絵画制作における支持体と素材に関する考察
教科・領域教育専攻 芸術系(美術コース 坂 本 和 生
はじめに
絵画制作に用いられる支持体とその素材につ いて,筆者は研究を重ねてきた。なかでも絵画 の制作(この場合は油彩画を主として)におい て現在もっとも一樹句な支持体はカンバスであ る。歴史的にみても,西洋ではルネサンス期以 降,絵画の支持体は木からカンパスへと次第に 変わっていったo その理由は,軽量化による運 搬や展示の利便性が向上したことと,より大画 面の制作が可能になったことが挙げられよう。
しかし,今日の絵画の概念や画材に対する考え 方の多様化による表現技法の拡大進化により,
カンパスでは作者の制作意図に十分対応できな い状況が発生している。通常のカンバスは,額 縁にはめ込むことを前提としており,長方形の 矩形に画面が限定されている。また,コラージ ュする場合の接着が不十分で,多様な素材を使 用するのが困難である。さらに,画面を彫刻し たり,物離句に変形させるような表現が不可能 な場合が多いなど,多くの課題をかかえること
となったo この課題を解決するために,筆者は シナベニアを角材の桟で、補強した木製ノ《ネルを 支持体に選んた木製ノミネルが,前述のカンパ スでは困難か不可能と考えられる表現技法に,
どう対応していくのか,絵画の支持体としてど のような絵画表現の可能性があるのかを考察し たい。
指導教官 鈴 木 久 人
1.支持体としての木(木製ノミネノレ)
木を支持体に用いる場合,運搬や展示に支障 がないように軽量化することが肝要である。強 度と重量のバランスを考えて,ベニヤ板の厚み や角材の選定を行う。シナベニヤの表面は木目 が細かく美しいので,着彩やコラージュの接着 がきれいにできる。木製ノ《ネルは,木枠の基準 寸法に縛られることなく,自由な寸法ヰ形に加 工することができる。つまりこれは,作者の要 求にきわめて御願に答えてくれる支持体なので
ある。
ベニヤ板を絵画作品の支持体として使う場合 に,湿度キ温度の変化による板の反りを防ぐた め,絶縁体でパネル全体を覆う必要があるo こ こではジェッソ(リ析ックス動を刷毛で略}等に塗 る。これは板が湿気を帯びるのを防ぎ,カピや 害虫から作品を守るためである。さらに,ベニ ヤ板に含まれる接着弗怜防腐剤などが表面に渉
み出ないようにするためにも有効である。
カンバスは片方から力を加えると簡単に布が 伸びる。この「たわみjが,いろんな素材をコ ラージュする時の接着を不完全
i
こするo それに コンテヰ私筆などの硬質な措置財を使用した場 合も,画面のたわみが障害となって強い線の表 現などに制限がある。カンパスの持対空質が特 定の表現方法に適さない証左である。これに対 し,木の支持体出頭丈で平らな画面なので,コ ラージュの接着も確実にでき,硬質な描菌防オの強い表現も十分可能である。木の支持体は多様 な絵画表現を可能にする支持体なのである。
2 .
木と他の素材との組み合わせベニヤ板のパネルは薄くても強度に優れる。
ゆえに,径四撃に弱く,それ自体は作品の支持体 に不向きな素材の支持体になることができる。
発砲スチロールボードやスチレンボードなどは きわめて脆い性質の素材であるが,パネルに接 着することによって,絵画作品の支持体として の弱点を,おおむね刻展できる。板に接着する ことによって,絵画の支持体として考えられな かった素材が,新しいメデ、イアとしての可能性 を持つのである。
絵画の支持体として,もっとも一樹句な素材 である紙も,木のパネルと組み合わせることに よって,紙鞠虫では困難であった表現が可能に なる。日本の紙は,西洋紙と和紙に大きく分け られるが,それぞれに特徴があり総画表現に多 彩な技法をもたらしてくれる。紙を板の表面に 貼りつけることにより,紙の持つテクスチャー を利用して,様々なマチエールづくりが可能で ある。
板にカンパスを貼れば,木枠張りのカンバス の弱点を克服した理榔ぬ支持体が誕生する。
木のパネルには,市販のカンパスに限らずあら ゆる布が固定できる。麻キ綿の布は紙よりは るかに丈夫であるし,重厚なテクスチャーを使 って,より存在感のあるマチエールが表現でき る。
3.木の性質を活かしたマチエール
木という支持体には,カンパスや布,紙など では不可能に近い非常に困難な表現方法を可能 にする性質がある。画面を深く彫刻したり,強
く削ったりすることは,比聯句柔らかくて丈夫 な木の板でなければ許容できない。木材特有の テクスチャーを作品のマチエーノ川宇りに活かす
こともできる。
木の表面に白色絵具を塗ると木肌の色合いと 混じり合い,独特な色面ができる。素材の持コ 色彩が,上にのる遡月絵具の層に地塗りの効果 を与えている。これらの色面は,表面を紙やす りで磨くことによって,さらに大きな画面効果 を得ることができる。絵具の筆跡が乾燥した後 軽く表面を磨くと,木目の上にかすすした絵具の 風合いが残る。やすりがけは,回数や力の強さ によって微少
i
こ画面のマチエールや色彩が変化する。
4.修了制作と関連する参考作品の解説 支持体と素材の研究は,
f
陥制作のなかで実 験と検証を試みた。 38点の作品について,使 用した素材と表現謝去について解説している。おわりに
画財の研究は日進月歩であり,新しし、画財と それらに対応するように新しい技法が生まれて くる。作家がどういう材料を駆使して,自分の 世界を表現するかという問題は,芸術家永遠の 課題である。本考察は一般的な木枠張りのカ ンパスではなく,なぜ木の支持体なのかという 問いかけへの解答である。新しい絵画表現のた めの技法と,それらを支える材本初研究は作家 にとってとても大切なことである。制作者とし て,技法ヰ材料の失磯キ港択眼を,どれだけ持 っているかということが重要なのである。それ らの巧│き出しjを,自分のなかにたくさ
λ
持 っている作家でありたいし,生徒たちに還元できる美術教師でありたい。