「在宅医師による家族への情報的支援と不安軽減に関する研究」
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(2) 2012 年度. 在宅医療助成(後期)完了報告書. 1.背景 在宅医療の名前が以前よりも世間に少しずつ浸透しつつある昨今、がん治療 を終了した患者が在宅に復帰する機会が増し、2005 年から 2011 年の 6 年間で、 約 43%増加している 1)。またがんのみならず、最期を在宅で看取る件数が徐々 に増加している傾向がある。その理由の1つとして在宅医療推進の潮流と在宅 医療を実施する診療所や病院の量的増加が考えられる。しかし在宅復帰の症例 数が社会全体で増えたとしても、患者本人やその家族にとっては、生涯の中で 数回程度の稀な経験であるため、大きな不安や動揺をともなうものである。同 時に入院時とは異なる生活に対し、全てが手探りとなる。末期がん患者の在宅 生活の継続および在宅における終焉を望む患者を支える場合、家族は多くの役 割を担い身体的・精神的な負担を抱える。その際病状の変化に関する予測的情 報や、経済面や生活に直結する情報が乏しいため、先行きに不安を感じるケー スが少なくない。このような不安を少しでも軽減できるような在宅医師からの 具体的な説明が不可欠である。しかし在宅医療の現場でどのような内容が家族 に情報的支援として説明が行われているかは診療所ごと、医師ごとによって異 なる。 末期がん患者の在宅での看取りに関係する要因ついて鈴木らは、在宅死亡と 入院死亡に有意な差があった要因として、「家族介護者の有無」「身体的苦痛の 解決」 「訪問看護導入」 「本人の在宅死希望」 「家族の在宅死容認」の 5 つを要因 にあげており、そのうち最も重要な要因は「家族の在宅死容認」であること 2) を示唆している。また在宅療養中に再入院する要因には、 「看取りまでの経過に 関する説明」の有無に有意な差を認めた先行研究 3)がある。このように在宅に おける看取りと結び付く要因は抽出されているが、具体的にどのような情報的. 2.
(3) 2012 年度. 在宅医療助成(後期)完了報告書. 支援が家族の不安軽減に結びついているか言及されていない。 在宅での医療提供は患者・家族の特性・個別性を重視し、一般化された支援 マニュアル等に則るような関わり方ではない。そのため家族の不安軽減に結び つく在宅医師の説明のあり方が、在宅医師の経験則に基づいて行われるため、 データとして整理し難く蓄積も乏しい。そこで在宅で看取りが可能となった事 例から、在宅医師の家族に対する説明内容に焦点を当て、研究レベルとして取 り扱う必要がある。家族が安心して患者の介護が可能となるような説明のあり 方について、探索的に分析する必要がある。. 2.目的 在宅医師が行った説明内容と、末期がん患者の介護にあたった遺族が不安の 軽減につながったと感じた医師からの説明内容について突合を行い、互いに一 致した内容、不一致の内容について整理し、診療にフィードバック可能な家族 が在宅医師に求める説明について明示することを目的とした。. 3.方法 [調査対象者] 1.在宅療養支援診療所の医師 (年間 30 症例以上を在宅で看取る在宅医療に特化した診療所の医師) 2.末期がん患者を在宅で看取った遺族. [調査対象数] 1.在宅医師 4 名 2.末期がん患者を在宅で看取った遺族(主介護者)5 名 3.
(4) 2012 年度. 在宅医療助成(後期)完了報告書. [実施場所/期間] 実施場所:東北(岩手県、宮城県)、関東(神奈川県)、近畿地域(京都府)の うちから、本研究に協力を得られた在宅療養支援診療所とした。 実施期間:平成 25 年 3 月から平成 26 年 2 月末までの 1 年間であった。. [データ収集] 在宅医師の説明内容は、在宅医療の開始から終了までの訪問診療・往診時の カルテ記載と、患者が存命中に在宅医師が訪問している際の発話を録音したも のから抽出し、遺族への説明内容とした。カルテの記載内容だけでは不十分な 場合、特に患者本人や遺族の詳細な背景については、補足的に在宅医師へ聞き 取り調査を実施した。インタビュー内容は以下の 10 項目とした(表 1)。. 1). 診断を受けてから、その後の経過. 2). 患者さんを在宅で介護しようと思ったきっかけ. 3). 在宅医療を受ける際に不安だった事. 4). 病院で説明を受けたことと、在宅で説明を受けた内容. 5). 病院入院、在宅療養におけるそれぞれの利点、欠点. 6). 在宅療養を続けることができた要因(経済面も含む). 7). 特に在宅医師からうけた説明で不安が軽減できた内容. 8). 在宅医師に対する要望. 9). 看護師、ケアマネ、ヘルパー等、多職種との関わり. 10) 在宅看取りをして思ったこと 表1. 遺族へのインタビュー内容. 4.
(5) 2012 年度. 在宅医療助成(後期)完了報告書. 遺族へ、在宅看取り後に在宅医師の説明に関する半構造化面接により聞き取り 調査を行った。聞き取り調査の内容は、医師の説明から得た安心感、在宅看取 りに関する遺族の容認に焦点を当て、遺族宅にて 80 分程度の調査面接を実施し た。また面接の時期については、療養者の死亡から 100 箇日以上経過後とした。. [分析方法] 定性・定量相補融合法. (Mixed Methods). 1.診療記録および訪問診療時の説明(発話)から、在宅医師の説明に関する 文字データを書き起こした。 2.遺族への調査面接によって得られた発話データを文字として書き起こした。 3.1,2の文字化されたデータについて計量テキスト解析を行い、対応分析 により内容一致や不一致を測った。 対応分析にあたり、在宅医師の末期がん患者の看取りにともなう説明内容とし て整理した先行研究 4)を基に、コーディングデータを用いた上で計量的を解析 した. [倫理的配慮] 調査によって得られたデータは、個人情報保護に基づき厳重に管理を行った。 協力診療所名、医師名、患者・遺族の氏名は特定されないように匿名化し、デ ータ分析を行った。遺族に対してはそれぞれ協力診療所の医師から、口頭での 説明と文書での同意を得た。同意書は調査担当者の保管のもと、研究終了後に 破棄することとした。また本研究は東北大学大学院医学系研究科倫理委員会の 審査を経て実施した。. 5.
(6) 2012 年度. 在宅医療助成(後期)完了報告書. 4.結果 在宅で末期がん患者を看取った遺族 5 組から協力を得た。5 組の遺族のうち 4 組は配偶者のほか、子も介護者であった(表 2)。. 遺族. 居住場所. 続柄. 介護者の年齢構成. 1. A. 岩手県. 配偶者・子. 2. B. 岩手県. 配偶者. 3. C. 仙台市. 配偶者・子. 配偶者 50 代、子 20 代. 4. D. 鎌倉市. 配偶者・子. 配偶者 50 代、子 30 代. 5. E. 京都市. 配偶者・子. 配偶者 70 代、子 40 代. 配偶者 80 代、子 50 代 配偶者 60 代. 表2 遺族へのインタビューから得られた発話を書き起こした結果、A:25,345 字、 B:20,166 字、C:22,864 字. D:27,756 字、E:35,509 字となり、合計で. 131,640 字であった。本研究では説明と不安軽減に焦点を当てているため、分析 には調査項目3)、7)に対する回答を計量的に検討した。その結果「不安」に 感じていた内容から抽出された言語は 3,137 文字、単語数 608 語であり、分析 の対象となった文字は 931 文字、374 語であった(図 1) 。また「不安が軽減で きた説明」の回答して抽出できた言語は 3,361 文字、単語数 636 語であり、分 析の対象となった文字は 1,019 文字、401 語であった(図 2)。また遺族が不安 に感じた内容から抽出された言語(出現 3 回以上)と、不安軽減につながった と感じた在宅医師からの説明から抽出されら言語(出現 3 回以上)を対応分析 した(図 3,4). 6.
(7) 2012 年度. 在宅医療助成(後期)完了報告書. 図 1:在宅開始時の不安に関連する言語の出現回数. ・出現回数の出現 2.5 回 ・出現が 1 回のみの言語が 65.0%、出現が 3 回までの言語で全体の約 90%を 占めていることを示す. 7.
(8) 2012 年度. 在宅医療助成(後期)完了報告書. 図 2:不安が軽減できた説明に関連する言語の出現回数. ・出現回数の出現 2.5 回 ・出現が 1 回のみの言語が 57.4%、出現が 4 回までの言語で全体の約 90%を 占めていることを示す. 8.
(9) 2012 年度. 在宅医療助成(後期)完了報告書. 図 3:遺族A~Eの不安の内容(出現 3 回以上の言語). 注 1)円の大きさは言語の出現回数(3 回以上)の大きさを示す 注 2)原点と円の位置関係で、原点に近いほど出現頻度の多い言語、離れてい る言語ほど出現頻度の少ない言語であることを示す 注 3)四角は遺族それぞれを表し、近い円で示したものほど関連のある言語で あることを示す. 9.
(10) 2012 年度. 在宅医療助成(後期)完了報告書. 図 4:遺族A~Eの不安軽減になった在宅医師の言語(出現 3 回以上の言語). 注 1)円の大きさは言語の出現回数(3 回以上)の大きさを示す 注 2)原点と円の位置関係で、原点に近いほど出現頻度の多い言語、離れてい る言語ほど出現頻度の少ない言語であることを示す 注 3)四角は遺族それぞれを表し、近い円で示したものほど関連のある言語で あることを示す. 10.
(11) 2012 年度. 在宅医療助成(後期)完了報告書. 遺族A~F5 つの事例の中で、1)不安に感じていた事、2)不安軽減になった 在宅医師の説明を、コーディングに沿って数量化させた際の出現回数が表 3、4 である。 単語としての抽出ではなく、語と語の組み合わせることによって、説明内容 を示す精度を高めた。先行研究で示されているコーディングルール(別添参照) を用いた結果、不安に感じている内容は、 「c.身体症状等に対応するための知識 や手順について」、「d.痛みやつらさは取り除けること」、「f.相談と連絡につい て」、「h.老化による衰えと大往生について」の 4 項目であった(表 3)。 一方、不安の軽減につながった在宅医師からの説明内容は、 「d.痛みやつらさ は取り除けること」、「f.相談と連絡について」、「l.介護保険を利用した在宅介 護サービスについて」、「b.24 時間 365 日体制で対応できること」 、「c.身体症状 等に対応するための知識や手順について」、「e.急変の可能性とパターンについ て」、「h.老化による衰えと大往生について」、「m.医療保険の適用とその負担額 について」の 8 項目(表 4)であった。. 11.
(12) 2012 年度. 在宅医療助成(後期)完了報告書. 不安を感じていた内容. 出現回数. 割合. a. 医療の仕組みと関わる職員の体制について. 0. 0.0%. b. 24 時間 365 日体制で対応できること. 0. 0.0%. c. 身体症状等に対応するための知識や手順について. 2. 40.0%. d. 痛みやつらさは取り除けること. 1. 20.0%. e. 急変の可能性とパターンについて. 0. 0.0%. f. 相談と連絡について. 1. 20.0%. g. 現時点のおよその余命について. 0. 0.0%. h. 老化による衰えと大往生について. 1. 20.0%. i. ほとんどが家で最期を迎えられること. 0. 0.0%. j. 救急車を呼ばないということ. 0. 0.0%. k. ケアマネジャーに医療情報が提供されること. 0. 0.0%. l. 介護保険を利用した在宅介護サービスについて. 0. 0.0%. m. 医療保険の適用とその負担額について. 0. 0.0%. n. 医療・介護保険制度以外の公的サービス利用の拡大について. 0. 0.0%. o. 高度障害による生命保険の適用について. 0. 0.0%. #コード無し. 2. 40.0%. (文書数). 5. 表3. 遺族が在宅開始にともない不安に感じた内容. 12.
(13) 2012 年度. 在宅医療助成(後期)完了報告書. 不安軽減になった説明内容. 出現回数. 割合. a. 医療の仕組みと関わる職員の体制について. 0. 0.0%. b. 24 時間 365 日体制で対応できること. 1. 20.0%. c. 身体症状等に対応するための知識や手順について. 1. 20.0%. d. 痛みやつらさは取り除けること. 3. 60.0%. e. 急変の可能性とパターンについて. 1. 20.0%. f. 相談と連絡について. 2. 40.0%. g. 現時点のおよその余命について. 0. 0.0%. h. 老化による衰えと大往生について. 1. 20.0%. i. ほとんどが家で最期を迎えられること. 0. 0.0%. j. 救急車を呼ばないということ. 0. 0.0%. k. ケアマネジャーに医療情報が提供されること. 0. 0.0%. l. 介護保険を利用した在宅介護サービスについて. 2. 40.0%. m. 医療保険の適用とその負担額について. 1. 20.0%. n. 医療・介護保険制度以外の公的サービス利用の拡大について. 0. 0.0%. o. 高度障害による生命保険の適用について. 0. 0.0%. #コード無し. 1. 20.0%. (文書数). 5. 表4. 不安の軽減になった在宅医師からの説明内容. 13.
(14) 2012 年度. 図 5-1. 在宅医療助成(後期)完了報告書. 家族(遺族)Aに対する在宅医師の説明に出現する語の特徴 注)差異が顕著な語の上位 20 語を分析. 14.
(15) 2012 年度. 図 5-2. 在宅医療助成(後期)完了報告書. 家族(遺族)Bに対する在宅医師の説明に出現する語の特徴 注)差異が顕著な語の上位 20 語を分析. 15.
(16) 2012 年度. 図 5-3. 在宅医療助成(後期)完了報告書. 家族(遺族)Cに対する在宅医師の説明に出現する語の特徴 注)差異が顕著な語の上位 20 語を分析. 16.
(17) 2012 年度. 図 5-4. 在宅医療助成(後期)完了報告書. 家族(遺族)Dに対する在宅医師の説明に出現する語の特徴 注)差異が顕著な語の上位 20 語を分析. 17.
(18) 2012 年度. 図 5-5. 在宅医療助成(後期)完了報告書. 家族(遺族)Eに対する在宅医師の説明に出現する語の特徴 注)差異が顕著な語の上位 20 語を分析. 18.
(19) 2012 年度. 在宅医療助成(後期)完了報告書. 在宅医師の説明(在宅開始~看取り直前の訪問)を書き起こした結果、総抽 出字数 122,838 字、8,707 語のテキストデータであった。その中から感嘆詞、助 詞、助動詞、組織名、個人名などを省き、分析対象となった文字は 32,190 字、 5952 語であった。 在宅医師がそれぞれの患者・家族に説明した際の、出現語で差異が顕著な語 上位 20 までを示した(図 5-1~図 5-5)、在宅医師は患者・家族ごとに説明の語 句が異なっている事がわかる。在宅医師の説明の特徴とも言える。. 5.考察 どの遺族も、不安に感じている内容はぞれぞれ異なっていた。特に訪問診療 については不安がないが、在宅医師と患者の相性が合うかどうかが不安だった という遺族もおり、在宅医師の説明に関わらない要素もあった。遺族が不安に 感じている事は、おおむね在宅医師によって説明され不安とその解消に関わる 説明の出現におおむね一致が見られた。遺族の不安は大きく分けて「患者の身 体状態や急変時の対応」について、家族がどう対応したらよいかわからないと いう不安が中心であった。また家族として医師に電話をして自宅に来てもらう 事に対する躊躇があった。病院のようにナースコールがあったり近くに医療者 がいる環境ではないため、 「いつでも」 、 「些細な内容」であっても不安になった ら遠慮なく電話することを、念を押す事が重要と考えられる。 本研究は在宅医師による説明に対し、不安軽減の観点から遺族による主観的 評価を当てたものである。在宅医師の説明は、エビデンスに基づき科学的かつ 専門的な内容であることは重要な要素である。一方で患者本人と家族の生活の 目線に立った内容を説明することもきわめて重要と考えられる。 19.
(20) 2012 年度. 在宅医療助成(後期)完了報告書. どちらの視点においても、在宅医師が判断し重要事項と位置づけて患者本人、 家族に説明することが、必ずしも患者・家族のニーズと一致しているとは言え ない。そればかりか家族の生活維持を阻害するものであったり、不安を助長さ せる場合もあると考える。 本研究の成果は、在宅で患者を支えながら生活をする家族に対し、情報的支 援としての「説明」によって在宅生活を支えていく具体的なイメージを持たせ ることにつながる。家族が持つ療養生活継続上の不安を軽減させることへ期待 が高いことである。これは在宅医師に限らず訪問看護、訪問介護、ケアマネジ ャーを含めて、患者・家族の支援方法や認識の共通化を促進し、共同カンファ レンス等の多職種間の連携強化に結びつくと考えられる。 また成果は、在宅医療をこれから始める医師への教育場面においても応用する ことが期待できると考える。. 6.本研究の意義 ここから家族の不安を軽減させ在宅看取りに結び付く説明のあり方を探るこ とができる。 本研究の成果は、臨床現場において在宅医師に必要な説明のあり方を具体的 に示すものとなる。患者・家族が中心である生活の場で実施される在宅医療は、 在宅医師の経験的な判断に基づくような表出しにくい情報が多く含まれるため、 実践に結び付く説明内容が明確化される意義は大きいと言える。またこのよう な整理から、これから在宅医療に取り組む医療者へ対する教育ツールとしての 応用も可能となる。. 20.
(21) 2012 年度. 在宅医療助成(後期)完了報告書. 7.参考文献 1)厚生労働省:平成23年患者調査 上巻(全国)2011年 厚生労働省:平成20年患者調査 上巻(全国)2008年 厚生労働省:平成 17 年患者調査 上巻(全国)2005 年 2)鈴木央、鈴木荘一:何が在宅での看取りを可能にするのか. 当院における末. 期がん在宅ターミナル・ケア 74 例の検討.プライマリ・ケア 2005;28 巻 4 号: 251-260 3)角川由香、福井小紀子:在宅療養移行を実現した末期がん患者の再入院に関 連する要因.日本医療・病院管理学会誌 2009;46 巻 2 号:17-22 4)千葉宏毅、尾形倫明、伊藤道哉、金子さゆり:在宅末期がん患者と主介護者 に対する熟達した在宅医師の初診時の説明内容に関する定性的研究.日本在 宅医学会雑誌 2014;16 巻 1 号 (掲載予定). 8.謝辞 本研究は、公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団の助成金により実施致し ました。心より感謝申し上げます。. 21.
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