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抗菌薬療法の考え方

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Academic year: 2021

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最終講義

抗菌薬療法の考え方

〔東女医大誌 第63巻 第9号頁1031∼1037平成5年9月〕 東京女子医科大学 臨床中央検査部   シ  ミズ  キ  ハチ  ロウ

  清 水 喜 八 郎

(受付平成5年3月19日)          はじめに  最初に,治療一般について少し考えてみたいと 思います.  治療を考える場合,・病気には必ず自然歴(natu・ ral hlstory)があるということを建前として話を することが前提になっています.  この自然歴という考え方は,19世紀以来の科学 のすばらしい進歩によって言いだされたことであ りますが,それは以前にはあまり考えられなかっ たことです.つまり治療の本質は,この自然歴の 経過を変えて,患者にとって,より有利な方向に もってゆくことであります.治療が,その経過を ねじ曲げて,人為的におかしな方向にスリ変える ことではないだろうかと問題にされることがあり ます.治療に積極的か消極的かということであり, 消極的な考えをもつ人もいるということでありま す.  しかし,今日患者に対して,何もしないことが 最良であるというのは,一般論としては成り立た ないことは当然で,何らかの方法によって患者の 悩みをとり除くことが,医師として当然のことで あります.  医師のもとを訪れる患老の80%近くは薬が投与 される,そのうち10%は薬が効いた,10%は副作 用があり,残りの80%は薬をのんでも,のまなく てもあまり大きな影響はなく,自然治癒によって 治るのではないか,と皮肉をいう人がいます。  抗菌薬について,この数字を考えてみた場合は, あてはまらないと思います.理論的には,100%有 効である筈です.しかし実際は残念ながらそうで はなく,やはり50∼60%は抗菌薬を使っても使わ なくても差のみられないグループに相当するの は,感染予防的使用であり,抗菌薬療法について も,上述の皮肉があてはまるかもしれません.  さて,長い歴史をみてみると,治療のために医 術を理論的に組立ててゆくべきであるとして,ギ リシア医学を総括したのがクラウディウス・ガ レーヌスの「病因説」であり,これに対してパラ ケルススを中心とする反対派は理論ではなく,治 療技術中心の経験主義を主張し,この2つに代表 される考え方が長い治療の歴史の中にくり返し出 現してくるのです.  つまり,科学的であろうとする理論偏重主義派 と,経験中心による実証派の2つの流れは浮き, 沈みしてきたと思います.  経験的な治療法を主張したヒポクラテスの著書 からも,当時の治療法は大部分は植物から成って いたという記載があります.  現在,生薬として使われている120種類中の約 10%に,弱いながらも抗菌活性が認められている という事実も知られています.そのような植物が どのように作用するかをどう見出し,それを経験 的にどのようにテストし,観察したか,さらにそ れらの配合をどのようにみつけていったかという 問題が常に提起されます.つまり,本能的に一定 の植物を探したり,ある植物に近づかないという Kihachiro SHIMIZU〔Central Clinicai Laboratory, Tokyo Women’s Medical College〕 antimicrobial chemotherapy :Future trend in 一1031一

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動物の行動を人間が手本にしたということも想像 されます.また当時は人間も同じような本能を もっていたが,文明の進歩とともに段々と失われ てきたのかもしれません.  いずれにせよ,自然に密着して住んでいる民族, 有効な植物の豊富な森の中の民族は,土着の薬草 について傑出した情報をもっていたはずですが, この情報・知識の構築には何百年,三千年を要し たのかもしれません.  しかし前述の質問への答えとしては,r偶然が考 えられる」という実証的とも,経験的とも言い難 い考え方もあるわけであります.  これらのことを前置きにして現在の薬物療法, とくに抗菌化学療法を中心に考えてみたいと思い ます.  1.提供する立場  薬物に関与する立場は三つあると考えます.第 一は,薬,抗菌薬を開発して提供する立場,第二 は,・それを入手し,患者に使用する立場,第三は, その薬が使われる患者の立場であります.  一般に薬物療法のなかで,一番よく研究され, また進歩し,今日科学的といえるのは,物質とし ての医薬品についての研究であります.抗菌薬に してもセフェム,カルバペネム,キノロンなど, 物質としての研究はきわめて進歩しています.し かし,かってのbenzylpenicillin(PC−G), cepha− losporinの発見に優るような新規物質の探究がよ り進み,より独創的な抗菌薬開発の研究へと,進 むことを願うものであります.  2.使用する立場  次に今日の話題の中心である第二の立場を述べ てみたいと思います.  医師が薬物療法を行う場合,近年は薬物の数が 多いために,どうしても薬中心になって,薬があ れぽ,どういう患者に効くかという方向に進んで いる傾向が感ぜられます.  抗菌化学療法においても,そのターゲットが細 菌であることを忘れたがごとく,病態と抗菌薬と いう組合せで使用されていることは事実であり,

誤まれる使用がMRSAなどに結びついていった

ことも事実であります.  薬の科学(science)という場合には,薬・抗菌 薬そのものの科学と,その薬を投与するときの科 学とがあり,患者に投与するときの科学的な方法 の方が,前者より遅れているといわれていました. しかし,それは最近かなり進歩してきていると思 いますし,また,抗菌化学療法の領域は,他の領 域に比して進んでいると思います.恐らく多くり 方々はすぐ,臨床薬理学的な,客観的に信頼でき うる投与方法を思いうかべると思いますが,実は その前の部分が大切であると思います.  その第一は,その患者にとって本当に抗菌化学 療法が必要であるかどうか,ということでありま す.しかし,抗菌化学療法を行ったときの方が平 野にとってより有利であることを証明することが 容易でない場合も少なくないと思います.  抗菌薬を投与しないですむかもしれない場合で も,何もしないでよいということを断言しえない 場合も少なくなく,そのことを証明することはき わめて困難であります.そのことは,抗菌化学療 法は予防投与またはそれに準ずる投与の場合を考 えてみますとそれが相当すると思われます.  感染予防のための投与は,必要かつ妥当な方法 であるか否かという検討のうえ投与されるはずで すが,まちがった投与は,投与しないでおいた方 がよかったという例もあることは事実でありま す.  どういうわけか,わが国の医師は,抗菌薬投与 については比較的短絡的な考えが根強く残ってい るだけに,本当に抗菌薬療法が必要であるという ことを十分に考えないまま投薬することの事実に 対しては,私どもを含めてもう一度,反省の必要 があると思います.  それらのことをふまえたうえでの抗菌薬の投与 は,臨床薬理学的な投与計画のもとに効率よく行 われることが必要であります.つまり,薬が選ば れて使われたとしても,その薬がもっとも効率よ く使われなくてはならないのです.抗菌薬のター ゲットは菌であるが故に,その選択は,情報が揃 いさえずれば,比較的容易であろうと思われます.  しかし,その薬がどの位ターゲットに効くかと いうことにのみ多くの人の関心は向けられて,ど

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ういうふうに使われるのが望ましいかという面で の研究は遅れていたと思います.  抗菌薬を正しく使うためには,まず正しい選択 が行われなくてはなりません.感染症の原因菌を 検出し,感受性試験を行い,抗菌薬の体内動態, 副作用を勘案して,使用薬物の選択を行うのです.  原則は以上のごとくでありますが,実際は患者 を目の前にして,ただちに薬を投与しなけれぽな らないことがほとんどです.その場合は,以下四 つの事柄への配慮が必要です.1)いかなる感染症 には,いかなる原因菌が多いのか,2)その菌の耐 性頻度の少ない薬剤は,3)感染臓器へ行きやすい 薬剤は,4)その患者にとって副作用の少ない薬剤 は,であります.  次は投与:量の設定であります.適切な投与量の 設定のためには薬剤の体内動態とそのパラメータ への考慮が必要で,いたずらに増量することが有 効性とはつながりません.β・ラクタム薬では投与 量と効果の相関が少なく,安全域が狭く投与量を 増加できないアミノ配糖体やキノロン薬では,投 与量を増やすことが効果の増大と結びつくことは 皮肉なことであります.  抗菌薬療法の効果と総投与量(area under the curve:AUC),ピーク濃度, MIC以上の持続時間 (time above MIC)のファルマコキネティクパラ メータとの関係が知られてきています.β一ラクタ ム薬では,効果とtime above MICとの関連性が 強く,MIC以上の持続時間を長くするほど効果が 増加する.同じ総投与量を分割し投与回数を増加 させることによりtime above MICが延長しま す.アミノ配糖体,キノロソ薬は総投与量(AUC) が効果と関連するので,1回の投与量が大切に なってきます(図1).  次に投与間隔を考えなくてはなりません.近年 抗菌薬の投与間隔を考えるうえにpostantibiotic effect(PAE)という考え方が注目されています.  PAEとは「抗菌薬が細菌と短時間接触したの ち,持続する菌の増殖抑制効果」をいいます.グ ラム陽性球菌(ブドウ球菌連鎖球菌)にはβ・ラ クタム薬をはじめ,どの抗菌薬にもこの作用があ 9 8 7

ミ6

暮 島

6 5

4 3 2 キノロン薬・アミノ配糖体薬 β一ラクタム薬・バンコマイシン ● control O1/4MIC ▲1/2MIC △  1MIC ■  2M亙C ロ  4MIC ▼  8MIC 0 1 2 濃度依存性 3 8 (E.CQIi) 4 0 時聞(hr) 2 図1 殺菌曲線からみた抗菌薬 一1033一 4 時聞依存性 6

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るが,グラム陰性桿菌(大腸菌,緑膿菌,クレブ シェラなど)に対してはβ・ラクタム薬はこの作用 がありません.  アミノ配糖体,キノロン薬にはこの作用があり ます.したがってこれらの薬剤は,一定間隔で投 与されれば次の投与で効果が加算されます.投与 間隔にゆとりがあり,アミノ配糖体,キノロン薬

のような用量依存性でPAEの長い薬剤は,2度

目以降の効果が加算され,しかも投与量が効果に 関連してくるので総投与量の設定が大切であり, 投与間隔は1日1∼2回で充分効果が得られるこ ともあります.これは宿主の因子が影響すること も知られています1).  難治感染症の場合は,monotherapyではなく, 併用療法が行われます2).その1つに緑膿菌があ ります.その際¢)Piperacillin(PIPC)とAmino− glycoside(AG)の併用投与の有効性についてふれ てみます.  マウスにR%40初0ηαSαθγ㎎勿OSαを用いた大

腿感染モデルに対して,Gentamicin(GM)と

PIPCの併用を行いました.  この場合に投与順序によって差のあることがわ かります.

 GM→PIPCの場合は, PIPC→GMの場合に

比して,効果がすぐれていることが認められまし た.グラム陰性桿菌については,AGが先に投与さ

れることの有利な理由のひとつは,AGによる

inoculum effectであります.  もうひとつは,AGによるPAE期に入ったグラ ム陰性桿菌にPIPCを作用させると,その効果は sub MICでも増大します(図2).この場合もpost・ antibiotic sub MIC effectを示します.つまりsub MICを考慮に入れること,またこのことが併用が 有効に展開される理由であります.AG 1日1回 投与は,PIPCのアミノ配糖体の腎毒性軽減作用 などを考えて少しでも患者にとって有利な投与法 に近づくことになります.  MRSAの治療法はvancomycin(VCM).が現状 ではすぐれていることは知られていますが,その 他にFosfomycin(FOM)とβ一ラクタム薬の併用 が行おれます3),  この場合も投与順序により,その殺菌作用に差 のあることを私どもが見出しました.つまり

FOM→FMOX(Flomoxef)がもっともすぐれて

います.これはFOMがPBP2’の産生を抑え,そ

の後にFMOXがある程度PBP2’につくことによ

り効果を示します(図3)このことは電顕の像で も臨床例でも示されています, 10 9 8 7 鷲6 ≧ 亀5 量4 3 2 1

         〆7

一纏 §一一一一

」一一一__一___」__」__→μ

GM

■ 8MIC O.5hr       ム       /

論駆と二∠

一[  ▲GM→PIPC l/2 MIC  △GM嶋PIPC l MIC

一2.50246810

1」一」

1224−2.502468101224

 Time(hours) 図2 ゲソタマイシソ(GM)によるPAE期のP磁㍑g勿。∫αATCC27853に対する  sub−MICレベルのピペラシリン(PIPC)の効果

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 十2   ユ ミ o 号_1 『.、 ζ.,  一4  −5 MRSA TK784p 繍6魏ノ議i)3 FO網く100 刑9婁:聖 FOM 2g FMOX lg  十2 ミ+

P

弓_1 ず一・ ぐ:1  −5 0  2  4  6  8    12    16    20    24       MRSA I FOM 4g FMOX 2g 罵(μ9/r浦

欝鐡

 十2 ミ+

P

暮_1 ず一・ “:1

02468 

12 16 20 24       MRSA皿 FOM 4g FMOX 2g 0  2  4  6  8     12    16    20    24      Time (hours) 纏罐9瀦欝 Fρ醗 ;>320◎ FMOX毒・20ひ   輔帯甜惣臼 紺準 監亭軒 3繭黙.警 ムドOM  一毒    ア 

鞘難

図3 MRSA 3株に対するFOMとFMOXの併用

 効果一併用順序の影響一(in vivo自動シミュレー  ション装置による)  最後に,古くより抗菌療法の課題の1つである 感染性心内膜炎を例にとってみたいと思います. viridans型連鎖球菌による感染性心内膜炎は40年 前,多くの場合はPC−G 300万単位でほぼ治癒せし めることが可能であり,わが国においては慶応大 学三方先生らの文献でも,今日では想像がつきに くい1日投与量160万単位が投与量の1つの基準 のように記載されています.  しかし近年の臨床経験では,2,000万∼3,000万 単位投与されることが殆んどであります.しかし, 投与量が増大した割に,MICは,40年前に比して 変わっていないことが知られています.  古い菌株については不明であるが,最近7年間 の菌株(1985∼1991年)についてみると,約80%

の株に,MICとMBCの間に大きた隔りがあるこ

とが知られました.  MBCは,接種菌量の99.9%が殺菌された濃度 としました.PC−GのMIC以上の濃度での殺菌数 変化を算出し,その平均を求めてtoleranceの指 標としました.  低濃度より高濃:度において効果の劣るEagle 効果陽性は,MIC以上の高濃度で殺菌効果の逆転 が認められ,MIC以上での最:大細菌数変化と最小 細菌数変化の差が10倍以上あるものとしました. このようにみてゆくと,約80%がtoleranceであ ります.  またtolerance株にEagle効果を示す菌株が認 められます.この頻度は,他の感染性心内膜炎以 外の疾患より分離されたもの,正常口腔内よりの 菌と,かなり差が認められることがわかりました.  そこで,古い文献では,PC−G 3時間間隔の投与 と書かれてあり,これに対して,近年は点滴にお いて,1∼2時間かけて投与しているが,その間 にはかなり投与法に差異が認められるものの,そ の基本にはtime above MICが重視されていたこ とは同じであります.

 我々も感染性心内膜炎由来のS惚μ06006粥

s朋g嬬についてPGGで同様の検討を行ったと

ころ,興味ある事実が明らかとなりました.  感染性心内膜炎由来の,PC−G溶菌作用に抵抗 を示すtolerance株についてみると, PGG 8

MICに2時間ふれたのちのPAE期にPC−Gの1/

8,1/4,1/2MICにふれた場合と, PAE期でない ときに同じsub MICにふれた場合とで殺菌曲線 は殆んど変わりません.つまりpostantibiotic sub MIC effectは認められないのですが,溶菌の認め られた菌株では,1/8,1/4,1/2MICのときの殺 菌曲線に比して,PC−G PAE期に同様のsub MIC にふれた場合に,その殺菌効果が上昇する,いわ ゆるpostantibiotic sub MIC effectカミ認められま す.  つまり,tolerance株ではpostantibiotic sub MIC effectが認められません(図4).  一方toleranceの有無より,投与方法への配慮 が必要になってくるわけで,tolerance株には,後 者のnon tolerance株よりtime above MICへの 配慮が必要になってきます. 一1035一

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9 8 7   6 這 ミ 5 呂 ぎ 4 』 3 2 1 1> ▼一r一一一▼ Drug exposure

●Contro!    OPCG→Free ■PCG I/8 MIC口PCG→PCG 1/8 MIC ▲PCG 1/4 MIC△PCG→PCG】/4 MiC ▼PCG l/2 MIC▽PCG一・PCG 1/2 MIC 一4  −2 0   2   4   6   8 Time(hours) 9 8 7   6 陰 詣 5 Σ

ぎ4

』 3 2 1 1>

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Drug exposure

●Control    OPCG→Free ■PCG 1/8 MIC口PCG→PCG 1/8 MIC ▲PCG 1/4 MIC△PCG→PCG l/4 MiC ▼PCG 1/2 MIC▽PCG→PCG 1/2 MIC 一4  −2 0   2   4   6   8 Time(hours) 図4 ベンジルペニシリン(PC−G)によるPAE期のS. sα%8跳II TW−186に対する  sub−MICレベルのPC−Gの効果  左:tolerance株,右:non tolerance株  それらのことをふまえて,tolerance株とnon tolerance株のviridans streptococcRこよる感染 性心膜炎の例をみてみると,同じMICであって も臨床所見検査成績の改善は,かなりの差がみら れます.  そこで次に併用の意義を考えてみます.  Viridansに対するkill downは, PC−G単独, GM単独投与, GM, PC・Gの投与順序でみてみる と,この場合は殺菌力の増強は,同時投与ないし はPC・G→GMの投与方法であります.このこと はグラム陽性球菌の場合にいえることで,グラム 陰性桿菌の場合とは異なってきます,  しかし,感染性心内膜炎のPC・G, AG併用は, すでに古くから行われていた同時投与でより投菌 活性がつよくなることが知られ,しかも投与方法

としては,toleranceな株ではPC−GとAGとの

併用が好ましいことが考えられます.  もう1つの現状の抗菌薬療法で困るのは,その 中止の時期であります.多くの医師は,薬剤の使 用開始に際しては慎重な選択を行います.しかし 中止の時期,もちろん有効に作用した場合の中止 時期でありますが,これについては科学的な根拠 が比較的少なく,病状,検査所見から,その人々 によって止める時期を決めているのが現状と思い ます.これもempiric therapyとよぼれるものの 一部に入ると思います.  しかし,この点の科学についてはきわめてむず かしい問題があり,比較的判りやすいと思われて いる抗菌薬にしても,原因菌がなくなれば用いる 必要はない一薬をやめるべきだというのは,常識 のようでありながら,これをすべてにあてはまる 法則をもって語ることは非常に困難であります. cost effectiveの考えからいって,多くの病態時に おける投与期間も,どういうところ迄やれぽ目的 を達しえるのか,この科学もわかっているように 思えますが,きおめてむずかしいといわざるをえ ないのです.  3.使用される立場  次は第三の投与薬の使われる患者の立場からで あります.  すべての医療上の問題は生物現象である限り,

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確率の問題であり,得られたデータもあくまでも 確率の問題であり,ある患者群に抗菌薬を用いて 何%効いたといっても,これは医師にとって効き そうだというデータを与えるだけであって,患者 にとっては何の意味もないことです.効く薬を 使ってもらえぽよいというのが患者の立場である のです.  ところが医師の方は,抗菌薬はよく効くのだと いう,つまり確率的に治療効果が高いことから, 薬に振り回されて乱用気味な傾向になるのであり ます.患者にとっては100%効くこと,100%副作 用がないことだけが,つまりyesかnoかだけが 答えであり,確率論は不要なことであることを心 しなくてはなりません.  こう考えてくると,抗菌化学療法も判っている ようでもあるが,第一は勿論であるが,第二,第 三の立場でより課せられた問題が大きいといわざ るをえません.  ベッドサイドの実用に値するためには確かな理 論と効率のよい実践の調和が,21世紀においても 大切な課題であります.          おわりに  私が申し上げたいことは,抗菌化学療法をより 適切に行うためには,薬に振りまわされることな く,見落としていたこと,患者が何を求めており, 何をどう与えることが,その患者に対してbetter な治療かということから,もう一度抗菌化学療法 というものを考え直すべきだと思います.  最:小の投与量で最大の効果をあげることが理想 であることを結論にしたいと思います.        (1993年3月6日,弥生記念講堂)          文  献  1)清水喜八郎:抗菌薬の効果的な使用法.日薬師会   誌44:1063−1071,1992  2)清水喜八郎:抗菌化学療法の考え方.綜合臨   42:219−220, 1993  3)清水喜八郎,長谷川裕美:化学療法の考え方.臨   床と研究69:653−657,1992 一1037一

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