国際教育概論
手嶋 將博
(文教大学教育学部准教授)
平成21年度 青年海外協力隊・日系社会青年ボランティア
現職教員特別研修
国際理解教育概論
~「理解」から「共生」へ~
1
~「理解」から「共生」へ~
手嶋 將博
(文教大学教育学部)
Ⅰ.共に生きる教育
2
Ⅰ.「共に生きる教育」とは?
1.「共に生きること」の意味
¾「共生」とは?・・・人間同士のかかわり、人間の生き方、
あるいは人間と環境のあるべき姿を示す言葉。
例:「障害者と健常者」「民族共生」「男女」「若年者と高齢者」など
3
例:「障害者と健常者」「民族共生」「男女」「若年者と高齢者」など。
¾現実の力関係をそのままにして、「ただ仲良くする」ことだけを強 調すると、結果的に差別を助長したり、人権侵害を隠蔽したりす るといった問題を孕んでいる。
⇒対等な立場の「共生」ではなく、単なる「受容」(強者 が弱者に「手を差し伸べている」状態)に陥りやすい。
1.「共に生きること」の意味
¾
「共生」の基本・・・「自己を知ることから始まり、
自己と他者の関係を築くという対話的課程」
(ユネスコ21世紀教育国際委員会『学習:秘められた宝』より)
¾
共生を実現するための二つの提案
①「他者を発見すること」(自己を知り 他者を知る
4
①「他者を発見すること」(自己を知り、他者を知る
⇒他者との共感性の発達)
②「共通目標のための共同作業」(スポーツ、文化 活動、地域活動、奉仕活動など)
¾
日常的な教育活動において、共同で課題を解決 していくことで実現化。
2.「共生」を柱にした教育とは?
(1)「共生」の3つの柱
①「自分との共生」…個性を含めた、あるがままの自分 を受け入れること(自己肯定感)。
②「他者との共生」…自分と他者のつながりを作ること
(身近なレベルで異なった背景を持つ人々との交流 によって可能)。
③「環境との共生」…さまざまな「違い」を超えた相互理 解によって、新しい価値を基盤にした生活環境を作り 上げていくこと(自然との「共生」も含む)。
2.「共生」を柱にした教育とは?
*「共生を柱にした教育」=自己との共生を基盤に して、他者と関わりつつ、自分の生活を認め、よ り良い環境を共につくり上げていくこと。
↓
その具体的な手法として その具体的な手法として
1.自分と向き合う 2.他者への共感的理解
3.生活を振り返る
といった学習が求められる。
3.「共生する力」をどう育てるか?
*単なる「スキル(技能)の習得」では育たない。
①批判的思考力
②知を構成する力
③
7
③人とかかわる力
④違いを認め、受容する力
⑤他者への想いと想像力
4.「共生」のための実践の視点
*教師の実践への振り返り・・・既成の枠組みの中 で子どもたちをとらえてしまうことへの疑問。
↓
①「人とのかかわり」…地域の人々、身近な友達、
障害者などとの関係を中心にすえる。
8
②「違い」をきちんと説明できるように新たな単元 や教材を開発。
③外国籍の子ども一人ひとりの背景を生かす。
☆教師同士の協働…個々の力ではなく、地域の教 員同士、ボランティアなどの協力体制での実践。
Ⅱ.国際理解教育 の概要
9
の概要
国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)
(
United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization
)
教育や文化の振興を通じて、戦争の悲劇を繰り 返さないとの理念から、設立を定めた
ユネスコ憲章の前文には、
10
「 戦争は人の心の中で生まれるものであるから、
人の心の中に平和のとりでを築かなければなら ない 」
との文言があり、ユネスコ設立の目的とその精 神を顕著に表している。
ユネスコ・ 1974 年第 18 回総会
「国際理解、国際協力及び国際平和 のための教育、並びに人権及び基本 的自由についての教育に関する勧 告」
の採択。7項目の指導原則を提示。
指導原則・ 7 項目の内容
1.国際的側面と世界的視点に立つ教育。
2.全ての民族、文化、文明、価値及び生活様式(多文 化教育)に対する理解と尊重。
3.諸民族及び諸国民の間に世界的な相互依存関係 が増大していることの理解。
4.他の人々と交信する能力(特に情報発信能力)。他 信す 能 (特 情報発信能 )。
5.権利と相互に負うべき義務が、個人、社会集団、国 家それぞれにあることの認識。
6.国際的な連帯と協力についての理解。
7.一人ひとりが自分の属する社会、国家および世界 全体の諸問題の解決に参加する用意を持つこと。
国際理解教育の主な内容
(The main contents of international understanding education)
1. 異文化理解(Inter-cultural understanding)
2. 自文化理解(Self-culture understanding) 3. コミュニケーション能力(Communication ability)
4 国際交流・協調 (International exchange and cooperation)
13
4. 国際交流・協調 (International exchange and cooperation)
5. グローバル教育(Global education)
6. 人権教育(Human-rights education)
1.
1. 異文化理解 異文化理解
(
( Inter Inter--cultural understanding cultural understanding ) )
国際理解教育の代表的な「3F」(文化的特徴が表れやすいため、
現場での実践が多い学習)。
◎Fashion(衣)・Food(食)・Festival(祭祀)
「自分たちと異なるもの(文化/宗教/習慣など)」に対する正しい
14
「自分たちと異なるもの(文化/宗教/習慣など)」に対する正しい 理解と寛容(tolerance)の態度/実践を身に付ける。
日本のように「食文化」に関わらせる異文化理解学習ができること は、非常に貴重な体験学習である。
ステレオタイプな知識の詰め込みになり易いので、気をつける必 要がある。
2
2.. 自文化理解 自文化理解
(
( Self Self--culture understanding culture understanding ) )
自分たちの国や郷土/地域の文化的特徴について正 しく理解する。
体験的学習などを通して、その知識/情報を、正しく伝 えられるようになる
15
えられるようになる。
広くとらえれば、現代社会の中で起きる様々な出来事 全てを題材にできる。→広く社会を見る視点や思考力 を養うことができる。
エスノセントリズム(ethnocentrism:自民族中心主義)に 陥らないよう注意する必要がある。
3.コミュニケーション能力 3.コミュニケーション能力
(
(Communication ability Communication ability) )
自分の考えをまとめ、的確に相手に伝えるこ とができる能力。
言語活動が含まれるため、国際理解=英語
16
言語活動が含まれるため、国際理解 英語 教育や外国語教育そのものと混同されやす い(目的と方法の混同)。
読解力、論述力、表現力などに関する能力が 大きな位置を占める(その育成には、国語、
算数、実技教科などが全て関係)。
4.国際交流・協調 4.国際交流・協調
(
(International exchange and cooperation International exchange and cooperation) )
短期/長期の留学や国際的な学校間の交流、あるいは同じ地 域に住む外国人との交流などを通して異文化を体験、交流を して行く実践(前記1~3の能力が全て含まれる総合的実践と もいえる)。
ネット社会の進歩で海外など遠い国や地域との交流も容易に
ネット社会の進歩で海外など遠い国や地域との交流も容易に なって来ている。
世界で起きている様々なことを学び、「共生」の思想、相互依存、
国際協力、国際援助などについて正しく知り、考え、行動でき る力を身につける(環境教育、情報教育、健康・福祉教育、平 和教育、人権教育等とも関連付けられる)。
5.グローバル教育 5.グローバル教育
(
( Global education Global education ) )
いわゆる「地球市民(global citizen)」としての素養/意識 を高めるための学習。
異文化を理解・尊重し、共生できるための知識、技能・能力、
価値観、態度を持ち、現代社会の諸問題(環境・人権・平 和・開発など)を平和的・民主的に解決できる人間の育成 和・開発など)を平和的・民主的に解決できる人間の育成
(平田(大分大学):2004年「21世紀を生き抜く市民性教 育」の定義より)。
地域(local)、国家(national)、地球(global)などといった 各レベルで意思決定し行動できる人間の育成。
前出1~4.をさらに知識/実践レベルで深め、推し進めて 行くことで学習を進められる。
6.人権教育 6.人権教育
(
(Human Human--rights education rights education) )
「人権」に関わる正しい理解と実践の学習。
国際レベルでの学習はもちろん、国内、あるいは日常的 なレベルでも関わりが深い。
扱いに十分な配慮が必要な場合も多く、学校現場で学
19
扱 に十分な配慮が必要な場合も多く、学校現場で学 習するには難しいケースもあるため、これまで国際理解 教育の中で扱われることが少なかった分野のひとつ。
いじめ問題や差別、青少年犯罪などとの関わりもある分 野なので、まず身近なレベルから始め、国際/国内等 各レベルとのバランスを保ちながら進めることが期待さ れる。
国際理解教育の構造
国際交流 グローバル教育
人権教育
20
異文化 理解教育 自文化
理解教育
コミュニ ケーション
能力
まとめ:国際理解教育の課題 まとめ:国際理解教育の課題
①異文化に対するステレオタイプではない認識をど のように持たせるのか。
②自文化への興味/関心と正しい知識の育成。
③英語教育≠国際理解教育という観点に立った方
21
③英語教育≠国際理解教育と う観点に立 た方 法論としての英語(言語)教育の見直し。
④市民レベルでの国際交流/協調の推進。
⑤「地球市民」を目指したグローバル教育の推進。
⑥広い意味での人権教育のさらなる推進。
Ⅲ.国際理解教育の カリキュラム開発
22
3-1.国際理解教育のカリキュラム開発
-学習領域の構造-
変えるのは私たち
(D未来への選択)
1.過去があって今がある(歴史認識)
2.私は社会の一員(市民意識)
3.私にも何かができる(参加・協力)
(大津:2006)
世界はいろいろ
(A 多文化社会)
1.違うけれど同じ
(文化理解)
2.違うからおもしろい
(文化交流)
3.違いとつきあう
(多文化共生)
みんなつながりあっている
(B グローバル社会)
1.つながりに気づく
(私たちと世界とのつながり)
2.あふれる情報の中で
(情報化)
私の安全、世界の平和
(C 地球的課題)
1.安全に暮らしたい(人権)
2.地球が危ない(環境)
3.暴力はいらない(平和)
4.みんながより安全に 暮らせるために(開発)
3-2.国際理解教育のカリキュラム開発
-実践的枠組-
キーワード
学習領域 1 2 3 4
A 多文化社会 文化理解 文化交流 多文化共生 -
(大津:2006)
B グローバル社会 相互依存 情報化 - -
C 地球的課題 人権 環境 平和 開発
D 未来への選択 歴史認識 市民意識 社会参加 -