韓国における介護予防・生活支援システムの構築に
関する研究―日本の介護予防施策を参照して―
著者
趙 美貞
学位授与大学
東洋大学
取得学位
博士
学位の分野
社会福祉学
報告番号
32663甲第383号
学位授与年月日
2015-03-25
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00007158/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja2014 年度
東洋大学審査学位論文
韓国における介護予防・生活支援システムの構築に関する研究
―日本の介護予防施策を参照して―
福祉社会デザイン研究科社会福祉学専攻博士後期課程
3 年 4710110004 趙 美貞
韓 国 に お け る 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 シ ス テ ム の 構 築 に 関 す る 研 究
< 目 次 >
序 章 ··· 1 第 1節 研 究 の 背 景 と 目 的 ··· 1 第 2節 研 究 の 枠 組 み ··· 5 第 3節 研 究 方 法 ··· ···· 7 第 4 節 論 文 の 構 成 ··· · 9 第 1 章 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 に 関 す る 国 際 的 動 向 ··· ··· 10 第 1 節 日 本 に お け る 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 展 開 ··· 10 1. 介 護 保 険 制 度 と 介 護 予 防 事 業 の 導 入 背 景 ··· ··· 10 2. 介 護 予 防 事 業 の 現 況 ··· ··· 13 1) 介 護 予 防 事 業 の 対 象 ··· ··· 14 2) 介 護 予 防 事 業 の 支 援 内 容 ··· 15 3) 介 護 予 防 事 業 の 提 供 シ ス テ ム ··· ··· 17 4) 介 護 予 防 事 業 の 財 源 ··· 19 第 2 節 イ ギ リ ス に お け る 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 展 開 ··· 21 1. 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 導 入 背 景 ··· 21 2. 高 齢 者 パ ー ト ナ ー ジ ッ プ プ ロ ジ ェ ク ト (POPP)の 現 況 と 効 果 · ··· 22 第 3 節 韓 国 へ の 示 唆 点 ··· 23 第 2 章 韓 国 の 高 齢 者 福 祉 政 策 と 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 展 開 ··· ·· 26 第 1 節 社 会 変 化 と 高 齢 者 福 祉 政 策 の 変 遷 ··· 26 1. 社 会 変 化 と 高 齢 人 口 の 増 加 ··· ··· 26 2. 高 齢 者 福 祉 政 策 の 変 遷 ··· ··· 281) 高 齢 者 福 祉 の 確 立 期 (1980 年 代 ) ··· 29 2) 高 齢 者 福 祉 の 発 展 期 (1990 年 代 ) ··· 31 3) 高 齢 者 福 祉 の 成 熟 期 (2000 年 代 ) ··· 32 4) 高 齢 者 福 祉 の 転 換 期 (2010 年 か ら 現 在 ) ··· 37 第 2 節 韓 国 に お け る 高 齢 者 を め ぐ る 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 現 況 と 課 題 44 1. 制 度 的 側 面 : 地 域 保 健 福 祉 サ ー ビ ス を 中 心 に ··· 47 1) 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 対 象 ··· ··· 47 2) 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 内 容 ··· ··· 48 3) 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 提 供 シ ス テ ム ··· 49 2. 機 能 的 側 面 : 予 防 機 能 を 含 む 福 祉 サ ー ビ ス を 中 心 に ··· ··· 51 1) 参 加 と 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 ··· ··· 51 2) 活 動 と 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 ··· ··· 59 3) 心 身 機 能 と 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 ··· ··· 71 第 3 節 小 括 ··· ··· 78 第 3 章 高 齢 者 か ら み た 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 利 用 と ニ ー ズ ··· 81 第 1 節 量 的 調 査 の 概 要 ··· ·· 81 第 2 節 分 析 方 法 ··· ··· ·· 84 1. 調 査 対 象 と 方 法 ··· ··· 84 2. 調 査 項 目 ··· ··· · 84 3. 倫 理 的 配 慮 ··· ··· ···· 85 4. 調 査 分 析 ··· ··· ·· 85 第 3 節 分 析 結 果 1 : 高 齢 者 の 生 活 機 能 の 差 異 と そ の 特 徴 ··· ···· 86 1. 回 答 者 の 属 性 ··· 86 2. 回 答 者 に お け る 生 活 機 能 低 下 の 程 度 ··· 89
1) 生 活 機 能 低 下 か ら み る 心 身 機 能 ··· ··· ·· 89 2) 生 活 機 能 低 下 か ら み る 活 動 状 況 ··· ··· ·· 90 3) 生 活 機 能 低 下 か ら み る 社 会 参 加 の 状 況 ··· · 90 第 4 節 分 析 結 果 2 : 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 強 化 の 必 要 性 ··· ··· ·· 92 1. 回 答 者 に お け る 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 対 象 程 度 ··· ··· 92 2. 地 域 保 健 福 祉 サ ー ビ ス の 利 用 現 況 ··· 93 1) 提 供 機 関 へ の ア ク セ ス ··· ··· 93 2) 地 域 保 健 福 祉 サ ー ビ ス 利 用 の 現 況 ··· 95 3) 地 域 保 健 福 祉 サ ー ビ ス 利 用 の 効 果 性 ··· 97 3. 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 と し て の 地 域 保 健 福 祉 サ ー ビ ス の 必 要 性 ··· 98 1) 対 照 群 に よ る 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 強 化 の 必 要 性 ··· ·· 98 2) 地 域 保 健 福 祉 サ ー ビ ス の 利 用 に よ る 生 活 変 化 の 程 度 ···· ··· 100 第 5 節 小 括 ··· ··· ···· 102 第 4 章 地 域 保 健 福 祉 サ ー ビ ス の 実 施 体 制 に 関 す る 質 的 分 析 ··· ·· 107 第 1 節 質 的 調 査 の 概 要 ··· 107 1. 質 的 調 査 の 背 景 ··· 107 2. 調 査 の 目 的 ··· ··· 108 第 2 節 分 析 方 法 ··· ··· 110 1. 質 的 分 析 ··· ··· 110 2. 調 査 対 象 ··· ··· 110 3. 資 料 収 集 と 方 法 ··· 111 4. 倫 理 的 配 慮 ··· ··· 111 第 3 節 分 析 結 果 ··· 112 1. 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 範 囲 ··· 114
2. サ ー ビ ス へ の 接 近 の 困 難 性 ··· 116 3. サ ー ビ ス 支 援 の 調 整 ・ 協 力 が 不 十 分 ··· 117 4. 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 専 門 性 確 保 が 必 要 ··· 120 5. 地 域 資 源 活 用 の 可 能 性 ··· 122 第 4 節 小 括 ··· ··· 125 第 5 章 全 体 の ま と め と 考 察 ··· 129 第 1 節 各 章 の 要 約 ··· 129 第 2 節 韓 国 の 地 域 保 健 福 祉 サ ー ビ ス に つ い て の 考 察 ··· 132 1. 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 範 囲 ··· 132 2. 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 内 容 ··· 134 3. 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 提 供 体 制 ··· 135 4. 民 間 資 源 の 活 用 ··· ··· 135 第 3 節 韓 国 に お け る 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 シ ス テ ム の 構 築 の た め の 提 言 137 1. 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 に お け る 対 象 の 拡 大 と 支 援 強 化 ··· ··· 137 2. 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 実 施 体 制 に 関 す る 再 検 討 ··· ··· 139 3. 地 域 社 会 資 源 活 用 の 可 能 性 ··· ··· 142 終 章 研 究 の 意 義 と 今 後 の 課 題 ··· ··· 145 < 文 献 > ··· ··· 147 < 付 録 > ア ン ケ ー ト 質 問 紙 ··· 158
表 目 次
表 1 介 護 保 険 制 度 改 正 の 展 開 ··· 11 表 2 日 本 の 介 護 予 防 に お け る 対 象 者 数 の 推 移 ··· 14 表 3 予 防 給 付 と 地 域 支 援 事 業 費 の 財 源 構 成 ··· 19 表 4 主 要 国 に お け る 高 齢 化 率 の 推 移 ··· 26 表 5 健 康 保 険 に お け る 高 齢 者 医 療 費 の 現 況 ··· 27 表 6 韓 国 に お け る 高 齢 者 福 祉 政 策 の 変 遷 過 程 ··· 28 表 7 韓 国 に お け る 国 民 年 金 制 度 の 変 遷 過 程 ··· 30 表 8 韓 国 に お け る 老 人 長 期 療 養 保 険 制 度 の 導 入 過 程 ··· 37 表 9 韓 国 の 介 護 認 定 基 準 : 認 知 症 特 別 等 級 新 設 及 び 認 定 体 制 の 改 編 ···· 42 表 10 韓 国 の 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 に お け る 対 象 者 の 数 の 推 移 ··· 47 表 11 地 域 保 健 福 祉 サ ー ビ ス に お け る 運 営 主 体 別 ・ 対 象 別 の 連 携 事 業 ··· 48 表 12 地 域 保 健 福 祉 サ ー ビ ス の 利 用 現 状 ··· ·· 50 表 13 65歳 以 上 の 高 齢 者 に お け る 経 済 活 動 参 加 率 と 効 用 率 の 推 移 ·· ··· 51 表 14 韓 国 に お け る 高 齢 者 就 労 政 策 の 現 況 ··· 52 表 15 高 齢 者 ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 の 類 型 と 特 徴 ··· ··· 55 表 16 高 齢 者 余 暇 福 祉 施 設 の 推 移 ··· ··· ··· 57 表 17 高 齢 者 余 暇 活 動 の 類 型 と 特 徴 ··· ··· 58 表 18 老 人 ド ル ボ ミ 基 本 事 業 に お け る 対 象 者 の 数 と 比 率 ··· ··· 59 表 19 年 度 別 に お け る 財 政 と 利 用 現 況 の 推 移 ··· 63 表 20 老 人 ド ル ボ ミ 総 合 サ ー ビ ス に お け る 対 象 者 の 選 定 基 準 ··· 64 表 21 老 人 ド ル ボ ミ 総 合 サ ー ビ ス の 支 援 内 容 ··· 65 表 22 年 度 別 に お け る 財 政 と 利 用 現 況 の 推 移 ··· 67 表 23 対 象 類 型 別 に お け る 支 援 額 及 び 本 人 負 担 水 準 ··· ··· 68 表 24 在 宅 高 齢 者 支 援 事 業 の 変 遷 過 程 ··· 69表 25 在 宅 高 齢 者 支 援 事 業 の 主 要 内 容 ··· 70 表 26 要 介 護 認 定 者 に お け る 年 度 別 の 推 移 ··· 72 表 27 介 護 施 設 設 置 の 現 況 ··· 75 表 28 韓 国 の 療 養 保 険 に お け る 財 政 収 支 の 変 化 推 移 ··· 76 表 29 調 査 項 目 の 内 容 ··· ··· ··· 84 表 30 回 答 者 の 個 人 特 徴 ··· ···· 86 表 31 回 答 者 の 健 康 状 態 と 管 理 状 況 ··· ··· ···· 87 表 32 提 供 機 関 の ア ク セ ス ··· ··· 89 表 33 性 別 と 年 齢 に よ る 生 活 機 能 低 下 の 程 度 ··· ··· 91 表 34 基 本 チ ェ ッ ク リ ス ト に よ る 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 対 象 ··· ···· 92 表 35 年 齢 と 機 能 程 度 に よ る 利 用 機 関 へ の ア ク セ ス ··· ··· ··· 93 表 36 対 照 群 に よ る 利 用 ア ク セ ス ··· ··· ··· ··· 94 表 37 対 照 群 に よ る 月 平 均 利 用 程 度 ··· ··· ··· ···· 96 表 38 対 照 群 に よ る 保 健 福 祉 サ ー ビ ス 効 果 の 差 異 ··· ··· 97 表 39 対 照 群 に よ る 地 域 保 健 福 祉 サ ー ビ ス 必 要 の 差 異 ··· ··· ·· 99 表 40 要 因 間 の 因 果 関 係 ··· ··· 100 表 41 保 健 福 祉 サ ー ビ ス の 利 用 に よ る 生 活 変 化 程 度 ··· ··· ···· 101 表 42 回 答 者 の 基 本 情 報 ··· ··· ··· 110 表 43 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 に 関 わ る 構 成 要 素 ··· · 113 表 44 【 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 範 囲 】 ··· · 114 表 45 【 サ ー ビ ス へ の 接 近 の 困 難 性 】 ··· · 116 表 46 【 サ ー ビ ス 支 援 の 調 整 ・ 協 力 が 不 十 分 】 ··· ··· ···· 118 表 47 【 専 門 性 の 確 保 が 必 要 】 ··· ··· ··· 121 表 48 【 地 域 資 源 活 用 の 可 能 性 】 ···· ··· ···· 123
図 目 次
図 1 分 析 の 枠 組 み ··· 8 図 2 日 本 に お け る 介 護 予 防 事 業 の 支 援 内 容 ··· 16 図 3 日 本 の 介 護 保 険 制 度 と 介 護 予 防 事 業 の 流 れ ··· 18 図 4 POPPモ デ ル の 仕 組 み ··· 21 図 5 ヒ マ ン 福 祉 支 援 団 の 仕 組 み ··· 39 図 6 韓 国 の 高 齢 者 福 祉 施 策 に お け る 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 構 造 ··· 46 図 7 現 行 の 韓 国 に お け る 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 仕 組 み ···· ··· 49 図 8 老 人 ド ル ボ ミ 基 本 サ ー ビ ス の 仕 組 み ··· 61 図 9 老 人 ド ル ボ ミ 総 合 サ ー ビ ス の 仕 組 み ··· 66 図 10 韓 国 の 療 養 保 険 の 仕 組 み ··· ··· 75 図 11 日 韓 に お け る 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 仕 組 み の 比 較 ··· ··· 79 図 12 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 に 関 わ る 構 成 要 因 ··· 125 図 13 韓 国 に お け る 介 護 予 防 ・ 生 活 支 援 の 新 た な モ デ ル 提 案 ··· 137 市 ・ 道1
序章 研究の概要
第1節 研究の背景と目的
1. 研究の背景 日本と韓国は、産業化による急速な経済の発展や家族形態の変化と都市化、また、 少子高齢化などに伴い、様々な社会変化を経験してきた。 日本は超高齢社会を迎え、高齢者に対する介護が大きな問題になっており、介護財 源や支援人材の確保などの問題が生じている。韓国でも介護対策が大きな課題となり、 介護保険の導入など高齢者福祉の制度化が急速に進められてきた。しかし、このよう な共通点とともに、日本と韓国の介護制度や福祉制度には異なる点も見られる。例え ば、介護保険の保険者は日本では地方自治体であるが、韓国では国の機関である国民 健康保険公団(以下、保険公団とする)であり、これに伴って、要支援・要介護認定 は、日本では地方自治体が実施するのに対して、韓国ではほぼ自治体レベルに設置さ れている保険公団が実施している。また保険財源の構成やサービス提供方式も日本と 韓国では異なっている。 このように、詳細にみると、日本と韓国の介護保険制度には詳細にはかなり異なる 点がみられるが、これまであまり取り上げられてこなかった論点として介護予防につ いての差異がある。 そこで次に、日本の介護保険制度における介護予防の考え方について、まとめてお く。 日本はこれまでの約20年間、介護保険制度の設計にあたって、要介護者対策だけで はなく、介護予防も同時に重要であるとされ、そのための取組みが行われてきた。日 本における介護予防とは、要介護状態の軽減や悪化を防ぐことだけでなく、高齢者が 地域で再び自立して生活する事ができることをはっきりした目的としており、要支援 者に対する介護予防サービスを効果的に提供する予防給付と合わせて、要支援・要介 護状態等となる恐れのある高齢者を早期に把握し、水際で食い止める介護予防事業か らなるとされている(厚生労働省 2013b)。 日本の社会福祉分野における介護予防の概念は、介護保険制度が論議されはじめた 当時からその必要性が認識されており、2000年の介護保険実施に当たっては「要支援」2 という概念によって具体化されることになったが、それが本格的に実施されたのは 2006年度の介護保険制度の改革によってであり、高齢者介護中心型から介護予防重視 型に転換して以来である。この改正では、在宅高齢者が虚弱な高齢者と元気な高齢者 に分類され、それぞれに相応する介護予防サービスを提供することとし、介護を必要 とせず健康的な自立生活をより長く継続させるために地域支援事業を実施することに した。そして、介護予防を実施する機関として地域包括支援センターが中心的な役割 を果たすことになった。 吉田(2011)によると、2012年改正介護保険法によって要支援者に対する支援シス テムは拡大して体系化され、介護予防を含みつつ、軽度から中重度の要介護状態にな っても、地域で高齢者を支える地域予防システムの重要性が強調された。 また、岡崎(2012)によると、介護保険の成立と制度の浸透に伴って介護サービス を利用する高齢者が増え、特に、軽度の要介護者を増大させるとともに、一方で重度 の介護者も介護サービス利用度を高めることになり、全国の自治体の社会保障費の支 出を大きく押し上げることになった。この意味からも、介護予防は介護需要の抑制と いう重要な役割が期待されることになったと。 しかし、介護予防支援事業は介護保険予算の3%以内で行われているため、要支援者 への支援をカバーすることは困難であること、また、自治体の二次予防に関する具体 的な事業がほとんどないため、地域内のインフォーマルサービスとの調整の重要性が より高くなったとされる。 なお、日本政府は、社会保障・税一体改革を通して消費税を引き上げ、その増税分 を主たる財源とする社会保障の安定財源の確保をめざしている。また、社会保障・税 一体改革及び社会保障制度改革国民会議の報告書(2013年)では、既存の介護予防給 付を地域支援事業へと転換・拡大し、地域を基盤とした「自助・互助・共助・公助」 による社会保障の考え方を定着させ、団塊世代が後期高齢者になる2025年を目標とす る地域包括ケアシステムの完成を目指すとしている。 このように、最近の日本の介護政策をみると、介護予防とともに地域を基盤とする 生活支援が重要な課題として浮かび上がっている。すなわち、超高齢社会を迎えて、 介護予防とともに高齢者の生活全体を支援する取り組みが求められているのである。 これに対して韓国では、2000年代に入ってから多様な福祉制度が導入され、公的政 策の量的拡大と範囲の拡張により、財政及びデリバリーシステムの問題が継続的に注
3 目されるようになった。しかし、福祉の谷間にある対象者の増加や福祉体感1はなお低 い状況にあるとされる(柳 2012a)。 また、高齢人口の急速な増加と家族形態の変化により、以前は家族の責任であった 高齢者の扶養が、社会的責任として認識されるようになった。しかし、これに対する 制度の対案を準備することや、そのための公的な負担はますます重くなっている。 このような状況を踏まえ、韓国政府は高齢者の介護の社会化を目的として、2007年 に老人ドルボミサービスを制度化し、2008年からは日本の介護保険制度をベースにし た「老人長期療養保険制度(介護保険制度、以下「療養保険」とする)」を開始した。 これによって、伝統的には私的領域にあった高齢者扶養を公的な政策の対象とし、高 齢者の介護を公的領域に移動させたことは大きい意味をもっている。 このうちドルボミサービスは、後に紹介するように、一人ぐらし高齢者への見守り 支援と一般の虚弱高齢者に対する生活支援サービスから成り立っており、日本の介護 予防のように、健康な高齢者と要介護高齢者の間にいる高齢者への支援サービスであ る。したがって、ドルボミサービスを含む地域保健福祉サービスがどのように充実さ れるかは、虚弱になる可能性のある高齢者が心身の健康と生活を維持し、将来の療養 保険に対する負担を減らせるかにとって極めて重要な意義を持っている。 ところで、韓国で療養保険が導入されるにあたっての給付対象者は高齢者の約3%と 予測されていたが、制度導入後1年を経た2009年には高齢者人口の5.2%、2010年には 6.5%まで(韓国保健福祉部 2011)上昇した。療養保険における要介護・要支援認定 は、保険公団が行っており、要介護者に対する介護サービスの管理も保険公団が担当 している。これに対して、要支援者の管理については、保険公団から要介護認定を受 けた要支援者のリストが各市郡区2に通報され、市郡区がサービスの調整及び管理を担 当することになっている。 このように、韓国では療養保険が導入され、総合的な連携指針が整備されているが、 保険公団と市郡区の役割、様々な福祉機関による保健福祉サービスの調整・管理等を 統括する役割を持つ機関が存在せず、またそのための専門人材も配置されていない。 このため、要介護状態に陥ることを予防するための生活実態把握やニーズ把握などは 不十分である。つまり、韓国の高齢者支援システムにおける療養保険サービスと地域 保健福祉サービスをつなぐ介護予防・生活支援の仕組みはまだ政策的には作られてい ないといってよい。 1 住民に身近なものと実感されるという韓国語の表現である。 2 日本の区市町村にあたる。
4 韓国では、少子高齢化社会が進む中、基本的な福祉サービスは公的福祉サービスに よって対応するが、制度の谷間にある高齢者(一時的要支援及び虚弱な高齢者等)の介 護予防・生活支援や孤立への対応(見守り、声かけなど)等、地域における様々なニー ズへの対応には限界がある。また、介護予防・生活支援に当たっては、地域中心の支 援が最も重要であり、要支援及び虚弱な高齢者のための多様な予防サービス、継続的 な管理、連続性を考慮した支援システムの定着が求められる。 以上のことをふまえると、韓国では地域保健福祉サービスと療養保険サービスの総 合的な実施によって、介護予防と生活支援の双方を同時に推進しなければならない状 況にあるといえる。 この研究では、日本などにおける介護予防事業の進展と総合事業への転換を参照し ながら、将来韓国ではどのような介護予防・生活支援の仕組みが必要になるかを明ら かにすることを課題とする。このことは、日本よりも急速な高齢化を迎えようとして いる韓国にとって極めて重要であるといえる。 2. 研究の目的 本研究では、韓国の地域保健福祉サービスに関する要支援者及び虚弱な高齢者に対 する医療・保健・福祉等を含む支援システムの課題を検討し、超高齢社会を迎える韓 国における今後の介護予防・生活支援システムの新たなモデルの提案と政策課題を明 らかにすることを目的とする。
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第2節 研究の枠組み
1. 課題の設定 本研究では、韓国における介護予防・生活支援が、一般的に用いられている社会福 祉政策の分析枠組みからみて、どのような特徴を持っているか、また、介護予防・生 活支援に必要な課題は何かを分析するとともに、今後の方向性を具体的に提示するこ とにしたい。そのため、高齢者福祉政策における高齢者への介護予防・生活支援の枠 組みを先行研究によって把握するとともに、地域保健福祉サービスの施策を文献及び 資料を用いて分析する。 2. 分析枠組み 社会福祉研究における政策や制度の分析は重要な研究領域の一つであり、そのため の様々な分析枠組みがある。日本の社会福祉政策の分析枠組みについては、三浦文夫、 坂田周一、武川正吾、平岡公一などがさまざまな角度から論じてきた。 三浦は、社会福祉経営、社会福祉のニードとサービスの充足、福祉資源の調達と配 分やサービス供給の公私分担などについて論じ(三浦 1987)、武川は、必要と資源、 資源の供給主体、供給組織などについての分析を行い(大山・武川 1991;武川 2007; 武川 2009)、平岡は、ニード充足の形態やサービスの対象の範囲を決める際の普遍主 義と選別主義、提供体制などについての議論を行っている(平岡ら 2011)。また、限 定された資源の範囲の中で、社会福祉サービスにおける利用者のニーズを最も正確に 反映した効果的な提供をどのように行うかについては多様な原則や評価基準が必要で ある。坂田(2014)によると、福祉供給体制は、人々の福祉を高める手段となる財貨・ サービスを生産ないし調達し、直接的または間接的な方法を用いて配分する機構であ り、「だれが」「何を」「誰に対して配分するか」と言う三つの要素と、それらを結ぶ仕 組みから成り立っていると述べている。 韓国では、社会福祉政策の分析のために、「配分、給付、伝達、財源」の項目ととも に、「平等性、公平性、適切性」という三つの価値を基準として用いる(Gilbert N. & Terrell P. 2010)。こうした枠組みは、上述した日本での議論と重なる。「平等性、公 平性、適切性」という価値基準が、日本でも同様に社会福祉政策のベースとされてい る点は、説明するまでもないだろう。また、「配分、給付、伝達、財源」についても、 上述の日本の論議においても、そのままの形で、あるいは内容的には重なる形で、社 会福祉政策を分析するための論点として取り上げられていることが見て取れる。6 そこで、本論では、日本の分析枠組みと韓国で一般的に用いられている分析枠組み を踏まえて、これらの論議からあらためて抽出した「対象」「給付」「提供システム」 「財源」という分析枠組みを用いて論述する。その理由は、以下の通りである。 日本でも韓国でも、これまでの介護予防の対象は、介護保険における要支援者や要 介護者に限られていた。しかし、これらの支援は介護が始まってからの事後的な対応 になる。継続的な人口の高齢化や要介護認定者の増加に対しては、事後対応ではなく、 事前に地域において生活機能の低下を防ぎ維持させることが重要である。このために は、要介護・要支援状態になる前の段階で、介護予防・生活支援を必要とする高齢者 を政策の対象として把握することが重要になる。 次に、給付の形態についてみると、一般に福祉分野における現物給付は、政策の目 標効率性を高めることができるとされている。韓国のさまざまな地域保健福祉サービ スの中で、介護予防・生活支援を強化・拡大するためには、その支援と関わるサービ スが「どの程度あるのか」「何が必要なのか」を明確にする必要がある。また、地域保 健福祉サービスの介護予防・生活支援としての水準についても明確にする必要がある。 さらに、サービスの適切な提供については、そのための社会的基盤や実施体制の整 備とともに、機関間の連携、専門マンパワーの配置などが課題になる。つまり、介護 予防・生活支援のための機関が必要なマンパワーを十分に確保できるかどうかも、制 度施行にとって基本的な要素である。また、こうしたサービスの実施体制については、 公的、民間、又は、公的及び民間の混合体系が関わることになるが、その際には、統 合性、包括性、接近性、専門性、責任性の原則に基づき対象者に適切な予防支援が提 供されなければならない。特に、専門性は、サービスの質と直接的な関連があり、効 果的なサービスを提供するためには、対象者の把握、相談、ケアマネジメント、モニ タリングなどの介護予防・生活支援の専門性を強化する必要がある。さらに、地域内 のサービスを調整し、支援の重複や隙間などの非効率性を防ぐことが求められる。 高齢者の介護予防に対する公的支援としての地域保健福祉サービスが持つ重要性は 言うまでもないが、今までの高齢者への保健福祉サービスを普遍化し、高齢者のニー ズに合わせた支援体制を確立するには、地域保健福祉サービスの基本的な政策枠組み を構築しなおす必要がある。そのため、本論ではこれまで述べたように「対象」「給付」 「提供システム」「財源」の四つの分析枠組みを採用し、日本の経験を参照して、韓国 の介護予防・生活支援に関する政策や制度を分析することにする。 以上のことを踏まえ、韓国における「地域保健福祉サービス」を、社会参加、生活 支援、介護予防からなる介護予防・生活支援の視点から分析する。
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第2節 研究方法
1.研究の対象 本研究では、地域保健福祉サービスに具体的にかかわる要支援者及び虚弱な高齢者 に対する医療・保健・福祉等を含む支援体制の実践や課題を明らかになることを目的 としているため、主な研究対象に「地域の高齢者」、実施体制としては「保険公団」「自 治体」「提供機関」を当て論議を進める。 なお、高齢者本人の調査に当たっては、実際に介護予防・生活支援を必要とする虚 弱な高齢者がどの程度いるのかを把握するために、要支援者を除外した一般高齢者を 対象とする。 2.研究の方法 本研究は、「文献調査」「高齢者を対象としたアンケート調査」「専門家へのインタビ ュー調査」の三つの研究方法を用いている。具体的には、次の通りである。 第一に、韓国の介護予防・生活支援に関する地域保健福祉サービスの分析のために、 日本の「介護予防」の概念を取り上げた先行研究や関連資料を考察し、本研究で用い る介護予防・生活支援の研究枠組みを明らかにする。 第二に、高齢者からみた介護予防・生活支援に関するニーズを分析するために、高 齢者本人の地域保健福祉サービスの利用状況やそれによる生活変化の程度、支援の必 要程度について量的調査を通して明らかにする。 第三に、文献研究や高齢者本人に対する実態調査を踏まえ、地域保健福祉サービス にかかわる「自治体」「保険公団」「提供機関」の職員へのインタビュー調査結果を分 析し、韓国における介護予防・生活支援の体制拡充と今後の政策課題を明らかにする。 本研究における研究方法と研究の枠組みを図式化すると<図1>の通りである。8
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第4節 論文の構成
本論文は、総6章によって構成されており、その内容は次の通りである。 第1章では、韓国の介護予防・生活支援体制の分析のために、日本とイギリスにお ける介護予防・生活支援の動向や支援実態を取り上げる 第2章では、まず、韓国の社会変化や高齢人口増加の推移について紹介する。また、 介護予防だけでなく生活支援を議論するためには、所得保障、医療保障、介護、就労 支援、地域生活など高齢者をめぐる様々な要素が必要である。今まで韓国における高 齢者福祉政策の変遷について本論文と関係する政策を整理し、考察を行う。さらに、1 章の分析結果に基づき取り上げた研究をレビューし、介護予防・生活支援の実施体制 の位置づけ及び地域保健福祉サービスの問題について調べ、本研究における研究課題 及び分析視点などを理論的に考察する。 第3章では、2章の先行研究の結果を踏まえ、一般高齢者に限定し、韓国A市A区で 行った量的調査の結果から、地域保健福祉サービスの利用実態について述べる。一般 高齢者における生活機能の差異とその特徴、地域保健福祉サービスの利用とそのニー ズ(背景要因)、それによる生活変化(従属要因)を研究課題とし、これらについて探 索的に考察する。 第4章では、要介護状態の予防のための地域保健福祉サービスが目指していること を「介護予防・生活支援」と定義し、その支援体制の拡充と今後の政策課題を明らか にするために、実施主体である「保険公団」「自治体」とととも、実際に地域保健福祉 サービスの提供に関わっている「提供機関」を含めておこなったインタビュー調査の 結果を考察する。 第5章では、第3章の量的調査と第4章の質的データの分析から明らかになったこ とと、現行の実施体制からみられた課題を考察し、今後の韓国における介護予防・生 活支援システムの構築のための提言を述べる。 終章では、これらの研究内容と、本研究の意義及びの残された研究課題について述 べる10
第1章 介護予防・生活支援に関する国際的動向
本章では、第1節において日本における介護保険制度と介護予防事業導入の背景、 現況について分析したうえで、第2節では、イギリスにおける介護予防・生活支援の 動向について検討を行なう。第1節 日本における介護予防・生活支援の展開
1. 介護保険制度と介護予防事業の導入背景 日本の総務省統計局(2013)によると、日本の総人口は、2013年12月末現在、1億2,780 万名でそのうち65歳以上の高齢者人口の高齢化率は23.3%(2,975万名)となっている。 また、団塊世代が後期高齢者になる2025年の高齢化率は30.3%で、人口3名当たり1名 が高齢者になると予測されている。 社会経済的変化や核家族化の進行により「私的扶養」から「公的扶養」の必要性が 示され、1990年代に入ってから高齢化社会への本格的な対応が必要になった。また、 2000年6月には社会福祉事業法の改正により社会福祉法が成立し、多くの福祉サービス が行政による措置制度から利用者の選択による契約制度へと移行することになった。 このような日本の社会福祉構造改革によって、今まで日本の福祉のあり方は大きく変 化した。 日本は、介護保険制度が制定されてから14年目を迎えており、高齢福祉の環境も大 きく変化した。1963年には、老人福祉法の制定による特別養護老人ホームと軽費老人 ホームが創設され、1982年には老人保健法が新設されることにより、1986年には高齢 の慢性疾患者に対する療養サービスの提供のために保健施設制度が導入された。また、 1989年のゴールドプランでは、高齢者保健福祉推進10ヵ年戦略(ゴールドプラン)が 発表された。また、1994年には新ゴールドプランが策定され、市町村のエリアにおけ る在宅福祉中心への政策に転換し、予防に関する対処として小規模デイケアセンター と要支援高齢者の自立支援のための食事配達を追加した。そして、中重度高齢者の対 策としては地域のリハビリ事業と民間サービスを用いた供給の多様化を推進し、介護 保険制度の設立のための福祉サービスの基盤とした。 1996年に、日本政府は介護保険制度案を高齢者保健福祉審議会等の審議を経て介護 保険法案を1997年度に国会に提出し、2年間の準備期間を経て2000年4月から実施され た。 介護保険制度設立により、①社会全体で介護を支える「介護の社会化」、②利用者本11 人が介護サービスを選択決定する構造である利用契約制度、③介護保険福祉サービス の手続き、費用負担方式の統括、④サービス供給主体の多様化と競争によるサービス 質の向上、⑤ケアマネジメントの導入、などが行われた(岡崎 2012)。 表1 介護保険制度改正の展開 区分 制度改正による変化内容 第1期 2000~2002 -措置制度→契約制度 -個室化、ユニット化 -入所優先順位ガイドラインの変更 第2期 2003~2005 -第1号保険料の見直し、第1回介護報酬改定 -個人情報保護法の制定 -介護予防地域支え合い事業(国補助事業) 第3期 2006~2008 -介護重視型→予防重視型への転換 ・介護予防サービスの開始 ・地域密着型サービスの開始 -地域包括支援センター創設 -地域支援事業の創設 第4期 2009~2011 -事務管理体系の整備 -介護報酬引上げ 第5期 2012~2014 -訪問・通所介護の報酬体系見直し(機能改善) -地域包括ケアシステム構築→24時間訪問介護・看護/複合型 -自立支援ケアマネジメント -地域支援事業の再編成(2014年) 第6期 2015~2016 -既存の介護予防給付→地域支援事業への転換・拡大 (新しい総合事業) -地域包括ケアシステム(2025年完成、団塊・後期高齢者へ) :小規模→地域密着方へ、地域ケア会議の法制化 ※資料:厚生労働省(2013)ホームページの内容を参考し、一部再作成。 介護保険は、高齢による要介護者や要支援者に、彼らが持つ能力によって自ら日常 生活を営むことができるように、保健、医療、福祉にわたる介護サービスを総合的に 提供して国民の保険医療の向上及び福祉増進をはかることを目的としている(厚生労 働統計協会 2010)。 2000年4月からの介護保険法の施行を通して介護サービスに対するニーズ及び発生 原因を分析し、その対策を講じようとした。しかし、高齢者人口の増加や要介護認定 者の継続的な増加による介護費用の増大、介護サービス事業所のサービス質の確保な
12 どの問題が指摘され、制度実施の5年後である2006年度に介護予防システムの構築に 関する前面的な改革を行うことになった。これは、財源の限界という危機に直面した 介護保険制度の持続可能性を確保するために、増える費用負担を抑制するための対策 の基礎になった。 介護保険の実施以後、要介護認定者の数は、介護サービスを利用する数が継続的に 増加し、2005年6月の時点では、要介護認定を受けた数が被保険者の約5分の1程度に到 達することになった。要介護認定を受けた高齢者の中で要支援・要介護1に相当する 軽度の要介護認定者の数も増加した。介護サービスの利用量が予測より増加したこと による保険財政の改善のためには、介護サービスの利用量の抑制のための方策ととも に、介護分野おいても介護予防の必要性に関する論議などが行われ、制度施行5年後、 2006年に介護保険制度が改定された。 改正介護保険では、効率的・効果的な保障の総合化に焦点が据えられ、5つの改善 対策として、①予防重視型システムの確立、②施設給付の改善、③新たなサービスシ ステムの確立、④サービスの質の確保及び向上、⑤保険料の負担及び制度運営の改善 を発表した(厚生労働省 2006)。 このため、介護給付費、介護保険料の増加を抑制するとともに、市町村を責任主体 として総合的な介護予防システムを確立し、重度の高齢者ケア中心から予防重視型ケ アに転換した。また、第5期(2012年-2014年)の介護保険事業計画では、介護予防を 含めて軽度から中重度になっても地域での生活ができるように、高齢者を支える地域 包括ケアシステムの構築を目的とする改定が行われた。 日本は、介護保険制度が導入されてから14年目を迎えている。社会保障・税一体改 革及び社会保障制度改革国民会議の報告書(2013年)では、2015年の施行に向けて介 護保険制度の改正が行われている。 2015年度の改正は、2006年の改革以後の大きな改革になる。具体的には、医療・介 護一体改革に向けた制度として「医療から介護へ」「施設から在宅へ」の方向を踏まえ た改革になると予測されている。また、社会保障の考え方としての「自助・互助・共 助・公助」を基本とする旨の整理、それらを踏まえ、2025年を目標年度とした「地域 包括ケアシステム」の完成に向け、自分でできることは自分で行うことを原則に、公 的サービスに頼る前に、地域の互助を推進し、そのうえで共助、それでも対応できな い場合には公助という考え方により、要支援サービスを本体給付から除外するととも に利用者負担の変更などが行われる見込みであると述べている。
13 2. 介護予防事業の現況 介護予防事業は、地域支援事業によって介護が必要でない高齢者が要支援状態にな るのを防ぎ、要支援者になったとしても予防給付によってそれ以上重度化しないよう に支援するシステムであり、一貫性・連続性のある総合的介護予防システムの確立を 目指している(森 2008)。また、高齢社会において、高齢者が健やかで充実した生活 を過ごしていくためには、総合的な健康づくりを地域づくるみで支援していくことが 重要である(日本内閣府 2009;大鐘ら 2012)。 日本では、90年代には保健の分野で、要介護高齢者の抑制のために、健康寿命の延 長と生活の質の向上を図ろうという動きが出てきた。介護の分野でも介護予防の考え 方が2005年の介護保険法改正を契機にして大きくクローズアップされた。この背景に は、全国の介護サービス利用量が予測以上に増え、その結果、3年ごとに改訂する保 険料が高額になり、保険財政を改善するには介護サービス利用量を削減せねばならな いという事情もあった(松村 2009)。また、改正の重要な柱は「新予防給付の創設」 と「地域支援事業の創設」であった。新予防給付は、要支援者を対象に廃用性症候群 の予防改善の視点から、日常生活を活性化し、社会と関わる機会を向上されることに より、高齢者が日常生活の自立に向けて意欲をもって取り組むことへの支援である。 このため日本の介護保険では、要支援や要介護状態になることを予防し、できる限 り地域での自立した生活を支援するための介護予防事業が重要な施策とされている。 ここでは、要支援・要介護状態になるおそれのある高齢者を二次予防事業対象とし、 介護予防事業を実施することとされている(大鐘ら 2012)。また、2011年度からは、 地域支援事業の中に介護予防・日常生活支援総合事業を創設して市町村の主体性を重 視し、地域支援事業において多様なマンパワーや社会資源の活用などを図っている。 さらに、要支援者・二次予防事業の対象には、介護予防や配食・見守りなどの生活支 援サービスを市町村の判断・創意工夫により総合的に提供することになっている。 最近、日本における高齢者福祉施策の方向は、2025年の団塊世代が75歳以上になる 超高齢社会を迎え、高齢者福祉施策の様々な取り組みが行われている。 韓国でもベビーブーマー世代3が65歳の前期高齢者になる2020年を迎えることにな っており、今後の高齢人口の増加に対応するためにも、日本が取り組んでいるような 介護予防・生活支援システムの定着が高齢者関連施策の核心政策になると考えられる。 3 韓国のベビーブーマー世代は、韓国戦争以降である1955年から1964年の間に生まれた方 を意味している。その規模は、2010年度を基準で約715万名であり、全人口の14.6%を占め ている。日本の団塊世代の680万名より30万名程度が多い。
14 1)介護予防事業の対象 厚生労働省(2012)は、高齢者が主体的に地域の住民活動や地域支援事業を活用し、 活動的で生きがいのある生活や、自分らしい人生を送ることができるよう、生活習慣 病の発症予防や重症化予防などを含め、予防に関わるあらゆる人々が互いに協力・協 働して介護予防・生活支援を行うと述べている。また、高齢者の健康寿命をのばし、 生活の質を高めるためには、生活習慣病の予防と介護予防を地域で総合的に展開する ことが大切であるとしている。 介護予防事業の対象は、一次予防(元気な高齢者)、二次予防(虚弱な高齢者)、三 次予防(要支援者1・2)の3段階に整理している。また、介護予防マネジメントでは、 ①要支援者(=要支援1・要支援2)が介護予防サービス及び地域密着型介護予防サービ ス(=新予防給付)を利用するための計画作成(指定介護予防支援)、②要支援・要介護 になるおそれのある高齢者(虚弱者、認定非該当者等)が地域支援事業の中の「介護予 防事業」を利用するための介護予防マネジメントの①、②の両者が含まれる。 介護保険の改正年度である2006年から2011年末までの要介護認定者の数と二次予防 事業対象の数は、<表2>のように、全体的に増加している。二次予防事業対象の数は、 制度改正である2006年と比べて157千人から2011年では 2,805千人で、非常に早い増加 となっている。また、二次予防事業対象の増加は、要介護認定者数の増加とも関連性 があると言える。 表2 日本の介護予防における対象者数の推移 (単位:千名) 区分 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 高齢人口 26,761 27,487 28,291 28,933 29,066 29,748 二次予防対象 157 898 1,052 984 1,227 2,805 要支援1 527 550 571 601 663 689 要支援2 508 627 659 650 667 709 要介護1-5 3,365 3,351 3,441 3,593 3,730 3,906 ※資料:厚生労働省(2006年-2011年)『介護保険事業状況報告(年報)』 社会保障国民会議の将来の医療•介護費用を予測した「2008年社会保障国民会議の推 計」では、継続的な高齢化が進行すること、2025年には、介護費用が19-23兆円に増大 し、介護保険負担額は現在の倍以上まで増加すると予測している(尹ら 2012)。
15 日本の介護保険は、韓国と同じく、要介護認定を通して要介護及び要支援対象を判 定している。また、要介護者には介護サービスを、要支援及び虚弱な高齢者には予防 給付や地域支援事業を提供し、できる限り地域での生活を維持する地域支援のために 努力している。 2)介護予防事業の支援内容 介護保険の導入以後、高齢者ができる限り元気な日常生活機能を維持するために、 介護予防及び地域支援事業につながるように地域包括支援システムを構築し、地域を 基盤とする予防支援事業を推進している(厚生労動省 2011 ;柳 2012b)。介護予防 事業は、地域で自立した日常生活を営むことができるようにするものであるため、介 護保険の要介護認定を受けたもののうち「非該当」の判定を受けたものも対象となる。 また、介護保険制度下の予防給付と地域支援事業では、市町村を責任主体とし、地域 包括支援センターを中心として実施されている。 (1)介護保険制度下の介護予防給付 2006年の介護保険改正により新設された予防給付は、要支援を、要支援1と要支援2 に分けられえ、生活機能の維持・向上の観点から支援内容・提供方法・提供機関など の見直しが行われた。 予防給付は、介護予防サービス計画に基づき要介護状態を防ぐサービスを提供し、 既存の共通(通所型)のサービスの以外にも運動器の機能向上、栄養改善、口腔機能の 向上などを追加して実施した。また、要支援1・2の認定を受けた高齢者を対象に、状 態の改善と重度化の防止を目的に予防サービスを提供している(厚生労働省 2012)。 予防給付のケアマネジメントは、要支援者の生活機能や健康状態、暮らしの環境状 況などを把握し、生活機能低下の要因を含め、要支援者が現在持っている問題点を明 確にすることとともに介護予防の効果を最大限に発揮するように支援するものである。 また、介護予防支援事業者によるケアマネジメントに基づいた予防サービスが提供さ れ、一定期間の後、その評価を行っている(厚生労働省 2012)。 日本の介護予防事業の特徴は、要支援者だけではなく、要介護1を支援対象に含め ていることである。つまり、軽度の要介護者に対する予防支援を通して、要支援者へ の変化を導くこととしている。また、サービス利用を通じて一程期間の後、ケアプラ ンに基づき目標達成の状況を確認し、達成度による評価を行っている。さらに、この ような予防効果の達制度により該当期間にはインセンティブを与え、介護予防の活性
16 化を図っている。 (2)地域支援事業における介護予防事業 地域支援事業は、市町村が責任主体となって要支援状態になる以前から介護予防を 推進するとともに、地域における包括的・継続的なケアマネジメント機能を強化する 観点から創設されたものである。具体的には、一次予防事業と二次予防事業の二つの 事業実施している。一次予防対象は、65歳以上のすべての高齢者を対象に、介護予防 に関する情報の普及・啓発や介護予防に役立つ自主的な活動の育成・支援を行うもの である。二次予防対象は、活動性や生活機能が低下して要介護状態となる恐れの高い 高齢者で、初期発見・初期対応することにより予防・軽減・悪化防止を目的とした通 所又は訪問による介護予防事業である。 全高齢者に対し高齢者自らによる自発的な取り組みを支援する「一次予防対象」は、 介護予防ということを包括的に認識し、できる限り自ら元気な生活を営むことができ るように地域社会が支援して行くこととし、65歳以上の高齢者を対象として介護予防 に関する講演会の開催、介護予防手帳の配付、ボランティア等の人材育成のための研 究、介護予防に必要な地域活動組職の育成等を実施している(厚生労働省 2012)。 二次予防対象事業は、ハイリスク戦略に基づき、危険因子を持つ虚弱な高齢者の「初 期発見•初期対応」を重点とし、身体の機能が徐々に低下し、今後、介護サービスの利 用可能性がある高齢者に対して、生活機能低下を回復するための支援を提供し、要支 援・要介護状態にならないように予防することを目的としている。具体的には、①運 動器の機能向上、②栄養改善、③口腔機能の向上、④閉じこもりの防止及び支援、⑤ 認知症の予防及び支援、⑥うつ予防及び支援などが行われている(厚生労働省 2012). 図2 日本における介護予防事業の支援内容 ※資料: 厚生労働省(2012)『介護予防マニュアル』
17 二次予防事業の対象把握においては、厚生労働省(2013b)が提示している基本チ ェックリストが用いられている。この基本チェックリストにより選ばれた二次予防事 業の対象者ごとに、各生活機能や介護予防支援プロクラムへの参加を推進している。 また、地域支援事業に基づいた地域内の中心機関は、自治体、介護予防の関連機関、 医療機関、地域・民間団体である。つまり、地域の総合的な介護予防システムを構築 し、関係機関や団体と連携している。さらに、介護予防のための総合計画を立案し、 その推進項目を管理しながら修正・補完する役割を担当しており、医療機関と関連機 関とも積極的に調整を行うこととしている。 また、介護予防は、単純に公的機関と民間サービスとの調整だけではなく、地域の インフォーマル資源との調整・協力も大切であり、NPO、民生委員、食生活推進員など の地域指導者や、高齢者サロン、自治会などの地域組織・住民・ボランティアなどを 地域の重要な資源として用いている。 日本では、2006年度の介護保険法改正を通して市町村を責任主体とし、地域内の高 齢者が安全・安心して老後の生活を営むことができるように支援するために総合的な 介護予防ケアマネジメントシステムの確立してきた。しかし、介護予防に対する認識 不足と、二次予防事業把握の妥当性のため、介護予防サービス参加利用率の低調とつ ながっているとされる。また、地域支援事業における多様なプログラムの開発と普及 のための地域内のインフォーマル資源の確保・活用が求められている。 3)介護予防事業の提供システム 2006年の介護保険法改正により、既存のケア重視型システムから市町村を介護予防 の責任主体とした介護予防重視型システムへ転換し、「新予防給付」と「地域支援事業」 の総合的な介護予防システムを確立した。また、各市町村の2万から3万単位のエリ ア別に地域包括支援センターを設置し、介護予防事業を推進している。 新予防給付は、介護保険下の要支援者を対象とし、域包括支援センターを通して介 護予防サービスの計画をたて、適切な予防給付を提供することになっている。また、 地域支援事業には介護予防事業と包括的支援事業があり、介護保険認定者以外の要支 援•要介護の恐れの高い状態であると認められる高齢者を対象に、自ら日常生活を営む ことができるように多様な資源との調整を通じて予防サービスを提供している。介護 予防事業は、「二次予防事業対象把握(特定高齢者施策)」「一次予防事業(一般高齢者 施策)」に整理している。
18 図3 日本の介護保険制度と介護予防事業の流れ ※資料:厚生労働省(2013e)『公的介護保険制度の現状と今後の役割』を参照し筆者が作成。 一次予防事業は、<図3>のように、65歳以上の全体高齢者を対象に、発病そのもの を予防する取り組みであり(厚生労働省 2012)、介護予防に対する活動普及、及び開 発、地域住民の主体的な介護予防活動の育成・サポートなど、地域の高齢者が参加で きる機器やプログラムなどを地域住民に提供している。 二次予防事業は、病状が出現した者を対象に、重度化の防止、活動性や生活機能を 維持・向上させる取り組みである。また、要支援•要介護状態に陥るリスクが高い高齢 者を初期発見・早期に対応することにより現行の状態を改善し、要支援状態となるこ とを遅らせることを目指している(厚生労働省 2012)。 地域支援事業における介護予防サービスと予防給付も、日常生活の活性化に資する 通所型サービスの支援による生活機能の向上が重要である。 日本の高齢率は20%を超えており、一人暮らし高齢者や高齢者のみの世帯、認知症高 齢者が継続的に増加している。また、高齢人口の継続的な増加は、介護予防における 初期発見・初期対応ができる地域の見守りの取り組みが必要であり、地域住民、地域 の団体、行政などの調整を通した包括的、継続的な支援が求められている
19 4)介護予防事業の財源 日本は要支援者を含むすべての高齢者のための介護予防システムを構築している。 介護予防事業の財源構造は、<表3>のように、国費(交付金)が25%、都道府県が 25%、市町村が12.5%、第1被保険者が20%、第2号被保険者が30%である。 表3 予防給付と地域支援事業費の財源構成 区分 保険給付費 地域支援事業 居宅給付費 要介護・要支援 施設など給付費 介護予防事業 包括的支援事業及び 任意事業 国費(負担金) 20% 15% - - 国費(交付金) 5% 5% 25% 40% 都道府県 12.55 17.5% 12.5% 20% 市町村 12.5% 12.5% 12.5% 20% 第1被保険者 (平均)20% (平均)20% 20% 20% 第2被保険者 30% 30% 30% - 総計 100% 100% 100% 100% ※資料:厚生労働省(2014)ホームページを参照し作成。 また、地域支援事業の場合は、国費(交付金)が40%、都道府県が20%、市町村が 20%、第1号被保険者が20%である。介護保険の財政は、2012年度の基準として、約8.9 兆円であり、地域支援事業の費用は各年度の保険給付見込額の3%の上限とされている。 日本では、急速に増加する要介護認定者と財源圧迫の危険に事前に対応するために 地域包括支援センターを設置し、地域支援事業を通して介護予防事業を行っている。 しかし、日本の介護予防事業は一定部分の財源の節減ができるとする予測とは異なり、 継続的に保険財源への負担が累積されてきている。こうした課題を解決するために、 社会保障制度改革国民会議(2013c)では、介護保険制度に関わる新たな見直しとして、 地域をもとに、既存の予防給付を地域支援事業に組み込むことを検討している。
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第2節 イギリスにおける介護予防・生活支援の展開
イギリスでは、福祉政策の統合化をはかるため医療と福祉の調整・協力の義務付け るための国民保健サービス及びコミュニティケア法(National Health Services and Community Care Act)が1990年に成立、1993年4月から実施され、地域生活を支える新 たなシステムが導入された。また、NHSと地方自治体の連携を強化し、地域資源と民間 活力を導入することで、地域によるケアを推進している。 本稿では、日本の介護予防制度とともに、韓国にとって重要だと思われるイギリス で実施されている予防支援への取り組みを取り上げる。具体的には、すべての高齢者 を予防の対象と捉え、地域に基づいたフォーマル・インフォーマル資源をマッチング して支援するイギリスの予防の枠組みを参考とするため、高齢者へのコミュニティケ アを推進する代表的な事業である高齢者パートナーシッププロジェクト(Partnershi -ps for older people projects:POPPs)について考察する。
1. 介護予防・生活支援の導入背景 イギリスは、福祉国家の代表的なモデルとされているが、他の国に比べて民間営利 分野の役割を強化している点に特色の一つがある。 シーボーム報告書以降、1970 年代には保健と社会サービスの相互機関間の協力を向 上させるために、共同保護計画及び共同財源調達システムが導入されてきた。特に、 イギリスでは統合プロジェクトの評価を通して、保健・福祉の総合サービスの方式と してケアマネジメントが導入され、介護を必要とする高齢者の施設入所を防ぐととも に、費用を減少させ、生活の質の改善ができるとされている(石 2000)。 1990年代後半に入ってからは、予防が中長期的にケアの必要を減少させ、高齢者の 生活の質を改善させるという研究結果を通して、予防に対する政策的関心が高まるよ うになった。保健と福祉の改善のための報告書(Modernizing Health and Social Care, 1998; Secretary of State for Health, Modernizing Health Social, 1998 )は、リ ハビリを通した自立性(independence)を強調し、入院や入所施設の入所直前の状態 にある高齢者のための予防的措置の必要性を提起し、政策の焦点を二次予防から一次 予防に移動させた(権ら 2008)。 イギリスの労働党政府は、持続的な地域パートナーシップと目標志向的接近方式を 通して、予防中心の高齢者サービスに対する取組を、地域協定(LAA)と公的サービス 協定(LPSA)などを中央政府と地方政府と協力を通して実施してきた。
21 保健部の核心事業であるPOPPsは、社会サービスの分野で適用されるガバナンス パラダイムの事業である(高ら 2010;李 2014)。つまり、地域社会に基礎を置 き専門的・持続的なサービスの提供により、できる限り地域での生活を維持・改善さ せる予防中心のプロジェクトである。 2. 高齢者パートナーシッププロジェクト(POPP)の現況と効果 イギリス労働党は、2006年から2008年までPOPPのモデル事業を実施した。POPPは、 多様なニーズを持つ高齢者を対象にして総合的な対応をし、高齢者の健康増進、 福祉、自立の支援を奨励して、高い費用がかかる施設保護の必要性を遅延させ ることを目的としている(POPP Final Report, 2010)。
イギリス保健部(POPP Final Report, 2010)は、①自立と相互協力を支援するこ と、②高齢者に自分自身をコントロールできる権利を付与し、柔軟なケアと支援を提 供すること、③高齢者が健康に自立的な生活ができるように予防と福祉を促進するこ と、という原則によって計画を樹立すること提示している。また、その妥当性や全国 への拡大の検討をするために、2009年度には、この事業に対する評価を行った。
図4 POPPモデルの仕組み
※資料:Department of Health, Promoting Independence(2007). POPP Final Report(2010)
高齢者における予防のプログラム開発のために、各地方政府は、<図4>のように、 POPP Promoting Independence Modelを概念的な枠として用いている。
POPPに参加した29ヵ所の地方政府は、保健部の財政支援による全部で245件のプロジ ェクトをモデル事業として実施した。POPPモデルは、人口集団をニーズのレベルによ
22 って分類し、三角形の下のところは、すべての高齢者に適用する包括的・基本的な支 援が提示されている。また、三角形の上にあがるほど、1回以上の入院経験がある疾患 者として事例管理(ケアマネジメント)などの高い費用及び複雑な支援が必要になる 対象になる。 権ら(2010)は、POPPの主要な特徴を、①地方政府が主導的に参加して地域性に合 わせたプログラムを開発し、②地方政府と一次保険医療機関(Primary Care Trust=PCT) 間のパートナーシップを通して社会サービスと保健サービスの調整システムを活性化 し、③ボランティア団体、非営利社会福祉法人の第3セクターの積極的な参加を促進 し、地域社会資源を効率的に用いられていると述べている。
また、朴(2011)によると、高齢者におけるケアの提供は、段々市場化されている が、国家と市場による高齢者福祉サービスの隙間を解決するために、高齢者サポート 団体(Age Concern Eastbourne)の活動4と家族介護者サポート団体(West Sussex
Careers Network)の活動5などの市民社会の資源組織の役割が重要な要因として働い
ていると述べている。
4 高齢者サポート団体(Age Concern Eastbourne)は、第2次世界戦争以降、高齢者の問
題を支援するために、1940年に設立された全国高齢者福祉委員会を母体としている。また、 1971年各地域の高齢者福祉委員会が集まって、Age Concernという名称で活動を行っており、 2000年ではAge Concern Eastbourneを設立した。
5 ウエストサセックス家族介護者ネットワーク(West Sussex Careers Network)は、家
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第3節 韓国への示唆点
以上の日本の介護予防への取組みと、イギリスの医療と地方政府社会サービスの協 働による介護予防への取組みは、韓国の介護予防・生活支援システムの構築にどのよ うな示唆を与えるであろうか。 社会サービス提供における市場化の導入は、全世界的な趨勢の一つである。代表的 な事例が、イギリスのコミュニティケア、ドイツの介護保険、日本の介護保険などで ある。これらは、市場化を通して、利用者中心の多様な選択と自立性を高めようとす る意図で行われている。 イギリスの場合、国家と地方政府の協力を通して、医療と社会的介護を提供できる ようにしている。そのため、高齢者中心の集中的サービスや施設保護を予防するため の包括的な事業であるPOPPを行っている。つまり、介護予防・生活支援が、高齢者の 自立的な生活を営むニーズを充足させ、最終的には高齢者の医療費や介護費用を節減 できるという目的をもって推進しているとみられる。特に、一般高齢者から事例管理 が必要な対象者まで全の高齢者が包括的に含まれており、低レベルから高リスクレベ ルのニーズまでを含む多様な予防サービスの活用を通して、サービスの提供をしてい ることが特徴である。また、POPPを通して、予防支援のためには、地域の様々な提供 機関や社会資源との調整が必要であると認識をもつようになっている。さらに、予防 支援に当たっては、相当な部分について公的財政からの費用負担がある。もちろん、 韓国も2000年代に入ってから、バウチャー形式の社会サービスを強化した支援システ ムの構築に努力してきているが、イギリスの状況とは異なるところがある。 しかし、高齢者におけるケアの提供が、ますます市場化されている現状の中で、国 家と高齢者福祉サービスとの間の隙間を、第3セクターや地域住民及びNPOなどの地域 社会の資源を活用して埋めているイギリスの事例は、今後の韓国における介護予防・ 生活支援の具体化に当たって、民間資源活用の活性化という点で重要な示唆を与える と考える。 日本の場合は、2000年の介護保険導入以降、継続的に増加する介護費用の増加を抑 制するために、2006年度の介護保険の改革を通して、予防重視型システムへの転換を 行 っ た 。 特 に 、 虚 弱 な 高 齢 者 の 把 握 の た め の 基 本 チ ェ ッ ク リ ス ト の 活 用 や ICF (International Classification of Functioning, Disability and Health)との関 連を検討した研究(根本ら 2011;浜崎ら 2012;加藤ら 2013)では、虚弱な高齢者 は、非虚弱な高齢者に比べて要介護状態の発生リスクが高かった。また、虚弱高齢者24 の心身機能は、元気高齢者と要支援・要介護高齢者の中間に位置しているが、そのば らつきは大きい。虚弱高齢者の分類には、基本チェックリストに、簡便かつ全身の筋 力を反映する有用な指標である握力を加えることが有効であると述べている。 2010年6月の厚生労働省の報告によると、2007年度の当時特定高齢者(現、二次予防 事業対象)は高齢者全体の3.3%であり、施策参加者は0.5%であった。2008年度の特 定高齢者(現、二次予防事業対象)は、高齢者全体の3.7%であったが、施策参加者は 0.5%であった。介護予防の効果性に関する研究(吉田ら 2007)では、介護予防事業に 参加した高齢者は、参加しなかった高齢者に比べて、月平均1人当たり介護費用の増加 程度が低く、介護予防事業が高齢者の医療費や介護費用の増加を抑制することにある 程度効果があると述べている。また、北島(2012)は、地域包括ケアを取り入れてい ない地域では要介護者の介護度が重度化しており、また療養病床の平均在院日数が長 期化していた。しかし、地域包括ケアを取り入れている地域では、65歳以上人口が増 加しても出現率が抑制されるという結果を述べている。さらに、厚生労働省(2013c) は、市町村における効果的・効率的事例を通して、介護予防事業の実施が要介護認定 者の増加を一定程度低下させることができると紹介しており、地域支援事業の推進の 必要性を提示している。 2006 年の介護保険改正の主テーマである ICF に基づいた生活機能の分類や特定高齢 者把握のための基本チェックリストの活用は最も重要であると考えられる。つまり、 要支援者を介護保険の潜在的な対象として、彼らに対して効率的な管理を行うと、要 介護認定者の増加速度を遅くする要因になり、これは財政とつながって制度安定化に 重要な役割を果たす。また、平岩(2014)は、対象者の把握方法の変化や、事業実施 内容の工夫、委託による事業の活性化の効果があると指摘している。さらに、要支援 者や軽度要介護者に対する介護予防を実効あるものにするためには、介護予防への取 り組みに、高齢者自身が意欲をもって主体的に参加することが重要であるとされる(北 島 2012)。 最近日本では、介護保険制度に関する新たな見直しとして軽度介護や要支援の予防 サービスを介護予防事業に組み込むことが検討された。2015年からこれまでの介護保 険で実施されてきた予防給付を各市町村に移管し、地域支援事業の拡大・強化を支援 する方向に改正・実施する予定である。これは持続的な財政負担の増大が主な原因で あり、地域単位の支援をより強化するという日本の方針みてとれる。 こうしたイギリスや日本の動向に対して、韓国では2008年の療養保険の実施の前に 老人ドルボミサービスが導入された。これは今後の日本が追求する地域中心の介護予