英語発音指導講習を通しての小学校現職教師 の英語発音意識変化
猪井 新一*
(2016 年 11 月 1 日受理)
A Report of Changes in Primary School Teachers’ Perceptions of English Pronunciation Through Attending an English Pronunciation Training Course
Shin’ichi INOI *
(Accepted November 1, 2016)
Abstract
This paper gives a brief description of the contents of a two-day English pronunciation training course for primary school teachers. The course took place at Ibaraki University, August, 2016. It also reports primary school teachers’ changes in perceptions of and their self-confidence increase in English pronunciation through attending the course, followed by their evaluation of the course. Almost all participants mentioned that their perceptions of English pronunciation changed and their self-confidence in English pronunciation increased, giving positive feedback on the usefulness of the course. It is argued that primary school teachers should take an English training course based on English phonetics in order to teach English with confidence.
はじめに
2020年度より小学校英語の教科化及び早期化が既定路線となっている。2011年度より必修化さ れた小学校5,6生を対象として実施されている外国語活動は,今後は3,4年生から始まり,5, 6年生では英語の教科化が見込まれている。それに伴い教員免許法が改正され,新たな小学校教員 免許資格は,初等英語科教育法等の英語の教科に関する単位の取得が義務付けられる。一方,小学 校現職教員に対しては,文部科学省は「平成28年度小学校英語教科化に向けた専門性向上のため の講習の開発・実施事業」等の事業を通して,小学校英語の教科化・早期化に対応すべく,小学校 教員に中学校英語教員免許の取得を促している。茨城大学は地域の中心的な高等教育機関として教 育学部が中心となり,この文部科学省の3年間にわたる事業を受託し,今年度(平成28年度)よ
茨城大学教育学部英語教室(〒310-8512 水戸市文京2-1-1;Department of English, College of Education, Ibaraki University, Mito 310-8512 Japan).
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り委託事業を開始した。言い換えれば,本事業は中学校英語教員免許取得のための免許認定講習の 実施である。中学校英語教員免許(2種)を取得するためには,各教科の指導法も含め14単位必 要であり,平成28年度は,「英語科指導法Ⅰ」「英語コミュニケーションⅠ」「英語学概論」「英語 音声学」「生徒指導論Ⅰ」の5科目(5単位)を開講した。本稿では,英語学の分野の一部として 筆者が担当とした「英語音声学」(1単位)の講習に関し,1)講習内容,2)受講者の英語発音に 対する意識変化・自信度向上の程度,そして3)受講者の講習内容の評価,について報告するもの である。本講習の講師である筆者にとって,受講者の英語発音意識の変化の有無,英語発音の自信 向上の程度,講習内容評価等を把握することは,今後講習内容の改善を図る上で,さらには,どの 程度本講習が受講者である小学校教員にとって役立ったものであるかを知る上で,貴重な情報を提 供してくれる。
英語音声学は英語発音に関する理論的学問であるが,学習者が英語発音を習得しようする場合,
その理論的背景を提供してくれる。特に,調音音声学(Articulatory phonetics)は,舌,顎,唇な どの発音器官をどのように動かすことによって英語の音を産出するかを扱う音声学の一分野であ り,英語指導者および英語学習者にとっては極めて有益な学問である。小学校教員は9割以上が英 語の教員免許を有していない(Mahoney and Inoi 2015)ために,多くの小学校教員が英語の発音 に対し,苦手意識を持っている(猪井2010)。本講習を受講することにより,英語音声の基礎的理 論を身につけ,それをもとに英語の発音練習に取り組めば,英語の発音への苦手意識を多少なりと も払拭でき,少しでも自信をもって小学校における外国語活動の指導に取り組むことが可能となる と期待するものである。
小学校英語教育ばかりでなく,中学校,高校,大学において英語音声を指導する場合,英語音声 学の基礎的知識をもち,自らの英語発音にある程度自信を持ちながら発音指導に当たることは大切 である。しかし,英語科の教員でさえ,教員養成時代,あるいは教職に就いた後も,英語発音指導 法を学ぶ機会を持った者が少ないことが報告されている(折井2015,河内山・有本2016)。まし てや小学校教員は,英語教員免許取得者が1割にも満たないことを考慮すれば,英語発音指導に関 する研修をこれまで受けてきた機会は,極めて少ないことが推測される。本講習は英語発音指導の 基礎理論やそれに基づいた発音練習の機会を提供するものであり,英語教育に携わる小学校教員に とって相当有意義なものであると思われる。
本免許認定講習(英語音声学)は平成28年8月19日,8月28日の2日間にわたり合計16時間(う ち1時間は試験)実施され,第1日目は32名,第2日目は33名の受講者があった。もともと39 名の茨城県内の小学校現職教員が免許認定講習受講の申し込みをしていたが,当日数名は出張等の 他の事由で本講習を受けることができなかった。受講者は小学校現職教員であり,日々小学校英語 教育と向き合っており,さらには中学校英語教員免許(2種)取得を希望しており,英語学習意欲 はかなり高いといってよいと思われる。
講習内容について
本講習「英語音声学」の主な講習内容および概要は以下の通りである。講義内容の参考文献とし
て,三宅川・増山(1986),松坂(1986)を主に用いている。発音練習には主に今井ら(2010)と 文部科学省(2009)を用いた。
1.講習項目 第一日目
1)音声学について,2)話し言葉(Speech sounds)の分類,3)発音器官の名称及び役割,4)音節 と強勢,5)強形(Strong form)と弱形(Weak form),6)文強勢,7)子音および発音練習,8)子 音結合
第二日目
9)子音の分類,10)母音一覧及び母音の分類,11)二重母音,12)音の連結,脱落,同化,13)イ ントネーション,14 )英語表現発音練習
2.概要
上記項目の概要は以下の通りである。主な内容を記述するものであり,講義の内容を網羅的には 述べてはいない。
第1日目
1)音声学について
音声学には 調音音声学,音響音声学,聴覚音声学の大きく3種類があるが(三宅川・増山 1986),本講習では,個々の音(子音,母音)が話者の発音器官(Speech organ)によってどのよ うに調音(Articulate)されるかを研究する調音音声学(Articulatory phonetics)を扱う。
2)話し言葉(Speech sounds)の分類
Speech soundsを声帯(Vocal cords)の動きよって有声音と無声音へ分類する方法,発音器官と
呼気の関係で母音と子音へ分類する方法の2つの分類方法を説明する。
3)発音器官の名称及び役割
唇(Lips),顎(Jaws),歯茎(Alveolar),声帯(Vocal cords),声門(Glottis),喉頭蓋(Epiglottis),
鼻腔(Nasal cavity)等の発音器官の名称および役割をそれぞれ説明する。
4)音節と強勢
音節とは母音を中心とした音のまとまりの単位としてとらえ,日本語の「さくら」と英語の
“American” の例を出しながら,音節について説明する。さらに,アクセントは日本語では高低
アクセント(Pitch accent)であるが,英語では強弱アクセント(Stress accent)であることも説明 する。英語における強音節(強勢が置かれる音節)は,はっきりと長めに発音され,一方,弱音節(強 勢が置かれない音節)はあいまいに,弱く発音される特徴があることを,例を挙げながら説明する。
5)強形(Strong form)と弱形(Weak form)
まず英語の単語には内容語(Content word)と機能語(Function word)があることを述べ、機能 語には通常は強勢がかからない形(Weak form)と強勢を帯びた形(Strong form)があることを説 明し,その後,実際に例文を用いて,強形と弱形の発音練習をする。用いた例文には,“I am sure I can do it. Do all you can.”などがあり,1つ目のcan は[kən/kn]のように強勢が置かれない弱形で,
2つ目のcan は[kǽn]のように強勢を帯びた強形で発音することを練習する。
6)文強勢
英語の文のリズムは,強音節が時間的にほぼ等間隔で表われる強勢拍リズム(Stress-timed
rhythm)であり,一方日本語は,各音節の長さがほぼ同じ時間で発音される音節拍リズム(Syllable-
timed rhythm)であることを,例を示しながら説明する。その後,文強勢の練習をするために,以
下のようなClassroom English 表現(文部科学省2009)の発音練習をする。
1) Let’s sing a song. 2) It’s time for English class. 3) Did you enjoy today’s class?
4) Put your desks together. 5) Move your desks to the back.
クラス全体で,手拍子に合わせながら各々の表現の発音練習し,その後4~5人ごとのグループ に分かれ,リーダーを入れ替えながら,やはり手拍子で英語の文強勢を意識しながら発音練習をす る。
次に,以下のようなリスニング教材(今井ら2010)を用い,空所に英語を記入してもらった。
やはり,文の中の強音節と弱音節に意識させるリスニング活動である。
1) A ( )( ) mine will ( )( ) the story. (解答: friend, of, tell, us) 2)Tim ( ) going ( )( )a ( ) today. (解答: is, to, see, movie)
3) A man ( ) a woman have ( ) make a pair. (解答: and, to)
4)This is ( )( )( )( )( ). (解答:the, car, that, I, rented)
7)子音および発音練習
子音は調音方法(Manner of articulation)によって,閉鎖音,鼻音,側音,摩擦音,破擦音,半 母音に分類し,調音位置により両唇音,唇歯音,歯音,歯茎音,硬口蓋・歯茎音,硬口蓋音,軟口 蓋音,声門音に分類できることを,例を挙げながら説明するとともに,今井ら(2010)付属のC Dを利用しながら説明する。発音練習する際は,以下のような留意点を述べる。
・閉鎖音の無声音([p],[t],[k])を練習する際は,音の相補分布(Complementary distribution)に も言及した。例えば,[p]は強音節では気息(Aspiration)を伴う[ph],[s]の後および弱音節では気 息の弱い[p],語尾では破裂しない[p- ]となる傾向にあることを説明する。
・鼻音[n]は,英語では必ず舌先を歯茎につけること。日本語の「ん」は「本(ほん)」の場合は硬 口蓋音[N]であり,舌先が歯茎につくことはないことを説明し,日本語の「ん」で,英語の[n]の 音を代用しないように付け加える。
・側音[l]には2種類の音がある。1つはclear-lで,舌先を歯茎にしっかり押し当て,舌の両側か ら音を出し明るく澄んだ感じの音であり,“late”[leit]のように同一音節内で母音等の前で生じる。
もう一つは,dark-lであり,後舌面が軟口蓋に向かって持ち上げられ,舌先は必ずしも上歯茎にふ れなくてもよい音で[u]のように聞こえ,“school”[sku:l]のように語尾で生じたり,“milk”[milk]
のように子音の前で生じる。このように[l]は必ずしも舌を歯茎に付けて発音するばかりでないこ とを説明する。
・歯茎摩擦音の[s]を発音する際には,鋭い音を指すことが必要で,日本語の「し」で代用しない
ことが大切である。また,歯茎・硬口蓋摩擦音[ʃ]の発音は唇を丸めて発音し,日本語では唇を丸 めないことにふれる。
・有声音[z]は,舌先を歯茎に近づけて発音するが,歯茎にはつかない。日本語の「づ」は発音記 号では[dz]となり,舌先が歯茎につく破擦音(Affricate)であり,摩擦音(Fricative)ではないこ とを説明する。
・歯音[ ]は歯茎音[s]より音は鋭くはない。
・破擦音[tʃ]および[dʒ]は日本語の発音と異なり,唇を丸めることが大切である。
・無声声門摩擦音[h]は声門から出す音であり,寒いときに「ハー」と息を吐く時の音であり,日 本人は日本語の「ひ」の硬口蓋音[ç]で代用する傾向がある。“he – his – him”のような代名詞の 格変化を練習する際にも,英語の[h]を用いる必要がある。
・唇歯摩擦音[f][v]を発音する際は,上歯を軽く下唇の内側にあて隙間から摩擦音を生み出す。無 理に下唇を噛むようなことはしない。
・半母音[r]は舌を口腔内でそらしながら唇は丸め発音するため,口の中央から音を出すようになり,
舌の両側から呼気を出す[l]とは異なる。
8)子音結合
日本語の音節構造は基本的には子音と母音が交互に出現するが,英語のように子音結合
(Consonant cluster)は存在しない。そのため日本人が英語の発音をする際に,子音のあとに母音
を入れてしまう傾向があることを述べる。
第2日目 9)子音の分類
7)において発音練習した子音の分類図表を示し,子音の発音を復習する。
10)母音一覧及び母音の分類
母音一覧(単母音及び2重母音)を示し,英語の母音を一通り発音してみる。一覧表に3重母 音はあるが,ふれていない。単母音を舌の高低により高母音,中母音,低母音に,舌のどの部位が 高くなるかにより前母音,中央母音,後母音に,そして唇の丸みによって円唇母音と非円唇母音と に,分類することを例を挙げながら示す。
11)母音の発音練習
・[i:]と[i],[u:]と[u]の違いは音の長さでなく,音の質がそもそも違うことを説明する。[i:]と[u:]
は舌を緊張させて発音する緊張母音(Tense vowel),一方,[i]と[u]は口をやや広げ,舌を緊張を させないで柔らく発音する弛緩母音(Lax vowel)である。
・“stop”に見られる[ɑ/ɔ]は,ともに口大きく開け舌を下げて口の奥から発するが,[ɑ]が非円唇母 音でアメリカ英語に見られ,[ ɔ ]が円唇母音でイギリス英語に見られる。
・あいまい母音(shwa)[ə]は“American, police, banana”などの英単語(下線部の母音)にみられ,
弱く不明瞭に発音することが大切で,あいまい母音を含んだ音節に強勢が置かれることはない。そ
の結果,“American”の語頭の[ə]が脱落し,外来語「メリケン粉」が派生したことを説明する
11)二重母音(Diphthong)
二重母音は“cake”[keik]に見られるが,[ei]は一つの音の単位であり,[e]は長めに大きく発音し[i]
は短めに添える程度であり,[i]とはっきり発音しないことが重要である。
12)音の連結,脱落,同化
音の連結(Linking)は,“an eraser,”“far away,”“Take it out.”のような子音+母音でよく生じる。
音の脱落(Elision)は“stop by”のように閉鎖音の直後に,子音が来る場合に,閉鎖音が聞こえな くなる。この場合は,[p]の発音に用いられる両唇が閉じたままになり,そのまま次の[b]の発音 へ移る。音の同化(Assimilation)は,隣接する2の音のどちらかの音が他の音の調音の仕方に影 響をして,それとまったく同じ音か,似かよった音となること。例えば,“won’t you” [wount ju]が [wountʃu] のようになることである。
13)イントネーション
yes/no 疑問文は,語尾のイントネーションは上がる。wh- 疑問文は,語尾のイントネーションが 下がる。ただ,“What’s your name?”のように,親しみを込めるとイントネーションが上がる。
選択疑問文は,イントネーションは上がって下がる(例. Fish ↗ or beef ↘ . )。物を列挙して言 うときは,途中は上がり,最後で下がる(例 . I like baseball ↗ , tennis ↗ , and karate ↘ . )。
14)英語表現発音練習
Hi, friends 1, 2 にある以下のような英語表現の発音練習をする。
・What time do you get up?
・What time is it in Tokyo, Japan?
・What do you want to be? – I want to be a bus driver/a soccer player/a cook/a baker.
・When is your birthday? – My birthday is ( ). ・What country is this?
・How many bananas?
・What color do you like?
受講者の英語発音に対する意識変化
1.講習前意識
英語発音の講習を受ける受講者に,事前アンケートを実施し,英語の発音についてどのような イメージを持っているか,3つ程度受講者に自由に書いていただいた。第一目の受講者32名の内,
24人(75%)が英語の発音に対し,「難しい」「分からない」「~しにくい」「恥ずかしい」等の,負 のイメージを持っていることが分かった。筆者の過去の研究において,小学校教員の英語嫌いの要 因の1つとして英語の発音に対する苦手意識を挙げているが(猪井2010),改めてこれを裏付ける 調査結果となった。以下はそのような負のイメージを表す典型的な受講者の記述である。
[1] LとRの発音の違いが難しい。
[2] アクセントが難しい。
[3] 口,舌の使い方が難しい。
[4] 日本語と大きく違い,難しい。
[5] 子音の細かい違いが分からない。
[6] リズム,強弱が分からない。
[7] 聞き取りにくい。
[8] 思い切りネイティブの真似をして言うのが恥ずかしい。
[9] 自分の発音があっているかどうかネイティブの方に聞いて確かめたいと思うし,恥ずかし くて恐怖と思うことがある。
これらの記述から英語の教員免許をもたない小学校教員は,恐らくこれまでの自らの英語学習経 験において,英語の発音に関する指導,とりわけ理論的指導をあまり受けてこなかったと推測され る。英語の発音に対し,上記のような負のイメージを持っていれば,小学校外国語活動において自 らが積極的に英語を発することに躊躇したり,自信がないのは当然である。
2.講習後意識変化の有無
本講習2日目の最後に10分程度時間をとり,事後アンケート調査を実施し,英語音声の理論と 練習についての2日間にわたる講習を通して,受講者の英語発音に対する意識変化の有無及びその 理由,英語発音に対する自信の向上の有無,受講者にとって本講習の内容のうち特に役立った内容,
を調査した(資料参照)。
1)英語発音意識の変化の有無
講習事前意識として受講生の8割弱が英語発音に対し,負のイメージを持っていたが,事後アン ケート回答者33名のうち,9割以上の31名が英語発音に対するイメージ(意識)を変化させたと 回答した。
2)英語発音自信度向上
表1(Table1)は受講者の英語発音に対する自信度の向上の程度を示している。33名全員が,「と
ても向上した」あるいは「まあまあ向上した」と報告している。このような数値からは,本講習が 受講者にとって,英語発音への自信を向上させる上で有効であったことが分かる。
3) 英語発音意識変化の理由
1) で述べたように9割以上の受講者が英語の発音に対する意識が変化したと報告しているが,
その理由を考察する。意識変化のその主な理由の一つに,これまで何となくやっていた英語の発音 を,理論的に学習したことによるものがある。例えば,以下の[10]~[12]の記述がそれにあたる。
[10] 何となくネイティブのまねをしていたが,発音記号などを丁寧に学習して理論的に考えられ
るようになった。これまでは難しそうなイメージがあり学習もしてこなかったが,面白かった。
[11] 何となく近い音を出そうとしていたけれど,きちんと理論を踏まえられたことで,より近
い発音ができるようになってきたと思う。
[12] 今までは,昔自分が覚えた英語をもとに,何となく発音していたので,自分の発音に全く自
信が持てませんでした。今回の講習で,それぞれにきちんと裏付けがあること,こんな風に発音す るとよいということを学べたので,少しだけALTや児童の前で話す自信が持てました。
[12]の記述は,自身の英語発音意識が変化した理由ばかりでなく,英語発音自信度の向上の理由 にもなっている。このように,大人の英語学習者にとっては,英語の音をただ単に聞いてその通り に発音しようとしてもあまり効果はなく,唇の形,舌の位置等を明示した方が効果的であることが 分かる。受講者の英語発音意識が良い方向へ変化することが,英語発音自信度の向上へもつながっ ている。
受講者の英語発音意識変化の理由のさらなる理由は,英文のリズムを体験学習したことである。
以下は英語のリズム(文強勢)の重要性に言及している。
[13] チャンツやリズムを使って学習する意味がわかりました。強音節と弱音節が交互にあり,
はっきり発音しなくてもよい語があることが分かったので,とても気持ちが楽になりました。
[14] この講習を受ける前の私は,英文を読むときにどこを強く読めばよいかや音の連結ができて
いなく,カタカナ英語の状態でしたが,強勢拍リズムであることを知ったり,発音の練習を繰り返 し行ったりできたので,少し発音に対する抵抗感がなくなりました。
もちろん,母音や子音の個々の発音練習も大切であるが,強勢拍リズムを伴う英文リズムの練習 も同様に重要である。
受講者の講習内容の評価
事後アンケートの一部として,受講者に英語音声学の講習内容で,特に役立ったものを挙げても らい,その理由を記述していただいた(資料参照)。以下の表2(Table2)は,10人以上の受講者
が役立った講習内容として挙げた5項目と,その主な理由を示している。
受講者のほぼ全員が「子音と母音の発音練習」を役に立った内容として挙げている。これまで受 講者は,上述した[10]~[12]の記述に見られるように,何となく英語の発音をしていたが,[15][16]
にあるように,本講習で英語発音の基礎理論を学習したことが役立ったと報告している。Table 2 が示すように,小学校教員が英語の授業において英語を発し,そして児童の英語発音も指導しよう とすれば,英語音声学のような英語発音に関する知識,特に調音音声学の知識は必須であることが 分かる。小学校教員のような大人の英語学習者が,ALTの英語発音をただ聞いて真似しようとし ても限界があり,英語発音に関する基礎知識は有用である。
まとめ
文部科学省の「平成28年度小学校英語教科化に向けた専門性向上のための講習の開発・実施事業」
の一環として実施した本講習は,小学校現職教員の英語発音に対する意識を良い方向へ変化させ,
自身の英語発音自信を向上させる上で,とても有効であった。講習内容の中でも,英語の子音・母 音の練習,文強勢・リズム,音の連結・同化・脱落,教室英語(Classroom English)等が特に有益 であったと報告している。小学校教員のような大人の英語学習者が外国語の発音を身に着けるため には,単に音を聞いて真似するだけでは不十分であり,その音の産出に関わる理論的背景を知るこ とが有効である。土屋・広野(2000)も,日本人の「英語の発音指導に関して,英語の母音と子音 の基本的なシステムを早い機会に提示し,全体像をつかませること」(p.55)が必要であると,同 様のことを述べている。本講習のような英語発音指導に関する講習は,中学校・高等学校英語科教 員のみならず,小学校英語教育に携わる者にとって必須である。本稿で示したように,小学校教員 はこのような講習を通し,自身の英語の発音に対する意識を変化させ,苦手意識を軽減し,積極的 に教室における英語指導に関わっていこうとする態度を持つことが可能となる。今回の講習では受 講者はわずか30数名であったが,1人でも多くの小学校教員がいろいろな機会をとらえ,英語の 発音指導に関する研修を積んでほしいものである。
謝辞
本稿は,「平成28年度小学校英語教科化に向けた専門性向上のための講習の開発・実施事業」(文 部科学省委託事業)の一環として実施された英語免許認定講習 「 英語音声学 」 に関するものです。
本講習に参加され,受講者としてデータを提供していただいた茨城県内の小学校教員の皆様に感謝 の意を表したいと思います。さらに,本事業の文部科学省への申請ならびに茨城県内の小学校教員 への周知・受講希望者のとりまとめ等にご尽力いただいた茨城県教育委員会義務教育課の皆様に御 礼を申し上げたいと思います。
引用文献
猪井新一.2010.「外国語活動における小学校教員の負担感及び英語の好き嫌い」『東北英語教育学会研究紀要』
第30号,45-54.
今井由美子・井上球美子・井上聖子・大塚朝美・高谷 華・上田洋子・米田信子.2010. 『Sounds Make Perfect 英語音声学への扉-発音とリスニングを中心に-』(英宝社)
折井麻美子.2015.「英語音声教員研修の必要性―発音指導に関する中学校教員の意識調査から―」『早稲田大 学教育・総合科学学術院学術研究(人文・社会科学編)』第63号,203-222.
河内山真理・有本純.「教員研修における発音指導に対する教員の意識」『教育総合研究叢書』(関西国際大学),
No.9, 155-163.
土屋澄夫・広野威志.2000.『新英語科教育法入門』(研究社).
Mahoney, S. and Inoi, S.2015.“Homeroom Teachers’ Perspectives on Goal Achievement in Japan’s Foreign Language Activity Classes,” JES Jourrnal, Vol. 15, 52- 67.
松坂ヒロシ.1986.『英語音声学入門』(研究社).
三宅川正・増山節夫.1986.『英語音声学―理論と実際―』(英宝社).
文部科学省.2009.『小学校外国語活動研修ガイドブック』(旺文社).
資料 事後アンケート
1.英語の音声学の講習内容の中で,あなたにとって特に役立ったものは何ですか。またその理由を述べて下 さい。いくつでも結構です。
2.本講習を受けて,英語の発音に対するイメージは変化しましたか。
変化した 変化しない (〇で囲む)
その理由を書いてください。
3.英語音声学の講習を受けて,英語の発音に対する自信は向上しましたか。1つ選んでください。
4. とても向上した 3. まあまあ向上した 2. あまり向上しなかった 1.まったく向上しなかった