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運動が神経障害性疼痛を緩和するメカニズムの解明

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 182 43 巻第 2 号 182 ∼ 183 頁(2016 年) 理学療法学 第 43 巻第 2 号. 平成 26 年度研究助成報告書. 間から 1 日毎に 10 分間ずつ運動時間を増加させ,最大 60 分間 の走運動を行わせた。運動群は,術後 2 日目から 7 m/min の. 運動が神経障害性疼痛を緩和するメカニ ズムの解明. 走速度で 60 分間の走運動を 5 日間実施させた。 3.疼痛行動評価  機械的アロディニアはマウス右足底に von Frey filament 刺. ─脊髄後角ニューロンでの GABA 産生と損傷神. 激を加え,逃避反応が出現した最小圧力値から評価した。熱痛. 経における炎症性/抗炎症性サイトカイン発現の. 覚過敏は,マウス右足底に熱刺激を加えて,その逃避反応潜時. 変化─. により評価した。各テストは 3 回実施し,その平均値を逃避反 応閾値とした。. 田口 聖 1),上 勝也 1). 4.免疫組織化学染色と免疫陽性反応の定量化  マウスは術後 7 日目に灌流固定した後,坐骨神経を摘出し,. 1). 6 μ m 厚の切片を作製した。切片は各種 1 次抗体(CD11b 抗体,. 和歌山県立医科大学医学部リハビリテーション医学講座. Ki-67 抗体)で 2 晩反応させた。洗浄後,切片は Alexa Flour キーワード:マクロファージ,神経障害性疼痛,トレッドミル走. 488 標識ウサギと Alexa Flour 594 標識ラット IgG 溶液にて室 温で 3 時間反応させた。  坐骨神経における Ki-67 陽性 CD11b 陽性 M1M φ 数の測定は,. 緒  言  神経障害性疼痛(以下,NPP)は機械的アロディニアと熱痛. 結紮部の外側から中枢側 1.0 mm(250 μ m 毎に 4 区画に分割). 覚過敏を主症状とし,非ステロイド性抗炎症性鎮痛薬に抵抗性. の領域内で行った。各区画内に 104 μ m2 の矩形を 4 個置き,各. を示す難治性疼痛の 1 つである。運動が NPP の緩和に有効で. 矩形内に認められた Ki-67 陽性 CD11b 陽性 M1M φ 数を合計し. ‒4). あることを示した多くの報告がある 1. 。例えば Chen ら 2)は,. た。マウス 1 匹あたりの Ki-67 陽性 CD11b 陽性 M1M φ 数は 3. NPP モデルラットに対する走運動が損傷坐骨神経での炎症性. 切片の総数から算出し,さらに 3 ∼ 4 匹分のデータから平均値. サイトカインを減少させて疼痛の緩和に関与することを報告し. を算出した。. た。また最近我々は,NPP モデルマウスに中等度強度走運動. 5.統計処理. を行わせると,損傷坐骨神経の中枢側では M1 マクロファージ.  各データは平均値±標準誤差で示した。逃避反応閾値および. (M1M φ )の減少と M2M φ の増加が起こり,疼痛が緩和され. 潜時は,二元配置分散分析後,Tukey-Kramer 法により検定し. ることを報告した(第 49 回日本理学療法学術大会発表)。しか. た。また免疫陽性細胞数は,Student’s t-test より検定した。統. し,これらの研究結果だけで走運動が鎮痛を起こすメカニズム. 計学的有意水準は p < 0.05 とした。. を十分に説明することは不可能である。. 結  果.  マクロファージ(以下,M φ )には炎症性サイトカインを放. 1.疼痛行動の変化. 出する M1 と抗炎症性サイトカインを放出する M2 サブタイプ.  術前の von Frey テスト(損傷群,0.62 ± 0.02 g;運動群,0.57. がある。また活性化 M φ は活発に増殖することも知られてい. ± 0.05 g)と Plantar テスト(損傷群,11.8 ± 0.70 s;運動群,. る 5)。Ki-67 は増殖細胞の核に発現する細胞周期関連核タンパ. 12.4 ± 0.38 s)の逃避反応閾値および潜時は,PSL 術により低. ク質の 1 つであることから,この特異的抗体は増殖細胞を同定. 下した(損傷群,0.08 ± 0.01 g,3.86 ± 0.20 s;運動群,0.07. するのにも利用されている 6)。Echeverry ら 7) は,NPP モデ. ± 0.006 g,4.59 ± 0.24 s) 。術後 6 日目において,損傷群と比. ルラットの損傷坐骨神経に Transforming growth factor- β 1(以. 較して運動群における逃避反応閾値および潜時(0.20 ± 0.09 g,. 下,TGF- β 1)を投与すると損傷部の Ki-67 陽性 M φ 数が減少し,. 6.26 ± 0.13 s)は有意に上昇した(p < 0.05) (図 1)。. 疼痛が軽減することを報告した。この結果は,M φ の増殖の抑. 2.Ki-67 陽性 CD11b 陽性 M1M φ の変化. 制,特に M1M φ の抑制は疼痛の緩和に関与する可能性を示唆.  本研究では,Przybyla ら 9)が示す M φ 分類に従い,CD11b. している。しかし,走運動による鎮痛効果と Ki-67 陽性 M1M φ. 陽性 M φ を M1M φ とした。また Ki-67 抗体と CD11b 抗体の両. との関係はこれまでに明らかにされていない。そこで本研究は. 方に陽性反応を示した細胞を増殖 M1M φ とし,それらの量的. 走運動が NPP モデルマウスの損傷坐骨神経における Ki-67 陽. 変化を検討した。未処置群の Ki-67 陽性 CD11b 陽性 M1M φ は. 性 M1M φ 数に及ぼす影響について検討した。. 検出されなかった。損傷群(中枢側 0 ∼ 250 μ m,32.3 ± 2.60). 方  法. と比較して運動群(中枢側 0 ∼ 250 μ m,19.5 ± 3.06,p < 0.05) における Ki-67 陽性 CD11b 陽性 M1M φ 数は有意に減少した。. 1.坐骨神経部分損傷モデルマウスの作製と実験群  坐骨神経部分損傷(以下,PSL)モデルマウスは,Seltzer ら. 8). 考  察. の方法に従い作製した。PSL マウスは術後に走運動を行わせな.  Cobianchi ら 1) は NPP モデルマウスに 5 日間の走運動を実. い損傷群と行わせる運動群に分け,加えて通常飼育した未処置. 施させると,機械的アロディニアが緩和することを報告した。. 群も設けた。. また Chen ら 2)は NPP モデルラットに最大酸素摂取量の約 70. 2.トレッドミル走のプロトコール. ∼ 75%での走運動を行わせると疼痛行動が軽減されることを.  PSL マウスにおいて,手術 2 週間前は 7 m/min の走速度で. 明らかにしている。我々が用いた走運動の運動強度を Schefar. 10 分間の走運動を 5 日間実施し,手術 1 週間前は初日の 20 分. ら 10)の式に基づき最大酸素摂取量を算出すると,これは最大.

(2) トレッドミル走と神経障害性疼痛の緩和. 183. 図 1 走運動による疼痛行動の変化 各実験群における von Frey テスト(A)と Plantar テスト(B)を示す. 術後 6 日目において運動群の逃避反応閾値と逃避反応潜時は損傷群と比較して有意に上昇し た(von Frey テスト *p<0.05,n=4;Plantar テスト *p<0.05,n=5).. 酸素摂取量の約 64%に相当し,本研究ではこの強度での走運. 者に対して運動療法の有効性を説明する科学的根拠を提供で. 動が NPP を緩和することを明らかにした。これらの結果から,. き,理学療法学研究として意義深いものであると言える。. NPP の緩和には最大酸素摂取量の 64 ∼ 75%の運動強度が必要. 文  献. であると考えられる。. 1)Cobianchi S, Marinelli S, et al.: Short- but not longlasting treadmill running reduces allodynia and improves functional recovery after peripheral nerve injury. Neurosci. 2010; 168: 273‒287. 2)Chen YE, Li YT, et al.: Exercise training attenuates neuropathic pain and cytokine expression after chronic constriction injury of rat sciatic nerve. Anesth Analg. 2012; 114: 1330‒1337. 3)Korb A, Bonetti,LV, et al.: Effect of treadmill exercise on serotonin immunoreactivity in medullary raphe nuclei and spinal cord following sciatic nerve transection in rats. Neurochem Res. 2010; 35: 380‒389. 4)Stagg NJ, Mata HP, et al.: Regular exercise reverses sensory hypersensitivity in a rat neuropathic pain model. Anesthesiology. 2011; 114: 940‒948. 5)J o n e s C V , R i c a r d o S D : M a c r o p h a g e a n d C S F - 1 : Implications for development and beyond. Organogenesis. 2013; 9: 249‒260. 6)Scholzen T, Gerdes J: The Ki-67 protein: from the known and the unknown. J Cell Physiol. 2000; 182: 311‒322. 7)Echeverry S, Wu Y, et al.: Selectively reducing cytokine/ chemokine expressing macrophages in injuryed nerves impairs the development of neuropathic pain. Exp Neurol. 2013; 240: 205‒218. 8)Seltzer Z, Dubner R, et al.: A novel behavioral model of neuropathic pain disorders produced in rats by partical sciatic nerve injury. Pain. 1990; 43: 205‒218. 9)Przybyla B, Gurley C, et al.: Aging alters macrophage properties in human skeletal muscle both at rest and in response to acute resistance exercise. Exp Gerontol. 2006; 41: 320‒327. 10)Schefer V, Talan MI: Oxygen consumption in adult and aged C57BL/6J mice during acute treadmill exercise of different intensity. Exp Gerontol. 1996; 31: 387‒392..  Stagg ら. 4). は,NPP モデルラットに対する走運動が中脳中. 心灰白質や吻側延髄腹内側部(以下,RVM)での内因性オピ オイド含量を増加させたことから,運動が疼痛を緩和するメ カニズムとして下行性疼痛抑制系の関与を示唆した。また, RVM からはセロトニンおよび γ - アミノ酪酸(以下,GABA) 作動性ニューロンが脊髄後角に投射しており,Korb ら 3)は末 梢神経切断モデルラットに走運動を行わせると脊髄前角と後角 でセロトニン濃度が高まることを報告した。一方,運動によ る鎮痛に GABA 作動性ニューロンが関与することを検討した 報告はない。そこで我々は,NPP モデルマウスの脊髄後角に おける GABA の変化に着目して走運動の効果を検討したとこ ろ,PSL に伴う GABA 作動性介在ニューロン数の減少が走運 動により抑制されるとともに疼痛も緩和されることを観察した (第 7 回日本運動器疼痛学会発表)。さらに走運動による損傷坐 骨神経での M1M φ 数の減少と M2M φ 数の増加が疼痛の緩和 に関与することも報告している。本研究では,正常神経におけ る Ki-67 陽性 CD11b 陽性 M1M φ は観察されなかったものの, 術後にはこれらが増加した。これらの結果は,末梢神経が損傷 されると M φ の細胞周期が活性化されることを示唆している。 さらに本研究では,走運動が Ki-67 陽性 CD11b 陽性 M1M φ 数 を減少させることも明らかにした。この M1M φ 数の減少に は,TGF- β 1 が重要な役割を担っており 7),さらに TGF- β 1 は M2M φ により産生・放出される 5)。これらのことから,走 運動に伴い増加した M2M φ は TGF- β 1 の産生を高めることで M1M φ の増殖を抑制し,これが疼痛の緩和に関与した可能性 が考えられる。このように本研究結果は,神経障害性疼痛罹患.

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図 1 走運動による疼痛行動の変化

参照

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