• 検索結果がありません。

植物における音の影響 - J-Stage

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2023

シェア "植物における音の影響 - J-Stage"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

196

化学と生物 Vol. 51, No. 3, 2013 本 研 究 は,2012(平 成

24) 年 度 日 本 農 芸 化 学 会 大 会(開 催

地・京都)での「ジュニア農芸化学会」において金賞に選ば れた.植物が音楽の影響を受けて生育を変化させる可能性に ついては昔から幾度となく話題にされ,クラシック音楽は良 い効果を及ぼすというようなことが伝えられてきたが,科学 的 根 拠 を 欠 く 事 象 と し て 疑 問 視 す る 声 も 多 か っ た.本 研 究 は,マカラスムギを材料に,発芽や初期生長に及ぼす音楽の 影響を再検証するところからスタートしたものであるが,音 楽を周波数の異なる音に分けて詳細に解析した点,糖代謝や 呼吸といった植物体内の生理変化にまで踏み込んで解析した 点,さらには実験結果に基づき独自の分子モデルを提唱した 点,が高く評価された.

 

研究の背景,目的,実験方法および結果

【背景と目的】 音はさまざまな生物に影響を与えること が知られているが,特に植物の音に対する応答に興味を もった.それは,1968年にドロシー

・リアラックが報告し

たもので,クラシック音楽とロック音楽が植物の生長に異 なる影響を及ぼすというものである.それ以来,いくつも の類似の報告はあるものの,確かな科学的検証がなされる までには至っていない.本研究では,植物の生活環のなか でも,発芽の段階に着目し,音楽が発芽・発根,芽と根の 初期生長に及ぼす効果を明らかにすることを目的とした.

【実験方法】 マカラスムギ ( ) にクラシッ ク(モーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジー ク」)とロック (ASIAN KUNG-FU GENERATION 「リ ライト」)を連続的に聞かせ,発芽・発根,芽と根の初 期生長に影響が生じるかを確認した.次に周波数発生器 を用い,一定の周波数 (20 〜200,000 Hz) の音を連続的 に聞かせ,周波数の違いによる効果を調べた.また,ク ラシックとロックに含まれる周波数分布を調べ,上記効 果との関係を考察した.さらに,発芽や初期生長への影

響を分子レベルで解析するために,種子内の糖代謝に着 目し,アミラーゼ活性(種子内デンプン残存量を計測し て逆算)とマルトース含量(ジニトロサリチル酸を用い 還元糖量を計測)に対する音の効果を解析した.

【実験結果と考察】 マカラスムギの種子にクラシック音楽 を聞かせると

音楽なしの場合と比較して発芽

・発根率が上

昇し,芽・根の伸長が有意に促進されることが確認された.

一方,ロックを聞かせた場合には,逆に発芽・発根率が低下 し,初期生長も有意に抑制されることが確認された(図

1

次に,音の三要素のうち,周波数の違いによる影響を 調べた.2,000 Hzの音を連続して聞かせると発芽率が上 昇すること,また500 Hzの音は発根率を上昇させると ともに,芽と根の生長を強く促進することが示された.

一方,100 Hz以下の音には,逆に発芽・発根率を低下 させ,芽や根の生長を抑制する効果があることが示され た(図

2

.そこで,これまで用いてきたクラシックと

ロックに含まれる音の周波数域を調べた結果,クラシッ クには500 Hz付近の周波数が高頻度で含まれ(全体の 67%)

,一方,ロックには100 Hz以下の周波数が高頻度

で含まれることが判明した(全体の76%)

.音楽性の違

いにより植物が異なる反応を示すのは,含まれる音の周 波数の違いが関連している可能性が強く示唆された.

さて,マカラスムギなどの穀類種子では,胚に由来す るジベレリンによって糊粉層細胞からアミラーゼが分泌 され,胚乳に含まれるデンプンが分解されて,その分解 産物(マルトースなど)が胚の生長に利用されることが 知られている.そこで次に,発芽や初期生長の変化に,

こうした糖代謝の変化がかかわっているかどうかを明ら かにすることを計画し,種子のアミラーゼ活性およびマ ルトース含量を測定した.その結果,2,000 Hzの音を聞 かせた種子では,アミラーゼ活性およびマルトース含量 共に,音なしのコントロールと比較して上昇することが 佐野日本大学高等学校

佐藤優紀(顧問:谷津 潤)

植物における音の影響

(2)

197

化学と生物 Vol. 51, No. 3, 2013

示された.一方,500 Hzの音を聞かせた種子では,ア ミラーゼ活性にはあまり変化がなく,マルトース含量は むしろ減少していることが示唆された(図

3

以上の結果から,500 Hzの音を聞かせた種子では,種 子内に生じたマルトースが何らかの形でエネルギーに効率 良く変換され,初期生長が促進されている可能性を考察 した.一方,2,000 Hzの音を聞かせた種子では,アミラー

ゼが活性化され発芽が促進されるにもかかわらず,何らか の理由により生成したマルトースが有効利用されず,初期 生長はむしろ阻害されてしまう可能性を考察した(図

4

 

本研究の意義と展望

これまで「音楽性」の違いという曖昧であった音楽の 植物に対する効果を,音の周波数の効果として詳細に再 検討したこと,また初期生長に対する効果に的を絞り

「糖代謝」の変化という素過程に踏み込んで解析したこ と,が高く評価できる.一連の研究結果を羅列するのみ ならず,それらを説明するための独自の「作業仮説」を 提唱したことも特筆すべきであろう.しかし,音楽の植 物に及ぼす影響は,さらに複雑であることが予測されて きている.実際に,紙面の都合で割愛したが,音楽を聞 かせると(クラシックやロックに関係なく)呼吸量が増 加するといった,新たな効果も見いだしてきているとの ことである.本研究メンバーは,今回検討した初期生長 過程にかかわらず,植物の生活環のほかのステージにお ける音の影響についても,さらに幅広く検討していくこ とを計画している.また,マカラスムギのほかに,イネ やシロイヌナズナを用いた実験も計画しており,これら モデル植物を利用することで,具体的な遺伝子の発現制 御なども明らかにされてくるであろう.植物がどうやっ て音の情報を感知しているかという全く未解明の点も含 めて,今後の進展がたいへん楽しみな研究である.

  (文責「化学と生物」編集委員)

アミラーゼ活性 マルトース定量

相対値 マルトース濃度 (mg/10粒)

(N=5)音なし 500Hz

(N=5) 2000Hz

(N=5) 音なし

(N=5) 500Hz

(N=5) 2000Hz

(N=5)

(means±S.E.)

2.0 1.6 1.2 0.8 0.4 0.0

40 30 20 10 0

3

■音がマカラスムギ種子内の糖代謝に及ぼす影響

500Hz

2000Hz

図4発芽時の種子内糖代謝と音の作用点に関する作業仮説

図2マカラスムギの発芽・発根,

初期生育に対する一定周波数音の効 果

発芽・発根率 芽・根の伸び

(cm)

c c c

c

c c

a a

a a

aa a a

a b

b b

(N=63〜510)

(means±S.E.)

(N=300〜510)

(means±S.E.)

P<0.001:a P<0.01:b P<0.05:c 100%

90%

80%

70%

60%

50%

40%

30%

20%

10%

0%

4 3.5 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0

音なし 20Hz 100Hz 200Hz 500Hz 2000Hz 20000Hz 200000Hz

図1音楽がマカラスムギの発芽・

発根,初期生育に及ぼす影響

発芽・発根率 芽・根の伸び

音楽なし クラシック ロック

(%) (cm)

c

c a

a a a

a

100

50

0

6

3

0

(N=18〜338)

(means±S.E.)

P<0.001:a P<0.01:b P<0.05:c

参照

関連したドキュメント

はじめに 移動の自由のない植物は,高温や乾燥などさまざまな 環境ストレスの影響を常に受けている.これら環境スト レスは,細胞内で活性酸素を発生させ,DNAを傷つけ ることが知られている1, 2.また,紫外線や放射線,土 壌中に含まれるアルミニウムや重金属,さらには病原菌 感染などによってもDNAが損傷を受けることや3〜7,

マウス腸内フローラの解析 マウス腸内フローラの解析には,代謝ケージの糞便分 離チューブから回収した糞便を使用した.この糞便をウ マ脱線維素血液BL培地(以下,ウマ血液BL培地と記 す)を使った培養によるコロニー性状の解析と,分子 生物学的手法である16S rRNA T-RFLP(Terminal Re- striction Fragment Length

要 約 本論文では、日本のCD売上における音楽配信の影響、特に、CD市場の低迷における影 響の考察を行う。CD市場の低迷の原因を解明することを目的としており、音楽配信サービ スほか、少子化、携帯電話の普及、レンタルCD事業、カラオケブームの沈静化などがCD 市場に与えた影響を分析する。

コウルリッジ自身は,詩の韻律に関する新しい大きな発見をしたように考えた

To investigate influences of the inconsistency between sophistication of appearances and that of speech sounds of animation characters into humans facing them,

This thesis explores the concepts and structure behind the ideology of ikebana, the traditional Japanese art form of flower arrangement, and the expression of composition

的にトダシバやヤマハギが優占種になり,またオミナエシのようにこの時期にだけ特異的

された。 次に国内の 4