• 検索結果がありません。

新規マラリア薬としての硫酸化多糖類の可能性 - J-Stage

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2023

シェア "新規マラリア薬としての硫酸化多糖類の可能性 - J-Stage"

Copied!
3
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

348 化学と生物 Vol. 53, No. 6, 2015

新規マラリア薬としての硫酸化多糖類の可能性

硫酸化ジェランのマラリアに対する薬剤効果の解析

WHOの統計によると,マラリアは熱帯地域を中心に 毎年2億人の感染者がおり,60〜70万人の死者が発生し ている,世界的にきわめて深刻な感染症である(1).病原 体であるマラリア原虫は,ハマダラ蚊の吸血によってヒ トに感染し,血流にのって,肝細胞に侵入し,ここで増 殖する(2).この後,ヒトの血液中にある赤血球に感染し て増殖・破壊を繰り返すステージにおいて臨床症状をも たらす.この中で一部の虫体が雌雄に分かれ,ハマダラ 蚊の吸血によって蚊の体内で受精を行い,再度ハマダラ 蚊の吸血によってヒトに感染することで,感染環(ライ フサイクル)が一周する.ヒトに感染するマラリアは基 本的には,熱帯熱マラリア,三日熱マラリア,卵形マラ リア,四日熱マラリアの4つに分類される.この中で,

最も重篤な症状を引き起こし,老人や小児に多くの死者 を出すのは,熱帯熱マラリアである.マラリアの臨床症 状の主因は,感染赤血球の破壊による貧血や感染赤血球 を中心とした赤血球の凝塊(ロゼット形成)による血栓 であり,これに多くの全身性の合併症を伴う.近年は,

媒介蚊であるハマダラ蚊によるヒトへの吸血に対する対 策やマラリアの蔓延地域での抗マラリア薬,診断キット の使用の普及によって,その感染状況は改善へと向かっ ている.現在までに有効なワクチンは開発されていな い.一方で,多くの種類のマラリア治療薬が臨床応用さ れている.しかし,現在使われている主な予防薬,治療 薬に対して,薬剤耐性マラリア原虫の出現が報告されて おり,さらなる予防薬,治療薬の開発が求められている.

これまで広く使用されてきた抗マラリア薬としては,

キナの樹皮から抽出・作製されるキニーネや中国でクソ ニンジンから作製し,漢方薬として使用されていたアル テミシニンなどが挙げられる.これらの薬剤については マラリア原虫の感染赤血球内での増殖抑制に効果が報告 されている.また,ヘパリン,海藻由来のカラギーナ ン,フコイダン,デキストラン硫酸といった硫酸化多糖 類が,原虫の赤血球侵入を阻害することが明らかとなっ てきた(3).硫酸化多糖類とは糖類が長く結合した「糖 鎖」と呼ばれる化合物の一種で,硫酸基と呼ばれる原子 団が付加された構造を取っており,ヘパリンやコンドロ イチン硫酸などの天然に存在するものや人工的に硫酸基

を付加した糖鎖などがある.さらに,抗凝固剤であるヘ パリンは,脳マラリアや胎盤マラリアといった重篤な症 状を引き起こす原因となる感染赤血球の血管壁への吸着 や限局を抑制できることが報告されている.(4, 5)

筆者らは人為的にジェランガムに硫酸基を付加するこ とで作製した硫酸化ジェランについて,熱帯熱マラリア 原虫の増殖に与える影響について解析を行った(6).ジェ ランガムは細菌の から合成される 多糖類である.産業的には,ゲル化剤,食品添加物,増 粘安定剤として用いられている.実験に用いる硫酸化多 糖類として,硫酸化ジェラン,

κ

カラギーナンの過硫酸 化物,

λ

カラギーナンの加水分解物を各々人工的に作製 した.作製した硫酸化多糖類について,核磁気共鳴分光 法と元素分析において,硫酸基の付加を確認した.硫酸 化多糖類とこれらの派生体を用いて,熱帯熱マラリア原 虫の増殖抑制効果について で解析を行った.

クロロキンは一般的なマラリア薬として,現在でも第 一選択薬として広く世界中で使用されている.しかし,

近年タイの一部の地域において,クロロキン耐性のマラ リアの報告があり,憂慮される事態に瀕している地域も 世界的には多く見られる.そこで,筆者らはクロロキン に対して感受性の熱帯熱マラリア原虫である3D7ク ローンと耐性のDd2クローンについて,増殖阻害試験 と赤血球侵入阻害試験を行った(図

1

.その結果,硫 酸化ジェランは,原虫に対して強い赤血球侵入抑制効果 を示す硫酸化多糖類であるヘパリンと同程度の増殖阻害 効果と赤血球侵入阻害効果を示したが,派生元のジェラ ンガムは効果が見られなかった.逆に,ほかの人工的に 作製した硫酸化多糖類ついてはこの効果は低いのに対し て,派生元の物質には既報どおり,効果は見られた.

硫酸化多糖類であるデキストラン硫酸が,高脂血症薬 として認可を受けていることからも,硫酸化多糖類はそ のいくつかが薬剤として使用されている.しかしなが ら,筆者らが作製した硫酸化ジェランについては,ほと んど報告がされていなかった.そこで,硫酸化ジェラン の薬剤としての使用について検討するため,細胞毒性試 験を行った.この結果,細胞毒性は見られなかった.抗 凝固剤として使用される硫酸化多糖類の一つであるヘパ

今日の話題

(2)

349

化学と生物 Vol. 53, No. 6, 2015

リンなどでは,薬剤としての使用を考える場合当然なが ら抗凝固活性の問題が生じる.そこで,硫酸化ジェラン について抗凝固活性の測定を行った.この結果,抗凝固 活性については低い値を示した.

硫酸化多糖類は高分子多糖であるため,実際的に薬剤 として製造するためには,合成が難しく,かつ均質性の 保証が懸念される.筆者らはこれらの問題を解消するた め,さまざまな硫酸化多糖類の派生体を用いて,マラリ ア原虫の増殖阻止効果を解析することで,増殖を抑制す るコアとなる構造体の同定を試みている.これにより,

抗マラリア薬として効果のある構造体の低分子化を図る ことで,均質化の保証も担保しようと考えている.

本研究は硫酸化ジェランの抗マラリア活性についての 初めての報告である.硫酸化ジェランは新規の材料から 合成された熱帯熱マラリア原虫の増殖阻害薬の候補物質 と言える.また,ジェランガムにはドラッグデリバリー システムの担体としても使用の報告もあることから,こ の薬剤機序の解明を行うことで,新たなマラリア治療薬 の開発につながることが期待される.

  1)  World  Health  Organization:  World  malaria  report  2014,  www.who.int/malaria, 2014.

  2)  I. W. Sherman:  Malaria: Parasite Biology, Pathogenesis  and Protection,  ASM Press, 1998.

  3)  K. Kato & A. Ishiwa:  , 43, 41 (2015).

  4)  A.  M.  Vogt,  F.  Pettersson,  K.  Moll,  C.  Jonsson,  J.  Nor- mark,  U.  Ribacke,  T.  G.  Egwang,  H.  P.  Ekre,  D.  Spill- mann, Q. Chen  :  , 2, e100 (2006).

  5)  K. Kobayashi, R. Takano, H. Takemae, T. Sugi, A. Ishiwa,  H.  Gong,  F.  C.  Recuenco,  T.  Iwanaga,  T.  Horimoto,  H. 

Akashi  :  , 3, 3178 (2013).

  6)  F.  C.  Recuenco,  K.  Kobayashi,  A.  Ishiwa,  Y.  Enomoto- Rogers, N. G. Fundador, T. Sugi, H. Takemae, T. Iwana- ga, F. Murakoshi, H. Gong  :  , 4, 4723 (2014).

(加 藤 健 太 郎

*

1,2Frances Cagayat RECUENCO

*

1,2

*

1 帯広畜産大学原虫病研究センター,

*

2 東京大学大学 院農学生命科学研究科)

図1(上図)ジェランガムおよび硫酸化 ジェランの構造,(下図)各種硫酸化多糖類 とそれらの派生体(Hep;ヘパリン,GG

ジ ェ ラ ン ガ ム,SGG;硫 酸 化 ジ ェ ラ ン,

LAλカラギーナン,HyLAλカラギーナ ン の 加 水 分 解 物,KPκカ ラ ギ ー ナ ン,

OsKPκカラギーナンの過硫酸化物)によ る熱帯熱マラリア原虫(3D7, Dd2クローン)

の増殖阻害試験

今日の話題

(3)

350 化学と生物 Vol. 53, No. 6, 2015 プロフィル

加藤健太郎(Kentaro KATO)

<略歴>2000年東京大学農学部獣医学課 程獣医学専修卒業/2003年同大学大学院 農学生命科学研究科獣医学博士課程修了

(短縮)/同年米国国立衛生研究所(NIH)

Visiting fellow/2005年東京大学大学院農 学生命科学研究科助手,助教/2013年帯 広畜産大学原虫病研究センター特任准教 授,現在に至る<研究テーマと抱負>原虫 感染症の感染・増殖の分子メカニズムの解 明と新しい抗原虫病戦略の確立<趣味> 

山登り,温泉巡り<所属研究室ホームペー ジ>h t t p :// w w w . o b i h i r o . a c . j p / 

~globalinfection/index.html

Frances Cagayat RECUENCO

<略歴>2003年University of the Philippines  Los Baños卒業/2014年東京大学大学院農 学生命科学研究科獣医学博士課程修了/同 年University of the Philippines Los Baños 准教授,現在に至る<研究テーマと抱負>

野生動物における寄生虫の探索

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会

今日の話題

参照

関連したドキュメント

多様な硫酸化基質の発見と代謝経路の解明 硫酸化代謝物は水溶性が高いことと標品の入手が難しいこと から,メタボローム解析などの網羅的代謝解析の標的とされる ことが少なく,硫酸化が関与する代謝は未だに全貌が掴めてい ない.そこで,私は酵素学的解析により,オピオイド薬物や パーキンソン治療薬を始めとした薬物の他,ビタミンやしょう

キーワード: シアル酸,糖鎖,糖脂質,脂質ラフト,1 分子イメージング 生物の細胞の表面は,多種多様な糖鎖で覆われている.なか でも,シアル酸という特殊な糖を含んでいる糖鎖シアロ糖 鎖は,生命の維持に不可欠なあらゆるコミュニケーション を担う生体分子として注目されてきた.しかしながら,研究 に必要なシアロ糖鎖は天然に微量にしか存在しないため,い

10, 2016 植物由来の新しい抗真菌剤ポアシン酸の研究の魅力 新しい抗真菌剤ポアシン酸 世界の人口が増え続け,食糧危機が深刻化している現 代において,農業の重要性は以前にも増して高まってき ている.そのなかで,カビの仲間である真菌による感染 が原因となり,毎年約6億人分の食料に相当する農作物 が被害を受けていると算出されている1.真菌の感染を

生食用バレイショを北海道施肥標準に従って栽培する際に 硫安、苦土重焼リン、硫酸カリと硫酸マグネシウムで施肥する場合の 10a

50)にて分離し,それぞれの糖に相当する部分 亦ら,各糖を抽出し,フェノール硫酸法により,

硫酸ストロンチウム針状結晶の成長(石井・滝山) ため,各

に,生化学的な実験によると,Slit はヘパラン硫酸と結合 する性質があり,軸索に発現するヘパラン硫酸が Slit

はじめに 感染症マラリアは Plasmodium