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電磁界から見た結合共振型無線電力伝送

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(1)

解説論文

電磁界から見た結合共振型無線電力伝送

平山 裕

a)

菊間 信良

An Essence of Coupled-Resonance Wireless Power Transfer from Viewpoint of Electro-Magnetic Field

Hiroshi HIRAYAMA

a)

and Nobuyoshi KIKUMA

あらまし 結合共振型無線電力伝送は,中距離で大電力を伝送できる利便性から実用化が期待されている.基 礎的な原理は古典的であるにもかかわらず,アンテナ技術やマイクロ波技術,パワーエレクトロニクス技術など 複数の学問領域の境界に位置する技術であるため,その本質が見えづらい.本論文では,電磁界の観点から結合 無線電力伝送技術の本質を明らかにする.具体的には,結合と共振の定性的モデルを導入して,アンテナ技術に 基づく方式と,電磁誘導に基づく方式を統一的に説明し,その違いを数値例により解説する.

キーワード 無線電力伝送,結合共振,電界結合,磁界結合,共役影像インピーダンス整合

1.

ま え が き

無線通信技術の発達により,電子機器に接続され る情報伝送のための信号線は無線化が進み,充電や 給電のための無線電力伝送

(WPT: Wireless Power Transfer)

技術に対する期待が高まっている.また,電 気自動車の普及に伴い,ワイヤレス充電や,走行中給 電への応用に対する関心も高まっている.従来から電 磁誘導に基づく電力伝送技術は用いられており,コー ドレス電話や

RFID

において広く使われている.しか しながら,この方式では,電気的には非接触といえど も,機器同士が物理的に接触する距離での伝送距離に 限られるという問題点があり,「非接触給電」というよ りは「無接点給電」といえる技術であった.

このような中,

2007

年の

MIT

の論文

[1]

により,結 合共振型

WPT

への注目が寄せられた.この技術は高 周波で大電力の電力を伝送することが特徴であり,ア ンテナ技術,マイクロ波技術などの高周波技術や,パ ワーエレクトロニクス技術,磁性材料,更には高周波 電力デバイスなど,多くの関連する研究分野の研究者 による研究開発が盛んに行われている.その結果,一

名古屋工業大学大学院情報工学専攻,名古屋市

Department of Computer Science and Engineering, Nagoya Institute of Technology, Gokiso-cho, Showa-ku, Nagoya-shi, 466–8555 Japan

a) E-mail: hirayama hiroshi@m.ieice.org

言に結合共振型と呼ばれていても,その要素技術は 様々である.

アンテナ技術と捉えた場合,結合共振型

WPT

は,

近傍界領域中でのアンテナの相互結合を積極的に利用 したものであると言える

[2]

.アンテナ技術として理解 することの長所は,近傍電磁界の観点に立った理解が できること,電気的小形アンテナ技術やインピーダン ス整合技術を利用できることである.

マイクロ波技術と捉えた場合,マイクロストリップ ラインを用いた高周波フィルタや方向性結合器など の,結合によって信号を伝送しているデバイスの応用 と言える.マイクロ波技術として理解することの長所 は,マイクロ波技術の設計理論を適用できることであ る

[3]

アンテナ工学・マイクロ波工学の共通の特徴は,情 報伝送を最終的なアプリケーションとしているため,

波形を正確に伝送することが最大の目標となっている ことである.そのため,アンテナやフィルタなどの多 くのコンポーネントでは線形領域での動作を前提とし ている.周波数変調・位相変調などの定包絡線信号で は増幅器を非線形動作させることがあるが,入出力で 信号波形が変わらないことが重要になる.また,

1

1

の接続を基本としており,かつ線路長により見かけ のインピーダンスが変化する分布定数領域での使用を 基本としているため,入力インピーダンス・出力イン ピーダンスを特性インピーダンスに一致させることを

(2)

前提としている.アレーアンテナの給電回路のように

1

対多の接続の場合でも,あらかじめ想定した負荷が 接続されることを前提としており,不特定多数の未知 の負荷が接続されることは想定していない.また,特 性インピーダンスを仕様として定めることにより,ア ンテナ・増幅器・フィルタなどのコンポーネントが相 互作用を起こさず,独立して設計できることを前提と している.

電力を扱うという点では,パワーエレクトロニクス 工学の応用と考えることができる

[4]

.インバータに 用いられるトランスの

1

次側と

2

次側に空隙を設け たものと考えれば,インバータ技術をそのまま適用す ることができる.パワーエレクトロニクス技術の第一 の特徴は,電力効率の最大化が最重要の課題であるた め,スイッチング動作を基本として,非線形領域での 使用を前提としていることにある.第二の特徴は,負 荷が複数接続され,かつ負荷が必要とする電力の変動 が負荷インピーダンスの変動として現れることを前提 としているため,インピーダンスではなくて電源電圧 を一定とすることにある.これらの特徴は,電力を伝 送するという目的のために適したものである.一方,

パワーエレクトロニクス技術による

WPT

は,電磁誘 導を基本原理としているため,開放型の共振器など分 布定数の概念が必要となり,電界と磁界の両方の作用 が起こってくる周波数領域の扱いには限りがある.

このように,

WPT

技術は,高周波技術・パワーエ レクトロニクス技術等,従来の学問体系の境界領域に 位置しているため,更なる発展のためにはこれらを包 含する理論体系を構築していくことが必要となる.無 線電力伝送である以上,空間中の電磁界による電力伝 送こそが本質であると考えられる.本論文では,多種 多様な

WPT

技術を統一的に俯瞰することを目的とし て,「結合」と「共振」をキーワードに,電磁界の観点 から

WPT

技術を大局的に整理する.

2.

では,放射型・電磁誘導型を含む

WPT

の関係 を整理する.

3.

では,構成要素に分解することによ り,結合共振型

WPT

方式を俯瞰する.

4.

では,結合 と共振のモデルを用いて,結合共振型

WPT

方式を俯 瞰する.

5.

では,数値例により,幾つかの結合共振型

WPT

方式の違いを電磁界の観点から説明する.

6.

は まとめである.

1 「電界結合」と「磁界結合」の観点による,結合共振 WPT技術の分類

Fig. 1 Categorization of coupled-resonance WPT technologies from “E-field coupling” and “H- field coupling”.

2. WPT

技術の分類と関係

2. 1

結合共振型

WPT

技術の分類と関係

WPT

技術は,遠方界を用いる「放射型」

[5]

,近傍 界を用いる「電磁誘導型」

[6]

,「結合共振型」,「電界型」

などに分類される.本節では結合共振型を更に電界結 合と磁界結合の観点から分類する.

結合共振型

WPT

は,主に

1)

電磁誘導の漏れ磁束 をキャパシタで補償したもの,

2)

静電誘導の漏れ電束 をインダクタで補償したもの,

3)

自己共振を用いた もの,に分類される.更に,自己共振を用いた場合で も,集中定数のリアクタンス素子により共振周波数を 調整したものもある.これらの関係を電界結合と磁界 結合の観点から分類すると,図

1

のようになる.電磁 誘導

(Magnetic induction)

を用いた方式では磁界の みが,静電誘導

(Electrostatic induction)

を用いた方 式では電界のみが電力伝送に寄与する.一方,自己共 振型

(Self-resonant type)

は結合と共振を同一の素子 で実現するため,電界と磁界の両方が電力伝送に寄与 する.詳しくは

4.

で解説する.

2. 2 WPT

技術全般の分類と関係

伝送距離と電界・磁界の寄与の割合から,電磁誘導・

放射型を含む

WPT

技術の関係を模式的に示すと図

2

のようになる.電磁誘導型や静電誘導型にキャパシタ

(3)

2 代表的な結合共振型WPTの関係 Fig. 2 Relationship among WPT technologies.

やインダクタを接続して共役影像インピーダンス整合 をとることにより,小さな結合係数であっても伝送距 離を伸ばすことができるが,電磁現象としては電磁誘 導や静電誘導と同じである.自己共振を用いることで 電界と磁界の両方が電力伝送に寄与するようになる.

更に,放射型では空間インピーダンスは

377Ω

となり,

空間中の電気的蓄積エネルギーと磁気的蓄積エネル ギーは等しくなり,受電電力はフリスの伝達公式に従 うようになる

[7]

.詳細は

3.

及び

4.

で説明する.

2

本のダイポールアンテナを,ダイポール長の数倍 程度の距離に設置し,伝送効率が最大になるような最 適負荷を設置した場合,ダイポール長が波長に比べて 短い領域では放射が少なくなるため,インピーダンス 整合により反射を抑えてしまえば伝送効率が高くな る

[8]

.この場合,整合回路とダイポールアンテナを 一つの系とみなせば,結合共振型として動作している ことになる.ダイポール長,ダイポール間距離を固定 したまま周波数を上げていき,ダイポール長が半波長 程度,ダイポール間距離が数波長の領域になると,ダ イポールの共振により放射された電磁波により電力が 伝送されるため,伝送効率が高くなる.この場合は放 射型として動作していることになる.このように,同 一の構造であっても,周波数によって結合共振型から 放射型に連続的に変化する.また,電磁誘導型であっ

ても,負荷インピーダンスを共役影像インピーダンス に近づけていくことで,結合共振型へと連続的に変化 する.

なお,「アンテナ」という用語については議論のある ところである.電子情報通信学会のアンテナ工学ハン ドブックでは,「電磁波と電気回路その他とのエネル ギー変換を行う装置である」と定義されている

[9]

.こ の定義によると,電磁波ではなく電磁界を用いる結合 共振型

WPT

には適用できなくなる.「共振器」「共振 子」のような表現も使われるが,この場合,空間に磁 界を発生させるインダクタと集中定数素子のキャパシ タを合わせて「共振器」となるときは,空間に電磁界 を発生させる素子のみを指す表現が別に必要となる.

電磁誘導を用いる

HF

RFID

タグにおいても「アン テナ」という用語が使われていること

[10]

も考慮し,

本論文中では,アンテナを「電磁界と電気回路の間で エネルギー変換を行う装置である」と定義する.この 定義によれば,空間に磁界を発生させることを目的と したコイルや,走行中給電などのアプリケーションで 用いられる平行

2

本線路

[11]

も,アンテナに含まれる ことになる.

(4)

3 結合共振型WPTの構成要素 Fig. 3 Components of coupled-resonance WPT

technology.

3.

結合共振型

WPT

の構成要素

3. 1

結合共振型

WPT

の構成要素の概要 結合共振型

WPT

機構を,その構成要素に分解して 分類すると,図

3

に示すような結合方式

(Coupling Mechanism)

,共振方式

(Resonant Mechanism)

,給 電方式

(Feeding Mechanism)

の組み合わせで表現で きる.結合方式は電界主結合

(E-field dominant cou- pling)

と磁界主結合

(H-field dominant coupling)

,共 振方式は自己共振

(Self-resonant)

LC

共振

(LC res- onant)

,給電方式は直接給電

(Direct feeding)

と間接 給電

(Indirect feeding)

に分類される.多くの結合共 振型

WPT

方式は,これらの組み合わせで表現できる.

例えば,

MIT

のデモンストレーションで行われた方 式

[12]

は,磁界主結合・自己共振・間接給電の組み合 わせである.また,パワーエレクトロニクス技術の応 用で行われる方式は,磁界主結合・

LC

共振・直接給 電の組み合わせとなる.以下に,それぞれの方式の特 徴を説明する.

3. 2

結 合 方 式

送電アンテナと受電アンテナが,主として,どの電 磁界成分により結合するかを示す.例えば開放型スパ イラル共振器を用いた場合,磁界結合が大きな割合を 占めるが,電界結合も無視できない程度に存在する.

そのため,磁界結合がドミナントとなる磁界主結合方 式と,電界結合がドミナントとなる電界主結合方式に 分類される

[13]

磁界主結合方式の場合は,周囲の物体の透磁率の影 響を受けるが,誘電率の影響を受けにくいことが特徴 である.我々の身近には,比誘電率が

1

以上の誘電体 が多数存在するが,比透磁率が

1

以上の物体は磁性体 や金属などに限られる.そのため,周囲の物体の影響 を受けにくいことが特徴である.一方,磁界を発生さ せるためには導線を巻くことが必要となり,導体が長 くなるため,導体損失が大きくなることがデメリット である.

電界主結合方式の場合は,周囲の物体の誘電率によ り影響を受けやすくなることがデメリットとなる.一 方,導体を巻く必要がなくなるため導体損失が少ない ことや,アンテナの構造が簡単となるため走行中給電 などには適しているというメリットがある

[14]

3. 3

共 振 方 式

共振を起こすための方法は,アンテナ単体で共振を 起こす自己共振方式と,外部に集中定数素子を接続す ることにより共振を起こす

LC

共振方式に分類される.

自己共振のための素子としては,両端が開放になっ たヘリカルアンテナ,スパイラルアンテナ,メアンダ ラインアンテナなどの電気的小形アンテナが用いられ る.共振のための集中定数素子を必要としないため,

大電力を伝送するときにキャパシタの耐圧などの問題 が発生しないこと,構造が単純となることがメリット である.一方,電界と磁界の両方を発生させるため,

不要放射が大きくなることがデメリットである.自己 共振アンテナを用いた場合,分布定数素子としての取 り扱いが必要となる.

LC

共振器の場合は,アンテナそのものはインダク タ

(

磁界主結合の場合

)

やキャパシタ

(

電界主結合の場 合

)

として動作し,共振させるために集中定数のリア クタンス素子を接続する.集中定数素子としての取り 扱いができる場合が多い.

3. 4

給 電 方 式

共振器に電源や負荷を接続するための方法は,直接 給電方式と間接給電方式に分類される.

直接給電方式は,共振器に直接電源や負荷を接続す る方式である.構造が簡単になることが長所であるが,

不平衡系のケーブルから直接給電した場合に,不平衡 電流が流れやすくなるという問題が生じる.

間接給電方式は,共振器の近傍にループコイルなど による励振機構を設け,励振機構に電源や負荷を接続 する方式である.共振器と励振ループの距離,励振ルー プの半径など,設計自由度が増えるため,インピーダ ンス整合回路を外部に接続する必要がなくなることが 特徴である.後述するように,結合共振型

WPT

では 共振現象によりインピーダンスの虚部の整合をとるの と同時に,インピーダンスの実部の整合もとる必要が ある.間接給電型の場合は,励振機構がインピーダン ス変換トランスの役割を果たすため,整合回路を用い ずに任意の電源インピーダンスと負荷インピーダンス に対して共役影像インピーダンス整合をとることがで きる.また,電源や負荷と共振器が電気的に接続され

(5)

ていないため,不平衡電流が流れにくく,共振器の周 囲にある物体の影響を受けにくいことが特徴である.

4.

結合と共振の観点から一般化した結合 共振型

WPT

のモデル

4. 1

結合共振型

WPT

モデル

4. 1. 1

モデルの概要

4

のモデルを導入することにより,結合コイルと 共振用キャパシタを用いたものや,自己共振アンテナ を用いたものなど,波長より小さな構造をもつ多くの 種類の結合共振型

WPT

システムを統一的に説明でき る.送電側と受電側はそれぞれ共振器

(Resonator)

で できている.共振器は外部に電磁界を発生させ結合に 寄与する素子であるアンテナと,外部に電磁界を発生 させないリアクタンス素子で構成されている.アンテ ナは,外部に発生させる電界に対応した容量性リアク タンス

X

Cantと,外部に発生させる磁界に対応した 誘導性リアクタンス

X

Lantを有している.リアクタ ンス素子も容量性リアクタンス

X

Cexと誘導性リアク タンス

X

Lexを有している.送電側共振器には,最適 出力インピーダンスをもつ電源が,受電側には最適入 力インピーダンスをもつ負荷が接続されている.

なお,アンテナを構成する

X

Cant

X

Lantは,集 中定数素子を用いた場合は物理的な素子と

1

1

で対 応する.例えば,アンテナとして電磁誘導コイルを用 いた場合,このコイルが

X

Lantに直接対応する.一 方,分布定数素子を用いた場合は,一つの物理的な構 造が,このモデル中の

X

Cant

X

Lantの両方に対応 することになる.例えば,半波長ダイポールアンテナ を用いた場合は,主として両端にたまる電荷により発 生する電界が

X

Cantに,主として中央部を流れる電 流により発生する磁界が

X

Cantに対応する.

4. 1. 2

結合の観点からの説明

送電側と受電側はアンテナによって結合する.送受

4 一般化した,結合共振型WPTのモデル Fig. 4 Generalized coupled-resonant WPT model.

電アンテナの容量性成分同士は,電界結合係数

k

cに よって電界結合している.送受電アンテナの誘導性成 分同士は,磁界結合係数

k

mによって磁界結合してい る.結合の観点では,送受電のアンテナ同士のみが電 磁界による結合をしており,リアクタンス素子は外部 に電磁界を発生させないため結合には寄与しない.図 中において,電界結合と磁界結合の矢印は,アンテナ の容量性成分同士・誘導性成分同士を結んでおり,共 振器の容量性成分同士・誘導性成分同士を結んでいる のではないことに注意されたい.

なお,アンテナ自身を特徴付ける量である

X

Cant

X

Lantは,伝送距離には依存せず,電界・磁界の結合 係数

k

C

k

M のみが距離依存性をもつ.結合共振型無 線電力伝送は,近傍界を用いているため,伝送距離が 同一であったとしても位置関係により電界結合係数と 磁界結合係数が独立して変化するので,距離依存性を 表現するためには二つの自由度が必要になる.

4. 1. 3

共振の観点からの説明

共振器はリアクタンス素子とアンテナより構成され る.共振器としての観点では外部に電磁界を発生させ ているか否かは関係なく,アンテナとリアクタンス素 子を合わせた誘導性リアクタンスと,アンテナとリア クタンス素子を合わせた容量性リアクタンスの値が等 しくなる周波数で共振が起こる.なお,共振時は共振 器に蓄積された磁気的エネルギーと電気的エネルギー が等しくなるが,リアクタンス素子に蓄積されたエネ ルギーを考慮すれば,空間に蓄積された磁気的エネル ギーと電気的エネルギーが等しくなるとは限らないこ とに注意が必要である.

4. 1. 4

インピーダンス整合の観点からの説明

送受電アンテナ間の電磁結合をブラックボックス化 して,アンテナの端子間を

S

パラメータにより特徴付 けた上で,送電側と受電側で同時に複素共役整合が達 成される共役影像インピーダンス整合を行うような整 合器を送受電側に接続することにより,受電電力を最 大化できる.このような考え方に基づけば,「結合」と いう概念も「共振」という概念も使用せずに,

WPT

機構を設計することが可能となる

[15]

.この場合,整 合回路は,図

4

におけるリアクタンス素子に相当し,

アンテナのリアクタンスと整合回路のリアクタンスに よって,共振器が実現されることになる.

(6)

5 代表的な結合共振型WPT機構 Fig. 5 Prototypes of coupled-resonant WPT.

4. 2

様々な結合共振型

WPT

機構と,モデルによ る説明

4. 2. 1

自己共振型

MIT

による結合共振型

WPT

のデモンストレーショ ン

[12]

では,開放型ヘリカルコイルが用いられた.単 体の開放型ヘリカルアンテナは,主として中央を流れ る電流による微小ループと,主として両端にたまる電 荷による微小ダイポールに分解できる.微小ループは 誘導性リアクタンス,微小ダイポールは容量性リアク タンスをもっているため,この二つが等しくなる周波 数において,共振が発生し,インピーダンスの虚部が

0

となる.

2

個の開放型ヘリカルアンテナが結合した場

合は,図

5 (a)

に示すように,微小ループ同士が磁界

結合,微小ダイポール同士が電界結合することとなる.

このことを,図

4

に示すモデルを使って説明する

と,図

6 (a)

のようになる.アンテナ自身が誘導性と

容量性リアクタンスをもっているため,リアクタンス 素子を用いなくても共振が起こる.この結果,電界結 合と磁界結合の両方が存在することになる.電界結合

6 一般化した結合共振型WPTモデルによる,代表的 な方式の説明

Fig. 6 Coupling and resonant mechanism for prototypes of coupled-resonant WPT.

と磁界結合が共存することの影響として,巻き方を逆 にすることにより結合係数が変化するといった現象が 現れる

[16]

なお,単にヘリカルアンテナを結合させただけでは,

インピーダンスの虚部の整合しか行われないため,実 部を整合させるための方法は別に必要である.

MIT

の デモンストレーションでは,ループによる間接給電構 造とし,ループとヘリカルの間隔を調整することによ り,実部の整合を行っている.

等価回路の観点で考えると,自己共振型であっても,

トランスで表現することができる

[17]

.しかしながら,

等価回路は,ポートから見た振る舞いを表現すること が目的である.等価回路がトランスで表現できること

(7)

と,磁界結合のみが存在する

(

電界結合が存在しない

)

ことは,必ずしも等価ではないことは注意が必要であ る.具体的には,伝送距離を変えた場合,トランスを 用いた等価回路ではトランスの自己インダクタンスが 距離依存性をもつこととなる.自己インダクタンスの 物理的意味を考えれば,自己インダクタンスは距離に 依存せず,相互インダクタンス

(

結合係数

)

のみが距離 依存性をもつべきである.電界結合と磁界結合を合わ せて一つのトランスで表現しているために,自己イン ダクタンスが距離依存性をもつことになる.電界結合 と磁界結合の両方を考慮した等価回路を用いることに より,より物理現象に忠実な等価回路表現が可能とな る

[18]

4. 2. 2

微小ダイポールアンテナに,共役影像インピーダン スに基づく複素共役整合を行う整合回路を接続した場 合のシステムモデルは図

5 (b)

になる.これは,小形 アンテナの電気的体積

[19]

の中に侵入した別のアンテ ナへの相互干渉として捉えることもできる.これを結 合共振モデルで説明したものは図

6 (b)

となる.微小 ダイポールアンテナは電気ダイポールとみなせるので,

電界結合のみが存在する.微小ダイポールアンテナの 入力インピーダンスは容量性なので,共振のためには 外部にリアクタンス素子が必要である.インピーダン ス整合の観点で設計した場合,アンテナと整合回路を まとめて一つの共振器とみなすと,アンテナと整合回 路のリアクタンス成分により共振していることになる.

すなわち,整合回路が,インピーダンス虚部を

0

にし て共振を起こす作用と,実部の整合を行い受電電力を 最大化する作用をもっていることになる.

4. 2. 3

磁 界 型

送受電コイル間の結合をトランスとみなし,力率補 償のキャパシタを接続し,更に受電電力を最大化する ための最適負荷を接続した場合のシステムモデルは 図

5 (c)

になる.この場合,図

6 (c)

に示すように,送 受電コイルは誘導性リアクタンスのみをもつため,力 率補償キャパシタの接続により共振器を構成している ものとみなすことができる.

磁界型における漏れ磁束と共振の関係を図

7

に示 す.トランスの漏れ磁束による力率の低下を補償する ために,キャパシタを接続する

(

7 (a))

.漏れ磁束 のあるトランスは,漏れ磁束を表現するインダクタと,

結合に寄与する磁束を表現する理想トランスで表現で きる

(

7 (b))

.キャパシタは,コイルのインダクタ

7 電磁誘導を用いた結合共振型における漏れ磁束と共 振の関係

Fig. 7 Leakage flux and resonant mechanism for coupled-resonant WPT using magnetic induc- tion.

8 電磁誘導型と結合共振型の関係

Fig. 8 Venn diagram for WPT using magnetic induction and coupled resonance.

ンス

L

に共振しているのではなく,漏れ磁束を表現す るインダクタンス

(1 k ) L

に共振している

(

7 (c))

. 結合共振型の特徴である,ある特定の距離において伝 送効率が最大になる原因は,これによって説明される.

共振周波数においてはキャパシタと漏れ磁束によるイ ンダクタの合成リアクタンスは

0

となり,理想トラン スは

1

次側と

2

次側で電圧と電流が等しくなることを 考慮すると,図

7 (c)

のように変形でき,導体損を無 視すれば伝送効率が

100%

となることが説明できる.

電磁誘導型と結合共振型の関係を図

8

に示す.電磁 誘導を用いた結合共振型は,無線伝送区間だけに着目 すれば電磁誘導方式であること,結合共振型の共通の

(8)

特徴は共役影像インピーダンス整合を行うことである ことが説明できる.

5.

自己共振型と

LC

共振型との特性の比較

5. 1

自己共振モデルと

LC

共振モデル

本章では,電界結合と磁界結合の両方が存在するこ とによる影響を明らかにする.

9

に示す自己共振開放型スパイラルアンテナは,

単体時に

36.7MHz

で自己共振する.

LC

共振短絡型 モデル

(

10)

は,開放型アンテナの両端を短絡した 上で,この構造がインダクタとして動作する

25MHz

で共振するようにキャパシタを直列に接続した.両 方のモデルとも,送電側・受電側ともに時計回りに 巻いた順方向巻き

(Co-direction)

モデルと,送電側 は時計回り,受電側は半時計回りに巻いた逆方向巻 き

(Contra-direction)

モデルの特性の違いを比較す る

[20]

5. 2

空間インピーダンス

電磁界の観点から自己共振型と

LC

共振型の違いを 明らかにするために,次式で定義される対数正規化空 間インピーダンス

ζ [21]

を用いる.

ζ = 20 log

10

1

η

0

| E |

| H |

= 10 log

10

W

E

W

M

(1)

ただし

η

0

=

μ

ε は真空の空間インピーダンス,

E

9 自己共振開放型スパイラルアンテナ Fig. 9 Self-resonant open-end spiral antenna.

10 LC共振短絡型スパイラルアンテナ Fig. 10 LC-resonant short-end spiral antenna.

H

はそれぞれ電界ベクトル,磁界ベクトルを表す.対 数正規化空間インピーダンスは,正の値をもつときは 電界が支配的,負の値をもつときは磁界が支配的,

0

のときは自由空間伝搬と同じであることを示す.また,

ζ

は同時に,磁気的蓄積エネルギー

W

Mに対する電気 的蓄積エネルギー

W

Eの比ともなっている.

11

12

に,それぞれ自己共振型モデルと

LC

共 振型モデルの対数正規化インピーダンスを示す.

(a)

図は

x - z

平面のものであり,白線はアンテナの位置を 示す.

(b)

図は送受電アンテナの中間

( z = 0)

におけ る

x-y

平面のものである.自己共振型モデルは

LC

共 振型モデルに比べ電界の影響が強いことが分かる.電 界結合の影響により,自己共振モデルは送電アンテナ と受電アンテナの巻方向により結合係数が変化するこ とが知られている

[16]

この違いの原因を調べるために,図

13 (a), (b)

に,

それぞれ自己共振モデル,

LC

共振モデルの銅線上の 電流分布を示す.横軸はモーメント法による解析時の セグメントであり,左半分は送電側アンテナ,右半分 は受電側アンテナに対応する.

LC

共振モデルについ ては,送受電アンテナ共に,左側部分が短絡部分に対 応する.この図より,

LC

共振型の方が自己共振型に 比べ

10

倍以上の電流が流れていることが分かる.ま た,

LC

共振型の方が電流が大きいため,銅体損の影

11 自己共振モデルの空間インピーダンス分布 Fig. 11 Spatial impedance distribution for serlf-resonant

model.

12 LC共振モデルの空間インピーダンス分布 Fig. 12 Spatial impedance distribution for LC resonant

model.

(9)

13 電 流 分 布 Fig. 13 Current distribution.

14 順巻きモデルと逆巻きモデルのSパラメータ Fig. 14 S parameters for co-direction and

contra-direction models.

響が大きいことが知られている

[21]

5. 3

伝送特性と結合係数

自己共振モデルの

S

パラメータを図

14 (a)

に示す.

逆巻きにすることで,周波数分離から求めた結合係数 は

2.3

倍となった.この現象は,電磁誘導だけでは説 明がつかず,電界結合の影響があることを示している.

マイクロ波理論の分野では,共振器の結合係数は電界 結合係数と磁界結合係数の差となることが知られてい る

[22]

.そのため,電界結合と磁界結合を有する自己 共振型スパイラルアンテナでは,送信アンテナと受信 アンテナを逆方向に巻くことにより結合係数を向上さ せることが可能となる

[16]

.逆方向巻きモデルは,送 信側は時計回りとすると受信側は反時計回りに巻いた ものであるが,同じものを向かい合わせにしたもので もある.円偏波アンテナの類推として考えると,偏波 を一致させることによる偏波損の抑制という見方もで きる.

LC

共振モデルの

S

パラメータを図

14 (b)

に示す.

逆巻きにしても伝送特性は大きく変化せず,結合係数 は

1.09

倍になった.これは,電磁誘導においては片側 のアンテナを裏返しにしても,極性が反転するだけで 伝送特性は変化しないものとして説明できる.一方,

小さいながらも結合係数が変化していることは,わず かながら電界結合も存在していることを意味している.

6.

む す び

結合共振型

WPT

の本質は,近傍界領域における電 界と磁界のどちらかまたは両方を用いた電磁結合に,

共役影像インピーダンス整合を用いて,受電電力最大 化を図ったものである.共振現象は,インピーダンス の虚部を

0

にすることにより,近傍界中に蓄積されて いる無効電力を,有効電力として取り出す作用をもつ.

従来からの電磁誘導においても共振用キャパシタは用 いられる場合は多かったが,インピーダンスの実部の 整合もとることが,結合共振型の特徴である.また,

伝送距離に応じて結合状態が変化するため,共振周波 数や回路定数を動的に適応させることが必要不可欠で ある.

本論文では,整合回路を含む無線伝送区間のみに注 目して議論を行った.実用化のためには電源や負荷を 含めたシステムとしての議論が不可欠であり,既存の 学問領域の枠を超えた取り組みを行っていく必要が ある.

謝辞 本研究は

JSPS

科研費基盤研究

C 24560453

の助成を受けたものです.

文 献

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(10)

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(平成2716日受付,426日再受付)

平山 裕 (正員)

10電通大・電子情報卒.平12同大大 学院博士前期課程了.平15同大学院博士 後期課程了.同年電通大リサーチアソシエ イトを経て名工大助手,平19同助教,平 25同准教授,現在に至る.博士(工学).ア ンテナ及び環境電磁工学,無線電力伝送の 研究に従事.著書「電界磁界結合型ワイヤレス給電技術-電磁 誘導・共鳴送電の理論と応用-」等.IEEE会員.

菊間 信良 (正員:フェロー)

57名工大・工・電子卒.昭62京大大 学院博士課程了.同年同大助手.昭63 工大助手,平2同講師,平4同助教授,平 13同教授,現在に至る.工博.アダプティ ブアレー,到来方向推定,多重波伝搬解析,

無線電力伝送の研究に従事,第4回電気通 信普及財団賞受賞.著者「アダプティブアンテナによる適応信 号処理」,「アダプティブアンテナ技術」等.IEEEシニア会員.

Fig. 1 Categorization of coupled-resonance WPT technologies from “E-field coupling” and  “H-field coupling”
図 2 代表的な結合共振型 WPT の関係 Fig. 2 Relationship among WPT technologies.
図 3 結合共振型 WPT の構成要素 Fig. 3 Components of coupled-resonance WPT
図 5 代表的な結合共振型 WPT 機構 Fig. 5 Prototypes of coupled-resonant WPT.
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参照

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