4 抽象 HJM モデル
この章を通じて,特に断らない限り,(Ω,F,P)を完備確率空間とし,{Wt}をd次元の標準Wiener 過程,{Ft}をWiener過程からなるフィルトレーションとし,右連続でF0はFのP-零集合をすべ て含むと仮定する。また,F =F∞:=∨t∈R+Ftとする。また,Musielaの記号に従うとする。す なわち,現時点をt,満期をTとしたとき,現時点から満期までの時間をx=T −tとし,債券価 格をPt(x) :=P(t, t+x),フォワードレートをft(x) :=f(t, t+x) (t, x≥0)とする。
4.1 HJM発展方程式
この章での目標は下のHJMモデルを解析することである。
dft(x) = ( ∂
∂xft(x) +αt(x))dt+ X∞ i=1
σit(x)dWti (4.1) ここで無裁定条件より,
αt(x) = X∞
i=1
σti(x) Z x
0
σti(u)du (0≤t≤T) (4.2) である。
ここでは関数空間F上に値をとるFt-可測な確率ベクトルとして,フォワードカーブx→ft(x) を考えたい。また,Wiener過程としては,実可分Hilbert空間G上で定義された柱状Wiener過程 を考える。また,Gの双対空間をG∗とし,GとG∗を同一視する。(4.1)を解析するために,フォ ワードカーブに対する状態空間Fを選ぶ必要がある。この章を通して,Fに必要に応じて,随時 仮定を付け加えていくことにする。まず最初に次のことを仮定しておく。
Assumption 4.1. 1. F を可分Hilbert 空間とし,その元をR-値連続関数で,定義域 χ は [0, xmax]もしくはR+である。また,x∈χに対して,汎関数δx(f) =f(x)はwell-defined で,F∗の元とする。
2. {St}t≥0はF 上で強連続で,(Stf)(x) =f(t+x)となる半群とする。また,{St}t≥0の生成 作用素をAとする。このとき,一般にAは有界であるとは限らない。
3. FHJMはD(6=φ)⊂ L(2)(G;F)からFへの可測写像で,FHJM(σ)(x) :=hσ∗δx, σ∗IxiG (各 σ∈ L(2)(G;F))とする。ただし,Gは実可分Hilbert空間とし,Ix(f) :=Rx
0 f(s)dsとする。
これらの仮定にいくつか注意を与えておく。
まずはF ⊂ L1loc(χ)6 でなければならない。これは,P(t, T) = exp (−RT−s
0 ft(s)ds)が意味を持 たないといけないためである。しかし,一般に金利の期間構造が動くところではフォワードカー ブは満期までの時間xの関数として,滑らかである。よって,Assumption4.1.1は意味を持ち,明 らかにF ⊂ L1loc(χ)である。
また,次のことが分かる。
Proposition 4.2. Ix(f) =Rx
0 f(s)dsは,各x∈χに対して,F 上連続である。
6L1loc:=n
{ft}t∈[0,∞)
˛˛
˛ft(ω)はF-値{Ft}-適合な確率過程で,F × B([0,∞))-可測,RT
0 ||ft||dt <∞ ∀T >0o
Proof. ¯
¯¯
¯ Z x
0
f(s)ds
¯¯
¯¯≤x sup
s∈[0,x]
|f(s)| ≤x sup
s∈[0,x]
||δs||F∗||f||F
ここで,δx∈F∗より,sups∈[0,x]|δs(f)|<∞である。Banach-Steinhausの定理7より, ||f||F ≤ 1, δx ∈ F∗ ならば,∃M < ∞ s.t. ||δx|| ≤ M となる。よって,f ∈ F, δx ∈ F∗ ならば,
|δxf| ≤M||f||F となり,sups∈[0,x]||δs||F∗ ≤M となる。
ゆえに, ¯
¯¯
¯ Z x
0
f(s)ds
¯¯
¯¯≤ ∃C
となり,IxはF 上連続となる。
Assumption4.1.より,スポットレートrt = ft(0) = δ0(ft)が,well-defined である。スポット レートが定義されたら,無リスク預金は通常の数理ファイナンスの議論と同じように,
Bt= exp µZ t
0
rsds
¶
と定義される。またこれを基本財として,割引債券価格を Pet(x) = Pt(x)
Bt = exp µ
− Z t
0
rsds− Z x
0
ft(y)dy
¶
(4.3) と定義する。
また,Assumption4.1.3について,Assumption4.1.1.よりF の元は連続なので,任意のσ ∈ L(2)(G;F)に対して,x→FHJM(σ)(x)は連続である。しかし,σ→FHJM(σ)は必ずしもFの元 ではなくσ ∈Dでなければならない。Assumption4.1.3.はたいていチェックするのは難しい。そ のため,具体例を扱う中で使いやすい十分条件を後に与える。
Assumption 4.3. FがAssumption4.1.1.とAssumption4.1.2.を満たしているとする。
さらに,∃F0 ⊂F が存在して,2項演算子?を(f ? g)(x) =f(x)Rx
0 g(s)ds:F0×F0 →F と し,f, g ∈F0に対して,
||f ? g||F ≤C||f||F||g||F (4.4) とする。ただし,C >0は定数である。
Proposition 4.4. F がAssumption4.3.を満たしているとする。このとき写像FHJMは局所Lip-
schitz条件を満たす。すなわち,
||FHJM(σ1)−FHJM(σ2)||F ≤C||σ1+σ2||L(2)(G;F)||σ1−σ2||L(2)(G;F) (∀σ1, σ2∈ L(2)(G;F0)) とする。特にFHJMはD=L(2)(G;F0)からF への写像として可測である。
Proof.
||f ? f −g ? g||= 1
2||(f −g)?(f+g) + (f+g)?(f−g)|| ≤C||f −g||||f+g|| (4.5)
7Xを完備距離空間,Y を位相空間とし,ΓをXからY への連続線形写像全体とし,さらにΓ(x) ={Λx|Λ∈Γ}
はY 上有界とする。このときΓは同程度連続となる。 証明は[29]を参照。
である。次に,{gi}i∈Nを完全正規直交系とする。このとき,σ∈ L(2)(G;F0)に対して FHJM(σ)(·) = hσ∗δ·, σ∗I·iG
Parseval= X
n
hσ∗δ·, gniGhgn, σ∗I·iG
= X
n
hδ·, σgniFhgn, σI·iF
= X
n
σgn(·) Z ·
0
σgn(s)ds
= X
n
(σgn)?(σgn) となる。よって,
||FHJM(σ1)−FHJM(σ2)||F ≤
三角不等式
X∞ n=1
||(σ1gn)?(σ1gn)−(σ2gn)?(σ2gn)||F
≤
(4.5) C
X∞ n=1
||(σ1−σ2)gn||F||(σ1+σ2)gn||F
≤
Schwarz C||σ1−σ2||L(2)(G;F)||σ1+σ2||L(2)(G;F) ここで,A ∈ L(2)(G;F)に対して,||A||2L
(2)(G;F) = P
n∈N||Agn||2F であることに注意してお く。また,FHJM(σ) = P
n∈N(σgn)?(σgn)は仮定よりD→ Fとして可測である。さらに,σ → (σgi)?(σgi)(∀i∈N)はL(2)(G;F0)→Fとして可測である。よって,FHJM(σ)はL(2)(G;F0)→F として可測である。
スポットレートをft(0)で定義するのと同じ方法で,ロングレートはχの右端の点での値として 定義する。つまり,χ= [0, xmax]のとき,lt=ft(xmax),χ=R+のときは,lt=ft(∞)とする。
そのため,χ=R+のとき,任意のf ∈Fに対して,f(∞) = limx→∞f(x)が存在するかを確認し なければならない。