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中国・韓国・スウェーデンを日本語でつなぐ遠隔交流会の実践

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Academic year: 2021

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中国・韓国・スウェーデンを日本語でつなぐ遠隔交流会の実践 ――母語話者の参加をめぐって―― 労軼琛 東華大学 1 実践の背景 本学では韓国・スウェーデンの大学と協力して、日本語学習者を対象に 2012 年の春学 期よりインターネットを通して日本語による交流会を実施している。この遠隔交流会は当 初、筆者も含め、中国、韓国、スウェーデンの大学に勤務する 4 人の教員によって大学授 業外の交流活動としてデザインし、スタートされた1。それぞれの大学から日本語学習者 (中級~上級)を集め、1 学期に 1 回行い、1回の実践期間中、6 週または 8 週にわたり 交流が行われる。1グループ3、4 人の学習者が1つのトピックに関して作文を書き、お 互いの作文を読んだ上で、Web 会議システムを使ってオンラインセッションを行ってい る。試行錯誤を繰り返しながら、現在も持続している。2014 年 8 月の時点では、中国(東 華大学)、韓国(釜山外国語大学)及びスウェーデン(ダーラナ大学)の 3 ヵ国 3 つの大 学から参加し、5 人の教員が運営に携わっている。なお、5 人のうち、非母語話者の教員 は筆者のみである。 この実践では、本国以外の異文化の他者との出会いとコミュニケーションを通して学習 者が成長することを目標としている。毎回の交流会実施後に行われているアンケート調査 からわかったように、母国語を異にする学習者達が、自国にいながら、インターネットを 使い、日本語を共通語としてコミュニケーションを図り、異文化に対する理解を深めると ともに、自文化に対しても新たな認識を得ることが日本語非母語話者同士の交流による効 果だと考えられる。一方、互いに非母語話者同士であるだけに、使用する言語の正確さが 懸念され、交流効果が薄れてくるかとの恐れもある。(労軼琛ほか 2013) 母語話者の参加について、この実践は当初日本人を含まない 3 ヵ国の日本語学習者を結 びつけることで、日本中心主義2から脱却することを一つの目的としていたが、母語話者 が参加したとしても過度な規範3化は起こらず、母語話者と非母語話者ともに異文化間の 学びが起こるのではないかという議論があった。よって、2014 年秋学期から改良を試み、 中国・韓国・スウェーデンの日本語学習者を日本語でつなぐ遠隔交流会に、母語話者参加 者も入れることにした。 母語話者ボランティア参加者を募集していたところ、ゼミの参加者が外国人との交流を 体験したいとのことで、青森公立大学を交流会に加えた。 母語話者の参加による遠隔交流会の実態、母語話者が果たす役割、また非母語話者が受 けた影響を明らかにすることを目的に、2014 年秋学期より実践を行った。 2 実践の概要 〇 実践期間:2014 年 10 月~12 月(8 週間) 〇 実践対象:大学 4 年生前期 9 名(「コミュニケーション能力」グループの受講者)+ 大学 3 年生前期 1 名(ボランティア) 1 本学では、2013 年の春学期から授業の一環に組み入れることになった。3 年生後半から 4 年生前半ま で 2 週間に 1 回、通年 16 回「理論と実践」という実践中心の授業がカリキュラム上に設けられている。 選択制によって五つのグループに分け、10 人前後の少人数規模でそれぞれの指導教員のもとで勉強する。 交流会は筆者が担当する「コミュニケーション能力」グループに組み入れられた。 2 日本文明・文化を格別のものとしてみなす考え。 3 規範については、加藤好崇は「現実の接触場面で適用されている参加者のインターアクションのため の行動規定、言語面・社会言語面・社会文化面など幅広く存在するもので、文脈存在的・導体的性質を 持つもの」と定義している。(加藤2010)したがって、本稿中の母語話者規範については、母語話者の 行動規定を規範にすると捉える。

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〇 実践方法 ◎日本人母語話者も適宜に募集し、交流会に参加させ、日本語学習者と同様の活動を 行う。 ◎毎回のオンラインセッションを録音する。 ◎振り返りシートを書かせる。 ◎母語話者の参加に関する意識調査の項目も入れるアンケート調査を実施する。 ◎フォローアップインタビューを実施する。 本交流会は、毎回テーマに基づいた作文交換とオンラインセッションのセットで 8 週にわたり行われる。できるだけ同じ国の学習者同士が重ならないように、チーム分けを 行う。基本は各国の参加者から 1 人ずつ選出し、3 人のチームを組ませるが、国ごとの参 加人数が異なるため、スウェーデン 2 人だったり中国 2 人だったりするチームになる場合 もある。交互に作文を読んだ上で、Web 会議システム(スカイプ)を使ってオンラインセ ッションを行っている。作文の字数は特に設定しないものの、ほぼ 1000 字ぐらいのもの に定着している。1 回のセッション時間は 1 時間半ぐらいになる。2014 年秋学期交流会の 詳細は次の表の通りである。 表 1 参加者の内訳 所属 2014 年度 秋学期 男女の割合(男/女) 東華大学 (中国) 9 人 2 人/7 人 釜山外国語大学 (韓国) 8 人 6 人/2 人 ダーラナ大学 (スウェーデン) 10 人 6 人/4 人 青森公立大学(日本) 8 人 6 人/2 人 合計 35 人 20/15 人 表 2 交流会の流れ 学習者がすること 教師のサポート 交流会の前 設備上の準備をする 教師からチームメンバーの情報を受け取る 事前調査に協力する チームを分ける 自己紹介の連絡メールを出す 1 週目 自己紹介文を書く OneDrive に自己紹介文をアップロードする メンバーの作文を読んでおく オンラインセッションの日時を「調整さん」4で調整する 「調整さん」を作成する 2 週目 作文に基づき、Skype でオンラインセッションを実施する チームで 2 回目のトピックを決める チームで 2 回目のオンラインセッションの日時を決める 振り返りシートをオンライン上に記入する オンラインセッションに参加する メールでフィードバックする 3 週目 チームで決めたトピックについて作文を書く(社会・文化に ついてのビデオを観た上で) OneDrive に作文をアップロードする メンバーの作文を読んでおく 4 週目 作文に基づき、Skype でオンラインセッションを実施する メールでフィードバックする 4 「調整さん」とはオンライン上全員の日程調整・出欠管理作業を行う無料ツールである。

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チームで 3 回目のトピックを決める チームで 3 回目のオンラインセッションの日時を決める 振り返りシートをオンライン上に記入する 5 週目 チームで決めたトピックについて作文を書く(日本語につい ての読み物を読んだ上で) OneDrive に作文をアップロードする メンバーの作文を読んでおく 6 週目 作文に基づき、Skype でオンラインセッションを実施する チームで 4 回目のトピックを決める チームで 4 回目のオンラインセッションの日時を決める 振り返りシートをオンライン上に記入する メールでフィードバックする 7 週目 交流会を通して考えたことについて、作文を書く OneDrive に作文をアップロードする メンバーの作文を読んでおく 8 週目 作文に基づき、Skype でオンラインセッションを実施する 振り返りシートをオンライン上に記入する メールでフィードバックする 交流会の後 アンケート調査に協力する アンケート調査を実施する 一グループにつき一人の教師をつけ、第一回目のオンラインセッションに参加するが、 その後は参加者の主体性や自由な発話を促すため、参加者のみの交流会を行っている。教 師は問題があったときなどのサポート役に徹している。 3 結果と考察 本学の参加者(9 名)を対象に 1 学期を通して考察を行った。毎回のオンラインセッ ション後に記入する「振り返りシート」と、交流会後のアンケートの記述内容が主な考察 内容である。それに分析を加えた上、特定した参加者(2 名)を選び出し、より詳しいフ ォローアップインタビューをも行った。 3-1 振り返りシートによる結果 振り返りシートは OneDrive(オンラインファイル共有システム)の OneNote 機能を利 用して記入させている。それによって、オンライン上の記入と全員分の閲覧が実現できる。 振り返りシートとは、参加者に今回のセッションで感じたこと、考えたこと、新しくわ かったことについて記入してもらう用紙のことである。(詳細は添付資料を参照。)なお、 それとは別に、オンラインセッションの実施時間、インターネット環境、活動内容などの 事実記述を目的にする報告書も設け、順番で担当者に記入してもらう。 直接母語話者に関する質問項目を入れなかったが、母語話者に触れた記述は次の通 りである5。「敬語が難しいのは外国人だけでなく、日本人も難しく感じるのから見て、 やっぱり日本語の敬語は簡単なものではないと感じました」、「A さんから、みんな知ら ない日本人の経験を紹介してくれて、勉強になりました」、「B さんに方言をいくつか教 えてもらいました」、「青森県の方言では『私』、『僕』などの第一人称を『わ』と発音 するのが中国語の第一人称『我』の発音『wo』によく似ていて、それを分かって面白かっ た」、「C さんは日本語をどうして曖昧に見られるのかの具体的な例を教えてくれました」、 「日本人の C さんはネーティブですから、丁寧的的確な言葉を使います。そこが私たちと 違います」。 5 学習者の記述をそのまま引用する。

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寄せられた上記の意見からみて、母語話者の参加は、日本語語彙の増加や、議論に 対する母語話者の意見を聞くことができる。さらに、実際の接触に通じて、日本人を より深く理解できる、などのことにもつながった。 3-2 アンケート調査による結果 アンケートの質問は、「交流会について」「人数・メンバー」「期間・スケジュール」「日 本語・コミュニケーション」「トピック」などである。(詳細は添付資料を参照)本学の参 加者全員 9 名の中 7 名が協力してくれた。回答率は 78%であった。振り返りシートと違 い、アンケート調査では母語話者参加の項目も入れた。それは交流するプロセスにおいて は、母語話者規範意識を導くことを避けるためである。寄せられているコメントを表 3 にまとめる。 表 3 母語話者との交流に関するコメント6 母語話者と交流してよかった点 母語話者と交流してよくなかった点 母語話者と交流したことは、今後 あなたの日本語学習や経験や生活 に与える影響 ①日本人は交流会のリーダーとしてセ ッションのペースをコントロールし た。色々日本のことを教えてくれた。 ②言語の指導をいただいた。 ③日本人の〇○さんは思いやりで、平 均のスピードでわかりやすく説明して くれた。外国語の勉強にやはり地元の 人と交流するのは大事だ。 ④話したいことははっきり表現できな かったことがあるが、途切れた時日本 の方は補足してくれるから、ありがと う。 ⑤間違った言葉の使い方がすぐ注意さ れて、日本語らしい日本語をだんだん と言えた。 ⑥皆が日本文化についての疑問があれ ば、日本人メンバーが説明して、勉強 になる。 ①緊張する。言いたいことをちゃんと 言えないので、日本人の友人に迷惑を かけやすい。 ①もっと日本語らしい日本語を喋 ろうと自覚する。 ②日本語の話す能力は多かれ少な かれ良くなった。日本人の視点も より深く、日本語勉強者だけ考え るのと比べ、掘りる空間が大きく なる。 ③日本人と友人になれる。 ④日本について、色々の事がもっ とよく理解できると今後、もしチ ャンスがあれば日本で仕事や留学 するとき、日本人を対してどうす ればいいかがわかる。 表 3 からわかったように、よくなかった点より、よかった点が圧倒的に多い。緊張する こと以外、日本語の勉強ができる、日本文化に対する解釈を求められる、オンラインセッ ションのペースをコントロールできるなど、学習者が母語話者との交流をほぼポジティブ 的に捉えている。 3-3 フォローアップインタビューによる結果 12 月中旬に特定した 2 名の参加者を対象にフォローアップインタビューを行った。母 語話者の参加については、その 2 名の参加者はほぼアンケート調査の結果と同じコメント をしていた。 6 同 3

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3-4 考察 以上 3 節の研究結果からは、非母語話者を日本語でつなぐ遠隔交流会に適宜に母語話者 を参加させても交流会にマイナス的な影響を与えていないことが明らかになった。また、 個人差はあるものの、母語話者がよりスムーズにオンラインセッションを促進するなどの 役割を果たしているともいえよう。上記の結果によって、母語話者を継続的に導入するこ とは可能である。 実践を行ってみて、日本語母語話者に対する危惧は気にしなくてもよいことが分かった。 理由は非母語話者と母語話者一対一ではなく、グループ会話によって力関係が整えること が考えられる。また、中国人学習者のポジティブな意見に対して、積極的に受け止める一 方、母語話者規範の奪回を心がける必要もある。 4 まとめと今後の課題 本稿では、遠隔交流会の振り返りシート、アンケート調査の記述内容またフォローアッ プインタビューの内容を分析することにより、母語話者参加の実態について考察すること ができた。 ただし、今回のレポートは時間と紙幅の関係で実践の紹介と浅いレベルの分析にとどま り、録音データーを活用して、談話分析を行う余裕を持てなかった。具体的に一つのチー ムや一学習者を追跡するなど、今後さらに踏み込んだ研究をしていく必要があると筆者は 考えている。 また、母語話者の参加をめぐる考察は、非母語話者側の意識を見るだけでは偏りがちな ので、母語話者側の意識調査、お互いの学びを検証することも必要である。 今回の実践をもとに、母語話者を継続的に導入する可能性を検証できたと思われる。同 時に、今後の課題として母語話者規範をどうすれば奪回できるかという点も挙げられる。 母語話者規範は、多くの学習者から挙げられたが、このような交流会を通して、少しずつ 日本語をさまざまな国の学習者とのコミュニケーションツールとして理解してもらえる よう、今後もデザインを検討していきたい。 最後に、交流会のこれからの行き方について、議論を重ねていく必要もある。どのよう なことを話す場であるべきか、授業との連携はどうするべきか、考察と議論を繰り返しな がら考えを深めていきたい。このような議論や考察について、広く研究発表を行うことで、 遠隔日本語教育や海外日本語教育のあり方について、広く提言ができる研究を目指してい きたい。 [参考文献] 寺尾裕子(2006)「テレビ会議システムを用いた遠隔協同日本語教育の実践とその質的分 析」『学校教育学研究』第 18 巻,pp.15-23. 尹智鋐(2008)『遠隔の日本語教育と e ラーニング―テレビ会議システムを介した遠隔チ ュートリアルの可能性』早稲田大学出版社. 加藤好崇(2010)『異文化接触場面のインターアクション』東海大学出版会. 労軼琛・岩崎浩与司・齋藤里衣子・松浦恵子(2013 年)「非母語話者同士の学びを支える 実践―韓国・中国・スウェーデンをつなぐ遠隔交流の試み―」WEB 版『日本語教育 実 践研究フォーラム報告』 http://www.nkg.or.jp/kenkyu/Forumhoukoku/2013forum/2013_P18_Lao.pdf

参照

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