著作物再販制度 の見 直 しの評価
――見直 しのスタンス (下)一 ―(その 5)
I は じめ に 著作物再販制度の見直 しのスタンスが問題になる局面のうち,見 直しの枠の 有無に係 る局面 と,内 容に係 る局面の問題点のうち制度に関わる問題点につい ては,す でに検討 を加えた。そこで,内 容に係 る局面のうちの商品特性に係わ る問題点についての検討だけが,残 されていることになる。 もっとも,商 品特性に係わる問題″点のうち,著 作物の内容の評価 と絡めた見 直 し議論の展開の是非は,取 り立てて問題にする必要はない。 というのは,特 定の著作物が文化的使命 を果たしていないのではないか との疑念を抱 く論者 も, そのことに絡めて再販制度の見直 しを論 じることには,極 めて慎重であるよう 2 ) に思われ るか らである。 このことについては,す でに触れた。 そこで,著 作物の商品特性 それ 自体 をめ ぐる諸問題について検討す ることだ けが,実 際の課題 として残 されていることになる。 この点に関 しては先行作業 として前稿 で,商 品的価値 (価格)と 非商品的価値 との対立が,著 作物再販制 度の見直 し議論 において どの ように発現 しているか,そ の様相 を明 らかにす る とともに若子の検討 を加 えた。 作 耕 田 内 1)「著作物再販制度の見直 しの評価 (その 3) 叢310号 1頁 (1998年)参 照。 2)「著作物再販制度 の見直 しの評価 (その 4) 叢313号41,42頁 注(2)(1998年)参 照。 3)拙 稿 ・前掲 (注2)。 一一見直しのスタンス (上)一 ―」彦根論 十一見直 しのスタンス (中)一 一」彦根論2 彦 根論叢 第 314号 本稿 では まず先行作業 を受けて,非 商品的価値 (文化)が 独禁法上 どのよう に配慮 され るべ きか,そ の具体的様相 を明 らかにす る。その後,本 題 に入 り, 著作物の商品特性 それ 自体 をめ ぐる諸問題 につ いて,「政府規制等 と競争政策 に関す る研究会 再 販問題検討小委員会」が1995年7月 に公表 した 「再販適用 除外 が認め られ る著作物の取扱いにつ いて (中間報告)」(以下,「中間報告」 とい う。)の 理解 を紹介す るとともに,批 判的検討 を加 える。 H 非 商品的価値 (文化)の 独禁法上の配慮の具体的様相 問題 となるのは,具 体的には,① 文化は特別の顧慮に値する非商品的価値で あるか,② 独禁法上文化に配慮する必要があるか,③ 配慮の局面 ・態様はどの ようであるべ きか,で ある。以下,著 作物再販制度維持論者の立論 を批判的に 検討 しながら,非 商品的価値 (文化)が 独禁法上 どのように配慮 されるべ きか, その具体的様相 を明らかにする。 1.文 化の非商品的価値 文化の非商品的価値は,次 の二つのレベルで問題になる。①物質文明に対 し て精神文化はどのような位置付けを与えられるか。②精神文化の中で活字文化 はどのような位置付けを与えられるか。 (1)物 質文明に対する精神文化の位置付け 精 神文化は,一 般に,物 質文 明に優越 した位置付けを与えられる。出版物については例えば,一 般商品との 4 ) 対比で次の よ うに叙述 され る。 一般商品 とは,「食料品 ・衣料品 。医薬品か ら家電製品 ・パ ソコン ・自動車 にいたるまで」,「人間の肉体的 ・物理的な活動 を満足 させ,補 完 し,改 善す る ための商品であることに気づ きます。」 それは,「人間の肉体的欲望 を満足 させ, 生活水準 を向上 させ る物質文明に属す るもので」す。 「これにたいして出版物は,人 間に知的 ・精神的な満足を与え,人 間の精神 4)伊 従寛 『出版再販一―書籍 ・雑 誌 ・新 聞の将来 は ?」 102H13,105頁 (1996年)。 もっ とも,伊 従寛 『独 占禁止政策 と独 占禁止法』 (1997年)で は,「健全 で豊かな社会 には精神 文化 と物質文明の両者が必要 である」 と叙述 されている (858頁)。
能 力 を開発 ・発 展 させ , 人 間 の精 神 的 な活動 を促 進 す るため の商 品 とい え ま す。」 「出版物は基本的には精神文化に属す るものであ り,こ れは歴史的にみた場 合,物 質文明の発展や社会制度改革の基盤 をな しているものです。」「精神文化 は人間に とって物質文明に勝 るもので」す。 修)精 神文化の中での活字文化の位置付け こ こでは,新 聞,出 版 (書籍 ・雑誌)が 果たしている文化的機能 を活字文化 と呼ぶ。活字文化は,一 般に, 精神文化の中で特別の位置付け を与 えられ る。例 えば,次 のように叙述 され る。 「民主主義社会 の新聞,出 版の機能は,社 会のあ り方 をその構成員が共に議 論 し,考 える公共的な空間を形成す るために欠かせ ない ものである。活字 メデ ィアが国民の 『知 る権利』に奉仕す るとい う意味 もそこにある。憲法21条で言 論 ・出版の 自由 をことさら優越的に保障 しているのはこのためであ り,一 般商 品のモ ノの文化性,公 共性 と質的に違 う。思想 ・精神 とモノの分丹Uもせずに活 D 字文化 を論 じるのは筋違いというべ きだろう。」 「新聞は近代社会 と民主主義の展開過程で社会的に形成されてきた文化的構 造物であり,無 論完全なものではないにしろ,現 代民主主義社会 を支える基盤 的な機能 を果たしている言論報道機関だ。この文化的特性 と公共性に新聞の本 0 質がある。」 2.独 禁法上文化に配慮す る必要性 精神文化が物質文明に優越 した位置付け を与えられ ること, と くに活字文化 が精神文化の中で特別の位置付け を与 えられ ることに,8いを致せば,一 般に, 文化が特別の顧慮に値す る非商品的価値 であることに異論はなかろう。問題は, 独禁法上 それに配慮す る必要があるか否かである。以下,池 上惇 「著作物の経 5)原 寿雄 「再販廃止は文化 を破壊 す る」世界615号199-200頁 (1995年)。 6)内 川芳美 「再販 問題 と新 聞 と民主主義」新聞研究536号28,30頁 (1996年)。 また,京 極 純一 「新 聞の特性 と再販制度」新聞研究534号10頁 (1996年),4浜田純一 「憲法が 『規制緩 和』 に優 越す る とき――表現の 自由 ・知 る権利 と新 聞再販」新聞研究534号13頁 (1996年), 山川洋一郎 「再販 問題 は憲法問題 であ る一一 まず,知 っておいて欲 しいこと」新聞研究560 号29頁 (1998年)参 照。
4 彦 根論叢 第 314号 済学」経 済 セ ミナー514号60頁 (1997年)を 批判 的 に検 討 す るこ とを通 じて, 配慮 が必要 とな る所 以 を明 らか に しよ う。 (1)立 論 の前提 教 授 は,次 の こ とを立論 の前提 とす る (611Sl頁 )。「過 去 で あれ,現 在 で あれ,未 来 で あれ,『著作物 の再 販制 度』 を議論 す る以上 は, 著作物 とい うものの特性, と くに,一 般 に完全競争 を前提 として議論 しうる財 との異同 を検討 し,同 一性が著作物において も主要 な特徴 であると認め られて は じめて,他 の財 と同 じ土俵 で議論すべ きではないか と,ほう。」 ここで着 日しなければならないのは,著 作物が,一 般 に完全競争 を前提 とし て議論 しうる財 と異なる特性 を有す るか否かが,決 め手 とされていることであ る。著作物が他の財 と異なる特性 を有す るとすれば,独 禁法上文化 に配慮す る 必要が生 じることに もなる。問題 は,著 作物が他の財 と異なる特性 を有す るか 否かである。 修)著 作物の特性 教 援は,次 のように叙述す る (61,62頁)。 著作物が一般 の財 ・サー ビス と異なる特性 は,「一般 の財 ・サー ビスが消費 者の手に渡れば,そ の効用は消費 されてな くなって しまうのに対 して,著 作物 は 『独 自の意味 と独 自の表現力 を備 えた』情報 あるいは知識 を担 ってお り,あ る読者が消費 して も効用 はな くならず,維 持 され続け る, とい う点にある。」 「現在の著作物は,短 期的に見れば,私 的な財 としての性格 と,公 共的な財 としての性格 を併せ持 った準公共財 とい うべ きものであ り,長 期的に見れば, 公共財 とい うべ きものであろう。 この特性は一般の財 には見いだせ ない。」 著作物が公共財 。準公共財 といえるかについては,大 いに異論があ り得 る。 しか し,概 括的にみた場合 に著作物が一般の財 ・サー ビス とは異なる特性 を有 す るこ とにつ いては,異 論はなか ろう。 このことを前提 とすれば,次 には,著 作物が普通 の競争市場 で十分 に供給 され得 るか否か,十 分 に供給 され得 ない と して どの ような仕組みが考案 されなければならないかが,問 われ ることになる。 G)著 作物の供給 システム 教 授は, まず一般論の展開 を通 じて,著 作物 7)例 えば,中 条潮 「再販制 度 を維持 す る 『特段 の理 由』 はあ るか」経済セ ミナー514号65, 65-66頁 (1997年)参 照。
が 「普 通 の競 争 市場 で は供 給 で き」 ず,租 税 支 出,法 ・ルー ル に よ り 「供 給 を 刺 激 す る イ ンセ ン テ ィヴ を私 的 な生 産 者 に与 え る仕 組 み を考 案 しなけ れ ば な ら な い」 こ とを明 らか に した後 ,次 の よ うに叙 述 す る (62頁)。 「法や ルールによる供給刺激のためのインセンティヴ とは,著 作権保護制度 によって著作者の創造活動の成果 を保護 し,タ グの りを認めない制度 をつ くる ことと,再 販売価格維持制度 をつ くって,供 給者の権利 を保護 し,供 給段階ヘ の参入 を奨励 して適正 な供給水準 を維持す ること,な どである。」 著作物 は,一 般 の財 ・サー ビス と異なる特性 を有す る限 りで (公共財 ・準公 共財 とはいえない として も),普 通の競争市場 では十分 に供給 されがた く, し たがって何 らかの仕組みが供給刺激のインセンティブ として考案 されなければ ならない。 このことについて異論 はなかろう。 また,供 給刺激のインセンティ ブ として著作権保護制度が考案 されなければならないことに も,異 論はなかろ う。 それに対 し,再 販制度が供給刺激のインセンティブ として不可欠視 され るこ とには,疑 義があ り得 る。 もっ とも,不 可欠であるか否かはひ とまず措 いて, 再販制度 を供給刺激のインセンティブの一つ として措定す ることには,異 論が なか ろ う。再販制度が不可欠であるか否かは,本 来の趣 旨 ・目的が達成 され得 るか否かで判断すれば よい。 この こ とを見直 しの局面に当てはめれば,次 の ようになる。再販制度の趣 旨 ・目的が達成 され得 ない とすれば,そ れは不可欠ではな く,廃 止が指向される こ とになる。他方,達 成 され得 るとすれば,そ の維持が基本的に指向され,達 成の度合 いに よっては是正が求め られ るこ とになる。 この ようにみて くると,独 禁法上文化 に配慮す る必要 は,あ るといえる。 3.配 慮の局面 ・態様 独禁法上文化 に配慮す る必要があるとして,配 慮の局面 ・態様 は どのようで あ るべ きか。 この点,文 化 を標榜す るだけで再販制度が認め られ ることにはな らない。改めて,再 販制度の趣 旨 ・目的が達成 され るか否か を検討 しなければ ならない。 それでは,何 を基準に趣 旨 ・目的が達成 されると判定す るのか。 こ
6 彦 根論叢 第 314号 こで も池上教援 の所 説 を批判的 に検 討す るこ とを通 じて,こ の点 の解 明 を図 ろ う。 (1)生 産 (出版)・ 流通 。消費の各段階での多種 多様 な著作物の供給 教 授 は,再 販制度の趣 旨 ・目的 を次の ように叙述す る (62,63頁)。「再販制度 は, 著作権 を持つ人々に一種の独 占権 を与えて,社 会に必要な著作物の供給水準 を 維持す るための制度であるといえよう。」「再販制度の中心的な 目的は,社 会 の エー ズに とって必要 なだけの著作物 を供給す ることにある。」 この叙述か らすれば,生 産 (出版)段 階において多種 多様 な著作物が供給 さ れ るか否かが,判 定基準の一つ となるようにみえる。 しか し,多 種多様な著作 物が供給 されなければな らないのは,生 産 (出版)段 階においてだけではない。 流通 ・消費の段階において も,そ うである。 この ことを勘案すれば,生 産 (出 版)・ 流通 ・消費の各段階で多種 多様 な著作物が供給 され るか否かが,判 定基 準の一つ となる。 修)消 費段階での全 国一律に低 い価格 での著作物の供給 教 授は,「再販 制度の もう一つの機能 として,こ の システムに よる所得 の再分配の機能 に着 目 してみたい」 として,次 の ように叙述す る (63頁)。 「著作物の市場において規制 を緩和 し,再 販制度 を撤廃 して 自由競争 を実現 しよう, とい う主張は,多 くの場合,所 得の格差の存在 に対 して,公 共財や準 公共財の供給 システムはいかにあるべ きか を検討 しないまま,議 論 を進めてい るこ とが多いようである。著作物が純粋 な私的財 であって外部性や公共性に配 慮 しな くて よい ものであるならば, この ような取 り扱い も許 され るか もしれな いが,公 共財 としての性格 を併せ て持 っている以上,社 会の人々に とって共通 の便益 をもたらす とい う性質 を考慮すべ きことはい うまで もない。」 「出版業界などは営利事業 と並んで,公 的な支援の対象 となる非営利組織 と の併存 を促進 し,出 版物の価格 をで きるだけ引 き下げ うるような制度 を採用 し てい く必要があろう。 ' この ような非営利組織 と営利組織 との共存の もとで,で きうるか ぎり低 い価 格水準の もとでの再販制度は,全 国一律の供給価格 を維持 し,地 域格差や所得
著作物再販制度の見直しの評価 (その5) 7 格 差 に対 して,こ れ らの存在 に もかか わ らず,読 者層 をあ らゆ る階層 に拡大す るこ とに な ろ う。 〔中略〕新知 識 を低 所得 層や地 方 の ものが獲得 す るには大 き な負担を覚悟 しなければならないようでは,知 識の継承や発展は不可能であ り, このような不公平は準公共財や公共財にはあってはならないことであろう。」 教授のここでの主張の眼目は,次 の ところにある。すなわち,① できる限 り 低い価格水準の下で,② 全国一律の供給価格 を維持することにより,地 域格差 。所得格差の存在にもかかわらず読者層をあらゆる階層に拡大 し,知 識の継承 ・発展を可能にする, ということである。このことは,著 作物が公共財 。準公 共財であるか否かにかかわらず,文 化が特別の顧慮に値する非商品的価値であ り,著 作物が非商品的価値 (文化)を 帯有することに思いを致せば,容 易に了 解 される。 ここから, もう一つの判定基準,す なわち,著 作物が消費段階において全国 一律に低い価格で供給されるか否か,が 導かれる。 ●)ま とめ 以 上の検討から,① 生産 (出版)。 流通 ・消費の各段階にお いて多種多様な著作物が供給されるか否か,② 消費段階において全国一律に低 い価格で著作物が供給されるか否かが,再 販制度の趣旨 ・目的が達成されるか 0 否かの判定基準 となることが分か る。 これ らの判定基準の内容 は独禁法上文化 に配慮すべ き局面 ・態様 でもあるの で,判 定基準が満 たされ るか否かが,著 作物 ごとに問われなければならない。 その結未は,再 販制度の見直 しの局面においては,次 のようになる。判定基 準のいずれ もが普通の競争市場において も満 たされ得 るとい うことであれば, 再販制度は不必要 な もの として廃止 され る。それに対 し,普 通の競争市場にお いては十分 には満 たされ得 ない ということであれば,再 販制度は必要なもの と して基本的に維持 され る。 加 えて,こ れ らの判定基準は再販制度の弊害 を判定す る基準で もあるので, 弊害が存在す る限 りで,是 正措置が採 られ ることになる。 8)こ の こ とに関 しては,伊 従寛 『独 占禁止政策 と独 占禁止法』857-58頁 (1997年),座 談 会 「再 販維持 は文化 の問題」世界640号119,126 27頁 (1997年)を も参照。
彦根論議 第 314号 I H 著 作物 の商品特性 それ 自体 をめ ぐる諸問題 著作物の商品特性 それ 自体 をめ ぐる諸問題 は,次 の二つに分けてみ ることが で きる。①著作物は文化 に関わる財 としての商品特性 を有す るか。②商品特性 を有す るとして競争政策 との調整はいかにあるべ きか。以下,前 章におけ る検 討 を踏 まえなが ら,「中間報告」の理解 につ いて紹介す る とともに,批 判的検 討 を力口える。 1.文 化 に関わる財 としての商品特性 著作物は文化 に関わる財 としての商品特性 を有す るか。 この問いは,① 文化 は特別の顧慮に値す る非商品的価値 であるか,②著作物はその非商品的価値 (文 化)を 帯有 しているか,に 細分す ることができる。 (1)「 中間報告」の理解 「 中間報告」には,設 間に対す る直接の答 えは ない。「中間報告」の理解 は,関 連叙述か ら推 し量 るほかない。 この″点,「中間 報告」には,次 の ような叙述が見受け られ る (4修)イ171)。 「書籍等が文化水準の維持 を図ってい く上で不可欠であるとすれば,そ の発 行 ・販売 に係 る事業者 を保護す るこ とによって,多 数 の商品が供給 され,消 費 者の購 入の利便の確保 が図 られ,そ れ 自体が文化の普及につ なが るとい う考 え 方 もあ り得 る。 しか し,文 化水準の維持 に貢献 している商品は,現 在再販制度 の下にある商品に限 られ るわけではな く,メ ディアの多様化 によ り,特 定の商 品 ・媒体 のみが文化の維持 に貢献 しているとは直ちには言えな くなっている。 また,再 販制度が事業者 を保護す る効果 を持つ とい う″点は,他 の商品すべてに 当ては まる問題 であ り,そ の中には文化以外の点で国民生活に不可欠な商品 も 含 まれてい るわけであるか ら,再 販制度に よって文化 に係 る商品の発行 ・販売 業者 を保護す るとい うだけでは,そ れが直 ちに制度 を維持す る理由 となるもの ではない。」 この叙述, と くに 「文化水準の維持 に貢献 している商品は,現 在再販制度の 下 にある商 品に限 られ るわけではな く」 とい う表現か ら推 し量れば,「中間報 告」は,文 化が特別の顧慮に値す る非商品的価値 であ り,著 作物がその非商品
著作物再販制度の見直しの評価 (その5) 9 的価値 (文化 )を 帯有 してい るこ とを認容 してい る とみ るこ とが で きる。 修)批 判 的検 討 「 中間報告」が文化 に関 わ る財 としての商 品特性 を認容 して い るこ とは,そ れ 自体 としては評価 に値 す る。疑義 が あ るのは,商 品特性 の認容 の仕 方 ・態様 に関 してであ る。文化 が特別 の顧慮 に値 す る非商 品的価値 であ るこ とに関 しては,認 容 態度 の消極性 が問題 に な り,著 作物 が その非商 品 的価 値 (文化 )を 帯有 してい るこ とに関 しては,非 商 品的価値 (文化 )の 相対 化 が 問題 に な る。 (a)認 容 態度 の消極性 文 化 が特別 の顧慮 に値 す る非商 品的価値 であ るこ とを認容 す るに際 して,「 中間報告」 は消極 的 な態度 に終 始 してい る。 それ は, 著作物再販制度維持論者 の極 め て積極 的 な認容 態度 (前述 I11.参 照)と は極 め て対照 的 であ る。 ここでは具体的には次のことが問題になる。①消極的な認容態度の根拠は何 に求め られているか, またその根拠に妥当性はあるか。②消極的な認容態度の 背景 には何が隠 されているか。 ア 消 極的な認容態度の根拠 とその妥当性 消 極的な認容態度の根拠は, 次のフくに求め られているように思われ る。すなわち,書 籍等は文化水準の維持 を図ってい く上 で不可欠ではない, とい う″点である。「中間報告」の論理 に従 えば,そ もそ も書籍等は文化水準の維持 を図ってい く上で不可欠ではないので あるか ら,文 化が特丹Jの顧慮に値す る非商品的価値 であるか否か を詮索す るま で もない, とい うことになろう。 この点,不 可欠ではない とされ る局面には幅がある。書籍等が文化水準の維 持 を図ってい く上 で重要 な役割 を果 たす として も,そ れが必須 といえなければ, 不可欠ではない と判定 され ることになる。 しか し,こ の局面では文化水準の維 持 を図ってい く上 で書籍等が重要 な役割 を果た しているのであるか ら,改 めて 文化 が特別の顧慮に値す る非商品的価値 であるか否か を詮索す ることには,意 味がある とい うことになる。 ち その限 りで,「中間報告」の論理 は飛躍 している。 イ 消 極的な認容態度の背景 「 中間報告」が消極的な認容態度 を採 った
10 彦 根論議 第 314号 背景には,文 化の問題 を切断 したい との強い願望が隠されているように思われ る。文化 の問題 を切 断す るこ とがで きれば,著 作物再販制度は,「純粋 に」競 争政策の問題 として見直す こ とが可能になる。 しか し, こ のアプ ローチには間 題が 多い。 一つに,関 係業界 との対立を先鋭化する。文化の問題はまさしく関係業界の 立論の拠 り所 である。正面か ら反駁す るのでなければ議論は噛み合わない し, それ どころか車L礫を生み さえす る。 この こ とは,「中間報告」公表後の関係業 9 ) 界 の反応 をみれ ば,直 ちに了解 され る。 二つ に,書 籍 等が帯有 す る文化 の意義 の軽視 を窺 わせ る (書籍 等が帯有す る 非 商 品的価値 〔文化 〕 の相対化 の企 図 〔後述(b)〕を併せ みれば,さ らに明 白に な る)。 この こ とは,「文化 の危機 」意識 を広 く醸成す るこ ととなった。非商 品 的価値 (文化 )を 重視 す る観 ″点か ら商 品的価値 (価格 )と の調整 を図 る立場 に す れ ば,文 化 の意義 の軽視 は由々 しい事 態 に違 いない。憲法学者 。政 治学者 な どに よる著作物再販制度 の維持論 は,こ の危機 意識の強 い反映 とみ なければ な 1 0 ) らない。 1 1 ) 三つ に,「競争原理への隷従」 とい う一種 の 「観念への隷従」に陥 りつつ あ るとの疑念 を抱かせ る。競争政策は,今 日,商 品的価値 (とくに価格)の 実現 に局限され るわけはな く,非 商品的価値 の実現 をも視野に入れ ることが課題 と されている。非商品的価値 (文化)の 問題 を切断 して競争政策の問題に 「純化」 す るこ とは,理 論上の明快 さとは裏腹に,現 実問題の解決策 としての妥当性 を 失 うおそれが ある。問われ るべ きは,「競争原理への隷従」か らの脱却 であ り, 新 たな視″点か らの競争政策の再構築 である。 (b)非 商品的価値 (文化)の 相対化 「 中間報告」は,消 極的なが ら,書 9)「 中間報告」に対す る関係団体 の反対意見につ いては,さ しあた り,伊 従寛 『出版再販 ―― 書籍 ・雑誌 ・新聞の将来は ?』 221-巧7頁 (1996年)参 照。 10)注 (6)の文献参照。 ・ 11)こ の こ とにつ いては,猪木武徳 「競争社会 の二つの顔―一生存のため そ して遊戯 として」 中央公論 113巻6号 24頁 (1998年)参 照。 12)こ の こ とにつ いては,拙 稿 ・前掲 (注 2)50-51頁 参照。
籍 等が文化 に関 わ る財 としての商 品特性 を有 す るこ とを認容 す る一 方,書 籍 等 が帯有 す る非商 品的価値 (文化 )の 相対化 を図 ってい る。 相対化の論拠は,① 文化水準の維持に貢献する商品はそもそも再販制度下の 商品に限られない,② メディアの多様化により特定の商品 。媒体のみが文化の 維持に貢献するとはいえな くなっている,③ 文化以外の″点で国民生活に不可欠 な商品もある, という三点に求められている。以下,そ れぞれの論拠が妥当で あるか,検 証する。 ア 文 化水準の維持に貢献する商品の無限定性 「 中間報告」は,「文化 水準の維持に貢献 している商品は,現 在再販制度の下にある商品に限られるわ けではな」いと叙述する。この叙述は,裏 返せば,現 在再販制度の下にない商 品も文化水準の維持に貢献 している, と主張するものにほかならない。そうい った商品としては, ビデオテープ,レ ーザーディスクなどの著作物があ り, ま た著作物以外の商品も考えられる。それらも文化水準の維持に貢献 しているこ とに,疑 いはない。 問題があるのは,次 の″点である。①そう主張することによって,現 在再販制 度の下にある商品 (著作物)の 非商品的価値 (文化)が 希釈化されるか。②文 化水準の維持に貢献する度合いにより著作物 を区別 し, きめ細かな見直 しを行 うという視点をあいまいにするのではないか。 この″点,① に関 しては,現 在再販制度の下にある商品 (著作物)の 非商品的 価値 (文化)の 重要性が削がれることにはならない。他方,② に関 しては, と くに,新 聞,書 籍 ・雑誌 と音楽用 CD等 に分けて見直 しを行 うという視″点があ いまいになるおそれがある。 その限 りで,文 化水準の維持に貢献する商品の無限定性は,相 対化の論拠 と して十分ではない。のみならず,そ れは,見 直 しの有力な視点をあいまいにす る。 イ 文 化水準の維持に貢献するメディアの多様化 ^「 中間報告」は,「メ ディアの多様化により,特 定の商品 。媒体のみが文化の維持に貢献 していると は直ちには言えなくなっている」 と叙述する。今 日, メディアは放送 ・通信技
12 彦 根論叢 第 314号 術 の発 達 に よ ります ます 多様 化 し ( ケー ブル テ レビ,イ ンター ネ ッ トな ど), 新 聞, 書 籍 ・雑 誌 な どの伝 統 的 な商 品 ・媒体 だけが文化 の維持 に貢献す るとは い いが た くなってい る。 この こ とに異論 はない。 しか し,こ の叙述には,次 の問題がある。①そう主張することによって,新 聞,書 籍 ・雑誌などが帯有する非商品的価値 (文化)が 希釈化されるか。②新 聞,書 籍 ・雑誌などの活字 メディアと電波メディア・電子メディアとを同列に 論 じることができる力ち この″点,① に関 しては,新 聞,書 籍 ・雑誌などが帯有する非商品的価値 (文 化)の 重要性が削がれることにはならない。他方,② に関しては,次 のように いうことができる。まず,活 字メディアと電波メディアの間には,一 覧性・詳 報性 。保存性 ・閲読可能性などの″点で決定的な違いがあり,同 列に論 じること はできない。電子メディアも電波メディアと同様の特性 を併せ持つ限 りで,同 列に論 じられ得ない。 ウ 文 化以外の点で国民生活に不可欠な商品の存在 「 中間報告」は,「文 化以外の点で国民生活に不可欠な商品」が存在することを実質的な論拠 として, 「再販制度によって文化に係 る商品の発行 ・販売業者を保護するというだけで は,そ れが直ちに制度 を維持する理由となるものではない」 と叙述する。ここ からは,「中間報告」が,文 化以外の点で国民生活に不可欠な商品が存在する ことを論拠に,書 籍等が帯有する非商品的価値 (文化)の 相対化 を図ろうとし ていることを読み取ることができる。 確かに,文 化以外の点で国民生活に不可欠な商品は存在する。 しか し,こ の 局面でこの叙述 を行 うことには,次 の問題がある。①文化以外の点で国民生活 に不可欠な商品が存在することによって,書 籍等の非商品的価値 (文化)が 希 釈化 されるか。②文化以外の″点で国民生活に不可欠な商品と書籍等を同列に論 じることができるか。 この点,① が成 り立たないことは,改 めて論 じるまでもない。また,文 化が 13)浜 田 ・前掲 (注 6)15頁 参照。
著作物再販制度の見直しの評価 (その5) 13 特別の顧慮に値す る非商品的価値 であることに思いを致せば,② も妥当 しない。 この ことも,改 めて論 じる必要はない。 工 ま とめ 非 商品的価値 (文化)の 相対化の論拠 として挙げ られている こ とは,単 純にそれだけ をみれば問題はないようにみえる。 しか し,若 子の立 ち入 った検討 を行 っただけで も,そ れには種々問題があ り,妥 当性 を欠 くこと が分か る。 「中間報告」の企図す るところは書籍等の非商品的価値 (文化)を 相対化す るこ とに よる著作物再 販制度 の存在理 由の希 薄化 であ るので,そ れが表面的 な 理解 に終始す るこ とは領 け る。 しか し,表 面的 な理解 が問題 であ るこ とは, も はや論 を待 たないる 2.競 争政 策 との調整 の あ り方 著作物 が文化 に関 わ る財 としての商 品特性 を有 す る として,競 争政策 との調 整 は どの よ うであ るべ きか。 まず,「 中間報告」が調整 の具体 的局面 をどの よ うに考 えているか を明 らかにす る。 その後,各 局面 ごとの調整の具体的様相 を 明 らかにす るとともに,批 判的検討 を加 える。 (1)調 整の具体的局面 「 中間報告」は,競 争政策 との調整の具体的局面 を明 らかに してお らず,関 連す る叙述か ら推 し量 るほかない。 ここでは,「文 化水準の維持」,「文化 の普及」 (広義),「多種類の書籍等が広範に普及 され る 体制の維持」,「文化の公平 な享受のための全国同一価格の維持」 といった特定 の用語が どの ような関連付け をもって使 い分け られているかを探 ることを通 じ て, この点の解 明 を図 る。 (a)特 定の用語の用例 「 中間報告」は,「著作物に係 る再販制度の趣 旨 は,次 の よ うに説明 されている」 と叙述 し,「一国の文化の普及など文化水準 の維持 を図ってい く上で不可欠な多種類の書籍等が同一の価格 で全国的に広範 に普及 され る体制 を維持■ ること」, をその一つ として挙げる (1修)ア竹))。 また,そ れは 「現行制度の趣旨とされている諸″点についての検討」において, 趣旨とされてきた点の一つ として 「文化の普及」を挙げ,次 のように叙述する (4修)イ)。「現行の著作物に係 る再販制度の趣旨の一つ として,文 化の普及の
14 彦 根論叢 第 314号 観点か ら多種類の書籍等が広範に普及 され る体制 を維持す るとの″点があると説 明 されてお り,ま た,こ れ と関連 して,同 一商品を全国 ・全地域同一の価格 に 維持す ることによって文化 を享受す る機会の均等化 を図 るとい う″点が挙げ られ ることもある。」 (b)特 定 の用語の関連付 け 用 語 の関連付 けにつ いては,「中間報告」は 直接的な言及 をしていない。しか し,そ の用例 に従 えば,「文化の普及」 (広義) が 「文化水準の維持」に運 な り,「文化の普及」 (広義)は 「多種類の書籍等が 広範 に普及 され る体制の維持」 と 「文化の公平 な享受のための全国同一価格の 維持」 を確実 にす ることによ り図 られ る, と関連付けているように思われ る。 (C)「 中間報告」のスタンス 用 語の関連付 けか ら判断すれば,「中間報 告」は,調 整の具体 的局面 として,「多種類の書籍等が広範に普及 され る体制 の維持」 と 「文化の公平 な享受のための全国同一価格の維持」の二局面 を措定 しているよ うに思われ る。 この措定内容 に異論 はない。 問題 なのは,「中間報告」が調整の具体 的局面 を積極的に明 らかにす る態度 を採 らず,商 品特性に重 きを置 く立場 に依拠 して論 旨を展開 していることにあ る。 この消極性は 「中間報告」のスタンスの基調 をな してお り,調 整の具体的 局面において も顕現化す る。 この こ とには留意が必要 である。 以下,項 を改め,「多種類の書籍等が広範に普及 され る体制の維持」,「文化 の公平 な享受のための全国同一価格の維持」の各局面 ごとに,調 整の具体的様 相 を明 らかにす るとともに,批 判的検討 を加 える。 C)「 多種類の書籍等が広範に普及 され る体制の維持」の局面 以 下では, 「中間報告」の用例に従い,「多種類の書籍等が広範に普及される体制の維持」 を指す もの として 「文化 の普及」 (狭義)を 用 いる。 まず,文 化 の普及 とい う こ とは極めて抽象的であるとの 「中間報告」の叙述に対 して検討 を加 えること か ら,考 察 を開始す る。 (a)文 化 の普及 とい うこ との抽象性 「 中間報告」刊ま,「文化の普及 とい うこ とは,極 めて抽象的 な理 由」であ り,「その意味 を明確 にす るこ とが必要 である」と叙述 し(4修)イ),そ の意味の解明 を図る。 しか し,「極めて抽象的」
1 4 ) であるとい うことの含意には,異 論があ り得 る。例 えば次のように弁明される。 「もともと文化 というのは抽象的な概念であ り,そ れを市場経済の論理 と直 結 させ るのが無理 なのである。活字文化 は, こ とさら抽象文化 なのであ り, そ の中軸 をなす言論 ・出版の 自由 もまた抽象的理念である。そのような理念や理 想 に敬意 を払 い,制 度の面で十分 な配慮 を払 うことので きる国家が“文化国家" なのではないだろうか。」 この点,両 者の違 いは次の ところにある。「中間報告」は 「文化」が抽象的 な概念であるこ とは暗に認め るが,「文化 の普及」の意味 を明確 にす る必要が あ ると説 く。 それに対 し,弁 明は 「文化」が抽象的な概念であることを明示的 に認め,制 度面 で も十分 な配慮 を払 う必要があると説 く。 そこには,「著作物 も商 品である」 とみ るか,「著作物 は違 う」 とみ るかの違 いが色濃 く反映 して しヽるとしヽえる。 そこで,次 の ことが,こ こでの確認事項 となる。すなわち,「中間報告」は, 「著作物 も商品である」 とい う基本的スタンスに立脚 して,文 化の普及の意味 を明 らかに しようとしている, とい うことである。 この確認は,調 整の具体的 様相 を解 明す る上 で も,大 いに役立つ こ とになる。 (b)調 整 の具体的様相 こ こでは,次 のアプローチを採 る。 まず,文 化の 普及が意味す るこ とにつ いて,「中間報告」が どの よ うな理解 をしたのか を紹 介す ることを通 じて,調 整の具体的様相 を明 らかにす る。 そ してその後,批 判 的検討に及ぶ。 ア 文 化 の普及の意味 「 中間報告」は,文 化の普及が意味す ることにつ いて,次 のように叙述す る (4修)イ171,191)。 「文化 の普及 とい うことは,そ れ を享受すべ き消費者が当該商品を現実に入 手す るこ とを意味 してお り,単 に商品が発行 ・販売 され るだけでは,普 及 とい うこ と 〔に〕はならないであろう。 したがって,仮 に,再 販制度が文化の普及 に資す るとい うのであれば,そ れによって消費者が商品を購入す る機会 と購入 14)清 水英夫 「著作物再販制度維持 の根拠 とは」世 界615号 194,19}96頁 (1995年)。
16 彦 根論叢 第 314号 す る上 で何 らかの便益 を享受す ることが実際に確保 されていることを意味す る もの と考 えるべ きである。」 結局の ところ,「『文化 の普及』 とは,消 費者が商品を購入す る機会の確保等 とい う点に帰着す るもの と考 えられ」 る。 イ 「 中間報告」のスタンス 「 中間報告」の理解に従 えば, ここでの調 整の具体的様相 は,消 費者が著作物 を購入す る機会等が実際に確保 されている か否か, に収敷 され る。 この点,「中間報告」は,個 別の論点 との関わ りで も,次 のような基本的考 え方 を示 している (512》。「文化の普及等の点については,消 費者が商品を購 入す る機会の確保等 とい う点に帰着す るもの とみ るのが妥当であるとすれば, 〔中略〕,店 頭 陳列 ・品揃 えの確保 と個別配達 の確保 とい う″点に集約す ること ができると考 えられ る」 とし,そ れ らが再販制度 を維持す る理由 となるか どう かにつ いて,「消費者の購入の機会の確保等の効果が現実に,か つ,具 体的に 生 じているか どうか, とい う観点か ら検討す る必要があると思われる」。 そ して,実 際に も,「中間報告」は個別の論点についての検討 を行 い,「これ までの関係事業者の主張等 を前提 とす る限 り,再 販制度が店頭陳列の充実,戸 別配達 の維持 など消費者が商品を購入す る機会の確保等 を通 じて我が国の文化 の普及等の効果 をもたらすか どうかについて,疑 問があると考 えられる」 との 結論 を導いている (結び)。 ウ 批 判的検討 「 中間報告」のスタンスには,次 の二つの問題がある。 ①消費者が著作物 を購入す る機会等が実際に確保 されているか否か という″点に 調整の具体的様相 を収敏す ることが,政 策的にみて妥当であるか。②消費者が 著作物 を購入す る機会等が実際に確保 されていないことか ら直ちに,再 販制度 を維持す る理由がないことが帰結す るか。 15)な お,個 別 の論″点 (店頭陳列 ・品揃 えの確保,戸 別配達の確保)に 係 る具体的な検討内 容 が妥 当であ るか否かについては,取 り上げない。 しか し,そ こでは,著 作物が非商品的 価値 (文化)を 帯有す る商品であることに対す る理解が大 き く欠けているように思われ る。 この こ とは,指 摘 しておかなければな らない。
著作物再販制度の見直しの評価 (その5) 17 消費者が購入す る機会等が確保 されていなければいかに多種 多様 な著作物か 生産 (出版)さ れていて も意味がない とい うのは,確 かに一つの論理であ り, この論理 を用 いることによって問題の簡便な処理が可能になる。 しか し,こ の アプ ローチ を採 る背景には,生 産 (出版)。 流通 ・消費の各段階 を トー タルに 検討す ることは厄介 であ り,可 能 であれば避けたい との意図が隠されているよ うに思われ る。極言すれば,著 作物再販制度の全容の解明 を放棄す る意思が表 示 されているとみ ることもで きる。 それが政策的に妥当であるかは,大 いに疑間である。のみならず,そ れは, 著作物再販制度維持論者 との事し操 を生む原因 ともなる。 他方,② については,次 のような疑間がある。消費者が著作物 を購入す る機 会等が実際に確保 されていない とい うのは,あ る時″点の事実に過 ぎず,そ れ 自 体 が評価基準 となるわけではない。著作物再販制度 を排 して普通の競争市場に 委ね ることによっては,状 態が さらに悪化す ることも考 えられ る。 その場合, 再販制度 を維持す る理由がない とい うことにはならない。 また,制 度の手直 し に よ り状態が改善 され ることも考 えられ る。その限 りで,論 理の飛躍がある。 なお,飛 躍 を埋め得 るのは実証分析 であるが,こ の面での 「中間報告」の取 組みは,不 十分 としかいいようがなぃ (5修》。 O)「 文化の公平 な享受のための全国同一価格の維持」の局面 ま ず,同 一商品について全国 ・全地域同一の価格 を維持することによって文化 を享受す る機会 の均等化 を図 るとい う主張に対 して,「中間報告」が どのように考 えて い るか,紹 介す る。その後,「中間報告」の考 えについて,簡 単な批判的検討 を加 える。 (a)「 中間報告」の考 え 「 中間報告」は,次 の ように叙述す る (4修)イ 竹) ) 。 4 「同一商品について全国 ・全地域同一の価格 を維持することによって文化 を 享受す る機会 の均等化 を図るとい う主張については,ま ず,こ のような考 え方 は,交 通 。輸送 ・情報伝達手段が今 ほ ど発達 していなかった時代において,商 品 ・情報の供給に係 るコス トについて,地 方に対 して供給す る場合 と都市部に
18 彦 根論叢 第 314号 対 して供 給 す る場合 とで著 しい較差 が存在 して いた こ とを背景 とす る もの で あ るこ とに留意す る必要 が あ る。 現 時点 にお いて,都 市部 と地方 との間で,文 化 の公平 な享受 を妨 げ るほ どの 価 格 差 が生 じるか は疑 間 で あ り,現 に,他 の 多 くの商 品につ いては,国 民生 活 に不 可欠 な もの を含 め,全 国同一 の メー カー希望小売価格 が設定 され る一 方で, 小 売実 売価格 は多様 であ るに もかか わ らず,特 段 の弊 害 は生 じていない実 態 に あ る。」 「また,一 律の価格 を維持することが実質的な意味での文化の 『公平な』享 受 につ なが るものか どうかにつ いて も問題がある。商品は,こ れに付随す るサ ー ビスと一体になって供給 されるものであって,サ ー ビスの内容が異なるのに 同一 の価格 で販売す ることをもって文化の公平な享受 といい得 るのかについて は,疑 間がある。 また,新 聞については,地 域によって建 て頁や情報の内容が 異なるなど商品の内容 自体 が異なるのに全国 ・全地域 同一価格 となっていると い う問題がある。」 「情報化が進展 してい る今 日においては,消 費者は特定の媒体 だけで情報 を 得 ているわけではないか ら,特 定の商品だけに着 目す るのではな く,消 費者が 様々 な媒体 を通 じて得 る情報総体 をみて実質的な公平が保 たれていれば足 りる と考 えられ る。」 「競争政策の観″点か らは,本 来,市 場 メカニズムを通 じて多様 な価格が形成 され,多 様 な財 ・サー ビスが提供 され ることによって,消 費者の選択の機会が 確保 され ると考 え られ るところであ り, また,全 国 ・全地域 同一価格 を維持す るこ とによって,本 来低 ヨス トを享受 し得 る地域の消費者に対 して他の地域へ の供給 コス トを転嫁す ることが,制 度 をもって消費者に強制すべ きことか どう かにつ いては,疑 問がある。」 4 以上 の叙述か らすれば,「中間報告」は,文 化 を享受す る機会 の均等化 とい
う主張に対して,次 の四つの疑義を抱いていることが分かる。①伝達手段が発
達 した現時点においては,都 市部 と地方 とで文化の公平な享受 を妨げるほどの 価格差が生 じるかは疑間である。②サービス内容や商品内容 自体が異なるにも著作物再販制度の見直しの評価 (その5) 19 かかわらず,価 格が同一であることが実質的な意味での文化の公平な事受 とい えるかは疑間である。③情報化が進展 している今 日においては,消 費者が様々 な媒体 を通 じて得 る情報総体 をみて実質的な公平が保たれていれば足 りるので はないか。④消費者の選択の機会は市場 メカニズムを通 じて確保 されるのであ り, また,本 来低 コス トを享受 し得 る地域の消費者に,制 度をもって他の地域 のコス ト転嫁 を強制すべ きか どうかについては疑間がある。
(b)批判的検討 こ こでは,次 の二つが問題になる。①調整の態度 。具体
的様相は妥当であるか。② 「
中間報告」が抱く疑義は妥当であるか。
ア 調 整の態度 ・具体 的様相の妥当性 「 中間報告」は,文 化 を享受す る 機会 の均等化 とい う主張に対 して疑義 を提示す るとい うアプローチを通 じてで はあるが,調 整の具体的様相 を包括的に示 している。 この態度は,文 化の普及 に係 る調整の具体的様相 を,消 費者が著作物 を購入す る機会等が実際に確保 さ れているか否か とい う点に収飲 させ たの とは大 きく違 っている。 その限 りで, この局面での調整態度は評価 で きる。 また,調 整の具体的様相 は,消 費段階におけ る全国同一価格の維持 に関わる 事項 を多面的 ・網羅的にカバーす るものであ り,一 応の評価 を与 えるこ とがで きる。 問題 は,「中間報告」が抱 く疑義が妥当であるか否かである。 この点につ い ては項 目を改めて若子の検討 を加 えるが,情 報総体か らみた実質的な公平の権 保 (疑義の③)だ け を取 り上げ る。 とい うのは,そ こに,文 化 に係 る 「中間報 告」の基本的態度の問題性が集約的に露呈 していると思われるか らである。 イ 情 報総体か らみた実質的な公平の確保 情 報総体か らみて実質的な公 平が確保 されていれば,消 費段階において個別の著作物の価格が全国同一であ 16)な お,疑 義の①については,供 給 コス トの較差が持つ意味の,著 作物 と他の商品の間で の相違,新 聞にとっての疑義の妥当性が問題になり,② については,サ ービス内容 ・商品 内容の相違に文化の享受の公平 を直接的に関わらせ ることの妥当性が問題にな り,④ につ いては,著 作物が非商品的価値 (文化)を 帯有する商品であることに対する理解の欠如が 問題になる。20 彦 根論議 第 314号 る必要 はない とい うのは,確 かに一つの論理 ではある。 しか し,個 別の著作物 が固有の特性 を持 っているとすれば,著 作物 ごとに文化の公平 な享受 を図るこ とが不可欠になって くる。実際に も,次 の ような批判がある。 「果 た して メデ ィア間の性格の相違 を無視 した 『総体』論が可能か どうか, 疑間が大 きい。 しば しば指摘 され るように,新 聞はた とえば放送 と比べ ると,速 報性や映像 ・音響等の表現力において劣 る反面,一 覧性,詳 報性,保 存性や任意の時間や 場所 において閲読可能 であるこ とな ど,メ デ ィア として多 くの異なった特性 を 有 してい る。 このほか,書 籍,電 話,パ ソコン通信,イ ンターネ ッ ト,CATV な ど,人 々 を取 り巻 くさまざまなメディアには固有の特性があ り, これ らを一 括 した 『情報総体』が何 を意味す るのか,多 様 なメディアが存在す る中でサー ビスの公平性の存否 を具体的に どの ように測定す るのか,ま った く明確 ではな い。 また;た とえば放送法 においては,公 共放送 であ る NHKに つ いて放 送 の全 国普及義務 の規定 (7条 )力ざ設け られてお り,『情報総体』論 に立つ な ら ば, こ うした立法の合理性 は失われて しまうことに もなる。」 結局の ところ,情 報総体論 は,「中間報告」が文化 に対す る理解 を欠いてい るこ とを示す以外の何 もので もない。 また,調 整の具体的諸相 で情報総体論 を 持 ち出す こ とは,「中間報告」の本意が もはや調整 にないことを窺 わせ る。 〔付記〕 本稿 をもって,一 連の小論 を終 える。 17)浜 田 ・前掲 (注 6)15頁 。