Kumamoto University Repository System
Title
高校生及び大学生の他者や社会の健康を守るための行動
に影響を与える要因について
Author(s)
梶尾, 裕美; 入谷, 仁士
Citation
熊本大学教育実践研究, 33: 31-43
Issue date
2016-02-29
Type
Departmental Bulletin Paper
URL
http://hdl.handle.net/2298/34264
Right
高校生および大学生の他者や社会の健康を守るための行動に
影響を与える要因について
梶 原 裕 美
*1・入 谷 仁 士
*2Factors Affecting the Behavior of High School and University Students for Protecting
the Health of Others and Society
Yumi K
AJIWARAand Hitoshi I
RITANIAbstract
Aiming to study how to best provide health education in schools, we did a survey to clarify the factors that affect behavior to protect the health of others and society. For high school, we did a survey from May 19 to June 9, 2014, and analyzed the data of 1137 high schools students. For university students, we surveyed from October 6 to November 10, 2014, and analyzed the data of 386 university students.
As a result, we found that “behavior to protect the health of others and society” is affected by the factor of “awareness of mutual health” that is comprised of the underlying concepts of “the individualʼs and societyʼs responsibility for social issues” and “how one views a social structure for everyone to live in good health”, and by the factor of “awareness of health values of oneself and others and society” that can be formed by an understanding of the relationship between own health and others and society, but “self-esteem” is not a factor that affects this.
Key words:health education in schools,behavior for Protecting the Health of Others and
Society, awareness of mutual health
1.はじめに
保健教育においては,1970年代に公害や労働災害 などの健康被害から,『保健学習においても「公害学 習」が取り組まれ,「健康に生きる権利」が保健授業 の目標・内容選択の視点として提起,社会科学的認 識と自然科学的認識の統一の重要性が主張された』 ことが明らかとされている1).また,和唐2)は,「保 健科教育の成果は,それを学ぶ個人に止まるもので はなく,保健科教育を学ぶことや教えることは,時 間的にも空間的にも,広がりと他者とのつながりを もつ可能性があることを意識化することで,固体能 力主義を脱却する」と指摘している.さらに,森3) は,我が国の保健科教育の変遷をたどり,『「健康的 な生活行動の育成」を目的とする生活・行動主義か らの「保健行動」教育,「保健の科学的認識の形成」 を目的とする教科主義の立場からの「保健科学」教 育,健康にかかわる公共的責任(人権・健康権・環 境権)を育成する市民的教養主義の立場からの「市 民的教養」教育』の三つに教育内容を類型化できる とし,さらに,「市民的教養」教育は他の両者に共通 するものとして存在していることを指摘し,『共生 の時代と言われる21世紀社会において健康づくりを 担うことのできる市民的教養を身に付けさせること をもっと重視しなければならない』と提言している. このようなことから,保健教育においては,自己 の健康を守る能力を育むといったことにとどまらな い能力を育むことが重要なねらいであり,こういっ たねらいに応じた保健教育のあり方を検討すること が必要であると考えられる. しかしながら,近年の保健教育に関する研究では, 行動科学的視座から,個人の望ましい生活行動に影 響を与える要因についての検討がすすめられている. その要因の一つとして,「セルフエスティーム」ある いは「セルフエスティームと関連性の高い特定領域 ごとのセルフエスティームやスキル」が取り上げられ, *1 熊本市立龍田小学校 *2 熊本大学教育学部養護教育間接的あるいは直接的であるかなどは別にして,望 ましい生活習慣に「セルフエスティーム」が影響を 与えると考えられるような報告がみられている4-7). このような結果などを受け,望ましい生活習慣の形 成を目指し,「セルフエスティーム」を高めることを ねらいとした保健教育の実践例も報告されている8). これらの研究は,個人の生活習慣を変容すること をねらいとした保健教育に関しての方法や内容等を 検討しようとするものである.そのため,単に自己 健康を守るといったことにとどまらない能力を育む ための保健教育のあり方に関しては全く検討しては いない.こういった報告により,保健教育で高めて いく必要があると考えられている「セルフエス ティーム」に関する心理学的分野の研究では,自尊 感情が高くとも他尊感情が低ければ,攻撃的な表現 を行うことが報告されている9).また,唐澤10)は, 自己観は,その文化を反映することを指摘している. さらに,唐澤10)は西欧文化では,「相互独立的自己 観」が優勢であるが,日本文化では,「相互強調的自 己観」が優勢であるため,西欧の場合は,自己と他 者とが独立しており,それに基づいた社会規範が生 まれるのに対し,日本の場合は,それと異なり,自 己は他者との関係が重視され,そのことを意識した 社会規範が生まれることを指摘している.これらの ことから,セルフエスティームを高めることは,仮 に個人の生活行動を変容することができたとしても, 保健教育の重要な目標の一つとなる「健康にかかわ る公共的責任3)」といったものを高めることに繫が らない可能性も予測される.また,このような保健 教育のねらいを実現するためには,自己に対する自 信というものではなく,他者や社会との関係性の中 でとらえることができる健康に関する価値的意識が 重要となってくるのではないかと思われる. もちろん,これまでに「健康にかかわる公共的責 任3)」といった視座から保健教育が育むべき能力や そのために必要となる学びの内容についての検討が 全くないわけではない.若干ではあるが検討がなさ れている.それらについてみると,藤田11)は「今日 の生活様式や環境の変化による顕在的・潜在的健康 問題に賢明に対処していくための保健的教養」の一 つとして,「今日の社会における生活や環境上の健 康危険因子とそれを生み出している社会的条件との 関係がわかり,同時に,可能な範囲で個人的・社会 的にその関係をコントロールできること」の必要性 を指摘している.また,生産様式と経済行動あるい はそれに規定された政策によって生み出されてきて いる健康破壊の問題も少なくないことなどから,保 健的教養として,「問題発生の社会的メカニズムや 構造がわかり,その構造改革のための社会的努力に 参加できること」が必要であると指摘している11). さらに,藤田11)は,これからも続くと思われる社会 の変化から求められる保健的教養について,「今日 の生活や環境と体・健康との関係を人類史的な側面 からとらえることができ,体や健康との関連で文明 のあり方を考えることができること」「違いを認め合 いながら共に生きていくことの大事さがわかり,連 携しながら社会を築いていこうとする志向性をもっ ていること」が必要であると指摘している.また, 内田ら12-13)は,「病いの語り」を取り入れた「エイズ 教育実践」を通して,エイズ患者に対しての差別や 偏見が払しょくされるには,「病い」や「病者」の視 点から学ぶことが必要であることを指摘している. こうした報告から,保健教育においては「生活や 環境上の健康問題に対する行動」「他者の視点に立っ た行動」「違いを認め合い共に生きていくための行 動」「健康にかかわる公共的責任に対する行動」と いったような「他者や社会の健康を守るための行動」 がとれるような能力を育成することが重要であり, そのためには,「他者(病者も含む)の視点からの理 解」「健康問題発生の構造への理解」「違いを認め合 い連携しながら社会を築こうとする意識」「社会の 健康づくりを担う市民としての意識」といったよう な「共生の健康に関する意識」を高めていくことが 必要であると考えられる.さらに,「共生の健康に 関する意識」を高めることは,まさに他者や社会と の関係性の中でとらえることにつながり,他者や社 会との関係性の中で健康に関する価値的意識を高め ることにつながっていくのではないかと考えられる. しかしながら,これまでに「健康にかかわる公共 的責任3)」といった視座から保健教育のあり方を検 討したこれらの研究では,「他者や社会の健康を守 るための行動」に影響する要因を行動科学的視座か らの調査によって明らかとすることを試みたもので はない.また,先述したように,近年の保健教育の 内容や方法を検討するために行われた行動科学的視 座からの調査研究のほとんどが,「健康にかかわる 公共的責任3)」や「共生」といった視座からの検討を 行っていない.そのため,今後の保健教育のあり方 を検討するためにも,こうした「他者や社会の健康 を守るための行動」に影響を与える要因ついても行 動科学的視座から調査研究を行い,その影響要因を 明らかにしていくことが重要であると思われる. そこで,本研究においては,しつけ等により回答 が一方向に導かれにくく,ある程度自己の考え等を もとにすることが可能と思われる高校生および大学
生を対象とし,今後の保健教育のあり方を検討する ため,「他者や社会の健康を守るための行動」に影響 に対する「セルフエスティーム」「共生の健康に関す る意識」「他者や社会の健康に対する自他の健康価 値意識」といった要因の影響を明らかとするための 調査を実施し,ここに報告する.
2.研究方法
1)調査対象と方法・時期 A県の高等学校2校,大学1校の生徒,学生を調 査対象とした.A高等学校は,全クラスの生徒1,153 人を,B高等学校は調査の協力が得られた1年生か ら3年生の特定の委員会に所属する生徒85人を対象 とし,調査を行った.大学生は,C大学の学生398人 に 調 査 を 行 っ た.有 効 回 答 は,高 校 生 1, 179 人 (95.2%),大学生387人(97.2%)であった. 大学生においては,養護教諭養成課程の学生の回 答者に男子1人が含まれていたが,本研究において, 学部(学科や課程を含む)の特性に加えて,性別を 考慮して分析をすすめていくことが必要であると考 えられたため,分析対象から除外することとした. そのため,本研究において分析対象者数は,高校生 1,178人,大学生386人となった. 調査方法は,無記名自記式の質問紙を,高校生用 と大学生用の2種類作成し,調査に用いた.A高等 学校では,調査実施上の注意事項を記載した用紙を 担任教師に配布し,各クラスの担任教諭がクラスの 生徒に調査用紙を一斉配布する際に,読み上げるよ うにしてもらった.回答後の用紙の回収については, 回答終了後,個人が特定されることがないよう回答 者自らが回収封筒に封入するようにした.また,回 答期間は3週間程度設けた.B高等学校と一部大学 生に対しては,委員会または授業で教室に集まった 生徒および学生に対して,調査実施上の注意を行っ た上で,その場で各生徒,各学生に回答してもらい, 回収を行った.また,C大学での調査においては, 調査上の注意事項の説明を行えない状況となること が予測された場合は,調査実施上の注意事項をアン ケートに記載し,一定の回答期間を設け,所定の提 出場所に各自提出する方法で回収した. 調査は,高校生に対しては,平成26年5月19日か ら6月9日にかけて,大学生に対しては平成26年10 月6日から11月10日にかけて行った. 2)調査内容について ⑴属性 高校生に対しては,性別,学年などを質問した. 大学生に対しては,これらに加えて,学部,年齢な どを質問した. ⑵セルフエスティームについて セルフエスティームについては,遠藤14)は「セルフ・ エスティームとして,また,自己の研究の一部として 多くの学者によって,とりあげられている.しかし, なお,多くの点で一致した見解が見られず,方法も結 果もかなり異なっている.」とセルフエスティームのと らえ方等がさまざまあることを指摘している.そのた め本研究では,「セルフ・エスティーム(self-esteem) とは,人が持っている自尊心(self-respect),自己 (self-accepatanc)などを含め,自分自身についての 感じ方をさしている.自己概念とむすびついている 自己の価値と能力の感覚―感情―である」との遠藤 の定義15)をセルフエスティームとしてとらえるこ ととした.これまでの生活習慣との関連等を検討し た研究では,Rosenberg(1965)によって作成された 10項目から構成される尺度の日本語版として,星野 によるもの16)を使用あるいは松下によるもの17)を 使用している.しかし本研究では,対象者が高校生 および大学生であることを考慮し,Rosenbergに よって作成された10項目から構成されるセルフエス ティーム尺度の日本語版で,大学生に対しての使用 が可能なことが確認され,さらに高校生についても 使用が可能である山本・松井・山成によって作成さ れたもの18)を使用した.回答についても山本らが 作成している通り,「あてはまる」「ややあてはまる」 「どちらとも言えない」「ややあてはまらない」「あて はまらない」の5件法で,各質問に対し,肯定的な 回答から5点,4点,3点,2点,1点と,得点化 した. ⑶共生の健康に関する意識について 藤田11)が指摘する「今日の社会における生活や環 境上の健康危険因子とそれを生み出している社会的 条件との関係がわかること」「社会の変化によって 起こる健康破壊について問題発生の社会的メカニズ ムや構造がわかること」「今日の生活や環境と体・健 康との関係を人類史的な側面からとらえることがで き,体や健康との関連で文明のあり方を考えること ができること」「違いを認め合いながら共に生きて いくことの大事さがわかること」といったことを, また森3)が指摘する「健康にかかわる公共的責任(人 権・健康権・環境権)を育成する市民的教養主義の 立場からの市民的教養」といったことを,さらに内 田ら12-13)が指摘する「病い」や「病者」の視点から の学びといったことを参考にし,「共生の健康に関 する意識」尺度の概念形成を行った.また,質問に よっては本研究の調査対象者が高校生以上であることから,中学校までに学習する保健学習の内容ある いはそれに関連すると思われる内容を想定し,高校 生用では17項目,大学生用では22項目を設定した. 質問項目の作成にあたって,健康に影響を与える 環境問題に対する意識については,ごみの分別行動 に関する意識構造を調査した松井ら19)の研究で用 いられた,ごみ問題一般に関する認知・態度・環境 意識を尋ねた質問項目を参考とし,そのうち「ごみ 問題は自分も責任がある」「資源を未来へ残す責任 がある」といった質問項目については,その一部を 改編し使用した.また,他者を援助することに関す る規範意識の個人差を測定する箱井・高木によって 作成された援助規範意識尺度20)を参考にした. 回答は,「非常にそう思う」「ややそう思う」「どち らとも言えない」「ややそう思わない」「全くそう思 わない」の5件法とし,肯定的な回答から5点,4 点,3点,2点,1点と,得点化した. ⑷関係性の中での自他と社会の健康価値意識について 本研究においては,単に自己にとっての健康の価 値意識を,あるいは単に社会や他者の健康の価値意 識を問うのではなく,関係性の中での社会,自己お よび他者の健康の価値意識を測定することとした. そのため,石川ら9)の他尊感情尺度の「価値」を問う 質問を参考に,他者や社会との関係性の中でとらえ た自己の健康価値意識を問う2項目を,自己と他者, 社会のつながりの中でとらえた自他と社会の健康価 値意識を問う2項目を設定した.回答は,「非常に そう思う」「ややそう思う」「どちらとも言えない」 「ややそう思わない」「全くそう思わない」の5件法 とし,肯定的な回答から5点,4点,3点,2点, 1点と,得点化した. ⑸他者や社会の健康を守るための行動について 藤田11)の指摘する「生活や環境上の健康危険因子 とそれを生み出す社会的条件との関係を,可能な範 囲で個人的・社会的にコントロールできること」「問 題発生構造改革のための社会的努力に参加できるこ と」「連携しながら社会を築いていこうとすること」 といったことを,また森3)が指摘する「誰でもが住 みやすい健康な社会・環境づくりや保健活動に自立 した市民として参加していくこと」といったことを, さらに内田ら12-13)が指摘する「病い」や「病者」の 視点からの学びといったことを参考に「他者や社会 の健康を守るための行動」尺度の概念形成を行った. また,質問によっては本研究の調査対象者が高校生 以上であることから,中学校までに学習する保健学 習の内容あるいはそれに関連すると思われる内容を 想定し,高校生用では17項目,大学生用では22項目 を設定した. 質問項目の作成にあたって,ごみの分別行動に関 する意識構造を調査した松井ら19)の研究で用いら れた,ごみ問題一般に関する認知・態度・環境意識 を尋ねた質問項目を参考とし,そのうち「自分一人 くらい不参加でもよい」という質問項目については, その表現の一部を,「分別しないと近所から呼びか けられる」「分別しないと近所から注意される」とい う質問項目については「分別しないと」という表現 の一部を改編し使用した. また,援助行動や親切行動など,向社会的行動を どの程度行っているか,行動経験を自己報告により 測定する菊池の向社会的行動尺度21)を参考とし,そ のうち「気持ちのわるくなった友人を,保健室に連 れていく」「バスや列車で,立っている人に席をゆず る」といった質問項目については,その一部を改編 し使用した.さらに,他者を援助することに関する 規範意識の個人差を測定する箱井・高木が作成した 援助規範意識尺度20)を参考とし,そのうち「救う能 力が自分に備わっていない時には,救う努力をして も無駄である」「自己を犠牲にしてまでも,人を助け る必要はない」「将来付き合うことのない人なら, 困っていても助ける必要はない」「自分が不利にな るのなら,困っている人を助けなくともよい」といっ た質問項目については,その一部を改編し使用した. 人命救助のための行動として,心肺蘇生とAED を使えるかどうかを問う質問を設定したが,今回の 調査対象者の中で,人命救助が必要とされる場面に 遭遇したことのある者は極めて稀であることが考え られたため,そのような手法を使えるようにしてお く必要があると自覚しているかを問うこととした. 回答は,「あてはまる」「ややあてはまる」「どちら とも言えない」「ややあてはまらない」「あてはまら ない」の五件法とした.また,質問によっては,「非 常にそう思う」「ややそう思う」「どちらとも言えな い」「ややそう思わない」「全くそう思わない」の5 件法とし,肯定的な回答から5点,4点,3点,2 点,1点と,得点化した. なお,「共生の健康に関する意識」および「他者や 社会の健康を守るための行動」のうち,高校生にお いては,調査対象である高等学校の生徒の心身の健 康状態の実態などを考慮し,調査から除外したため, 高校生用と大学生用では質問項目が異なるものと なっている. 3)分析方法 統計処理における有意水準はすべて5%未満とし, 統計ソフトIBM SPSS Statistic ver 21.0を用いて統 計処理を行った.
4)倫理的配慮 高等学校での調査にあたっては,各校で,研究の 趣旨と調査内容を事前に説明した.その際に,調査 結果を研究目的以外に使用しないこと,調査用紙の 管理を徹底すること等,倫理的配慮についても説明 を行い,調査協力の同意を得た. A高等学校では,調査用紙の配布を担当する担任 教諭に実施上の注意を記した文書を配布し,個人情 報の管理の徹底を図った.また,調査対象者に対し ても,担任教諭を通し,個人は特定されないこと, いやな気持ちを抱く項目があったとしても,それは あくまでも研究目的であること等の周知を図り,回 収の際は生徒個人が指定の封筒に入れることとした. B高等学校および一部大学生での調査では,調査 対象者への倫理的配慮についての説明は筆者自身が 行った.筆者自身が説明を行えない状況下での大学 生に対する調査においては,A高等学校での調査と 同様に,授業担当者に倫理的配慮の周知を行っても らうあるいは調査用紙に倫理的配慮についての説明 を記載した.なお,高校生,大学生ともに,本人が 調査を拒否した場合には,その者に対して回答は求 めなかった. 5)大学生における学部および学年別の分類について 本研究において高校生,大学生とも,生活習慣や 「共生の健康に関する意識」などの各尺度得点につ いては,性差および学年差について検討していく必 要がある.大学生の有効回答者のうちで大学院2年 生が2人であったため,大学院生1年と合わせて大 学院生として分析していくこととした. また「共生の健康に関する意識」などについて, 性差および学年差に加え,学部や課程を含む学部等 特性による差についても検討する必要がある.大学 生の有効回答者の中に医学,健康等を専門科目の一 部として学んでいる養護教諭養成課程の学生124人, 医学部の学生1人が含まれていたため,これらの課 程と学部を合わせて分析することとし,学部等特性 の部類については,「養護教諭養成課程等群」「その 他の学部群」に分類することとした.さらに,性別 で分類することした.この分類で,「養護教諭養成 課程群」に男子を含まないことから,「男子(N= 182)」「一般女子(N=79)」「養護教諭養成課程等群 (N=125)」の三群の間で分析を進めることで性差 を考慮した分析も同時可能となった. これらのことから,高校生においては性別および 学年別(男子1年生223名,男子2年生224名,男子 3年生173名,女子1年生183名,女子2年生179名, 女子3年生197名)大学生においては学部等特性別 (この分類により同時に性別を含むため,以降「学部 等特性別(性別を含む)」と記すこととする)および 学年別に,「セルフエスティーム」「共生の健康に関 する意識」「健康に関する価値意識」「関係性の中で の自他と社会の健康価値意識」「他者や社会の健康 を守るための行動」の各尺度得点について検討する こととした.その結果を踏まえ,「他者や社会の健 康を守るための行動」に影響を与える要因について はこれらの結果を踏まえて分析を進めていくことと した.
3.結
果
1)高校生および大学生における各尺度の探索的因 子分析および信頼性分析について ⑴セルフエスティームについて 高校生,大学生ともに,すべての質問項目を用い て主成分分析によるプロマックス回転法による探索 的因子分析を行った.その結果,2因子が抽出され た(表1,表2).しかしながら,No.8「もっと自 分自身を尊敬できるようになりたい」のみが第一因 子に対して負の負荷量を示した. 谷ら22)の研究でも,No.8の項目についての因子 負荷量は,本研究と同様の傾向を示し,分析におい て除外されている.本研究においても高校生および 大学生ともに,第一因子に対してこの項目のみ負の 負荷量を示し,同様の傾向がみられたため,この項 目を分析から除外することとした. -2 1 4 6 5 7 9 10 3 8 表1 高校生のセルフエスティームの因子分析結果 -2 1 6 5 4 9 3 10 8 7 表2 大学生のセルフエスティームの因子分析結果なお,この質問を除外した高校生のセルフエス ティーム尺度の信頼性についてみると,第1因子の クロンバックのα係数は0.86,第2因子のクロン バックのα係数は0.80,全体のクロンバックのα係 数は0.88と良好で本研究において使用が可能である ことが確認された.また第1因子の寄与率は51.5%, 第2因子の寄与率は13.4%,累積寄与率は64.9%で あった. また,この質問を除外した大学生のセルフエス ティーム尺度の信頼性についてみると,第1因子の クロンバックのα係数は0.82,第2因子のクロン バックのα係数は0.79,全体のクロンバックのα係 数は0.88と良好で本研究において使用が可能である ことが確認された.また第1因子の寄与率は50.4%, 第2因子の寄与率は11.8%,累積寄与率は62.1%で あった. ⑵共生の健康に関する意識について 高校生および大学生の「共生の健康に関する意識」 の各質問項目の平均得点と標準偏差をみたところ, No.2「自分の健康は,自分だけがつくるものでは ない.」No.3「自分には,感染症を広めない責任が ある.」No.7「環境汚染が及ぼす将来への影響は, はかりしれない.」No.12「自分が感染症にかからな いことも大事であるが,それと同様に感染を広めな いことも大事である.」の項目については,高校生お よび大学生の結果において,平均得点+標準偏差の 値が各質問項目の最高得点である5点を越えていた. そのため,これらの項目については,高校生および 大学生ともに今後の分析に使用しないこととした. 高校生においては,13項目を用いて主成分分析に よるプロマックス回転法による探索的因子分析を 行った.その結果,3因子が抽出された(表3).第 1因子は6項目から構成され,「他者の健康被害や 病気の苦しみの感受」と命名した.第2因子は4項 目から構成され,「健康課題に対する個人や社会の 責任」と命名した.第3因子は3項目から構成され, 「病気やケガの社会的背景要因を含めた包括的とら え方」と命名した. 共生の健康に関する意識尺度の信頼性についてみ ると,第1因子のクロンバックのα係数は0.79,第 2因子のクロンバックのα係数は0.59,第3因子の クロンバックのα係数は0.64,全体のクロンバック のα係数は0.79であった.また第1因子の寄与率は 29.0%,第2因子の寄与率は11.5%,第3因子の寄 与率は10.4%,累積寄与率は51.0%であった. 大学生においては,18項目を用いて主成分分析に よるプロマックス回転法による探索的因子分析を 行った.その結果,4因子が抽出された(表4).第 1因子は7項目から構成され,「健康課題に対する 個人や社会の責任」と命名した.第2因子は6項目 から構成され「あらゆる人が健康に生きられる社会 構造のとらえ方」と命名した.第3因子は3項目か ら構成され「他者の健康被害や病気の苦しみの感受」 と命名した.第4因子は2項目から構成され「病気 の社会的背景要因を含めた包括的とらえ方」と命名 した. 共生の健康に関する意識尺度の信頼性についてみ ると,第1因子のクロンバックのα係数は0.77,第 2因子のクロンバックのα係数は0.72,第3因子の 3 表3 高校生の「共生の健康に関する意識」に関する 因子分析の結果 10 3 4 表4 大学生の「共生の健康に関する意識」に関する 因子分析の結果
クロンバックのα係数は0.73,第4因子のクロン バックのα係数は0.81,全体のクロンバックのα係 数は0.86であった.また第1因子の寄与率は30.2%, 第2因子の寄与率は9.5%,第3因子の寄与率は 7.2%,第4因子の寄与率は6.5%,累積寄与率は 53.4%であった. 高校生と大学生とで当然であるが若干とらえ方に 違いがみられるが,概ね下位概念も妥当で,内的整 合性を示すとクロンバックのα係数も良好であり, 本研究において高校生および大学ともこの尺度が使 用可能であることが確認された. ⑶関係性の中での自他と社会の健康価値意識について 高校生および大学生の結果においては,4項目す べてを用いて主成分分析によるプロマックス回転法 による探索的因子分析を行った.その結果,1因子 が抽出された(表5,表6). 高校生における関係性の中での自他と社会の健康 価値意識尺度の信頼性についてみると,全体のクロ ンバックのα係数は0.74であった.また寄与率は 57.0%であった.大学生においては,全体のクロン バックのα係数は0.75であった.また寄与率は 57.7%であった.高校生と大学生とも1因子で構成 され,その内的整合性を示すとクロンバックのα係 数も良好であり,本研究において高校生および大学 ともこの尺度が使用可能であることが確認された. ⑷他者や社会の健康を守るための行動について 高校生および大学生の「他者や社会の健康を守る ための行動」の各質問項目の平均得点と標準偏差を みたところ,No.6「咳やくしゃみをするときは, 手や腕をあてるようにしている.」No.13「インフル エンザにかかっても,熱が高くなければ外に出かけ る」の項目については,高校生および大学生の結果 において,平均得点+標準偏差の値が各質問項目の 最高得点である5点を越えていた.そのため,これ らの項目については,高校生および大学生ともに今 後の分析に使用しないこととした. なお,No.18,No.19,No.20,No.21,No.22の項 目は大学生のみの質問項目である. 高校生においては,15項目を用いて主成分分析に よるプロマックス回転法による探索的因子分析を 行った.その結果,5因子が抽出された(表7). 第1因子は4項目から構成され「健康な生活ので きる環境への配慮」と命名した.第2因子は4項目 から構成され「病人やケガ人の救助」と命名した. 第3因子は2項目から構成され,「人命救助のため に果たすべき役割の自覚」と命名した.第4因子は 2項目から構成され,「社会的弱者への配慮」と命名 した.第5因子は3項目から構成され,「周囲の者 の健康への配慮」と命名した. 他者や社会の健康を守るための行動尺度の信頼性 についてみると,第1因子のクロンバックのα係数 は0.79,第2因子のクロンバックのα係数は0.72, 第3因子のクロンバックのα係数は0.79,第4因子 のクロンバックのα係数は0.61,第5因子のクロン バックのα係数は0.48,全体のクロンバックのα係 数は0.79であった.また第1因子の寄与率は27.0%, 第2因子の寄与率は11.9%,第3因子の寄与率は 9.7%,第4因子の寄与率は7.6%,第5因子の寄与 率は6.9%,累積寄与率は63.2%であった. 大学生においては,20項目を用いて主成分分析に よるプロマックス回転法による探索的因子分析を 行った.その結果,5因子が抽出された(表8). 第1因子は8項目から構成され,「病人やケガ人 の救助と周囲の者の健康への配慮」と命名した.第 2因子は4項目から構成され,「病気を持つ者に対 する偏見」と命名した.第3因子は4項目から構成 され,「健康な生活のできる環境への配慮」と命名し た.第4因子は2項目から構成され,「人命救助の ために果たすべき役割の自覚」と命名した.第5因 子は2項目から構成され,「社会的弱者への配慮」と 命名した. 他者や社会の健康を守るための行動尺度の信頼性 についてみると,第1因子のクロンバックのα係数 は0.74,第2因子のクロンバックのα係数は0.80, 第3因子のクロンバックのα係数は0.79,第4因子 のクロンバックのα係数は0.83,第5因子のクロン バックのα係数は0.77,全体のクロンバックのα係 数は0.85であった.また第1因子の寄与率は27.5%, 第2因子の寄与率は9.6%,第3因子の寄与率は 9.2%,第4因子の寄与率は6.5%,第5因子の寄与 率は5.5%,累積寄与率は58.4%であった. 表5 高校生の「関係性の中での自他と社会の 健康価値意識」の因子分析結果 表6 大学生の「関係性の中での自他と社会の 健康価値意識」の因子分析結果
高校生と大学生とでとらえ方に若干の違いはみら れるものの,高校生および大学生とも概ね下位概念 も妥当であり,信頼性を示すクロンバックのα係数 も良好であり,本研究において高校生および大学生 ともこの尺度が使用可能であることが確認された. 2)各尺度の高校生における学年および学年差と大学 生における学部特性(性差を含む)および学年差 高校生のセルフエスティームの得点の性差および 学年差を明らかにするため,2要因の分散分析を 行った.その結果,性別と学年の交互作用は有意で なく,性別の主効果のみ有意であり(F=15.59,df= 1,P<0.01),男子が女子よりもセルフエスティーム の得点が高かった.同様に大学生のセルフエス ティームの得点の学部等特性差(性別を含む)およ び学年差を明らかにするため,2要因の分散分析を 行った.その結果,学部等特性(性別を含む)と学 年の交互作用は有意でなく,学部等特性(性別を含 む),学年の主効果もみられなかった.なお,高校生 と大学生にセルフエスティーム得点に有意な差はみ られなかった. 次に,高校生の「共生の健康に関する意識」の得 点についても同様の分析を行った.その結果,性別 と学年の交互作用は有意でなく,性別の主効果のみ 有意であり(F=31.06,df==1,P<0.01),女子が男 子よりも「共生の健康に関する意識」の得点が高かっ た.大学生の「共生の健康に関する意識」の得点に ついても同様の分析を行った.学部等特性差(性別 を含む)および学年差を明らかとするため,2要因 の分散分析を行った.その結果,学部等特性(性別 を含む)と学年の交互作用は有意でなく,学部等特 性(性別を含む)および学年の両方の主効果が有意 であり(学部特性:F=11.80,df=2,P<0.01,学 年:F=3.33,df=4,P<0.05),シェッフェ法の多重 比較を行った結果,「一般女子」「養護教諭養成課程 等群」は「男子」に比べ,「1年生」「2年生」「3年 生」は,「4年生」よりも「共生の健康に関する意識」 の得点が有意に高かった.なお,大学生は,高校生 よりも「共生の健康に関する意識」の得点が有意に 高かった(t=-41.18,df=669.76,P<0.01). 次に,高校生の「関係性の中での自他と社会の健 康価値意識」の得点についても同様の分析を行った. その結果,性別と学年の交互作用は有意でなく,性 別,学年の主効果もみられなかった.大学生の「関係 性の中での自他と社会の健康価値意識」の得点につ いても同様の分析を行った.その結果,学部等特性 (性別を含む)と学年の交互作用は有意でなく,学年 の主効果だけが有意であり(F=3.49,df=4,P< 表7 高校生の「他者や社会の健康を守るための行動」 に関する因子分析 表8 大学生の「他者や社会の健康を守るための行動」 に関する因子分析
0.01),シェッフェ法の多重比較の結果,「1年生」「2 年生」「院生」は,「4年生」よりも「共生の健康に関 する意識」の得点が有意に高かった.なお,大学生の 方が高校生よりも「関係性の中での自他と社会の健 康 価 値 意 識」が 有 意に高かった(t = -5.40,df = 73.45,P<0.01). 次に高校生の「他者や社会の健康を守るための行 動」の得点についても同様の分析を行った.その結 果,性別と学年の交互作用は有意でなく,性別の主 効果が有意で(F=26.73,df=1,P<0.01),女子が男 子よりも「他者や社会の健康を守るための行動」の 得点が高かった.大学生の「他者や社会の健康を守 るための行動」の得点についても同様の分析を行っ た.その結果,学部等特性(性別を含む)と学年の 交互作用は有意でなく,学部等特性(性別を含む) の主効果が有意であり(F=6.06,df=2,P<0.01), シェッフェ法の多重比較を行った結果,養護教諭養 成課程等群は「男子」「一般女子」に比べ「他者や社 会の健康を守るための行動」の得点が有意に高かっ た. 3)高校生および大学生の「他者や社会の健康を守 るための行動」に影響を与える要因について 「他者や社会の健康を守るための行動」「共生の健 康に関する意識」「セルフエスティーム」「関係性の中 での自他と社会の健康価値意識」について高校生で は性差が,大学生では学部等特性差(性別を含む) が,「共生の健康に関する意識」において,4年生は 1,3年生より得点が高いという有意な差がみられた. そのため,高校生では性別に,大学生では「男子」 「一般女子」「養護教諭養成課程等群」にわけて,「他 者や社会の健康を守るための行動」を従属変数とし, その他の要因を説明変数とした重回帰分析を行うこ とにした.また,大学生の学年差の考慮においては 「4年生または他学年」を説明変数とし,投入するこ ととした.さらに,高校生においても学年差はみら れないものの高校で学習する保健の内容量の影響を 考慮し,「学年」を説明変数として投入することした. なお説明変数として用いる「4年生または他学年」(大 学生のみ)は,4年生を1,他学年を0と置き換え, ダミー変数として重回帰分析に投入した.高校生の 学年については連続データとして投入した.投入方 法は,「他者や社会の健康を守るための行動」にどの ような要因が影響をあたえるのかを検討することを 目的としていることから,ステップワイズ法とした. 重回帰分析の結果,二つの連続データの変数が影響 要因であった場合,交互作用項をつくり,断層的重 回帰分析を行った23).また,連続データの変数とカ テゴリカルデータの変数が影響要因であった場合, 共分散分析によって平行性を確認することとした. また,多重共線性の問題については,VIF値, Durbun-Watson比を確認した. 高校生男子について,「他者や社会の健康を守る ための行動」を従属変数,「共生の健康に関する意識」 「セルフエスティーム」「関係性の中での自他と社会 の健康価値意識」「学年」を説明変数として,ステッ プワイズ法の回帰分析を行った.その結果,偏回帰 係数が有意であった変数は,選出順に「共生の健康 に関する意識」と「関係性の中での自他と社会の健 康価値意識」(F(2,617)=222.56,p<0.01, R2= 0.42,Durbun-Watson比=1.92)であった.また, 「共生の健康に関する意識」の標準化βは0.50(P< 0.01),「関係性の中での自他と社会の健康価値意識」 の標準化βは0.24(P<0.01)であった.両変数の 交互作用を分析した結果,交互作用はみられず,そ れぞれの主効果が有意であった. 高校生女子でも,同様の分析を行った結果,偏回 帰係数が有意であった変数は,選出順に「共生の健 康に関する意識」と「関係性の中での自他と社会の 健康価値意識」(F(2,556)=128.45,p<0.01, R2= 0.31, Durbun-Watson比=2.15)であった.また, 「共生の健康に関する意識」の標準化βは0.8(P< 0.01),「関係性の中での自他と社会の健康価値意識」 の標準化βは0.16(P<0.01)であった.両変数の 交互作用を分析した結果,交互作用はみられず,そ れぞれの主効果が有意であった. 次に大学生男子では,「共生の健康に関する意識」 「セルフエスティーム」「関係性の中での自他と社会 の健康価値意識」を説明変数として同様の分析を 行った. その結果,偏回帰係数が有意であった変数は,選 出順に「共生の健康に関する意識」と「関係性の中 での自他と社会の健康価値意識」(F(2,179)=60.63, p<0.01, R2=0.40, Durbun-Watson比=1.97)で あった.また,「共生の健康に関する意識」の標準化 βは0.57(P<0.01),「関係性の中での自他と社会 の健康価値意識」の標準化βは0.14(P<0.01)で あった.両変数の交互作用を分析した結果,交互作 用はみられず,それぞれのの主効果が有意であった. また,大学生一般女子については,「4年生または 他学年」を説明変数に加えて,同様の分析を行った. その結果,偏回帰係数が有意であった変数は,選出 順に「共生の健康に関する意識」(F(1,77)=44.22, p<0.01, R2=0.41, Durbun-Watson比=1.73)と「4 年生または他学年」(F(1,76)=7.68,p<0.01)であっ た.さらに「共生の健康に関する意識」とカテゴラ
ルデータである「4年生または他学年」について共 分散分析結果,平行性が確認された. 次に大学生養護教諭養成課程等群については,「共 生の健康に関する意識」「セルフエスティーム」「関 係性の中での自他と社会の健康価値意識」を説明変 数として,同様の分析を行った.その結果,偏回帰 係数が有意であったのは,「共生の健康に関する意 識」(F(1,123)=82.43,p<0.01, R2=0.40, Dur-bun-Watson比=2.32)で,標準化βは0.63(P< 0.01)であった.なお,共線性の問題を考慮するた めに検討したもう一つの指標のVIF値は,すべて1 前後であった. 4)高校生および大学生の「セルフエスティーム」 「共生の健康に関する意識」「関係性の中での自他 と社会の健康価値意識」の関連について 「セルフエスティーム」「共生の健康に関する意識」 「関係性の中での自他と社会の健康価値意識」の三 つの各変数の関連性を明らかとするため,一つの変 数を制御変数として,残りの変数の関連性を分析し た. 高校生では,「共生の健康に関する意識」を一定と したときの「セルフエスティーム」と「関係性の中 での自他と社会の健康価値意識」の偏相関係数は, 男子で0.27(P<0.01),女子で0.29(P<0.01)であっ た.また,「セルフエスティーム」を一定としたとき の「共生の健康に関する意識」と「関係性の中での 自他と社会の健康価値意識」の偏相関係数は,男子 で0.44(P<0.01),女子で0.40(P<0.01)であった. さらに,「関係性の中での自他と社会の健康価値意 識」を一定としたときの「共生の健康に関する意識」 と「セルフエスティーム」の偏相関係数は男子で -0.01,女子で-0.11であったが有意ではなかった. 次に,大学生では「共生の健康に関する意識」を 一定としたときの「セルフエスティーム」と「関係 性の中での自他と社会の健康価値意識」の偏相関係 数は,男子で0.07(P=0.34),一般女子で0.37(P< 0.01),養護教諭養成課程等群で0.16(P=0.09)で あった.また,「セルフエスティーム」を一定とした ときの「共生の健康に関する意識」と「関係性の中 での自他と社会の健康価値意識」の偏相関係数は, 男子で0.37(P<0.01),一般女子で0.29(P<0.05), 養護教諭養成課程等群で0.40(P<0.01)であった. さらに,「関係性の中での自他と社会の健康価値意 識」を一定としたときの「共生の健康に関する意識」 と「セルフエスティーム」の偏相関係数は,男子で 0.04(P=0.60),一般女子で-0.12(P=0.31),養護 教諭養成課程等群で-0.07(P=0.42)であった.
4.考
察
本研究において,高校生男女,大学生男子の「他 者や社会の健康を守るための行動」に影響を与える 要因として,「共生の健康に関する意識」「関係性の 中での自他と社会の健康価値意識」が,大学生の養 護教諭養成課程等群においては,「共生の健康に関 する意識」が,大学生一般女子については,「共生の 健康に関する意識」と「学年」が,重回帰分析の結 果で有意となり,その説明率も30〜40%であった. また,「セルフエスティーム」を制御変数とした「共 生の健康に関する意識」と「関係性の中での自他と 社会の健康価値意識」との相関は,高校生および大 学生のどの群においても有意であり,高校生男女, 大学生養護教諭養成課程等群の相関係数は中程度の 0.40であり,大学生男子はやや低く0.37,大学生一 般女子ではさらに低く0.29であった. しかしながら,「セルフエスティーム」については, 高校生および大学生のいずれの分析結果においても 「他者や社会の健康を守るための行動」に影響を与 えていないといった結果がみられた.また,「共生 の健康に関する意識」を制御変数とした「関係性の 中での自他と社会の健康価値意識」と「セルフエス ティーム」の相関では,高校生男女,大学生一般女 子において有意であり,大学生一般女子の相関係数 は,0.38であり,高校生ではそれより低く,男子で 0.27,女子で0.29といった結果がみられたが,「関係 性の中での自他と社会の健康価値意識」を制御変数 とした「セルフエスティーム」と「共生の健康に関 する意識」との相関は,有意ではないものの,大学 生男子の相関係数0.04を除いて,わずかではあるが 負の相関係数がみられた. これらの結果は,「セルフエスティーム」を高める ことが,保健教育のねらいとなる「他者や社会の健 康を守るための行動」を行うことができる力を育む ことには結びつきにくく,このような力を育むには, 「共生の健康に関する意識」あるいは「関係性の中で の自他と社会の健康価値意識」を高めることが,重 要であることを示唆しているものと思われる. 森3)は,『誰でもが住みやすい健康な社会・環境づ くりや保健活動に自立した市民として参加していく のに必要な基礎的知識と認識,およびそれにもとづ いて形成される見識,「観」』を育てることの重要性 を,また藤田11)は「違いを認め合いながら共に生き ていくことの大事さがわかり,連携しながら社会を 築いていこうとする志向性をもつこと」の重要性を 指摘している.さらに,内田ら12-13)は,「病いの語 り」を取り入れた「エイズ教育実践」を通して,「病い」や「病者」の視点からの学びが重要であり,そ れによってエイズ患者に対しての差別や偏見の払 しょくだけにとどまらない「豊かな学び」ができる ことを報告している.さらには,戸野塚24)は,ス ウェーデンにおける「からだの学習」が「共生・共 存」につながる内容であるのに対し,我が国の保健 教育における「身長,体重等のからだの変化」を学 ぶ内容では「他者理解」につながらず,「『発育・発 達』を個のレベルだけでなく,共に違いを認めあっ て育ちゆく関係性の中でとらえようとするならば, 他者のからだや他者との違いを理解するという『共 生・共存』の視点が加味されることが必然である」 と指摘している. 本研究において,「他者や社会の健康を守るため の行動」に「共生の健康に関する意識」や「関係性 の中での自他と社会の健康価値意識」が影響する要 因であるといった結果がみられたことは,これまで のこういった指摘を調査研究によって裏付けるもの になると思われる. また,「共生の健康に関する意識」と「関係性の中 での自他と社会の健康価値意識」に相関関係がみら れたことは,共生を視座とした学びによって「共生 の健康に関する意識」が高まり,その中で自己と他 者あるいは社会の関係性をとらえ直し,社会や自己 についての健康の価値に関しての意識を高めること に繋がる可能性があることを示唆しているのではな いかと考えられる.そして「関係性の中での自他と 社会の健康価値意識」の高まりが,「共生の健康に関 する意識」にも影響するのではないかと考えられる. 一方で「セルフエスティーム」については,高校 生男女および大学生一般女子においては,「他者や 社会の健康を守るための行動」に影響する「関係性 の中での自他と社会の健康価値意識」に正の相関関 係がみられており,「セルフエスティーム」を高めれ ば「関係性の中での自他と社会の健康価値意識」も 高まるといった可能性がないとは言い切れない.し かし「セルフエスティーム」と「共生の健康に関す る意識」に正の相関関係はみられず,しかも有意で はないものの,非常に弱いながらもほとんどの群で 負の相関関係を示す係数がみられたこと,さらに, 唐澤10)の指摘から考えるならば,「他者や社会の健 康を守るための行動」を行うためには,まさに自己 と他者や社会との健康に関する関係性そのものをと らえることが重要となるため,このことを他者や社 会との健康に関する関係性を学ぶことなし,「セル フエスティーム」を高めても,「他者や社会の健康を 守るための行動」や「共生の健康に関する意識」は もちろん,「関係性の中での自他と社会の健康価値 意識」が高まる可能性が低いものと考えられる. もちろん,このような結果は「セルフエスティー ム」を学校教育の中で高めていく必要性が全くない ということを示唆しているわけではないと思われる. 様々な要因により著しく自己の「セルフエスティー ム」が低くなっている場合などは,川畑25)が指摘し ているように学校全体でそれを健全なものにしてい く必要があると思われる.しかしながら,「セルフ エスティーム」を単に高めるといったことに主眼を おいた教育内容や方法で展開される保健教育では, 「他者や社会の健康を守るための行動」を行える力 を育成するといった保健教育の重要な役割を果たす ことに繋がらないのではないかと考えられる. このようなことから,やはり将来社会において, 健康づくりの担い手として子どもたち一人ひとりが, 「他者や社会の健康を守るための行動」を行えるこ とをねらいとした保健教育を行うためには,「共生 の健康に関する意識」を高め,さらに「関係性の中 での自他と社会の健康価値意識」が高められていく ような教育内容や方法で,保健教育を展開してくこ とが重要となると思われる. そのため,自己の健康が他者や社会の健康に影響 を与え,また他者や社会の健康が自己にも影響する という,繋がりの中での自己と他者や社会の健康を とらえられるような保健教育が行われていく必要が あり,今後,さらにこのような方向性をもった保健 教育を展開するための内容や手法等の検討が必要で あると思われる.
5.おわりに
今後の保健教育のあり方を検討することを目的と し,他者や社会の健康を守るための行動に影響する 要因を明らかとするための調査を実施し,高校生 1,178人,大学生386人の回答を分析した. その結果,「他者や社会の健康を守るための行動」 を従属変数とした重回帰分析では,高校生,大学生 とも「他者や社会の健康を守るための行動」に「共 生の健康に関する意識」の影響が,高校生と大学生 の男子では加えて「関係性の中での自他と社会の健 康価値意識」の影響がみられた.さらに,「共生の健 康に関する意識」「関係性の中での自他と社会の健 康価値意識」「セルフエスティーム」の三つの変数を それぞれの組み合わせた偏相関分析では,高校生, 大学生ともに「共生の健康に関する意識」と「関係 性の中での自他と社会の健康価値意識」,一部女子 のグループを除いて高校生,大学生ともに「関係性 の中での自他と社会の健康価値意識」と「セルフエスティーム」とに相関関係がみられた.しかし,「セ ルフエスティーム」と「共生の健康に関する意識」 の相関関係はみられなかった. このようなことから,「他者や社会の健康を守る ための行動」といった保健教育のねらいを実現する ためには,「共生の健康に関する意識」あるいは「関 係性の中での自他と社会の健康価値意識」を高める ような保健教育の展開が必要であり,その内容の検 討が重要であることが示唆された. しかしながら,本研究は,一部の高校生,大学生 を対象とした横断的調査である.また,本研究にお いては使用可能であることが確認できた尺度につい ても,般化できるかどうかについてはさらに検討が 必要であると思われる.そのため,今後さらに対象 を広げた調査や縦断的調査が必要であると思われる. また,本研究では,保健教育のもう一つのねらい である生涯にわたり望ましい生活行動を実践してい くことができる力を育むことについては,検討して いない.そのため,「他者や社会の健康を守るため の行動」を行えることを目指した保健教育と生涯に わたり望ましい生活行動を実践していくことができ る力を育むことを目指した保健教育との関係性など については検討できておらず,今後このような視座 からの検討が必要であると思われる. 附記 この論文は,平成27年に熊本大学大学院教育学研 究科に提出した修士論文に用いたデータの一部を分 析し直し,その修士論文の一部に加筆・修正を加え たものである.
文献
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