59-1
フライアッシュ外割混合コンクリートの耐硫酸性及び耐硫酸塩性に関する研究
片村 祥吾 1. はじめに 我が国における火力発電所等からの石炭灰発生量は, 2012 年度で約 1266 万トンであり,増加傾向にある1)。 現在,石炭灰発生量の約 7 割はセメント分野にて有効 利用している。しかしながら,近年セメント生産量は 減少傾向にあり,これに伴って石炭灰の使用量も減少 することが予測される。さらに,2011 年 3 月の東日本 大震災後の原子力発電の停止により,火力発電による 発電量が大幅に増加したため2),それに伴い石炭灰の 発生量は今後さらに増加することが予測される。 当研究室では,石炭灰を大量かつ有効に利用する方 法として,フライアッシュ(以下,FA)をセメントに 対して外割りで混合したコンクリート(以下,FA 外割 混合コンクリート)に関する研究を行ってきた。その 結果,FA 外割混合コンクリートは同様な調合のセメン ト単味のコンクリートよりも圧縮強度や中性化抵抗性 が向上することが明らかになっている3)。 本研究では,FA 外割混合コンクリートの化学劣化に 対する耐久性を明らかにすることを目的として,モル タル試験体による耐硫酸性及び耐硫酸塩性に関する実 験を実施し,その結果を報告する。 2. 実験概要 2.1 使用材料および調合 試験体の調合および圧縮強度と使用材料をそれぞれ 表 1,表 2 に示す。既往の研究4)との比較用として, BB-50 には高炉セメント B 種を使用しており,それ以 外の試験体には普通ポルトランドセメントを使用した。 ②から④の試験体は①に対して FA を外割混合した調 合になっており,⑤と⑦も同様の関係になっている。 また,②と⑤および③と⑧はそれぞれ,FA の内割混合 を想定した調合の組み合わせになっている。練上がり 時の目標空気量は 7.0±1.0%(コンクリート換算で 4.5%)とした。 2.2 実験方法 2.2.1 耐硫酸性に関する実験 各調合において,40×40×160mm の角柱試験体を寸 法変化測定用と質量変化測定用としてそれぞれ 2 体 表 1 調合および圧縮強度 ※B=C+FA 表 2 使用材料 ずつ計 4 体作成した。脱型は材齢 2 日で行い,その後, 20℃水中養生とした。材齢 4 週において硫酸 5%溶液へ の浸漬を開始した。溶液の作成には水道水を用いた。 作成時の溶液の pH は 0.25~0.47 であった。硫酸溶液 の交換は,4 週までは 1 週毎に,以降は 2 週毎に行っ た。浸漬した試験体は 20℃に設定した恒温恒湿室内に 保管した。 浸漬から 1 週毎に試験体の 4 辺の長さおよび質量を 測定した。試験体の長さはノギス(精度 0.01mm)で測 定し,試験体長さの初期値に対する浸漬後の変化量を 寸法変化率とした。浸漬 4,8 週において,試験体の端 部から約 32mm,64mm の位置で切断し,中性化試験を行 った。切断面にフェノールフタレイン 1%アルコール溶 液を噴霧した後,呈色しない部分の試験体表面からの 長さ(各辺 3 カ所)および呈色域の長さ(高さ方向, 横幅方向各 3 カ所)をノギスで測定し,中性化深さを 式(1)5)から求めた。 7日 28日 91日 ①N-65 65 3.00 0 854 12.5 20.7 27.7 ②65-50 50 2.66 85 757 14.8 22.9 34.2 ③65-35 35 2.01 244 574 19.1 30.1 38.1 ④65-25 25 1.17 455 333 21.5 31.6 40.8 ⑤N-50 50 2.52 0 852 21.4 30.7 37.3 ⑥BB-50 50 2.49 0 841 15.3 27.2 33.9 ⑦50-25 25 1.37 338 464 23.0 36.4 44.3 ⑧N-35 35 35 1.23 185 529 0 650 36.3 44.4 58.2 50 185 169 285 338 圧縮強度 (N/㎟) W C FA S (kg/m3) ※コンクリート換算 W/B (%) S/C 65 記号 W/C (%) 材料 記号 品質 N 普通ポルトランドセメント,密度:3.15g/㎤ BB 高炉セメントB種,密度:3.04g/㎤ フライアッシュ FA JISⅡ種,密度:2.29g/㎤ AD1 AE剤 AD2 高性能AE減水剤 AD3 消泡剤 硫酸 一級 硫酸ナトリウム十水和物 特級(JIS K 8986) 君津産山砂 表乾密度:2.62g/㎤,吸水率:1.55% 実積率:67.9%,FM:2.81 細骨材 S 硫酸ナトリウム 硫酸 混和剤 セメント59-2 Dn = (D0−Dh) 2
··· (1) ここに,Dn:中性化深さ(mm) D0:浸漬前の試験体の長さ(mm) Dh:呈色域(未中性化域)の長さ(mm) 2.2.2 耐硫酸塩性に関する実験 試験体は,ASTM C-490 に準拠し,25×25×285mm の角柱試験体を各調合 3 体ずつ作成した。脱型は材 齢 2 日で行い,その後,20℃水中養生とした。材齢 2 週で硫酸ナトリウム 5%溶液への浸漬を開始した。 硫酸ナトリウムは 10 水和物を用い,精製水で 5%溶 液とした。硫酸ナトリウム溶液の交換は試験材齢毎に 行った。浸漬した試験体は 20℃に設定した恒温恒湿室 内に保管した。 これまで,浸漬から 0,1,4,6,8,11,13,15 週 において試験体の長辺方向の長さおよび質量を測定し ており,今後は浸漬 21,26 週において同様の測定を行 う予定である。また,これらの試験は 20℃に設定した 恒温恒湿室内で行った。長さ変化率は,試験体の両端 に埋め込んだプラグ間の長さをデジタル式コンパレー タ(精度 0.001mm)で測定を行った。 3.実験結果および考察 3.1 耐硫酸性 浸漬 13 週までの寸法変化率と質量変化率の経時変 化をそれぞれ図 1,図 2 に示す。また,浸漬 10 週の試 験体の外観を写真 1 に示す。セメント単味の試験体に ついて,単位セメント量の大きい試験体ほど寸法変化 率,質量変化率ともに低下が大きいことから耐硫酸性 の低下が明らかであり,蔵重らの研究 6)と同様の結果 が得られた。一方,FA を外割混合した試験体について, W/C50%のもの(50-25)は浸漬 1 週以降,セメント単味 の試験体と同様に断面欠損ならびに質量減少が見られ るが,W/C65%の試験体は,寸法変化率,質量変化率と もにセメント単味の試験体より小さくなっている。 浸漬 10 週における,単位セメント量と質量変化率の 関係を図 3 に示す。単位セメント量の大きい試験体ほ ど質量減少が大きいことがわかる。単位セメント量が 同じである試験体では,FA を外割混合した試験体の方 が,質量減少が抑制されており,FA の混合により耐硫 酸性が向上していることが明らかである。 浸漬 4 週と 8 週における劣化深さの算出結果を図 4 に示す。上田らの研究7)により,強酸性の硫酸による 劣化では,写真 2 の境界層内部は健全であることが明 らかになっていることから,境界層内部の寸法を測定 し,浸漬前の寸法との差を劣化深さとした。また,境 界層内部の健全な領域と非中性化領域が一致している ことがわかる。劣化深さも寸法変化率,質量変化率と ほぼ同様の傾向を示した。 弱酸性の硫酸環境下においては,低 W/C や単位 FA 量を大きくすることで,硬化体組織が緻密になり,耐 硫酸性が向上することが既往の研究によって明らかに されている 8),9)。しかしながら本研究のような強酸性 の硫酸においては,単位セメント量が大きく,W/C の 図 1 寸法変化率の経時変化 図 2 質量変化率の経時変化 写真 1 試験体の外観(浸漬 10 週,左上①,右上⑤)
59-3 低い試験体ほど耐硫酸性は低下していた。その一方で FA を外割混合することで耐硫酸性は向上していた。松 本らの研究10)でも示されているように,セメントの水 和反応によって生成される水酸化カルシウム Ca(OH)2 が硫酸と反応することが強酸性の硫酸による劣化にお ける弱点となるため,単位セメント量の大きい試験体 ほど Ca(OH)2の生成量も多くなり,耐硫酸性は低下す る。一方,FA のポゾラン反応によって Ca(OH)2は消費 されるため,FA の混合により耐硫酸性が向上したと考 えられる。このことから酸の強弱に関わらず,FA を外 割混合することで耐硫酸性は向上するといえる。 図 3 単位セメント量と質量変化率(浸漬 10 週) 図 4 劣化深さ(浸漬 4,8 週) ※右半分のみフェノールフタレイン溶液を噴霧 写真 2 中性化状況の一例(65-25,浸漬 10 週) 3.2 耐硫酸塩性 浸漬 15 週までの質量変化率と長さ変化率の経時変 化をそれぞれ図 5,図 6 に示す。また浸漬 15 週の試験 体の外観を写真 3 に示す。質量変化率は高炉セメント B 種を使用した試験体(BB-50)が最も小さく,それ以 外の試験体では,単位セメント量や単位 FA 量の大きい 試験体ほど質量増加が抑制されている。長さ変化率に ついては,N-65 が著しく膨張しており,質量変化率と 同様に単位セメント量や単位 FA 量の大きい試験体ほ ど膨張は抑制されている。しかしすべての試験体にお いて,浸漬 15 週では外観の変化は見られない。 W/C65%の試験体における,単位 FA 量と長さ変化率 の関係を図 7 に示す。単位 FA 量の大きい試験体ほど膨 張が抑制されていることが明らかであり,FA の外割混 合による耐硫酸塩性の向上が認められる。 浸漬 15 週における質量変化率と長さ変化率の関係 を図 8 に示す。BB-50 の試験体は他の試験体と比べ, 質量増加が小さいにも関わらず,長さ変化率の値が比 図 5 質量変化率の経時変化 図 6 長さ変化率の経時変化
59-4 較的大きな値となっている。それ以外の試験体につい ては,セメント単味の試験体は W/C が低いほど,FA を 外割混合した試験体は単位 FA 量が大きいほど,質量変 化率,長さ変化率ともに小さくなっている。既往の研 究より11),12),低 W/C や混和材の混合によって硬化体内 部の組織が緻密になり,硫酸イオンの侵入を抑制でき るということ,また FA のポゾラン反応による Ca(OH)2 の消費によって,膨張の原因となるエトリンガイトの 生成を抑制できることが明らかになっており,本研究 においても同様の傾向を示していると考えられる。 写真 3 試験体の外観(浸漬 15 週) 図 7 単位 FA 量と長さ変化率(W/C65%) 図 8 質量変化率と長さ変化率(浸漬 15 週) 4. まとめ コンクリートの耐硫酸性及び耐硫酸塩性について, フライアッシュの外割混合による効果を評価した結果, 以下の結論を得た。 (a)耐硫酸性 弱酸性の硫酸に対しては W/C の低い試験体ほど耐硫 酸性は向上したが,強酸性の硫酸に対しては W/C が低 く,単位セメント量の大きい試験体ほど耐硫酸性が低 下した。これは,セメントの水和反応によって生成さ れる Ca(OH)2が強酸性の硫酸による劣化における弱点 となるため,単位セメント量が大きいほど耐硫酸性は 低下した。一方,フライアッシュの混合により,弱酸 性では硬化体組織の緻密化によって劣化を抑制し,強 酸性ではポゾラン反応による Ca(OH)2の消費によって 劣化を抑制した。したがって,フライアッシュを混合 することで,酸の強弱に関わらず耐硫酸性が向上する ことが明らかになった。 (b)耐硫酸塩性 W/C を低くすることで硬化体内部の組織が緻密にな り,硫酸イオンの侵入を抑制することで耐硫酸塩性が 向上した。また,フライアッシュの外割混合による組 織の緻密化によって,硫酸イオンの侵入を抑制するこ とに加え,ポゾラン反応による Ca(OH)2の消費によっ て,膨張の原因となるエトリンガイトの生成を抑制し, 耐硫酸塩性が向上した。 以上より,フライアッシュの外割混合は耐硫酸性及 び耐硫酸塩性を向上させる有効な手段であるといえる。 〈参考文献〉 1)一般財団法人石炭エネルギーセンター:石炭灰全国実態調査報告書(平成 24 年度実績) 2)経済産業省資源エネルギー庁:電力調査統計 3)小山智幸ほか:石炭灰を大量使用したコンクリートの強度・中性化特性,コ ンクリート工学年次論文報告集,Vol.22,No.2,pp.97-102,2000 4)伊藤是清ほか:高炉スラグ高含有セメントを用いたモルタルの耐硫酸および 耐硫酸塩性に関する研究,日本建築学会九州支部研究報告,第 53 号, pp.157-160,2014.3 5)河合研至ほか:耐酸性セメント系材料の硫酸抵抗メカニズムに関する基礎的 研究,セメント・コンクリート論文集,No.61,pp.344-350,2007 6)蔵重勲ほか:コンクリートの耐硫酸腐食劣化に関する考察,セメント・コン クリート論文集,No.54,pp.383-389,2000 7)上田洋ほか:酸の影響を受けたセメントペーストの劣化メカニズム,コンク リート工学年次論文報告集,Vol.18,No.1,pp.879-884,1996 8)原田志津男ほか:弱酸性環境下に 20 年間暴露された高品質コンクリートの 劣化性状,日本建築学会九州支部研究報告,第52 号,pp.89-92,2013.3 9)伊藤是清ほか:フライアッシュ外割コンクリートの各種環境下における耐久 性に関する研究 その1 弱酸性の硫酸環境における長期暴露実験 1,日本建 築学会学術講演梗概集.A-1,材料施工 2011,pp.699-700,2011.8 10)松本匡司ほか:混和剤混入による耐酸性モルタルの開発,コンクリート工 学年次論文報告集,Vol.27,No.1,pp.883-888,2005 11)鳥居和之ほか:コンクリートの耐硫酸塩性に及ぼすフライアッシュの影響, コンクリート工学年次論文報告集,Vol.9,No.1,pp.205-210,1987 12)山下弘樹ほか:普通ポルトランドセメントの耐硫酸塩性に及ぼす混和材の 効果,コンクリート工学年次論文報告集,Vol.29,No.1,pp.213-218,2007