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製品安全とCSR(企業の社会的責任) ∼思わずハッとする

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第34回講演会

製品安全とCSR(企業の社会的責任)

〜思わずハッとする、身近なところに潜む危険性〜

長 田 プロフィール

1974年、通商産業省繊維製品検査所入所、通商産業 省技術統括専門職、製品評価技術基盤機構(NITE)

の専門官、製品安全企画課長等を経て、現在、製品 安全センター参事官として製品安全に関する報道な どを担当。第39回(2009年度)日科技連信頼・保全 性シンポジウム チュートリアルセッションの特別 賞受賞。

著書 『欧州化学物質規制ハンドブック』NTS、2008 年(共著)

講演会スケッチ

第34回講演会は12月12日(土)、長田敏氏を講演者に「製品安全とCSR

(企業の社会的責任)」と題して行われた。

[1]最近、カセットこんろの爆発、自転車事故など製品安全が社会の 大きな関心事になっている。また、大量生産やグローバル化に伴って製 品事故のリスクが高まっている。しかし、企業への批判だけでは安全・

安心の質を高めていくことは難しい。

[2]製品安全の事故情報収集・分析を行っているNITEは、製品事故 のうち1/3は誤使用が原因と考えられるとして注意を喚起している。

100%安全な製品はありえず、潜在的な危険源はどうしても残る。しか し、誤使用を防止できれば製品事故は大幅に減少し、社会的損失も抑制 できる。

[3]講演会では、身近なところに潜む様々な製品事故の事例について、

ビデオや映像を使用しながら講演いただいた。企業倫理、製品安全等を 重視するCSR(企業の社会的責任)の活動、あわせて、市民としての誤

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使用の防止、これらが一体になって製品安全と市場の信頼という安全・

安心な社会が実現できることを指摘いただいた。

水尾 それでは定刻になりましたので、第34回の経済研究所の特別講演会 を開催いたします。わたしこと本日、司会進行を務めさせていただきます、

経済研究所所長の水尾でございます。よろしくお願いいたします。

本日は製品評価技術基盤機構、NITEといわれますけども、そちらの製 品安全センターの参事官の長田敏先生にお越しいただきまして、「製品安 全とCSR」ということで、企業の社会的責任について、「思わずハッとす る、身近なところに潜む危険性」ということで、これからご講義をいただ きます。

その前に、ご略歴を簡単にご紹介させていただきます。1974年に、前の 通産省の繊維製品検査所に入所されまして、その後、通産省の技術統括専 門職、そして製品安全、製品評価技術基盤機構の専門官等を経られまして、

現在そちらの参事官として、NITEの製品安全に関する報道などを担当さ れております。後ほどまたご紹介いただきますが、NHKの「クローズアッ プ現代」とか、あるいは「ニュースウォッチ9」とか、マスコミでは、何 か製品のトラブルがあると必ず出られるということで、本当に超有名な先 生でございます。現在は著書もございますし、『欧州化学物質規制ハンド ブック』とか、それから日科技連の信頼・安全性シンポジウム、チュート リアルセッションの特別賞も受賞されました。大阪市立大学、明治大学な どの非常勤講師、そしてお茶の水女子大と連携して行われている「知の市 場」社会人再教育講座の講師ということで、大変多方面にわたってご活躍 をされてらっしゃる先生でございます。

それでは長田先生、よろしくお願いいたします。

1.最近報道されたテレビニュース

長田 こんにちは。製品評価技術基盤機構の長田でございます。今日の講 44

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座の募集で、顔写真が張られていたので、「あれっ、どっかで見たことの あるやつ」と多分思われたのではないかと思います。ただ今、ご紹介あり ましたように、テレビニュース番組などに時々出ています。来週また出る と思います。「あいつだ」というのが分かるように、はじめに出演したテ レビ番組のご紹介をさせていただきます。

(テレビ番組)省略

長田 わたしども製品評価技術基盤機構は、身の回りに起こった事故を集 めて、その事故原因などを調査して社会に公表している機関です。

今日は、「皆さんにも知っていただきたいな」と思う話をまとめてお話 しすることにしました。製品安全と企業の社会的責任とは何かというお話 をしたいと思います。

2.事故情報収集制度とは?

身近なところに潜む危険。9月1日に消費者庁が発足しました。ご存じ のかた、手を挙げてください。7割のかたの手が挙がっています。食品の 問題であるとか、エレベーターの事故もニュース報道されます。皆さんが 扱っているパソコンとかテレビとか、いす、机、これは消費生活用品と呼 ばれています。このような製品でも事故が起きているんです。

皆さんがもし事故に遭われたときは、どこへ駆け込みますか。消費者セ ンターへ、行かれるかもしれない。製品から出火すると消防を呼んだりす ることがあります。警察が「これは犯罪ではないか」ということで、警察 が捜査したりするときもあるわけです。そういった事故情報は、すべて消 費者庁に集められます。また、重大事故は全部、消費者庁に集まる仕組み になっています。NITEに入るのは、非重大事故と呼ばれる事故です。

さあ、重大事故って何でしょうか。思いつきでもけっこうです。言って みてください。重大事故って何でしょうか。こんなのはきっと重大事故 じゃないか。

一つ言います。死亡事故です。家が燃えてしまいました。これが二つめ です。三つめ、一酸化炭素中毒の事故です。けがをして通院に30日以上か

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かってしまった事故、これも重大事故と呼ばれています。事故に遭って後 遺症が残ってしまった。例えば何かが倒れてきて頭を打って、むち打ちに なったとか。化学物質を吸ってしまったために、その日から体調がずっと おかしいとか。これを後遺症といいます。これらは重大事故と呼ばれてい て、すべて消費者庁に入ります。われわれには非重大事故が入ります。

消費者庁は、原因究明機関ではありません。原因を調べるのは、NITE になるわけです。NITEは、事故原因はすべて公表します。消費者庁も公 表します。皆さんご存じの経済産業省は消費者庁とNITEの間にあって、

事業者に対して改善措置をとらせます。製品の欠陥などによって事故が起 こった場合には、経済産業省は事業者の改善を行うことになっています。

NITEの組織というのは、北海道から九州まであります。この辺だった ら群馬県の北関東支所が近いと思います。もし事故に遭われたかたは、最 寄りの消費者生活センターに相談をしていただくと、その消費者生活セン ターから支所に「こういう事故がありました」と言って通知が行われる仕 組みになっています。NITEは事故原因の通知を受ければ、1件1件調査 をして社会に公表します。何でそんなことにしているかというと、同じよ うな事故に遭う人がたくさんいるので、二度とこういった事故が起きない ようにするために、公表しているわけです。

どれぐらいの事故を受け付けているかというと、19年度7,000件の事故 通知を受けました。去年、20年度で5,000件ほどの事故を受け付けていま す。19年度、なぜ7,000件も事故通知があったのかというと、19年5月か ら重大事故報告公表制度というのが始まり、死亡事故、通院に30日以上か かる事故、後遺症が残ってしまう事故、一酸化炭素中毒事故、これらは重 大事故として「事業者は知ったときから10日以内に経済産業省(21年9月 から消費者庁)に報告をする」制度になりましたので、19年度は非常に増 えたわけです。やや20年度は落ち着きました。21年度は4,000件強の件数 になると思います。

次のページにまいります。さて、製品事故には二とおりあります。どう いったものがあるか。まず、製品に起因する事故です。

製品に起因する事故とは、製品の欠陥や不具合で事故になってしまった 46

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というもの。何が多いかというと、平成20年度のところを見てください。

非重大事故で多いのはノートパソコン。「あんなものでも事故が起きる の?」と思うかもしれません。よく冬場になってくるとカイロを使うで しょう。これらで事故も起きています。それから、おふろの湯沸かしに使 う石油給湯器です。ACアダプターからでも事故が起きています。

重大事故というのがあります。家が燃えたり、死亡事故になったりする 事故だから、もっと大変です。これを見てみますと、電気こんろ、電子レ ンジ、扇風機、石油給湯器ふろがまといったもので起きています。

電気製品の事故がものすごく多いんです。もう1点あります。石油給湯 器など、つまり都市ガスとかLPガスとか、石油を使う製品に事故が多い。

電気製品と燃焼器具、つまりエネルギーを使う製品は非常に事故が多いと いうことが分かります。

先ほどは製品の欠陥とか不具合で事故が起こったということなんですが、

誤使用とか不注意による事故というのがあります。何が多いかというと、

第1位、ガスこんろ。第2位、石油ストーブ。毎年、ガスこんろと石油ス トーブの順位は変わりません。それから電気ストーブが第3位に入ってき ています。

これをまずご理解いただきたいと思います。つまり事故になりやすいの は、エネルギーを使う製品が非常に多いんだということを理解していただ きたいと思います。

3.どんな事故が発生しているか? 〜誤使用による事故〜

さて、どんな製品事故が起こっているか。まず、誤使用による事故です。

誤使用とは何でしょうか。物を作った事業者がいます。「こういう使い方 をしてほしい」と思って作っているんですが、実際は違う使い方をしてし まう。誤使用というのは、使用者の思い込み、「きっとこんな使い方する んだろう」、「昔はこうして使っていた」とか、そうやって適当に使うわけ です。安全装置が最近つけられているものがあります。「安全装置がつい ているから大丈夫だよね」といったのも、誤使用になるわけです。

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今までなかった製品が登場してきています。例えばわたし、ここに携帯 電話を持ってきました。これも、10年ほど前はなかったわけです。新しい 機能がついた製品というのも出てきているわけです。例えば、テレビで録 画機能を持ったものが最近あります。昔は録画機は別だったのに、一体に なってしまっているわけです。

こんな事故があります。平成20年の9月に東京都で高校の文化祭で起き ました。カセットこんろを使用していたところ、カセットこんろを搭載し ているカセットボンベが爆発して、15名がやけどを負いました。これを見 てみましょう。

2台とも火がついています。大きな鉄板が載っています。左が消えまし た。右はまだついています。左は安全装置がついていて、鉄板で覆われて いたため温度が上がりすぎたために止まったわけです。右側は火がついた まま、もう一方は止まらないのは、外気があるから、思ったほど温度が上 がらなかったわけです。温度が上がらない方は燃え続け、大きな鉄板に よって右側の熱が伝わって、消えたカセットボンベを温めてしまっていた わけです。こういう2台並べて使うことはしてはいけない、ということに なります。

それから次、これも見てみましょう。IHこんろで揚げ物調理した後、

残った少量の油を処分するために再加熱した。その場を離れたところ、油 が発火して、天井がすすで汚れて、手や顔にやけどを負った。死亡事故に ならなくてよかったですね。

(映像開始)

ナレーター この映像は、片手なべに少量の油を入れ、IHこんろにかけ たままその場を離れていたところ、炎が上がって台所の壁を焦がしたとい う事故情報に基づいて、再現実験を行ったものです。使ってはいけない、

底のくぼんだ片手なべを使用したため、中央部の温度センサーが正常に働 かず、約100gという少量の油を入れて強火で加熱したところ、約1分を 過ぎると煙が立ち昇り、約2分で油の温度は350度を超えました。

(映像終了)

長田 この中でIHこんろを使っている人いますか。約10名のかたの手が 48

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挙がりました。

IHこんろは火を使わない。電気で温めることができ、あっという間に 温まり便利です。しかも安全装置がついています。ガラスのフラットな板 があるんですが、その下に温度センサーがついています。磁力発生コイル に電気を流すとあったまるわけですね、熱が発生して。センサーは、鍋底 を必ず測っていて、200度ぐらいになったら、それ以上は上がらないよう にしてくれるんです。天ぷらを揚げる場合には非常に安全です。しかし

「その場を離れても平気だ」というわけではありません。

底がへこんだなべを使った場合どうなるかというと、温度センサーで天 ぷらオイルの温度を測ることはできません。なぜなら、ここに空気が入っ てしまっているからです。専用のなべを使わない場合は、火災になってし まいます。

一番大事なのはその場を離れないこと。幾ら安全装置がついているから と言って、離れてはいけません。安全装置というのは、万が一に備えて安 全装置が働くようになっているわけで、その場を離れることを推奨してい るわけではありません。

こういうことがありました。洗濯機による事故ですが、洗濯機で自動車 カバーを洗っていたら、ドーンと大きな音がした。水が流れる音で異常に 気がつき洗濯機を見ると、場所が移動して、本体は変形、破損しており、

プラスチックの破片やねじが壁に突き刺さっていた。見てみましょう。

(映像開始)

ナレーター この映像は、防水性のある自転車カバーを洗濯したところ、

大きな音とともに全自動洗濯機が壊れたという事故の再現テストです。そ の結果、脱水中に防水性の自転車カバーの中にたまった水が抜けたとき、

洗濯機のバランスが崩れ、激しく振動、転倒したものです。

(映像終了)

長田 洗濯機で自転車カバーや自動車カバーは絶対洗ってはだめです。そ れから雨がっぱも、脱水しても水が抜けにくく抜けたときに、間違いなく その洗濯機が倒れます。しかも壁があったら壁を壊します。人身事故には ならないと思いますが、洗濯機が壊れてしまいます。防水性のシートは、

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洗い・すすぎ・脱水をしてはいけないということが経験で分かっていて、

警告表示が行われています。これは気をつけてください。

水槽の事故というのがあります。この中で、熱帯魚とか金魚を飼ってお られるかた、いますか。手を挙げてみてください。6、7人のかたの手が 挙がりました。これは夏休みの学校で起こった事故なんですが、木造2階 建て学校の教室から出火して、壁と床12平米を焼いた。19年の1月に起 こっています。さて、なぜ起こったのか、見てみましょう。

学校などで水槽を放置しておくと水が減ってきます。水槽の水が減って きたときに、ヒーターが加熱されすぎて、照明器具に火が燃え移り、火が 大きくなります。プラスチックが燃えて、落ちるので床が燃えやすいもの ですと、家が火災になってしまいます。

事故を防ぐには水を補充してればよかったんだけど、冬休みになると学 校などは1週間、2週間ぐらい、だれもいない状態になるわけですね。そ うすると水槽の中の水が蒸発することによって、ヒーターがむき出しにな るためヒーターが加熱されすぎて、火災になるわけです。

こういう場合があります。これも木造2階建て住宅の2階、水槽付近か ら出火です。ここにテーブルタップがあります。

テーブルタップは水槽用に必ず買っていると思います。照明器具とか ヒーターとかポンプとか、それからウオータークーラーまでつなぐとなる と、テーブルタップがないと繋ぐことはできません。ここで気をつけなけ ればならないことは、水を替えるときに、水をこぼしてしまうというとき があるということです。しばらくたって煙が出始めます。煙が出るだけで はありません。火がつきました。これで家が燃えたりするわけです。

水槽は、水槽の周りに電気製品がたくさん集まっています。水とか空だ きには注意する必要があります。水はこぼしたということを自覚してれば よいのですが、自覚してない場合にそのまま買い物に出ると、家が火事に なりますので、気をつけていただきたいと思います。

今テーブルタップのお話をしたんですが、こういうことがありました。

東京都目黒区のマンションで、5階の一戸が全焼して2人が死亡しました。

これは、たこ足配線していたことが原因ではないかといわれています。こ 50

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れはわれわれも今、調査をしております。

たこ足は正にこんな状態です。ここにテーブルタップがあり、ポット、

テレビ、たこ焼き器、扇風機が繋がった状態、これをたこ足配線といいま す。決してたこ足配線は、誤使用ではありません。問題なのは、消費電力 は幾らのものをつないでいるかと、合計値が幾らかということです。テー ブルタップの裏に消費電力、最大1,500ワットと表示されておれば、1,500 ワットを超えてはいけません。例えばたこ焼き器、1台で500ワットぐら いあります。これを3台つなぐと、消費電力は1,500ワットになります。

これを超えてつなぐと、いよいよ火災の危険があります。

(映像開始)

ナレーター これは電源コードを束ねて使用すると、熱がこもりやすくな り、その結果、コードの被覆が溶けてショートし、発火するようすが確認 されました。これも同じく電源コードを巻きつけておくもので、大きな電 気容量の製品を使用した場合、発火する危険があることが分かりました。

また、机の脚などの重いものを乗せたとき、映像のように断線したコード から発火することがあります。

(映像終了)

長田 これからのシーズン、皆さんの中には湯たんぽを使われる方がおら れると思います。湯たんぽはブリキでできています。これは、IHこんろ とかガスこんろで直接温めてもかまわないことになっています。ところが、

ここにふたがついています。これを閉めたまま温めてしまうときがありま す。さて、どうなるか。

爆発力はとても大きいので、おりの中に入れて実験をしています。そう しないと周辺が破壊されます。加熱すると、だんだん湯たんぽが大きくな り爆発します。わたしたちも実験してみて、湯たんぽが爆発したときの破 壊力がこんなに大きいものとは思いませんでした。

ただし、人身事故は起きにくいんです。なぜか分かりますか? ふたを 閉めたまま加熱していくと湯たんぽ自身がだんだん膨らむのが見えるので、

普通は気がついて止めます。だから人のいないところで起こりますので、

人身事故にはなりにくいんです。爆発すると、こうして部屋が破壊されま 51

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す。台所で爆発が起こると食器棚の中に入っていたものがすべて割れてし まうことになると思います。

同じ湯たんぽなんですが、最近ブリキで作った湯たんぽではなくて、こ ういう樹脂で作られた湯たんぽが売られています。電子レンジで温めるこ とによって使える湯たんぽなんです。本体表示に「600ワットで6分間、

加熱してください」と書いてありますが、これをもし時間を守らずに電子 レンジで温めるとどんなことになるでしょうか。

(映像開始)

ナレーター この映像は、電子レンジで加熱して使用する湯たんぽの容器 が、加熱中または加熱後に破裂し、中に入っていた高温の蓄熱材でやけど をした事故に基づいて、再現を行ったものです。

テレビ局員 もういつ破裂してもおかしくなさそうです。今ちょうど6分 たちました。もうボールのようになっています。湯たんぽがもう湯たんぽ じゃない形ですね。ボールのようになっています。ああ、もう、もう、も う割れてしまいそう。もうだめ。6分半たちました。もう6分半過ぎたあ たりから容器は大きく膨れ上がり、破裂しました。

(映像終了)

長田 湯たんぽにはもう一つ問題があります。低温やけどを起こします。

ちょうど触ったときに、44度、47度ぐらいでしょうか。恐らくバスタオル でくるんだりしているはずです。これをかりに46度で、ずっと足が当たっ ていたとします。本人は熟睡したとします。1時間半ぐらいで低温やけど を引き起こします。

湯たんぽの正しい使い方は、布団の中があったまったら、ぜひ足でけり 出してください。わたしも子供のときはそうしました。お酒を飲んだり、

睡眠薬をのんだりした場合、熟睡してしまいます。このような場合には熟 睡する前に、湯たんぽであったまったと思ったら、布団の外にほうり出し ておくこと。

それから、自転車に傘をぶら下げていて事故になったというケースが多 発しています。

燃えるペンキというのがあります。ペンキには普通シンナーが入ってい 52

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て、それが普通のペンキだと思われているんですが、植物油を使ったもの が本来のペンキだそうです。ペンキ顔料が溶かし込んである。その中に 入っている油が酸化することによって、塗ったものが固着するわけです。

シンナーが揮発して、塗ったものが固着するペンキは、これは後世に生み 出されたものです。シンナーのにおいのないものが本来のペンキです。

ところが、一つ問題があります。これを部屋じゅうに塗ったときには、

塗り損じたところをウェスなどでふき取ると思います。それをビニール袋 に詰め込んでいくとビニール袋いっぱいになります。これを放置しておく と、火災になります。

(映像開始)

ナレーター この映像は、天然植物油を使用した塗料をふき取った布から 自然発火した事故に基づき、再現確認をしたときのものです。塗料が空気 に接触した際に出る熱により、約60時間後に布が自然発火しました。

(映像終了)

長田 2月ごろに大工さんから、「ペンキを使って色を塗ったんだけど、

家が燃えたんだよね」と電話がかかってきました。2月ごろに塗るのは虫 がいないからだそうです。「それって、燃えるって書いていませんでし た?」「書いてありました。」皆さんは、なぜ、家が燃えたのかもうわかり ますね。

4.どんな事故が発生しているか? 〜欠陥・不具合によ る事故〜

今まで誤使用の話をしましたが、欠陥・不具合による事故も発生してお ります。幾つか有名な事故をご紹介します。

これは皆さん、ごらんになったことあるでしょう。平成17年の12月ぐら いから、ある事業者が「わたしたちはこの製品を探しています」といって、

テレビ報道していました。これはFF式の石油温風暖房機で、外気を取り 入れて中で温風を起こし、燃やしたあとの排気ガスは外にほうり出すよう になっています。

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事故が起こった原因ですが、二つのエアホースがあります。一次エア ホースでエアを送って灯油を燃やします。二次エアホースは外気を炎にか けて、完全燃焼させています。排気ガスは外に放出されるので窓を開けな くても安全な製品であるはずでした。ところが二次エアホースに亀裂(き れつ)が入ってしまいました。亀裂が入った原因は、空気中の酸素、オゾ ンなどによりゴムが酸化したためです。

皆さん、輪ゴムで何かをくくってしばらく置いておくと、大体1年ぐら いするとボロボロになるでしょう。ところが、箱にしまったままの輪ゴム は、何の変化もありません。つまりゴムは、伸ばした状態(ストレスがか かった状態)で使うと非常に劣化が早いのです。二次エアホースは、S字 型にくねった状態でつけられていました。ここに亀裂が入っています。ゴ ムは屈曲させた状態で、ストレスがかかった状態にして使うと亀裂が入り やすい。輪ゴムと同じです。

これはある社の湯沸器です。皆さんが家庭で使っている湯沸器よりはや や大きめです。これは窓を開けなくても大丈夫なようにファンがついてい ます。普通の湯沸器には、ACコンセントはついてないはずですが、ACコ ンセントから電気の力でファンを回すわけです。しかし事故が起きました。

安全装置の部品のハンダに亀裂が入り、はんだ割れを起こしました。この ため安全装置が働かなくなったわけです。

さて、安全装置は何のためについているか。ACコンセントを抜いてい るときには着火できないようにするための安全装置だったんです。ところ が、安全装置が壊れ、ACコンセントにつないであっても着火できなく なったので、修理屋さんを呼んだわけです。修理屋さんはACコンセント を抜いても(ファンが回らなくても)湯沸器は着火するように修理してし まったために死亡者が21名出ました。

これは裁判になっています。経済省自身も「この湯沸器は簡単に安全装 置が改造できてしまう。したがって欠陥であります」とまで言ったわけで す。事業者は「修理屋さんがやったことであり、われわれは関係ありませ ん」と言っていたんですが、さて、企業の責任は、そんなことでいいもの でしょうか。

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それからシュレッダーの事故。子供が事故に遭っています。子供が誤っ てシュレッダーに両手の指を巻き込まれて、指9本切断しました。シュ レッダーの事業者は、家庭用のシュレッダーは数千円で売られています。

一方、業務用のシュレッダーは数万円するわけです。したがって「数千円 で作る家庭用のシュレッダーに、安全対策を行うことはできない」とまで 言っていました。

ところが、左の図面と右の図面、比べてもらうと分かるんですが、紙の 投入口を非常に細くして、カッターまでの距離を非常に長く取ったわけで す。したがって、まず子供の指が入ろうとしても入りません。さらに、子 供は無理やり紙の投入口に手を突っ込むわけです。そうすると、幾ら細く ても子供の指は入ってしまうので、紙の投入口の裏側にリブをつけ、たわ まない構造にしたんです。これだけの改善で、子供達は被害に遭わなくて 済むわけです。

デスクマットは皆さんの家庭でも使われているかもしれません。デスク マットを使っていたかたが、次々皮膚障害を起こしたわけです。デスク マットは夏場使うと汗ばむ。デスクマットの表面が汗ばんで乾いたものを 何回も繰り返し使っていると、かびが生えることもある。したがって事業 者の考えたことは、表面に抗菌加工をしました。抗菌加工によって製品を 使った人が、次々アレルギー皮膚障害を起こしてしまいました。既に原因 となった物質も特定されています。被害者のかたに、われわれが製品から 取り出した何種類かの物質を被害者につけることによって赤く発症するの で、物質が特定されました。事業者はこの製品を回収をしております。

それから扇風機なんですが、1970年ごろの扇風機は、今でも使われてい ます。皆さんの家にもあるかもしれない。扇風機を使っていてこんな事故 が起きました。就寝中に扇風機から出火して、2人が煙を吸うなどして死 亡したのです。これが問題になった扇風機です。

事故原因はファンを回すためにコンデンサーという部品が入っているの ですが、コンデンサーが30年も使っていると、電気を通してはならないと ころに電気を通すようになり、コンデンサーが熱くなり壊れて割れます。

コンデンサーが割れると、その中に入っているものが燃えます。火がプラ 55

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スチックカバーに燃え移って、床に布団とか敷いてあると、家が火災にな るわけです。

モーターのカバーをプラスチックで作ってなければよかったんでしょう ね、30年以上経過してから事故が起きるわけです。

5.安全とは何か

今日は誤使用の事故と製品の欠陥等による事故を見ていただいたんです が、「安全なほうがいいよな」と皆さん思われたでしょう。安全とは何で しょうか。皆さんにぜひ「安全とはこういうことだ」と言えるようになっ て帰っていただきたいと思います。

安全という言葉を『広辞苑』で引いてみました。『広辞苑』が皆さんの 家にあれば、帰って調べてみてください。第6版の場合は、「危険がなく 安心なこと」と書いてあります。「傷病などの生命にかかわる心配、物の 盗難・破損などの心配がないこと」。つまり、全く危険性がないことなん です。日本の安全というのは、危険があるかないかが判断基準となってい ます。

ところが、先ほど製品事故を見てもらいましたが、絶対安全はないので す。どんなものでも事故を起こします。皆さんが今、みている資料は紙で できています。それをめくってみているうちに、手を切るかたが中にはい ます。紙にライターで火をつけると燃えます。わたしのためにペットボト ルを用意していただいていますが、飲みさしのペットボトルを置いて、1 か月後だれかが飲んだとしたら、食中毒を起こすかもしれない。つまり、

どんなものでも絶対安全はありません。絶対安全な製品は、神話です。

「絶対安全な製品を作るんだ」と言って、もし企業が努力したとしたら、

大変な努力をすることになります。しかし実現することはできないでしょ う。

皆さんは、製品というのは絶対安全はない、それも考えながら安全な使 い方をする。それによって安全というのは保たれるはずです。

国際的に安全はどのように決まっているのでしょうか。ISOと、IECと 56

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いう機関が一緒になって、ISO/IECガイド51を出しました。「物は潰(つ ぶ)れ、人は間違える」。「物は潰れ」とは、扇風機が燃えたのは物が潰れ たわけです。潰れてファンが回らなくなったのなら問題はないのですが。

誤使用には二とおりあります。わざとやる誤使用と、人間のエラーによる ものです。

「自転車のかぎをかけ忘れた」とか、「家のかぎを閉め忘れてきた」とか、

皆さんあるでしょう。これは、人間はエラーをする動物だから忘れたわけ です。子供に自転車のかぎを閉め忘れたことをしかったら、自分の自転車 がかぎを閉め忘れたために盗まれる。要は人間はエラーをするものなので す。

安全は、ISO/IECガイド51によれば、「リスクを許容可能なレベルまで 低減させることで達成される」とされています。

「安全な製品は、社会において現時点で受け入れられるレベルのリスク に低減されたものである」。企業はリスクを評価して、社会的に許容され るレベルまで下げておけばいいわけです。ある程度のリスクは残ります。

ゼロリスクというのは絶対ありません。これが国際的に決められている安 全です。

欧州も米国も、危険性ゼロではなくて、リスクベースの考え方をしてい ます。つまり、リスクを社会において受け入れられるレベルまで下げた製 品を流通させることで許容しています。

リスクというのは、「危害の発生確率と危害のひどさの組み合わせ」と、

ISO/IECガイド51で決まっています。つまり危害の発生確率は何万分の 1の割合で、事故は起きます。死亡、重傷、軽傷事故が発生したり、健康 被害が起きたりします。危害のひどさというのはこういうものです。リス クは、接触の度合い、頻度とか時間、それから逃げることができるかと いったようなことで決まります。

今ここにライオンがいます。ライオンが、調教師のような人がいて、首 を突っ込んでいますが、かまれていません。本当はライオンは危険なはず ですが、ライオンは調教されているので事故にはなりません、しかし、ラ イオンに1週間ぐらいえさを与えてなかったとすると、いつも顔なじみの

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調教師でも首を突っ込んだら、多分食われるでしょう。事故というのはそ うして起きるわけです。

自動車の例を考えてみましょう。自動車というのは、危険な製品です。

自動車は、シートベルトをはめることによって許容されています。自動車 の後ろに子供を乗せるときは、子供用の座席を載せるはずです。それに よって「子供も乗せていい乗り物だ」となっているわけです。

例えば単車ですね、オートバイ。これはヘルメットをかぶることになっ ています。これをはめることによって幾分、事故に遭っても助かる人がい る。それで単車は走ることができる。社会的にも許容されているわけです。

危険なものだからと言って、それらは全部使えないようにしよう、とい うことになっていません。危険なものというのは、安全装置などでリスク を低減することによって使われているものが多数あります。中には安全装 置が全くない製品もあるわけです。

絶対危険なものもあり、これはもう売ってはいけません。端的にいうと 麻薬。売っても、のんでも、人が持っていてもだめです。麻薬をのんでも 大丈夫な人がいても社会は許してくれません。即、警察が逮捕することに なります。

ダイナマイトは、一般には流通していません。工事現場では使っていい ことになっています。しかし持ち歩いてはいけません。

このように、危険なものでも安全装置をつけることによって、社会に流 通しているものもあれば、絶対だめだといわれているものもあるわけです。

先ほど日本は絶対安全の国であることを説明しましたが、自動車の事故 を見てみましょう。平成19年度、自動車の事故で年間5,700人死亡してい ます。それから83万人が事故に遭っています。負傷者数は103万人。これ が自動車事故の現実です。

今日、もしある事業者が自動車を発明して販売したとする。1週間後に は、ただちにリコールになるだろうといわれています。ところがリコール になっていません。自動車は日本ではこれまで100年以上走っているわけ です。交通事故というのは起きるものだと、みんな思っているわけです。

5,700人の人が死亡する自動車であっても、自動車の有用性から社会的に 58

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許容されるものになってしまっています。日本は絶対安全の国なのに何故 こうなったのでしょうか。

1つはテレビ報道、新聞報道で許容されるようになったのだと思います。

交通事故報道を子供のころからみんな見てきたわけです。したがって「ま た起こったの。仕方ないよね、自動車は便利だ」。つまり有用性が非常に 高いものであったことから、いつのまにか許容されて、リコールになって はいないわけです。

5,700人の人は、誤使用・不注意の事故で亡くなっています。「信号を見 落とした」とか、「前の車に当たらないようにブレーキ踏んだんだけど、

ぶつかった」とか、「横を走っている自転車に気がつかなかった」などで す。先ほどの、誤使用・不注意の事故です。誤使用・不注意の事故といえ ども、これだけ事故を起こす製品は、普通ならリコールです。

それから包丁というものがあります。鋭利な部分がむき出しの状態です。

毎日調理で使っているはず。これで殺人事件も起きるわけです。自殺する 人もいる。そこで、包丁を今日、「安全な包丁を作りました。全く切れな い包丁であれば、皆さんが安心して使っていただけます」と言って販売し たら、「こんな包丁、使えるかよ。リコールだ」、そんな包丁はリコールに なるわけです。包丁は危険性明白で、みんな危険性を知っています。包丁 も社会的に許容されているわけです。

一方、玩具はどうでしょうか。玩具は少しでも切れる部分があったらだ めです。子供がけがするだけで大騒ぎになります。包丁と全く逆です。玩 具は少しでも突き出たものがあるとリコールになります。

こんにゃくゼリーについては皆さん、どう思いますか。もっと分かりや すい話をしましょう。あめ玉は? あめ玉で死亡する人がいます。ニュー スにすらなりません。「80歳のおじいちゃんが、あめ玉のみ込んだら亡く なったそうだ。」あめ玉で死亡しても許容されています。こんにゃくゼリー はなぜ許容されないのでしょう。これまで8名の死亡者がでてるといわれ ています。今は警告表示も十分に行われています。

許容されている製品とは一体何でしょうか。今日は皆さん帰って、考え ていただいて、ぜひ子供さんらと議論していただければいいと思います。

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こんにゃくゼリーの話は多分、二とおりの答えに分かれます。もちは毎年、

たくさんの人が亡くなっています。食パンでも、人が亡くなっているわけ です。どう考えたらいいんでしょう。死亡する人がいたとしても、長年か けて許容されるようになってきたとみるべきと考えられます。

火、熱、水、電気を使うものは危険性が高いと見ます。ただし、こうい う火、熱、水、電気、圧力、こういうものを使っている製品は絶対危険だ ということではありません。危険な部分があったとしても、人がいないと 事故にはなりません。先ほどライオンの中に頭を突っ込んでいる調教師の 絵がありましたが、必ずしも危険ではありません。

火があっても人が存在しなければ、リスクは発生しません。人が近くに いるとリスクが発生します。さくがなかったらリスクが発生します。火か ら人を遠ざけることでリスクの低減が可能となります。子供をもっと遠ざ ければ安全であることになるわけです。

6.安全を巡る歴史的経緯

やや、難しい話になります。安全をめぐる歴史的な経緯をお話しします。

CSRの話に入っていきます。

1972年に、ローベンス報告というのが出されています。イギリスで、工 場に勤める人の事故が減りませんでした。当時の政権から、「工場で勤め ている多くの人が亡くなる。どうしたらいいか」ということをローベンス さんに求めた。その結果、ローベンス報告がだされました。

イギリスは、たくさんの業種ごとに事故を減らすために法律が定められ ていたそうです。ローベンスさんの書いた報告書には、法律が細分化され て煩雑であること。事故が起こったときに、その部分だけしか改善してな い。(これをパッチワーク規制という。)プレス機でけがをしたら、プレス 機に関することだけを改善するわけです。これでは事故は減りません。い ろんな業種があれば、どの法律にどれも合致しない、すき間問題が発生し ます。

国がすべて決めたことだけを守るというのではなくて、民間で工場を勤 60

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めている人に、どうしたら事故が減るかということを考えさせなければい けません。そうすることによって、事故がものすごく減ったそうです。

欧州という国は、30か国の国からでき上がっています。通貨が統一され ています。なぜそうしたかというと、ヨーロッパ圏を一つの経済圏のよう にして、アメリカとか日本との競争に打ち勝つためです。

欧州は30か国統一するときに、ニューアプローチ決議というのをやりま した。そのときにやったことは、欧州では、国は安全であることしか決め ません。あとは民間の人たちに考えてもらいましょう。技術性の基準は民 間に考えさせ、必須最低ラインの基準から最高水準の基準とします。

フランス、ドイツ、イギリスは、みんな法律が違う。統一するには、国 は必須要求事項だけ決め、欧州域内を流通させる製品は、安全であること だけ決めましょう。あとは民間の人たちに頑張ってもらいましょう。さら に、技術上の基準は最高水準のものにしましょうということです。これは 欧州が生み出した、欧州の発明だと思っております。

先ほど出てきたISO/IECガイド51ですが、これは国際規格です。国連 も採用している規格です。ISO(国際標準化機構)とIEC(国際電気標準 会議)が一緒になって、ISO/IECガイド51を出しました。人間は高い能 力を有するにもかかわらず、忘れる・気づかない・勘違いをする動物であ る。これを専門用語でヒューマンエラーといいます。人間はエラーをする 動物である。機械も必ず故障する。人間に規則を守らせる対応だけでは、

安全を確保することは限界がある。

「あゝ野麦峠」というのが昔、映画でありました。野麦峠の時代は女工 さんがけがをすると、みんなに謝り、辞めさせられたわけです。

だけど、今考えるとおかしいですね。人間ってエラーする動物で、機械 を一生懸命使って、あるときミスをしてけがをする。手を切断したりする わけです。ISO/IECガイドでは、そんなものだ。だから「事業者がもし その製品を設計するならば、その人たちが通常使うことを全部予見して安 全対策を講ずるべきである」ということを、ISO/IECガイド51に決めて あります。

規格に安全側面を入れるとしたら、事業者は合理的に予見可能な誤使用 61

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については対応しなければなりません。それからスリーステップメソッド を導入しなければなりません。

7.安全設計とは

皆さんが製品を使って、火が燃えたり、けがをしたりすることがありま す。事業者に、まず文句をいいます。「特別変わった使い方をしたつもり はありません」、「事業者は、その程度のことは考慮に入れて作ってもらわ ないと困ります」、こんな電話が突然かかってきます。事業者は「まさか そんな使い方するとは」、事業者と皆さんとのやり取りはこうなるはずで す。これが1週間ぐらい続きます。納得できなかったらまた電話すること になるわけです。事業者が想定した製品の使い方と、実際に使われている 使い方というのは、ギャップがあるわけです。

ギャップがあるのは、事業者と消費者の知識や情報の差や、事業者が、

消費者がどんな使いかたをするのか調べてなかったからだと考えられます。

人間が製品を使って事故を起こす。物の使い方というのは三とおりしか ないといわれています。一つめの使い方、正常使用。皆さんが普通してい る使い方。それから誤使用というのがあります。例えば洗濯機の脱水槽が 回っているのに、そこから洗濯物を直接取り出す。時々、指を切断する人 がいます。これを誤使用といいます。それからもう一つ、非常識な使用と いうのがある。物の使い方は三つしかありません。

四つめがあると思う人いますか。いませんね。

非常識な使用とは何でしょう。思いつくまま言っていただけませんか。

非常識な使用って、なんでしょうか。

よく言われていたのが、レンジの中に洗った猫を入れて乾かすという話 があります。あるかたは「車で海を渡る」と言っていました。

非常識な使用方法は、飲酒運転をして、車を運転して人をひき殺す。ナ イフで人を刺し殺す。麻薬をのむ、売る、所持する。シンナーを吸うとい うのはどう思いますか。非常識な使用かどうかは人によって分かれるもの もあると思います。

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非常識な使用というのを除くと、事業者が対応しなければいけません。

予見可能な誤使用を見積もったうえで安全な製品を作らなくてはならない、

ということです。事業者の責任として安全設計を行う必要があります。今 日のCSRです。

製造物責任の欠陥には三とおりあります。一つは、悪い部品が混入して いた場合、「製造上の欠陥」といいます。それからもう一つ、作ったもの が全部問題がある場合、同じ共通の部品が使われていると「設計上の欠陥」

といいます。警告表示をしてなかったら「指示・警告上の欠陥」といいま す。いずれもこの欠陥で事故を起こした場合は、裁判所に被害者は事業者 を訴えるわけです。「設計上の欠陥だ」と、「この製品は共通の部品が使わ れていたために、わたしの家が焼けた。火災になった原因はこの部品の欠 陥よるものだ」ということを立証すれば、製造物責任法で勝てるわけです。

製品を作ろうとしたら、事業者は活動の一環として取り組むべきものが あります。それはリスクアセスメントです。製品の安全設計をするにはリ スクアセスメントしなければいけません。リスクアセスメントという言葉 を覚えてください。

製品を設計しようとしたら、合理的予見可能な使用(だれもがやりそう なことを)みんな洗い出す必要があります。どこに危険があるか、その危 険なところを特定し、どういうことが起こるか見積もらなければなりませ ん。つまり死亡事故が起こるのか、けがだけで済むのか、家が焼けたりし ないか、そんなリスクの見積もりをしなさい。あと発生確率、どのぐらい の割合で起こるかについて見積もりをしなければなりません。見積もりが あまりにも高いものは製造をやめなければいけません。製造するには、リ スクを低減しなければいけません。

これを見てみましょう。先ほどのライオンの絵とかを思い浮かべながら、

この話を聞いていただければいいと思います。リスクを低減しようとした ら、被害や損害の大きさを下げればいいということになります。そのとき に、危険なものは取り除け、危険なものは遠くに持っていけ。例えば、東 京都の真ん中に原子力発電所を造る人はいません。どっか田舎に造るのは、

危険なものは除去せよということからです。しかし、田舎の人は大反対す 63

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るわけです。「これは、どっか離れ島にしてよ」とかなるわけです。

ハザードを低減する。例えば、やけどをする100度のものがあるんだっ たら、40度ぐらいにせよということです。これからストーブが売られます が、ストーブでやけどする可能性がある。「今年の冬は、温まらないス トーブを発売します」。そんなストーブを売ろうとしても売れません。し たがって、このハザードの低減というのは限界があります。

ハザードを隔離せよ。危険なものはおりの中に入れてしまえ。遠くへ 持っていってしまえ。隔離しているものの例には駅構内の電源施設は、鉄 格子の中に入っています。

このハザードを除去する、隔離するということでいえば、エアコン室外 機は、外に置いてある。エアコン室外機は音がうるさく、危険性もあるか ら外に置くわけです。

人間の行動を制約することは、安全対策になります。誤使用と呼ばれる ものには、わざとやる誤使用とヒューマンエラーがあります。これは、意 図した誤使用、意図しない誤使用とも呼ばれています。

例えば、赤信号を見落として交通事故を起こす場合はヒューマンエラー による場合があります。本人は一生懸命見ていても、「赤信号を見落とし、

車にぶつかる」ことがある。一方、スピード違反は、意図していると考え られます。150キロで運転することは、意図しておりヒューマンエラーで はありません。それぞれリスクを下げる方法が異なります。

例えば、いたずらの好きな子供が、高速道路で車の後ろの扉を開けて車 から転落して死亡しました。チャイルド・プルーフの一例は、後ろのドア が開かないようにロックをかけることをいいます。

ゲーム機で、星形のドライバーがないと開かないようになっているもの があります。タンパー・プルーフといい、素人改造をさせないようにして います。

この会場で火災が起こったら、必ず水が噴出し、ブレーカーが機能しま す。これをフェイル・セーフといいます。フェイル・セーフというのは、

異常事態になったら機能する安全設計のことです。これをフェイル・セー フと呼びます。よく新聞等でも使われている言葉です。「人間の行動には

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必ずしも関係なく、異常事態になったら機能するヒューズとかブレーカー のようなもの」と理解してください。

8.組織のあり方

今日はCSRがテーマなので、組織の在り方を最後にお話ししたいと思い ます。

特に製品の欠陥の事故、不具合の事故が多発してリコールをする場合な ど、社長が説明する光景をテレビなどで見かけます。

製品の事故を防止するということに関していえば、経営トップが「消費 者の生命・身体に対する危害の防止は、最も基本的かつ重要な課題であ る」ということを強く認識しなければいけません。「部長に安全対策を任 せています」という事業者は問題があると言えます。経営トップが「わが 社は安全を第一にしようじゃないか」と言わなければなりません。部長に 考えてもらうという考え方は持つべきではありません。

経営者は組織全体の製品安全に対する姿勢を明確にすること。理念・哲 学が、組織の文化・風土として定着するように努めなければいけません。

これは企業の責任だと考えた方がよいと思います。社是にまとめて、社会 にも社是をインターネットなどで公開する。社是は「1回作ったらもう、

200年変えないぞ」と思うぐらいのつもりで作るもので、国でいえば、憲 法のようなものです。「事故が起きれば社会にただちに公表する」、「行政 機関にもただちに伝える」と、そんな事業者にならなければいけません。

それから日本では事故が発生すると、警察が捜査することがあります。

また、会社の中でも責任を誰にとらせるかを優先することがあります。や はり、事故が起きた原因究明が優先されるべきで、改善が行なわなければ、

同じ事故が起きます。だれかのせいにして、辞めさせたら終わりというの では解決にはなりません。

あと大事な話なんですが、研修はきちんとやらなければいけません。事 故が起きたりする。そのときに何回も反省文を書かせたりしてはいけませ ん。

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それから責任を取らせて会社の部長を首にする、これも必ずしもよくあ りません。その理由は事故隠しが起こることがあるからです。これが会社 の前例となった場合、次に同じようなことが起こったら、ある部門の人は 口を閉ざすことになるでしょう。

最近、いろんな事業者がしている活動を拝見させていただくと、こうい うことがあります。最近、企業も変わったなと思うこと。まず正社員、そ れから非常勤、人材派遣、いろんな働く立場の人がいます。人材派遣は他 の会社の人です。もし会社に勤めているとしたら。この会社の人たちも、

大事にしてください。「たまには一緒にお酒を飲みましょう」、「あなたが いないと、困る」と、みんな同じ会社仲間だという意識を持ってください。

消費者相談窓口に入った情報というのは、設計とか開発の部門に、ク レームがただちに伝わる環境にしていく必要があります。売れればいいの だという考え方は捨てたほうがいいです。電話かけてくるかたはクレー マーと思うな。クレーマーも大事なお客さんだと思え。話を聴く姿勢が必 要です。そうすると相手も「この人がやっと話を聴いてくれた」。電話の 会話で怒っていても、だんだん声のトーンが下がってきます。「やっとわ たしの話を聴いてくれた。」と言われ、意外と解決に早く結びつくときが あります。話をちゃんと聴けということです。場合によっては製品の改善 に結びつけるかもしれません。

事故が起こったら、必ずその事故が起こった記録は全部残しておきま しょう。20年、何もなかったからといって記録を捨てることはやめてくだ さい。これは会社の財産です。残す必要があります。次の世代にも残して おかないと、また再び事故が起きます。

ある会社に行ったら、「以前、問題になった製品を入り口に展示するこ とにしました。社員と顧客に見てもらっている」。「事故を二度と起こした くないので、入り口に置いている」という会社がありました。

今後、事業者が行うべき取り組みは、リスクアセスメントを導入し、ど こに危険性があるか、新製品を作るときは必ず全部、問題点を洗い出すと いうことです。事故は風化させずに世代が替わっても受け継がれる組織に することです。

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わたしは、ジョンソン・エンド・ジョンソンのホームページを見ていま して、こういうのを見付けました。この会社は素晴らしい会社だと思います。

1982年に、一般大衆向けの主力商品である鎮痛薬、タイレノールを服用 したシカゴの7名の消費者が死亡しました。この会社の執った行動ですが、

経営トップが消費者の安全、拡大被害防止を最優先することを確認しまし た。この会社の執った行動で感心させられるのは、マスコミを使った、当 時としては最大限とも思える積極的な情報公開を決定。衛星放送を使って 30都 市 に わ た る 同 時 放 送、専 用 フ リ ー ダ イ ア ル の 設 置。11日 間 で、

136,000件の電話応対をしたことです。この136,000件の電話応対を11日間 で執ろうとしたら、恐らくここに集まっているかたぐらいの人数が要ると 思います。

さらに新聞の一面広告をしました。1982年のことです。普通なら、ス キャンダルの話であれば、新聞社とかテレビ放送局がみんな集まってきて 記者会見すれば、それでニュースになり無料で行うことができます。とこ ろが、会社がCM代を出して、テレビ放送もやりました。全米85%の世帯 が2.5回見た計算。経営トップが、「わが社の製品を使わないでください」

とテレビで訴えたそうです。日本の企業で経営トップが「わが社の製品を 使わないでください」と言った人はいません。それから「原因が分かった ら皆さんに報告いたします」と言ったそうです。

同時に全社で製品の製造・販売を停止。つまりタイレノールの製造ライ ンだけではなく、すべて止めました。社会に対して「ここまでしなければ いけない」と思ったのでしょう。これによって既販品3,100万個は無事に 回収されました。

その後、第三者の毒物混入事件であることが分かりました。防ぎようの ない誤使用に対する、対応として製品パッケージを三層密閉構造にしまし た。毒物をのむ行為は誤使用なんですね。この対策で2か月後に、80%の 売り上げまで回復しています。

この会社は不幸なことに、再度のタイレノール事件に遭っている。再度、

毒物混入事件が発生、1名が死亡。このときの対応はカプセル薬はやめる ことにしました。カプセル薬は真ん中に切れ目があって、引き離すと、中

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から粉末の薬剤が出てきます。カプセル薬は、中の薬を取り出して青酸カ リを入れようと思ったら、簡単なことですね。だからカプセルはやめて、

カプセルを模写した新型の錠剤に変えました。最高の決断をしたわけです。

ジョンソン・エンド・ジョンソンについて感心するのは、ジョンソン・エ ンド・ジョンソンの社是です。これには感心します。四つの社是がありま す。

「我が信条」は1942年、今から約70年前になりますが最高責任者のジョ ンソンさんが書いた社是です。「我々の第一の責任は、我々の製品および サービスを使用してくれる医師、看護師、患者、そして母親、父親をはじ めとする、すべての顧客に対するものであると確信する。我々の行うすべ ての活動は、質的に高い水準のものでなければならない」。さらにこんな ことが書いてあります。「適正な価格を維持するため、我々は常に製品原 価を引き下げる努力をしなければならない」。一番最後を読んでみますね。

「我々の取引先には、適正な利益を上げる機会を提供しなければならな い」。つまり顧客に対する責任ですね。これが一つめの信条です。

二つめの信条なんですが、「社員を大事にしよう」と書いてあります。

それから三つめの責任、「わたしたちの会社が置かれている社会環境を大 事にしよう」というのが出てきます。それから四つめの責任、「投資家を 大事にしよう」と書かれています。四つの社是があります。これはジョン ソン・エンド・ジョンソンのホームページに行けば、全部見ることができ ます。わたしは、この社是があったからこそ、最高の活動ができたのだろ うと思います。

質疑応答

水尾 ありがとうございました。

時間のほうも若干過ぎてますが、もし何かご質問ございましたらお願い します。

内堀 経済学部3年の内堀と申します。本日は貴重な話をしていただいて、

本当にありがとうございます。

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質問なんですが、再現実験をしたにもかかわらず、事故の原因が判明で きなかった製品というものはあったりしましたか。

長田 あります。実際にわれわれ今3万件の事故情報を公開してるんです が、大概、事故通知を受ければ、原因はこうであっただろうと予測がつき ます。ところが、中にはやはりミステリアスなものがあって、事故原因が いまだに分からないものが幾つもあります。それからあと、消防、警察が 情報公開されない場合です。

エレベーターの事故については、われわれは消費生活用品を扱ってると ころでして、エレベーターの事故の調査を行うことはできません。

これはわたしの意見なんですが、もし税金で事故原因究明を行ったもの については公開されるようにしてほしいと思います。最終的には社会のた めに、公共財として社会が利用できるようにするべきじゃないかというふ うに思ってます。それから再発防止にも使われなければならないと思いま す。

内堀 ありがとうございます。

水尾 今日のお話を伺いながら、企業の責任もそうですけども、われわれ も誤使用とか、それから非常識な使用をしないように注意しましょう。

われわれ、そんな意味では、今日のお話は大変啓発的でした。台所で料 理をしてるときに火の元を離れちゃいけませんね。そんなことも含めて、

今日は大変いいお話を伺うことができました。わたしたちもこれからまた 注意をしていきたいと思います。

もう一度、改めて盛大な拍手でお礼を申し上げたいと思います。どうも ありがとうございました。

それでは、本年度の経済研究所の講演会はこれで終了いたします。

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参照

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