【解説】
コネクターがつなぐ細菌 情報伝達ネットワーク
江口陽子,加藤明宣,石井英治,内海龍太郎
細 菌 細 胞 に お い て,動 物 細 胞 と 同 様 に,情 報 伝 達 ネ ッ ト ワークの実態が明らかになりつつある.細菌の主要な情報伝 達系は,対となるセンサーとレスポンスレギュレータータン パク質からなる二成分制御系 (TCS) である.最近,TCS間 をつなぐコネクタータンパク質が発見された.このようなコ ネ ク タ ー がTCS間 を つ な ぐ こ と で 情 報 ネ ッ ト ワ ー ク が 組 織 され,環境の変化に対応して細菌がより迅速に適応すること が可能になっている.本稿では,大腸菌およびサルモネラ菌 における新規コネクターを介する情報伝達ネットワークの分 子機構を紹介するとともに,TCSのセンサーやレスポンスレ ギュレーターに直接結合して作用する修飾タンパク質につい ても解説する.
細菌は環境適応力が高く,地球上の至る所に生息す る.環境適応とは,環境変化をシグナルとして認識し,
その情報を細胞内に伝達し,環境変化に適切に対応する ために必要な遺伝子群の発現をコントロールすることで ある.酸化還元状態,温度,pH,塩濃度,浸透圧,金 属イオンなど外界のさまざまなシグナルを認識するため
に,細 菌 に は 二 成 分 制 御 系 (two-component signal transduction system ; TCS) という環境適応機構があ る.通常,TCSは,センサーとして機能するヒスチジ ンキナーゼ (histidine kinase ; HK) と転写因子として機 能するレスポンスレギュレーター (response regulator ; RR) がペアとなって機能する.TCSは細菌に広く保存 された情報伝達系であり,2010年までに解読された 1,087種の細菌ゲノムからTCS タンパク質は63,259個も 見つかっている.平均してゲノム当たり約29組のTCS という計算になる(1).TCSは細菌以外にもアーキアや 一部の真核生物にも存在するが,ヒトなどの哺乳類から は見つかっていない.
TCSの基本モデル
図1に示すように,TCSを構成する HK は,通常膜 タンパク質であり,環境変化をシグナルとして感知し,
その情報を自身の酵素活性に変換する.HKには,(i)
保存されたヒスチジン残基のATP依存的な自己リン酸 化,(ii) ペアの相手であるRRに保存されたアスパラギ ン酸残基へのリン酸基転移,(iii) リン酸化されたRRの Signal Transduction Network of Bacterial Two-Component Sig-
nal Transduction System Connectors
Yoko EGUCHI, Akinori KATO, Eiji ISHII, Ryutaro UTSUMI, 近畿大学大学院農学研究科
脱リン酸化,の3種の活性が知られている.RRは,通 常,プロモーター領域のDNAに結合する転写因子であ り,リン酸化によってDNAへの親和性が変化する.RR のリン酸化レベルが変化することでターゲットとする遺 伝子の発現状況が変化するので,RRのリン酸化レベル によってその TCSの活性が決まる.
TCS間の情報伝達
個々のTCSがそれぞれのシグナルに個別に応答する 以外に,複数のTCS間でも情報が伝達され,ネット ワークを形成すると考えられている.TCS 間の情報伝 達にはクロストーク型,ヘテロダイマー型,カスケード 型などの様式が提唱されている.クロストーク(図2a)
とは,HK/RR本来のペア間で生じるリン酸基転移以外 に生ずるHK/ノンペアRR間のリン酸基転移を指す.
HK間およびRR間のアミノ酸配列は相同性が高く,タ ンパク質構造も類似しているので,クロストークが生じ る可能性は高い.実際,大腸菌の25種のHK と34種の RRを用いてすべての組み合わせでHKからRRへの
リン酸基転移が調べられた結果,34種のRRのうち 11種において異なるペアのHKからのリン酸基転移(す なわちクロストーク)が認められた(2).このように
クロストークが高頻度で認められるのに対し,
で確認されたTCS間のクロストークの例は数少な い.HK/ノンペアRR間のリン酸基転移は,HKによる リン酸化RRの脱リン酸化によって打ち消されていると いう主張もある(3).ペアを形成するHK, RRがパート ナーをどのように認識するかはHKやRRの結晶構造か らも研究が精力的に進められている(4).
ATP ADP
情報伝達
PRR (i) 自己リン酸化
(ii) リン酸基転移
(iii) 脱リン酸化 環境シグナル
RR
ターゲット遺伝子の発現制御 HK
P
図1■二成分制御系 (TCS) の基本モデル
センサーとして機能するヒスチジンキナーゼ (HK) と転写因子と して機能するレスポンスレギュレーター (RR) の2因子がペアと なって機能する.リン酸化したRRの細胞内濃度が増大すると TCS は活性化する.
図2■TCS間の情報伝達
異なるTCS間の情報伝達は,(a) ク ロストーク型(HK/ノンペアRR間の リン酸基転移),(b) ヘテロダイマー 型(異なるTCS間でヘテロダイマー が生じてTCSを調節),(c) カスケー ド型(TCSが別のTCSの発現を直接 誘導,あるいは,コネクターを介し て別のTCSの活性を調節)に分けら れる.
P
RR1 P P
RR1 P
RR2 P
P P
RR2
P
RR1 P
P
RR2 P
P
RR1 P
P
RR2 P
P
RR1 P
P
RR2 P
(a) クロストーク型 (b) ヘテロダイマー型
(c) カスケード型
コネクター1 コネクター2
HK1 HK2
HK2
HK2 HK1
HK1
HK1 HK2 HK1 HK2 HK1 HK2
一般にHKはホモダイマーを形成して自己リン酸化す ると考えられている.ところが,HK間でヘテロダイ マーが形成され,HKの活性が抑制されるケースが報告 された(図2b).緑膿菌のRetSはGacSに結合すること でGacSのホモダイマー形成を阻害し,GacSの自己リン 酸化を抑制する(5).この結果は,ほかのHKも異なる HKと複合体を形成して互いにコントロールする可能性 を示唆している.TCSは,従来考えられていたほど単 純な情報伝達系ではないかもしれない.
一方,カスケード型(図2c)は異なるTCSが縦につ ながる場合で,あるTCSが別のTCSの発現を直接誘導 する場合と,コネクターを介して別のTCSの活性を調 節する場合がある.コネクターはHKを修飾してその活 性をコントロールするものもあれば,RRを修飾してリ ン酸化レベルを変えるものもある.今までリン酸リレー と転写段階での制御を中心としてとらえられてきた TCSが,修飾タンパク質によってもコントロールされ ることが示された(6).HK→RR→遺伝子発現という直 線的な情報の伝達が,コネクターによってTCSから TCSへと二次元的に広がった(7, 8).細菌における情報伝 達ネットワークの存在は以前から予想されていたが,こ れを実証するかのように,TCS間をつなぐコネクター
が,近年,次々と発見されている(9).本稿では,TCS 間のコネクターが織りなす情報伝達ネットワークとその 機能についての最近の知見を解説する.
大腸菌の情報伝達ネットワーク 1. コネクターSafAの発見
複数のコネクターを介したTCS 間のネットワークが 大腸菌に見いだされている.EvgS/EvgA系は大腸菌に 酸耐性能を誘導するTCSである(10).通常,大腸菌は増 殖速度が低下する定常期において酸耐性化し,増殖が活 発な対数増殖期では酸に対して感受性である.ところ が,EvgS/EvgA系 が 活 性 化 す る とYdeOやGadEと いった転写因子が誘導され,酸耐性化に関連した多くの 遺伝子の発現が誘導される(図3).実際,EvgS/EvgA 系によって制御される遺伝子群のトランスクリプトーム 解析(DNAマイクロアレイ)を行うと,多数の酸耐性 遺伝子の発現誘導が認められた.マイクロアレイの結果 をさらによく見ると,酸耐性遺伝子以外に,異なる TCSで,Mg2+ イオン応答システムであるPhoQ/PhoP 系によって制御される遺伝子群の発現も誘導されてい た.こ の 結 果 か ら,EvgS/EvgA系 の 活 性 化 に よ る
図3■EvgS/EvgA 系を起点とした 酸耐性遺伝子の制御ネットワーク EvgS/EvgA系が活性化すると転写因 子YdeO, GadEを介して複数の酸耐 性遺伝子 ( , , , ) の発現が誘導される.同時に,SafA‒
PhoQ/PhoP‒IraM‒RssB経 由 でRpoS レベルが増大し,酸耐性遺伝子群の 発現がさらに誘導される.(PhoPが 制御する酸耐性遺伝子,RpoS が制御 する 以外の遺伝子は図の簡略化 のために省略.詳細は本文記載.) EvgA
EvgA
PhoP
PhoP (b1500) ydeOsafA
gadE
hdeA gadA
YdeO
GadE
SafA (B1500)
EvgS PhoQ
P P
gadB gadC
プロテアーゼによる 分解
RssBP RpoS
iraM
IraM
RpoS RssBP RssB P
low pH
大腸菌
low Mg2+PhoQ/PhoP系 の 活 性 化,つ ま りEvgS/EvgA系 か ら PhoQ/PhoP系への情報伝達が見いだされた(11).
両TCS間の情報伝達機構として,まず,HKである EvgSからノンペアRRのPhoPへのクロストークが疑わ れた.しかし,EvgSが不活性の状態でもRRのEvgA の過剰発現によって PhoQ/PhoP系の活性化が認められ たため(多くの場合,RRの過剰発現よりTCSが活性化 する),クロストーク説は否定された.そこで,EvgS/
EvgA系からPhoQ/PhoP系への何らかの因子を介した カスケード型情報伝達が予想された(11).この因子を ショットガンクローニング法で探索した結果, と いう機能未知のORFが見つかった.B1500の発現は EvgS/EvgA系によって直接誘導され,B1500の発現に よってPhoQ/PhoP系が活性化した.B1500は大腸菌の 内膜に局在し,bacterial two-hybrid 法によりPhoQに 直 接 作 用 し た.そ こ で,B1500がEvgS/EvgA系 か ら PhoQ/PhoP系への情報伝達を担うコネクターとして機 能することが明らかになった(12) (図3).B1500はセン サー PhoQを修飾してその活性を調節することから SafA (sensor-associating-factor A) と 命 名 さ れ た(13). SafAはアミノ酸65残基からなる小さなタンパク質で,
中央に膜貫通領域をもつ1回膜貫通型の膜タンパク質で ある.ペリプラズム内でSafAのC末端領域がPhoQのシグ ナル感知領域に結合することで,PhoQを活性化する(14).
2. コネクターIraM
SafAのようにHKを修飾する小さな膜タンパク質は ほかにも報告されている.MzrAは浸透圧応答にかかわ るEnvZ/OmpR系のセンサー EnvZを活性化する小さな 膜タンパク質で,その発現はCpxA/CpxR 系によって 制御される.すなわちMzrAはCpxA/CpxR系とEnvZ/
OmpR系間のコネクターとして働く(15).PhoQ/PhoP系 によって直接誘導される小さなタンパク質IraMもコネ クターである.IraMはRRであるRssBに結合すること でRpoSの分解を妨げる(16).RpoSは定常期などストレ スのかかった状態で働くRNAポリメラーゼのシグマ因 子である.対数増殖期では,RssBがRpoSに結合して ClpXPプロテアーゼへと誘導することでRpoSが分解さ れ,菌体内のRpoSレベルが低い状態に保たれる.ここ でIraMが発現してRssBに結合(トラップ)すると,
RssBはRpoSに結合することができなくなり,RpoSが ClpXPによって分解されずに菌体内に蓄積する(16).対 数 増 殖 期 の 大 腸 菌 のEvgS/EvgA系 を 活 性 化 す る と SafAを介してPhoQ/PhoP系が活性化し,PhoQ/PhoP 系がIraMを誘導し,RssBがトラップされてRpoSが蓄 積するはずである(図3).実際,前述のEvgS/EvgA系 を活性化したときのマイクロアレイの結果を見ると,
RpoSによって誘導される多くの遺伝子(酸耐性遺伝子 も含む)の発現が増大していた(17).
EvgA
EvgA
PhoP
PhoP (b1500) ydeOsafA
SafA (B1500)
EvgS PhoQ
P P
RssB P iraM
IraM
RcsD RcsC RstB
RstA
RstA P rstA rstB
RcsB
RcsB P
?
asr csgD
low pH low Mg2+ low pH
細胞表層 ストレス
大腸菌
図4■TCSネットワーク
4種類のTCS間に見いだされた情報伝達.PhoQ/PhoP系はRstB/RstA系の発現を直接制御し,RcsC/RcsD/RcsB系からEvgS/EvgA系は ヘテロダイマー型あるいはカスケード型が予想される.
EvgS/EvgA系が活性化するとEvgA, YdeO, GadE の 3種の転写因子がカスケード型に連なって多くの酸耐性 遺 伝 子 の 発 現 を 誘 導 す る.一 方,SafA, PhoQ/PhoP, IraM, RssB を介して菌体内に蓄積するRpoSは , を 誘 導 し(18),さ ら に,PhoQ/PhoP系 は , といった酸耐性遺伝子を誘導する(19).これらは EvgS/EvgA 系の活性化による酸耐性化を側面から支援 する.EvgS/EvgA系の活性化によって引き起こされる 酸耐性能は , , , のそれぞれの欠失株 において低下するため,コネクター SafA, IraM を介し たEvgS/EvgA‒PhoQ/PhoP間の情報伝達が酸性環境へ の適応に関与するモデルが提唱された(20) (図3). 3. 情報伝達ネットワークの広がり
酸性環境をシグナルとするRstB/RstAというTCSの 発現はPhoQ/PhoP系の制御下にあり,コネクターを介 さないタイプのカスケード型の例である(図2c).この 場合,PhoPが オペロンのプロモーター領域に直 接結合してその発現を誘導する(21).RRであるRstAの 制 御 下 に あ る や 遺 伝 子 はPhoQ/PhoP-RstB/
RstAのカスケード型情報伝達に制御されることが報告 されている(22) (図4).
EvgS/EvgA系を起点とするネットワークの上流にも
別のTCSが関与していた.RcsC/RcsD/RcsB系のRRで あるRcsBは,ホモダイマーとして働く以外に,ほかの 転写因子とヘテロダイマーを形成して多くの遺伝子の発 現制御にかかわる.RcsBは,酸耐性遺伝子群の発現制 御に中心的にかかわるGadEともヘテロダイマーを形成 して多数の酸耐性遺伝子の発現制御にかかわる(23).と ころが,RcsBはGadEに制御されない酸耐性遺伝子群 の発現制御にも関与することが見いだされ,EvgS/
EvgA系の活性化にRcsBの存在が必須であることが報 告された(24).RcsBによるEvgS/EvgA系の活性化機構 にも,ヘテロダイマーの形成が関与するかもしれない.
サルモネラ菌の情報伝達ネットワーク 1. コネクターPmrDの発見
大腸菌と同じく腸内細菌科に属するサルモネラ菌にお いて,2種のTCS, PhoQ/PhoP系とPmrB/PmrA系間を つなぐ,コネクター,PmrDが最初に見いだされた(25)
(図5a).PmrDはリン酸化型のPmrA (PmrA-P) と特 異的に相互作用することで,センサー PmrBによる PmrA-Pの 脱 リ ン 酸 化 を 阻 害 し,PmrAを 活 性 化 す る(26).活性化したPmrAはコネクターをコードする 遺伝子のプロモーター領域に結合することで,
図5■ コ ネ ク タ ーPmrD, IraP, CacAを介するTCSネットワーク
(a) コネクター PmrDを介するサル モ ネ ラ 菌 のTCSネ ッ ト ワ ー ク:
PhoQ/PhoP系により発現誘導された PmrDは,リン酸化型PmrA (PmrA- P) と相互作用し,PmrBによる脱リ ン酸化から保護する.一方,PmrA-P は, プロモーターのPhoP結合 サ イ ト (PhoP box) 上 流 の PmrA box に結合し,PmrDの発現を抑制 す る.ま た,PmrA-Pは,リ ポ 多 糖
(LPS) のリン酸部位をフォスフォエ タノールアミンで修飾する酵素を コードする や4-アミノアラビ ノースで修飾する酵素群をコードす る / のプロモーター領域にも 結合する.(b) PhoQ/PhoP系により 発現誘導されたIraPは,ClpXPプロ テアーゼによるRssB依存的RpoS分 解を抑制し,RpoSが細胞質に蓄積さ れる.RpoSにより発現誘導された CacAは,CpxA/CpxR系を活性化す るが,その分子機構の詳細はわかっ ていない.
(a)
ugd
pmrC pmrA pmrB pmrR PmrB
P
PmrA
PmrA Fe3+
pbgP PhoQ
P
PhoP
PhoP low Mg2+
low pH antimicrobial peptides
iraP pmrD
IraP PmrD
サルモネラ菌
(b)
CpxA
P
CpxR
CpxR cpxP RssB
cacA IraP RpoS
CacA
ClpXP
サルモネラ菌
?
フィードバック抑制を行い,PmrAの過剰な活性化を回 避する(27) (図5a).最近,PmrB/PmrA系において,細 胞表層の (−) 電荷とFe3+の結合性を調節するペプチド PmrRがフィードバック調節を行う機構も解明され た(28) (図5a).ま た,PhoQ/PhoP系 自 身 の フ ィ ー ド バック機構として,PhoPにより発現誘導された内膜タ ンパク質のMgrBはPhoQに結合しその働きを直接的に 抑制する(29).
PhoQ/PhoP系とPmrB/PmrA系がつながることで,
何が有利なのであろう? PhoQ/PhoP系は細胞外の低 Mg2+ 濃度に応答する情報伝達系であり,Mg2+ トラン
スポーターを発現させてMg2+ 欠乏環境に適応するだけ でなく,サルモネラの病原性調節に中心的な役割を果た すTCSで あ る(30).PmrB/PmrA系 は 細 胞 外 の 高Fe3+
濃度を感知して,細胞表層にあるリポ多糖 (LPS) にお いてマイナス (−) に荷電したリン酸部位をフォスフォ エタノールアミンと4-アミノアラビノースでそれぞれ化 学修飾・保護する酵素群PmrCとUgd/PbgPを発現する
(図5a).その結果,プラス (+) の電荷をもったFe3+
や抗菌ペプチドのポリミキシンBはLPSに結合できず,
サルモネラ菌はそれらに対し抵抗性を示す.Fe3+ は過 剰の場合には細胞毒となりうるが,同じように (+) の
表1■TCS修飾因子とそのターゲット*
修飾因子 菌種** 局在*** ターゲット****
HK修飾因子
NlpE(6) OM CpxA (+)
ChvE PP VirA (+)
CpxP PP CpxA (−)
TorT PP TorS (−)
PII PP NtrB (−)
MgrB , IM PhoQ (−)
MzrA IM EnvZ (+)
SafA IM PhoQ (+)
SaeP(38) IM SaeS (−)
SaeQ(38) IM SaeS (−)
YycH IM WalK (−)
YycI IM WalK (−)
FeuN IM FeuQ (−)
LprF IM KdpD (+)
LprJ IM
FixT CP FixL (−)
SixA CP ArcB (−)
Sda CP KinA (−)
KipI CP KinA (−)
RR修飾因子
PmrD , CP PmrA (+)
IraP , CP RssB (−)
IraM CP RssB (−)
CheZ , CP CheY (−)
RapA CP Spo0F (−)
RapB CP Spo0F (−)
RapC CP ComA (−)
RapE CP Spo0F (−)
RapK CP ComA (−)
RapF CP ComA (−)
RapG CP DegU (−)
RapH CP Spo0F, ComA (−)
YnzD CP Spo0A (−)
YisI CP Spo0A (−)
Spo0E CP Spo0A (−)
SinR CP Spo0A (−)
*文献9より引用.新規に加えたものに関しては引用文献を表示(9).** : ; :
; : ; : ; :
; : ; : ;
: ; : ***PP : ペリプラズム領域;OM:細
胞外膜;IM:細胞内膜;CP:細胞質領域.****(+) 正もしくは (−) 負にターゲットTCSを制御する.
電荷をもったMg2+ は細胞表層でむしろLPSの安定化 と保護に働いている.このような複合的な静電的相互作 用が生じうる具体的なサルモネラ生息域として,鉄含有 量の高い土壌や抗菌ペプチドが産生されるマクロファー ジ内が挙げられる.サルモネラ菌は,低Mg2+ 環境下,
高濃度Fe3+ や抗菌ペプチドにさらされる危険性を回避 す る 生 存 戦 略 と し て,コ ネ ク タ ー PmrDを 介 す る PhoQ/PhoPとPmrB/PmrA情報伝達ネットワークを利 用している.
2. コネクターを介するTCSネットワーク
TCSは,環境適応以外に病原性の発現にも深くかか わる.細菌細胞が糖やアミノ酸などの栄養欠乏に陥ると 活性化されるRpoSは,サルモネラ菌の病原性調節にも かかわっている.大腸菌のIraMのように,サルモネラ 菌ではPhoQ/PhoP系に誘導されるコネクター IraPが,
RpoSの分解を促進するRssB (RR) の働きを抑制し,低 Mg2+ 環境下でRpoSに調節される遺伝子を活性化す る(31, 32) (図5a, b).また,RpoSと細胞表層ストレスに 応答するTCS, CpxA/CpxR系を結ぶコネクター,CacA が見いだされている(33) (図5b).さらに,サルモネラ菌 の毒素などを分泌する機構を直接制御しているTCSで あるSsrA/SsrB系や,RstB/RstA系もまたPhoQ/PhoP 系の制御下にある(30).マウスなどの宿主において,サ ルモネラ菌が生育するマクロファージ細胞内は低Mg2+
低pHで,さらにマクロファージが分泌する (+) に荷 電した抗菌ペプチドが多い環境である.PhoQ/PhoP系 はそれらを活性化シグナルとして認識し,病原性遺伝子 群が一斉に活性化する.このように,サルモネラ菌の病 原性遺伝子の発現はPhoQ/PhoPを司令塔として,ほか のTCSとコネクターによる調節ネットワークによって,
制御されている.
3. TCS修飾因子
ここまでに紹介してきたTCSコネクターは,どれも HKやRRに相互作用することで制御系を調節するTCS 修飾因子である.TCS修飾因子はHKに対するものも RRに対するものも約20個ずつ報告されている(表1) が,細菌内に存在するTCSの数に対してその数はまだ まだ少ない.そのなかでも,特に作用機構や制御機構に ついてよく研究されているものについて紹介する.
TCS修飾因子は,その作用対象がHKとRRに分かれ ており,HKに対して働くものをさらに細かく区別する と,HKの細胞質領域に働くもの,膜貫通領域に働くも の,ペリプラズム領域に働くものに分けることができ
る.細胞質領域に作用する修飾因子としては,キナーゼ の活性を抑えるanti-kinaseが知られている.枯草菌の 胞子形成にかかわる KinA (HK) のanti-kinaseである SdaやKipIは,KinAのリン酸化領域であるDHpドメイ ンに結合し,His残基のリン酸化を阻害する.さらに,
KipIは,その阻害タンパク質KipAが結合することで anti-kinase活性を失う.このような修飾タンパク質をさ らに修飾するタンパク質の例もある(6).
膜貫通領域に働くものでは,枯草菌の増殖に必須な WalK/WalR系 のWalK (HK) 活 性 を 抑 制 す るYycH,
YycIが報告されている.この二つの膜タンパク質は WalK/WalR系に正に制御されるため,WalK/WalR系 に対する負のフィードバック制御を行っている(34).
ペリプラズム領域に働くものでは,NlpEのような外 膜リポタンパク質,CpxP, TorTのようなペリプラズム タンパク質,そして SafA, MgrB, MzrA のようなペリ プラズム側に作用領域がある膜タンパク質が報告されて いる(6).特に,CpxPはCpxA (HK) に結合することで ペアであるCpxR (RR) の脱リン酸化を促進し,リン酸 化CpxRレベルを下げることにより系を抑制する.これ らは,HKのセンサー領域に作用することでHKの立体 構造の変化を引き起こし,HKの酵素活性を細胞の外側 から調節していると考えられる.
RRを修飾する因子は,RRのリン酸化状態やDNA結 合能を変えるものと,IraMやIraPのようにanti-adap- torとして作用するものがある.表1に示したように,
ほとんどが枯草菌の胞子形成あるいは形質転換能に関与 するSpo系,Com系に対するものであり,HKを修飾す る因子ほど種類は多くない.また,RRを修飾すること でTCS活性を抑制するものが多く,活性化するものは 現在までにPmrDの報告しかない(26).
このようにTCS修飾因子は,TCSを調節する詳細な メカニズムやその因子の発現制御がよく知られているも のもあるが,その多くはまだ明らかとなっていない.こ のようなTCS修飾因子のなかにはTCS間をつなぐコネ クターが存在する可能性がある.また,TCS以外のシ グナル応答系からTCSへと情報を伝達するコネクター として働くものの存在も考えられる.Mitrophanovらは TCSとほかの制御系をつなぐもの をコネクターと定 義しており(7),TCS制御下にないTCS修飾因子もまた,
コネクター候補として位置づけることで,さらに広範な 情報伝達ネットワークを描くことになろう.
おわりに
本稿で紹介したコネクターは,分子量の小さいタンパ ク質(ペプチドと称したほうが適当なものもある)が少 なくない.これらのタンパク質は,そのサイズのために ゲノムのアノテーションで見過ごされてしまうケースも 多い.また,それぞれのコネクターや関連ペプチド因子 は互いにほとんど相同性を示さないためにアノテーショ ンを困難にしているが,同時に相同性を示さないこと が,あるコネクターが特定のTCSを標的とし,さらに はTCSネットワークの各経路に厳密性をもたらすゆえ んと考えられる.サイズの小さなタンパク質(small proteins ; アミノ酸50残基以下)に着目し,その発現や 機能を網羅的に研究しているグループによると,small proteinsは,シグナルペプチド,シャペロン,膜タンパ ク質の安定化因子,レギュレーターなどの機能を有す る(35).大腸菌で見つかった60種のsmall proteinsのう ち半数以上が
α
-helixからなる膜貫通領域をもつ膜タン パク質であることも small proteins の特徴である(36). また,細菌の膜上で膜タンパク質を修飾する疎水性ペプ チドのなかには情報ネットワークの形成に関与するもの もあり(37),small proteins は新規コネクターのソースと して注目される.新規コネクターのさらなる同定とその 起源の探求,また新たなコネクターの分子機構の解明が 今後も当面の研究課題である.細菌情報伝達ネットワークの研究は,今その扉が開か れたばかりである.ゲノムサイエンスの進展と次世代 シーケンサーを用いた,高品質なトランスクリプトーム 解析技術の進歩は,細菌情報伝達の精緻な解析を可能に している.細菌の情報伝達システムの全貌が解明される 日も遠くはない.21世紀,細菌情報伝達地図と代謝地 図をもって,細菌の秘められたる新しい世界が切り開か れることを期待したい.
謝辞:本稿におけるコネクターの研究成果は,日本学術振興会科学研究 費 (JSPS), 基盤研究 A (20248012) ならびに若手研究 A (23688013), 文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(平成23年〜平成27 年,S1101035),公益信託林女性自然科学者研究助成基金の助成で,実 施されたものです.
文献
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Ji, Q. Liu, S. N. Peterson, C. He & T. Bae : , 86, 331 (2012).
プロフィル
江口 陽子(Yoko EGUCHI)
<略歴>1986年京都大学農学部食品工学 科卒業/1988年京都大学大学院農学研究 科 食 品 工 学 専 攻 修 士 課 程 修 了/1988 〜 1991年住友製薬株式会社/2001 〜 2004年 近畿大学大学院農学研究科応用生命化学専 攻博士課程修了/2004 〜 2006年同大学農 学部応用生命化学科博士研究員/2006年 京都大学生態学研究センター博士研究員/
2006年より近畿大学農学部バイオサイエ ンス学科博士研究員<研究テーマと抱負>
細菌情報伝達系である二成分制御系のセン サータンパク質におけるシグナル感知と活 性制御機構<趣味>旅行,山歩き,フィ ギュアスケート観戦
加藤 明宣(Akinori KATO)
<略 歴>1995年 近 畿 大 学 農 学 部 農 芸 化 学 科 卒 業/2000年 近 畿 大 学 大 学 院 農 学研究科博士後期課程修了/同年米国 Washington 大 学 (St. Louis) School of Medicineポ ス ト ド ク ト ラ ル フ ェ ロ ー/
2002年 同 大 学 Howard Hughes Medical Institute (HHMI) リサーチアソシエート を経て,2007年より近畿大学大学院農学 研究科講師<研究テーマと抱負>サルモネ ラ菌を中心とした近縁の病原細菌における 情報伝達ネットワークの分子機構および進 化.PmrD, PmrR, CacAなど,ユニークな ペプチド(またはスモール因子)の研究,
また,ペプチドドラッグへの応用展開も進 行中<趣味>テニス,旅行
石井 英治(Eiji ISHII)
<略歴>2008年近畿大学農学部農芸化学 科卒業/2010年同大学大学院農学研究科 博士前期課程修了/2013年同博士後期課 程修了/同年4月京都大学ウィルス研究所 博士研究員<現在の研究テーマと抱負>細 菌の情報伝達ネットワークの解明<趣味>
読書,旅,フットサル,映画鑑賞
内海龍太郎(Ryutaro UTSUMI)
<略歴>1974年京都大学農学部林産工学 科卒業/1982年京都大学大学院農学研究 科博士課程修了(農芸化学専攻)/同年近 畿大学農学部助手/1987年同講師/1988
〜 1989年米国ニュージャージー州立医科 大学博士研究員/1991年近畿大学農学部 助教授/1996年同教授<研究テーマと抱 負>細菌情報ネットワークと情報伝達阻 害剤の開発と応用<趣味>水泳,ゴルフ,
ジョギング