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月桂冠株式会社 取締役総合研究所長 兼 醸造部長 秦 洋二 氏

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Academic year: 2023

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̶̶ まずご略歴からお話しいただけますか.

秦  1983年京都大学農学部農芸化学科を卒業し,そ の後,現在までずっと月桂冠に勤めています.その間の 1989 〜1991年に東京の醸造資源研究所に出向しました.

以来,有用な技術をあみ出して酒造りやあるいは酒造り 以外にフィードバックしたいと考え,20年くらい研究 を続けています.2005年に総合研究所長になり,その 後は奈良女子大学や京都大学などの非常勤講師も務める ようになりました.また2009年から技術部という品質 保証・生産技術管理の部長を兼任したり,2011年の4月 からは醸造部という,精米から原酒を造るまでの醸造工 場の部長も兼務して,研究以外の分野の業務も行ってい ます.

̶̶ 醸造資源研究所に出向された時期というのは,醸 造や酒造りに,ちょうどバイオや遺伝子の技術が取り入 れられてきた頃ですよね.

秦  そうですね.もうまさしくDNAを中心としたバ イオテクノロジーが技術として確立した時期でした.酒 類関係の各社が,分子生物的なアプローチで酒造りの現 象を科学的に解明しようとした時代でしたからすごく活 気がありました.醸造資源研究所には各企業から大体 30代前後の研究員が10名くらい集りました.これに当 時の醸造試験所の研究者のご指導も加わって新しい技術 開発に取り組んでいましたから,これから新しいものが

トップランナーに聞く

月桂冠株式会社

取締役総合研究所長 兼 醸造部長 秦 洋二 氏

聞き手

後藤奈美

酒類総合研究所

関 泰一郎

日本大学生物資源科学部

創業1637年の老舗清酒メーカー,月桂冠では,麹 菌を固体培養した際に特異的に発現する遺伝子の 発見など,清酒メーカーならではの研究に加え,

酒造りの技術を活かしたバイオエタノールの研究 や,化粧品の共同開発など,幅広い研究開発を手 がけられています.同社の取締役総合研究所長兼 醸造部長の秦 洋二氏に,メーカーで取り組む基盤 研究と開発研究のバランス感覚や,異業種とのコ ラボを成功に導く秘訣,さらにこれからの清酒に対 する思いや,学生,大学院生に望むことなどをう かがいました.

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見つかるんじゃないかという予感がすごくありました.

本当に良い時期に東京に行かせていただいて,そこで同 世代のメンバーとご一緒にさせていただいたことが,今 でも糧になっています.

―― 月桂冠という会社をご存じない方はいらっしゃら ないと思いますが,お酒以外にもいろいろやられている と思いますので,事業内容などを教えていただけます か.

秦  まさしく月桂冠は,お酒,日本酒を造っている会 社です.1637年が創業ですから380年近くこの伏見地区 でお酒を造り続けているという非常に長い歴史をもって います.もう一つ会社の特徴としては,研究所が1909 年,今から103年前に設立されたということです.1909 年というと明治42年ですから,科学技術でいえば,酵 母が見つかって(清酒酵母が初めて分離されたのは 1895年),日本でもようやく微生物学が発達し始めた時 代です.そんなバイオテクノロジーも何もない頃に一民 間企業が,酒造りのための研究所を設立したのです.当 時の研究所は,木造の酒蔵の正面に建てられており,昔 ながらの職人の酒造りを解明しようとする意欲がうかが えます.当社は,伝統技術をそのまま守り続けるのでは なく,物事を科学的に解明して,新しい酒造りに生かし ていくといった意識の強い会社だと思います.

―― 103年前というと,当所(酒類総合研究所)の前 身が設立されてすぐですね.その頃は清酒醸造を近代化 しようということで,速醸酒母や山廃酒母が開発されま したが,なかなか広まらなかった.そんな時代にいち早 く研究所を建てられたというのは本当にすごいと感じま す.

  共同開発を成功に導いた三つの鍵 

―― では現在は研究所でどんなことに取り組んでおら れますか.仕事の進め方など,産学連携なども含めて教 えていただけますか.

秦  現在,月桂冠総合研究所には約30名の研究員が おりますが,われわれの研究は大きく分けて,良いお酒 を造るための研究と,酒造りの技術を生かしてお酒以外 の分野に挑戦する研究の二つになります.産学連携をし ているのは主にお酒以外の研究です.

酒造りの研究と酒造り以外の研究は分野も方向性も違 いますが,同じ場所で異なった研究をすることでシナ ジー効果を生むのではないかと考えています.ですか ら,バイオエタノールや化粧品など一見,酒造りには全 く関係のないことも産学連携でやらせていただいていま す.きっとそのなかにはお酒にフィードバックできるこ

ともあったり,逆に酒造りの技術を他分野に利用して大 きくすることもできると考えています.よって,どの分 野と連携するかは,それほど強く意識はしていません.

ただし,分野が広がりすぎて人的資産が分散するのは問 題がありますので,当然ある程度酒造りの技術が応用で きる範囲に限って進めています.

―― 月桂冠と花王で共同研究された,白髪染めの開発 は本当にすごいと感じたのですが,そのコラボレーショ ンやアイデアが生まれたきっかけは何ですか.

秦  白髪染めの研究については,そもそも,麹菌のチ ロシナーゼで酒粕が黒くなるという黒粕現象について,

黒くならないようにするにはどうしたらいいかというこ とで研究や学会発表をしていたのです.たまたまその会 場で花王の担当者とお話する機会があって,花王として は逆に黒くなったものが必要だとお聞きし,これは何か できるんじゃないかということで一緒にやらせていただ くことになったのです.この研究にはいろいろと苦労が ありましたが,ゴールまでたどり着けたポイントが三つ あります.

一つは,花王もわれわれも研究開発の自由度が高かっ たことです.さらに,お互いに研究に対する意欲が高く トップの理解もあった.だからスムーズにコラボレー ションできました.

二つ目のポイントは,社会的意義や使命感です.この 白髪染めはメラニンで染めるのではなくて,メラニンの 前駆体,メラニンができる前のユニットをつくって髪の 毛の表面で重合させてメラニンにするという非常に難し いことをやっています.メラニンをつくるのは簡単なの ですが,メラニンができる前の中間体で止めることや,

それを安定的に生産して商品にすることがとても難し く,3年くらいでラボ品が完成し,さらに実生産ができ るまで5年以上かかりました.

酒造りの技術を使って体に優しい白髪染めをつくると いうコンセプトは技術系以外の人にもわかりやすいです から,月桂冠でも花王でも社内受けはよかったのです が,3年も経って何の成果も出てこないとなると「いつ までやっているんだ」という批判の声が両社ともにあり ましたし,実際に継続が難しい時期もあったのです.し かし,両社とも長い目で見ることができたことと,技術 の真髄といいますか,確かに研究費から考えると3年と か5年で結果が出ないと普通の研究テーマならやめてし まうのですが,このテーマである「化学合成品で染める のではなく,髪の毛に自然のメラニンの黒さを与える」

という考えは,環境や人間の安心安全のためにもやるべ きテーマだという認識が強かったのです.研究開発のコ

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ストパフォーマンスで考えるとあまり良くない製品開発 だったかもしれません.しかし,やはり社会的意義を考 え技術で世の中に貢献するという使命を共有できたか ら,10年もの長きにわたって研究を続け,ようやく ゴールにたどりついたのです.

最後は人間関係,信頼です.月桂冠はお酒の会社です から打ち合わせの後に意見交換会と称してお酒を飲むこ ともありますが,他業界では打ち合わせが終わったらそ のまますぐに帰ってしまうことが多いです.われわれは いろいろな業界とコラボしましたけれど,他業界ではあ まり懇親会をしないようです.

しかし,花王については,こちらにきていただいた ら,そこで交流会をさせていただいて,またこちらから 花王に行ったときもお酒を飲む機会をつくっていただき ました.そうすると,人的なネットワークが強くなりま すから,それがモチベーションの維持につながったのだ と思います.

そして,何よりも本人たちが諦めると,絶対に成功し ないです.上から「いつまでかかるんだ」と言われて本 人たちがめげてしまうと,そこで成功から遠ざかりま す.だから花王も月桂冠もお互いが「きっとできる」と いう意識を,担当している研究員の皆が,ずっともち続 けられたのは,お酒の席でのことも含めて人間関係,信 頼関係が築けたということが大きかったと思います.

―― それはすごく励まされるお話です.効率だけでは なく,人間関係や信頼関係も忘れてはいけないですよ ね.

  奥歯に引っかかる現象に要注意 

―― これまで会社で携わってこられた研究の中で,特 に印象深い研究はありますか.

秦  そうですね.私は固体培養でしか発現しない遺伝 子を初めて見つけたことで,さまざまな学会賞をいただ いたり,講演会などでも評価していただきました.固体 培養とは固体状の基質の上に微生物を生育させて物質生 産を行う方法で,清酒や味噌,醤油などの麹造りはまさ に固体培養です.清酒醸造に用いる黄麹菌のグルコアミ ラーゼは固体培養で多く生産されるのですが,この酵素 の発現を解析したところ,固体培養でしか発現しない遺 伝子が存在することを発見したのです.当然,西洋のよ うに固体培養をしないところでは一切見つからないです し,日頃から固体培養している日本の酒造メーカーだか らこそ,世界で初めて見つけることができたのだと対外 的には言っています.けれど実はそう簡単に見つかった わけではないのです.当時,私は液体培養で発現する遺

伝子だけしか見つけていませんでした.その後も何年か 研究を続けていたのですが,どうしても液体培養で発現 する遺伝子だけでは説明できない現象がいくつかあった のです.けれど,新しい遺伝子があるという発想には至 らなかった.そんなとき,たまたま月桂冠に新入社員と して一人の研究員が入ってきました.彼はそれまでの研 究のバックグラウンドを全く知らずに「それなら,新し い遺伝子があるかもしれませんね」と言って,その遺伝 子をクローニングしてきた.これまでずっと状況証拠は あっても証明するものがなかったのですが,その新しい 遺伝子の配列を見た瞬間,固体培養でしか発現しない遺 伝子があればすべての辻褄が合うということがわかった のです.

自分が諦めずにやっていたことが成功したうれしさも あったのですが,逆に自分一人の考えでやっていてもな かなか成功しない,いろいろな人の考えとかフレッシュ な考えを含めてやらないと発明や成功には結びつかない ということをすごく感じました.ですから,酒屋さんで しか見つけられないものを見つけた,さすが酒屋さんで すねと言われますが,実際,そう簡単に計画どおり見つ かるものでもありませんし,どの研究も同じように,

やっぱりそこには苦労があります.何か奥歯に引っか かったものをどうしても解決したいという思いがないと なかなかできないと思います.

しかし,最近は奥歯に引っかかって「これおかしい な?」って皆さんあまり思わなくなってきているのでは ないでしょうか.確かに想定される結果はあるでしょう が,1割2割くらいは何かちょっとおかしい結果が出る はずです.それは実験条件の小さな差などさまざまな要 因で起こるものだと思うのですが,やはりなかにはよく 見てみるとどうも気になるものがあるんですね.そうい う気になるものを解明していくことで,新しい技術が見 つかる可能性が高いと思うのです.こうした,洞察や観 察力や問題意識などといったものが以前よりも少なく なっている.それは時代的な余裕も関係していると思い ます.今はノルマや年度計画や目標管理などが事細かに 規定され,小さなことにこだわっていたら前に進めない ので,こだわらずどんどん前に進まなきゃいけないシス テムになっています.ですから些細な気になることから 生まれてくるような新しい事実が,見つかりにくくなっ ているのかなと思います.小さなことばかりにこだわっ て先に進めないのは駄目なんですけど,もう少しバラン スをとっていただきたいと思います.

―― 確かに計画を達成するのは大切ですけれど,それ だけでは駄目ですよね.

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秦  そうですね.商品開発のように,必ずしも100点 満点でなくとも期日までに必ず出さなければいけないと いう仕事もあれば,基盤研究のように3年後,5年後に 花開くものを見つけてくるという探索的な仕事もありま すから,それを同じシステムで管理するとその領域の個 性も失われてしまうのです.ですから月桂冠では,基 盤・応用・商品開発とステージに分けて,目標管理など のいろいろな設定をするようにしています.

―― 基盤的な研究の場合,どこまでつっこむか難しい 場合もありますよね.下手すると泥沼に入って出てこら れなくなるという恐れもあるし,でも見過ごしたらすご く重要なことを捨ててしまうかもしれない.それについ て月桂冠では何か対策などされていますか.

秦  一つは,月桂冠では基盤研究にずっといないよう に,研究をローテーションできるようなシステムをつ くっています.基盤にずっといると行き詰まり感や閉塞 感が出てきますから,できるだけ考えを変えられるよう にローテーションを組むようにしているのです.

もう一つは,一人で単独テーマをするのではなくて,

主担当,副担当のような形で何人かでテーマを分担して います.研究ですからどうしても自分が一人でやらなけ ればいけない仕事もありますが,完全に独立してしまう とやっぱり基盤研究の場合はのめり込みがちになります からこのような形にしているのです.

そして,ゴールは何かということを意識することで す.たとえばお酒の苦味の成分を見つけるというテーマ が与えられたときに,要は苦味の成分を見つけて,こう いう商品をつくりたいなど最終的な目標を考えながらや らないと,どうしても近視眼的になって,直近の目標さ え達成したらよくなってしまうのです.ですから基盤研 究をする人たちは視野を広くもってほしいです.山に登 るのだったら別に道は一つではなくていろいろな道があ りますから,つまずいたらまたほかの道を登ったらいい じゃないか,くらいの意識をもってもらいたいですね.

  学生に望むこと 

―― 今現役の学生や大学院生の方に望まれることや身 につけてほしいことなどはありますか. 

秦  私は大学の非常勤講師などもさせていただいてい ますので,比較的今の現役の学生と接する機会もありま す.

大学の試験の場合は,範囲も時間も決まっています し,過去問のような過去の事例もありますから,本当に 限られ定められた環境のなかでやっています.しかし,

社会に出ると事前説明も過去問もなく,突然「これをや

れ」と言われるわけです.ですから,自分で考える能力 をもっと身につけてほしいと思います.月桂冠に入社し てきてくれる理系の人たちは非常に分析力も高いですか ら,何かテーマを与えられたらそれに対して調査・分析 して,何をすればいいかを見つけてきます.しかし,社 会には調査・分析する時間がないケースや調査しようも ない課題などもあるわけです.そうした限られた情報の なかで最善の選択肢はどれかを選ばなければいけないこ ともあるのですが,そういった能力が大学では身につき にくいのかなという気はします.大学ですから,論理的 に分析してそれで正しい答えを出す,ロジカルシンキン グを身につけるという意味では良いかもしれませんが,

社会に出ればそれ以外にもいろいろな能力が必要になっ てくるわけです.

―― では,会社で必要な技術系の人材を選ぶときにど ういうところに着目されるのですか.

秦  今の話とはずれるのですが,月桂冠はメーカーで すから,自分たちがつくっている,自分たちが売ってい る商品に愛着がなければ,やっぱりメーカーの技術者と しての意識が育たないと思うのです.確かに社内にはお 酒を飲めない人もいますけれども,やっぱり自分たちが お客様に提供しているものですからそれに愛着や自信を もって提供したいと思えるかどうかが,すごく大きなと ころだと思います.学生さんはいろいろな企業の採用試 験を受けますし,当然いろいろな企業から内定をもらい たいと考えるでしょうから,どの企業に行ってもその会 社の製品に愛着があると言うと思いますが,やっぱり自 分自身が少なくとも数十年という時間を,その企業のな かで過ごしていくのであれば,自分が本当にその企業が つくっている物(サービスも含めて)に愛着がもてるか どうか,そういうことで判断しないと,たとえ面接のと きにうまく話をしても,その後会社に入ったときに,立 ち行かなくなると思うのです.だから,本当に月桂冠で 行っている酒造りやお酒自身に関心があって,そこを何 とかしたいと思ってくれる学生さんがまず採用の第一ポ イントですね.

もう一つは,研究者として入社しても基礎研究ばかり するわけではないですし,たとえば現場に入ったり管理 部門に行ったりする可能性もありますから,コミュニ ケーション力も含めて,わりと幅広く考えられる人がい いと思います.

  研究員の教育のために教育? 

―― 月桂冠では小学生の教育を推進するための授業も やられているということを拝見したのですが,こうした

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ことにも力を入れられているのでしょうか.

秦  そうですね,小学校や高校に授業に行ったり,あ るいは近所の子どもたちを集めてきて授業をしたり,い ろいろなプレゼンテーションをやっています.私はそう いうことが好きなので,最初は一人でやっていたのです が,今ではそれを研究員の教育に使っているのです.

―― 研究員の教育にですか? どういうことでしょ う?

秦  当研究所では研究開発の5原則というものを定め ていまして,その中に「開発する商品・技術をお客様に わかりやすく説明できるか」という項目があるのです.

いくら良いと思う研究や開発をしても,全く専門外のお 客様に,ちゃんと研究の意義などを説明できないのであ れば,それは良い研究開発とは言えないということで す.たしかに説明が難しい専門用語などもありますが,

それが一体世の中にどう役に立つのかということをお客 様にちゃんと説明できないといけないということを研究 所の方針として掲げて,その能力を身につけさせる一環 として子どもたちへのプレゼンテーションを使っている のです.

今は小学生に「発酵は暮らしに役立つ」という授業を しているのですが,そうしたなかで子どもたちにわかり やすく自分の考えを説明することが訓練になりますし,

また自分の研究のスタンスを見直すうえでも役に立つの です.

小学生に教えるって本当に難しいのです.やっぱりわ れわれは最終的にはお客さんに喜ばれ,付加価値を感じ てもらえるものをつくって初めて収益をいただくわけで すから,つくり手側から「これはええもんや」と押しつ ける考えでは絶対良いものはできないのです.小学生へ の授業などをしていると,自分が言いたいことをそのま ま言うのではなくて,自分の言いたいことを相手にわ かってもらえるように工夫して伝える癖がつきますか ら,お客様の目線で考える力を身につける非常に良い チャンスになっているのです.

  これからの日本酒 

―― 最後に日本酒の将来について何かお考えがあれば お願いします.

秦  日本酒を含めた酒類を日本人全体が飲む量は昔か

らあまり変わっていないのです.つまり日本酒が減った ぶん焼酎が増えている,ビールが減ったぶん別の酒類の 消費が増えている,そんな状況なのです.

当然月桂冠の売り上げを伸ばすにはわれわれが頑張る ということもあるのですが,縮みゆくパイを取り合って いては限界があります.1年2年はそれでいいかもしれ ませんが,5年10年と永続的に続けるには日本酒全体の パイを広げていく必要があるのです.その努力は各社そ れぞれやっていますし,今では5社10社集まって努力し ています.

実際日本酒を飲んだことのない人にお酒の良さが伝え きれていないと感じています.それを改善するために,

いきなりこの日本酒は美味しい,素晴らしいんだみたい なことをアピールしても届かない.今の吟醸酒を含めた 旨い日本酒が,若い人を含めた皆さんに嫌われているの であればもうそれは業界としたら仕方ないことかもしれ ませんが,逆にその良さを知ってもらえてないのであれ ば知ってもらう努力をしなきゃいけない.日本酒はこれ まで良い悪いをつくり手側が決めるというところがあり ましたが,これからはそういうアプローチではなかなか 近づいてもらえないと思います.

若い人も入りやすい日本酒の入り口になるような商品 をつくって,そこからだんだん日本酒の本質に近づいて もらうようなことをしていかないといけないのかもしれ ません.良い物をつくっていくという,つくる側の自負 心や向上心も当然必要ですが,お酒はこうあるべきだと いう昔ながらのつくり手側の発想から少し離れ,今の若 い人にも美味しいと思ってもらえるお酒を造るにはどう したらいいのかを考えると同時に,マーケティングも含 めた柔軟な発想を取り入れていくことが必要だと考えて います.

やはり一升瓶やパックやカップに入っているお酒とい うのは,若い人は手に取ってくれないのです.そこで容 器をお洒落にして手にとってもらいやすくしたり,日本 酒に炭酸ガスを入れて飲みやすい形で商品化しているも のもあります.こういう商品でお酒を知らない人にまず お酒を体験してもらって日本酒の良さを知ってもらう努 力をしているところです.

―― たいへん面白い話をたくさん伺えました.ありが とうございました.

参照

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