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重要なメルクマールになると考えられる 本稿では 既に産業高度化を果たしたシンガポールの人材スキルレベルを踏まえつつ 主として タイと所得水準 ( 経済発展度 ) が近く 同様の問題に直面している中国 マレーシアなどのアジア諸国との比較を通じて タイの人材スキルがどの程度のレベルなのか評価したい 2.

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タイの人材スキルの評価

産業高度化を担う人材養成が課題

○ 中所得国化と労働力人口増加率の低下により賃金水準が高まっているタイでは、低廉な労働力に頼ら ない高付加価値産業を担う高いスキルを有する人材が求められている ○ 英語力、マネジメントスキル、科学技術力をメルクマールとしてタイの人材スキルレベルを評価する と、タイと同じく中所得国から高所得国への移行を目指す中国やマレーシアに比べて低い ○ タイは日系製造業の高い集積、発達した産業インフラ、整備された投資関連法制度など産業立地上有 利な条件を持つが、高所得国への移行を目指す上で、高いスキルを有する人材の養成が大きな課題に

1.はじめに

低廉な労働力を強みとして輸出主導の成長を続けてきたアジア諸国の中で、中所得国となった中国お よびマレーシア、タイなどのASEAN諸国では、賃金水準が高まり、これまでのような低廉な労働力を活 かした成長の持続が困難になっている。しかも、中国、タイでは、過去の人口抑制策が労働力人口増加 率の低下に拍車をかけている。一方、同じアジアの中で、シンガポールや韓国、台湾などのNIEs諸国・ 地域は既に中所得国から高所得国へのシフトを果たしており、今後、中国、マレーシア、タイが同様に 高所得国になれるのかに関心が集まっている。なかでも、日系企業の集積度が際立って高いタイについ ては、同国が今後どのように発展を続けるのかという問題は、日本にとっても重要な関心事項の一つで ある。 中所得国が高所得国に移行する上で鍵を握るのは低廉な労働力に頼らない高付加価値産業の育成で あり、それを支える重要な基盤の一つが高いスキルを有する人材である。タイは、バイオエネルギー、 ナノテクノロジー、ITなど、より付加価値の高い産業に重点をシフトすると表明しており、こうした産 業を担う人材の科学技術力が求められるようになっている。また、タイに進出した企業にとっては、労 働コストが高くなったタイ拠点に地域統括拠点などの高度な機能を持たせるために、課長やライン長と いった中間管理職レベルにとどまらず、上級管理職や現地法人経営層などの高位の役職に現地スタッフ を起用することが重要になってきている。現地の人材がこうした役職に就く場合、社内での高度なコミ ュニケーションに加え、本社との緊密な意思疎通が求められる。そのための代表的なコミュニケーショ ンツールとして英語は必須となっている。現地スタッフがスキルアップのために本社で研修等を受ける 場合にも、知識やノウハウを正確に理解してもらうために、高レベルの英語力が必要である。以上より、 英語力、マネジメントスキル、科学技術力は、今後タイで必要とされる人材のスキルの高さを測る上で

アジア

2013 年 3 月 29 日

みずほインサイト

アジア調査部研究員 杉田 智沙 03-3591-1368 chisa.sugita@mizuho-ri.co.jp

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(注)民間人材紹介会社の JAC リクルートメントが 2012 年 9 月 14 日 ~24 日に、東南アジア 4 カ国(タイ、インドネシア、マレーシア、 シンガポール)の日系企業現地法人(回答企業数 189 社)を対 象に実施したアンケート。数字は回答割合。 (資料)JAC リクルートメント タイ インドネシア マレーシア シンガポール マネジメントスキルと経験 60.8% 60.4% 45.2% 27.5% 職務の専門性(経験・知識) 60.8% 41.5% 54.8% 20.0% 日本語力 5.9% 20.8% 7.1% 2.5% 英語力 21.6% 9.4% 0.0% 0.0% 質に問題はない 5.9% 9.4% 4.8% 17.5% 重要なメルクマールになると考えられる。 本稿では、既に産業高度化を果たしたシンガポールの人材スキルレベルを踏まえつつ、主として、タ イと所得水準(経済発展度)が近く、同様の問題に直面している中国、マレーシアなどのアジア諸国と の比較を通じて、タイの人材スキルがどの程度のレベルなのか評価したい。

2.英語力の評価

(1) タイ人の平均的な英語力レベル まず、タイ人の平均的な英語力がどの程度のレベルなのかについてみてみたい。民間の語学研修機関 のEF Education First1は、2009~11年の3年間、英語を母語としない世界54カ国・地域の約150万人を対

象に英語テストを実施し、国別にランク付けをした「EF FPI報告書2012」を発表した。それによると、 英語が公用語となっているシンガポールに加えて、準公用語となっているマレーシアも上位にランクイ ンし、高いレベルとの評価を受けている(図表1)。一方、タイは、英語が日常的に用いられない中国と 比べても低いレベルにとどまっている。 また、タイの有力英字新聞「The Nation」(2013年2月27日付)は、ASEAN諸国におけるTOEFL PBTの平 均得点を比較し、タイが450点だったのに対し、近隣アジア諸国のシンガポール、マレーシアはともに 550点以上、ラオス、カンボジア、ミャンマーは500点だったと報じている。このように、タイ人の平均 的な英語力はアジア諸国の中で低位に位置づけられる。 (2) タイ進出企業によるタイ人従業員の英語力評価 では、タイに進出した企業は、タイ人従業員の英語力をどう評価しているのだろうか。中小企業基盤 整備機構が2006年3月に公表した「タイにおける外国企業の経営課題に関する実態調査」(外国企業30社 2が対象)によると、回答した30社中14社が、言語の障壁により「コミュニケーションが難しい」、「伝え たいことが伝えられない」といったように従業員の英語力の低さを指摘している。タイ人スタッフの英 語力の低さがコミュニケーションの障害になっているとみている外国企業は少なくないようだ。 図表 2 管理職候補に不足しているスキル (2012 年アンケート調査) 図表 1 国際英語力ランキング(2012 年) (注)1.約 150 万人を対象に 2009 年から 2011 年の 3 年間に行われた無料英語テストの結果を集計。 2.レベルの判定は EF Education First による。 1~5 位:非常に高い、6~13 位:高い、 14~25 位:標準的、26~38 位:低い、 39~54 位:非常に低いとしている。

(資料)EF Education First 「2012 年度 EF EPI(English

ランキング 国名 スコア レベル 1位 スウェーデン 68.91 非常に高い 2位 デンマーク 67.96 非常に高い 3位 オランダ 66.32 非常に高い 12位 シンガポール 58.65 高い 13位 マレーシア 57.95 高い 22位 日本 55.14 標準的 27位 インドネシア 53.31 低い 31位 ベトナム 52.14 低い 36位 中国 49.00 低い 53位 タイ 44.36 非常に低い

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図表 3 学習到達速度調査(2009 年) (注)掲載国の一人当たり名目 GDP(2011 年)は、高い順に、シン ガポール 49,270 ドル、日本 45,869 ドル、モンテネグロ 7,361 ドル、コロンビア 7,114 ドル、ペルー5,904 ドル、セルビア 5,725 ドル、タイ 5,394 ドル、ヨルダン 4,618 ドル、チュニジア 4,316 ド ル、インドネシア 3,511 ドル。 (資料)OECD「学習到達速度調査」 <数学的リテラシー> <科学的リテラシー> <読解力> 2位 シンガポール 4位 シンガポール 5位 シンガポール 9位 日本 5位 日本 8位 日本 44位 セルビア 45位 セルビア 45位 セルビア 50位 タイ 49位 タイ 50位 タイ 54位 モンテネグロ 51位 ヨルダン 52位 コロンビア 56位 ヨルダン 54位 コロンビア 54位 モンテネグロ 58位 コロンビア 55位 モンテネグロ 55位 ヨルダン 60位 チュニジア 57位 チュニジア 56位 チュニジア 61位 インドネシア 60位 インドネシア 57位 インドネシア 63位 ペルー 64位 ペルー 63位 ペルー

3.マネジメントスキルの評価

(1)タイ進出企業によるタイ人のマネジメントスキル評価 タイに進出している企業が、タイ人のマネジメントスキルについてどう感じているのかみてみたい。 民間人材紹介会社のJACリクルートメントが、東南アジア4カ国(タイ、インドネシア、マレーシア、シ ンガポール)の日系企業現地法人189社に実施したアンケート調査(2012年)によれば、現地の管理職 候補に不足しているスキルとして、タイでは「マネジメントスキルと経験」(60.8%)が「職務の専門 性(経験・知識)」と並び最も高い回答割合となっている。これは調査対象4カ国の中でも最も高い(前 頁図表2)。日系企業はタイ人従業者にマネジメントスキルが不足していると感じているようだ。 なお、同調査によると、タイにおける管理職候補の「英語力」が不足していると回答した企業の割合 も21.6%と高く、この結果からもタイ人従業者の英語スキルの低さが示唆される。 (2)マネジメントスクールのレベル 高度なマネジメント層を養成する機関としてマネジメントスクールがあり、一国におけるマネジメン トスクールの充実度は、マネジメント人材の質・量の双方に影響する。タイのマネジメントスクールは 世界的にみてどの程度のレベルに位置づけられるのだろうか。スイスにある国際的非営利財団・世界経 済フォーラム(World Economic Forum:WEF)が毎年発表する「国際競争力レポート3」(The Global

Competitiveness Report)の 2012 年版によると、タイのマネジメントスクールの質に関する評価は世 界 144 カ国中 62 位で、中国(68 位)よりやや高いレベルであった。ただし、これは既に地域統括拠点 などの高度な機能を担うようになっているシンガポール(6 位)はもとより、マレーシア(26 位)と比 べても大きく見劣りするレベルである。

4.科学技術力の評価

(1)理数系能力のレベル まず、科学技術力の基礎となる理数系学力の平均 レベルがどの程度かみてみたい。経済協力開発機構 (OECD)が理数系学力(数学的リテラシー、科学的 リテラシー、読解力)に関して世界各国の高校1年生 を対象に3年ごとに実施する「学習到達速度調査 (PISA2009)4」によると、世界65カ国の中でタイは、 数学的リテラシーで50位、科学的リテラシーで49位 となり、読解力でも50位となった(図表3)。これを 一人当たり名目GDPでみた所得水準がタイと同程度 の国と比較すると、セルビアはタイより上位に位置 するが、その他の国はほぼ同程度かタイを下回る。 また、アムステルダムに本部を有する国際学術研 究団体の国際教育到達度評価学会(IEA)が、小学校

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(注)マレーシアの 2003、2005、2007 年はそれぞれ 2002、 図表 5 人口 100 万人当たりの研究者数 図表 4 国際数学・理科教育動向調査(2011 年) (注)1.非営利国際学術団体の国際教育到達度評価学会(IEA) が、小学校 4 年生を対象に算数・理科、中学校 2 年生を 対象に数学・理科の試験を行うもの。 2.トルコの一人当たり名目 GDP は 10,362 ドル。 3.タイの 1995 年はそれぞれ小学校 3 年生・4 年生、中学校 中国 マレーシア タイ 0 200 400 600 800 1,000 , 1996 2001 2003 2005 2007(年) シンガポール 3,000 4,000 5,000 6,000 (人) 算数 理科 数学 理科 シンガポール 606 583 611 590 日本 585 559 570 558 セルビア 516 516 トルコ 469 463 452 483 マレーシア 440 426 ヨルダン 406 449 インドネシア 355 400 386 406 タイ 458 472 427 451 参考:タイ(2007年) 441 471 参考:タイ(1999年) 467 482 参考:タイ(1995年) 490 473 522 525 中学校2年生 小学校4年生 4年生を対象に算数・理科、中学校2年生を対象に数学・理科の試験を行っている。その調査結果である 「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)」(2009年)についてもみると、タイは初等レベル(小学校4年 生)において算数458点、理科472点であり、中等レベル(中学校2年生)においては数学427点、理科451 点である(図表4)。これは、所得水準でタイを上回るトルコやマレーシアとほぼ同程度である。このよ うに、タイの理数系学力は、所得水準との見合いで明確にレベルが低い訳ではない。ただし、タイは全 項目(小学校4年生の算数・理科、中学校2年生の数学・理科)で過去に比べて得点が低下していること は懸念されるところである。 では、理数系学力を養成する教育の質はどうなっているのだろうか。WEF の国際競争力レポートによ ると、タイの理科・数学に関する教育の質は 144 カ国中 61 位であったが、シンガポールの 1 位、マレ ーシアの 20 位、中国の 33 位に対して大きく差が開いている。この点から、今後、タイが理数系学力を 高所得国レベルに引き上げていく上で教育面に不安があると思われる。TIMSS においてタイの得点が低 下しているのも、教育の質が影響している可能性が指摘できる。 現時点でタイの平均的理数系学力は相応のレベルにあるが、情報やデータを実用的に活用する能力 (情報リテラシー)はどうだろうか。同じく WEF の国際競争力レポートから情報リテラシーの高さの代 理指標であるインターネット普及率をみてみると、タイの普及率は 23.7%にとどまり、144 カ国中 94 位であった。シンガポールの普及率は 75.0%(24 位)、マレーシアの普及率は 61.0%(41 位)、中国の 普及率は 38.3%(73 位)となり、他国の情報リテラシーは、タイに比べて明らかに高いレベルにある。

また、タイ人の IT スキル5をスイスの国際経営開発研究所(International Institute for Management

Development:IMD)の「世界競争力年鑑」(World Competitiveness Yearbook、2012 年)の調査によっ てみると、59 カ国中 53 位と下位にとどまる(シンガポール 13 位、マレーシア 22 位、中国は対象外)。 前述の通り、タイ人の理数系の基礎学力は、所得水準を考慮すれば低いとはいえないが、スキルの実用 性という点では他国と比べて低い評価にとどまる。

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(2)人材の厚み 次に高い理数系能力を有する人材はどのくらいいるのか、人材の厚みについてみよう。UNESCO(国際 連合教育科学文化機関)の調査結果によれば、タイにおける人口 100 万人当たりの研究者数(2007 年) は 315 人であった(前頁図表 5)。これは、マレーシアとほぼ同水準だが、シンガポール(5,954 人)は もとより、中国(1,077 人)を大きく下回っている。しかも、2000 年代初頭と比較し、中国が研究者数 を大きく増加させる一方で、タイではあまり増加していない(2001 年 277 人→2007 年 315 人)。こうし た状況を反映し、タイは、科学技術系人材の獲得しやすさという点でも他国に劣後している。WEF の「国 際競争力レポート」における科学者・エンジニアの雇用のしやすさ(Availability of employment)に 関するランキングでは、シンガポールが 144 カ国中 13 位、マレーシアが 20 位、中国が 46 位に対し、 タイは 57 位に甘んじている。今後、タイが高位の発展段階に進むためには、科学技術力を有する人材 の厚みを増すための取り組みが求められている。 以上みてきた科学技術力に関わるタイ人のスキルや人材の厚みの状況を踏まえて、最後に、一国全体 の科学技術力の高さを測る尺度として、WEF の国際競争力レポートにおける人口 100 万人当たりの国際 特許出願数(2008-09 年の平均)をみると、タイはわずか 0.6 件で 144 カ国中 72 位である。アジアの 高所得国であるシンガポールは 123.2 件(13 位)と非常に多いが、マレーシアの 9.6 件(34 位)、中国 の 6.5 件(36 位)と比べてもタイの特許出願数の少なさは顕著である。同国の科学技術力が質・量(人 材の数)ともに十分でないことが表れているように思われる。

5.おわりに

タイでは、賃金上昇に伴い低廉な労働力を活用した経済発展の持続が困難となり、産業高度化や企業 の拠点機能高度化が求められている。本稿では、タイが高度化を進める上で重要な要素の一つである人 材のスキルレベルがどの程度なのかについて、既に高所得国への移行を果たしたシンガポールのレベル を踏まえつつ、タイと同じく中所得国から高所得国への移行を目指す段階にあるマレーシアや中国とい った国との比較を通じて評価を試みた。その際に、人材スキルのレベルを測るメルクマールとして、英 語力、マネジメントスキル、科学技術力の 3 つを取り上げた。 シンガポールは、英語力、マネジメント力、科学技術力のいずれについても高位の人材スキルを有し ているが、英語が準公用語となっているマレーシアも英語力についてはシンガポールと比べて遜色ない レベルにある。マレーシアは、科学技術力に関わる情報リテラシーや科学技術系人材の雇用のしやすさ といった点では比較的高い評価が得られている。これらの 2 カ国と比べてタイと中国の人材スキルの評 価は総じて低いが、タイと中国を比べると、中国では英語が日常的に使われていないにも拘らず、英語 力の評価はタイよりも高い。また、科学技術力に関わる指標でもタイに比べて優位である。特に科学技 術系人材の厚みに関わる「人口 100 万人当たり研究者数」ではタイを大きく上回るだけでなく、年々タ イとの差を広げている。タイについてみてみると、英語力、マネジメントスキルで相対的に低い評価に とどまる。科学技術力については、理数系の学力で所得水準(経済発展度)に見合ったレベルを保持し

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ているものの、過去に比べて学力が低下している。そのほか、「理数系教育の質」、「情報リテラシー」、 「IT スキル」、「科学技術系人材の厚み」の評価も高くない。そうした状況を反映して、一国の科学技術 力を測る指標の一つである「人口 100 万人当たりの国際特許出願数」では、シンガポールはもとより、 マレーシア、中国にも大きく水をあけられている。 以上の結果を踏まえると、まずタイでは現地人材の英語力の低さが、高度化の推進役となる外資系企 業における企業内コミュニケーション上の障害となっている可能性が示されており、英語教育の強化が 求められる。また、現地人材を上級管理職や現地法人経営層といった高位な役職に起用するためのマネ ジメントスキルの向上も課題である。さらに、バイオエネルギー、ナノテクノロジー、IT といった高付 加価値産業を担う人材に求められる科学技術力についても、理数系学力のレベルアップを続けるととも に、実用レベルのスキルを有する人材を育成し、科学技術系人材の厚みを増すことが求められている。 タイは、日系製造業企業の高い集積度、発達した産業インフラ、整備された投資関連法制度など、産 業立地上有利な条件を持っており、中国とインドに挟まれ、カンボジアやミャンマーを擁するメコン経 済圏における産業ネットワークの中核としても期待されるなど、発展のポテンシャルは大きい。ただし、 本稿でみたように、今後の経済発展を支える重要な要素の一つである人材スキルについては、他のアジ ア諸国と比べてもタイは大きな課題を抱えている。タイが中所得国から高所得国への移行を目指す上で、 高いスキルを有する人材の育成への取り組みの重要性が増している。それはまた、タイの産業立地上優 位性を評価して同国に進出している多くの外資系企業にも深い関わりを持つ問題といえる。タイにおけ る賃金水準の高まりを受けて、タイ拠点の機能高度化・高付加価値化を図ろうとする企業は、タイ政府 による人材育成の取り組みに注視すると共に、企業自身でも高いスキルを持った現地人材の育成に取り 組んでいくことが求められているといえるだろう。 【参考文献】 科学技術振興機構研究開発戦略センター(2008)「科学技術・イノベーション動向報告~タイ編~」 末廣昭(2009)「タイ 中進国の模索」、岩波新書 鈴木康郎(2005)「タイにおける小学校英語教育の現状と課題」、文部科学省 中小企業基盤整備機構(2006)「タイにおける外国企業の経営課題に関する実態調査」 日本経団連(2008)「アジアにおいて求められる人材マネジメント~働きがいのある企業であるために~」 (意見書 2008 年 7 月 15 日)

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1 EF Education First は、世界中の言語、文化、地理上の障壁を取り除くことを目的に 1965 年創設された民間語学研修機関。語学学校、 大学認定単位の取得、研修旅行、文化交流などを専門分野とし、世界中で運営する語学学校は約 400 校にのぼる。EF FPI(English Proficiency Index)は、毎年 3 種類の英語の試験を数十万人に受けさせ、そのデータから各国の標準英語能力を測定したもの。 2 内訳は、中国 5 社、韓国 5 社、台湾 6 社、フランス 4 社、イタリア 2 社、ドイツ 1 社、デンマーク 1 社、アメリカ 4 社、マレーシア 1 社、シン ガポール 1 社。 3 WEF が毎年発表する、国の総合的な競争力を表すランキング。評価項目は、制度、インフラ、マクロ経済環境、健康衛生・初等教育、高 等教育・職業訓練、財市場の効率性、労働市場の効率性、金融市場の成熟度、技術の利用可能性、市場規模、ビジネスの洗練度、イノベ ーションの 12 分類、100 以上の指標で評価される。各指標のランキングの元となる資料は多岐に亘るが、最も多く使われているのは WEF の「Executive Opinion Survey(経営者意見調査)」で、企業経営者が対象項目について 1~7 点(1 点=悪い、7 点=良い)の間で評点した 結果を元にランキングしている。総合順位は、各国の発展段階に応じて各項目にウェイトがかけられ、足し合わせた点数で算出される。 2012 年調査の対象国は 144 カ国。

4 本調査ではアジア地域の調査対象国は、タイのほかに、中国(上海)、NIEs、日本、インドネシアとなっているが、所得水準が異なるため、 比較対象としてなじまない。マレーシアは調査対象国に入っていない。従って、本節ではアジアに限らず、一人当たり名目 GDP が同水準の 国と比較を行うこととする。

5 IMD が実施する「Executive Opinion Survey(経営者意見調査)」による。参加する経営者が対象国の IT レベルを 0~10 のレンジで評点し

た結果に基づき、ランキングしたもの。

●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに 基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されること もあります。

図表 3  学習到達速度調査(2009 年)  (注)掲載国の一人当たり名目 GDP(2011 年)は、高い順に、シン ガポール 49,270 ドル、日本 45,869 ドル、モンテネグロ 7,361 ドル、コロンビア 7,114 ドル、ペルー5,904 ドル、セルビア 5,725 ドル、タイ 5,394 ドル、ヨルダン 4,618 ドル、チュニジア 4,316 ド ル、インドネシア 3,511 ドル。  (資料)OECD「学習到達速度調査」  <数学的リテラシー> <科学的リテラシー> <読解力>2位 シ

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