シンポジウム ( 東 女 医 大 誌 第55巻 第2
号
)
頁 130-136 昭和60年2月 癌治療の進歩(
2
)
乳癌治療の現況と問題点
東京女子医科大学附属第二病院外科〔部長:榊原 宣教授〉 教 授 梶 原哲 郎
(受付昭和59年12月4日〉Current Status and Problems in the Treatment of Breast Cancer Tetsuro KAJIW ARA
,
M.D.Department of Surgery, Tokyo Women's Medical College, Daini Hospital (Director: Prof. Noburu SAKAKIBARA) In view of the dramatic increase in the incidence of breast cancer in recent years
,
we analyzed current problems in the treatment. Preopeartive diagnosis involves differentiation between cancer and mastopathy. This being crucially important, it usually requires histological examination of biopsied specimen. Patient who has been biopsywise reported to have mastopathy should be followed since diagnosis based on pathology has not been found infallable. With increasing frequency limited operations (e.g. segmental mastectomy) has been recently per -formed at many institutions,
though there is no unanimously accepted indications. We have restricted the procedure to women who have small lesions, <2 cm, located in the lateral periphery of the breast, and histologically proved as papillotubular adenocarcinama.Postoperative adjuvant therapy such as immunotherapy and hormonal manipulation was found to be useful in improving survival, making it s necessary procedure to measure estrogen receptor protein. 緒 言 乳癌はその局在が体表に近く,比較的早期発見 が可能で治療効果が高いといわれている.しかし, 発見が早くても血行性転移をおこしたり,腫癌に 気づいても無症状のため放置され手遅れとなるも のもあり,その治療成績は必ずしも満足できるも のではない. 近年乳癌の啓蒙,及び自己検診法の普及などに より,外来を訪れる患者は増加の一途をたどって L 、る 当科ではその対応のため乳腺専門外来を設け, 乳癌の早期発見に努めると共に,術後は長期にわ たる補助療法を行ない乳癌の治療成績向上を計っ ている.この間免疫学的動態をはじめとし,多方 面からの研究を行なって来たので,乳癌治療に際 し,重要と思われる点につき診断,手術,術後補 -130 助療法の項目にわけでのベる. 1 . 診 断 乳腺疾患々者の主訴の多くは腫癌の触知であ る.乳腺腫癌の診断には熟練した医師による触診, X線軟線撮影のMammography,超音波など補助 診断が決め手となる場合も多いが,試験切除によ る病理組織診断に頼らざるをえないことも少なく ない.そこで,生検例についてまず検討する. 当科における過去14年間の生検症例は去年まで に1235例に達し,その年次推移をみると年々増加 しており,乳癌の占める割合も多くなっている. 1970年 に は3.1%が, 1975年 で は27.0%,1980年 29.2%,1983年には30.5%が乳癌であった(図1). これら生検症例の病理組織診断は主に線維腺 腫,乳腺症,乳癌に分けられる.各疾患の年齢別 分布をみると,線維腺腫は20歳129例 (42.4%),
1
9
7
0
年1
9
7
5
年1
9
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0
年1
9
8
3
年 図1 生検症例の年次推移と乳腺における悪性疾患の 割合(19
7
0
-
1
9
8
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年1
2
3
5
例〉3
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と な る . 乳 癌 は ,4
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歳 出 例(
1
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.
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歳3
9
例02.6%)
と 高 齢 者 に も か な り の 率 で 発 生 し て い る が , 最 近 で は3
0
歳 台 の 若 年 者 に 多 く み ら れ る 傾 向 が あ る ( 図2)
.
次 に , 各 年 代 の 乳 腺 症 と 乳 癌 の 分 布 の 割 合 を み 129 142.4%) 108 135.5%)3
4
111.2%) 線 維 腺 腫1
0
2
0
3
0
4
0
5
0
印7
08
0
歳 143は8.511ヲ76
9
118.6%) 百μ土' 乳腺症1
0
2
0
3
0
4
0
5
0
6
0
7
0
8
0
歳 2 10.6%) 105 134.0%) 81 126.2%) 癌 腫 11日%)1
0
2
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3
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4
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0
6
0
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0
歳 図2 乳腺疾患、別年齢分布 ると,2
0
歳(
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.
5
%
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と 年 齢 が 増 す に 従 っ て 多 く の 率 を 占 め , 各 年 代 で 乳 腺 症 と 乳 癌 の 鑑 別 が問題となる(図3) . 更 に , 乳 癌 症 例 の う ち , 初 回 生 検 で 乳 癌 の 診 断 が 得 ら れ な か っ た7
例 を 検 討 した(表1). 7例 と も 切 除 生 検 を 行 な っ て お り , 初 回 病 理 組 織 診 断 は 乳 腺 症6例 , 慢 性 乳 腺 炎1例 で あ っ た . 慢 性 乳 腺 炎 症 例 の2
回 目 の 診 断 は 乳 腺3
6
8
3
2
9
症 例 数 3官IJl100%)2
0
3
0
4
0
5
0
印7
0 8
0
歳 図3 生検症例の年齢分布と乳腺症,悪性疾患の割合 表l 同側乳腺複数回生検症例 病初理組回織 病2
理回組目織3
回目I
織 初回生検見か 症例・年齢 病理組 ら癌の発期 ま で 間N
o
.
1
5
8
乳線症 乳頭腺管癌4
ヵ月N
o
.
2
6
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乳腺症 髄様腺管癌5
ヵ月N
o
.
3
4
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手記腺症 乳頭腺管癌7
ヵ月N
o
.
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乳腺症 髄様腺管癌8
ヵ月N
o
.
5
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慢性乳腺炎 乳腺症 髄様腺管癌1
年1
ヵ月N
o
.
6
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5
乳腺症 粘液癌2
年8
ヵ月N
o
.
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手L腺症 髄様腺管癌6
年5
ヵ月 L-
-131-症であり.
3
回目の生検でようやく乳癌との診断 を得ている.またこれらとは別に手術した乳癌の 術後組織検査では乳癌に乳腺症の合併が多くみら れている. 以上の結果より各年代で乳癌と乳腺症との鑑別 診断が必要となるが,その決め手には生検による 組織診断が重要であると思われる.しかし,病理 組織診断で乳腺症との結果を得た症例でも安心す ることなく注意深い経過観察が必要である.1
1
.
手 術 皮切は局所再発防止のため腫蕩縁から4
cm
は なし,美容面,運動面から肢嵩にかからぬことを 原則とし, 術前図のようにデザインして皮切を行 なっている(写真1). 手術々式は拡大,定型,縮少に分けられる.教 室での過去10年間の手術々式を前期・後期に分け てその推移をみると多くは定型手術が行なわれて 写真1 乳癌手術の皮切 1974 定 型 65.0% 1979 82.0% 図4 手Lf高の手術術式の推移 いる(図4).一般には最近機能面,美容上から縮 小手術が広く行なわれているが,その適応につい ては一定のものが無い.われわれはその適応を決 定する目的で以下の検討を行なった. 浸潤癌通常型155例を組織型別に腫虜型とリン パ節転移度との関係を調べた.組織型別では乳頭 腺管癌38例 (24.5%)髄様腺管癌77例 (49.7%) 硬癌40例 (32.3%)である.乳頭腺管癌では腫蕩 径が2
cm
以下即ち.tjではリンパ節転移の無いも のrloが92.9%.lljα7.1%である.髄様腺管癌では llo 66.7%. lljα20.8%. lljβ4.2%. ll2 8.3%で ある.硬癌もrlo82.4%. lljα11.8%. lljβ5.9% であり,髄様腺管癌,硬癌にリンパ節転移が多く, しかもその転移度も進んでいるものが多かった.t
2•t
3症例で、も同様の傾向を示した. 次にリンパ節転移のない症例の再発例を調べ た.リンパ節転移のなかった4
2
例のうち再発例は 表2 組織型別・t-number別リンパ節転移率 組 織 型 目。 n,α n,β n, n, 乳頭腺管癌04例)92.9% 7.1。 。 。
t, 髄様腺管癌(24例)66.7 20.8 4.2 8.3。
硬 癌(17例〕82.4 11.8 5.9。 。
乳頭腺管癌06例〉68.8 18.8 12.5。 。
t,髄様腺管癌(36例〕52.8 5.6 22.2 13.9 5.6 硬 癌(20例)55.0 15.0 15.0 15.0。
乳頭腺管癌(8例)37.5。
12.5 25.0 25.0 t,髄様腺管癌00例)20.0。 。
60.0 20.0 硬 癌(2例〕。 。
50.0。
50.0 乳頭腺管癌(0例〉 t.髄様腺管癌(7例)。
14.3。
28.6 57.1 硬 癌cl例〕。 。 。
100.0。
表3 no症 例 に お け る 再 発 例 再 発 例 脈管侵襲 乳頭腺管癌 0例(0%) 14例 髄様腺管癌 2 03.3) 2 (100) 15例 硬 癌 2 (15.4) 1 (50) 13例 132-4例 (9.5%)である(表3入組織型別にみると 乳頭腺管癌には再発はなく,髄様腺管癌に
2
例, 硬癌に2
例みられた.腫蕩径が小さく, リンパ節 転移がみられない症例の原発巣をさらに検索する と4例中 3例に脈管侵襲があり,これが再発の予 後に関与したと考えた. これらの組織型の検討から縮小手術の適応とし て,再発のみられていない腫蕩径が2cm
以下の Tj症例で,リンパ節転移がない乳頭腺管癌を対象 としている.この適応で縮小手術を行なっている が現在まで再発はない.1
1
1
.
術後補助療法 縮小手術を行なう症例は別として大部分は定型 的手術を施行し術後補助療法が必要になる症例 である.われわれは専門外来で長期の補助療法 を 行 な っ て い る が , そ の 内 容 はMitomycinC
.
Tegafur
の化学療法であり, 1979年からはこれにOK432
,PSK
を併用した免疫化学療法を行なっ % 100s
t
a
g
e
I 10% 0s
t
a
g
e
II 501 一一化療群(円二32) 50 一一化療群 (n~9) 一免化群 (n~3 1) 一一一免化群 (n~10 1) 2 3 4 5年 1 2 3 4 5年 図5s
t
a
g
e
I, IIの乳癌生存率 % 90 80ト 豆 no T・細胞比E
E
nl n,
n3 5.1 300 200 100 ている. 今回はこの免疫化学療法の効果を化学療法群と 比較,検討した.Kaplan Meier
法による生存率で みるとS
t
a
g
e1
で は 両 群 と も 予 後 良 好 で 差 は な かった.S
t
a
g
e
1
1
では有意差はないが免化群の予 後が良好であった(図5)
.
S
t
a
g
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I
I
I
で は 危 険 率 <0
.
0
5
で免化群に有意に延命効果を認めた(図6)
.
S
t
a
g
e
IV
では両群とも予後不良であったが免化 群に5年以上の生存例がみられた.生存率の検討 から免疫化学療法はS
t
a
g
e1
1
.
I
I
I
.
特にS
t
a
g
eI
I
I
でより有効で、ある結果を得た. そこで,免疫化学療法の細胞性免疫能におよぼ す影響を検討した.免疫パラメーターとしてT
細 胞比, PHA幼若化反応を用いた.まず術前の細胞 性免疫能の動態を知る目的で病期進行度別にパラ メーターを比較した. 腫虜径別では, T細胞比, PHA幼若化反応とも 病期が進むに従って両パラメーターも低下した. % 100 50s
t
a
g
e
III 』・ーー・・・・, L一 司 P<O.05 一 一 化 療 群 (n二4) …ー免化群 (n~2自) 』ー % 100 50s
t
a
g
e
N 一一化療群 (n~2) 一一免化群 (n~12)ー
-,
L
_
_
_
_
1 2 3 4 5年 1 2 3 4 5年 図6s
t
a
g
e
III, IV乳癌の生存率PHA
幼若化反応 no nl n,
n3 図7 リンパ節転移度別手L
癌患者術前T
細胞比,PHA
幼 若 化 反 応(
S
I
値〉 133みて〉低下もみられなかった(図
9)
.
S
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a
g
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I
I
I
,IV
の細胞性免疫能が比較的保たれていることは 免疫療法の効果によるものと思われた.これに比 し,再発群では著しい低下がみられた. つづいて郭清されるりンパ節の方についても次 のような検討を行なった.即ち, リンパ節転移の 認められるリンパ節の郭清は異論はないが,転移 のないリンパ節はどのような働きがあるか細胞性 免疫能の面から検討した.まず,肢富リンパ節を 転移のある群とない群に分け,局所リンパ節リン パ球の細胞性免疫能の動向をOKT
司3
比,PHA
幼 若 化 反 応 お よ びN K細胞活性の各パラメーター から検索した.その結果,OKT3
比は, リンパ節 転移の有無による差はみられなかったが,PHA
幼若化反応, N K細胞活性では転移群に低下がみ られた(図10). これにより肢嵩りンパ節に転移が みられると細胞性免疫能は低下することを知っ また, リンパ節転移度からみると,両パラメー ターは転移が進むにつれて低下し,細胞性免疫能 の低下が示唆された(図7). 更に,経時的に細胞性免疫能の変動を検討した. 術前・術後1週 2週 4週およびl年経過時の パラメーターを測定し,また再発例には再発確定 時 に 測 定 し 比 較 検 討 し た.T
細胞比をみると,S
t
a
g
e
に関係なく術後1
週で低下するものの2
週で回復し,以降大きな変動はなかった.また再 発例でも特に低下はなかった(図8).同様に,PHA
幼若化反応をみると,S
t
a
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e
I
I
I
• IV
は術前 からS
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a
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e1
・I
I
に比し低値であり,経時的にみて も術後1
週では両者とも低下したがS
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a
g
e1
・I
I
では2週で回復し 4週で低下するものの以降あ まり変動はなかった.これに対しS
t
a
g
eI
I
I
• IV
で は2
週でも回復傾向はみられなかったが,以降 予想されたほどの(胃癌・大腸癌などの術後からi
1
I
1年 再発-
-
-
-
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-
-
-
→
5.! 300 20日 100 =::::~ -o-stage 1 ,1I ___stagelIl 手 術 % 90 80 手術 l f l L n U 守 , 図9 病期別にみた乳癌患者における PHA幼若化反 応 (SI値〉の経時的変動 4週 術後1週2遇 術前 再発 図8 病期別にみた乳症患者におけるT-細胞比の経 時的変動 1年 4週 術 後1週2遡 術 前 NK細胞活性 PHA幼 若 化 反 応 % 10 5.! 200 OKT-3比 % 100 5 100E
50 n(+) リンパ節転移別乳癌患者のリンパ節リンパ球動態 -134ー n(ー) O n(+) n(ー) O n(+) 図10 n(ー) Oた
I
V
.
内分泌療法 最後に乳癌に特徴的な内分泌療法について検討 した.われわれが再発例に対し両側卵巣別出即ち, 外科的内分泌療法を行なったのは, 26例であり, 効果を認めたのは8例(30.8%)であった(表4). この8例をみると有効例は1)閉経前後の40-50 歳の症例, 2)初回手術から再発までの期間dis -ease free intervalの長いもの, 3)再発部位では 肺,つづいて骨に有効が多かった.さらに,その 有効率を高める目的でステロイドホルモンレセプ ターの測定を行なって来た.測定例は116例で,う ち内分泌療法の適応となるエストロゲンレセプ ター(ER)陽性例は, 69.8%であった(表5入 ホ ルモンレセプター測定後再発をきたし卵劉を行 なったものは6例である(表6入 こ の う ちER陽 性例は3例であり 2例に卵劉が有効であった. 考 察 乳眼疾患の増加は著しいものがあり,悪性疾患 の占める割合も増している1) 乳癌の診断には熟 練した医師の触診の他,各種の補助診断が用いら 表4 乳癌治療における卵摘の効果 症例数 計 26 (100%) 表5 ホノレモンレセプターの陽性率 ER(+) PgR(+) 50.9% ER エストロゲンレセプタ一陽性(~)陰性 PgR プロゲステロンレセプタ 陽性(~)陰性 ER(~) PgR(~) 23.3 表6 ホノレモンレセプターとホノレモン療法の関係 有 効 やや有効 無 効 ER(十)PgR(十〕 2。
1 ER(+)PgR(~)。
。
l ER(ー)PgR(十〕。
。
。
ER(~)PgR(~) 1。
1 135 れる.画像診断2)3)はその機器の改善により診断率 の向上はめざましいが,最後の決め手は生検によ る組織診断になる.特に, 40-50歳で発生年代が 近似する乳癌と手L腺 症4)の鑑別診断には生検が唯 一の頼りである.乳腺症と乳癌の関係については 古くより研究がなされているが未だ一定の見解は 得られていない.乳腺症を母地として発生する癌 があるとする研究5)や乳腺症から癌化した症例6) の報告なども見られる.われわれの生検症例の中 でも,最初乳腺症と診断されたものが7例あり, 初回生検後1年以内に乳癌と診断されたものが4 例 1年以上6年5カ月迄が3例あり,生検場所 の問題とともに,組織学的に乳腺症と診断を受け たものでも長期の経過観察が必要なことが示唆さ れた. 乳癌と診断されると,一般には定型手術畑)が行 なわれる.最近では,各種の縮小手術叩0)が行なわ れ,今後はますます盛んになるものと思われる. しかし,その適応については一定の基準がない. 乳癌研究会の集計によると第20回11)ではT1N。症 例の23.0%,第26回叫ではStage1症例に25.2% に縮小手術が行なわれており,T1N。症例が適応と される. しかし,同じ腫虜径であっても腫癌の局在に よって癌の進展に違いがみられ1ベ 触 診 上 の リ ン パ節転移Nと組織学的リンパ節転移nには大き な差があると言われる14) われわれの検索によっ ても同じ腫蕩径でも組織型によってリンパ節転移 が異り,同じ向症例で、も組織型や脈管侵襲の有無 によって再発率や予後に影響を与えていることを 知った同.従って術前の縮小手術の適応は, T1N。 症例であっても,生検の組織型を参考にし,乳房 の外側にあり,径2cm以下の乳頭腺管癌としてい る. 乳癌手術後には各種の補助療法が行なわれるが, 最近では特に,免疫化学療法と Hormoneホルモ ン療法が問題となっている. 免疫化学療法の有効性については,1)免疫療法 剤の腫蕩への直接効果. 2) 宿主を介しての効果. 3)癌化学療法剤による免疫抑制機能を賦活する. 4)化学療法剤の長期使用に対する癌の二次発生を防止する.5)乳癌のStage1では,局所再発よ り遠隔転移が多いので,これに対する効果などが 挙げられている同17) しかし,その延命効果1町こつ いての報告は少い. われわれの免疫補助化学療法はKaplanmeier 法による延命効果よりみると Stage
I
I
,I
I
I
,特に StageI
I
I
に有効であった.これは乳癌患者は栄養 状態に影響がなく,一般状態が良好で宿主の細胞 性免疫能がStage1では差がなく, Stage 1Vでは その免疫能が極端に低下するため免疫療法の効果 が表れず,細胞性免疫能に影響が表れる Stage11
.
特にStageI
I
I
にその効果が表れたのではないか と考えた.これは,術前のStage別細胞性免疫能 の各パラメーターの測定,術後の経時的各パラ メーターの変動19)からもその効果が認められた. また,局所リンパ節の免疫能に関する研究もこ れからの問題と考える.局所リンパ節の細胞性免 疫能を高め,腫虜のbarrierとして利用する方法 が今後の課題として残る. 最後に,乳癌に有効なホルモン療法について検 討する.乳癌の発生母地である乳腺はホルモンの 支配により増殖,退縮をくり返しているが制21)発 生した癌細胞もこの性質を有している可能性があ り,この性質を知る目的で,原発巣のホルモン・ レセプターの測定が行なわれる.ER
(+)例が,ER
(一〉症例より内分泌療法に有効率が高いこと は多くの報告がある.しかし,ER
とエストロゲン との結合はエストロゲン作用発現の最初の段階に すぎないため, これ以後の女性ホルモン作用の過 程に異常があればER(+)
であってもエストロゲ ンに影響されず,内分泌療法に反応しない.この ため,内分泌療法の適応の指標はER
だけでは十 分といえない.PgRはエストロゲンが標的細胞に 作用することによりその生合成が著明に増加する と考えられている.したがって, PgR (+)であ る乳癌も内分泌療法によく反応すると考えから測 定が行われている.われわれのER
.
PgRの測定結 果叫からも内分泌療法の適応のよき指標となり得 るとの結果であった. 結 語 今後ますます増加すると考えられる乳癌につい て,診断,手術,補助療法についての現況と問題 点について検討を加えた. 文 献 1 ) 湯 浅 秀 : 乳 癌 の 疫 学 . 癌 と 化 学 療 法 5(1) 7-12 (1973) 2)中野 章:乳腺疾患の補助診断法に関する実験的 ならびに臨床的研究.日外会誌 83(2) 196-207 (1982) 3)今本治彦・ほか 早期乳癌の超音波診断.日癌治 会誌 18(8) 1998-2003 (1983) 4)芳賀陽子・ほか:乳腺外来生検症例の検討.日臨 外医会誌 44(2) 122-126 (1983) 5)妹尾亘明:~L腺症と手L癌の関係ーことに病理学的 立場から .手術 23 970-981 (1969) 6)妹尾亘明.手L腺症.臨床外科 32533-560(1977) 7)Haloted,
W.8.: The results of operations for the cure of the breast performed at the ]ohn Hopkins Hospital from ]une 1889 to ]annuary 1894. Ann Surg 20 497-555 (1917)8) Meyer, W.: Cancer of the breast. Surg Gynecol Obstet 24 553-577 (1917)
9) Paty, D.H. and Dayson, W.H.: The prognosis of carcinoma of the breast in relation to the type of operation performed. Br] Canc巴r 27-13 (1948)
10) Auchincloss, H.: Significance of location and number ofaxi1Iary metastases in carcinoma of the breast : A justification for a conservatiative operation. Ann Surg 158 37-46 (1963) 11)第20回乳癌研究会:stage 1乳癌の治療法.日癌治 誌 11(1)152 -183 (1976) 12)第26回乳癌研究会:TNM分類の諸問題.日癌治 誌 13(6)784-824 (1978) 13)北 村 宗 生 :2cm以 下 乳 癌 の 臨 床 病 理 学 的 研 究 ーとくに縮小手術の適応に関連して一. 日外会誌 83(4) 368-377 (1982) 14)金井忠男・乳癌の大小胸筋保存手術による郭清可 能範囲の検討.日外会誌 84(2) 103-111 (1983) 15)芳賀駿介・ほか:組織型別にみた浸潤癌通常型乳 癌の検討. 日臨外会誌 45(9) 706-710 (1984) 16)寺沢敏夫・ほか:乳癌に対する複合療法.癌と化 学療法 5(1)77-85 (1978) 17)棲井武雄・ほか:乳癌に対するadjuvantとして のBCG免 疫 療 法 . 痛 と 化 学 療 法 11(9) 1838 -1842 (1984) 18)梶原哲郎・ほか:乳癌治療における補助免疫化学 療 法 の 効 果 に つ い て . 日 臨 外 会 誌 44(7) 790-793 (1983) 19)芳賀陽子.乳癌患者における細胞性免疫能に関す る研究. 日臨外会誌 45(3) 239-252 (1984) 20)久保完治:内分泌療法の適応と実際.外科診療 24(5) 597 -603 (1982) 21)野村薙夫.乳癌とホノレモンレセプター.日外会誌 82(9) 1133-1135 (1981) 22)芳賀駿介・ほか・原発乳癌組織におけるホノレモン レセプター.外科 45(12) 1451-1455 (1983)