Title
草原再生過程における植物群落の動態と火が草原性植物の
発芽に与える影響( 内容と審査の要旨(Summary) )
Author(s)
増井, 太樹
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(農学) 甲第727号
Issue Date
2020-03-13
Type
博士論文
Version
none
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/79369
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。[10] 氏 名(本(国)籍) 増井 太樹(滋賀県) 学 位 の 種 類 博士(農学) 学 位 記 番 号 農博甲第727号 学 位 授 与 年 月 日 令和2年3月13日 研 究 科 及 び 専 攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻 研究指導を受けた大学 岐阜大学 学 位 論 文 題 目 草原再生過程における植物群落の動態と火が草原性 植物の発芽に与える影響 審 査 委 員 会 主査 岐阜大学 教 授 川 窪 伸 光 副査 岐阜大学 准教授 津 田 智 副査 静岡大学 教 授 澤 田 均
論 文 の 内 容 の 要 旨
半自然草原は近年急速に面積を減少させている.半自然草原の管理の放棄や草原面積の 縮小や分断化が半自然草原の生物多様性を劣化させているとされ,それらの解決のために 草原再生が行われるようになってきた.草原再生過程では,その管理手法として火入れが 提案されることが多い.したがって,草原再生過程における植物の応答や植物群落の成立 機構を理解するためには,草原再生過程における植生変化に加え,火そのものが植物に及 ぼす影響についても明らかにする必要がある.これまでの研究では火を入れた場所とそう でない場所の植生を比較することで火入れの効果を考察しているものが多い. しかしこの ような間接的な手法のみでは火入れにより生じるどのような環境変化が植物に影響を与 え植生が変化したのかについて明らかにすることは難しく, 火入れと植物の関係を直接的 に明らかにするためには火入れによって起こる環境変化を明らかにする必要がある.特に 火にはほかの攪乱要素にはない特徴的な環境変化が含まれており,火による物理的特性を 理解することは植物や植物群落の影響の予測や推定に役立つとされ,したがって火入れに よって生じる環境変化およびそれに伴う植生への影響を解明することは, 半自然草原の生 態系の維持機構の解明につながるものと考えられる.そこで本研究では,草原再生過程を 明らかにするとともに,火による環境変化としての火入れ後の地温変動および,火入れに 伴う草原性植物の発芽特性を明らかにする事で半自然草原の再生過程における火の役割 を明らかにすることを目的とした. 草原再生過程を明らかにするために熊本県阿蘇地域の半自然草原において異なる時期に 崩壊した複数の斜面(崩壊後4 年:NLS および 26 年:OLS)と,それに隣接する崩壊が確 認されていない斜面(C)で植生調査を実施し斜面崩壊後の半自然草原の植生回復過程を 明らかにした.斜面崩壊後の植被率は,NLS よりも OLS では高くなっていた.調査地は 基本的にススキ型の半自然草原で,NLS や C の優占種はススキだったが,OLS では一時的にトダシバやヤマハギが優占種になり,またオミナエシのようにこの時期にだけ特異的 に出現頻度が高くなる種も存在した.斜面崩壊からの年数に応じて種組成が変化し,優占 種の交代も認められたことから,異なる年代の斜面崩壊地の存在が様々な植物の生育を可 能にしていると考えられた.以上のように阿蘇地域では,草原再生過程における異なる時 間経過の植生が混在することが半自然草原の種多様性を高める要因となっていることが 示された. 次に国内の 4 つの半自然草原において,火入れ地と火入れをしていない対照地で同時に 地温測定を実施し,火入れ後の地温変動の特徴を明らかにした. 調査の結果, いずれの調 査地においても火入れ地の方が対照地に比べ,火入れ後の日最高地温は高く,40℃以上に なった地域もみられた.一方,日最低地温は火入れ地と対照地で違いがなかった.そのた め,日最高地温と日最低地温の差(日較差)は火入れ地の方が大きくなった.この日較差 は火入れから3-4 か月間継続するものの,それ以降になると火入れ地と対照地の地温差は なくなった.地温変動が生じた要因として,火入れによりリターが消失することで,光が 地面に直接当たるようになり地温が上昇したものと考えられた.火入れから4-5 か月ほど 経過すると火入れ地と対照地の地温差がなくなったのは,火入れ後に一度消失した植生が 次第に繁茂し,光を遮ることで火入れ地と対照地が同様の環境となり地温差がなくなった ものと考えられた. 最後にこのような火入れによる環境変化を想定した発芽実験を,草原性植物を対象に実 施した.その結果,加熱により発芽が促進される種がいる一方で,多くの植物は加熱に反 応することなく発芽しない.火入れ跡地を模した変温環境を設定したインキュベーターに よる発芽実験ではオカトラノオやサワヒヨドリなどは発芽率が高くなることが示された. このことは,火入れを行うことで,発芽適温が高い植物や,変温条件が発芽のシグナルと なっている植物の発芽を促進させ,それにより半自然草原の群落の維持に影響を及ぼして いる可能性があることを示しており,草原再生過程においても火の攪乱やそれとともに生 じる地温環境の変化が影響し,種組成の変化が起きている可能性が示唆された. 以上のことから半自然草原の再生過程においては,火が入ったことによる地温変動幅の 増加が特定の植物の発芽に影響を与えていること.また,くり返し火が入ることにより加 熱で発芽が促進されるヤマハギなどの種が増加することが推察され,半自然草原の再生過 程においては,火による攪乱が生態系の維持・再生の過程に強い影響を与えていることが 示唆された.
審 査 結 果 の 要 旨
申請者 増井太樹は,半自然草原における植生の成立メカニズムについて研究した. 半自然草原における攪乱(斜面崩壊)からの時間経過により,構成種,種数,多様性 などが変化することを明らかにし,しばしば発生する大きな攪乱が草原全体の多様性 を維持していることを指摘した.また,植物群落形成過程における種子発芽個体の役 割に注目し,火入れ地の温度環境と種子の発芽との関係について追究した.各地の草 原の温度環境の測定から火入れ後の温度環境を一般化し,その結果に基づいて多種の 種子発芽特性をも明らかにした.これらの新知見は,近年日本各地でさかんに実施されている草原の自然再生における 有益な情報を提供し,多くの絶滅危惧種を含む草原性植物の保全にも役立つと認めら れる. 基礎となる学術論文 1) 増井太樹,横川昌史,高橋佳孝,津田智:熊本県阿蘇地域における斜面崩壊後 4 年 目および26 年目の半自然草原植生.日本緑化工学会誌.44(2),352-359. 2) 増井太樹,安立美奈子,冨士田裕子,小幡和男,津田智:東日本の半自然草原にお ける火入れ後の地温変動.植生学会誌(印刷中) 既発表学術論文 1) 増井太樹,澤田佳宏,津田智:秋田県男鹿半島寒風山における草原植生の変化.景 観園芸研究.19,1-11.2017. 2) 津田智,増井太樹:九州大学北海道演習林のカラマツ林焼失地(地表火)における 初期植生.九州大学演習林報告.99,8-12.2018. 3) 冨士田裕子,菅野理,津田智,増井太樹:ラムサール条約登録湿地「濤沸湖」の維 管束植物相.保全生態学研究.23(2),279-296.2018.