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先史 ・歴史 : オーストラリアへの道

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先史 ・歴史 : オーストラリアへの道

著者 堀江 保範, 小山 修三

雑誌名 国立民族学博物館研究報告別冊

巻 015

ページ 13‑32

発行年 1991‑12‑13

その他のタイトル History : By What Route did the First Australians Arrive?: A New View

URL http://doi.org/10.15021/00003595

(2)

I

先 史 ・ 歴 史

(3)

堀 江 ・小 山   オ ー ス トラ リアへ の道

ト ラ

範*・ 小 三**

1.は じめ に 皿.移 動 の 開 始 皿.移 動 の 道

】V.移 動 の 波

V.ま と め 一 オ ー ス トラ リア ・ア ボ リジ ニ の 成 立

I.は 『じ

  現 在,最 初 の 人 類 は オ ー ス トラ リ ア に5万 年 前 に 到 着 し た と され て い る  【ROBERTS θ'砿19901。 しか し,そ の 年 代 は 最 大10万 年 に さ か の ぼ る こ と が 考 え ら れ る 。 人 類 が

ホ モHomoの 段 階 に 進 化 し 今 日 に 到 る 約200万 年 の 間,オ ー ス トラ リ ア 大 陸 は 気 候 変 化 に よ る 海 進 海 退 に も か か わ らず,他 の ユ ー ラ シ ア や ア メ リ カ大 陸 と異 な り,常 海 に よ り切 り離 さ れ て き た 。 こ の た め 約150万 年 前 以 降 の ホ モ ・エ レ ク タ ス に よ る ア フ リ カ か ら ユ ー ラ シ ア 各 地 へ の 拡 散 に 比 べ 人 類 の 移 住 は 非 常 に 遅 れ る 。 そ れ で も 最 初 の ア メ リ カ 大 陸 へ の 移 動 が2万 年 前 以 降,し か も 陸 づ た い に 行 な わ れ た こ とを 考 え る と,海 を 超 え る と い う技 術 の 獲 得 に よ り初 め て 可 能 に な っ た オ ー ス トラ リア へ の 移 動 が5万 年 以 前 に 実 現 し て い た こ と は 非 常 に 興 味 深 い 。 彼 ら は な ぜ オ ー ス ト ラ リ ア を 目 指 し,ま た い か な る ル ー トを 通 っ て 到 達 した か を,現 代 の オ ー ス トラ リア ・ア ボ リ ジ

ニ の 一 般 的 形 質 特 徴 の 成 立 と関 連 付 け て 考 え て み た い 。

.移 動 の 開 始

  ア フ リ カ南 東 の 大 地 溝 帯 周 辺 のサバンナ で す で に400万 年 前 よ り直 立 歩 行 を 開 始 し た 人 類 の 祖 先(Hominid)は,オ ー ス ト ラ ロ ピ テ ク ス の 段 階 を 経 て,約200万 年 前 に 人 類(Homo)へ と進 化 す る 。 石 器 使 用 が 確i認 さ れ て い る 最 初 の 人 類 で あ る ホ モ ・ハ ビ リ ス は 約150万 年 前 に ホ モ ・エ レ ク タ ス へ と進 化 し た 後,ア フ リカ か ら ユ ー ラ シ ア

*国 立民族学博物館 共同研究員

**国 立民族学博物館 第四研究部

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国立民族学博物館研 究報告別冊  15号 へ と拡 散 を 開 始 す る。100万 年 前 以 降 ア ジ ア 各 地 に ホ モ ・エ レ ク タ ス が 達 し て い る 。 東 ア ジ ア で は 中 国 の 元 謀,藍 田 及 び 周 口 店,東 南 ア ジ ア で は イ ン ドネ シ ア,ジ ャ ワ 島 の ト リ ニ ルTrini1や サ ソ ギ ラ ンSangiranが 知 ら れ る 。 ジ ャ ワ 島 は1万 年 前 以 降 の 海 面 上 昇 に よ り広 大 な 地 域 が 水 没 したスンダランドSunda  land南 東 部 の 一 角 を 占 め,100万 年 前 以 降 す で に ホ モ ・エ レ ク タ ス の 活 動 の 中 心 地 の 一 つ で あ っ た と 思 わ れ る 。 す で に こ の 時 点 で 人 類 は オ ー ス トラ リア の 対 岸 に 進 出 し て い た こ と に な る 。 しか し火 の 使 用 や,よ り進 ん だ 石 器 作 成(オルドワン か ら ア シ ュ ー リア ソ石 器 へ,ま た ル パ ロア 技 法 の 発 生)に 見 ら れ る技 術 進 歩 に も か か わ ら ず,約70万 年 間 の ホ モ ・エ レ ク

タ ス 段 階 で は 前 面 の 海 と い う 障 害 を 乗 り越 え る こ とは で き な か っ た 。

  過 去200万 年,人 類 は ホ モ ・ハ ビ リス か ら ホ モ ・エ レ ク タ ス へ,そ し て ホ モ ・サ ピ エ ソ ス へ と 進 化 した と の 解 釈 は 広 く了 解 さ れ て い る 。 約30万 年 前 を 境 に ホ モ ・エ レ ク タ ス か ら 進 化 した ホ モ ・サピエンス に は 古 代 型(Archaic  Homo  sapiens),ネ ア ン デ ル タ ー ル 型(Homo  sapiens Neanderthalensis),及 び 現 代 型(Anatomical  Modern Homo  sapiens)が 知 ら れ る が,そ の 進 化 の 過 程 に つ い て はネアンデル タ ー ル 型 と 現 代 型 の 関 連 を め ぐ り多 く の 解 釈 が な され て き た 。 古 代 型 か ら 進 化 したネアンデル タ ー

ル 型 は リ ス ・ ヴ ェ ル ム 間 氷 期(12.5万 〜7.5万 年 前)か ら ヴ ェ ル ム 氷 河 期 中 期(3万 年 前)に か け 旧 石 器 文 化 中 期 を 代 表 す る ム ス テ リ ア ン 石 器 を 使 用 し,精 神 文 化 面 で の 進 化 を も含 め,ヨ ー ロ ッパ ・中 東 ・北 ア フ リ カ を 中 心 に 生 存 した 。こ のネアンデル タ ー

ル 型 の 問 題 は 進 化 の 原 則 に 反 す る よ うな 形 質 的 特 殊 性 に あ る 。 ハ ウ ェ ルC.Howell は こ の 型 を さ ら に 古 典 型(Classic  Type:7.5万 〜3.5万 年 前)と 進 歩 型(Progressive Type:12.5万 〜7.5万 年 前)に 分 類 した が,よ り古 い 形 質 を と も な う古 典 型 は ほ ぼ ヨ ー

ロ ッパ に 限 られ,し か も 時 代 的 に は 進 歩 型 の 後 に く る 。 さ ら に 古 典 型 に つ い て は,30 万 年 前 か ら3.5万 年 前 に か け て の 進 化 に 対 す る 急 速(約5000年 の う ち)な 絶 滅 と い う 謎 が あ る。

  現 代 型 ホ モ ・サ ピエ ンス へ の 進 化 と 出 現 に つ い て は,こ の ネ ア ン デ ル タ ー ル の 謎 に 関 連 し,2つ の 代 表 的 説 が 提 唱 さ れ て き た 。 そ の 一 つ は ウ ォ ル ポ フM.Wolpoffが べ る よ うに,ホ モ ・エ レ ク タ ス が ユ ー ラ シ ア へ 拡 散 した 後,そ れ ぞ れ の 地 域 に お い て 他 地 域 と の 遺 伝 子 的 交 流 を 繰 り返 し な が ら も ネ ア ン デ ル タ ー ル 型 を 経 て 現 代 型 ホ モ ・ サ ピ エ ン ス に ま で 進 化 し た,と い う も の で あ る  【GARRET  l988:463]。 現 代 人 が 出 現

し た 単 一 の 中 心 地 点 な ど存 在 し な い,と の リ ー キ ーR.Leakyの 主 張 も これ に あ た る

【TIERNEY et al.  1988:39】 。

  第 二 の 説 は ス ト リ ン ガ ーC.Stringerや ビ ュ ー モ ン トP.B.  Beaumontら が 主 張 す

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堀 江 ・小 山  オ ー ス トラ リア へ の道

る 現 代 型 の 単 一 地 域 発 生 と 拡 散 で あ る 。 彼 ら は サ ハ ラ 以 南(Sub‑Sahara)の ア フ リ カ で 発 生 した 現 代 型 ホ モ ・サピエンス が,ホ モ ・エ レ ク タ ス に よ る ア フ リカ か ら の 拡 散 と 同 様 に 第 二 の 出 ア フ リ カ を 約10万 年 前 以 降 に 行 な い,ユ ー ラ シ ア 各 地 の 先 住 集 団

と の 入 れ 替 え が 発 生 し た と想 定 す る 。 ビ ュ ー モ ン トは 南 ア の ボ ー ダ ー 洞 窟Border Caveや ク レイ シ ス 河 口遺 跡Klasies  River Mouth発 掘 か ら,サ ハ ラ 以 南 で の 旧 石 器 中 期 が12.5万 か ら4.9万 年 前(も し くは16万 〜6万 年 前)と 他 の ユ ー ラ シ ア 地 域 に 比 べ 古 い(特 に 中 期 か ら 後 期 へ の 移 行 が ヨ ー ロ ッパ に 比 べ1.5〜2.5万 年 早 い)と の 確 信 を え る 。 こ れ を 基 に 彼 は,サ ハ ラ 以 南 に お い て は フ ロ リス バ ッ ドFlorisbad(南 ア,17 万 年 前),オ モOmo(エ チ オ ピ ア,13万 年 前)そ れ に ブ ロ ー ク ン ヒ ルBroken  Hill J

(ザ ソ ビ ア,12.5万 年 前)な ど の 古 代 型 が ボ ー ダ ー 洞 窟(11万 〜9万 年 前)や ク レイ シ 'ス河 口遺 跡(10万 〜7万 年 前)に 代 表 さ れ る 現 代 型 へ 直 接 進 化 し,ヨ ー ロ ッパを 中 心 とす るネアンデル タ ー ル 型 は,古 代 型 が そ の 環 境 に 対 応 して 特 殊 進 化 を し た 別 系 統 で あ る と主 張 した 【BEAuMoNT  1978:416‑4171。 ス ト リ ソ ガ ー は18の 要 素 に よ る 頭 骨 の 多 変 量 分 析 か ら,ヨ ー ロ ッ パ のネアンデル タ ー ル 型(ハ ウ ェ ル の い う古 典 型)と 現 代 型 ホ モ ・サピエンス が 別 系 統 の 集 団 で あ る と 主 張 す る 。 そ し て ヨ ー ロ ッパ に お け る ネ ア ンデ ル タ ー ル 型 の 急 激 な 消 滅 か ら,ア フ リ カ か ら拡 散 し て きた 現 代 型 と の 完 全 な 入 れ 替 え が 短 期 間 の う ち に 発 生 し,遺 伝 子 の 交 換 を 含 む 混 血 は ほ と ん ど存 在 しな か っ た と し て い る[TRINKAus&HowELLs  1979:132】 。 ヨ ー一 nッ パ 旧 石 器 中 期 最 終 期 の ネ ア ソ デ ル タ ー ル 型(古 典 型)と そ れ に 続 く 旧 石 器 後 期 早 期 の 現 代 型 の 形 質 的 違 い に つ い て は,ト リ ン カ ウ スE.Trinkausや ハ ウ ェル ズW.W。  Howellsが,ネアンデル タ ー ル 型 に つ い て は そ の 最 終 期(古 典 型)で す ら現 代 型 ホ モ ・サピエンス へ の 進 化 の 方 向 を な ん ら示 さ ず,ま た 現 代 型 に つ い て は,そ の 最 早 期 の も の で す ら ネ ア ン デ ル タ ー ル 型(古 典 型)と 現 代 型 の 中 間 的 特 徴 を 備 え る も の が な い,と 指 摘 して い る よ うに 連 続

性 に 欠 け て い る 【TRINKAus&HowELLs  1979:130】 。

  現 代 型 ホ モ ・サ ピエ ン ス の 出 現 拡 散 問 題 に 関 し て は,1987年 に 生 化 学 の 分 野 か ら一 つ の 重 大 な 提 案 が な さ れ た 。キャンR.Cann及 び カ リ フ ォ ル ニ ア 大 バ ー ク レー 校 の グ ル ー プ は147人 の 妊 産 婦 の 胎 盤 か ら抽 出 さ れ た ミ トコ ン ド リ アDNAを 比 較 し た 結 果,ア フ リ カ人 サ ソ プ ル に 特 有 な も の と全 て に 共 通 す る2つ の タ イ プ に 分 類 した 。 そ し て よ り多 様 性 を 持 つ 前 者 か らDNA系 統 樹 の 原 点 を ア フ リカ と し,ま た そ の 多 様 性 が 意 味 す る 突 然 変 異 の 回 数 か ら 逆 算 し た 結 果,現 在 地 球 上 に 生 存 して い る 全 て の 人 間 は 約20万 年 前(も し く は29万 〜14万 年 前)ア フ リカ に 生 存 した 一 人 の 女 性 の ミ トコ ソ ド リアDNAを 継 い で い る と い う も の で あ る 【TIERNEY et al.1988:38‑44】 。 い い か

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国立 民族学博物館研 究報告別冊  15号

え れ ば 今 日 の 我 々 全 て が こ の 女 性 の 子 孫 に あ た る こ とを 意 味 す る こ の 「イ ブ 仮 説 」 は, 現 時 点 に お て ス ト リ ン ガ ーやピューモント の 主 張 す る 現 代 型 の ア フ リ カ 起 源 と第 二 の

出 ア フ リ カ説 と一 致 す る 。

  そ こ で 現 代 型 ホ モ ・サピエンス の ア フ リ カ か ら の 拡 散 と い う前 提 に 立 つ と,オ ー ス ト ラ リア へ の 人 類 移 動 の 原 因 に つ い て 一 つ の 仮 説 が 浮 か び 上 が っ て く る 。

  第 一 次 の 出 ア フ リカ に よ り約100万 年 前 に ア ジ ア へ 進 出 した ホ モ ・エ レ ク タ ス は, 北 の 中 国 と南 の ス ン ダランド を 中 心 に30万 年 前 以 降 古 代 型 ホ モ ・サ ピ エ ン ス へ と進 化

す る 。 中 国 の 大 蕩(12.5万 年 前)や 馬 覇(12.5万 〜7万 年 前),ま た イ ン ドネ シ ア,ジ ャ ワ 島 の ガ ソ ドンNgandong(30万?〜7万 年?前)が こ れ に あ た る 。 馬 覇 は ネ ア ソ デ ル タ ー ル 型 の 形 質 的 特 徴 を 有 し て お り,時 間 的 に も リス ・ヴ ェル ム 間 氷 期(12.5万

〜7 .5万 年 前)と い う ヨ ー ロ ッパ ・中 東 で のネアンデル タ ー ル 型(ハ ウ ェ ル の い う進 歩 型ネアンデル タ ー ル)出 現 と 時 を 同 じ く して い る 。 ま た ソ ロ人 と し て 知 ら れ る ガ ソ

ドン は 一 応 古 代 型 と考 え ら れ る が,確 定 年 代 不 詳 の た め そ の モ ザ イ ク 的 形 質 の 中 に ネ ア ン デ ル タ ー ル 型 の み な ら ず よ り古 い ホ モ ・エ レ ク タ ス の 要 素 を 持 つ と の 指 摘 も あ る 。 こ う し た こ と か ら,ま だ ヨ ー ロ ッパ ・中 東 に 比 べネアンデル タ ー ル 型 の 出 土 例 が 非 常 に 少 な い た め 確 定 は 難 し い の だ が,東 及 び 東 南 ア ジ ア で 約10万 年 前 以 降 に 古 代 型 が ネ ア ン デ ル タ ー ル 型(進 歩 型)に 進 化 し て い た 可 能 性 が 考 え られ る の で あ る 。   一 方,10万 年 前 以 降 す で に サ ハ ラ 以 南 の ア フ リカ で 古 代 型 か ら の 直 接 進 化 を 完 成 さ

せ た 現 代 型 ホ モ ・サピエンス は,ホ モ ・エ レ ク タ ス と同 様 に 第 二 の 出 ア フ リ カ を ユ ー ラ シ ア へ む か っ て 開 始 す る。拡 散 の 波 は9万 年 前 に は 中 東(カ フ ゼQafzeh:9.2万 前 一 イ ス ラ エ ル)に 達 した 後 東 へ 進 み,6〜4万 年 前 に 東 ア ジ ア(柳 江:6.7万 年?

前 一中 国)及 び 東 南 ア ジ ア(ニ ア 洞 窟Niah  Cave:4万 年 前 一 マ レ ー シ ア ・ボ ル ネ オ 島,ワ ジ ャ ッ クWadjak:洪 積 世 最 後 期 一 イ ン ドネ シ ア ・ジ ャ ワ島)に 達 す る 。 こ の 間 に 拡 散 の 波 を 受 け な か っ た ヨ ー ロ ッパ で は,7.5万 年 前 の ヴ ェ ル ム氷 河 期 開 始 に と も な う寒 冷 地 適 合 の た めネアンデル タ ー ル 型 が 特 殊 進 化 を 続 け,古 典 型 ネ ア ン デ ル タ ー ル へ と 進 む 。 そ して ア ジ ア に 遅 れ て3,5万 年 前 到 達 し た 現 代 型 に よ り,短 期 間 の う ち に 完 全 な 入 れ 替 え が 起 こ っ た 。 現 代 型 とネアンデル タ ー ル 型 の 差 に つ い て ホ ワ イ トR.Whiteが ヨ ー ロ ッパ の 旧 石 器 中 期 か ら 後 期 へ の 移 行 を 「文 化 的 爆 発 」 と述 べ て い る ご と くIGARRET  l988:440】,現 代 型 は 古 代 型 も し く は ネ ア ン デ ル タ ー ル 型 に 比 べ 計 画 性 や 技 術 面 で よ り進 ん だ 能 力 を 有 し て い た で あ ろ う。 拡 散 に と も な い,現 代 型 の 技 術 的 優 位 に 裏 付 け られ た 武 力 侵 入 と,侵 入 ニ ヅチ で の 先 住 古 代 も し くは ネ ア ン デ ル タ ー ル 型 に 対 す る武 力 淘 汰 は あ る程 度 は 発 生 した で あ ろ う。 しか し,今 の と こ ろ こ

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堀 江 ・小 山  オ ー ス トラ リア へ の道

れ を裏 付 け る もの は 出 土 して お らず,む し ろイ ス ラエ ル で の隣 接 遺 跡(カ フゼ:49.2 万 年 前 →現 代 型,ケ バ ラKebara:6万 年前 → ネ ア ンデ ル タ ール 型)の よ うに 同一 地 域 での 両者 の住 み 分 け と共 存 を うか が わせ る ので あ る。技 術 的 に も ア フ リカの ボ ー ダ ー 洞 窟 や ク レイ シス河 口遺跡 に見 られ る よ うな,旧 石 器 中 期 を代 表 す る ムス テ リア ソ型 石 器 の使 用 でネアンデル タ ール型 と重 複 して お り,当 初 か ら際 だ った 差 が あ った とは 考 え に くい。 む しろ現 代 型 が若 干 優 れ た計 画性 を獲 得 で きた こ とが最 終 的 入 れ替 え の 原 因 では な い だ ろ うか 。

  基 本 的 に は 狩猟 採 集 とい う同一 生 産 体 系 の両 集 団 が 平 和 的 に 同 じニ ッチ で住 み分 け て い て も,生 存 率 と結 びつ くわ ず か な計 画 性 の差 に よ り優 勢 とな った集 団 が そ の 中 心 を独 占 し,他 を しだ い に周 辺 部 へ押 し出す 。 そ して,長 期 的 に は 計 画性 に劣 る集 団 が 絶滅 す る。 これ が現 代型 の ユ ー ラ シア拡 散 に と もな い先 住 人 口集 団 に起 こ っ てい った の で は な い だ ろ うか 。 た だ ヨー ロ ッパ で の入 れ 替 え が武 力淘 汰 を うか がわ せ るほ ど短 期 間 に終 了 した のは,ヴ ェル ム氷 河 期 で は ツ ン ドラ とい う食 糧 生 産 量 の低 い地 域 で あ った に もか かわ らず,そ の環 境 に特 殊 適合 した 古 典 型ネアンデル タ ール人 口が,多 数 の 出土 例 か ら も明か な よ うに,ほ ぼ 人 口支 持 力Carrying  Capacity一 杯 に達 して い た 所 へ,よ り高 い計 画 性 を 持 った現 代 型 が進 出 したた め,住 み 分 けや 共 存 の 余裕 もな い

ま まに ニ ッチ を あ けわ た して 消 え去 った と考 え られ る の であ る。

  拡 散 現 代 型 と先 住 人 口 との 共 存 が 「住 み 分 け 」 で あ った とす るな らぽ,遺 伝 子 の 交 流 を もた らす 混 血 は,全 体 的 に見 れ ぽ非 常 に 限 られ た もの だ った で あ ろ う。 生 化 学 者 の い う 「イ ヴ仮 説 」 もネ ア ンデル ター ルの 核DNAを 我 々 が受 け 継 い で い る可 能 性 は 排 除 して い な いが,そ のミトコンドリアDNAが イ ヴの子 孫 の 出現 後 消滅 した 事 実 か ら,交 配 は あ った と して も ご くわ ず か で あ った と して い る。特 に ス トリソガ ーが 現 代 型 との混 血 の痕 跡 は 全 く見 られ ない と指 摘 す る ヨー ロ ッパ の古 典 型ネアンデル タ ー ル の場 合 は 【GARRET  1988:456],ビ ュ ーモ ン トのい う特 殊 進化 の結 果,現 代 型 との混 血 が 難iしい 段 階 に達 して い た の か も しれ な い 【BEAuMoNT  1978:416】。 これ は イ ス ラ エ ル の タ ブ ー ソTabun(4万 年 前)や ス フー ルSkhul(3.5万 年 前)が 現 代 型 とネ ア ソ デ ル タ ール 型 の 中 間形 質(タ ブ ー ソは よ りネアンデル タ ー ル的 で あ り,ス フ ール は よ り現 代 的)を 持 ち,ま た 現 代モンゴロイド に 周 口店 の ホ モ ・エ レク タス に も見 られ る シ ャベ ル型 門歯 が 多 い,と い った 他 の ユ ー ラ シ ア地 域 で の現 代 型 ホモ ・サピエンス と

ネアンデル タ ール を 始 め とす る古 い形 質 型 ホ モ との 遣伝 子 の交 流 の 可 能性 と比 較 した と き,地 域 差 の問 題 と して興 味 深 い 。

  約6万 年 前 以降 に東 及 び東 南 ア ジ アに達 した現 代 型 は 各 地(ワ ジ ャ ック:洪 積 世 最

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国立民族学博物館研究報告別冊  15号

後 期 一インド ネ シ ア ・ジ ャ ワ島,タボンTabon:3万 〜2万 年 前 一 フ ィ リピ ソ ・パ ラ ワ ン島,Ziyang=3.5万 〜1万 年 前 一 中 国,周 口店 上 洞=1.8万 年 前 一 中 国,港 川:

1.7万年 前 一 日本 ・沖縄)で,ほ ぼ2万 年 前 まで に先 住 古代 型 も し くはネアンデル タ ー ル型 との入 れ 替 えを 完 了 させ て いた 。 第 一 次 の 出 ア フ リカに よ りス ンダランド 南東 部 に到 達 し,少 な く とも約80万 年 にわ た る周 辺環 境 適 合 を 通 じ,ホ モ ・エ レ クタス か ら 進 化 して きた古 代 型 も し くはネアンデル タ ール型 ホ モ ・サ ピエ ンス の先 住 集 団 も間違 い な く現 代 型 拡 散 の波 を 受 け た で あ ろ う。 つ ま り,「拡 散 の波 とそれ に と もな う住 み 分 け を 通 じて の先 住 集 団 の ニ ッチか ら の最 終 的押 し出 し」 が オ ース トラ リアへ の 人類 移 動 の ひ きがね とな った 。移 動 を開 始 した 集 団 の うちの 一部 が,長 期 にわ た る熱 帯地 域 の河 川 や ご く近 い島 々を含 む沿 岸 資 源 活 用 を通 じて獲 得 した,原 始 的 な イ カ ダ等 に よる水 上 移動 の技 術 を活 用 し,陸 上 で は な く,海 上 の諸 島 で の新 た な沿 岸 資 源 を 目指 した とい うこ とが で き るだ ろ う。 約6万 年 前 以 降 発生 して ゆ くスンダランド 南 東 部 か らの先 住 人 口集 団 の海 上 へ の 流 出 の波 の一 つ が 最終 的 に オ ース トラ リアへ 到 達 した わ け で あ る。

.移  動   の  道

 初 期 の オ ー ス トラ リアへ の 移動 はスンダランド の 原住 地 域 か ら直 接 北 西 オ ース トラ リア沿 岸 へ の 到着 で は な く,ス ン ダランド とサ フルランドSahul  landの 間 に 点在 す る島 々 を経 由 した と考 え られ て い る。 島 づた いの ル ー トにつ い ては す で に い くつ か の 可 能 性 が 述 べ られ て きて い るが,最 初 の ル ー トを(1)移 住 集 団 の動 機,(2)手 段 と 技 術,(3)周 辺 の 地 理 的特 徴,の 各 要 素 か ら考 え てみ た い。

 動 機 につ いて は,す で に前 章 で 述 べ た ご と く,現 代型 の拡 散 に よる先 住 ニ ッチか ら の 押 し出 しが 考 え られ る。 河 川 ・沿 岸 環境 に適 応 した先 住 集 団 の うち,河 川 や 沿 岸沿 い の陸 上 の移 動 で は な く,す でに 彼 らの 技 術 で も行 き来 可能 で あ っ た こ く近 い沖合 諸 島 で の沿 岸 資 源 開 発 を 目指 し,海 上 移 動 した一 団 を想 定 して み た い。

  最 終 的 に オ ー ス トラ リアへ 到 達 した この一 団 の移 動 は,上 の動 機 か ら も 明 らか な よ うに,偶 然 に よ る漂 着 とは全 く異 な る,移 動 後 の生 活 に対 す る あ る程 度 の予 見 性 と計 画 性 に 基 づ くも のだ った はず で あ る。 そ して移 動 に不 可 欠 な 手段 と して,複 数 成 人 男 女 を 輸送 しえ る最 低 の 安定 性 と耐 久 性 を 持 つ イ カ ダ利 用 の 可能 性 が高 い。 そ の航 行技 術 に つ い て は水 流 に まか せ るだけ で な く,擢 も し くは 竿 に よ る制 御 は存 在 した であ ろ うが,帆 走 や方 位 確 定 とい った外 洋 航 海 技 術 は,イ カ ダ上 の 人 の体 が帆 走 の役 にた つ

(9)

堀 江 ・小 山   オ ー ス トラ リア へ の道

図1  海 退 期 に お け る サ フ ル ラ ン ド 〔CANN&McQulLToN  l 987に よ る 〕

とい う偶然 を のぞ き,全 く存 在 しなか った の で は な いだ ろ うか 。 す なわ ち,イ カ ダは 耐 久性 を持 つ とは い え,海 上 を 自 由 に航 行 で きる も ので は な く,基 本 的 に は河 川 や 内 陸 静 止 水面 用 で あ り}海 上 で は沿 岸 に沿 って の移 動 が 中 心 とな る の で あ る。

  この 地 域 の地 理 的 特 徴 と しては,ス ソダ,サ フルランド い ず れ も一50〜‑100mの 海 退 に よ り大 き く影 響 され る広 大 な沖 積 域 を 持 つ が(‑50mの 海 退 に よ りス ソ ダで は ジ ャ ワ,ボ ル ネ オ,ス マ トラ島 が マ レー半 島 とつ な が り,サ フル で は ニ ュー ギ ニ ア とオ ー ス トラ リアが 陸続 き とな る。また 一150〜‑200mの 場 合 特 に サ フル大 陸棚 が 現 在 の オ ー ス トラ リア 北 部 海 岸 よ り最 高500km近 く陸 地 とな り,チ モ ー ル海 とア ラ フ ラ海 の 海 面 が1/3近 くに減 少 す る,図1),ウ ォー レス線 を は さみ 島 々が 点在 す る両 者 の 中 間 海 域 は 水 深 が 深 く,‑50〜‑100mの 変 化 で は影 響 され に くい 。 また こ の海 域 の 諸 島 は 東 南部 を のぞ き,火 山 も多 く,一 般 に 標 高 が高 い た め,よ い海 上 目標 とな る。

  以上 の要 素 か ら一 つ の前 提 が 浮 か ぶ。 原 住 地 を 押 し出 され た 集 団 に と って,沿 岸 環 境 適応 に よるあ る程 度 の海 上 移 動 の 技 術手 段 を 持 って い た と して も,そ れ は あ くまで 沿 岸沿 い の移 動 で あ り,沖 合 いへ の 渡 海 は最 終 選 択 で あ った ろ う。 この 際何 も見 え な い 海上 へ,フ ダ ラ ク信 仰 の西 方 浄 土 を 目指 した ご と く乗 り出 して行 くとは考 え難 い。

この こ とか ら渡 海 を 決 定実 施 す る にあ た り「対 岸 の 目視 」が最 大 要 因 とな り,か つ ル ー ト選択 の前 提 にな った と仮 定 す る。 対 岸 の 目視 可 能 な状 況 には4つ の場 合 が考 え られ る(図2)。

  (1)燈 台 効 果:海 岸 か ら対 岸 が 見 え る

(10)

国立民族学博物館研究報告別冊  15号

燈 台 効 果

物 見 台 効 果

山 立 て 効 果

推 測 効 果

図2  対 岸 目視 の諸条件

図3  可視標高の推定(概 念図)

(11)

堀 江 ・小 山   オ ース トラ リアベ の 道

(2)物 見 台 効 果:高 地 か ら 対 岸 が 見 え る

(3)山 立 て 効 果:上 の(2)と 同 じ原 理 だ が 高 地 を 海 上 で 確 認 し つ つ,同 時 に 対 岸       が 見 え る 母 港 確 認 と沖 合 い 視 界 効 果 の 複 合 した も の

(4)推 測 効 果:上 の(3)の 効 果 を 拡 大 し,(2)で 不 可 能 だ っ た 対 岸 が 見 え る こ れ ら の うち(4)は 外 洋 航 海 の 要 素 が 強 く,先 に 考 慮 した 最 初 の 移 動 集 団 の 技 術 程 度 か ら 今 回 の ル ー ト推 定 か ら 除 外 す る 。 推 定 作 業 は(1)の 燈 台 効 果 を 前 提 と し て 進 め,(2)と(3)を 補 助 手 段 と して 使 用 す る。 ま た(1)に つ い て は 地 球 が(ク ラ ソ フ ス キ ー 楕 円 体 に よ る6378.245km及 び ヘ イ フ ォ ー ド楕 円 体 に よ る6378.288kmか ら 小 数 点 以 下 を 切 り捨 て)6378kmの 半 径 の 完 全 な 円 を 作 る と仮 定 し,直 角 三 角 形 の 斜 辺 を 求 め る 公 式 か ら,距 離 の 変 化 に よ る 対 岸 最 高 地 点 の 可 視 標 高(κ)を 割 り出 し た(図 3,表1)。 な お,こ の 計 算 に あ た り,本 来DとLの 差 を 考 慮 す べ き で あ る が,Rと

Dの 差 が 大 き す ぎ て θが 非 常 に 小 さ い た めD=Lと し た 。

  次 に 過 去10万 年 間 の 海 面 水 位 変 化 を 考 慮 す る 。 ヴ ェル ム氷 河 期 で 最 も 寒 冷 化 の 強 か っ た2万 〜1.8万 年 前 に 最 大 海 退 の 一150mが 起 こ る 。 そ の 他 に も4回 一50〜‑100mの 海 退 が ほ ぼ9.2万 年 前,7万 年 前,5.5万 年 前,3.5万 年 前 を ピ ー ク に 起 こ る(図4)。

最 初 の オ ー ス ト ラ リア 移 動 に 関 連 す る と 思 わ れ る10万 〜5万 年 前 の2回 の ピ ー ク の 場 合,7.5万 〜6.5万 年 前 及 び5.6万 〜4.6万 年 前 の 間 一50mを 超 え,後 者 は 最 大 海 退 に 次 ぐ ピ ー ク と し て ほ ぼ 一100m海 退 す る 。 し か し す で に 述 べ た ご と く,中 間 部 の モ ル ッ カ 海,セ ラ ム 海,バ ソ ダ 海,プ ロ レ ス 海 は 水 深 が 深 く,一一50〜‑100mの 海 退 で は 現 在

表1  可 高 値 L(km)

30 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140

計 算 値

  70.554 125.429 195.983 282.213 384.121 501.704 634.963 783.896 948.502 1128.780 1324.729 1536.346

標 高(m) 100 150 200 300 400 550 650 800 1000 1150 1350 1550

L(km) 150 160 170 180 190 200 210 220 230 240 250 260

計 算 値

1763.631 2006.583 2265.198 2539.475 2829.413 3135.008 3456.260 3793,164 4145.720 4513.924 4897.774 5297.267

標 高(m) 1800 2050 2300 2600 2900 3200 3500 3850 4200 4600 5000 5400 注:可 視標 高 は計 算 値 以上 とな るた め,任 意 に 数 値 を加 え 「標 高 」 を 決定 した 。

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国立民族学 博物館研究報告別冊  15号

図4海 〔FLOOD  1983に よ る 〕

の 諸 島 展 開 と ほ と ん ど変 わ ら な い 。 そ の た め 最 初 の ル ー ト推 定 に は 現 在 の 海 岸 線 を 利 用 す る。

  燈 台 効 果 を 現 在 の 地 図 に あ て は め,パ ー ドセ ルBirdsellの 想 定 す る5種 の ル ー ト(図 5)を お っ て み る と い ず れ も サ フ ルランド に 到 達 で き な い(1・Aは ハ ル マ ヘ ラ 島, 1・Bと1・Cは セ ラ ム 島,2・Aと2・Bは テ ィ モ ー ル 島 ま で)。 そ こ で(2)と

(3)の 効 果 を あ て は め て み る と,1・Aと1・Bを 通 り,ニ ュ ー ギ ニ ア 西 北 端 の チ ソ ドラ ワ シ半 島 に 上 陸 で き る 。1・Aは ハ ル マ ヘ ラか ら対 岸 の ケ ベ 島 ま で 約45km。 方1・Bは セ ラ ム 島 か ら対 岸 の ミ ソ ー ル 島 ま で 約95kmと 約2倍 の 距 離 に な る た め, 1・Aの 方 が 渡 りや す い と 思 わ れ る 。 し か し,ま ず(2)の 「物 見 台 効 果 」 に つ い て 1・Aの 場 合 は726mで,対 岸 の 島 の 最 先 端 が や っ と 視 界 に は い る 。 一 方1・Bは 3019mあ り,対 岸 島 全 体 が 視 界 に 含 ま れ る 。 ま た200m登 れ ば 対 岸 の 最 高 点 が 視 界 に は い る 。 さ ら に 最 初 の 移 動 集 団 が 沿 岸 環 境 に 適 応 して い た と の 仮 定(沿 岸 適 応 集 団 が わ ざ わ ざ 内 陸 の 熱 帯 林 に わ け 入 り,最 高 地 点 ま で 行 くの は 不 自 然 か も しれ な い)か ら, (2)よ り も(3)の 「山 立 て 効 果 」 で 考 え て み る 。 まず,上 の 「物 見 台 効 果 」 は そ の ま ま 「山 立 て 」 の 距 離 と な る 。1・Aの 対 岸 ゲ ベ 島 の 最 高 点 は100mで,こ れ が 視 界 に は い る の は 沖 合 い 約35km地 点 か ら で あ る 。 ハ ル マ ヘ ラ最 東 端 の 沖,5kmの 島 か ら 計 算 して も25km地 点 か ら と な る 。1・Bの ミ ソ ー ル 島 の 最 高 点 は990mで,沖 い 約5kmと 約1/7以 下 の 距 離 で 視 界 に は い る 。 我 々 の よ うに す で に 対 岸 の 情 報 を 持

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国立民族学博物館研究報告別冊  15号

図6  山立 て 効 果 に よ る前 進

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図7  対 岸 目視 に よ る推 定 移 動 ル ー ト

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国立民族学博物館研究報告別冊  15号 ち,単 純 に地 図上 の距 離 の近 い と ころ を優 先 的 に考 え る傾 向 は,こ の ル ー ト推定 作 業 で は特 に排 除 す べ きで あ る。彼 らは対 岸 が見 え なけ れ ぽ前 進 しない 。こ の大 前 提 か ら, 上 記 の35kmと5kmの 差 は大 き な意 味 を 持 つ。 原始 的 なイ カ ダに とっ て も,5kmな

らば 沿 岸 海 上 移 動 の 範 囲 内 で あ るが,35kmは す で に沿 岸 移 動 とは 次 元 の 異 な る 外洋 航 行 の範 囲 と仮 定 しえ る。 また 対 岸 まで の最 短 直 線 上 で,対 岸 が 視 界 に は い る地 点 で の対 岸 最 大 幅 の 角度 を比 較 す る と,1・Aが20度 なの に対 し,1・Bは43度 で あ り, そ の周 辺 の小 群 島 を加 え る と67度 に もな る。 す なわ ち,後 者 は海 上 で 対 岸 を よ り確 認 しや す い(図6)。 以 上 を ま とめ,最 初 の 移 動 ル ー トを 以 下 の ご と く推 定 で き る。 ス ソ ダ ラ ン ド南 東部,現 在 の ボル ネオ 島 の マ ソカ リハ ト岬 も し くは そ の 南方 の バ ラパ ラ ソガ ソ諸 島 → ス ラ ウエ シ(セ レベ ス)島 →ペナン 島 → パ ソガ イ諸 島→ タ リア ブ島 → マ ン ゴ ソ島 → サ ナナ 島→ ブル 島 → セ ラ ム島→ ミソール 島 → サ ラ ワテ ィ島 →チンドラワシ 半 島(ニ ューギ ニア)(図7),そ して これ が 視 界 効 果 内 で の航 海 とい う前述 した 仮 定

に よる唯 一 の ル ー トで あ った と考 え られ る の であ る。

  具 体 的 移動 手 段 は ソー ンA.Thorne  」も指 摘 す る ご と く,竹 の イ カ ダが考 え ら れ る lGrmRET  l988:467】。 広 く熱 帯 ・東 南 ア ジ ア に分 布 し(図8),軽 くて耐 水 性 の 強 い 竹 は,そ ゐ 節 を使 用す る こ とに よ り容器 と して の利 用 も可 能 で あ る。 これ は まだ 土器 が存 在 して い な か った 点 を 考 慮 す る と,約100kmの 数 日間 を要 す る長 距 離 渡 海 の 飲 料 水 確 保 の 意 味 か ら も重 要 で あ る。

  気 象 条 件 か らい って も,こ の ル ー トは ほぼ 赤 道 直 下 の た め降 雨 量 が 年 間 を 通 じて 多 く,海 上 で の ス コ ール な どに よ る飲 料 水確 保 の 可 能 性 が 高 い(図9)。 さ ら に渡 海 に

図8  竹 の 自生 地 〔MARDEN  l 980に よ る 〕 図9  降 雨 量 〔THE TIMES  1985に よ る 〕

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堀 江 ・小 山  オ ー ス トラ リア へ の道

図10海 流(2月)〔MoRGAN&VALENclA  1983に よ る 〕

と っ て 風 と 海 流 は2大 気 象 要 素 と な る が,帆 走 の 存 在 し な い イ カ ダ を 想 定 す る た め, そ の 浮 遊 物 的 要 素 の 強 さ か ら,海 流 が よ り大 き な 意 味 を 持 つ 。 海 流 に つ い て は ル ー ト 推 定 の 海 面 を 一50m〜‑100mと す る た め,ス ン ダランド と サ フ ル ラ ン ドが 形 成 され, 現 在 の も の と か な り異 な る と 思 うが,あ え て 現 在 の 資 料 を あ て は め て み る と(図10), 冬 期(2月)に セ ラ ム海 を 東 北 に 流 れ る 本 流(0.75ノ ッ ト=1.368km/h)を 利 用 で き る 。 こ れ に あ る程 度 の 自 力 航 行(約1km/h強)を 考 慮 し,2.5km/hで セ ラ ム ・ ミ ソ ー ル 島 間 約93kmを 移 動 す る場 合,38時 間(仮 に 朝4時 に 出 発 した と す る と次 の 日 の 夕 方6時)で 到 着 す る。

.移

  オ ー ス ト ラ リア ・ア ボ リ ジ ニ 形 成 の 基 と な っ た 移 動 全 般 に つ い て 考 え る に あ た り, こ れ ま で の 仮 説 展 開 か ら,(1)現 代 型 ホ モ ・サピエンス の 拡 散,(2)特 に 過 去6万 間 の 海 面 変 化,(3)移 動 の ル ー トを 基 本 要 素 と し て あ げ る こ と が で き る 。 さ ら に タ ー ナ ーC.G.  Turnerが 歯 の 形 質 に 基 づ い て 提 出 した 類 型,現 代 型 ホ モ ・サピエンス

「ア ジ ア 型スンダドントSundadont集 団 の 拡 散 」 を 第4の 要 素 と して 加 え て み よ う。

  ア フ リ カ か ら の 現 代 型 の 拡 散 は6万 〜4万 年 前 に は ス ン ダランド に 達 し,先 住 古 代 型 も し くは ネ ア ン デ ル タ ー ル 型 の 押 し出 し が 始 ま る 。 押 し 出 さ れ た 集 団 は 現 代 型 の 拡 散 連 鎖 に よ っ て,ア ジ ア 大 陸 上 で の 移 動 を く りか え し な が ら,約2万 年 前 ま で に は 遺

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国立民族学博物館研究報告別冊  15号

伝 子 交 流 の 可 能 性 を 残 し な が ら も絶 滅 し,入 れ 替 え が 完 了 す る 。 こ の うち 一 部 が 海 上 へ の 移 動 を 行 な い,最 終 的 に 最 初 の ず 一 ス トラ リア 人 と な る。

  7万 年 前 の 海 退 ピ ー ク時 の 移 動 も 否 定 で き な い が,6万 年 前 以 降 の 可 能 性 が 強 い 。 過 去6万 年 間 は,2回 の 大 海 退 ピ ー ク(5.5万 〜5万 年 前:‑100m,2万 〜1.8万 年 前:

‑150m)を 含 み,5.5万 〜1万 年 前 の 間 オ ー ス ト ラ リ ア と ニ ュ 一ギ ニ ア は ほ ぼ 一 体 で あ っ た 。

  移 動 ル ー トは チ ン ド ラ ワ シ半 島 を 経 由 す る も の が 継 続 して 利 用 され る が,最 大 海 退 期 に は バ ー ドセ ル の 提 唱 す る全 ル ー トの 可 能 性 が 高 ま る 。

  タ ー ナ ー は 歯 の 形 質(特 に8要 素)か ら,現 代 型 の ア ジ ア 人 口 集 団 を ス ソ ダ ド ソ ト (タ イ,マ レー シ ア,ジ ャ ワ,ポ ネ シ ア,縄 文,ア イ ヌ)と シ ノ ドン トSinodont(中 国 モ ン ゴ ル,日 本,北 東 シ ベ リア,ア リ ュ ー トエ ス キ モ ー,ア メ リ カ イ ン デ ィ ア ソ) の 二 大 集 団 に 分 け,そ の 拡 散 に つ い て 以 下 の よ うに 述 べ て い る 。 ほ ぼ5万 年 前 ま で に

ス ン ダ ラ ン ドに ア フ リ カ か ら 拡 散 して き た ア ジ ア 型 原 形 と し て の 現 代 型 が,3万

〜1 .7万 年 に か け,ま ず ス ン ダ ド ソ ト形 質 を 成 立 さ せ た 後,約2万 年 前 か ら 沿 岸 と 内 陸 の 二 つ の 波 と な っ て 東 ア ジ ア へ 拡 散 した 。 さ ら に 内 陸 へ の 波 は,北 部 中 国 ・モ ソ ゴ ル で シ ノ ド ン ト形 質 を2万 年 前 以 降 成 立 さ せ(周 口 店 上 洞:1.8万 年 前),東 ア ジ ア を 占 め る と と も に,一 部 は 約1.5万 年 前 に ア メ リ カ 大 陸 へ 移 動 す る 。 彼 は オ ー ス ト ラ リア ・ア ボ リ ジ ニ が,ス ソ ダ ド ソ ト形 質 成 立 以 前 の ニ ア やタボン に 見 ら れ る,よ り一 般 的 形 質 で あ る の は,3万 年 以 前 に 移 住 した た め で あ る と し,ス ン ダ ド ン ト形 質 集 団 の 拡 散 か ら オ ー ス トラ リア を 除 外 し て い る  【TuRNER  1989:88‑96】 。 しか し現 代 ア ボ リジ ニ が 典 型 的 ス ソ ダ ド ソ ト形 質 に 欠 け て い る と して も,こ の 拡 散 の 大 き な 波 が 東 ア ジ ア 沿 岸 を 含 め,日 本(港 川:1.7万 年 前,縄 文 人)に も 及 ん だ と指 摘 す る 以 上,最 大 海 退 に よ り,す で に4万 年 近 く利 用 され て きた 道 に 加 え,よ りオ ー ス トラ リ ア 部 分

へ の 直 接 的 到 着 の 可 能 な ル ー トが 増 加 した サ フルランド へ の 移 動 を 無 視 す る こ と は 不 自然 で あ る 。 地 理 的 位 置,ス ン ダ ラ ン ド南 部 と サ フル ラ ン ド北 部 が と も に 含 ま れ る 気 候 ・環 境 の 類 似 性 か ら ・2万 年 前 の ス ソ ダ ド ソ ト形 質 集 団 の 拡 散 は オ ー ス トラ リ ア に

も 及 ん で い た は ず で あ る 。

  年 代 的 に は 古 い キ ャ シ ャ な 形 質 の マ ン ゴ 湖Mungo(3.2万 年 前)と,そ れ よ り2万 年 近 く新 し い コ ウKowが ガ ッ チ リ と し て 古 い 形 質 を 持 つ 「オ ー ス トラ リ ア の 謎 」 の た め,移 動 の 波 に つ い て は これ ま で さ ま ざ ま な 説 が あ げ ら れ て き た が,以 上 の 要 素 を 基 に 「三 つ の 形 質 集 団 に よ る 二 つ の 移 動 の 波 」 を 推 定 して み る 。

  6万 〜2万 年 前 に か け て の4万 年 間,ス ン ダランド 南 東 部 か ら,最 初 の 古 代 型 も し

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堀 江 ・小 山   オ ー ス トラ リアへ の 道

くはネアンデル タ ール 型 に続 き,ス ソダ ドソ ト形 質 成 立 以 前 の現 代 型(ワ ジ ャ ッ ク及 び ニ アに 代表 され る)に よる 小規 模 な継 続 移 動 が,サ フルランド 西 北 端 周 辺 へ の 島づ た い海 上 ル ー ト経 由で 発 生 す る。この第 一 の波 は,6〜4万 年 前 は 両 集 団混 合 で あ り, それ 以 降 は ア ジア大 陸 で の 両 集 団入 れ 替 え を反 映 し,現 代 型 に 限 られ る。第 二 の 波 は, 2万 〜1.8万 年 前 の最 大 海 退 期 に 現 代 型 のスンダドント 形 質 集 団 が,海 面 縮 小 に よ り 増 加 した ル ー トに よ り,短 期 間 で は あ るが 第一 次 に比 べ 大 規 模 な移 動 を行 な う。 この 後,氷 河 期終 了 に よ る急 速 な海 面 上 昇 の た め,1万 年前 以 降 オ ー ス トラ リアは孤 立 し, 大 き な波 と して の移 動 は ヨー ロ ッパ人 の入 植 まで絶 え るの で あ る。

  V.ま と め 一 オ ー ス ト ラ リ ア ・ ア ボ リ ジ ニ の 成 立

  一 般 に 現 代 オ ー ス トラ リア ・ア ボ リ ジ ニ は 古 い 形 質 を 強 く残 し て い る と い わ れ る が,ソ ー ソ は 彼 ら を 他 の 人 口 集 団 と 比 較 し た 特 徴 と し て,(1)大 き な 眼 窩 上 隆 起 Supra  Orbital Torus,(2)顔 面 の 前 方 突 出,(3)大 き な 門 歯,(4)低 頭 と 長 頭,を あ げ て い る  【GARRET  1988:468】 。 こ れ は(1)顕 著 な 眼 窩 上 隆 起,(2)顔 面 中 部 の 前 方 突 出,(3)大 き な 門 歯,(4)お と が い の 発 達 が 弱 い,と い った ネ ア ンデ ル タ ー ル 型 形 質 と 多 く重 複 す る 。 こ う し た オ ー ス ト ラ リア ・ア ボ リ ジ ニ の 古 い 形 質 の 原 因 は 次 の3点 に ま と め ら れ る 。(1)現 代 型 に よ る押 し 出 し の 結 果,古 代 型 も し くは ネ ア ソ デ ル タ ー ル 型 が 最 初 の オ ー ス トラ リア 人 と し て 移 動 し,新 天 地 で 再 度 彼 らの 遺 伝 子 プ ー ル を 確 立 した 。(2)人 類 に と っ て の 全 くの 新 天 地 で あ っ た た め,一 つ の ニ ッチ の 住 み 分 け で は な く,ニ ッ チ ご と の 住 み 分 け に よ り,現 代 型 移 動 後 も長 期 間 遺 伝 子 プ ー ル を 確 保 しえ た 。(3)移 動 に は 渡 海 が 必 要 な た め,特 に 第 一 の 移 動 の 波 の4万 年 間,現 型 拡 散 の 圧 力 は ア ジ ア 大 陸 に 比 べ 非 常 に 限 られ て い た 。 これ ら の う ち,(2)と(3)

の た め,4万 〜2万 年 前 に か け て ア ジ ア 大 陸 で 完 了 した 現 代 型 に よ る入 れ 替 え と は こ と な り,両 者 の 住 み 分 け と ゆ る や か な 混 血 が 発 生 し,古 い 形 質 が 保 た れ た   【堀 江 1989】。 これ に 対 比 す る 例 と し て は,第2章 で 述 べ た イ ス ラ エ ル の ほ ぼ5万 年 間 に 及 ぶ 住 み 分 け と,そ の 結 果 生 じた と考 え え る タ ブ ー ンや ス フ ー ル の 中 間 的 形 質 の 出 現 が あ げ られ る 。 ま た 相 反 す る 例 と して は,カ ロ リー 生 産 量 が 低 く,人 口支 持 力 が 一 杯 に 達 し て い た 寒 冷 ヨ ー ロ ッパ に 特 殊 適 応 し た 古 代 型 ネ ア ン デ ル タ ー ル と,ク ロ マ ニ ヨ ン に 代 表 さ れ る 現 代 型 の 急 激 な(遺 伝 子 の 交 流 を と も な わ な い)入 れ 替 え が 考 え ら れ る 。   上 記 の 原 因 と,前 章 で 述 べ た 「3つ の 形 質 集 団 に よ る2つ の 移 動 の 波 」 を あ わ せ る

と,オ ー ス トラ リ ア ・ア ボ リジ ニ 成 立 に 関 し て 一 つ の 結 論 が 導 か れ る(図11)。6万

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堀 江 ・小山   ナ ー ス トラ リア へ の道

年 前 以 降 相 次 い で 移 動 し た 古 代 型 も し く はネアンデル タ ー ル 型(Willandra  Homo 50:年 代 不 詳)と 現 代 型(マ ン ゴ湖:3.3万 年 前)が ガ ッチ リ型 と キ ャ シ ャ型 の 母 集 団 と な っ た 。 両 集 団 が 本 来 の 形 質 の ま ま コ ウ(ガ ッ チ リ型)と キ ロKeilor(キ ャ シ ャ 型)に 代 表 さ れ る 約1万 年 前 ま で,独 自 に 住 み 分 け て い た と の 見 解 も あ る が,ガ ッチ リ型 を 代 表 す る タ ル ガ イTalgai(1.6万?〜1.4万 年?前),コ ウ(1.3万 〜1万 年 前), コ フ ナCohuna(1.3万 〜1万 年 前)い ず れ も頭 骨 の 円 み が 増 加 し て お り,現 代 型 と 言 い 得 る 。 特 に コ ウに 見 ら れ る 人 工 的 前 頭 部 偏 平 を 考 慮 す る と,こ の 傾 向 は よ り明 確 に な る 。 す な わ ち,両 集 団 は 住 み 分 け と混 血 を 繰 り返 し な が ら,3万 年 前 以 降 「古 い 形 質 と多 様 性(ガ ッチ リ型 とキ ャ シ ャ 型 を 含 む)を 持 つ 現 代 型 」 へ と 変 化 し て ゆ く。

こ れ は 「オ ー ス トラ リア の 謎 」 に 対 す る解 釈 と も い え る。 さ ら に2万 年 前 以 降,短 間 で は あ る が 集 中 的 な 移 動 で オ ー ス トラ リア に 達 した 「ス ソ ダ ド ソ ト形 質 の 現 代 型 」 (キ ロ は こ ち ら に 属 し て い た 前 能 性 も あ る)は,ほ ぼ1.5万 年 に わ た り前 者 と住 み 分 け を 行 な っ た 後,約6千 年 前 か ら急 速 に 交 流 を 増 す 。 こ う して3集 団 に よ る2回 の 混 血 が 古 い 形 質 を 残 し,スンダドント の 形 質 を うす め た 今 日 の ア ボ リジ ニ を 成 立 させ た わ け で あ る 。

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