や,後で述べる大腸菌 遺伝子 のように,RNAポリメラーゼを追いかけているリボ ソームが転写終結を制御することができる.一方,転写 と翻訳が核膜を挟んで分断されている真核生物ではこの ような芸当は困難である.シロイヌナズナ

や酵母 のように,uORFの終止コドンでのリボ ソームの停滞がNMDを誘導するという報告が増えつつ あ る.AdoMetに 応 答 し た  mRNAの 分 解 と mRNA品質管理機構との関係は不明だが,こうした遺 伝子でのmRNA分解は,転写と翻訳が共役していない 真核生物において,翻訳段階でmRNA量を制御するシ ステムと位置づけることができよう.

原核生物のリーダーペプチドにおけるリボソームの 停滞

原核生物ではリーダーペプチドの翻訳時にリボソーム

が停滞するか否かによって,本体遺伝子の発現にかかわ るmRNA上のシグナルの露出状態が変化することで制 御される例が知られている.ここでは研究が進んでいる 2つの遺伝子について述べる.

大腸菌で遊離のトリプトファンを分解して資化する

(栄養源とする)ためのトリプトファナーゼをコードす る オペロンでは,リーダー部分に 遺伝子 があり,トリプトファンに応答して の終止コドン でリボソームが停滞する(1, 33)(表1). と の間 には

ρ

因子依存的転写終結シグナルがあり, のすぐ 下 流 に は

ρ

因 子 がmRNAに 乗 り 込 む (rho utiliza- tion)シグナルがある.リボソームが停滞すると 部 位が隠されて が転写される.一方,トリプト ファンが少なければ

ρ

因子依存的な転写終結が起こり,

は転写されない.

大腸菌のSecAタンパク質はSecYEGトランスロコン とともに働いて,タンパク質の分泌や細胞膜への組み込 みを司る. 遺伝子のリーダー領域にある 遺伝 子は170アミノ酸残基をコードするが,Pro-166を翻訳 したところでリボソームが停滞する(1, 6)(表1).この停 滞は新生ペプチドのアミノ酸配列に依存してリボソーム が自律的に翻訳伸長を停止することによると考えられ る.SecM自身も膜貫通ドメインをもっており,膜への 組み込みが正常に行われれば,トランスロコンによって 引っ張られる形で翻訳の停滞が解除される(34).すると,

のリボソーム結合部位が隠されて の翻訳は抑 えられる.一方,リボソームが停滞したままだと,リボ ソーム結合部位が露出して が翻訳される. , 

とも,出口トンネルの狭窄部位を形成するリボ ソームタンパク質uL22の出口トンネル内に突き出た部 分がリボソームの停滞に関与することが示されてい る(6, 33)

新生ペプチドによるリボソームの停滞機構

新生ペプチドはリボソーム出口トンネルの中でどのよ うにしてリボソームの機能を阻害するのだろうか.リボ ソームの停滞を引き起こす新生ペプチドの配列は,オル ソログ,パラログ同士を除くと,相同性は見られない.

また,AdoMetに応答した におけるリボソームの 停滞は転座段階で誘導されるが(10),調べられた限りほ とんどの系では,ペプチド転移反応もしくは翻訳終結の 段階でリボソームの停滞が誘導される(2).リボソームの 停滞を引き起こすメカニズムは多様であることを物語っ ている.

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

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低温電子顕微鏡(Cryo-EM)を用いた構造解析では 結晶を得る必要がなく,近年では真核生物を含めて原子 レベルに近い解像度でリボソームの構造モデルが報告さ れている(35).アカパンカビ のuORF,大腸菌の と ,枯草菌の 遺伝子(1, 36)(表1)などで は,Cryo-EMを用いて停滞したリボソームの構造解析 が行われており,リボソームの停滞に伴って新生ペプチ ドが狭窄部位近傍とPTC近傍で出口トンネル内壁のよ く似た位置のrRNA残基とコンタクトしている様子が示 されている(37, 38).興味深いことに, 遺伝子でリボ ソームの停滞に伴ってrRNAのコンフォメーション(も しくは新生ペプチドとrRNAの相互作用)が変化する rRNA残基も,これらと相同な位置である(11)

新生ペプチドに依存したリボソームの停滞を誘導する 分子機構は,現状では百家争鳴状態である.しかしなが ら,出口トンネルの狭窄部位近傍とPTC近傍を形成す るrRNA残基と新生ペプチドとの相互作用の変化が重要 な役割を演じていることは間違えなさそうである.おそ らくは,新生ペプチドと狭窄部位近傍との相互作用が PTC近傍のrRNAのコンフォメーション変化を引き起 こすことで,最終的にPTCの機能阻害を誘導するので あろう.

おわりに

多くの真核生物遺伝子がuORFをもっており,決して 例外的なものではない.また,興味深いことに転写制御 因子など遺伝子発現制御にかかわる遺伝子にはuORFを もつものが多い傾向があり,CPuORFではこうした遺 伝子が有意に濃縮されている(24).uORFによる制御は遺 伝子発現制御のネットワークを支えるメカニズムの新た なカテゴリーと考えて良いのかもしれない.

大腸菌のTnaC新生ペプチドは出口トンネル内で2分 子のトリプトファンと相互作用している(39).リボソー ムはさまざまなシグナル分子を出口トンネル(狭窄部 位)と新生ペプチドの相互作用に取り込んで,翻訳効率 やmRNAの安定性を調節することで恒常性の維持にか かわっているのではないだろうか.

本稿では紙面の制約のため総説を優先して引用した.

原報については総説から孫引きしてほしい.

文献

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日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(7)

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19, 333 (2005).

34)  D. H. Goldman, C. M. Kaiser, A. Milin, M. Righini, I. Tino- co Jr. & C. Bustamante:  , 348, 457 (2015).

35)  D. Lyumkis, S. Vinterbo, C. S. Potter & B. Carragher: 

184, 417 (2013).

36)  S. Chiba & K. Ito:  , 47, 863 (2012).

37)  D. Sohmen, S. Chiba, N. Shimokawa-Chiba, C. A. Innis, O. 

Berninghausen, R. Beckmann, K. Ito & D. N. Wilson: 

6, 6941 (2015).

38)  D. N. Wilson & R. Beckmann:  , 

21, 274 (2011).

39)  L. Bischoff, O. Berninghausen & R. Beckmann: 

9, 469 (2014).

40)  H. Ramu, A. Mankin & N. Vazquez-Laslop: 

71, 811 (2009).

プロフィール

山下 由衣(Yui YAMASHITA)

<略歴>2009年北海道大学農学部応用生 命科学科卒業/2014年同大学大学院生命 科学院博士課程修了,博士(生命科学)/同 年4月同大学大学院農学研究院博士研究 員/同年10月ミュンヘン大学遺伝子セン ター博士研究員,2015年よりEMBO博士 研究員<研究テーマと抱負>生化学,およ びCryo-EMによる構造生物学的アプロー チから,新生ペプチドによる翻訳調節メカ ニズムの多様性を理解したい<趣味>歴史 小説を読むこと,水族館めぐり

尾之内 均(Hitoshi ONOUCHI)

<略歴>1990年名古屋大学理学部生物学 科卒業/1995年同大学大学院理学研究科 博士後期課程修了,博士(理学)/1996年 日本学術振興会特別研究員/1999年英国 ジョンイネスセンター博士研究員/2000 年北海道大学大学院農学研究科助手/2005 年同大学大学院農学研究科助教授/2007 年同大学大学院農学研究院准教授<研究 テーマと抱負>uORFが介する翻訳制御機 構の解明.翻訳段階における未知の発現制 御機構を明らかにしたい<趣味>読書,音 楽鑑賞,野球観戦

内 藤  哲(Satoshi NAITO)

<略歴>1978年東京大学理学部生物科学 科卒業/1983年同大学院理学系研究科生 物化学専攻博士課程修了,理学博士/1983 年同大学医科学研究所助手/1984年同大 学 遺 伝 子 実 験 施 設 助 手,こ の 間1985〜

1986年ワシントン大学(St. Louis)客員研 究員/1992年北海道大学農学部助教授/

1994年同教授/1999年同大学大学院農学 研究科教授/2006年同大学大学院先端生 命科学研究院教授(大学院生命科学院担 当,現在に至る)/2010年同大学大学院農 学研究院教授<研究テーマと抱負>植物発 で世界初の研究<趣味>趣味・研究,特 技・実験をもって自任するも,なかなかピ ペットマンをもつ時間がないのが残念

<ウ ェ ブ サ イ ト>http://www.agr.hoku- dai.ac.jp/arabi/

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.191

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

参照

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