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 佐賀県にある佐賀九州北部メディカルセ ンター(SMC)は、350 床を抱える急性期 病院だ。九州医療大学(福岡県)の分院と して1970 年代後半に設立され、当初は順 調に経営されていたが、2001年からは赤 字が続いている。医療収入は増加している が、人件費も増加して医療材料費が高止ま りしているため、支出増加分をカバーするこ とができていない。2014 年の損益分岐点 売上は10,200百万円であったのに対し、 売上実績は 9,500百万円 にとどまってい る。結果としてSMCは、100 円を稼ぐのに 109 円支出している状態である(添付資料 1、2 参照)。  九州医療大学の常任理事である植田正 樹医師は、SMC の改革プロジェクトリー ダーとして任命された。医療コンサルタント を含め10 名で、現状を把握するためのプロ ジェクトを進めた結果、以下のような状況で あることが分かった。

佐賀県東部医療圏の特徴

 厚生労働省の地域保健医療基礎統計な どの調査によると、SMCがある佐賀県東 部二次医療圏では2010 年から2035 年に かけて人口は17 %減少する一方で、75 歳 以上の人口は 35%増加し、75歳以上の医 療需要は48%増加すると予想されている。 この医療圏の現在の病床数は一般急性期 病床、療養型病床、回復期病床、精神病床 とも不足しており、後方連携も困難な状況 である。また、人口あたりの診療所数も全 国平均より著しく低いうえに、勤務医数、看 護師数とも極端に少ない。以上から東部二 次医療圏は、高齢者の医療需要が急速に 増加するにもかかわらず医療資源が不足 し、さらに後方連携も非常に困難な地域と 言える。

SMC

を取り巻く環境

 SMC から北東へ 5.5kmの地点に鳥栖 総合病院、北西 8kmに県立がんセンターが ある。また、SMC の南 8.5kmには佐賀国 際医療大総合医療センター、南東12kmに は六角病院、南西 5kmには幸田総合病院 がある。これら競合 6 病院の疾患別構成

ジリ貧病院の再生

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ジリ貧病院の再生 CASE

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割合をみると、消化器・呼吸器・循環器およ び腎・男性生殖器・女性生殖器疾患が患者 数の多い診療分野といえる。しかし、患者 数のうえで SMCが地域ナンバー1といえる 分野はない。  競合 6 病院の特徴を抽出するために、厚 労省から公表されているDPC/PDPSデー タを用いてシェア率、複雑性指数、効率性 指数について検討した(添付資料3 参照)。 複雑性指標は1を上回ると全国平均より複 雑で重症な患者を診療し、1より低いと軽 症の患者を診ている病院であることを意味

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 SMC の患者は外来、入院とも佐賀県鳥 栖市と神埼市、福岡県久留米市が 75%を 占める。福岡県小郡市地域からの患者は少 なく、この地域の患者の多くは鳥栖総合病 院や佐賀国際医療大総合医療センター病 院に受診しているものと思われる。

救急輪番体制の現状

 佐賀県地域医療再生計画によると、東部 医療圏は人口に対する救急告示医療機関 の数が県内で最も低い。鳥栖市、神埼市、 福岡県小郡市、久留米市の4市で二次救急 輪番体制を組み8つの病院がこれに参加し ているが、実際に二次救急を引き受けられ るのは鳥栖総合病院とSMC のみであり、 この地域の二次救急輪番体制は事実上崩 壊している。  SMCの救急応需状況には大きな問題が ある。救急隊からの要請患者の受け入れ状  SMCが黒字決算であった2000 年以前 と現在を比較すると、黒字決算の時には人 件費率は約 45%であるのに対し、現在は 58 %を占めている。一方で入院取扱い患 者数は黒字決算期には年間11万人を超え ていたが、現在では10万人を割り込んだ。 黒字決算期に比べ医師数は増加したが、医 師一人あたりの年間医療収入は低下し、全 国の同規模病院の平均より1800万円少 ない1.1億円程度にとどまっている。また 病棟の看護師の数は多く、7:1どころか患 者 5.7名に対し病棟看護師が1名の配置に なっている。  医療収入の内訳について見ると、外来収 入が全収入の 45%なのに対し、入院収入 は 50%しかなく、入院収入比率が低い。病 床の平均稼働率は72%で平均在院日数は 14日である。一般外来患者からの入院率 は 3 %にとどまるのに対し、紹介患者が入

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ジリ貧病院の再生 CASE

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院に結びつく率は約 20 %、救急患者では 約 30 %であった。したがって、入院患者を 増やすには、入院の重要なリソースである 紹介患者と救急患者を積極的に受け入れ て、早急に地域の信頼を回復することが重 要となる。  診療科別収支計算の結果、一般内科、心 療内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、小児科、人間 ドック部がマイナスとなった(添付資料 4に 診療科別原価計算を示すが、この時点では 共通経費を配賦していない)。  

職員からのヒアリング結果

 4 年前、九州医療大学教授を定年退職 した今井博医師が病院長として赴任した。 今井は医療収入を増やすには、まず医師を 増員する必要があると考え、本学医学部の 各教授のもとを回って医師の派遣を依頼し た。その結果、医師数は15 名増員したが、 多くは大学病院からのローテーションで1 ~2 年で交代したため、患者からは担当医 がすぐ代わると評判が悪かった。  部門長からのヒアリングをもとに収支悪 化の原因を分析すると、収入減少について (1)患者が少ない、(2)診療単価が低い、(3) 収益事業の先細り─の3つの要因が考 えられた。支出増加については、(1)固定費 の増加、(2)変動費増加について検討した。  患者減少の大きな要因として診療体制 の弱体化が挙げられた。特に内科では専門 分化した診療科構成となっており、1診療 科あたり医師2~3 名にとどまっている。そ のため、各科のパワーが弱いうえに科の間 の壁は厚く、コミュニケーション不足もあっ て、診療科をまたいだ患者の押し付け合い が発生していた。さらに、初診受付を午前 中だけに限定して、午後の紹介患者を断る ことから地元医療機関の信頼を損ねてい た。  救急患者を専門外という理由で断る背景 には、一人当直体制、医師の高齢化など構 造的な問題に加えて、若い医師が専門分野 のみの教育を受け、幅広い診療能力を身に つけるトレーニングを積んでいないという 実態が明らかになった。  診療単価が低い最大の要因は手術患者 の減少である。外科医、麻酔科医とも不足 しており手術室運営に支障をきたしてい る。  ヒアリングを通じて、医師自らの診療制 限も明らかになった。例えば産婦人科はお 産に力を入れているが、婦人科分野は手術 に限界があるとして他院に紹介している。 消化器内科は胃がんの内視鏡的治療の導

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均衡となり、非効率的な検査技師の人員配 置となっている。また、安易に当日緊急の胸 腹部 CT 撮影を依頼するなど、計画的な診 療がなされていないのだ。

手術室稼働と麻酔科医問題

 SMC の手術室 7室のうち1室は緊急手 術用に常に空けられている。残り6室につ いても空き枠が生じており、患者がいても 手術予定を埋められない。一方で、消化器 外科、脳外科と整形外科を中心に緊急手 術例が増加しているが、夜間の救急応需や 外傷への体制は不十分で、つい先日も軽度 の交通外傷の救急患者を断っていた。その 原因の1つが深刻な麻酔科医不足だ。現在 は常勤麻酔科医 5 名であるが、複数の時短 勤務者もいることから不足分は外部からの 非常勤麻酔医に頼らざるを得ない。さらに 手術室看護師は不足しており、緊急手術へ 夜勤の配置に苦慮している。一方で外来看 護師の業務の中には、看護師でなくてもで きる仕事が多い。ベテラン医師の中には自 分の外来に「看護師がつく」ことを要求し、 看護以外の雑用を頼んでいる。また、外来 看護師の中には救急や時間外患者を受け ることを露骨に嫌い、医師が救急患者を受 けにくい風潮をつくっている。一方で看護 部長や副看護部長に対して「現場を知らな い」「現場に姿を見せない」「現場の意見を 聞かない」という批判がある。7:1看護配 置基準を維持するために病棟への看護師 配置は手厚いが、入院患者の看護・医療必 要度は低く、このままでは7:1看護配置基 準の維持は難しい。

プロジェクトリーダーの改革案

 SMC 改革プロジェクトリーダーの植田 は、報告書を書き上げると、理事長室に向

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損益分岐点 実際の売上高 0 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000 4,000 8,000 12,000 16,000 (百万円) (百万円) 収 益 売上高 固定費 総費用 ジリ貧病院の再生 CASE

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かった。「理事長、SMC改革プロジェクト案 を出すにあたって、いくつか伺いたいことが あります。1つは SMCをいっそのこと廃院 にしてしまう、あるいは売却するという選択 肢はありますか?」と聞くと、理事長は「そ れは困る。理事会も『つぶさない、売らない ということで改革を進めてほしい』と要望し ている」と答えた。植田は「では、さらに投 資をするという選択肢はありますか? 例 えば病院設備を建て替えるとか、数億円か けて外部からコンサルタントを呼ぶだとか」 と質問。内山は「それもない。もちろん、少々 投資をしなければならないだろうが、ハイリ スク・ハイリターンは困る。SMC の建物は あと10~15 年で償却が終わるので、それ までに150 億円ほど積み立てることが必要 だ」と言う。  植田は電話を切ったあと、腕組みをして 目を閉じた。制約が多い中で改革案を仕上 げるのは骨が折れそうだと胸の中でつぶや いた。 【付属資料12014年度損益分岐点分析

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1989 ▲2,000 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013 (年) 収入は増加しているが支出がそれを上回り 恒常的な赤字が続いている 0.80 0.90 0.92 0.94 0.96 0.98 1.00 1.02 1.04 1.06 1.08 1.10 0.85 0.90 0.95 1.00 1.05 1.10 1.15 1.20 複雑性・重症性 DPC 382床 DPC 332床 DPC583床 DPC 991床 県立がんセンター 佐賀国際医療大学総合 医療センター 鳥栖総合病院 佐賀九州北部 メディカルセンター 幸田総合病院 DPC333床 六角病院 DPC101床 競合6病院比較:複雑性(X軸)効率性(Y軸)、月平均患者数(バブル) 【付属資料3】競合6病院の効率性と複雑性、規模

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▲ 20,000 20,000 60,000 100,000 140,000 180,000 220,000 260,000 300,000 (千円) 整形 尿 耳鼻 ■ 医業収入 ■ 配賦前収支 医業収入及び医療利益(2014年4∼6月) ジリ貧病院の再生 CASE

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【付属資料4】診療科別原価計算

参照

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