幼児体育指導上の基本的課題へのアプローチ
野田洋平 野田文子* 佐藤芳久** 島田純子***本間幸子***
(1985年11月5日受理)
は じ め に
1978年の10月NHK「子供のからだ」プロジェクトチームが,子供のからだにどのような異常がお きているか,その異常がとのような広がり方をしているかを全国的に調査し,結果をテレビで放映し
て以来・子供のからだに㍗ての関 巳・が搬的にも高まり激醐場湖究者サイドで棚究成果が蓄積されてきている。正木は その著「子供のからだは蝕まれている」の中で,20年来の子供のから
だの調査結果をふまえて,最近の子供のからだに急激に異常が起っている,自分のからだを自分で守 るという基本的な防衛反応の能力や,自分の足でキチンと立つような,人間にとってごく基礎的な能 力に異常が目立ってきていると述べている。43項目からなる質問紙調査の結果から,大都会で,最近 めだつ子供のからだのおかしさは,背中ぐにや,朝礼でパタン,骨折,腰痛,背柱異常というような 現象としてあらわれる筋肉系の問題と朝からあくびという大脳の活動水準にかかわる問題と,全くわ けのわからないアレルギーという三つの問題群があると指摘した。これらの調査は,小学校,中学校,
高等学校の教師の観察に基づいて行なわれ,主にからだの異常(体力や健康状況)についてだけに限
られた内容となっている。 2)
。田は 今日の子どものからだと健康をめぐる問題は,それが1960〜70年代にかけてのわが国の社 会変化,ことに子供をとりまく生活環境の諸変化(自然環境・生活様式・人間関係など子どものあら ゆる発達環境の変化)によって生み出されてきているというところに特徴があると指摘し,子どもの からだと健康をめぐる問題の特徴を三っにまとめている。一っは,からだの問題が身体発達上の微妙 な ゆがみ として現われている点にある。背筋力や握力の低下ないし停滞,体幹や股間などの柔軟 性の低下,背すじの歪みや足裏形成の遅れ,肩凝りや腰痛の訴え,珀細なことでの骨折等々。いずれ も,従来の臨床医学的なレベルでの異常の範疇に含まれないような問題であり,それ故,子どものか らだの璽¢おかしさ とか鳴ゆがみ といった表現でとらえられてきたものである。二っめの特徴は,
はっきりとした病名のつく疾患というよりも,身体不調とか病気の前段階的な症状を訴えるような,
いわば健康上のトラブルが増えてきたことである。例えば,心因性の身体症状,生活リズムの乱れか らくる身体不調,アレルギー様症状などの訴えをする子どもが急速に増えている。三つめは,からだ や健康自体の問題ではないが,このような今日的な問題を生み出す背景となっている生活環境の変化 のなかで,子ども自身の生活感覚や身体感覚に,ある種の(身体発達や健康維持にマイナスに作用ず るような)竃ゆがみ や《璽まひ が生じていることである。例えば,宵っばりの生活の積み重ねによる 遅寝遅起きの生活感覚,食べたい時に食べたいものを食べるという食事感覚,自ら創り出すことより
も商品消費によって欲求を満たそうとする消費感覚,等々。この三つの問題の特徴を明確にした上で,
*茨城女子短期大学 **東京都立雪谷高校 ***昭和59年度運動学第一研究室
120 茨城大学教育学部教育研究所紀要18号(1986)
からだと健康についての教育課題として,三つの課題を導き出した。
著者らは,これまで,幼児の運動能力に関する研究,幼児体育教室参加幼児の運動能力と母親の養 育態度について,幼児のボールスローに関連する体力的要素に関する研究,子どもの遊びと体力,幼 児の体力を考える視点,等々の論文により,幼児の運動能力を核とし,その背景としての母親の養育 態度や運動について意識,運動成就度の観察,遊びなどについていくっかの知見をえてきた。
本研究は,著者らのこれまでの研究をまとある意味で,内山3)の遊び・運動行動の成立要因・条件 に関する概念図式,即ち,遊び・運動行動の説明における「生態学的枠組」による把握を研究の主眼 点とする。「遊ぶ」「運動する」というのは4),①主体側の遊ぶ気持ち・意欲と,②遊ぶ能力・技能 等と,③健康状態及び,④環境側の要因・条件,例えば人的,物的,場,空間的,時間的条件にホっ て認識されなくてはならないということである。この四つの要因を本研究では,①健康状態,②遊び
・体力・運動能力,③母親の育児態度の三つの大項目,121の小項目による質問紙調査を作成し,幼 稚園教師を調査対象とする,これらの調査から幼児の現状での健康状況,遊び・体力・運動能力・母 親の育児態度を把握,検討し幼児体育指導の基本的課題を構築する手掛りとすることを目的とする。
1 研究方法・対象・内容 1.質問紙調査
1 回答選択質問紙調査 「多くいる」「少しいる」「いない」の三つの回答を設け,それぞれに 0点,1点,2点の三段階の得点を配した。
2 調査対象 茨城県内幼稚園教師 281名 平均年令 2a7才 平均経験年数 7.3年 3 調査実施 昭和58年8月3,4日
4 調査内容
A票 健康状況 0・M・1をべ一スとして40項目に縮少した。①全身症状 10項目,②眼と 耳 2項目,③呼吸器系(鼻・咽喉も含む)4項目,④心臓血管系 1項目,⑤消化器系(歯
も含む)5項目,⑥筋肉・骨格系 2項目,⑦皮膚 1項目,⑧神経系 1項目,⑨疲労度 2項目,⑩気質・精神 7項目,⑪その他 3項目の40項目。
B票 遊び・体力・運動能力 ①遊び仲間 6項目,②遊びのリーダー 2項目,③遊びの能 力・スキル 1項目,④遊びの工夫 1項目,⑤遊びに対する意欲 4項目,⑥遊びの中での 自己主張 1項目,⑦遊びの持続力・集中力 1項目,⑧遊ぶための身体的条件 2項目,⑨ 遊びのあとの爽快感 1項目,⑩その他 1項目,⑪基本的な運動 5項目,⑫ボール系の運 動 4項目,⑬施設・器具系の運動 8項目,⑭日常生活での動作 3項目,⑮連動の実践
2項目など42項目。
C票 母親の育児態度 ①身体・健康への関心 4項目,②しつけ 6項目,③行動・意欲へ の対応 16項目,④遊びへの関心 4項目,⑤遊びのさせ方 6項目,⑥共働き 1項目,⑦
その他 2項目の39項目,A票, B票, C票の合計項目数は121項目である。 「
皿 結果と考察
H−1 健康状況(A票)の結果
1.単純集計による一般的な幼児の健康状況の中で,教師が「多くいる」と62.1%答えた項目は,「治 していない虫歯の子がいる」である。「少しいる」も加えるとga6%になり,茨城県教育委員套)「体 位・体力白書」の資料では,全国の幼稚園児の90%近くにう歯があり,そのうち約80%は未処置歯で あるという報告と同傾向を示している。最近の傾向としては,虫歯の低年令下が指摘され,2才児で すでに60%が虫歯であるという報告がある。次いで,「かぜをひきやすい子がいる」に「多くいる」
が21.7%,「少しいる」と合せて981%,「熱が出やすい子」も87.2%の教師が指摘している,幼児 6)期の発熱は,感染症にみられることが最も多く, 幼稚園特有の集団生活の中で感染症等に罹患する
頻度が高いのではないかと考えられる。その他では,「胃の痛み」「腹の痛み」「鼻づまり,鼻みず,
くしゃみ」「頭痛」「胸の痛み」を訴える子が「多くいる」と観察している教師はほとんどいない。
「胃のいたみ」 「胸の痛み」については,「いない」と答えている教師が847%,951%である。気 質・精神の中では,「あきっぽい」「物事に集中できない」子どもは「多くいる」がそれぞれ148%
10%である。それらの子供は「いない」と回答した者は,わずかに5%弱である。したがって,「少 しいる」を含めると95%の教師が「いる」とみていることになろう。「イライラしている」 「おこり っぽい」「くよくよしている」「面白くない」「一寸したことをよく間違える」子どもについては,
「多くいる」と答えた教師はほとんどいない。しかし,「少しいる」と答えた教師は,各項とも50%
をこえ,面白くない子,よく間違える子,恐りっぽい子はそれぞれ778%,837%,6&0%の高い率 を示した。情緒不安定の幼児が多いとは一概に考えられないが,その微症状を示す子どもの多くの教 師により散見されていることは確かである。疲労度に関する質問に「多くいる」と観察している者は わずかである。「朝からアクビをしている」「勉強や運動をするとつかれやすい」子どもを「多くい る」とする教師はわずかであるが「少しいる」と答えているものはそれぞれ77.8%,76.9%いる。
「背中や腰の痛み」「肩や首すじのこり」などの身体違和感を訴えている子どもはほとんどなく,95
%以上の教帥が「いない」と答えている。この身体違和感は,小学校高学年から増え,中学生以上に なると比較的多くの生徒が訴えているな正ボちは,小学生の背柱の異常を顕著な症状としてとらえて いるが,本調査では,筋肉系のこの種の症状が教師によって,ごく当り前な症状として観察されてい ない。「顔色が悪い」「気分がすぐれない」「少し立っていると気分が悪くなる」子どもが「多くい る」と答えているものはほとんどない。しかし,教師の50%は「少しいる」と認知している。「やせ すぎの子」 「ふとりすぎの子」も多くいることはないが,半教の教師が「少しいる」と答えている。
そして,ふとりすぎの子よりは,やせすぎの子の方が多い。最近しきりにいわれていて,正木9)らも 指摘している「転倒しても手がでない」「骨折しやすい」子どもにっいては,「いない」と答える者 が52.7%,73。9%と多い。骨折しやすい子が少しいると4入に一人の教師が答え,転倒しても手が出 ない子は45.3%の教師が「少しいる」と指摘している。したがって,骨折の原因は不明にしても,何 か危いという危機感,自分の身体を操作する能力に欠ける心配のある幼児が,結構いることも認めな いわけにはいかない。
以上から,各器管系統別に健康状況を明確に指摘することには二義的な誤りを死す危険もあるので 断言はさけたいが,幼児の健康状況の将来に不安も残るが,ノ1、学生,中学生についておかしいと指摘
されている症状が幼児には顕著には観察されていない。
2。教師の経験年教・年代差によって回答に差異があるかどうかの検討をした。経験年数は5年ごと
に,そして,年代は20才代,30才代,40才代以上の三つに区分し,カイ自乗検定を実施した。その結
果,年数間では特に著しい差異はみとめられなかった。年代間では,30才代と40才代の教師の間には,
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回答の有意な差はみとめられなかったが,20才代と30才代では,「かぜをひきやすい」「熱がでやす い」子どもが「少しいる」と多く答えたのは20才代であり,「少し立っていると気分がわるくなる」
「気分がすぐれない」「骨折しやすい」「いつでも眠そうである」「太りすぎ」の子どもがいるの諸 項で30才代の教師の方が「少しいる」と回答している率が有意に高い。他の言葉にかえれば,20才代 の教師より,幼児の内面の状況を把握していると言えよう。
♀eAI B, C票の結果を得点化し総得点を算出し,上㈱(M+圭SD),下位群(M一者SD)に 区分した。両群間の健康状況の有意差を検討した。上位群(G群),下位群(P群)の間には,40項 目中,38項目で有意差がみとめられた。下位群の教師が「多くいる」と有意に観察している項目には
「かぜをひきやすい」「熱が出やすい」「あきっぽい」「集中できない」があり,これらは,全身症 状,呼吸器系,気質・精神などにかかわる項目である。また,「治していない虫歯」をもつ子は,1
%水準で有意差がみとめられたが,両群とも「多くいる」とみている教師がそれぞれ4a1%(G群),
758%(P群)と他の項目に比べて高い率を示している。全体を通してみても,全身症状,眼と耳,
心臓血管系,消化器系,皮膚,神経系,疲労度,気質・精神に関する項目ではほとんど0.1彩水準の 有意差が認められることから,G群はP群より健康状況が良好であると推察される。
∬−2 遊び・体力・運動能力(B票)の結果
1.遊びに関する項目の中で,「多くいる」と回答されたものには,「遊びのリーダーになれない」
(35D%)「ガキ大将になれる素質をもっていない」(26.1%),「遊びを工夫することができない」
(182%)「いろいろな遊びがうまくできない」(1α0%)が顕著である。またその対極としての,
リーダーになれない子はいると認めた教師が一人もいなかった。上記の他の項目も3〜4%の教師が ガキ大将の素質をもっている子,遊びを工夫できる子,遊びをうまくできる子,遊びの中で自己主張 できる子,遊びの層の厚い子を認めているにすぎない。
また「いない」と高い率で回答した項目では,「家で遊ばせられない」(748%)「両親や教師のも とを離れて遊べない」(650%)「教師とだけしか遊べない」(54.2%)「外で運動・遊びをしない」
(443%)「あそんだあとの爽快感をあらわさない」(4α4%)「遊びをする意欲がない」(3&9%)
「カゼをひいたりすると遊ばない」(30.5%)などが顕著である。これらの項目では「多くいる」と いう現象はないものの「少しいる」には高率を示す項目が少なくない。例えば「遊びをする意欲がな い」子どもを「少しいる」と答えた教師は59%,「あそんだあとの爽快感のない子」も同じ率を示し ている。「好奇心,冒険心の旺盛でない子」 「あそび仲間の層のうすい子」「遊び仲間のいない子」
「仲間と一緒に遊べない子」「いつも一人で遊んでいる子」「遊びの中で自己主張できない子」「活 発な身体活動が出来ない子」「遊びに夢中になれない子」「おもいっきり遊べない子」「カゼをひい
たりすると遊ばない子」などの項目では,「少しいる」と回答する教師の率が70%をこえている。こ れまでの項目と合せて考えても,現状での幼児の遊びの仲間,意欲,リーダー,工夫,身体的条件な どに,遊び本来の姿勢がみられない。そのうえ遊びの質と量,それを支える条件(仲間など)にも問 題があると推察される。このことは,幼児のテレビ視聴時間が3時間以上約45% ,小学校一年生よ
りも長い時間視聴している現状もその背景としてあろう。
体力・運動能力についての項目をみると,基本的な運動,ボール系の運動が十分に成就できない子 どもがいる。即ち,「バットでボールが打てない」(5α8%),「キャッチボールができない」(3ag
%),「ボールを10M以上投げられない」(33ρ%),「上に投げたボールをとれない」(3m%),「ボ
野田他:幼児体育指導上の基本的課題へのアプローチ 123
一ルを5回以上つけない」(3α0%)子ともが「多くいる」と教師は回答している。施設・器具系の 運勤,日常生活内の動作にかかわる項目では, 「ひもを結べない」(36.9%)を除いて運動系の項目 より低いが,「肋木ののぼりおりができない」「縄とびが一回もできない」(150%)「ジャングルジ ムで追いかけっこが出来ない」(12.8%)「たいこ橋をわたれない」「鉄棒に足をかけられない」(1α0
%)などが,「多くいる」と観察されている。したがって,こんな子どもはいないと観察されている 項目では,以上の項目のほか,施設・器具系の運動,基本的な連動に関連する項目即ち, 「高さ30c皿 の高さをとべない」(527%)「すべり台をスピード調節してすべれる」(551%)「ジャングリジムで 一番上までのぼれない」(52.7%)「ソフトボールを10M以上投げられない」(458%)「短かい距離を 速く走れない」(4α9%)「鉄棒にとびつけない」(31.5%)「たいこ橋をわたれない」(275%)「約1
mぐらいの幅をとべない」(251%)などに多くあげられる。これらを体力要素別に見ると鉄棒にと びつけない子や速く走れない,たいこ橋をわたれない子どもが「少しいる」も含めて68%,60%,72
%もいることから,幼児期の体力を総括する調整能力に問題があると指摘できよう。幼児期の遊び・
連動の最大の特長である「全力を出して運動する」「汗びっしょりになるほど運動量のある」子供が きわめて少ないことも(約20%)本調査から言える。
2 教師の経験年数・年代差による回答の相異の検討をした。5年未満と6年から10年の教師の間の 5項目に有意差が認められた。「遊びの工夫ができない」子どもを「いる」と答えたのは5年未満の 教師の方が高く,「教師とだけしかあそべない」「おもいっきりあそべない」「好奇心・冒険心がな い」「たいこ橋をわたれない」の項では6年〜10年の経験をもつ教師の方が「いる」と答えている。
他の年数間では有意な差はみとめられない。年代差では,20才代と30才代に著しい差がみられる。「ガ キ大将になれる素質をもっていない」で20才代が「いる」と答えた率が高いだけで,「仲間と一緒に あそべない」「いつも一人で遊んでいる」 「あそびをする意欲がない」「思いっきりあそべない」
「戸外であそばない」「好奇心・冒険心がない」 「一時間は歩けない」「鉄棒にとびつけない」「ひ もを結べない」などの項目では30才代の教師の方が「いる」と回答している割合が有意に高い。30才 代と40才代以上の間の教師では,「遊び仲間がいない」「バットでボールを打てない」「短かい距離 を早く走れない」の諸項目で40才代が「いる」と答える割合が高く,30才代では「外へ出てあそばな い」「走っていて急に止まれない」などで高いと言える。20才代と40才代では若干の相違がみられる。
(略)。
3.G群とP群の比較では(総合得点)42項目全てに有意差がみられた。即ち, G群よりP群の方が
「多くいる」「少しいる」と回答した教師が高いことを示している。
皿一3 母親の育児態度(C票)の結果
1,顕著に「多くいる」と回答された項目は見当らないが,「共働きの母親」(286%)「子どもと毎 日遊ばない母親」(22.2%)「子どもに甘い母親」(21.2%)「子どものわからないところをすぐ教えて しまう母親」(22.2%)「子どものやっていることにすぐ口出しする母親」(19.2%)などが5人に一 人の教師が指摘している項目である。これらは行動・意欲への対応,共働き,しつけなどに分類され
る。その他では,遊びへの関心,身体・健康への関心度などに10%台の回答がある。
「いない」が高い率になった項目では, 「女の子だけ可愛いがる」(8α3%)「男の子だけ可愛いが る」(783%)「送って来ても離れられない」(7α4%)「汗をかくほど遊ぶのをいやがる」(571%)
「友達をっくりたがらない」(556%)「戸外で遊ばせない」(542%)「友達と一緒に遊ばせない」
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(537%)などが顕著な回答である。それらは遊びのさせ方,行動・意欲への対応,遊びへの関心な どに分類できる。とりわけ「いない」が少ない項目には,「共働き」「子どもの遊びをみていない」
「甘い」「よく口出しをする」「すぐ教えてしまう」などがあり,共働きという条件下で,遊びをみ れない,甘い,何んでも口出しをし,教えすぎて創造性・自立性を育てられない母親がかなりいると 予想される。資料によれば,1955年に20%強であった共働きが,1977年には54%余に増加11)している 事実もあり,本調査でもパートを含め,かなりの母親が就業していると思われる。その他の項目で
「多くいる」と思われるものには,「子供の生活空間に干渉しすぎる」「子どもに手をかけすぎる」
「子どもの遊びをおさえつける」「遊びに夢中にさせない」「衣服を汚すといやな顔をする」 「たく ましく育てていない」「興味・関心の芽をつむ」「子どものやる気をっみとる」などの項目があり,
本来遊びの中で育っことが期待されている中味をもつ大事な要素が母親によってつみとられていると 推察されよう。
2 教師の経験年数・年代差による回答の相異の検討。4つに区分した経験年数による差の検討では・
全体で三項目にだけ有意差がみとめられた。5年未満と6〜10年の間で「しつけを園にまかせすぎる」
の項で後者の方が「多くいる」と観察している。96〜10年と11〜15年の間では,「共働き」「友達と 一緒に遊びをさせない」母親が「多くいる」と観察しているのは後者であった。年代間では,これま でと同様に20才代と30才代の間に有意な差がみとめられ(39項目中14項目間に)30才代を40才代で1よ ほとんど有意な差がみとめられない。前者の差がみとめられた領域は,身体・健康への関心,しつけ,
行動・意欲への対応,遊びへの関心,させ方などであり,中でも「子どもに手をかけすぎる」「勉強 することだけに熱心」「衣服を汚すとイヤな顔」「干渉しすぎる」などが含まれる行動・意欲への負 の対応に集中して,観察がことなっていることが特長である。
3.G群とP群の比較では,39項目全部に有意差がみとめられた。下位群で高い項目は,「子どもと 毎日遊ばない」「共働き」「甘い」「干渉しすぎる」「すぐに口出しをする」「すぐに教えてしまう」
など行動・意欲への負の対応,しつけ,共働きに関する項目である。また全体からみて下位群の母親 は,干渉型(干渉しすぎ,口出し,教えるに高い回答率),無関心型(身体の異状に気づかない,しつ けを園まかせ,いたずらに注意したい,体力を知らない,あそびをよくみていない,勉強にだけ熱心,
子どもとスポーッをしないなどに有意差が顕著)の母親が多いと推察できる。
皿 A票,B票, C票それぞれのG群, P群との比較 皿一1 健康状況と他要素(B票・C票)との関係
健康状況のG群とP群の間には,全項目に有意差がみとめられた。
1.遊び・体力・運動能力との関係
G群とP群間には42項目中26項目に有意差がみとめられた。遊び仲間に関する項目では,すべての
項目に有意差がみとめられ,健康状況G群はP群に比べて,仲間が多く,その層もうすくなく,仲間
と一緒に,両親や教師のもとを離れて遊んでいる傾向にある。遊びのリーダーの項目では,G群にあ
そびのリーダーになれる子どもが多い。遊びの能力・スキルに関しては,いろいろの遊びがうまくで
きる子ともはG群に多い。遊びを工夫することでは両群に差がみとめられない。遊びに対する意欲に
関する項目では,全項目に有意差がみられ,G群が,遊びに意欲が高く,おもいっきり遊び,戸外で
遊び,好奇心・冒険心も旺盛で,遊びがうまく出来て,遊びのリーダーになれるなどの特長をもって
いる。遊びの中での自己主張では,有意差はない。遊びの持続・集中力に関する項目では,遊びに夢 中になれるのはG群である。G群は非常に活発な身体活動が出来,少しぐらいのカゼを気にせず遊ん でいると思われる。またあそんだあとの爽快感もある。基本的運動ではG群がすべての項目ではすぐ れているが,ボール系の運動でな差がみられない。施設・器具系,動作,運動の実践に関する全ての 項目でG群がすぐれ,健康状況のよい子どもと遊び,体力・運動能力の関連はきわめて高いと言える
2.母親の育児態度との関係
健康状況G群の子どもの母親は,身体・健康への関心がより強く,望ましいしっけや生活習慣を身 につけさせようとし,子どもの行動や意欲に望ましい対応をしている。また,遊びへの関心が強く,
遊び仲間や遊ぶ場所を規制せず,のびのびと遊ばせている傾向にあり,健康状況の良し悪しと母親の 育児態度とは関係がっよいと言える。
皿一2 遊び・体力・運動能力と他要素(A票・C票)との関係
遊び・体力・運動能力のG群とP群には全項目に有意差がみとめられた。
1.健康状況との関係
40項目中31項目に有意差がみとめられた(G群とP群との間に)。
各器官系統別に検討しても,全部に有意差がみとめられた。したがってG群はP群に比べて,健康 状況がきわめてよいと判断できる。但し,カゼをひきやすい子がG群の方が少ないかどうかはいえな
い。同様に虫歯についても差がみられない。また,近年「からだのおかしさ」で指摘されている「転 んでも手が出ない」項目については,G群が「いない」とした教師が72%であるのに対し, P群では 35%と低く,P群に多く観察されている。
2 母親の育児態度との関係
1項目を除いた38項目すべてに有意差がみられた。差がみられなかったのは「共働き」の項のみで ある。したがって,G群の母親は,身体・健康への関心も高く,たくましく育て,責任をもって,し つけや望ましい生活習慣を身につけさせ,子どもの行動・意欲に望ましい対応をしている。遊びへの 関心も強く,仲間や遊び場所を管理・規制せずのびのびと遊ばせている傾向が強いと推察される。
皿一3 母親の育児態度と他要素(A票・B票)との関係 育児態度G群とP群間には39項すべてに有意差がみとめられた。
1.健康状況との関係
39項目中28項目にG・P群間で有意差がみられた。器官系統別には,心臓・血管系の項目に有意差 はみとめられなかったが,他領域すべてに有意差がみとあられた。両群間での差がみられなかった項 目では,「息切れする」「食事をおいしく食べられない」「おなかがすかない」「背中や腰のいたみ」
「っかれている」「つかれやすい」「健康に自信がない」「皮膚の病気」「頭痛・胸の痛み」「くよ くよ」「太りすぎ」などがあげられ,これらの項目は母親の育児態度の良しあしには関係ないように 思われる。
2 遊び・体力・運動能力との関係
42項目中34項目に有意差がみとめられた。育児態度G群との関係は,遊びの仲間,リーダー,能力・
スキル,工夫性,意欲,自己主張,持続力,身体的条件,爽快感など全ての遊びの要素と関連が深い。
また,基本的な運動,ボール系運動,施設・器具系の運動,動作,実践の領域でも有意な差がみとめ
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られ,関連が深いと思われる。但し「鼻づまり,鼻みず,くしゃみ」「頭痛」「転倒しても手が出な い」「いつもねむい」「いつもイライラ」「面白くない」「太りすぎ」「集中できない」などの項目 では,両群間に有意差はみとめられず母親の育児態度のよしあしに影響されないと思われる。
皿一4 遊び状況と他要素との関係
B票から,特に遊びの項目(20項目)で上位の得点をとったグループ(G群)と下位の得点をとっ たグループ(P群)に区分した。これをもとに各要素との関係を検討した。その結果,健康状況との 関係では,33項目に有意差がみとめられ,G群がより健康であると推察される。「カゼをひきやすい」
「食事をおいしく食べられない」「おなかがすかない」「胃の痛み」「胸の痛み」「肩・首すじのこ り」「立ちくらみ」などの項目では差がみられない。体力・運動能力との関係では,22項目中17項目 に有意差がみとめられ,遊びにすぐれているかどうかに,「キャッチボール」「ボールつき」「鉄棒 への足かけ」「縄とび」「ひも結び」などの運動は関係がないようである。育児態度との関係では,
39項目中35項目に有意差がみとあられ,G群と育児態度との関連が高い傾向にあると判断される。し かし,「子どもに手をかけすぎる」「共働き」「食事のすききらいの改善」「甘い」などの項目では 有意な差がみられず,遊びとの関連があるとは言えない。
皿一5 A票,B票, C票のクロス集計の結果の検討
クロス集計は,{イ)子どもへの干渉(3項目と他要素),(ロ}子どもへの関心度(4項目と他要素),い)
子どもとの身体活動(3項目と他要素)で行なった。その中から,特長的な三項目をとりあげて述べ る。子どもに干渉ぎみの育児態度に対する健康状況では特に著しい差がみられないものの,微症状(熱 がでやすいなど)がでやすい,気質・精神が不安定である子が多い傾向と思われる。また,遊びに対 しては,消極的な子が多いが,体力・運動能力は劣っているとは言いがたい。子どもへの関心度との 関係では,健康状況で精神的に不安定なもの,疲労を感じているもの,疲労から来ると思われる症状 が多くみられると思われる。遊びについては,干渉型と同様消極的な子が多く,特に遊ぼうとする意 欲に欠けている子どもが多い傾向にある。体力・運動能力はいずれのクロス集計でも差がみられず,
関連はうすいようである。但し,ジャングルジムに関しての2つの質問との対応からみて,親が無関 心である方がジャングルジムの運動ができる子どもが多いという結果も出ている。子どもとの身体活 動との関係では「子どもと毎日遊ばない母親」と各要素との関係をみてみるとそんな母親は「いない」
と答えた教師は,「いる」と答えた教師との間にいくつかの有意差がみられる。即ち,いる母親の子 どもは,「息切れをする」「健康に自信がない」「気分がすぐれない」「下痢をしやすい」「頭痛を 訴える」「いつもくよくよしている」「よく間違う」「やせすぎ」などの症状が多くみられる。遊び
・運動能力とでは遊びの仲間の層,あそびの工夫,仲間との遊び,遊びの意欲,おもきっきり遊ぶ,
戸外での遊び,走っていて急に止まる,キャッチボール,バッティング,鉄棒へのとびつき,足かけ,
ジャングルジムのぼり,追いかけっこ,肋木のぼり,速く走る,動作の速さ,ひも結びなどの運動の
成就程度,あそびの中味で,かなり劣っていると推察される。このことは,子どもとスポーツをしな
い母親に育てられている子どもの現象でも同様である。
結 語 以上の検討から次のような知見をえた。
1.健康状況の中では,治していない虫歯のある子,カゼをひきやすい子,気質・精神ではあきっぽ い子,物事に集中できなき子が多い。
2.遊び・体力・運動能力では,遊びの中間の層がうすく,リーダーになれない子,ガキ大将になれ る素質をもっていない子,いろいろのあそびがうまく出来ない子,あそびの工夫ができない子が多 いい,連動能力では,投力,ハンドリング,打げき,タッピングの出来ない子が多く,身のこなしの
動作のできない子やひもを結べない子も多い。
3.母親の育児態度では,干渉しすぎる,甘い,手をかけすぎる,口出しをする,教えすぎる,しつ けを園にまかせる,遊びをよくみていない,体力を知らない,子どもの興味・関心の芽をつむ,食 事の好ききらいを改善できない,子どもと毎日遊ばない母親が多い傾向にある。
4 教師の経験年数・年代の違いによる差は,5年未満の経験年数と他に,20才代と他の年代に特に みられる。
5 健康状況上位群は,他要素との関係で下位群より優れている傾向にある。しかし,ボール系運動 日常生活内の動作,共働きなどの項目では差はみとめられない。
6 遊び・体力・運動能力上位群は,他要素との関係で下位群より優れている傾向にある。
7 母親の育児態度上位群は,他の要素との関係で,下位群より優れている。しかし,施設・器具系 の運動,運動の実践に関する項目では,著しい関係はみられない。
W 遊び状況上位群は健康状況,体力・運動能力,育児態度において下位群より優れている。しかし,
ボール系の運動については差はみられない。
9 母親の育児態度を干渉型,無関心型,身体活動欠除型に区分し,それぞれ数項目を選んでクロス集 計をした結果,干渉型の母親をもっ子どもは,熱が出やすいなどの微症状が出やすく,気質・精神
が不安定な子が多い。遊びには消極的であるが,体力・運動能力が劣っているとは言えない。無関 心型では,精神の不安定やつかれを感じる傾向,全身症状で著しい関連がみられる。体力・運動能 力では差がみられなかった。身体活動との関連では「いる」と答えた教師と「いない」と答えた教 師の回答にかなりの差異がみられる。それらは,健康状況,遊び・体力・運動能力に関連があると 思われる。
注
i1)正木健雄 野口三千三編「子どものからだは蝕まれている」(柏樹社,1979年)pμ10〜51。
(2)藤田和也 『今日の子どものからだ・健康と教育実践の課題』(大修館,体育科教育,1985年11月)
PP 30〜32。
(3)内山 源 『健康のための生活管理』(家政教育社,1983年)p似32〜33。
(4)内山 源 野田洋平『子どもの遊びと体力』(学校保健研究,1984.6)pp。368〜372。
(5)茨城県教育委員会編『体位・体力白書』(1979年3月)p25。
(6)藤原喜悦,佐野良五郎『講座子ども学』(俊成出版社 1983年)p119。
(7)⑥に同じ
⑧(1}に同じ
128 茨城大学教育学部教育研究所紀要18号(1986)
⑨(8)に同じ
⑩ 文部省体育局編 『子育ての中の基礎体力づくり』(第一法規,1979年)pp.25〜31。
(1⊃②に同じ Pゐ
α2 野田洋平 小室光枝『幼児体育教室参加幼児の運動能力と母親の養育態度について』(茨城大学教育学部紀 要(教育科学編)第27号,昭和53年3月)
(13松浦義行,芳賀修光,野田洋平他『運動医事健康増進相談事業報告書一学校保健の手引第16集』学校保健会,
昭和58年度。