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アレーアンテナとガロア理論

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(1)

招待論文

アレーアンテナとガロア理論

宮下 裕章

a)

Antenna Arrays and Galois Theory Hiroaki MIYASHITA

a)

あらまし シェルクノフはリニアアレーを多項式と捉え,サブアレーを素子アンテナとみなしアレーアンテナ の指向性合成を論ずるアレー原理(arrays of arrays principle)を定式化した.アレー原理は多くの応用を生んだ が,根本原理の数学的分析が十分であるかについては疑問が残る.本論文では,一般的な見地からリニアアレー を数学の対象物として再定式化する.リニアアレーのアレーファクタは代数曲線上の関数と考えるのが自然であ り,アレーファクタの積による分解はガロア被覆塔に対応する.塔の構造は整数の加法群から得られる射影系に 一対一に対応し,最長の被覆塔はアレーアンテナの素子数を法とする整数加法群の組成列から得られる.素子数 が無限の場合はエタール基本群を絶対ガロア群とした扱いができ,ガロア被覆塔から生じる全てのアレー原理を 含む絶対アレー原理が定式化される.

キーワード アレーファクタ,ガロア被覆,代数曲線,エタール基本群,ポントリャーギン双対性

1.

ま え が き

シェルクノフ

[1]

はリニアアレーを多項式と捉え,

サブアレーを素子アンテナとみなしアレーアンテナ の指向性合成を論ずるアレー原理

(arrays of arrays principle)

を定式化した.サブアレーファクタを全体の アレーファクタから積の形でくくり出せば素子パター ンとなり,残りが新たなアレーファクタとして動作す るというものである.リニアアレーに対応する多項式 はシェルクノフ多項式と呼ばれ,アレー放射パターン の零点はシェルクノフ単位円と呼ばれる複素平面内の 単位円上の零点に対応する.アレーファクタを多項式 で表した場合,自然な積への分解は代数学の基本定理 を用いた複素一次多項式の積による表現で,これは既 にシェルクノフが指摘している.しかしながら,当該 分解はアレー原理を直接生ずる形とはなっていない.

シェルクノフ多項式をベースとして,仮にアレーファ クタが解析的に閉じた形で総和できれば,アレー原理 の理解の助けにはなる.等間隔一様励振アレー

(ULA:

Uniform Linear Array)

のアレーファクタが幾何級数

三菱電機株式会社,鎌倉市

Information Technology R&D Center, Mitsubishi Electric Corporation, 5–1–1 Ofuna, Kamakura-shi, 247–8501 Japan a) E-mail: [email protected]

として総和できることはよく知られているが,

Cheng

[2]

Z

変換を用いることで,より広いクラスのア レーファクタが解析的に閉じた形に総和できることを 示した.これに派生する研究として

[3]

[9]

などがあ る.一方,アレーファクタが積に分解する場合の給電 回路の構成法の検討も重要である.その方面では,ア レー指向性零点を独立に走査できるデイビス給電回 路

[10]

が著名であり,関連する研究として

[11]

なども 知られている.これらは個々の結果としては興味深く 工学的意義があるが,シェルクノフ多項式の応用例の 位置付けである.指導原理であるアレー原理の詳細な 分析を手始めに,本質的な意味でのシェルクノフ多項 式の議論が望まれる.

アレー原理はシェルクノフ多項式の何らかの対称性 を反映しているはずである.その表現手段としてまず 思いつくのは,代数方程式のガロア理論であろう.ガ ロア理論は素朴には代数方程式の根の置換に関するも ので,方程式の係数に秘められた対称性をガロア群が 記述する.

ULA

の場合,根は全てシェルクノフ単位 円上にあり,物理現象としてアレーアンテナの零点の 対称性として現れ,実際に観測することができる.任 意の励振分布を有するアレーアンテナへアレー原理が 適用できるのも明らかである.しかしながら,アレー 励振係数が変化すれば零点は複素平面の一般の位置へ

(2)

移動してしまい,シェルクノフ単位円上の観測可能な 零点のみをもって対称性を論ずるのは不完全と想像さ れる.更に複素平面上の他の零点の物理的意味も明確 でない.ガロア群は方程式の係数がほんの少し変化す るだけで,全く異なるものになってしまうことが多い.

ところが,アレー励振係数に少々の誤差が生じてもア レー原理がそこまで敏感に反応するかというと,直感 や経験には反しており,素朴なガロア理論の適用は行 き詰まってしまうように思われる.その枠を一つ超え るための方策としては,シェルクノフ単位円上の観測 点を連続的に移動させてもアレー周期に対応するア レー原理の対称性は保たれる点に注目することが考え られる.素朴なガロア理論では方程式の係数を固定し たままで離散的な根を見ていたが,新たに変数を一つ 追加した代数関数を用いれば,観測点の連続変化へも 対応できる.数学としては代数関数論,いわゆるリー マン面の理論の適用が可能となる.ガロア理論はコン パクトリーマン面と代数関数体のガロア対応を記述す る理論として拡張されている.コンパクトリーマン面 としてシェルクノフ単位円を含む複素平面に無限遠点 を付け加えたリーマン球を採用すれば,そのガロア対 応は有理関数体となる.アレー原理はアレーファクタ の分割数に対応したリーマン球の間の被覆写像に関連 し,その写像度としての位相不変量である被覆次数が それぞれのサブアレーの特徴量となる.アレー原理は 被覆次数の列に相当する加法群列の包含関係で記述,

分類されることが見出される.これがアレー原理にお ける対称性の本質で,任意励振分布アレーの分解は,

ULA

ULA

の範囲で分解することと同じとなる.続 く問題はより数学的な扱いが困難な無限アレーの場 合だが,代数幾何学の手法が効果的に活用できる.ア レーファクタの分解は幾何学的にはシェルクノフ多項 式を既約な代数曲線に分解していく操作に対応してい る.無限アレーに相当する無限個の代数曲線を同時に 扱うことは一見複雑な方向に向かっているように思わ れるが,アレー原理の対称性からガロア理論が生む結 果はむしろ簡潔である.無限個の代数曲線を統制する 絶対ガロア群はエタール基本群と呼ばれるが,アレー 原理の場合,それは整数加法群の副有限完備化

Z ˆ

に一 致することとなる.読者が類体論を御存知であれば,

Z ˆ

は数学の中でも最も美しく基本的な量の一つと賛同 されるかもしれない.それはアレー原理とも無関係で はないのである.

本論文では,リニアアレーを多項式と捉えるシェル

クノフの精神を尊重しつつ,アレーアンテナを数学の 対象物として分析する.特にアレー原理の根源につい て考察する.

2.

は導入の位置付けであり,アレー原理 を概観するとともに,アレーファクタの積への分解と 対応する給電系の構成の関係を整理する.

3.

が本論で あり,任意励振分布を有するリニアアレーのアレー原 理を被覆空間のガロア理論を用いて再定式化する.リ ニアアレーを代数曲線上の関数とみなせばガロア被覆 の理論が自然に適用される.アレーファクタの積によ る分解はガロア被覆塔に対応している.塔の構造は整 数加法群から得られる射影系に一対一に対応し,最長 の被覆塔はアレーアンテナの素子数を法とする整数加 法群の組成列から得られることが示される.更に素子 数無限の場合に理論を拡張するために代数幾何学の手 法を用い,エタール基本群を絶対ガロア群とした無限 次元のガロア被覆塔を導入する.これにより,ガロア 被覆塔から生ずる全てのアレー原理を含む絶対アレー 原理が定式化される.

4.

ではアーベル群の双対性を ベースとした純代数的定式化からも

3.

の主要結果が 再現されることを指摘し,高次元アレーへの拡張の手 掛り示す.

なお,

3.

以降では,少なくとも数学科学士程度の素 養を仮定しており,かつ,紙面の制限から用語の定義 や既存の定理の説明を十分にはなし得なかった.工学 系読者の便宜のため,付録に関連する数学の文献案内 を入れたので,適宜,活用を頂きたい.また,本文中 に名称と参考文献を示した定理や関連する一般論は全 て著名なものであり,筆者の数学への寄与はないこと をお断りしておく.

2.

アレー原理

2. 1

アレーファクタの分解

P

素子共相励振リニアアレーのアレーファクタは,

ブローサイドからの角度方向を

θ

,ビーム走査角度方 向を

θ

0,波長を

λ

として以下で与えられる

[1]

a

0

+ a

1

x + a

2

x

2

+ a

3

x

3

+ · · · + a

P1

x

P1

(1)

x = e

2πju

(2)

u = d

λ (sin θ sin θ

0

) (3)

上式で

a

m

m

番目の素子の励振係数,その素子位 置は

md

である.

以後,最も基本的と思われる

ULA

を例にして,シェ ルクノフのアレー原理を概観する.アレーファクタは

(3)

1 Ψ3(x)に対応する給電系 Fig. 1 Feeding network for Ψ3(x).

幾何級数

Ψ

P

(x)

を用いて次式となる.

Ψ

P

(x) = 1 + x + x

2

+ x

3

+ · · · + x

P1

= x

P

1

x 1 (4)

重複を許した素数

p

iの積で

P = p

1

p

2

· · · p

nと表す.

そのとき,以下の幾何級数の積への分解が得られる.

Ψ

P

(x) = Ψ

p1

(x)Ψ

p2

(x

p1

p3

(x

p1p2

)

· · · Ψ

pn

(x

p1p2···pn−1

) (5)

これは,次式から確かめられる.

Φ

P

(x) = x

p1p2···pn

1 x 1

= x

p1

1

x 1 · x

p1p2

1

x

p1

1 · x

p1p2p3

1 x

p1p2

1

· · · · x

p1p2···pn

1 x

p1p2···pn−1

1

= Ψ

p1

(x)Ψ

p2

(x

p1

p3

(x

p1p2

)

· · · Ψ

pn

(x

p1p2···pn−1

) 2. 2

アレーファクタの分解と給電系

アレーファクタの分解と給電系の関係を整理してお く.まず理解を容易にするため,簡単な例を用いて説 明を行う.一般の

ULA

への拡張は容易である.

Ψ

3

(x) = 1 + x +x

2に対応する給電系を図

1

と考え るのは自然である.ただし,

x

は式

(2)

で与えられる.

図中,上部の数字

0, 1, 2

は素子が接続されるポート番 号で,それぞれ

Ψ

3

(x)

の初項,第

2

項,第

3

項に対 応する.また,電力分配器で信号は等振幅,等位相に 分配され,他の給電線路は全て同一であるとする.こ の場合,x, x2 の部分は,それぞれ,ビーム走査位相

kd sin θ

0

2kd sin θ

0を与える位相器に対応すると 解釈できる.ただし,

k = 2π/λ

である.なお,ポー ト

0

の部分はビーム走査位相

0

に対応すると考えるこ ともできる.ところで,多項式の加法に関する可換性 により,例えば

1 + x + x

2

= x + 1 + x

2が成り立ち,

2 Ψ3(x)に対応する給電系 Fig. 2 Feeding network for Ψ3(x).

3 Ψ3(x)に対応する給電系の図法 Fig. 3 Diagram of feeding network for Ψ3(x).

4 Ψ3(x)Ψ2(x3)に対応する給電系 Fig. 4 Feeding network for Ψ3(x2(x3).

左辺は図

1

,右辺は図

2

に対応するが,物理的には両 者は同じである.よって,加法順序の置換に関しては 給電系を区別する必要はない.この例の場合,

3!

通り の当該置換対称性が存在するが,これらを区別しない とすると図

3

の図法を得る.これを以後採用すること とする.x, x2 の部分を取った図形を離散数学ではト リー(閉路を含まない連結グラフ)と呼ぶのが一般的 である

[13]

.本論文では,任意励振分布アレーの共相 励振を視野に入れ,便宜上トリーの定義を以下とする.

[

本論文におけるトリーの定義

]

等位相分配器,及xn

, (n = 1, 2, 3, · · · )

の 部 分 に ビ ー ム 走 査 位 相

nkd sin θ

0与える移相器を備えた給電系で閉路を含 まないもの.

続いて,アレーファクタの積と給電系の関係を見る.

給電系の図はアレーファクタの積の左側から右側の順 に対応して,上から下に書いていくこととする.例え ば,

Ψ

3

(x)Ψ

2

(x

3

) = (1 + x + x

2

)(1 + x

3

)

は図

4

と なる.

Ψ

2

(x

3

3

(x) = (1 + x

3

)(1 + x + x

2

)

に対する 給電系は図

5

となり,積の順序が異なると得られる給 電系の図形は異なる.なお,

(1 + x

3

)(1 + x + x

2

) =

1 + x + x

2

+ x

3

+ x

4

+ x

5

= Ψ

6

(x)

のように積を展

(4)

5 Ψ2(x33(x)に対応する給電系 Fig. 5 Feeding network for Ψ2(x33(x).

6 Ψ6(x)に対応する給電系 Fig. 6 Feeding network for Ψ6(x).

7 {Ψ2(x)}2に対応する給電系 Fig. 7 Feeding network for{Ψ2(x)}2.

開した給電系は図

6

に対応すべきであり,この場合,

展開後に積の順序は関係なくなる.以上の約束により,

アレーファクタの積から給電系の図への対応は写像と して矛盾なく定義される.

以上はトリーの例であったが,一般にはアレーファ クタの積に対応する給電系はトリーとはならない.例 えば,

2

(x)}

2

= (1 + x)

2の給電系は図

7

となる.

この場合,給電系には閉路が存在している.アレー原 理を適用する場合は,

(1 + x)

2

= 1 + 2x + x

2と展開 し,トリーの形の給電系を得ることが必要である.

簡単な例を与えておく.図

8

6

素子等間隔

ULA

のトリーである.なお,図を見やすくするためにア レー給電ポートからポート

0

に至る分配回路を実線,

他の部分を破線で書いている.このトリーは次式の各 行の分解に対応している.ただし,

{ }

の中の幾何級 数積は展開したものと考える.

Ψ

6

(x) = Ψ

2

(x)Ψ

3

(x

2

) = Ψ

3

(x

2

2

(x)

= Ψ

3

(x)Ψ

2

(x

3

) = Ψ

2

(x

3

3

(x)

= { Ψ

2

(x)Ψ

3

(x

2

) }

8 Ψ6(x) = Ψ2·3(x) = 1 +x+x2+x3+x4+x5 の分解

Fig. 8 Factorizations of Ψ6(x) = Ψ2·3(x) = 1 +x+ x2+x3+x4+x5.

9 Ψ8(x) ={Ψ2(x2(x4)}Ψ2(x2)の分解 Fig. 9 Factorization of Ψ8(x) =2(x)Ψ2(x4)}Ψ2(x2).

上の例はアレーファクタが二つの積に分解する単 純な場合だが,一般的には式

(5)

の積のうち複数の サブアレーファクタを展開し,更に順序を並べ換える 自由度がある.これをアレーファクタの部分積と呼ぶ

(5)

こととし,上式と同様,展開するサブアレーファクタ を

{ }

で表す.例えば,

8

素子

ULA

に対応する式

(5)

Ψ

8

(x) = Ψ

2

(x)Ψ

2

(x

2

2

(x

4

)

だが,部分積として

Ψ

8

(x) = { Ψ

2

(x)Ψ

2

(x

4

) } Ψ

2

(x

2

)

などが取れる.これ に対応する給電形のトリーを図

9

に示しておく.

3.

リニアアレーとガロア被覆

本章では,アレー原理を被覆空間のガロア理論を用 いて再定式化する.数学用語は標準的と思われるもの を用いたが,正確な定義は適宜,付録の文献を参照頂 きたい.まず,全体の基礎となる被覆空間の定義及び そのガロア理論の基本定理を次節に整理しておく.

3. 1

被覆空間のガロア理論

[

被覆空間の定義

] [14]

[16] Y

X

を位相空間,

h : Y X

を連続な上への写像とする.次の条件が成 り立つとき,

Y

X

の被覆空間,

h

を被覆写像,

X

を底空間という.

全ての

x X

に対して

x

のある開近傍

U X

が 存在して,逆像

h

1

(U )

が互いに交わりのない

Y

の 開集合の族

{ V

m

}

mMで以下のように表される.

h

1

(U ) =

mM

V

m

かつ,全ての

m

に対して

h

V

mへの制限

h | V

m

U

は同相写像である.

続いて,被覆空間のガロア理論を概観する.

二つの被覆

h : Y X

h

: Y X

に対してあ る同相写像

Φ : Y Y

が存在して

h = h

Φ

とな るとき,

Φ

h

から

h

への同型といい,

h = h

と書 く.その同値類を被覆の同型類と呼ぶ.特に

h = h

の場合,

Φ

を被覆変換という.被覆変換の全体の集 合は写像の合成に関して群をなし,被覆変換群若し くは体のガロア理論からの類推でガロア群と呼ばれ る.以後

Y

は連結であると仮定する.被覆変換がファ イバ

h

1

(x), x X

に推移的に作用する場合,被覆

h : Y X

をガロア被覆と呼び,そのガロア群を

Gal(Y /X)

と表す.

π

1

(Ω, x)

を位相空間

Ω( x)

x

を基点とする基本群とすれば,位相空間の間の連続 写像

f : A B, a f(a) = b

に対して基本群間 の写像

f

#

: π

1

(A, a) π

1

(B, b)

が誘導される.基 点を指定しない場合は

f

#

: π

1

(A) π

1

(B)

と書く.

h : Y X

をガロア被覆とすれば,ガロア群がファイ バに推移的に作用することから

h

#

1

(Y ))

π

1

(X)

の正規部分群になり,剰余群

π

1

(X )/h

#

1

(Y ))

が定

義される.一般に群

G

の部分群

K

G

の元

g

に対 し,

K

g

= {g

1

kg| k K}

G

における

K

と共役 な部分群をなす.この共役による群

G

の同値関係にお いて

K

の同値類を

K

の共役類といい,

(K)

と書くこ とにする.また,位相空間に群

G

が作用するとし,そ の軌道による商空間を

X/G

を記す.次の定理が知ら れている.

[

ガロア被覆の基本定理

] [14]

[16] h : Y X

を ガロア被覆とすれば以下が成り立つ.

ガロア被覆の同型類には

π

1

(X )

の部分群の共 役類との全単写対応がある.すなわち,

π

1

(X, x)

の 各部分群

K

に対して,ある基点

y

K

h

K1

(x)

をも つ連結な被覆

h

K

: Y

K

X

があって,

π

1

(Y

K

, y

K

)

π

1

(X, x)

における像が

K

となる(全写性).更に

(K) = (L)

ならば

h

K

= h

Lである(単写性).

L

K

を含む

π

1

(X, x)

の部分群であるとき,

y

K

y

Lに写し

X

への射影と両立する被覆写像

h

K,L

: Y

K

Y

Lが一意的に存在する.

K

L

の正規部分群 であるときガロア被覆が得られ,

Gal(Y

K

/Y

L

) = L/K

となる.特に

Gal(Y /X) = π

1

(X)/h

#

1

(Y ))

である.

位相空間の同型

Y

L

= Y

K

/ Gal(Y

K

/Y

L

)

も成 り立つ.特に

X = Y / Gal(Y /X)

である.

続いて,普遍被覆について述べておく.被覆

p : ˜ X X

において

X ˜

が単連結

π

1

( ˜ X ) = e

e

は単位群)か つ局所弧状連結の場合,

X ˜

X

の普遍被覆(空間)

という.普遍被覆は次の普遍性を有する.

X

の任意の 被覆

h : Y X

に対して被覆写像

q : ˜ X Y

が存在 して

p = h q

が成り立つ.普遍被覆は同型を除いて 一意的である.このとき,ガロア被覆の基本定理より 以下が成り立つ.

Gal( ˜ X/X) = π

1

(X)

X = ˜ X/ Gal( ˜ X/X) = ˜ X/ π

1

(X )

以後,

C

R

Z

N

をそれぞれ複素数,実数,整数,

自然数の集合とし,代数的,解析的構造などを有する ときは適宜対応物に同定する.

3. 2

アレー原理と被覆空間

アレーファクタに対してサブアレーを区別する添字 を

m

として,

K

素子のサブアレーファクタを次式で 与えることにする.ただし便宜上,今後,式

(2)

x

z

と記すこととする.

F

K(m)

(z) = a

(m)0

+ a

(m)1

z + · · · + a

(m)K1

z

K1

(6)

(6)

なお,

a

(m)i

C, (0 i K 1)

である.本論文で

P

素子のアレーファクタ

F

P

(z)

が積に分解するとは,

(5)

と同様な以下の形の場合とする.

F

P

(z) = F

p(1)1

(z)F

p(2)2

(z

p1

) · · · F

p(n)n

(z

p1p2···pn−1

) (7) C

から原点を除いた集合を

C

とする.更に

n Z

と し,

h

n

: C

C

; z z

nと定義すれば,次の被覆 写像の塔が得られる.

z −−−−−−→

hp1

z

p1

−−−−−−→

hp2

z

p1p2

−−−−−−→ · · ·

hp3

· · · −−−−−−−−→

hpn−1

z

p1p2···pn−1

(8)

これは式

(7)

の分解に対応し,アレー原理は被覆空間 の塔上で考察できる.

3. 3

アレー原理と代数関数

K

L

上超越次数が

1

の有限生成拡大で

L

K

の中で代数的に閉じているとき,体の拡大

K/L

L

を 定数体とする代数関数体,その元を代数関数という.例 えば,

x

を超越元,

a

i

(x) C (x) = L, (0 i n 1)

として

y

が以下の既約な関係式を満たすとする.

a

0

(x)+a

1

(x)y + · · · +a

n1

(x)y

n1

+y

n

= 0 (9)

ここで

C

上において式

(9)

x

y

で生成される体

K = C (x, y)

を取れば,

K

C (x) = L

y

で生成 される(

n

次の)代数拡大,すなわち代数関数体とな る.代数関数が定める曲面(アフィン代数多様体,代 数曲線)は代数曲線のリーマン面と呼ばれ,アンテナ 関係者にも馴染み深い対象である.

被覆空間の塔

(8)

と代数関数の関係を論ずる.塔

(8)

m

番目の被覆の部分は

x = z

p1p2···pm

y = z

p1p2···pm−1

C

と置いて,代数関数

x y

pm

= 0

を 与 え て い る .代 数 拡 大

C (y, x)/ C (x)

に お い て ,

C(y, x) = C(x)[x

1/pm

] = C(x)[y]/(y

pm

x) = C(y)

が成り立つので,

C (y, x) = C (y)

とも書く.塔

(8)

に 対応して

C (x)

も同じ意味とする.上記

m

番目の被覆 の被覆空間を

Y ( = C

)

,底空間を

X( = C

)

と書けば

h

pm

: Y X

はガロア被覆であり,それぞれの空間の 基本群は

π

1

(X) = Z

π

1

(Y ) = Z

である.添字

#

を 誘導される写像の意味として.

h

pm#

1

(Y )) = p

m

Z

より,被覆変換のガロア群

Gal(Y /X)

は以下となる.

Gal(Y /X) = π

1

(X)/h

pm#

1

(Y )) = Z /p

m

Z

今 後 ,

1

m

乗 根 を

ζ

m

= exp(2πj/m)

と 記 す.

x y

pm

= 0

の全ての解は

y = ζ

pnm

· x

1/pm

, (0 n < p

m

)

となり,代数拡大

C(y)/C(x)

は体の拡大 に 関 す る 通 常 の 意 味 で の ガ ロ ア 拡 大 と な る .な ぜ なら,

C (y) = C (x)[x

1/pm

]

及び

ζ

pnm

C (x)

であり,

ζ

npm

: C (y) C (y), x

1/pm

ζ

pnm

· x

1/pmが体の同型 写像になるからである.そのガロア群

Gal(C(y)/C(x))

は巡回群

Z/p

m

Z

に同型である.また,

X

Y

及びそ れらが定める代数曲線には自然に複素多様体としての 解析的構造が入り,リーマンの特異点除去定理を用い て分岐点まで含めて被覆写像

h

pmを解析的写像に拡張 することができる.この場合,

X

Y

はそれぞれリー マン球に同相,

Y

の(解析的)自己同型写像を

φ

とす れば

h

pm

= h

pm

φ

が成り立つ.

φ

は解析的な意味 でのガロア群

Gal

anal

(Y /X)

を定めることになり,コ ンパクトリーマン面のガロア理論が確立される.代数 関数のリーマン面には代数関数体がガロア対応の意味 で対応するが,リーマン球の場合,その上で定義され た代数関数は有理関数体となり,ローラン級数体に同 型となる.また,被覆空間と見ても分岐点(この場合 は,原点と無限遠点)を

C

に付け加えて位相空間を コンパクト化し,

Gal(Y /X)

を同様に自然に拡張する ことができ,分岐被覆のガロア理論と呼ばれる.なお,

コンパクト化前の

C

に対応する被覆は不分岐被覆と 呼ばれる.次の同型が知られている.

Gal(Y /X) = Gal(C (y, x)/ C (x)) = Gal

anal

(Y /X) (10)

上で特に代数的な量と解析的な量が同型になる性質は 原論文の頭文字を取って

GAGA

と広く呼ばれる

[18]

. 式

(10)

は位相的(被覆空間),代数的(代数拡大),解 析的(複素多様体)に定義されたガロア群が全て同型 になることを主張する.これより,ガロア被覆を論ず る場合,都合に応じてどのガロア群を用いて議論を進 めてもよいことになるので,今後,考察の舞台にかか わらず自由にガロア群という言葉を用いることにする.

次に,被覆の塔

(8)

とアレーファクタの積への分 解式

(7)

の幾何学的意味についても述べておく.一 般 に

x

y

の 多 項 式 が 既 約 な 代 数 関 数 に 分 解 す る 場 合 ,既 約 成 分 ご と に 連 結 な 曲 面( ア フィン 代 数 多 様 体 )を 定 め る こ と が 知 ら れ て い る .

n

を 任 意 の自然数,更に

x C (x)

y C (y, x)

とすると

x y

n

= 0

は既約である.式

(7)

に現れる各々の項 は

y = z

p1p2···pm−1

x = z

p1p2···pn−1と置けば,被覆

(7)

h

pmpm+1···pn−1

: C

C

, y x

に対する

F

p(n)n

(x)

を底空間上の関数とする被覆空間上の関数

F

p(m)m

(y)

と なっている.つまり塔

(8)

は各々交わりのない既約な 被覆空間の間に更に被覆写像の塔を与えていることに 相当する.

3. 4

計算例と物理解釈

前節までの一般論に対して具体的な計算例を示すと ともに,物理解釈をつける.簡単のため,被覆と対応 する代数拡大体,及び,体

K

のガロア対である固定

部分群

Gal(K)

として以下の塔を考察する.

C(x) C(x

l

) C(x

lm

) Gal(C(x)) Gal(C(x

l

)) Gal(C(x

lm

))

0 Z /l Z Z /(lm Z )

(11)

例えば,

g

p

= p Z/(lmZ) = Gal(C(x

lm

))

x

への 作用は

g

p

: x

lmp となり,それぞれの体は次式の ように変換される.

C(x

lm

); g

p

: x

lm

(xζ

lmp

)

lm

= x

lm

C(x

l

); g

p

: x

l

(xζ

lmp

)

l

= x

l

ζ

mp

C (x); g

p

: x

lmp

(12)

これより拡大

C (x

l

)/ C (x

lm

)

のガロア群は次のように 計算される.

Gal( C (x

l

)/ C (x

lm

)) = Gal( C (x

lm

))/ Gal( C (x

l

)),

= Z /m Z (13)

Gal(C(x

l

)/C(x

lm

))

は 拡 大 体

C(x

l

)/C(x

lm

)

C (x

lm

)

を固定体とする同型写像となるが,具体的 作用は

g

q

= q Z /m Z

として

g

q

: x

l

x

l

ζ

mq となる.これより

g

q

: x

lm

(x

l

ζ

mq

)

m

= x

lm な ので,確かに

C(x

lm

)

は固定体になっている.他の ガロア群の作用も同様に計算される.上の例では,

被覆の塔

C

−−−−−→

hl

C

−−−−−−→

hm

C

を考えたが,

h

lm

= h

m

h

lであり,以下もガロア拡大となる.

C(x) C(x

lm

) Gal( C (x)) Gal( C (x

lm

))

0 Z /(lm Z )

(14)

拡大体

C(x)/C(x

lm

)

のガロア群は次式となる.

Gal( C (x)/ C (x

lm

)) = Z /(lm Z ) (15)

続 い て ,ガ ロ ア 群 の 幾 何 学 的 意 味 を 見 る .上 の 例 か ら 明 ら か な よ う に ガ ロ ア 群 は

C

の 元 の 原 点 を 中 心 と す る 回 転 と し て 作 用 す る .例 え ば ,

k Gal( C (x)/ C (x

lm

)) = Z /(lm Z )

は,

C (x

lm

)

に対応 する

C

の元を固定しつつ

C (x

lm

)

に対応する

C

元に対して

ζ

lmk の回転を与える.

klm = 0 mod lm

な ので,

lm

k

を作用させれば元に戻る.その間,常 に固定体

C (x

lm

)

に対応する

C

上の関数の値は不変 である.

以上の考察をアレーアンテナに適用してみる.積に 分解するアレーファクタは被覆空間の塔上の関数で あった.よって,ガロア群は底空間上の関数であるア レーファクタを不変にしつつ,被覆空間上の関数のア レーファクタを変換している.式

(7)

の記法を採用す れば,例えば,

F

P

(z) = F

p(1)1

(x)F

p(2)2

(x

lm

) (16)

と 分 解 す る な ら ,ガ ロ ア 群

Gal( C (x)/ C (x

lm

))

F

p(2)2

(x

lm

)

の 値 を 常 に 変 え ず に

k : F

p(1)1

(x) F

p(1)1

(xζ

lmk

)

と作用する.ガロア群の作用は物理的には アンテナ観測方向(

u

空間)の変化に対応している.

アレーアンテナがボアサイト方向に主ビームをもつ とし,はじめは主ビーム方向から電波を入射させ,続 いてガロア群に対応する方向から入射させたとする.

k : x

lmk

F

p(2)2

(x

lm

)

を不変に保つという意味 は,後者がグレーティングローブ方向からの入射とい う単純な事実に対応している.一般の入射角に対して も上記グレーティンブローブ分離れた方向のレベルが 同じということであり,観測角を連続的に変化させて も当該対称性を有するのは,まさにアレーファクタが 被覆空間上の関数だからである.

3. 5

アレー原理とガロア被覆塔

これまで代数関数としてのアレーアンテナを考察し たが,物理的にはシェルクノフ単位円

S

1上を動くユ ニバーサルパラメータ

u

でアレーの応答は決まる.幸 い

C

S

1はホモトピー同値であり,位相幾何学的 な性質は同一となる.

h(y) = e

2πjy

= x

を普遍被覆

h : R S

1とする.

S

1の任意の点

x

におけるファイ バ

h

1

(x)

Z

と同型である.底空間の

x

を基点とし た基本群

π

1

(S

1

, x)

R

の自己同型群となるが,それ は

Z

と同型であり,

y h

1

(x)

m Z = π

1

(S

1

, x)

に対して,

m : y y + m

と作用する.この作用は ファイバに対して推移的であり,

h : R S

1はガロ ア被覆となる.ガロア被覆の理論によれば,普遍被

(8)

h : ˆ X X

に対して

Gal( ˆ X/X) = π

1

(X )

X = X/ ˆ Gal( ˆ X/X) = ˆ X/ π

1

(X )

である.

h : R S

1の 場合,ガロア群

π

1

(S

1

)

R

の基点

y

への作用は軌道

y + Z

を定め,その剰余空間である軌道空間は

R / Z

と同型になり,底空間

S

1と同一視されることになる.

また,

π

1

(S

1

) = Z

の部分群は

m N

として

m Z

尽くされ,それぞれがガロア対応の意味で軌道空間

R /(m Z ) = S

1及び対応する被覆を定める.普遍被覆 を用いて塔

(8)

の対応物を書けば,以下の図式が可換 になっている.

R R R

h=h(u)1

⏐ ⏐

h(u)p1

⏐ ⏐

h(u)p1p2

⏐ ⏐ S

1

−−−−−→

hp1

S

1

−−−−−→

hp2

S

1

· · ·

R R

⏐ ⏐

h(u)p1···pn−1

⏐ ⏐ S

1

hpn−1

−−−−−→ S

1

(17)

ここで,

h

(u)k

: y e

2πjky

h

k

: x x

kなどである.

アレー配列と普遍被覆空間との関係について考察す る.普遍被覆空間

R

の原点

N = 0

から正の方向に間 隔

1

で素子アンテナが配列されていると見る.底空間

S

1の基点を

0

,普遍被覆空間

R

の対応する基点は任 意に取れるのだが簡単のため

0

とする.

π

1

(X, 0)

の部 分群

m Z

R

に自由に作用するが,これは素子間隔

m

で素子アンテナを配列していく操作と解釈される.

ここで以下の補題に注意しておく.証明は容易である.

補題

1 { p

i

}

i∈Nを重複を許した正の整数の集合とする.

このとき,任意の

N N

0 m

i

< p

i

, (i N )

に より以下のように一意的に表現される.

N = m

1

+ m

2

p

1

+ m

3

p

1

p

2

+ · · ·

+m

n

p

1

p

2

· · · p

n1

+ · · · (18)

特に,

N

P

= N mod P

とすると以下が成り立つ.

N

p1p2···pn

= m

1

+ m

2

p

1

+ m

3

p

1

p

2

+ · · · +m

n

p

1

p

2

· · · p

n1

mod p

1

p

2

· · · p

n

(19)

このような表示には一般論が存在するので説明す る.有向集合

Λ

を添字とする群の直積

λΛ

G

λの 全ての

λ μ

に対し自然な準同型

ψ

λμ

: G

μ

G

λ

が存在し,

ψ

λλは恒等写像,更に全ての

λ μ ν

に対し

ψ

λν

= ψ

λμ

ψ

μν が成り立つとき

λΛ

G

λ

は 射 影 系 を な す と い う.上 の 表 示 は 射 影 系 の 典 型

例となっている.

k, l N

として

k

l

を整数の 範囲で割り切る場合

k|l

と書くことにする.

k|l

の と き

k l

と 定 義 す れ ば 有 向 集 合

Λ

が 構 成 で き る.例えば式

(19)

p

1

p

2

· · · p

m

| p

1

p

2

· · · p

n の場合

ψ

p1p2···pm, p1p2···pn

: N

p1p2···pn

N

p1p2···pm であ り,上が

Λ

を添字とする射影系の定義を満たすのが直 ちに確認される.式

(18)

Z

の部分集合だが,右辺 の第

1

項以上の項は

p

1

Z

の,第

2

項以上の項は

p

1

p

2

Z

· · ·

,とそれぞれ部分集合と見ることができる.加 法群の包含関係

Z p

1

Z p

1

p

2

Z ⊃ · · ·

があるので 次々と式

(19)

の剰余群が適宜でき,射影系をなすわ けである.射影系を一つ与えるということは部分群の 包含順序まで考慮した列を指定することと同値で,図 式

(17)

S

1の塔に対応する基本群が上の加法群の包 含関係に直接対応している.すなわち射影系を与える こととガロア被覆塔を指定することは同値である.本 論文の例では射影系は加法群の包含関係として代数的 に完全に規定されるので,対応するガロア被覆塔もそ れで尽くされてしまうことになる.

ここでガロア被覆塔

(8)

がどの程度一般的なもので あるかについて考察する.群

G

の部分群の系列,

G = G

0

G

1

G

2

⊃ · · · ⊃ G

m

⊃ · · ·

において各

G

i+1

G

iの正規部分群で,得られる剰 余群の列,

G

0

/G

1

, G

1

/G

2

, · · · , G

m1

/G

m

, · · ·

が単位群

e

を除く単純群であるとき組成列という.な お,有限群の場合,ある

m

があって,

G

m

= e

で組成 列は終わる.組成列に関して次の基本的な定理が知ら れている.

[

ジョルダン

=

ヘルダーの定理

] [12] G

を群とし,

G = G

0

G

1

G

2

⊃ · · · ⊃ G

r

= e G = H

0

H

1

H

2

⊃ · · · ⊃ H

s

= e

G

の二つの組成列とすれば,

r = s

であり,更にそ れぞれの剰余群列,

G

0

/G

1

, G

1

/G

2

, · · · , G

r1

/G

r

H

0

/H

1

, H

1

/H

2

, · · · , H

r1

/G

r

の順序を適当に選択すれば両者を同型にできる.

(19)

の特殊な場合として全ての

p

iを素数かつ

P = p

1

p

2

· · · p

nと置き,上記定理を適用すれば以下

参照

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