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情報通信資本が実体経済へと及ぼす影響について

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情報通信資本が実体経済へと及ぼす影響について

情報通信資本による外部性の有無の検証―

谷花佳介(広島大学大学院)

1 本稿の背景および目的

本稿においてわれわれは日米両国の経済を対象として情報通信(以下、本稿では IT と記す) 資本が実体経済へと及ぼす影響を検証する。その中でとくにIT 資本による超過収益をコン ピュータネットワークによる外部性に起因するものとしてとらえ、その存在の有無につい て考えてみたい。 近年において「情報革命」として表現されるようにIT 技術の発達とその普及は目覚まし い。例えば製造業を中心に1980 年代において製造現場での FA 化や CAD の活用が見られ た。他方非製造業の分野ではPOS システムの利用や ATM の活用をはじめとした金融分野 での電子化、情報化が生じた。こうした情報化の流れは1990 年代に入りよりいっそうの進 展を見せたように思われる。すなわちIT 資本価格の低下および IT 資本の小型化を背景と してホワイトカラーの職場を中心にIT 資本は浸透をみせ、CRM(Customer Relationship Management)や SCM(Supply Chain Management)をはじめとした業務手法が広く浸透す るようになった。また我が国では1990 年代半ば以降においてインターネットの利用が一般 的なものとなった。このように実体経済におけるIT の比重は着実に増しており、IT を投入 しそれをどのように活用するかは経済成長を左右する重要な課題となりつつある。 ここでIT資本が経済へと投下され実態経済へと影響を及ぼす経路について考えてみよう。 まず成長会計の考え方に照らし合わせてみると、IT資本の投下は他の資本や労働投入と同 じようにすべての生産要素に占める投入シェアとその変化率とに分離されることで経済に 対しての影響力が観察されることになる。この場合ITが投入要素として直接的に経済へと 影響を及ぼしている。一方でShapiro and Varian(1999)が示唆するように、IT資本には「ネ ットワーク外部性」という性質が備わっているように考えられる。「ネットワーク外部性」 とは、利用者の増加に応じそれ以上にその価値が高まるという性格1である。すなわち一般 的に資本投入や財の購入においてその投入量が増えるにしたがい限界生産性や限界効用の 水準は低下すると考えられる。自動車を例にとってみよう。経済において自動車が希少で ある段階では自動車の導入は人の往来、物流の分野での効率性を大きく改善するものと考 えられる。しかしながら自動車が普及するにつれて道路は混雑し交通に支障に支障をきた すようになる。必然的に自動車の価値は低下する。一方でIT資本は普及するにつれてその 1 例えばインターネットを利用した通信を考えてみよう。インターネットの利用者が二人の場合通信の組み合わせは一 通りしかないが、利用者が二倍の四人に増えた場合には通信の組み合わせは六通りとなる。すなわち通信者は二倍の増 加であるのに対して通信がもたらす価値は六倍に増加している。

(2)

価値は増すものと考えられる。メールアドレスを例にとってみよう。メールアドレスを持 つ者が少ない場合、たとえメールアドレスを持っていたとしてもそれを使い連絡を取れる 者が少ないためメールアドレスの価値は低いものとなる。対してメールアドレスを持つ者 が増えるにしたがい連絡を取れる者も増えるために、その価値は高まる。IT資本は他の資 本と異なり希少であることが価値につながるのではなく普及することこそがその価値につ ながる、という性質を持っていると考えられる。こうしたIT資本の性質を念頭に置くなら ば、希少性低下による価値の低下ではなく価値の増加を考慮する必要がある。 本稿の分析対象としてわれわれがあげた日米両国においても経済の情報化は進展してお り、「ネットワーク外部性」の効果を期待して情報化を推し進める企業や個人が増えるなら ばいっそうの「ネットワーク外部性」効果がはたらき、IT 資本はその投下以上の影響を実 態経済へと及ぼすことになると考えられる。事実1990 年代におけるアメリカ経済の成長は IT 資本が主導する性格を持っており、一方で人口減少社会を迎えつつある我が国ではより いっそうの労働の効率性ならびに資本の収益力が求められIT 資本の意義もこれまで以上に 増してくるものと考えられる。以上の観点をふまえ本稿では、IT 資本による「ネットワー ク外部性」の検証を行うことによりIT 資本が実体経済へと及ぼす影響について考察してい きたい。

2 関連する研究について

言うまでもなくIT資本が実体経済に対して積極的な役割を果たすには、まずそれが投下 された際にプラスの効果を経済に対して与える必要がある。例えば1990 年代当時、活発な IT資本投入が行われていたアメリカではITの経済効果は議論を呼んでいた2問題であった。 例えばLoveman(1994)をあげてみよう。Loveman(1994)は 1978~84 年までの期間にお けるアメリカ産業を分析対象にしている。具体的にはFortune500 社に含まれる製造業 20 社からの60 事業所を対象としており、これらの分析対象を IT 化進展度に応じて、あるい は耐久財製造業と非耐久財製造業とに分類することで多角的な分析を行っている。 Loveman(1994)は労働投入、IT 資本投入および非 IT 資本投入からなるコブ=ダグラス型 生産関数を用いて分析を行ったが、IT 資本の示す係数値はいずれを対象としても低く、場 合によってはマイナスの値をも見せている。すなわちLoveman(1994)によるならば、IT 資 本の限界生産性は低いものであり生産活動においてマイナスの貢献をおよぼすことにもな りうることがうかがえる。

また Loveman(1994)による分析結果と同じような主旨を示したのが Morrison and Berndt(1991)である。Morrison and Berndt(1991)では Loveman(1994)とは異なりアメリ カ経済分析局ならびに労働統計局といった政府公式統計を用いている。Morrison and

2Solow(1987)は「コンピュータは至るところで目にするが、経済統計では目にしない」と述べ、IT資本の経済効果に対

して懐疑的な姿勢を示した。このSolowの発言が先駆けとなる形で 1990 年代のアメリカではIT資本の経済効果に対する 活発議論が行われた。

(3)

Berndt(1991)は 1952~86 年におけるアメリカ製造業を分析対象に据えており、IT 資本の 限界収益ならびに限界費用を明らかにした上でそれらの比較を試みている。Morrison and Berndt(1991)によると、産業ごとに幅が生じているものの総じて見れば IT 資本の限界費用 は限界収益を上回っておりIT 資本の過剰投入の形跡がうかがえる分析結果が示されている。 すなわちMorrison and Berndt(1991)ではアメリカ製造業における IT 資本投入の効果は限 定的であることが明らかになっている。

こうした研究結果はIT 資本の経済効果を支持するものではないといえる。しかしながら これらとは異なった結果を導き出した研究もある。すなわちBrynjolfsson らの分析結果を とりあげてみよう。例えばBrynjolfsson and Hitt(1996)は 1987~91 年の期間におけるアメ リカ企業(Fortune500 社のうちの 367 社)を分析対象にして Loveman(1994)と類似したコブ =タグラス型生産関数を推計した。Brynjolfsson and Hitt(1996)によるとコンピュータ資本 の限界生産性はプラスであり、81%という高い値を示していることが明らかとなった。くわ えてBrynjolfsson and Hitt(1996)は労働者を IT 関連業務に従事する者とそれ以外の者とに 分けたうえでそれぞれの限界生産性の比較を行っているが、IT 関連業務に従事する者の限 界生産性はそれに従事しない者のそれに比較して高いことが示されている。

先に紹介した研究結果は投入要素としてのIT の経済効果を把握しようとするものであっ た。その一方でIT 資本による超過収益の存在を確認することで IT 資本の経済効果を把握 し よ う と し た の が こ こ で 紹 介 す る Lichtenberg ら に よ る 一 連 の 分 析 で あ る 。 ま ず Lichtenberg(1993)は Informationweek 誌と Computerworld 誌からの二種類のデータを用 い1988~91 年におけるアメリカ企業を対象にして、IT 資本ならびに IT 資本を用いる労働 力のもたらす影響を分析している。Lichtenberg(1993)によると IT 資本の限界生産性はプ ラスであることが確認されており、一方で超過収益の有無についてもIT 資本において認め られており同時にIT 資本を用いる労働力においてもその存在が指摘されている。

Lehr and Lichtenberg(1999)は Lichtenberg(1993)を拡張したものに位置づけられる。 Lehr and Lichtenberg(1999)は 1977~93 年におけるアメリカ企業を対象に企業レベルの データおよびアメリカ国勢調査局によるデータを組み合わせることで分析を行っている。 Lehr and Lichtenberg(1999)によると、企業の売上ならびに生産性に対して IT 資本の投入 はプラスの効果を及ぼしていること、ならびにIT 資本投入による収益は逓増的なものであ りLichtenberg(1993)の分析結果と同じく IT 資本による超過収益の存在が指摘される分析 結果となっている。 IT 資本が経済全体に浸透すればそれだけ利便性が増しネットワーク外部性が作用すると 考えられる。ネットワーク外部性の存在を前提とすれば、IT 資本投入による限界収益はそ の限界費用を上回るかもしれない。こうしたネットワーク外部性の観点からIT 資本の超過 収益の有無を検証したのがGandal(1995)である。Gandal(1995)はヘドニック価格モデルを 用いることでIT 資本(ここでは表計算ソフトェア)による外部性の有無の検証ならびにそれ を生み出す要因を探っている。Gandal(1995)の分析結果では表計算ソフトの価格形成には

(4)

ソウトウェア自体の機能性に加えて他のソフトウェアとの互換性も重きをなしていること が示される。このことを言い換えるならば、ソフトウェアのユーザーは互換性が備わった ソフトウェアに対しより高いコストを費やしてもよいと考えているわけであり表計算ソフ トの分野で外部性が発生していることの証左となっている、と考えられる。

3 分析におけるフレームワーク

(1)限界生産性の分析

まずIT 資本が実体経済に対して積極的な効果を与えるためには、その限界生産性が正で ある必要がある。すなわちIT 資本が「ネットワーク外部性」をもたらすには、そのことよ りも先に少なくともマイナスの影響を実体経済に対して与えないことが必要であると、考 えられるのである。したがってここでまずIT 資本の限界生産性の符号を確認するために以 下の(1)式を考えてみよう。 γ β α

L

IT

AK

Y

=

NIT …(1) (1)式は、

Y

(実質 GDP)を

A

(技術水準)、

K

NIT (非 IT 資本ストック投入)、

IT

(IT 資本スト ック投入)および

L

(労働投入)で説明しようとするものである。ここで(1)式の対数をとるな らば(2)式が与えられる。

L

IT

K

A

Y

ln

ln

NIT

ln

ln

ln

=

+

α

+

β

+

γ

…(2) (2)式は言うまでもなく実質 GDP の対数値を技術水準の対数値および各投入要素の対数値 ならびに各投入要素の弾性値とに分割して説明するものである。 ここで(2)式における IT 資本ストック投入の弾性値

β

について考えてみよう。

β

は(3)式 のように書き換えることが可能である。

=

=

Y

IT

dIT

dY

IT

d

Y

d

ln

ln

β

…(3) (3)式における

(

dY

dIT

)

の部分はIT 資本ストック投入一単位の変化に対する実質 GDP の 変化の関係を意味するものであり、IT 資本ストック投入の限界生産性を表している。一方 で

(

IT

Y

)

の部分では、実質GDP と IT 資本ストック投入との比が示されておりこの部分 の 値 は 必 然 的 に 正 の 値 を 示 す 。 し た が っ て IT 資 本 ス ト ッ ク 投 入 の 限 界 生 産 性

)

ln

ln

(

d

Y

d

IT

がプラスであるためには、(2)式もしくは(3)式における

β

の値は正の符号 を示すことが条件となる。

(5)

(2)IT 資本ストックによる外部性の有無の検証について

IT 資本ストックが「ネットワーク外部性」をもたらしているか否かを検証するためには、 先に述べたように限界生産性が正の符号を持つ必要があるがそれだけでは不十分である、 と考えられる。すなわちIT 資本ストックが外部性をもたらすためには、コスト以上の収益 である超過収益を生み出す必要がある。そこで本稿ではIT 資本と他資本の双方における限 界生産性の比率とのちに説明するレンタル価格との比率を比較することでIT 資本ストック による外部性の有無を検証することとする。 ここでLichtnberg(1999)にならい IT 資本による外部性を計測するための枠組みを示して みよう。これは(4)式にて示される。先にあげた(1)式は実質 GDP である

Y

を技術水準の

A

、 非IT 資本ストック

K

NIT 、IT 資本ストック

IT

ならびに労働投入

L

で説明するものであった。

[

θ

α β

L

IT

K

A

Y

=

NIT

+

(

1

+

)

]

…(4) (4)式も(1)式と同様に、実質 GDP

Y

を技術水準の

A

、非IT 資本ストック 、IT 資本ス トック NIT

K

IT

ならびに労働投入

L

で説明しているが、(4)式における記号

θ

は IT 資本ストック による超過収益を示すパラメータである。また総資本ストックは IT 資本ストックと非 IT 資本ストックとの合計と定義すればこの関係は(5)式にて示される。

IT

K

K

all

=

NIT

+

…(5) (5)式において は総資本ストックを表している。ここで(4)式の対数をとり同時に(5)式の 関係を考慮すれば(6)式が与えられる。 all

K

[

K

IT

]

L

A

Y

ln

ln

NIT

(

1

)

ln

ln

=

+

α

+

+

θ

+

β

[

K

IT

IT

]

L

A

ln

all

(

1

)

ln

ln

+

α

+

+

θ

+

β

=

[

K

IT

]

L

A

ln

all

ln

ln

+

α

+

θ

+

β

=

K

L

K

IT

K

A

all all all

ln

ln

ln

α

θ

+

β

⎟⎟

⎜⎜

+

+

=

L

K

IT

K

A

all all

1

ln

ln

ln

α

θ

+

β

⎪⎭

⎪⎩

⎟⎟

⎜⎜

+

+

=

L

K

IT

K

A

all all

ln(

1

)

ln

ln

ln

+

α

+

α

+

θ

+

β

=

… (6) (6)式に変形を加えると(7)式となる。

(6)

L

K

IT

K

A

Y

all all

ln

ln

ln

ln

α

α

θ

⎟⎟

+

β

⎜⎜

+

+

…(7) (7)式では実質 GDP の対数値 は総資本ストックの対数値 の投入ならびに労働投 入の対数値

Y

ln

ln

K

all

L

ln

に影響を受けることになるが、そのことにくわえて総資本ストックに占め るIT 資本ストックの比率

(

IT

K

all

)

が高いほど実質GDP の水準が高まることを意味し ている。

(3)レンタル価格について

レンタル価格とは当該資本を一定期間借り受けた際に課されると見込まれるコストと考 えることができる。このレンタル価格は(8)式にて表わすことができる3 i i i i

r

p

P

R

(

)

+

=

δ

…(8) ここで

R

iは当該資本のレンタル価格を

P

iは当該資本の価格、

r

は収益率、

δ

iは当該資本の 減価償却率そして は当該資本の期待価格の変化率をそれぞれ意味している。(8)式につい て簡単に説明しておこう。(8)式の右辺においてまず当該資本の減価償却率 i

p

i

δ

が高い場合、 これは投下資本をより短期間で回収せねばならないためレンタル価格は上昇することにな る。一方で当該資本の価格が低下している、すなわち当該資本の価格変化率 が下落して いる場合、資本価格の差損が生じてレンタル価格を引き上げることとなる。このようにレ ンタル価格は資本の収益率のほかに減価償却率や価格変化率によっても影響を受けると考 えられる。 i

p

⋅ さてここで完全競争の状態を想定してみよう。完全競争下では各資本はその限界生産物 がそれぞれのレンタル価格に等しくなるようにその投下が行われる。ここで(4)式において IT 資本、非 IT 資本それぞれの限界生産性を定義してそれらの比を示すと(9)式がもたらさ れる。

θ

+

=

1

NIT

K

Y

IT

Y

…(9) つぎに(9)式とレンタル価格を示した(8)式の関係を考慮すると、(10)式で示される関係が 明らかとなる。 3 レンタル価格の考え方については本稿末尾の補足2 を参照されたい。

(7)

θ

δ

δ

+

=

+

+

=

=

⋅ ⋅

1

)

(

)

(

NIT NIT NIT IT IT IT NIT IT NIT

r

p

P

P

p

r

R

R

K

Y

IT

Y

…(10) (10)式において、

Y

IT

Y

K

NITは先に述べたようにそれぞれ IT 資本ストックな らびに非IT 資本ストックの限界生産性を示している。また と は先の(8)式で示され たようにIT 資本のレンタル価格および非 IT 資本のレンタル価格をそれぞれ意味している。 IT

R

R

NIT 一方で先に述べたように

θ

はIT 資本ストックによる超過収益を示すパラメータであり、IT 資本ストックの超過収益が認められた場合において正の値をとることになる。

4 使用データの紹介ならびにその動向

(1)使用データについて

①アメリカ系列4

Y

: 実 質 GDP(U.S.Department of Cmmerce,Bureau of Economic Analysis, 1947-97

NAICS-Based GDP-by-Industry Data)。 all

K

: 実 質 総 資 本 ス ト ッ ク (U.S.Department of Labor,Bureau of Labor Statistics,1987-2006 Capital Detail Data by Asset Type for Major Sectors)。

NIT

K

:実質非 IT 資本ストック(実質非 IT 資本ストックは実質総資本ストックの値から実質 IT 資本ストックの値を引くことによって求めた)。

IT

K

: 実 質 IT 資 本 ス ト ッ ク (U.S.Department of Labor,Bureau of Labor Statistics,

1987-2006 Information Processing Equipment and Software for Major Sectors)。

L

:労働投入量(U.S.Department of Cmmerce,Bureau of Economic Analysis, 1947-97

NAICS-Based GDP-by-Industry Data)。

r

:資本収益率(資本収益率は Treasury Bonds の 10 年物利回りを代理変数として用いた。 Treasury Bonds の 10 年物利回り(Council of Economic Advisers,Economic Report of the President:2007, Bond yields and interest rates, 1929-2006))。

NIT

p

:非 IT 資本ストック価格変化率(総資本ストック価格変化率で代用した。総資本ストッ ク価格変化率(U.S.Department of Labor,Bureau of Labor Statistics, 1987-2006

Capital Detail Data by Asset Type for Major Sectors))。 ⋅

IT

p

:IT 資本ストックの価格変化率(U.S.Department of Labor,Bureau of Labor Statistics,

(8)

1987-2006 Information Processing Equipment and Software for Major Sectors)。 NIT

P

:非 IT 資本ストック価格(総資本ストック価格を用いた。総資本ストック価格 (U.S.Department of Labor,Bureau of Labor Statistics, 1987-2006 Capital Detail Data by Asset Type for Major Sectors))。

IT

P

:IT 資 本 ス ト ッ ク の 価 格 (U.S.Department of Labor,Bureau of Labor Statistics,

1987-2006 Information Processing Equipment and Software for Major Sectors)。 IT

δ

:IT 資本ストックの減価償却率(U.S.Department of Labor,Bureau of Labor Statistics,

1987-2006 Information Processing Equipment and Software for Major Sectors)。 NIT

δ

:非 IT 資本ストックの減価償却率(総資本ストックの減価償却率を用いた。総資本スト ック減価償却率(U.S.Department of Labor,Bureau of Labor Statistics, 1987-2006 Capital Detail Data by Asset Type for Major Sectors))。

②日本系列5

Y

:実質 GDP(独立行政法人経済産業研究所、Japan Industrial Productivity Database 2006)。 all

K

:実質総資本ストック(実質総資本ストックの値は実質非 IT 資本ストックの値と IT 資本 ストックの値を足し合わせて算出した)。 NIT

K

: 実 質 非 IT 資 本 ス ト ッ ク ( 独 立 行 政 法 人 経 済 産 業 研 究 所 、Japan Industrial Productivity Database 2006)。 IT

K

:実質 IT 資本ストック(独立行政法人経済産業研究所、Japan Industrial Productivity

Database 2006)。

L

:労働投入量(独立行政法人経済産業研究所、Japan Industrial Productivity Database 2006)。

r

:資本収益率(資本収益率は 10 年物国債流通利回りで代用した。10 年物国債流通利回り(内 閣府「年次経済財政報告」平成19 年度版))。 NIT

p

⋅ :非 IT 資本ストックの価格変化率(非 IT 資本価格変化率は工業製品の国内企業物価指 数を用いた。国内企業物価指数(日本銀行調査統計局の公表する物価関連統計における 企業物価指数))。 ⋅ IT

p

:IT 資本ストックの価格変化率(IT 資本価格変化率は情報通信機器の国内企業物価指数 を用いた。国内企業物価指数(日本銀行調査統計局の公表する物価関連統計における企 業物価指数))。 NIT

P

:非 IT 資本ストックの価格(非 IT 資本価格は工業製品の国内企業物価指数を用いた。国 内企業物価指数(日本銀行調査統計局の公表する物価関連統計における企業物価指数))。 5()内はデータの出所を示している。

(9)

IT

P

: IT 資本ストックの価格(IT 資本価格は情報通信機器の国内企業物価指数を用いた。国 内企業物価指数(日本銀行調査統計局の公表する物価関連統計における企業物価指数))。 IT

δ

: IT資本ストックの減価償却率6 NIT

δ

:

非IT資本ストックの減価償却率7

(2)データの動向

①アメリカ系列 (図2)アメリカにおける資本収益率の推移 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 (年) (%) はじめにアメリカにおける資本収益率の動向を観察してみよう。(図 2)はアメリカにおけ る資本収益率の推移を示したものである。先に述べたようにアメリカの収益率には Treasury Bonds の 10 年物利回りを用いており、経済が好調である 1990 年代において 6% 程度と比較的高い水準で推移している。なお(図 2)で示した 1987~2005 年に至るまでの期 間において資本収益率の平均値は5.62%であった。 6 算出方法は本稿末尾の補足1 を参照にされたい。 7 算出方法は本稿末尾の補足1 を参照にされたい。

(10)

(図3)アメリカにおけるIT資本および非IT資本価格(2000年=1) 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 (年) 非IT資本 IT資本 (図 3)はアメリカにおける IT 資本ならびに非 IT 資本両者の資本価格の推移を表したもの である。(図 3)では 1987~2005 年までの期間において 2000 年の資本価格の水準を 1 とし て両者の動向を示している。まず非 IT 資本の価格についてみてみると、1980 年代後半か ら1990 年代中頃の期間ではやや上昇がみられるが、それ以降の以降の期間では目立った変 化はみられない。その一方でIT 資本価格は 1980 年代後半から 1990 年代前半の期間にお いて若干の価格低下が生じ、非IT 資本とは異なった姿をみせている。この価格低下の傾向 は1990 年代半ば以降、顕著になっており 2000 年代に入ってもこの傾向は続いている。ま た2000 年の水準を 1 とした場合の 1987~2005 年における IT 資本ならびに非 IT 資本の価 格の平均値はそれぞれ1.165 と 1.023 である。 (図4)アメリカにおけるIT資本および非IT資本価格変化率 -10.0 -8.0 -6.0 -4.0 -2.0 0.0 2.0 4.0 6.0 19 88 19 90 19 92 19 94 19 96 19 98 20 00 20 02 20 04 (年) (%) 非IT資本 IT資本 (図 3)において IT および非 IT 資本両者の価格の動向について観察したが、つづいて両者 の価格変化についてみてみよう。(図 4)は 1988~2005 年のアメリカにおける IT ならびに 非IT 資本の価格変化率の推移を表したものである。まず非 IT 資本価格変化率の動向を観 察してみると、1980 年代後半から 1990 年代半ばまでの期間では 2~3%の価格の上昇が生

(11)

じているが、1990 年代半ば以降では価格変化はわずかとなっている。それに対して IT 資 本の価格変化率は1990 年代中ごろの一時期をのぞき、一貫してマイナスの値をみせている。 こうした価格低下の傾向は1990 年代後半以降の期間において著しいものとなっている。ま た1988~2005 年のアメリカにおける IT 資本および非 IT 資本の価格変化率の平均はそれ ぞれ-3.32%と 1.7%である。 最後にアメリカにおけるIT資本ならびに非IT資本の減価償却率についてであるが、1987 ~2005 年までの期間で非IT資本の減価償却率は年平均で 4.51%である。またIT資本の減価 償却率は 19.46%8であった。非IT資本と比較してIT資本は高い減価償却率の値が示されお り、非IT資本と比べてIT資本の著しい新陳代謝がうかがえる。 ②日本系列 (図5)日本における資本収益率の推移 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 (年) (%) (図 5)は日本における資本収益率の推移を示したものである。なお日本における資本収益 率は先に述べたように日本における資本収益率は10 年物国債流通利回りを代わりに用いて いる。日本における資本収益率の動向をみてみると、経済が好調であった1990 年前後では 5%台~7%台と高い水準を示しているが経済が停滞した 1990 年代半ば以降では 2%前後と 1990 年前後の時期とは対照的な様相を示している。なお(図 5)で示した 1985~2002 年の期 間における資本収益率の平均は4.12%であった。

8IT資本の減価償却率についてLauとTokutsuは 20%、Berndt et al(1993)は 30%との値を示しており、われわれの用い

(12)

(図6)日本におけるIT資本ならびに非IT資本価格(2000年=1) 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 (年) 非IT資本 IT資本 (図 6)は日本における IT 資本ならびに非 IT 資本の価格を 2000 年の水準を 1 としてそれ らの動向を表したものである。まず非 IT 資本価格の動向をみてみると、1980 年代中頃か ら1990 年代後半にかけてわずかな低下傾向がうかがえる。1990 年代後半以降の非 IT 資本 の価格変化は生じていない。概して(図 6)で示した期間における日本における非 IT 資本の 価格の変化は小さいといえる。つぎにIT 資本価格の動向をみてみよう。(図 6)からは 1980 年代中頃から2000 年代初頭の期間において、非 IT 資本とは異なり一貫した IT 資本価格の 低下がうかがえる。なお1985~2002 年にかけての IT 資本ならびに非 IT 資本価格の平均 値は2000 年の水準を 1 とした場合それぞれ 1.21、1.03 である。 (図7)日本におけるIT資本ならびに非IT資本価格変化率 -10.0 -8.0 -6.0 -4.0 -2.0 0.0 2.0 4.0 198 6 198 8 199 0 199 2 199 4 199 6 199 8 200 0 200 2 (年) (%) 非IT資本 IT資本 (図 6)において IT 資本および非 IT 資本の価格水準の動向を確認したが、つぎに両資本の 価格水準の変化率を確認しておこう。(図 7)は日本における IT 資本と非 IT 資本の価格変化 率の動向を示したものである。対象とした期間は1986~2002 年である。まず非 IT 資本価 格変化率の動向をみてみると、1990 年ごろに若干の上昇がみられるものの概して価格変化 率はマイナスであり、1990 年代中頃以降はその幅は小さくなっている。一方で IT 資本価

(13)

格変化率をみてみると、(図 7)で示した期間では一貫してマイナスの値が示されている。ま た非IT 資本と比較した場合そのマイナスの幅は大きい。なお IT 資本および非 IT 資本の価 格の平均変化率は1986~2002 年においてそれぞれ-4.33%、-1.02%である。 また日本におけるIT 資本ならびに非 IT 資本の減価償却率であるが 1985~2002 年まで の期間においてそれぞれ年平均で5.51%、33.13%である。非 IT 資本と比較して IT 資本の 高い減価償却率が印象的であり、IT 資本の活発な新陳代謝がうかがえるものとなっている。

5 推計結果

(1)レンタル価格

本稿の3 章においてわれわれはレンタル価格について述べた。本節ではまず 4 章で紹介 されたデータを用いて実際に日米両国におけるIT 資本ならびに非 IT 資本のレンタル価格 を求めることとする。先に述べたように当該資本のレンタル価格は(8)式で示したように考 えられる。 そこでアメリカの1987~2005 年における IT 資本ならびに非 IT 資本のレンタル価格を 示してみよう。われわれが4 章で述べたようにまず IT 資本の資本収益率は年平均 5.62%、 減価償却率は年平均で19.46%、価格変化率は年平均で-3.32%、2000 年の水準を 1 とした 場合の資本価格の平均値は1.165 である。これらを(8)式に当てはめてみるならば IT 資本の レンタル価格は、

(

5

.

62

+

19

.

46

(

3

.

32

))

1

.

165

33

.

09

となる。一方でアメリカにおける 非IT 資本のレンタル価格は、これも 4 章でわれわれが述べたように資本収益率は年平均で 5.62%、減価償却率は年平均で 4.51%、価格変化率は年平均で 1.7%、2000 年の水準を 1 と した場合の資本価格の平均値は1.023 である。これらも同じように(8)式に当てはめると、 非IT 資本のレンタル価格は、

(

5

.

62

+

4

.

51

(

1

.

7

))

1

.

023

8

.

62

となる。したがってこれら 二つを(10)式に当てはめてみるならば、

1

θ

=

33

.

09

/

8

.

62

3

.

839

との関係が導き出され る。すなわち

θ

の値が2.839 より大きなものとなった場合 IT 資本による外部性の存在が示 唆されることになる。 つぎに日本の1985~2002 年における IT 資本ならびに非 IT 資本のレンタル価格を示し てみよう。すでに4 章でみたように IT 資本では収益率は年平均 4.12%、減価償却率は年平 均33.13%、価格変化率は年平均-4.33%、2000 年の水準を 1 とした場合における資本価格 の平均値は1.21 である。したがって先のアメリカ系列で行ったのと同じようにこれらの数 値を(8)式に当てはめてみると、

(

4

.

12

+

33

.

13

(

4

.

33

))

1

.

21

50

.

31

となる。非IT 資本ス トックにおいても同じ操作を行ってみよう。すなわち資本収益率は 4.12%、減価償却率は 5.51%、価格変化率は-1.02%、2000 年の水準を 1 とした場合の資本化価格の平均値は 1.03 である。これらを(8)式に当てはめると、

(

4

.

12

+

5

.

51

(

1

.

02

))

1

.

03

10

.

97

となる。した がってこれらを(10)式に当てはめてみると、

1

+

θ

=

50

.

31

/

10

.

97

4

.

586

となり日本におい ては

θ

の値が3.586 と比べて大きい場合に IT 資本による外部性の存在が示唆されることに なる。

(14)

(2)限界生産性

(表 1)アメリカにおける IT 資本ストックの生産活動に対する寄与 民間非農林水産業 製造業 非製造業 非 IT 資本ストック 0.223(13.727) 0.291(13.436) 0.184(12.219) IT 資本ストック 0.164(11.592) 0.153(11.682) 0.168(7.639) 労働投入 0.637(42.317) 0.564(37.310) 0.667(38.775) AdjR2 0.959 0.943 0.802 注)推計期間は 1987~2005 年。()内の値は t 値。 IT 資本が外部性を発揮するには何よりもまず経済活動へと積極的な役割を果たす必要が ある。言い換えればIT 資本の限界生産性が正であることが求められる。したがってわれわ れは(2)式を推計することにより日米両国における IT 資本の限界生産性の符号を検証した。 まずアメリカにおけるIT 資本ストックの経済への影響をみてみよう。(表 1)は(2)式を用 いアメリカにおけるIT 資本ストックの影響力を推計した結果である。まず民間非農林水産 業を対象とした推計結果を見てみると、0.164 と推計値はプラスの値を示しており統計的に も有意である。したがってアメリカ経済においてIT 資本の限界生産性はプラスであり経済 に対して積極的な役割を果たしているといえる。また産業分野によってIT 資本の効果が異 なることも考えられる。したがって参考として民間非農林水産業を製造業ならびに非製造 業とに分けて推計を行ってみた。これらの推計結果も(表 1)に示されているが製造業、非製 造業いずれの分野においてもIT 資本ストックの推計値の値はプラスであり統計的にも有意 である。したがってIT 資本は製造業、非製造業双方おいても正の寄与を生じさせていると 考えられる。 (表 2)日本における IT 資本ストックの生産活動に対する寄与 民間非農林水産業 製造業 非製造業 非 IT 資本ストック 0.371(2.153) 0.490(6.226) 0.260(11.752) IT 資本ストック 0.096(3.892) 0.117(2.391) 0.066(1.519) 労働投入 0.470(14.143) 0.450(7.048) 0.558(4.935) AdjR2 0.996 0.986 0.858 注)推計期間は 1985~2002 年。()内の値は t 値。 つぎに日本におけるIT 資本ストックが経済に対していかなる影響を及ぼしているか、を 確認してみよう。(表 2)は先のアメリカ系列と同じく(2)式を推計して IT 資本ストックの経 済に対する影響を示したものである。まず民間非農林水産業についてみてみよう。民間非

(15)

農林水産業を対象とした場合、IT 資本ストックの推計値は 0.096 とプラスの符号を示して おりまた統計的にみても有意である。したがって民間非農林水産業においてIT 資本の限界 生産性は正であり、経済に対してIT 資本は積極的な効果を及ぼしているといえる。また(表 2)ではアメリカ系列と同じように民間非農林水産業を製造業と非製造業とに分けて推計を 行った結果が示されている。まず製造業における IT 資本ストックの推計値をみてみると、 それは0.117 とプラスの値を示しており、また統計的にも有意である。したがって製造業に おいてIT 資本の限界生産性はプラスであると考えられる。つぎに非製造業における IT 資 本ストックの推計値をみてみよう。(表 2)に示されている非製造業での IT 資本ストックの 推計値 0.066 であり、製造業のそれと比較して小さいもののプラスの値となっている。し かしながらt 値の値が不十分であり統計的に有意とはいえず、IT 資本ストックの経済に対 する寄与はゼロであるとする帰無仮説は棄却できない。したがって推計値はプラスである ものの、日本における非製造業でのIT 資本ストックの寄与は定かではない。

(3)外部性の検証

IT 資本ストックによる外部性を確認するためには 5 章でわれわれが述べた条件を IT 資本 ストックが満たす必要がある。このことを確認するため(7)式による推計を行った。 (表 3)アメリカにおける(8)式の推計結果 民間非農林水産業 製造業 非製造業 総資本ストック 0.382(16.382) 0.449(19.101) 0.333(10.040) IT/Kall 1.622(14.889) 1.960(9.072) 1.314(7.671) 労働投入 0.642(16.647) 0.547(17.150) 0.677(14.118) AdjR2 0.923 0.916 0.934 θ 4.246 4.365 3.946 注)推計期間は 1985~2002 年。()内の値は t 値。 まずアメリカを対象とした推計結果を確認してみよう。先に述べたようにアメリカでは

θ

の値が2.839 より大きい場合においてIT資本の外部性が確認されることになる。(表 3)はア メリカにおける(8)式の推計結果を示したものである。まず民間非農林水産業をみてみると all

K

IT

の推計値は 1.622、くわえて総資本ストックの推計値は 0.382 であり両者ともに 統計的にも有意である。したがって

θ

の値は 4.246、(

1

.

622

/

0

.

382

4

.

246

)となる。民間 非農林水産業における

θ

の値は2.839 と比較して大きい。したがってアメリカの民間非農林 水産業においてIT資本ストックは外部性を生み出していると判断できる。ところで外部性、 言い換えれば超過収益の程度は

((

1

+

θ

)

(

R

IT

R

NIT

))

1

とすることで求めることができ る。これを適用するとアメリカの民間非農林水産業においてIT資本ストックは 30~40%程 度、(

(

5

.

246

/

3

.

839

)

1

0

.

367

)の超過収益を生み出していると考えられる。また参考とし

(16)

て民間非農林水産業を製造業と非製造業とにわけて推計を行った。製造業と非製造業とで は産業の性質は異なり、そのためレンタル価格も異なっている9と考えられる。すなわちア メリカの製造業におけるIT資本に関しては、資本収益率、減価償却率、価格変化率および 2000 年の水準を 1 とした場合の価格水準の平均値はそれぞれ 5.62%、21.75%、-2.8%、1.143 である。一方でアメリカの製造業における非IT資本については、資本収益率、減価償却率、 価格変化率ならびに 2000 年の水準を 1 とした場合における価格水準の平均値はそれぞれ 5.62%、5.81%、2.3%、0.962 である。したがってこれらの数(10)式へと当てはめてみると、

927

.

3

1

962

.

0

)

3

.

2

81

.

5

62

.

5

(

143

.

1

)

8

.

2

75

.

21

62

.

5

(

+

+

+

=

+

θ

となり

θ

の値が 2.927 より大きなものとなればアメリカ製造業においてIT資本ストックによる外部性が認められ る こ と に な る 。( 表 3) に お い て 製 造 業 に お け る

θ

の 値 を 確 認 し て み る と 4.365 、 である。これは2.927 よりも大きくアメリカの製造業においてIT資 本による外部性がもたらされていることがうかがえる。つづいてアメリカの非製造業につ いても確認しておこう。アメリカにおける非製造業のIT資本ついては資本収益率、減価償 却率、価格変化率ならびに2000 年の水準を 1 とした場合における価格水準の平均値はそれ ぞれ5.62%、19.07%、-3.4%、1.171 であり、対して非IT資本では 5.62%、4.23%、1.5%、 1.044 である。これらを民間非農林水産業あるいは製造業の場合と同様に(10)式に代入する と 、

)

365

.

4

449

.

0

/

960

.

1

(

772

.

3

1

044

.

1

)

5

.

1

23

.

4

62

.

5

(

171

.

1

)

4

.

3

07

.

19

62

.

5

(

+

+

+

=

+

θ

と な り

θ

の 値 が 2.772 よりも大である場合において、アメリカの非製造業でIT資本による外部性が確認され る こ と に な る 。( 表 3) を み て み る と 非 製 造 業 に お け る

θ

の 値 は 3.946 、

)

946

.

3

333

.

0

314

.

1

(

となっておりIT資本による外部性が確認されうる。 (表 4)日本における(8)式の推計結果 民間非農林水産業 製造業 非製造業 総資本ストック 0.446(9.793) 0.529(8.301) 0.349(2.460) IT/Kall 0.561(1.187) 1.087(2.121) 0.298(5.747) 労働投入 0.494(9.793) 0.482(7.419) 0.598(9.030) AdjR2 0.960 0.987 0.988 θ 1.258 2.055 0.854 注)推計期間は 1985~2002 年。()内の値は t 値。 つづいて日本を対象とした推計結果を確認しよう。(表 4)は日本を対象とした(7)式による 推計結果である。日本ではすでに確認したように

θ

の値が1.971 以上である場合において、 IT 資本による外部性が確認されることになる。まず民間非農林水産業の推計結果から確認 してみよう。民間非農林水産業においては

IT

K

allの推計値は 0.561 であるものの統計的 9 後に推計結果を示す日本系列ではデータの制約のため製造業ならびに非製造業における資本のレンタル価格を求める ことができなかった。そのため製造業と非製造業の評価では民間非農林水産業のレンタル価格を用いている。

(17)

に有意とはいえない。しかしながらIT 資本による外部性を確認するためこの推計値を用い

θ

の値を求めたところ 1.258、(

0

.

561

/

0

.

446

1

.

258

)

となった。この値は本稿における外 部性確認の条件とされる 3.586 と比較して小さく、したがって日本における民間非農林水 産業においてIT 資本は外部性を発揮しているとは言い難い。また製造業ならびに非製造業 に目を向けてみても

θ

の値は 3.586 よりも小さく、IT 資本による外部性は確認できないと 判断される。

6 結論

本稿においてわれわれは、IT 資本がもたらす「ネットワーク外部性」を検証することで IT 資本が実体経済へと及ぼす影響について考察を行った。本稿が分析対象としたのは 1980 年代から2000 年代初頭における日米両国である。この時期においてアメリカ経済は長期低 落傾向に一定の歯止めがかかり「ニュー・エコノミー」と表現される長期好況を経験し、 一方で日本経済は1990 年前後のバブル経済を経験したのち「失われた 10 年」と言いあら わされる停滞期に入るなど、本稿が対象とした時期は両国にとって明暗を分けたものとな った。本稿における検証結果も当時の両国における経済状態と同じように明暗を分けたも のとなった。 まず本稿ではIT 資本による外部性の有無を検証する前に、IT 資本が経済活動において積 極的な役割を果たす、言いかえればIT 資本の限界生産性が正の値を示すことを条件とし IT 資本の限界生産性の符号を確認した。IT 資本の限界生産性の検証において、アメリカでは 民間非農林水産業、製造業ならびに非製造業といずれを対象にした場合においてもIT 資本 の限界生産性はプラスでありIT 資本は経済に対して有意義な影響を及ぼしていると考えら れる。それに対して日本におけるIT 資本の限界生産性は民間非農林水産業ならびに製造業 を対象とした場合その値はプラスであり、IT 資本投入による効果がうかがえる。しかしな がら非製造業を対象とした場合においてIT 資本の限界生産性はゼロである可能性が棄却さ れず、そのため本稿では非製造業におけるIT 資本の正味の効果は不明との検証結果となり この点でアメリカと異なっている。 つづいて本稿ではIT 資本による超過収益の動向を調べることにより、その外部性の検証 をおこなった。そこではアメリカを対象とした場合、民間非農林水産業、製造業、非製造 業といずれの範疇においてもIT 資本による外部性の存在が確認され、IT 資本の総資本に占 める割合、つまり情報化が進展するほど外部性の程度は拡大される。しかしながら日本に おいてはアメリカと異なりIT 資本による外部性の存在は確認できず、IT 資本の外部性にお いて両国の対照的な姿が浮き彫りになった。 アメリカを対象とした場合IT 資本は非 IT 資本と比較して 3~4 割程度の超過収益を生み 出すことが確認された。このことは条件が同一であるならば、「IT 資本を優先的に投下すべ き」とする根拠となると考えられる。本稿の検証ではIT 資本の外部性は日本を対象とした 場合では製造業のみでしか確認されなかった。現在、ハードウェア、ソフトウェアおよび

(18)

通信機器に代表されるIT 資本は世界基準で開発が進められており、アメリカと比べて日本 のIT 資本ストックそのものの質が劣っているとは考えにくい。したがって本稿で検証した 日米両国の差はIT 資本そのものにあるのではなく、IT 資本ならびに情報化をとりまく環境 や条件などに因るものと考えられる。これには例えばIT 資本が促進される条件や超過収益 が発生する環境などが考えられ、われわれの今後の課題としたい。 補足1:当該資本ストックの減価償却率について 当該資本ストックの減価償却率

δ

iは以下に示す手順にしたがって求めた。まず当該資本 ストックの蓄積過程を①式と定義する。 1 , , , ,i

ti

=

it

itt

D

K

K

I

…① ①式において

I

は当該資本に対する投資10 は当該資本の減価償却、 は当該資本スト ックを示している。ここで定率の減価償却率

D

K

i i

δ

を仮定すると、これは②式で示される。 1 , .i

=

i itt

K

D

δ

…② つづいて先にあげた①および②式を考慮するならば③式を得ることができる。

)

(

, , 1 , 1 ,t

=

it

it

iti i

K

I

K

K

δ

…③ ③式の両辺において

t

1

期から 期までの和をとると、④式が与えられる。

n

)

(

, ,0 1 , 1 1 , in i n t t i n t t i i

K

=

I

K

K

= = −

δ

…④ 10 当該資本の投資についてのデータは以下の通りである。日本系列;IT資本投資(総務省情報通信政策局総合政策課情報通 信経済室、『情報通信白書』平成19 年版)。非IT 資本投資(総務省情報通信政策局総合政策課情報通信経済室、『情報通信白書』 平成19 年版。

(19)

したがってIT 資本ストックならびに非 IT 資本ストックの減価償却率は⑤式で表わされる ことになる。

= − =

=

n t t i i n i n t t i i

K

K

K

I

1 1 , 0 , , 1 ,

(

)

δ

…⑤ 補足2:資本レンタル価格について

ここではChristensen and Jorgenson(1969)ならびに Jorgenson(1963)を参照して資本レ ンタル価格について解説する。 まず t 期における資本財価格 は将来にわたっての資本レンタル価格 に資本効率 をかけあわせ、それを積み増していったものと考えられる。このことは⑥式で表わされ る。 t A

q

,

q

K,t τ

w

1 , 0 , + + ∞ =

=

τ τ τ Kt t A

w

q

q

…⑥ ここで⑥式の差分をとると、これは⑦式で表わされる。

∞ = − + + −

=

1 , 1 , 1 1 , ,

(

)

τ τ τ Kt τ Kt t A t A

q

w

w

q

q

q

)

(

)

(

, 1 , , 1 1 1 , + + − ∞ = −

=

Kt At At t K

w

w

q

q

q

q

τ τ τ τ …⑦ また⑦式の右辺第一項における

(

w

τ

w

τ−1

)

は資本効率の変化を表している。資本効率は時 間の経過ととともに低下していくと仮定すると、⑦式の右辺第一項は資本の減価償却と考 えることができこれを

D

とすると、⑦式は⑧式へと書きかえられる。

)

(

, , 1 ,t

=

t

At

AtK

D

q

q

q

…⑧ つぎに 、 をそれぞれ 、 の現在価値として表したものとすると、この関係は 利子率を A

q

q

K

p

A

p

K

r

と表すと⑨式で示される。 t A t t A

p

r

q

, ,

1

1

⎟⎟

⎜⎜

+

=

…⑨ ここで⑧式を利子率で割り引いていない形に書きかえると⑩式となる。 1 , 1 , , ,t

=

(

At

At

)

+

t AtK

D

p

p

r

p

p

(20)

, 1 1 , 1 , , 1 ,

)

(

− − − −

+

=

t At t A t A t A t A t

p

r

p

p

p

p

D

…⑩ ここで定率の減価償却率、

D

t

p

a,t−1

=

δ

を仮定すると⑩式は⑪式として表わすことがで きる。 1 , 1 , 1 , , ,

)

(

− − −

+

=

At t A t A t A t t t K

p

p

p

p

r

p

δ

…⑪ すなわち資本のレンタル価格は利子率

r

に減価償却率

δ

をくわえたグロスの収益から資本 財価格の変化率、

(

p

A,t

p

A,t1

)

p

A,t1を引いたものに資本財価格を掛け合わせたものと して表わされる。 参考文献

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(21)

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参照

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