はめ込まれた曲面の二重化の持ち上げ可能性
市原一裕1 奈良女子大学理学部情報科学科 佐藤 進2 千葉大学大学院自然科学研究科
ユークリッド平面
R
2上に平面曲線が与えられたとき,それは必ずR
3内の適 当な結び目の影となり得ます. この現象を1次元上げたところで考えると,状況 は変わってきます. つまり,R
3内に自己交差をもつ曲面が与えられたとき,それ が常にR
4内の曲面結び目の影となるとは限りません(ここで曲面とは正確に は連結な閉曲面のことです).R
3内の曲面がR
4内の埋め込みに持ち上がるた めの必要十分条件も, すでに知られています[1, 3, 4, 5].
持ち上げ不可能な曲面の典型的な例として,ボーイの曲面
[2](射影平面の R
3 へのはめ込み)が挙げられます. これは,R
4に埋め込まれた射影平面をR
3へ 射影すると,その影は必ずブランチ点(ホイットニーの傘)をもたなければなら ず,R
3内のはめ込みにはなり得ないからです. 同じ理由で, オイラー標数が奇 数である向き付け不可能な曲面のR
3へのはめ込みも,常に持ち上げ不可能であ ることが分かります.それでは向き付け可能な曲面, 例えば2次元球面で持ち上げ不可能な例は存 在するのでしょうか. これに関してギラー
[4]
は, ボーイの曲面を二重化するこ とにより,持ち上げ不可能な2次元球面のはめ込みの例を与えました.ボーイの曲面自体も持ち上げ不可能でしたから, ギラーの構成法から次のよ うな疑問が自然に生じます. すなわち,
R
3へのはめ込みが持ち上げ不可能なら ば,その二重化も「常に」持ち上げ不可能となるのでしょうか. 注意したいのは, このような二重化はR
3へのはめ込み(ブランチ点を持たない場合)に対して 定義されることと, もとの曲面が向き付け可能ならばそれ自身と二重化の持ち1日本学術振興会特別研究員
(PD)
2日本学術振興会海外特別研究員
上げ可能性は一致することです. したがって,もとのはめ込まれた曲面が向き付 け不可能なときが本質的な問題となります.
以下では, 向き付け不可能な曲面
M
2に対して,g M
2によってそのオイラー標 数がM
2のそれの2倍となるような向き付け可能な曲面を表します. したがってRP ]
2= S
2, # ^
nRP
2= #
n−1T
2(n ≥ 2)
です. また, 扱うはめ込みf : M
2→ R
3 はジェネリック, すなわちその自己交差集合が2重点および3重点から構成さ れるものとし, その二重化をf e : g M
2→ R
3で表すことにします. この報告にお ける主結果は次のものです.定理.