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はじめに 日本では 少子 高齢化による労働力供給の構造変化により 仕事における女性の活躍への期待が大きくなっている しかし 女性の就労者は増えているのにもかかわらず 諸外国と比較してもわかるように 日本では現在も女性管理職が少ない状態である 今後 日本は女性管理職が活躍する社会にはならないのだろうか

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Academic year: 2021

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日本企業における女性管理職

目次 はじめに 第1章 女性管理職の現状 1-1 日本の場合 1-2 諸外国の場合 第 2 章 女性管理職の増加を阻む要因 第 3 章 女性管理職の増加に向けての取組み 3-1 ポジティブ・アクション 3-2 企業事例 1 株式会社資生堂 3-3 企業事例 2 住友 3M 株式会社 3-4 企業事例 3 日本 IBM 株式会社 まとめ 参考文献 国際経済学科 4 年 田口 美貴

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はじめに

日本では、少子・高齢化による労働力供給の構造変化により、仕事における女性の活躍へ の期待が大きくなっている。しかし、女性の就労者は増えているのにもかかわらず、諸外 国と比較してもわかるように、日本では現在も女性管理職が少ない状態である。今後、日 本は女性管理職が活躍する社会にはならないのだろうか。現状と女性管理職増加を阻む要 因を踏まえた上で、女性管理職の増加に向けての取組みのひとつとして、実際にポジティ ブ・アクションを推進している企業事例から、女性管理職の増加への一歩を探る。

第1章 女性管理職の割合について

第 1 章では、日本における女性管理職が少ない現状を把握するため、1-1 では日本 のみの役職別女性管理職割合を挙げ、1-2 では諸外国と比較した場合の、日本の女性 管理職割合を挙げる。

1-1 日本の場合

まず、女性管理職を有する企業の割合と、管理職に占める女性の割合を挙げる。 厚生労働省発表の「平成 12 年度女性雇用管理基本調査」によると、役職別に見た 女性管理職を有する企業割合は、部長相当職で 7.4%(平成 10 年度 5.8%)、課長相 当職で 19.0%(同 17.1%)、係長相当職では 31.2%(同 32.2%)となっており、未 だ全く女性管理職がいない企業も多いことが分かる。(図表 1) 図表1 役職別女性管理職を有する企業割合(全企業=100%) 5.8 17.1 32.2 7.4 19 31.2 0 5 10 15 20 25 30 35 部長相当職 課長相当職 係長相当職 平成10年 平成12年 (厚生労働省「平成 12 年度女性雇用管理基本調査」) 次に、女性管理職を有する企業の役職別管理職全体に占める女性の割合をみると 、 部長相当職では 1.6%(平成 10 年度 1.2%)、課長相当職では 2.6%(同 2.4%)と なっており、管理職に占める女性の割合は非常に低く、ほとんど男性の管理職である ことがわかる。また、平成 10 年度から平成 12 年度にかけて、管理職に占める女性の

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割合に増減はほぼない。(図表 2)

図表2 役職別管理職に占める女性の割合(該当役職がある企

業=100%)

1.2

2.4

7.8

1.6

2.6

7.7

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

部長相当職

課長相当職

係長相当職

平成10年

平成12年

(厚生労働省「平成 12 年度女性雇用管理基本調査」) また、管理職に占める女性管理職の割合の推移を見ると、増加傾向にはあるものの、 大きな変化はない。(図表 3) 図表3 役職別管理職に女性が占める割合の推移 5 6.4 7.3 7.8 7.7 2.1 2.3 2 2.4 2.6 1.2 1.2 1.5 1.2 1.6 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 平成元年 平成4年 平成7年 平成10年 平成12年 係長 課長 部長 以上のように、日本の企業における女性管理職の割合は極めて低く、ここ 10 年ほ ど女性管理職の割合は、さほど変化がなく横ばい状態が続いている。では、日本以外 の諸外国での女性管理職の割合はどのくらいなのだろうか。次に、各国の女性の就業 割合と女性管理職の割合を挙げる。

1-2 諸外国の場合

諸外国の女性の就業割合と管理職に就く割合を見てみると、就業者割合は、アメリ カ 46.6%、日本 41%とさほど違わないが、女性管理職の割合は、アメリカ 46%、日 本 8.9%であり、日本の女性管理職の割合は極端に低いことがわかる。(図表 4)

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図表4 女性の就業割合と管理的職業従事者割合(%)

41 41.3 39.1 46.6 48 44.9 8.9 4.9 58.1 46 30.5 30

0

10

20

30

40

50

60

70

ィリ

就業者割合

管理的職業従

事者割合

(内閣府 男女共同参画局「平成 14 年度男女共同参画社会の形成の状況に関する年 次報告」) 図表 4 の女性就業者割合の 41%に対し、女性管理職割合 8.9%という数字はあまり にも少ない数字ではないだろうか。せめて、女性の就業者割合に比例した女性管理職 の割合にはならないのだろうか。

第2章 女性管理職の増加を阻む要因

第 2 章では、女性管理職の現状を踏まえた上で、なぜ女性管理職が少ないのか、ま たなぜ増加しないのか、女性管理職の増加を阻む要因を考える。 女性管理職の増加を阻む要因は、大きく分けて 3 つの要因がある。1 つ目に、管理 職になるために必要な経験を積む前に、出産や育児のために退職してしまうというこ とである。図表 5 は子を出生した女性の退職理由を表しており、出産・育児のために 退職した女性は、86.7%と極めて高くなっている。次いで育児休業が取りにくかった ためが、15%となっており、仕事と子育ての両立が難しいという状況がわかる。

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図表5 子を出生した女性の退職理由

86.7

15

8.3

5

0

20

40

60

80

100

出産、育児のため

育児休業が取りにくかったため

結婚したから

希望退職に応じたから

(厚生労働省「第 2 回 21 世紀成年者横断調査」) 2 つ目の要因としては、職場で、男女間に制度や待遇に差があり、何らかの固定観 念があるからという理由である。図表 6 は、「あなたの会社では女性と男性で制度や 待遇に差がありますか」という質問に対しての回答である。大きく格差があると考え る女性は 46.7%、格差はあるが納得できる範囲と考える女性は 36.7%となっており、 合わせると 83.4%に昇る。図表 6 の数字を見る限り、日本の企業はいまだ女性が働 きやすいとは言いがたい職場環境である。 図表6 あなたの会社では女性と男性で制度や待遇に差がありますか?

1.3%

15.2%

36.7%

46.7%

大きく格差がある

格差はあるが納得できる

範囲

格差はない

回答なし

(生活スタイル研究所「働く女性白書 2004」)

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3 つ目の要因は、女性は管理職になるために必要な知識や経験が少ないからという 理由である。図表 7 は、企業が答えた女性管理職が少ない又は全くいない理由で、必 要な知識や経緯、判断力等を有する女性がいないが 43.6%である。経験という視点 のみから考えた場合、図表 6 で述べたように出産や子育てのために辞めてしまうゆえ に、経験を積んでいる女性従業員がいないこととも関連する。

図表7 女性管理職が少ない又は全くいない理由別企業割合

43.6

35.4

29.8

16.3

11.4

0

10

20

30

40

50

必要な知識や経験、判断力等を有する女性がいない 勤続年数が短く、役職者になるまでに退職する 将来就く可能性のある者はいるが、役職につくための在 籍年数等を満たしていない 女性が希望しない 家庭責任があるので責任ある仕事に就けられない

(厚生労働省「平成 12 年度女性雇用管理基本調査」) 以上のような 3 つの要因により、現在の日本企業では、女性管理職が少ないままの 状態が続いている。3 つの要因を解消し、女性管理職が増加するためには、どのよう な取組みが必要だろうか。

第 3 章 女性管理職の増加に向けての取組み

第 3 章では、3-1 で女性管理職の増加に向けての取組みのひとつとして、ポジティ ブ・アクションについて述べ、3-2 では実際にポジティブ・アクションを推進してい る企業事例を挙げる。

3-1 ポジティブ・アクション

アメリカ発祥のポジティブ・アクションは、日本では、一般的に「積極的差別是正 措置」や「積極的格差是正措置」のように訳されており、厚生労働省の女性の活躍推 進協議会提出の「ポジティブ・アクションのための提言」では、ポジティブ・アクシ ョンとは「個々の企業において、固定的な男女の役割分担意識に基づく慣行、通念に より、事実上、男女労働者間に何らかの差が生じている場合、それを解消するために、 個々の企業が自主的かつ積極的に進める取組のことである」とし、女性であるがゆえ に優遇することでも、逆差別でもないことを強調している。 つまり、ポジティブ・アクションとは、企業主が男女労働者間に何らかの差が生じ

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ていると考えた場合に、何らかの措置を講じる取組みのことである。 ポジティブ・アクションを推進する企業主に対しては、平成 9 年の改正男女雇用機 会均等法で、国が援助できるようになっている。また「女性労働者の能力発揮促進の ための企業の自主的取組ガイドライン」では、企業がポジティブ・アクションに取り 組む上で参考となる考え方や具体的取組方法の例を以下のような順で示しており、企 業主が従業員構成や男女別に年齢分布、配置部門、資格等級・役職別人員等のデータ を書き込み、集計することによって、女性活用状況の特色を読み取り、問題の把握、 対策の検討、目標の設定等に取り組むことのできるポジティブ・アクションのための ワークシートも用意している。 1.現状の分析と問題点の把握 2.具体的取組み計画の作成 3.具体的取組みの実施 4.具体的取組みの成果の点検と見直し 5.積極的取組みを行なうための体制とコンセンサスづくり また政府は「指導的地位」で女性が占める割合を、2020 年までに 30%程度に引き 上げる目標を掲げ、ポジティブ・アクションを推進している。 では、ポジティブ・アクションは企業に浸透し、実際に取り組みは為されているの だろうか。厚生労働省発表の「平成 12 年度女性雇用管理基本調査」(図表 8)によ ると、現在ポジティブ・アクションに「既に取り組んでいる」とする企業割合は 26.3%、 「今後取り組むこととしている」企業割合は 13.0%、「今のところ取り組む予定は ないとする企業割合は 34.2%である。また「既に取り組んでいる」企業割合を規模 別にみると 5,000 人以上規模を誇る企業で 67.7%と最も高く、規模が大きい企業ほ どポジティブ・アクションに取り組んでいることがわかる。しかし、上記のような数 字を見る限り、ポジティブ・アクションが全体的に普及しているとは言えない。 図表8 規模別ポジティブ・アクションの推進状況(全企業=100%) 26.3 67.7 57.9 41.1 32.3 22.2 13 5.2 9.5 14.7 13.6 12.8 34.2 14.1 16.1 21.7 27.9 37.7 26.5 13 16.4 22.4 26.3 27.3

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

50

00

10

00

49

99

30

0~

99

9人

10

0~

29

9人

30

99

わからない 今のところ取り組む予定は ない 今後取り組むこととしてい る 既に取り組んでいる (厚生労働省「平成 12 年度女性雇用管理基本調査」)

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しかし一方で、ポジティブ・アクションにより大きな成果を挙げている企業もある。 大きな成果を挙げている企業として、 ・株式会社資生堂 ・住友 3M株式会社 ・日本IBM の3 社を例として挙げ、女性管理職増加への手がかりを探りたい。

3-2

企業事例 1 株式会社資生堂

株式会社資生堂では、ポジティブ・アクションを積極的に推進し、平成 16 年には 均等推進企業として厚生労働大臣賞最優良賞を受賞している。 会社概要は以下の通りである。 会社概要 従業員数 2,696 名(男性 1,615 名 女性 1,081 名) 平均年齢 38.9 歳(男性 41.9 歳 女性 35.8 歳) 平均勤続年数 17.1 年(男性 19.2 年 女性 15.0 年) 平成 12 年 10 月 1 日現在 資生堂のポジティブ・アクションへの取組みは、平成 11 年 12 月に社の方針として 「ジェンダーフリー」を掲げたことから始まり、平成 12 年 1 月からは、「ジェンダ ーフリー推進プロジェクトチーム」を本社人事部に設置し、女性社員の活用促進のた めの行動項目を定めている。「ジェンダーフリー推進プロジェクト」の発足は、毎年 社員を対象に実施している意識調査(ステークホルダー指標)の声を反映した結果で あり、意識調査により男性社員からは、「お茶くみや電話受理、メール配り等は女性 の仕事」や「女性に責任ある仕事をさせるのはかわいそう」という声があがり、一方、 女性からは「女性だから責任のある仕事は避けられる」や「女性だから仕方がないと 思う」などの声があがったそうだ。資生堂では、調査結果より、女性と男性の違いを 必要以上に強調したり、役割を性別で分けたりするジェンダー意識が働いていると考 え、男だから女だからといった枠にはめたものを取り払い、最大限に能力を発揮する ことを目的に「ジェンダーフリー推進プロジェクト」が発足したとのことである。 さらに、平成 12 年 10 月には、男女共同参画の「ポジティブ・アクション 5 つの目 標」を定めるとともに、副社長を委員長とした「ジェンダーフリー委員会」を設置し ている。 「ポジティブ・アクション 5 つの目標」とは、以下の通りである。 1.男女を問わず、一人ひとりがもてる能力を十分に発揮することが資生堂の男女共同 参画である 2.管理職は、マネジメントにおける意識と行動の変革を実践する 3.「女性だから」という女性社員の消極的な認識を改める 4.人事制度を男女に中立な視点で見直す 5.女性社員の育成に力を注ぎ、意欲と能力のある人材を公正かつ積極的に登用する 資生堂では現在に至るまで、様々なポジティブ・アクションプログラムを推進して

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いるが、具体的な取組内容を大きく分けると以下の 3 つである。 ・セクシュアルハラスメントの防止

・女性リーダーの育成・登用 ・仕事と子育ての両立支援

1つ目のセクシャルハラスメントの防止策としては、平成 9 年に企業倫理委員会を 発足し、「資生堂企業倫理・行動基準」(「THE CODE」)を制定し、「THE CODE」に 基づいてセクシュアルハラスメント防止に努めている。平成 12 年 4 月からは本格的 なセクシュアルハラスメント防止対策を行っており、具体的にはパート・アルバイ ト・派遣社員を含めた全従業員に対し、セクシュアルハラスメント防止ガイドブック の「職場のセクシュアルハラスメント防止のために」と相談カードを配布している 。 また、資生堂各グループの全事業所に相談窓口を設置し、職場の仲間には相談しにく いという従業員のために、相談できるようにしている。一方、役員や管理職に対して は、セクシュアルハラスメント相談担当者が主体となり、セクシュアルハラスメント 防止に対する考え方や取組姿勢、相談体制等についての研修会を実施している。 2 つ目の女性リーダーの育成・登用では、「女性のためのステップアップフォーラム」 と「女性の管理候補者育成プログラム」を行っている。「女性のためのステップアップ ファーラム」は、未来の女性管理職を育てようと、係長相当職である主事クラスの全国 の中堅女性従業員を対象に開催し、 ・今後のキャリア形成に向けた自らの努力目標を設定する ・社内外の先輩男女管理職の経験談を聴講し、相互に交流することを通して、将来に 対する動機づけを図る ・職場や業務のリーダーとなるために必要な知識・スキルを磨く ・受講者間の交流を図り、ネットワークを広げる など、女性従業員のキャリア形成への意識啓発を促している。 一方、「女性の管理候補者育成プログラム」は、すでに管理職の者、つまり上に立 つ者の意識改革を目指すものであり、プログラムでは、能力のある女性には、難易度 の高い業務を積極的に与えていくこと、男女問わず基準に照らした公正な評価を行う ことを基本とし、さらに、女性従業員の育成の必要性を認識させるために、業績申告 書に女性従業員の育成計画の具体的目標を設定することを義務付けている。 3 つ目の仕事と子育ての両立支援としては、育児休業制度、育児時間制度、介護休 業制度、育児休業者支援システム「wiwiw(ウィウィ)」、事業所内保育所設置など 支援策を展開している。 育児休業制度は、平成 2 年という早い時期から導入し、子供が満 3 歳になるまで、 2 回以上、原則として通算 5 年までを限度として取得できる。取得可能な期間に注目 すると、他の企業では子供が満 1 歳になるまで取得できる企業が多いが、資生堂の育 児休業制度では子供が 3 歳になるまで取得できるため、女性従業員は長い間育児に専 念することもできる。人数としては、平成 15 年調べで、グループ全体で 627 名の女 性従業員が育児休業制度を利用している。 育児時間制度は、平成 3 年に導入し、育児時間として、1日 2 時間まで、子供が小

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では子供が 3 歳まで利用できる企業が最も多いため、資生堂の育児休業時間制度は優 れていると言える。人数としては、平成 15 年調べで、グループ全体で 424 名が利用 している。 育児休業者支援システム「wiwiw(ウィウィ)」は平成 13 年に導入した制度で、イ ンターネットを通じて育児休業者の職場復帰と育児生活を支援している。具体的には、 育児休業者は在宅で講座を受けたり、掲示板から会社の最新情報を確認できるシステ ムで、育児休業中の会社離れを防ぐ目的があり、実際に利用した女性従業員からは、 「会社の状況がわかり、安心して子育てができる」など評価は高い。 さらに、平成 15 年 9 月には、事業所内保育所を開設し、女性従業員が仕事の休憩 に子供の様子を見に行くこともできるなど、仕事と子育てがしやすいよう配慮してい る。 以上のように、資生堂では、組織の風土や慣習の改善を目的とし、「ジェンダーフ リー推進プロジェクト」を発足させ、積極的にポジティブ・アクションを実施し、ま た、仕事と子育ての両立が可能となるような制度を多数設けたことにより、資生堂の 女性性社員の平均勤続年数では 15.0 年、女性の結婚後の継続就業者の割合も、58.1% となっており、会社への定着率も良くなっている。また平成 16 年度報告によると、 女性管理職の比率は、平成 14 年度の 5.3%から、平成 16 年度には 10.4%に、営業職の 女性採用比率は、平成 14 年度の 29.4%から平成 16 年度には 43.6%に、さらに女性 比率は、係長クラスで 15.6%、部長クラスで 6.2%まで上昇している。以上のような 結果から、実際の数字として、女性管理職の割合が増えており、資生堂はポジティブ・ アクションにより効果を上げている企業であると言える。 つづいて、資生堂とは、異なる手法によりポジティブ・アクションにアプローチし ている住友 3M株式会社の例を挙げる。

3-3

企業事例 2 住友 3M 株式会社

住友 3M株式会社の会社概要は以下の通りである。 会社概要 従業員数 1,900 名(男 1,611 名、女 289 名) 平均年齢 42.9 歳(男 44.3 歳、女 35.4 歳) 平均勤続年数 19.4 年(男 20.3 年、女 14.2 年) ※ 平成 15 年 12 月 31 日現在 住友 3M 株式会社は、人事部と女性従業員から課題を提起し経営トップに提案する ことを目的としたプロジェクトチーム「Eve21」の両機関で女性従業員の活用促進に 取り組んでいる。 「Eve21」は年に発足し、メンバーは活動目的に同意する従業員で、1 期目は人事部 が依頼した従業員、2 期目は自主的に手をあげた従業員、3 期目はホームページ上で 全社員を対象に募集し応募してきた従業員で構成している。メンバーは 1 年ごとに変 更し、毎期 10 名前後で活動している。 「Eve21」の具体的な活動としては、1 期目に全女性従業員を対象とした「女性社 員職場環境調査」に取り組んだ。住友 3M 株式会社では 2001 年 4 月採用者までコース

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別雇用管理を行っており、一般職から総合職へのコース転換は他部門への移動が前提 であった。しかし、「女性社員職場環境調査」の中で「部門は同じままで一般職から 総合職に転換したい」という声があがったため、「Eve21」は制度の見直しを人事部 に提案した。その結果、同一部門内で一般職から総合職に転換できることとなり、平 成 12 年には 2 名、平成 13 年には 13 名、平成 14 年には 6 名が総合職に転換している。 また「Eve21」によるメンタリング導入の提案により、人事部が主体となりメンタ リング・プログラムを推進している。住友 3M株式会社でのメンタリング・プログラ ムについて触れる前に一般的なメンタリングの定義について述べる。 慶應義塾大学大学院経営管理研究科の渡辺直登教授によれば、メンタリングとは 「熟した年長者(メンター)が、若年者や未熟者(メンティー、プロテジェ)と、基 本的に 1 対 1 で、継続的、定期的に交流し、信頼関係の構築を通じて、メンティーの 心理・社会的な成長を支援するとともに、キャリア発達を支援すること」を意味する。 メンターという名称は、古代ギリシャ時代の有名な叙述誌『オデュッセイア』の中で オデッセウス王のかつての親友であったメントールという男性が、王の息子テレマコ スの教育を任され、王が遠征している間息子の良き支援者、指導者、理解者となり見 事にテレマコスに帝王学を教えたことに由来している。メンタリングの発祥はアメリ カで、およそ 100 年前に発足した BBBS 運動(Big Brothers Big Sisters Movement) による非行少年少女の更正支援活動のひとつとして始まった。BBBS のメンタリング・ プログラムの研究結果によると、メンタリングを受けた青少年は、メンタリングを受 けなかった青少年に比べて、薬物使用が 46%、飲酒が 26%、暴力が 66%、怠業が 50% 少ないという。以上のようにメンタリングは、BBBS の活動のひとつとして始まった が、現在のアメリカでは非行防止、シングル・ペアレント家庭の子どもの支援、また 学業不振、怠業などの影響を受けている青少年への支援活動として、全米で 2000 を 超える団体がメンタリング・プログラムを提供し、すでに 90%以上の会社が何らか のメンタリング・プログラムを導入している。また一連の調査研究から、メンタリン グは「メンタルヘルス」「職務満足」「業績」と統計的に有意に関係していることが 明らかになっている。 一方、日本では、一部企業で実施されている程度であるが、最近ではテレビや新聞 にも取り上げられることが多く、注目度は高い。 日本で先駆けて導入している企業のひとつが住友 3M株式会社である。住友 3M株 式会社でのメンタリング・プログラムとは、役員や事業部長クラスの人(メンター) が、女性従業員(メンティー)に対して、キャリア形成や能力開発について心理的側 面から一定期間継続して支援する活動を意味する。 メンティーは、人事部のオリエンテーションを通じて申し込んだ女性従業員で平成 14 年度は 6 名、平成 15 年度は 34 名である。 メンティーはメンターを直接指名することはできないが、どういった人にメンター になってもらいたいかの希望を人事部へ出し、人事部がメンターを決めている。実際 には、ビジネス経験や海外勤務の経験がある人、技術研究や女性の部下が多くいる部 門長などにメンターになってほしいとの希望がある。またメンターとメンティーは直 接上下関係にない者の組み合わせとしている。活動の頻度は、月 1 回 1 時間程度で、

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ンティーが実際に取り組んでいるビジネスの悩みについての話しが多いとのことで ある。メンタリング・プログラムに参加したメンティーの感想は、「客観的なアドバ イスをもらい、仕事に活かせた」や「仕事に対して前向きに取り組めるようになった」 など多くを学ぶことができたという声が多く、メンタリング・プログラムがキャリア 形成支援として成果を挙げていることがわかる。一方メンターの感想では、「優秀な 女性従業員の存在を知った」や「自分自身の見識が広がった」など自分にとってプラ スになったと考えるメンターが多い。本来メンタリング・プログラムは女性のキャリ ア形成支援が目的であるが、メンターの感想を見ると、男性の女性に対する意識改革 にも繋がっていることがわかる。 当初メンティーは女性従業員のみであったが、現在は入社後間もない男性従業員も 対象としている。 また人事部は、「Eve21」の活動とは別に、さらなる女性従業員の活用促進のため、 ・女性管理職の増加 ・女性販売職の増加 ・セクシュアルハラスメントの相談窓口設置 などに取り組んでいる。 女性管理職を増やすために、人事部は管理職候補の女性従業員をリストアップし、 女性従業員が配属する各部門長が、女性が管理職になるための個別育成計画を作成、 実施している。 実際に育成計画により、5 名の女性が管理職となった。全体の女性管理職数は平成 13 年度の 9 名から平成 16 年度には 18 名まで増加している。(女性の最高位は能力 開発部門の部長で、あとの 17 名は課長職に相当するマネージャー)割合で見ると、 平成 13 年度の約 0.6%から平成 16 年度には 2.4%まで上昇しており、平成 18 年には 5.5%にすることを目標にしている。 また、女性販売職を増やすために、販売職は総合職であり転勤があるが、一般職の 女性が販売職にチャレンジする場合は、本人が望めば転勤せずに仕事ができるような 制度に変更した。さらに、女性が少ない業界やマーケットに女性の販売職を配置する 際は、複数のサポーターやコーチ役をつけるなどの配慮をした。結果として、女性の 販売職員は平成 14 年 12 月の 15 名から平成 15 年 3 月には 25 名まで増加した。 セクシュアルハラスメントの相談窓口は各事業所に男性、女性 1 名ずつ配置してい る。 以上のように、住友 3 M株式会社のポジティブ・アクションは、女性管理職の増 加や女性販売職の増加、セクシュアルハラスメントの相談窓口設置と同時に、まだ日 本ではあまり導入されていない、メンタリングをいち早く導入することで、大きな成 果をあげている。 つづいて、日本IBMの取組みについて述べる。

3-4 企業事例 3 日本IBM株式会社

日本 IBM 株式会社の会社概要は以下の通りである。 会社概要 従業員数 19,145 名(男性 15,907 名 女性 3,238 名)

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平均年齢 39.6 歳(男性 40.6 歳 女性 34.8 歳) 平均勤続年数 14.7 年(男性 15.6 年 女性 10.5 年) 平成 16 年 12 月 31 日現在

日本IBM では、女性社員の能力活用に関する社長の諮問機関「Women’s Council」を 設立し、平成15 年までに、女性社員の比率の増大、女性の定着率を男性と同等にする こと、女性の採用比率を上げることを目標として、ポジティブ・アクションに取り組 んできた。 具体的取組内容を大きく分けると以下の通りである。 ・短時間勤務制度 ・在宅勤務「e-ワーク制度」 ・女子学生向けエキサイトキャンプ ・メンター制度 まず短時間勤務制度は、平成 16 年 1 月から導入した比較的新しい制度である。対 象社員は全社員で、短時間勤務の申請理由は原則不問である。申請理由として多いの は、育児、介護、障害等のリハビリなどであり、適用期間は、1 年で、1 年ごとに更 新するしくみである。また、育児が理由の場合、子供の中学入学まで延長して利用す ることができる。短時間勤務制度を利用した場合の勤務日時は、①3 日勤務、②週 4 日勤務、③週 5 日勤務(フルタイムの 6 割)、④週 5 日勤務(フルタイムの 8 割) 、 (フルタイムは週 5 日、38 時間労働)から選択することができる。給与は、フルタ イムより少なくなり、①と③はフルタイムの 50%、②と④はフルタイムの 70%とな っている。成果・評価に関しては、成果重視なので、短時間勤務によって評価が下が ることはないが、昇給、賞与は勤務時間に比例するとのことである。現在の利用者は 約 50 人でおよそ 8 割が女性で、育児を理由に短時間勤務を利用している女性が多い とのことである。 在宅ワーク「e-ワーク制度」とは、企業の社内情報システムと社員の自宅パソコン を結ぶ制度であり、「e-ワーク制度」により在宅勤務を実現している。対象社員は、 当初は育児・介護という理由の者に限定していたが、平成 13 年 12 月からは理由を問 わず、全社員を対象として、在宅で仕事が問題なく遂行できる人であれば在宅勤務を 認めている。また一日単位だけでなく半日単位でも利用が可能である。平成 14 年の 5 月時点で 448 人(男性 243 人、女性 205 人)が利用している。給与は通常と同一で、 評価はアウトプット評価(時間働きではなく、仕事の責任を果たしているかを基準に 5 段階の数値で評価する)である。 さらに日本 IBM 株式会社では、日本では理工系学生の女性比率は 15%ほどで、理 系女学生の絶対数が不足している現状を踏まえ、理系の楽しさを女子中高生に経験さ せ、キャリアを考える機会を与えようと、女子学生向けエキサイトキャンプを開催し ている。平成 13 年のキャンプは 8 月 6 日~10 日の期間で、女子中高学生 25 名、IBM 女性社員 50 名が参加し、物理、化学、コンピュータ・サイエンス、生命科学、天文 学、PC組み立て、ホームページ作成、発表会などを行った。 また、日本 IBM 株式会社では住友 3M 株式会社と同様にメンター制度も導入してい

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以上のような取組みの結果、日本IBM株式会社の社員の女性比率は平成 10 年の 13%から平成 15 年には 15.7%まで上昇し、女性管理職も平成 10 年から平成 15 年ま での間に係長クラスで 290 人、課長クラスで 67 人、部長クラスで 85 人、役員クラス で 3 名増加した。

まとめ

各国と比較してわかるように現在、日本企業における女性管理職の割合は極めて低 い状態であるが、対策として、ポジティブ・アクションを進めることにより、実際に 女性管理職が増加している企業もある。 第 3 章で挙げたように、株式会社資生堂では、仕事と子育ての両立支援に重点を置 いており、女性労働者が働きやすい環境を実現し、住友 3M株式会社では、メンタリ ングにより、女性従業員を心理的側面からバックアップすることで、働く上での意識 が向上している。さらに、女性従業員のサポートだけに留まらず、男性の女性に対す る意識改革にも繋がっていることがわかる。日本IBM株式会社では、新しい働き方 として、短時間勤務制度や在宅勤務制度を導入したことで、正社員として働きつづけ ながらも、子育てをすることができ、仕事と子育ての両立の問題点の大部分を解消し ている。また、短時間勤務制度や在宅勤務制度を利用した場合の給与や評価について も、基準が明確化しているため、安心して育児に専念することができるようになって いる。 以上のことから、企業事例の 3 社のように、女性への固定観念のない職場であり、 仕事に対する意識を高めることができ、さらに仕事と子育ての両立が可能であれば、 日本企業で女性管理職は今以上に増加するだろう。

参考文献

外井浩志(1998)『改正男女雇用機会均等法、育児・介護休業法』、生産性出版 安藤幸子(1998)『改正男女雇用機会均等法による女性社員の能力活用法』、中央経 済社 本田勝嗣(2000)『メンタリングの技術』、オーエス出版社

参照

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